特許第6579503号(P6579503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6579503
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】環状ダストシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20190912BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20190912BHJP
   F16F 9/36 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   F16J15/3204 101
   F16J15/18 A
   F16F9/36
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-533131(P2019-533131)
(86)(22)【出願日】2019年3月20日
(86)【国際出願番号】JP2019011797
【審査請求日】2019年6月18日
(31)【優先権主張番号】特願2018-53693(P2018-53693)
(32)【優先日】2018年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】徳永 渉
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−29518(JP,A)
【文献】 特開2009−121534(JP,A)
【文献】 特開2005−221019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/00−15/28
F16F 9/00−9/58
F16J 15/16−15/3296
15/46−15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材料からなり、ハウジングにより支持され、円環状のダストリップを有し、前記ハウジング内に配置され、先端側を大気側に突出させた往復動軸の外周面に前記ダストリップ表面を接触させる環状ダストシールであって、
前記ダストリップの縦断面において、該ダストリップの頂部より前記ハウジング内方側における凸曲率を有する表面の平均曲率半径は、該ダストリップの頂部より大気側における凸曲率を有する表面の平均曲率半径よりも、大きくなっていることを特徴とする環状ダストシール。
【請求項2】
前記ダストリップの頂部より前記ハウジング内方側における凸曲率を有する表面の平均曲率半径は、該ダストリップの頂部より大気側における凸曲率を有する表面の平均曲率半径の1.5倍〜4倍であることを特徴とする請求項1記載の環状ダストシール。
【請求項3】
前記ダストリップの頂部より前記ハウジング内方側における凸曲率を有する表面の平均曲率半径は、該ダストリップの頂部より大気側における凸曲率を有する表面の平均曲率半径の2倍〜3倍であることを特徴とする請求項1又は2記載の環状ダストシール。
【請求項4】
前記往復動軸の外周面に前記ダストリップ表面を接触させたときに、
大気側に臨む端面の、少なくとも前記往復動軸の外周面近傍は、該外周面の母線に対してなす角度が90°以上となることを特徴とする請求項1、2又は3記載の環状ダストシール。
【請求項5】
前記往復動軸の外周面に前記ダストリップ表面を接触させたときに、
大気側に臨む端面は、前記往復動軸の外周面に近い側ほど大気側に突出したテーパ形状となることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の環状ダストシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ダストシールに関し、詳しくは、優れたダストシール機能を有しながら、局所摩耗、ヘタリ(変形)やスティックスリップ(鳴き、振動)が生じない環状ダストシールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設機械の油圧シリンダやサスペンション、及び自動車のショックアブソーバ等においてロッドシール部に用いられるダストシールには、図8に示すように、往復動軸(ロッド)200の外周面に摺動可能に密封接触する環状ダストシール300がある(特許文献1)。
【0003】
往復動軸200は、図示しないハウジング内に配置され、図8中矢印Aで示すように、軸方向に往復動可能となっている。この往復動軸200は、基端側(図8中左方)をハウジング内に位置させ、先端側(図8中右方)をハウジングの開口端部より軸方向外側(以下「大気側」という。)に突出させている。ハウジング内には油が充填されているが、油圧シリンダ等にはダストシールのハウジング内方側(以下「油圧側」という。)に、外部油漏れを防ぐリップパッキン、及び高負荷時の油圧緩衝と高温油カットを目的としたバッファリングが併用されることが多く、ダストシールにはリップパッキンと軸間を通過した油膜が供給される。
【0004】
環状ダストシール300は、ゴム状弾性材料により一体的に円環状に形成されており、外周側に金属環310が取付けられている。環状ダストシール300は、ハウジングに形成された環状溝内に配置されている。環状溝は、往復動軸200の外周面を囲むように形成されている。
【0005】
環状ダストシール300は、油圧側に、往復動軸200の周面に当接される円環状のオイルリップ320を有している。また、環状ダストシール300は、大気側に、往復動軸200の周面に当接される円環状のダストリップ330を有している。
【0006】
環状ダストシール300は、ゴム状弾性材料の弾性力により、オイルリップ320を往復動軸200の外周面に圧接させている。また、環状ダストシール300は、ゴム状弾性材料の弾性力により、ダストリップ330を往復動軸200の外周面に圧接させている。これらオイルリップ320及びダストリップ330が往復動軸200の外周面に圧接されることにより、ハウジング内が密封される。
【0007】
環状ダストシール300は、オイルリップ320により、ハウジング内の油をシールする。また、環状ダストシール300は、ダストリップ330により、土砂等がハウジング内に浸入することを阻止する。この環状ダストシール300は、ダストリップ330よりも油圧側にある油圧保持部品や、軸受、歯車等の摺動部品の良好な潤滑状態を長期維持させることにより、機器の長寿命化に貢献している。また、ダストリップ330は、往復動軸200の外周面に適度の油膜を形成するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−214769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
環状ダストシール300は、ダストリップ330により外部異物のハウジング内への浸入を防止するため、往復動軸200の外周面との間の隙間を密封できる弾性材料として、各種ゴム、ウレタン、PTFEなどにより形成される。また、環状ダストシール300は、往復動軸200の外周面に固着した外部異物を掻き落とす必要もあることから、剛性が求められ、高硬度のゴムやウレタンなどの合成樹脂材料により形成される。
【0010】
また、環状ダストシール300は、往復動軸200の外周面に対するシール接触圧力を高くして、往復動軸200の外周面に固着した外部異物に対するシール性を高めることにより、機器の長寿命化に貢献することができる。
【0011】
ところが、環状ダストシール300は、往復動軸200の外周面に対するシール接触圧力を高くすると、面圧勾配が高くなるため、軸がハウジング内方側へストロークする時に、ダストリップを通過する油膜が薄くなり、かき出し漏れが多くなるおそれがある。また、環状ダストシール300は、シール接触圧力を高くするために、緊迫力を高くした場合、局所摩耗、ヘタリ(変形)、スティックスリップ(鳴き、振動)などが発生するおそれがある。
【0012】
そこで、本発明は、優れたダストシール機能を有しながら、局所摩耗、ヘタリ(変形)やスティックスリップ(鳴き、振動)が改善された環状ダストシールを提供することを課題とする。
【0013】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0015】
1.
弾性材料からなり、ハウジングにより支持され、円環状のダストリップを有し、前記ハウジング内に配置され、先端側を大気側に突出させた往復動軸の外周面に前記ダストリップ表面を接触させる環状ダストシールであって、
前記ダストリップの縦断面において、該ダストリップの頂部より前記ハウジング内方側における凸曲率を有する表面の平均曲率半径は、該ダストリップの頂部より大気側における凸曲率を有する表面の平均曲率半径よりも、大きくなっていることを特徴とする環状ダストシール。
2.
前記ダストリップの頂部より前記ハウジング内方側における凸曲率を有する表面の平均曲率半径は、該ダストリップの頂部より大気側における凸曲率を有する表面の平均曲率半径の1.5倍〜4倍であることを特徴とする前記1記載の環状ダストシール。
3.
前記ダストリップの頂部より前記ハウジング内方側における凸曲率を有する表面の平均曲率半径は、該ダストリップの頂部より大気側における凸曲率を有する表面の平均曲率半径の2倍〜3倍であることを特徴とする前記1又は2記載の環状ダストシール。
4.
前記往復動軸の外周面に前記ダストリップ表面を接触させたときに、
大気側に臨む端面の、少なくとも前記往復動軸の外周面近傍は、該外周面の母線に対してなす角度が90°以上となることを特徴とする前記1、2又は3記載の環状ダストシール。
5.
前記往復動軸の外周面に前記ダストリップ表面を接触させたときに、
大気側に臨む端面は、前記往復動軸の外周面に近い側ほど大気側に突出したテーパ形状となることを特徴とする前記1〜4の何れかに記載の環状ダストシール。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れたダストシール機能を有しながら、局所摩耗、ヘタリ(変形)やスティックスリップ(鳴き、振動)が改善された環状ダストシールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の環状ダストシールの第1の実施形態(装着状態)を示す縦断面図である。
図2図1に示す環状ダストシール(未装着状態)を示す縦断面図である。
図3図1に示す環状ダストシールの要部を示す要部拡大縦断面図である。
図4図1に示す環状ダストシールの往復動軸に対する接触圧力を示すグラフである。
図5】本発明の環状ダストシールの第2の実施形態(未装着状態)を示す縦断面図である。
図6図5に示す環状ダストシールの要部を示す要部拡大縦断面図である。
図7図5に示す環状ダストシールの往復動軸に対する接触圧力を示すグラフである。
図8】従来の環状ダストシールを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0019】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の環状ダストシールの第1の実施形態(装着状態)を示す縦断面図である。
【0020】
この環状ダストシール1の第1の実施形態は、建設機械の油圧シリンダやサスペンション、及び自動車のショックアブソーバ等においてロッドシールに用いられる。本実施の形態は、建設機械、土木機械、運搬車輌等のアクチュエータとして用いられる油圧シリンダ(全体を図示せず)に採用されるロッドシーリングシステムへの適用例である。
【0021】
図1に示すように、ロッドシーリングシステムは、往復直線運動をする可動部としてのピストンロッド102と、このピストンロッド102を収納する固定部としてのシリンダハウジング101との間に設けられている。ロッドシーリングシステムはハウジング101により支持されている。ハウジング101は、大気側(図1中右方)が開口部101aとされ、図示しない油圧側(図1中左方、内方側)が閉蓋されている。
【0022】
ハウジング101内には、往復動軸(ロッド)102が配置されている。この往復動軸102は、先端側一方をハウジング101内の油圧側に位置させ、先端側他方をハウジング101の開口部101aより突出させている。往復動軸102は、図1中矢印Aで示すように、軸方向に往復動可能となっている。往復動軸102は、ハウジング101内の流体によって、軸方向への往復動の速度が規制される。
【0023】
ロッドシーリングシステムは、ロッドパッキン(図示せず)と、ロッドパッキンの油圧側に配置されたバッファリング(図示せず)と、ロッドパッキンの大気側に配置されたダストシール1とを備えている。したがって油圧側から大気側に向かい、バッファリング、ロッドパッキン、ダストシール1の順に配列されている。
【0024】
ロッドパッキンは、外部への作動油の漏れを防止するメインシールとなるもので、円環状のUパッキンを主体として、このUパッキンに平形ワッシャ状のバックアップリングを隣接させた構造のものである。これらのUパッキンとバックアップリングとは、ともにシリンダハウジング101の内周面に設けられた装着溝に収納されている。
【0025】
バッファリングは、高負荷時の衝撃圧や変動圧を緩衝したり、高温の作動油がロッドパッキンの側へ流入することを抑止したりして、ロッドパッキンの耐久性を維持する役割を果たしている。このようなバッファリングは、円環状のUパッキンを主体として、このUパッキンのヒール部にバックアップリングを嵌め込んだ構造のものである。これらのUパッキンとバックアップリングとは、ともにシリンダハウジング101の内周面に設けられた装着溝に収納されている。
【0026】
図2は、図1に示す環状ダストシール(未装着状態)を示す縦断面図である。
【0027】
環状ダストシール1は、図2に示すように、弾性材料により、一体的に円環状に形成されている。環状ダストシール1をなす材料としては、往復動軸102の外周面102aとの間の隙間を密封できる弾性材料として、各種ゴム、ウレタン、PTFEなどの合成樹脂材料が好ましい。
【0028】
環状ダストシール1は、外周側に金属環2が取付けられている。金属環2は、円環板部2aと、この円環板部2aの外周部分が屈曲されて形成された円筒部2bとを有している。金属環2は、円筒部2bを環状ダストシール1の外周面に沿わせ、円環板部2aが環状ダストシール1に埋設されることにより、環状ダストシール1に取付けられている。
【0029】
環状ダストシール1は、図1に示すように、ハウジング101に形成された環状溝103内に配置されている。環状溝103は、ハウジング101の開口部101aの近傍に位置し、往復動軸102の外周面102aを囲んで、往復動軸102に同軸に形成されている。
【0030】
環状ダストシール1は、図1及び図2に示すように、油圧側(内方側)に、往復動軸102の外周面に接触される円環状のオイルリップ3を有している。また、環状ダストシール1は、大気側に、往復動軸102の外周面に接触される円環状のダストリップ4を有している。
【0031】
環状ダストシール1は、弾性材料の弾性力により、オイルリップ3の表面を往復動軸102の外周面102aに圧接させている。また、環状ダストシール1は、弾性材料の弾性力により、ダストリップ4の表面を往復動軸102の外周面102aに圧接させている。これらオイルリップ3及びダストリップ4が往復動軸102の外周面102aに圧接されることにより、ハウジング101内が密封される。
【0032】
図3は、図1に示す環状ダストシールの要部を示す要部拡大縦断面図である。
【0033】
ダストリップ4の表面は、トーラス形状に形成され、図3に示すように、縦断面が円弧状となされている。ダストリップ4の縦断面において、ダストリップ4の頂部4cより油圧側における凸曲率を有する表面4bの平均曲率半径(≒(R1+R2)/2)は、ダストリップ4の頂部4cより大気側における凸曲率を有する表面4aの平均曲率半径(=R2)よりも、大きくなっている。
【0034】
ダストリップ4の縦断面において、ダストリップ4の頂部4cより油圧側における凸曲率を有する表面4bの平均曲率半径(≒(R1+R2)/2)は、ダストリップ4の頂部4cより大気側における凸曲率を有する表面4aの平均曲率半径(R2)の1.5倍〜4倍であることが好ましい。
【0035】
ダストリップ4の縦断面において、ダストリップ4の頂部4cより油圧側における凸曲率を有する表面4bの平均曲率半径(≒(R1+R2)/2)は、ダストリップ4の頂部4cより大気側における凸曲率を有する表面4aの平均曲率半径(R2)の2倍〜3倍であることがさらに好ましい。
【0036】
この実施形態のように、建設機械の油圧シリンダやサスペンション、及び自動車のショックアブソーバにおけるロッドシールに用いられる場合の一般的な材質、温度条件及びダストの種類において、油圧側の曲率半径R1は、0.4mm〜0.5mm程度であり、大気側の曲率半径R2は、0.15mm〜0.2mm程度であることが好ましい。ただし、これらの具体的数値の最適値は、環状ダストシール1をなす材質や、温度条件、ダストの種類等によって変動する。
【0037】
図4は、図1に示す環状ダストシールの往復動軸に対する接触圧力を示すグラフである。
【0038】
図4において、接触圧力が正になっている領域は、ダストリップ4が弾性変形して潰れて往復動軸102の外周面102aに接触している領域である。この接触領域の大気側が横軸右端であり、横軸左側が油圧側への距離を示している。
【0039】
図4中の従来品において、接触圧力が最大となっている箇所は、ダストリップの頂部である。本実施形態の環状ダストシール1においては、頂部4cの位置は従来品と同じであるが、ダストリップ4の表面の曲率半径の違いから、頂部4cにおいて接触圧力が最大とならないことがある。
【0040】
ダストリップ4の往復動軸102の外周面102aに対する接触圧力は、図4に示すように、前述した従来品に比較して、ピーク値が低くなっており、また、ピーク値をとる部分の軸方向長さが油圧側に長くなっている。接触圧力が必要面圧pを超えている必要面圧幅w1が、従来品よりも広くなっている。これは、油圧側の曲率半径R1を大きくしたためである。図4に示す従来品と本実施形態の環状ダストシール1とは、材質、全体形状、温度条件等が同一のものである。
【0041】
ダストリップ4は、油圧側の曲率半径R1が大きいことにより、往復動軸102の外周面102aに対する接触圧力が下がり、局所摩耗、ヘタリ(変形)やスティックスリップ(鳴き、振動)が防止され、液体(油)の掻き出し漏れが防止される。また、往復動軸102外周面102aに付着した液体膜(油膜等)が適度な厚さとなる。そして、ダストリップ4は、大気側の曲率半径R2が小さいことにより、往復動軸102の外周面102aに対して十分な接触圧力をかけるので、優れたダストシール機能を有する。
【0042】
すなわち、この環状ダストシール1は、外部異物(土砂、鉱石、油、水、氷、樹液等)がハウジング101内に浸入することを阻止するダストシール機能が優れており、環状ダストシール1よりも油圧側にある油圧保持部品や、軸受、歯車等の摺動部品を良好な潤滑状態とする。この環状ダストシール1は、優れたダストシール機能を長期維持することができ、機器の長寿命化に貢献することができる。
【0043】
〔第2の実施形態〕
図5は、本発明の環状ダストシールの第2の実施形態(未装着状態)を示す縦断面図であり、図6は、図5に示す環状ダストシールの要部を示す要部拡大縦断面図である。図5及び図6において、図1図3と同一符号の部位は同一構成の部位であるため、これらの説明は上記実施形態の説明を援用し、ここでは省略する。
【0044】
環状ダストシール1は、図5及び図6に示すように、大気側に臨む大気側端面1aが、装着状態において、往復動軸102の外周面102aに近い側ほど大気側に突出したテーパ形状となっていることが好ましい。
【0045】
このように、大気側端面1aの形状が、往復動軸102の外周面102aに近い側ほど大気側に突出したテーパ形状であることにより、大気側端面1aにより、外周面102aに付着した異物の掻き落としを良好に行うことができる。
【0046】
また、環状ダストシール1の大気側端面1aは、円錐面(縦断面が直線)である必要はなく、少なくとも往復動軸102の外周面102a近傍が、装着状態において、外周面102aの母線に対してなす角度が90°以上であればよい。
【0047】
環状ダストシール1は、大気側端面1aの外周面102a近傍が、外周面102aの母線に対して90°以上の角度をなすことにより、外周面102aに付着した異物の掻き落としを良好に行うことができる。大気側端面1aの外周面102a近傍が、外周面102aの母線に対して90°未満の角度である場合には、外周面102aに付着した異物は、往復動軸102の往復動に伴って、良好に掻き落とされずに、往復動軸102及び環状ダストシール1の間に浸入してしまうおそれがある。
【0048】
なお、環状ダストシール1は、図5に示すように、往復動軸102の周囲に装着していない状態においては、大気側端面1aは、装着される往復動軸102の外周面102aの母線に対してなす角度が90°未満であって、外周面102aから遠くなる側ほど大気側に突出したテーパ形状となっていてもよい。すなわち、環状ダストシール1は、図6に示すように、往復動軸102の周囲に装着されたときに、往復動軸102の外周面102aに押圧されて変位し、大気側端面1aの外周面102aの母線に対してなす角度が90°以上になり、外周面102aに近い側ほど大気側に突出したテーパ形状となる。このときの環状ダストシール1の変位量が、しめ代となる。
【0049】
図7は、図5に示す環状ダストシールの往復動軸に対する接触圧力を示すグラフである。
【0050】
図7において、接触圧力が正になっている領域は、ダストリップ4が弾性変形して潰れて往復動軸102の外周面102aに接触している領域である。この接触領域の大気側が横軸右端であり、横軸左側が油圧側への距離を示している。
【0051】
図7中の従来品において、接触圧力が最大となっている箇所は、ダストリップの頂部である。本実施形態の環状ダストシール1においては、頂部4cの位置は従来品と同じであるが、ダストリップ4の表面の曲率半径の違いから、頂部4cにおいて接触圧力が最大とならないことがある。
【0052】
この実施形態においても、ダストリップ4の往復動軸102の外周面102aに対する接触圧力は、図7に示すように、前述した従来品に比較して、ピーク値が低くなっており、また、ピーク値近傍をとる部分の軸方向長さが油圧側に長くなっている。接触圧力が必要面圧pを超えている必要面圧幅w2が、従来品よりも広くなっている。これは、油圧側の曲率半径R1を大きくしたためである。図7に示す従来品と本実施形態の環状ダストシール1とは、材質、全体形状、温度条件等が同一のものである。
【0053】
したがって、この環状ダストシール1は、ダストシール機能が優れており、また、優れたダストシール機能を長期維持することができ、機器の長寿命化に貢献することができる。また、本実施形態の環状ダストシール1は、大気側端面1aにより、往復動軸102の外周面102aに付着した異物の掻き落としを良好に行うことができる。
【0054】
以上の各実施形態の説明における具体的な構成、形状、材質、動作及び数値等は、本発明を説明するための例示に過ぎず、これらによって本発明が限定的に解釈されることがあってはならない。
【0055】
また、以上説明した環状ダストシールは、建設機械、土木機械、運搬車輌等のアクチュエータとして用いられる油圧シリンダのロッドシーリングシステムに用いているが、この環状ダストシールは、油圧シリンダのロッドシーリングシステムに限られずに、シャフトの周囲においてハウジング内を大気からシールする必要がある装置であれば、あらゆる装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1: 環状ダストシール
1a: 大気側端面
2: 金属環
3: オイルリップ
4: ダストリップ
4a: ダストリップの頂部より大気側における凸曲率を有する表面
4b: ダストリップの頂部より油圧側における凸曲率を有する表面
R1: 油圧側の曲率半径
R2: 大気側の曲率半径
101: ハウジング
101a:開口部
102: 往復動軸(ロッド)
102a:外周面
103: 環状溝
【要約】
優れたダストシール機能を有しながら、局所摩耗、ヘタリ(変形)やスティックスリップ(鳴き、振動)が改善された環状ダストシールを提供する。
弾性材料からなり、ハウジングにより支持され、円環状のダストリップ(4)を有し、前記ハウジング内に配置され、先端側を大気側に突出させた往復動軸の外周面に前記ダストリップ(4)表面を接触させる環状ダストシールであって、前記ダストリップ(4)の縦断面において、該ダストリップ(4)の頂部より前記ハウジング内方側における凸曲率を有する表面(4b)の平均曲率半径は、該ダストリップ(4)の頂部より大気側における凸曲率を有する表面(4a)の平均曲率半径よりも、大きくなっている。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8