(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための形態を例示する。
【0014】
(マイクロウェル装置)
以下に、図面を参照しながら本発明の一実施形態に係るマイクロウェル装置について説明する。
図1は、本発明のマイクロウェル装置の一実施形態を示す斜視図である。
図2は、本発明のマイクロウェル装置の一実施形態を説明するための図である。
図1及び
図2に示すマイクロウェル装置1は、マイクロウェル配置部分5にマイクロウェル10を備えるマイクロウェルプレート2と、マイクロウェルプレート2の第1区画8に対向して配置されたカバー部材3と、を備えている。カバー部材3のマイクロウェルプレート2に対向し接する面には、溝7が設けられ、該溝7に連通するように開口4が設けられている。この例では、溝7は、後述するマイクロプレート2の列状に配置されたマイクロウェル10の少なくとも一部を覆うように、直線状に3本設けられている。マイクロウェルプレート2とカバー部材3との間の溝7に対応する部分に流路6が画成されている。
本実施形態に係る本発明のマイクロウェル装置によれば、細胞を1細胞ごとに簡便に分離することができ、且つ、多数(例えば、10
3個以上)のマイクロウェルを1つのマイクロウェルプレート上に形成することにより、多数の細胞を1細胞毎に解析することができる。
【0015】
図示例のマイクロウェル装置1は、直方体の形状であるが、本発明のマイクロウェル装置は、直方体以外の形状であってもよい。
図示例のマイクロウェル装置1は、カバー部材3に開口4を備えているが、本発明のマイクロウェル装置は、開口を備えなくともよい。
図示例のマイクロウェル装置1は、3本の直線状の流路6を備えているが、本発明のマイクロウェル装置1は、流路の本数に制限はない。
【0016】
<マイクロウェルプレート>
以下に、図面を参照しながら本発明の一実施形態に係るマイクロウェルプレートについて説明する。
図3は、本発明のマイクロウェル装置の一実施形態を示す、
図1のA−A線に沿う部分断面の拡大図である。
図4は、本発明のマイクロウェルプレートの一実施形態を示す、光学顕微鏡による
図1のA−A線に沿う部分断面画像であり、
図4(a)〜
図4(j)は、それぞれ異なる形状の鋳型を用いて作製したマイクロウェルプレートについてのものである。
図4(a)〜
図4(j)のマイクロウェルの第1区画の開口面における直径は、約30μmである。
図示例のマイクロウェルプレート2は、表面のマイクロウェル配置部分5に複数のマイクロウェル10を備えている。マイクロウェル10は、1個の細胞11を補足する、図示の例では円柱形の空間とされた第1区画8と、第1区画8に連通して設けられる、第1区画8の容積の3倍以上の容積の、円柱形の空間とされた第2区画9とを備えている。
本実施形態に係る本発明のマイクロウェル装置によれば、細胞を1細胞ごとに簡便に分離することができ、且つ、多数(例えば、10
3個以上)のマイクロウェルを形成することにより、多数の細胞を1細胞毎に解析することができる。
【0017】
<<マイクロウェルの数及び配置密度>>
上記マイクロウェルプレートにおける前記マイクロウェルの個数は、目的に応じて適宜選択することができるが、10
3個以上であることが好ましい。マイクロウェルの数が10
3個以上であると、1度に十分に細胞解析をすることができる。
【0018】
<<マイクロウェルプレートの材質>>
上記マイクロウェルプレートの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリコーン樹脂、ポリスチレン、メチルメタアクリレート(PMMA)、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)、ポリカーボネート、ガラス、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、シリコーン樹脂のポリジメチルシロキサン(PDMS)は、ソフトリソグラフィ法による作製が可能となる点、弾性率が小さく三次元的な構造を持つ鋳型からも離型が可能な点、透明性が高く光学的な手法による細胞観察が可能となる点、他の弾性透明樹脂に比べ毒性が低い点で有利である。
【0019】
−ポリジメチルシロキサン(PDMS)−
上記ポリジメチルシロキサンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記式(1)で表されるポリジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサンの両末端、片末端または側鎖のメチル基を他の官能基で置換した変性ポリジメチルシロキサン、分子内に電離放射線硬化性基が導入された変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化1】
(式(1)中、nは0〜2000の整数である。)
【0020】
<<マイクロウェルプレートの形状>>
上記マイクロウェルプレートとしては、マイクロウェルを備える限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
<<マイクロウェル>>
上記マイクロウェルは、第1区画と、該第1区画に連通して設けられる第2区画とを少なくとも備える。前記連通は、前記第1区画に補足された細胞が、前記第2区画に落下しないように構成される。
【0022】
−第1区画−
上記第1区画は、1個の細胞を補足する区画である。
上記第1区画の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円柱形、直方体、逆円錐形、逆角錐形、などが挙げられる。
【0023】
ここで、一般的な細胞の直径を例示すると、ヒトリンパ球細胞の直径は、約10〜15μmであり、パン酵母の直径は約5μmであり、マウス胎児性繊維芽細胞の直径は約10〜20μmであり、大腸菌の直径は、約1〜2μmである。
このように、細胞の種類によって、細胞の直径が異なるため、上記第1区画は、解析しようとする細胞の大きさに応じて、第1区画の形状を適宜選択する必要がある。
【0024】
上記第1区画の寸法の目安としては、第1区画が円柱型である場合は、マイクロウェルの第1区画の開口面における直径が、補足しようとする細胞の直径の1.0〜3.0倍であり、且つ、第1区画の深さが、補足しようとする細胞の直径の1.0〜3.0倍であることが好ましい。
【0025】
−第2区画−
上記第2区画としては、上記第1区画に連通して設けられ、且つ、前記第1区画の容積より大きい容積である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記第2区画は、前記第1区画と連通し、該連通は、第1区画に補足された細胞が、第2区画に落下しないように構成される。
上記第2区画の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円柱形、直方体、逆円錐形、逆角錐形、などが挙げられる。
【0026】
第1区画に補足される細胞が第2区画に落下しない構成としては、例えば、
図3に示す例のように、第1区画8の直径より狭い直径で、第2区画9を第1区画8に連結させる構成が挙げられる。また、第1区画と第2区画の各区画を網目状の部材を用いて仕切ることで連通させる構成が挙げられる。
また、第2区画は、第1区画の下部側に配置させて連通させると、第2区画側から顕微鏡等で観察する際に高感度に観察することができる点で有利である。
【0027】
上記第2区画の容積は、上記第1区画の容積より大きい限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3〜1000倍が好ましい。
第1区画に補足した細胞に対して試薬を反応させ、その反応産物量を蛍光色素を用いて定量する際に、前記第2区画を有することで、第2区画を有さない場合に比べて反応容積が大きいため、蛍光を高感度に検出できる。そして、前記第2区画の容積が第1区画の容積の3倍以上であると、蛍光色素を含んだ試料を顕微鏡で観察するときに、蛍光を十分高感度に検出することができる。
第1区画に補足された細胞を、マイクロウェル内で例えば逆転写反応や核酸増幅反応をさせる場合は、それぞれの反応に必要な試薬を第2区画内にも保持させることができるため、第2区画を有することにより遺伝子解析などを行うことが可能となる。そして、前記第2区画の容積が第1区画の容積の3倍以上であると、逆転写反応や核酸増幅反応を効率良く十分に行うことができる。
【0028】
<カバー部材>
上記カバー部材としては、上記マイクロウェルプレートの上記第1区画に対向して配置される限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0029】
<<カバー部材の材質>>
上記カバー部材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリコーン樹脂、ポリスチレン、メチルメタアクリレート(PMMA)、ABS樹脂、ポリカーボネート、ガラス、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
<<カバー部材の形状>>
上記カバー部材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、上記カバー部材は、前記マイクロプレートに接する面において、溝(溝状の切り込み)を備えるのが好ましい。
前記カバー部材に溝を備えることで、マイクロウェルプレートと貼り合わせたときに、マイクロウェルプレートの表面と、カバー部材の溝部分との間に空間ができ、該空間が流路として画成される。
図1及び
図2の例では、溝7を3本備えているが、溝の本数は限定されない。
図1及び
図2の例では、カバー部材3に開口4を備えるが、開口を備えなくてもよい。
【0031】
<<流路>>
本発明のマイクロウェル装置は、上記マイクロウェルプレートと上記カバー部材との間に画成される流路を更に備えることが好ましい。
前記流路としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
該流路を通じて、細胞懸濁液やその他の試薬をマイクロウェルプレートのマイクロウェルに供給させることができる。
【0032】
(細胞解析方法)
本発明の細胞解析方法は、本発明のマイクロウェル装置の前記流路に細胞懸濁液を流入させて、前記マイクロウェルの前記第1区画に1個の細胞を補足させる細胞補足工程と、前記第1区画に補足された細胞の各細胞に由来する成分を、各マイクロウェル内で解析する細胞解析工程とを含み、必要に応じて、区画化工程等のその他の工程を含む。
本発明の細胞解析方法によれば、複数の細胞を1細胞ごとに容易に分離することができ、且つ、高感度に細胞解析をすることができる。
【0033】
<細胞補足工程>
上記細胞補足工程は、本発明のマイクロウェル装置の上記流路に細胞懸濁液を流入させて上記マイクロウェルの上記第1区画に1個の細胞を補足させる工程である。
例えば、
図1及び
図2に例示したマイクロウェル装置1を用いる場合には、細胞懸濁液を、カバー部材3の開口4から注ぎ込み、細胞懸濁液を流路6に流入させると、マイクロウェルプレート2に備えられたマイクロウェル10の第1区画8に、細胞懸濁液に含まれる細胞が、およそ1つずつ補足される。このように第1区画8に細胞を補足させた後に、次工程にすすむことができる。なお、細胞補足工程では、開口4にピペットの先端を挿入した状態で数回ピペッティングすることで、細胞の補足を効率よく行うことができる。
【0034】
<区画化工程>
上記区画化工程は、上記細胞補足工程の後に、反応空間としての各マイクロウェルの体積を分割する工程である。その方法の一例として、疎水性流体を開口から注入する工程がある。
前記疎水性流体としては、疎水性である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、フルオロカーボンオイル等のオイル、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、フルオロカーボンオイルは、細胞懸濁液の水溶性溶媒に溶解しにくい点、溶液の比重が大きい点、細胞毒性が低い点、などで有利である。
図1〜
図3に例示したマイクロウェル装置1を用いる場合には、上記細胞補足工程の後に、カバー部材3の開口4から疎水性流体を注ぎ込み、流路6を疎水性流体で充填させる。疎水性流体は、比重が高い。更に細胞懸濁液の溶媒が水であると、疎水性流体は水と混じりにくいことから、流路6に疎水性流体を充填することにより、細胞懸濁液で満たされている各マイクロウェル10は、疎水性流体によって密閉状態にできる。このように、各マイクロウェル10を疎水性流体で密閉することにより、マイクロウェル間のクロストーク(溶液成分の移動や拡散)を確実に回避することができる。
【0035】
<細胞解析工程>
上記細胞解析工程は、上記第1区画に補足された細胞の各細胞に由来する成分を、各マイクロウェル内で解析する工程である。
前記細胞解析工程としては、前記第1区画に補足された細胞の各細胞に由来する成分を、各マイクロウェル内で解析する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細胞形態観察、細胞内動態観察、遺伝子解析、タンパク質解析、ペプチド解析、代謝産物解析、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記細胞解析工程は、定量測定、定性測定、シーケンシング、分析、観察等に先立って行われる公知の前処理をマイクロウェル内で行うことも含む。前記前処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶解処理、加熱処理、非働化処理、撹拌処理、変性処理、マイクロウェーブ処理、超音波処理、放射線処理、磁気処理、化学反応処理、酵素反応処理、染色処理、抗原抗体反応処理、アフィニティー吸着処理、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
<<細胞に由来する成分>>
上記細胞に由来する成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DNA、RNA、タンパク質、ペプチド、脂質、糖質、有機分子化合物(例えば、環境ホルモン、代謝産物)などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
上記各細胞に由来する成分を解析する態様としては、細胞を溶解して、1細胞に含まれる成分を測定する方法が挙げられる。例えば、第1区画に細胞を補足させた後に、各マイクロウェル内で、1細胞を試料として核酸増幅反応をさせることが可能である。前記核酸増幅反応の態様としては、1細胞に含まれるmRNAを逆転写してcDNAを増幅するRT−PCR反応を挙げることができる。RT−PCR反応により、1細胞に由来するmRNAを定量的または定性的に解析することができる。RT−PCR反応は、公知の方法で実施することができ、RT−PCR反応専用の試薬を細胞に添加する必要がある。
1細胞に含まれるmRNAを逆転写し増幅するためには、1細胞の体積よりも多くの試薬量を添加する必要があるとの報告がある。本発明のマイクロウェルプレートのマイクロウェルは、上記第2区画を有するため、RT−PCR反応を行うのに必要な試薬量を第2区画内に保持させることが可能となる。したがって、第2区画を備えないで第1区画に相当する区画しか有さない従来のマイクロウェル内、または、第2区画は備えるがその容積が十分ではないマイクロウェル内では、核酸増幅反応を十分に行えないが、本発明のマイクロウェルプレートを用いた本発明のマイクロウェル装置を用いると、各マイクロウェル内で核酸増幅反応を達成することができる。なお、第2区画を設けず、単に第1区画の容積を増やすだけならば、RT−PCR反応用の試薬を第1区画内に充分量保持させることができるが、第1区画内に2個以上の細胞が含まれるおそれがあり、1細胞の解析が困難となる。
【0038】
また、上記各細胞に由来する成分を解析する態様のその他の例としては、第1区画に補足させた細胞を溶解させずに、細胞の形態を観察することで細胞に由来する成分を解析する方法が挙げられる。例えば、第1区画に細胞を補足させた後に、倒立型顕微鏡の試料台にマイクロウェル装置のマイクロウェルプレートを底部にして配置して、細胞を観察することができる。細胞を蛍光色素または発光色素で染色した場合、倒立型顕微鏡で蛍光を観察することができる。例えば、細胞内の酵素活性を測定するための蛍光色素試薬を用いて細胞を前処理しておくと、細胞内の酵素活性に応じた蛍光や発光を観察することが可能である。このように、1細胞を顕微鏡で観察することにより、細胞に由来する成分を解析することができる。
【0039】
(マイクロウェルプレートの製造方法)
本発明のマイクロウェルプレートの製造方法は、本発明のマイクロウェルプレートの製造方法であって、(a)前記マイクロウェルプレートのマイクロウェルの鋳型を、光硬化性樹脂を硬化させて得る鋳型硬化工程と、(b)前記鋳型硬化工程の後に、前記硬化した光硬化性樹脂のまわりに気相蒸着法によりパリレンを蒸着させるパリレン蒸着工程と、(c)前記パリレン蒸着工程の後に、前記パレリンが蒸着した鋳型にシリコーンゴムをキャスティングするキャスティング工程と、(d)前記キャスティング工程の後に、キャスティングされたシリコーンゴムから前記鋳型を離型する離型工程と、を含む。
図5は、本発明のマイクロウェルプレートの製造方法における、鋳型硬化工程後の鋳型の状態の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大画像であり、
図5(a)〜
図5(j)は、それぞれ異なる形状の鋳型の場合を示す。
図5(a)〜
図5(j)のマイクロウェルの鋳型は、ガラス基板の上に光硬化性樹脂が硬化されてなる造形物が成形されている。ガラス基板と光硬化性樹脂の造形物とが接する面は、円型であり、該円の直径が約30μmである。
本発明のマイクロウェルプレートの製造方法によれば、安定的に本発明のマイクロウェルプレートを得ることができ、特に、マイクロウェルプレートから鋳型を確実に離型することができるため、安定的な製造が可能となる。
【0040】
<鋳型硬化工程>
上記鋳型硬化工程は、上記マイクロウェルプレートの鋳型を、光硬化性樹脂を硬化させて得る工程である。
前記鋳型は、前記光硬化性樹脂を光照射により硬化させて、所望の形状に光硬化性樹脂を成形する公知の光造形技術で得ることができる。前記光造形技術は、CADデータを基に3次元の立体物を自動的かつ迅速に作製する技術であり、例えば、三次元マイクロ光造形装置(D−MEC社製、製品名:Acculas)を用いて光硬化性樹脂の成形体を作製することができる。斯かる装置を用いると、3次元のCADデータに基づいて、アクリル系またはエポキシ系の光硬化性樹脂の成形物を、ガラス基板上にレーザー照射により作製できる。なお、得られた鋳型は、未硬化の樹脂を溶剤で洗浄してから次工程のパリレン蒸着工程に進むこともできる。
【0041】
<<光硬化性樹脂>>
上記光硬化性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、イミド樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂は、精細な光造形に用いることができる点で有利である。
上記光硬化性樹脂を硬化させる光としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、紫外線、可視光、ラマンレーザー、半導体レーザー、色素レーザー、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
<パリレン蒸着工程>
上記パリレン蒸着工程は、前記鋳型硬化工程の後に、前記硬化した光硬化性樹脂のまわりに気相蒸着法によりパリレンを蒸着させる工程である。
前記パリレンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パリレンN、パリレンC、パリレンD、パリレンHT、などが挙げられる。これらの中でも、パリレンCを鋳型に蒸着させると、鋳型にキャスティングされたシリコーンゴムから鋳型を離す離型工程において、離型をより確実に行うことができる点で好ましい。
前記気相蒸着法は、公知の方法で実施することができる。例えば、日本パリレン合同会社製のパリレン蒸着装置(PDS 2010 LABCOTER
TM 2)を用い、所定量のパリレンダイマーを昇華させ、同装置の真空蒸着器内で蒸着させることができる。
パリレン蒸着により鋳型に蒸着させるパリレン層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5〜2μmが好ましく、1〜2μmがより好ましい。
前記パリレン層の厚みが、前記好ましい範囲内または前記より好ましい範囲内であると、離型時の鋳型の破断を防ぐことができ、鋳型が大きくなり過ぎない点で有利である。
【0043】
<キャスティング工程>
上記キャスティング工程は、上記パリレン蒸着工程の後に、前記パレリンが蒸着した鋳型にシリコーンゴムをキャスティングする工程である。
前記キャスティングは、公知の方法で実施することができる。例えば、信越化学製のPDMS(商品名:KE−106)を硬化剤と混合させたものを鋳型に流し込み,ホットプレート上で約70℃で2時間保持して硬化させて作製することができる。
【0044】
<離型工程>
上記離型工程は、前記キャスティング工程の後に、キャスティングされたシリコーンゴムから前記鋳型を離型する工程である。
前記離型は、公知の方法で実施することができる。例えば、鋳型の周囲をナイフで矩形に切断し,ピンセットを用いて引きはがすことで離型することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明のマイクロウェルプレート、マイクロウェルプレートの製造方法、マイクロウェル装置、及びマイクロウェル装置を用いた細胞解析方法をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例になんら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0046】
実施例1
(マイクロウェルプレートの作製)
【0047】
1.鋳型硬化工程
鋳型は、マイクロウェル型の構造物どうしの間隔を100μmとし、ガラス面上に前記構造物を縦100個×横100個で作製した。三次元マイクロ光造形装置(D−MEC社製、製品名:Acculas)を用いて、装置マニュアルに従って、光硬化性樹脂としてエポキシ系樹脂(JSR社製、製品名:KC1207)を用いて成形した。硬化は、厚さ10mmの各積層における露光量を150mJ/cm
2とする条件で行った。
【0048】
2.パリレン蒸着工程
気相蒸着によりパリレンを蒸着させた。パリレン蒸着装置(日本パリレン合同会社製、製品名:PDS 2010 LABCOTER
TM 2)を用いて、装置マニュアルに従って、パリレンC(SPECIALTY COATING SYSTEMS社製)を蒸着した。
パリレンは、厚さが2μmとなるように蒸着させた。得られた鋳型は、引張強度が70MPaとなった。
【0049】
3.キャスティング工程
パリレン蒸着をした上記鋳型に、PDMSのプレポリマー(信越化学社製、製品名:KE−106)と硬化剤(信越化学社製、製品名:CAT−RG)とを混合した組成物を流し込んだ。約70℃で2時間保持して組成物を硬化させた。硬化後のヤング率は0.5〜1MPa程度であった。
【0050】
4.離型工程
硬化後のPDMSについて,鋳型の周囲をナイフで矩形に切断し,ピンセットを用いて引きはがして、マイクロウェルプレートを得た。鋳型から離型したマイクロウェルプレートの断面の電子顕微鏡写真を
図6(a)〜(d)に示す。鋳型は破断することなく、マイクロウェルから離型した。
【0051】
(マイクロウェル装置の作製)
PDMSのプレポリマー(信越化学社製、製品名:KE−106)と硬化剤(信越化学社製、製品名:CAT−RG)とを混合した組成物を鋳型成形して、高さ50μm、幅3mmの溝を3本有するカバー部材を作製した。該カバー部材のそれぞれの溝には、直径が1.5mmの開口を2個設けた。
上記カバー部材の溝側を有する面と、離型して得られたマイクロウェルプレートのマイクロウェルを有する面とを、それぞれ酸素プラズマで約1分間処理し、酸素プラズマ処理をした面どうしで貼り合わせた。その後、90℃に加熱したホットプレートの上で、30分間ベーキング処理をして、結合を強化した。
【0052】
(細胞解析方法)
1.細胞の調製
5μMのカンプトテシン(CPT)で24時間処理したJurkat細胞を、2.0×10
6細胞/mLの細胞濃度に調製して、カスパーゼの活性を検出できるCaspase Substrate及びApo−ONE Caspase−3/7 Bufferの混合溶液(体積比1:100)(Promega社製、製品名:Apo−ONE Homogeneous Caspase−3/7 Assay)を体積比1:1で添加して、細胞懸濁液とした。
【0053】
2.細胞補足工程
得られた細胞懸濁液をマイクロウェル装置の開口から5μL注入して、5回ピペッティング操作をした。
図8は、図中矢印で示したマイクロウェルの第一区画に、1細胞が封入されている様子を示している。
【0054】
3.区画化工程
疎水性流体としてのフルオロカーボンオイル(3M社製、製品名:FC−40)を開口から5μL注入して、流してマイクロウェルに封をして、1時間インキュベーションをした。フルオロカーボンオイルを開口から流し込むことによっても、細胞を効率よくマイクロウェルの第1区画に補足させることができた。
【0055】
4.細胞観察工程
上記で得たマイクロウェルプレートを用いて、細胞に由来する酵素の活性を蛍光観察するために、倒立蛍光顕微鏡(オリンパス製IX−51)を使用し、励起としてB励起を用い、×4倍の倍率でカスパーゼにより加水分解された蛍光基質由来の蛍光を観察した。結果を
図9(a)に示す。
【0056】
(実施例2)
実施例1の細胞観察工程において、倒立型顕微鏡で4倍の倍率で観察したかわりに、倒立型顕微鏡で20倍の倍率で観察した以外は実施例1と同様にして、細胞を観察した。実施例2の結果を
図9(b)に示す。
【0057】
(実施例3)
実施例1の細胞補足工程において、細胞懸濁液をマイクロウェル装置の開口から注入したかわりに、濃度1mMの蛍光色素のカルセイン水溶液をマイクロウェル装置の開口から注入した以外は実施例1と同様にして、蛍光像を観察した。実施例3の結果を
図10(a)に示す。
【0058】
(実施例4)
実施例3の細胞観察工程において、倒立型顕微鏡で4倍の倍率で観察したかわりに、倒立型顕微鏡で20倍の倍率で観察した以外は実施例3と同様にして、蛍光像を観察した。実施例4の結果を
図10(b)に示す。
【0059】
(比較例1)
実施例3の細胞補足工程において、第二区画を設けたマイクロウェルプレートを用いたかわりに、第二区画を設けない(第一区画のみを有する)マイクロウェルプレートを用いた以外は実施例3と同様にして、蛍光像を観察した。比較例1の結果を
図10(c)に示す。
【0060】
(比較例2)
比較例1の細胞観察工程において、倒立型顕微鏡で4倍の倍率で観察したかわりに、倒立型顕微鏡で20倍の倍率で観察した以外は比較例1と同様にして、蛍光像を観察した。比較例2の結果を
図10(d)に示す。
【0061】
(比較例3)
実施例1のマイクロウェルプレートの作製において、パリレン蒸着工程を実施したかわりに、パリレン蒸着工程を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にしてマイクロウェルプレートを作製した。鋳型から離型した後のマイクロウェルプレート断面の電子顕微鏡写真を
図7に示す。
図7中矢印で示した部分に、本来ならば空洞となる部分に、光硬化性樹脂が破断し残っている。
【0062】
実施例1に係る
図9(a)、(b)の結果から、本発明のマイクロウェル装置を用いて、多数の細胞を1細胞毎に分離して、細胞に由来する酵素の活性をマイクロウェルごとに観察できることが確認できた。
【0063】
図10(a)〜(d)の結果から、1つのマイクロウェルから発せられる蛍光強度は、第二区画を設けないマイクロウェルプレートよりも、第二区画を設けたマイクロウェルプレートの方が強いことが示された。それゆえ、実施例1、2のマイクロウェルプレートを用いると、比較例1、2のマイクロウェルプレートを用いるよりも、細胞に由来する成分をより高感度で解析可能であることが示唆された。
【0064】
実施例1においてパリレン蒸着を実施して離型が良好となった結果(
図6)と、比較例3においてパリレン蒸着を実施せずに離型が不良となった結果(
図7)との比較から、パリレン蒸着工程を行うことにより、マイクロウェルプレートがより安定的に製造できることが示された。鋳型にパリレン蒸着をすると、離型工程において、鋳型がシリコーンゴムと離れやすくなり、離型が可能となることが示された。