【実施例】
【0051】
以下において、本発明に基づく実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。ここでは、本発明の接合層構造を有するパワーデバイスとして、SiC高温パワー半導体を搭載した金属フレーム、ダイオード、IGBTモジュール及び電力用MOSトランジスタの例を説明する。
【0052】
<実施例1>
本発明の接合層構造によって得られる接合部のせん断強度について基礎的な実験を行った。接合材として溶解鋳造して得られた22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金を用い、
図4に示す方法に従って接合部せん断強度測定用の試料を作製した。この実験では、
図4に示す半導体素子2を使用する代わりにCu基板/Ni/Cuめっき膜からなる被接合材4を2枚使用した。厚さ60μmのZn−Al共析系合金接合材を前記Cu基板/Ni/Cuめっき膜からなる2枚の被接合材の間に介して、窒素ガス雰囲気中(本実施例においては非酸化性雰囲気であれば良く、窒素の他にも、アルゴン、ヘリウムあるいは水素を含む非酸化性混合ガスを使用することができる。)で加圧しながら250℃10分間保持した後、その状態で390℃まで昇温し、同じ390℃の温度で5分間保持してから室温まで徐冷した。加圧は、5MPa、10MPa及び24MPaの3条件でそれぞれ条件を変えて行った。
【0053】
Zn−Al共析系合金接合材は、加圧しながら390℃で5分間保持することによって400℃以下の融点を有するZn−Al合金等が接合面から押し出されて変形し、加圧条件5MPa、10MPa及び24MPaにおいて厚さが60μmから、それぞれ55μm、54μm及び52μmと薄くなった。接合後の接合層についてAlリッチ相(α相)のデンドライドアームスペーシング(DAS)を測定した結果、加圧条件5MPa、10MPa及び24MPaにおいて、DASの値はそれぞれ0.22μm、0.21μm及び0.20μmであった。これらDASの値から
図2に示す曲線を用いて接合層に含まれるAl含有量を求めると、Al含有量は30〜34質量%となる。
【0054】
本実施例においては、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金を用いて、超塑性現象が起きない条件でも接合実験を行った。すなわち、前記Cu基板/Ni/Cuめっき膜からなる2枚の被接合材の間に介した前記Zn−Al共析系合金を、室温から250℃10分間の加熱工程を経由しないで、そのまま390℃まで昇温し、24MPaで加圧しながら390℃の温度で5分間保持した後、室温まで徐冷した。接合後の接合層の厚さは60μから53μmに薄くなり、DASの値は0.21μmであった。
【0055】
<比較例1>
比較例1として、本実施例のZn−Al共析系合金接合材の代わりに、従来の高温鉛はんだ(Pb−Sn−Ag)を用いて従来の接合方法にしたがって接合層を形成した。
【0056】
このようにして得られた実施例1及び比較例1の接合部について測定したせん断強度の加熱温度依存性の結果を
図6に示す。図中のせん断強度は、測定個数n=4としたときの平均値である。
図6に示すように、本発明のZn−Al共析系合金接合材は、従来の高温鉛はんだと比べて接合強度が非常に高い接合層を形成することができ、250℃以上の高温においても大きなせん断強度を有し、優れた高温接合強度を有することが分かった。一方、本発明のZn−Al共析系合金接合材による接合層であっても超塑性現象を利用しない場合は、せん断強度が従来の高温鉛はんだと比べてやや向上するものの、その効果は小さい。このように、接合材として17質量%〜30質量%Al−0〜1.5質量%Cu−0〜0.05質量%Mg−Zn系からなるZn−Al共析系合金を接合材として使用する場合は、接合面の表面洗浄化及び密着化の効果を得るために、超塑性現象を利用することが好ましい。
【0057】
なお、本実施例において、加圧条件を5MPa、10MPa及び24MPaと変えても接合層厚さ及びDASの変化が小さかった理由は、半溶融温度が390℃とやや低く、半溶融状態を維持するために十分な温度ではなかったためと考えられる。そこで、半溶融状態になる温度を390℃から430〜480℃まで高めたときの接合層構造及びせん断強度を測定した。
【0058】
<実施例2>
実施例1で使用したものと同じ接合材(厚さ60μm)及び被接合材を用いて、10〜20MPaの範囲で加圧しながら250℃10分間保持した後、その状態で430〜480℃まで昇温し、同じ430〜480℃の温度で5分間保持してから室温まで徐冷した。
【0059】
接合後のZn−Al共析系合金接合材は、加圧しながら430〜480℃の温度で5分間保持することによってZn及びZn−Al合金の一部が優先的に接合面から押し出されて変形するため、厚さを初期の60μmから30〜25μと半分以下に薄くすることができた。接合後の接合層についてAlリッチ相(α相)のデンドライドアームスペーシング(DAS)を測定した結果、加圧条件10〜20Mにおいて、DASの値は0.14〜0.12μmの範囲であった。
図2に示す曲線から分かるように、Al含有量は50質量%以上にまで高めることができる。
【0060】
このようにして得られた各接合層構造を有する接合部について測定したせん断強度は、実施例1において同じ加圧条件で超塑性現象を利用して接合を行ったZn−Al共析系合金接合材と比べて同じか、又はやや低い値を示した。この理由として、本実施例の接合層は応力緩和機構に大きな効果を有するAl含有量が増えるものの、Alリッチ相(α相)の樹枝状結晶がやや大きくなったり、互いに接近するため、接合層内に形成されるZn−Al合金層との界面で破断が起きやすくなることが考えられる。
【0061】
<実施例3>
本実施例において、SiC半導体素子とCu/SiN/Cu絶縁基板とを、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金の接合材(厚さ60μm)を介して接合して得られる実半導体装置の接合部微細構造及び接合信頼性を評価した。本実施例の実半導体装置は
図5に示す構成と構造を有し、SiC半導体素子のサイズは4.7mm×4.7mmである。本実施例によるSiC半導体装置の接合信頼性の結果を、接合プロセスと合わせて
図7に示す。
【0062】
図7の(a)に示すように、接合プロセスは、窒素ガス雰囲気中、18MPaで加圧しながら240℃約20分間保持した後、加圧した状態で390℃まで昇温し、その温度で約20分間保持してから徐冷を行う。240℃の加熱は、Zn−Al共析系合金の超塑性現象を利用することによって接合面の表面清浄化および密着化を促進させるために採用したプロセスである。
図7の(a)に示す接合プロセスによって形成された接合層は、測定したAlリッチ相(α相)のデンドライドアームスペーシング(DAS)が0.20μmであり、
図2に示す曲線から求めたAl含有量は32質量%である。
【0063】
このようにして接合が行われたSiC半導体装置を用いて温度サイクル試験を行い、試験後の接合部を垂直方向に切断し研磨した後の断面を左端部、中央部及び右端部の3箇所で観察した断面写真を
図7の(b)に示す。
図7の(b)の結果は、室温⇔300℃の条件で100サイクルの温度サイクル試験を行った後のものである。
図7の(b)には、断面の他にも、SiC/はんだ接合材との界面、及びはんだ接合材/Cu界面の両者について、それぞれ500倍及び2000倍に拡大して撮影した写真を合わせて示している。
【0064】
図7の(b)に示すように、本実施例の接合層はボイドレスであり、室温⇔300℃の厳しい条件で行った温度サイクル試験後でもSiC/はんだ接合材及びはんだ接合材/Cu界面の両界面には亀裂が観測されず、優れた接続信頼性を有することが確認された。また、接合面の濡れ性についても十分に確保されていることが分かる。
【0065】
<実施例4>
実施例3に示す接合プロセスにおいて、半溶融温度として設定した390℃に代え、450℃にしたときの実半導体装置の接合部微細構造と接合信頼性を実施例3と同じ方法で評価した。本実施例の接合プロセスは、窒素雰囲気中で18MPaに加圧しながら240℃約20分間保持した後、加圧した状態で450℃まで昇温し、その温度で5〜10分間保持してから徐冷を行う方法である。本実施例では、接合面の表面清浄化及び密着化を促進させるため、実施例3と同様に240℃の加熱によってZn−Al共析系合金の超塑性現象を利用した。
【0066】
このようにして形成された接合層はボイドレスであり、測定したAlリッチ相(α相)のデンドライドアームスペーシング(DAS)が0.13μmであり、
図2に示す曲線から求めたAl含有量は50質量%である。また、接合後の実半導体装置の温度サイ.クル試験を室温⇔300℃の条件で行い、100サイクル、300サイクル及び500サイクルの各サイクル終了後の接合部について断面観察して接合信頼性を評価した。その結果、500サイクル後でも、SiC/はんだ接合材及びはんだ接合材/Cu界面の両界面には亀裂が観測されず、優れた接続信頼性を有することが確認された。
【0067】
一方、実施例3で形成した接合部においても、室温⇔300℃の条件でサイクル数を300及び500と増やして温度サイクル試験を行った結果、300サイクル後ではSiC/はんだ接合材及びはんだ接合材/Cu界面の両界面には亀裂が観測されなかったものの、500サイクル後においてSiC/はんだ接合材の接合界面に両端縁から進展した微小な亀裂の存在が観測された。
【0068】
<比較例2>
実施例3に示す接合プロセスにおいて、半溶融状態を示す390℃の加熱温度に代えて、半溶融状態を示さない温度である300℃を採用して接合したときの実半導体装置の接合部微細構造と接合信頼性を、実施例3と同じ接合材(厚さ60μm)を用いて、同じ方法で評価した。本比較例の接合プロセスは、窒素雰囲気中、18MPaで加圧しながら240℃約20分間保持した後、加圧した状態で300℃まで昇温し、その温度で約20分間保持してから徐冷を行う方法である。この接合プロセスでは、300℃の再加熱時に接合層の変形はほとんど見られず、接合材の厚さも初期の60μmとほとんど同じであった。
【0069】
このようにして形成された接合層は、測定したAlリッチ相(α相)のデンドライドアームスペーシング(DAS)が0.30μmであり、
図2に示す曲線から求めたAl含有量は22質量%と組成の変化はなかった。また、接合後の実半導体装置の温度サイクル試験を室温⇔300℃の条件で行い、100サイクル、300サイクル及び500サイクルの各サイクル終了後の接合部について断面観察して接合信頼性を評価した。その結果、300サイクル後で、すでにSiC/はんだ接合材及びはんだ接合材/Cuの両接合界面に両端縁から微小な亀裂の存在が観測され、500サイクルでは大きな亀裂に進展することが分かった。
【0070】
<実施例5>
本実施例において、Zn−Al共析系合金の接合材を加圧しながら半溶融温度領域に加熱した状態で所望の時間保持する操作を2回以上繰り返すことによって形成される接合構造の例を示す。
実施例3の温度サイクル評価試験において使用したものと同じSiC半導体素子とCu/SiN/Cu絶縁基板を用い、接合材として、22質量%Al−78質量%Zn系を用いて、まず1回目の操作として、実施例4で示すものと同じ条件に従って半溶融温度域の450℃で加圧後、固相温度域の400℃まで冷却した。本操作で接合部の組成は実施例4で示したように50質量%Al−50質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金になる。前記組成の接合材は半溶融温度域が470℃から500℃以上に変わることが
図1から分かる。そこで2回目の操作として再度窒素ガス雰囲気中、加圧しながら、半溶融温度域の500℃まで昇温し、その温度で20分間保持した後、徐冷した。
【0071】
このようにして形成された接合層はボイドレスであり、測定したAlリッチ相(α相)のデンドライドアームスペーシング(DAS)が0.11μmであり、
図2に示す曲線から求めたAl含有量は55質量%である。接合後の実半導体装置の温度サイクル試験を室温⇔300℃の条件で行い、100サイクル、300サイクル及び500サイクルの各サイクル終了後の接合部について断面観察して接合信頼性を評価した。その結果、500サイクル後でも、SiC/はんだ接合材及びはんだ接合材/Cu界面の両界面には亀裂が観測されず、実施例4と同じように優れた接続信頼性を有することが確認された。
【0072】
以上のように、SiC半導体素子を有する実半導体装置は、Alリッチ相(α相)のデンドライドアームスペーシング(DAS)を小さくし、接合層に含まれるAl含有量を多くした本発明の接合層構造を形成することによって、大きな応力緩衝効果を得ることができる。上記の実施例では半導体素子としてSiCを使用した例を示したが、GaN、C(ダイヤモンド)及びGa
2O
3の何れかによる実半導体装置においても上記実施例と同じ効果を得ることができる。
【0073】
<実施例6>
本実施例において、SiC半導体素子とCu/SiN/Cu絶縁基板とを、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金の接合材(厚さ200μm)を介して接合して得られる実半導体装置の接合部微細構造及び接合信頼性を評価した。本実施例の実半導体装置は、実施例4と同じように、
図5に示すものと同じ構成と構造を有する。本実施例によるSiC半導体装置の接合は、実施例4と同じように、
図7の(a)に示す温度プロファイルにおいて、超塑性時の温度として240℃に代えて250℃を、拡散接合時の半溶融状態となる温度として390℃に代えて450℃を採用する以外は、
図7に示すものと同じプロセスで行った。450℃で接合後、
図1に示すgの点から冷却を行い、c3(約350℃)及びd3(277℃)の各変態超塑性点を通過させることによって、本実施例による接合層構造を得た。
図8に本実施例による接合プロセスの模式図を示す。
【0074】
図8に示すように、本実施例で形成した接合層は、測定したAlリッチ相(α相)のデンドライドアームスペーシング(DAS)が0.16μmであり、
図2に示す曲線から求めたAl含有量は42質量%(63原子%)である。
図9に接合後の外観写真を示す。
図9から分かるように、接合後はAl−ZnハンダがSiC半導体素子から押し出されて、周辺に溶出していることが分かる。溶出したAl−ZnハンダのZn含有量は、初期のAl−Zn接合材よりも多く含まれていた。
【0075】
このようにして接合が行われたSiC半導体デバイスを用いて温度サイクル試験を行い、試験後の接合部を垂直方向に切断し研磨した後の断面をほぼ中央部で観察した断面写真を
図10に示す。
図10の結果は、−40⇔200℃の条件で500サイクルの後、さらに50⇔300℃の条件で1000サイクルを追加して温度サイクル試験を行った後のものである。
図10において、(a)及び(b)は、それぞれ拡大率を変えて示した断面写真である。
【0076】
図10に示すように、本実施例の接合層はボイドレスであり、−40⇔200℃×500サイクル+50⇔300℃×1000サイクルの非常に厳しい条件で行った温度サイクル試験後でもSiC/Al−Znハンダ接合材及びAl−Znハンダ接合材/Cu界面の両界面には亀裂が観測されず、変態超塑性を利用したより高い応力緩和機能の発現によって非常に優れた接続信頼性を有することが確認された。また、接合面の濡れ性についても十分に確保されていることが分かる。
【0077】
<実施例7>
図11は本発明のZn−Al共析系合金接合材を使用したダイオードを示す。図において、7は底部が閉鎖され上端が開放された例えば銅製の円筒状ヒートシンク、8はダイオード機能を備えたシリコンチップ、9は銅−インバー(鉄ニッケル合金)−銅からなる緩衝板、10は円板部10aと円板部から垂直に伸びるリード10bとからなるリード電極で、円筒状ヒートシンク7の底部上にZn−Al共析系合金接合材11を介して緩衝板9が、その上にZn−Al系合金接合材12を介してシリコンチップ8が、その上にZn−Al共析系合金接合材13を介してリード電極4の円板部4aが、それぞれ接合されている。シリコンチップ8、緩衝板9及び円板部10aのZn−Al共析系合金接合材と接する面にはNi−Pめっき膜を形成している。Zn−Al共析系合金接合材11、12,13としては、22質量%Al−78質量%Zn系からなる合金を用い、前記実施例4又は6に示す接合プロセスに従って、円筒状ヒートシンク1と、緩衝板9と、シリコンチップ8と、リード電極10の円板部10aとの接合を行う。また、
図11に示す14は円筒状ヒートシンク1内に充填したシリコンゴムである。かかる構成のダイオードは所定数の貫通孔を有する冷却フィンの貫通孔に圧入されて自動車用整流装置に使用される。この種整流装置はエンジンルームに配置され、熱的及び機械的に過酷な環境で使用されることから、高温でかつ機械的強度の高い接合材が要求されている。本発明のZn−Al共析系合金接合材による接合層構造を有することにより、250℃以上の高温に耐え、延性と強度を有する接合部を実現できる。この実施例ではシリコンチップを使用した場合を説明したが、シリコンチップの代わりに炭化珪素(SiC)チップを使用することが出来る。炭化珪素チップは500℃でも安定した特性を保持できることから、接合材が固液共有状態に相変態する温度近くまで使用可能な高温ダイオードを実現できる。
【0078】
<実施例8>
図12、
図13及び
図14は本発明Zn−Al共析系合金接合材を用いた300A級IGBTモジュールの平面図及び断面図を示したものである。
図12は本発明の一実施例であり、1個の300A級モジュール単位の平面図を示したものである。また、
図13は
図12のA−Aに沿う断面図、
図14は
図12のB−B線に沿う断面図である。図において、101は放熱板及び支持板として機能する金属基板、102は金属基板101上に2枚並べて、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金接合層103を介して、前記実施例4又は6に示す接合プロセスに従って接合固着された例えばAlNからなるセラミックス基板、104は各セラミックス基板102上に形成した例えばNi/Cuからなる回路層で、回路層104は分離された異なる形状を有する3個の部分、即ち、T字型のコレクタ共通電極となる第1の部分104a、エミッタ電極となる片状の第2の部分104b、ゲート電極となる片状の第3の部分104cからなり、第1の部分104aが中央部に、第1の部分104aの脚部一側に第2の部分104bが、他方側に第3の部分104cが配置されている。第2の部分104b及び第3の部分104cはNi層上にAl層105が形成されている。106はそのアノード側が回路層104の第1の部分104aの脚部上に3個並べて、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金接合層107を介して、前記実施例4又は6に示す接合プロセスに従って接合されたIGBTチップ、108はそのカソード側が第1の部分104aの上辺部上に、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金接合層109を介して、前記実施例4又は6に示す接合プロセスに従って接合されたダイオードチップ、110はIGBTチップ106のエミッタ層上に形成したAlを主成分とする金属層111と第2の部分104b上のAl層105とを超音波ボンディングによって接続した直径500μmAl−0.1〜1質量%X(Cu、Fe、Mn、Mg、Co、Li、Pd、Ag、Hfから選ばれた少なくとも一種類の金属)ボンディングワイヤ、112はIGBTチップ105のゲート層上に形成したAlを主成分とする金属層113と第3の部分104c上のAl層105とを超音波ボンディングによって接続した直径500μmAl−0.1〜1質量%X(同上)ボンディングワイヤ、114はダイオードチップ108のアノード層上に形成したAlを主成分とする金属層115と第2の部分104b上のAl層105とを超音波ボンディングによって接続したAl−0.1〜1質量%X(同上)ボンディングワイヤである。これによって、1枚のセラミックス基板102上に3個の並列接続されたIGBTチップ106と1個のダイオードチップ108とが逆並列接続された回路要素が形成され、1枚の金属基板101上に2個の回路要素が形成される。インバータを構成する場合には、1枚の金属基板101上の2個の回路要素を直列接続し、これを3個並列接続して、各回路要素の接続点を交流出力端子に、並列接続点を直流入力端子にすればよい。電流容量を増やすときはIGBTチップ106及びダイオードチップ108の並列接続数を増やし、高電圧化するときはIGBTチップ106及びダイオードチップ108の直列接続数を増やせばよい。
【0079】
<実施例9>
図15は本発明のZn−Al共析系合金接合材から形成される接合層構造を有する電力用MOSトランジスタを示す概略断面図である。図において、21は放熱板及び支持板として機能する金属基板、22は金属基板21上に、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金接合層23により、前記実施例4に示す接合プロセスに従って接合固着された例えばAlNからなるセラミックス基板、24はセラミックス基板22上に、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金接合層25により、前記実施例4又は6に示す接合プロセスに従って接合固着された電力用MOSトランジスタ基体、26、27及び28は電力用MOSトランジスタ基体のアノード領域、カソード領域及びゲート領域に設けられたアルミニウムからなるアノード電極、カソード電極及びゲート電極である。ゲート電極28は当然のことながら絶縁層29を介してゲート領域上に設けられている。30及び31はカソード電極27及びゲート電極28に、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金接合層32及び33により、前記実施例4又は6に示す接合プロセスに従って接合固着されたカソード外部電極及びゲート外部電極である。これらカソード外部電極30及びゲート外部電極31は間に、例えば樹脂を充填して一体構造にしてもよい。この実施例の特徴は、カソード電極27及びゲート電極28とカソード外部電極30及びゲート外部電極31をボンディングワイヤを使用せずに直接接合している点にある。この実施例におけるMOSトランジスタ基体24はシリコン及び炭化珪素を使用することが出来る。炭化珪素基体を使用する場合には炭化珪素が500℃でも安定した特性を保持できることから、接合材が固液共有状態に相変態する温度近くまで使用可能な高温MOSトランジスタを実現できる。
【0080】
本発明のZn−Al共析系合金接合材から形成される接合層構造はIGBTモジュールに限らず一般のパワーモジュール、ダイオードモジュールなどにも適用することができる。
【0081】
本発明の接合層構造は応力緩衝機能を有するAlの存在量が増えるため、接合層において応力緩和の効果が高くなり、接合信頼性の向上を図ることができ、熱伝導性も向上できる。本発明で使用するZn−Al共析系合金が有する超塑性現象を利用することによって、接合界面の濡れ性が確保されるとともに応力緩和効果が得られるため、高温の接合強度及び接合信頼性が大幅に向上し、長寿命の接合部形成を実現できる。 したがって、本発明の接合層構造によってSiC又はGaN、C(ダイヤモンド)及びGa
2O
3等のワイドギャップ半導体素子を実装した半導体装置は、パワーデバイス又はパワーエレクトロニクス製品等で求められる耐熱性の要求に答えることができ、200℃以上、特に250℃以上の高温使用環境において長期間の使用に耐えることが可能になる。