【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「安全・低コスト大規模蓄電システム技術開発/共通基盤研究/過渡現象を利用する大規模蓄電システムの非破壊劣化診断技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記記憶部には、前記二次電池の周囲温度の上昇に伴い指数関数的に大きくなる補正関数と、前記補正関数により補正された前記積分値の電池劣化特性に関する第2データとが格納されており、
前記演算部は、前記補正関数により前記積分値の補正を行い、
前記診断部は、補正後の前記積分値と前記第2データとに基づいて前記二次電池の電池劣化を診断する
ことを特徴とする請求項3に記載の電池劣化診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る電池劣化診断方法および電池劣化診断装置の実施形態について説明する。なお、以下では、二次電池としてリチウムイオン二次電池を例に挙げて説明する。
【0015】
[概要]
本発明の一実施形態に係る電池劣化診断方法は、(1)リチウムイオン二次電池に対して充電を行う「充電ステップ」と、(2)充電の終了後、リチウムイオン二次電池の電池端子間電圧が電池内部電圧に収束する過程において、電池端子間電圧から電池内部電圧を差し引いた電位差を積分し、電位差の積分値を算出する「演算ステップ」と、(3)算出した積分値に基づいてリチウムイオン二次電池の電池劣化を診断する「診断ステップ」とを含む。
【0016】
詳細は後述するが、本願発明者は、リチウムイオン二次電池の特性として、電池劣化が進むにつれて上記積分値が大となることを見出した。本実施形態に係る電池劣化診断方法は、この特性に着目し、上記積分値に基づいてリチウムイオン二次電池の電池劣化を診断するものである。
【0017】
本発明の一実施形態に係る電池劣化診断装置は、本実施形態に係る電池劣化診断方法を行うための装置であり、例えばマイコンにより構成することができる。
図1に示すように、本実施形態に係る電池劣化診断装置1は、電圧検出手段3から取得したリチウムイオン二次電池の電池端子間電圧に関する信号に基づいて上記積分値を算出する演算部11と、上記積分値の電池劣化特性に関するデータが格納された記憶部12と、演算部11で算出された上記積分値および記憶部12に格納されたデータに基づいて電池劣化を診断する診断部13とを含む。なお、電池劣化診断方法の「充電ステップ」は電池劣化診断装置1とは別に設けられた充電回路2により行われるが、「演算ステップ」は電池劣化診断装置1の演算部11で行われ、「診断ステップ」は診断部13で行われる。
【0018】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態では、リチウムイオン二次電池として、Panasonic社製円筒型リチウムイオン二次電池CGR18650CHを使用した。この電池の仕様を表1に示す。
【表1】
【0019】
リチウムイオン二次電池の充電状態を表現する指標として、SOCが一般的に用いられている。SOCは、電池公称容量(充電容量)Q
Brに対して、蓄えられている電荷量q(t)を百分率で表したものである。q(t)の定義式を(1)式に示し、SOCの定義式を(2)式に示す。ここで、I
Bは電池充電電流、q(t)は充放電開始t秒後の電荷量、q(0)は充放電開始時の初期充電電荷量である。
【数1】
【数2】
【0020】
本実施形態では、1[C](2.25[A])で定電流充電を行い、リチウムイオン二次電池の電池端子間電圧が上限電圧4.2[V]に達した後、4.2[V]で定電圧充電を行い、定電圧充電時に充電電流I
Bが0.05[C]まで絞り込まれた状態をSOC100%とする。また、1[C](2.25[A])で定電流放電を行い、リチウムイオン二次電池の電池端子間電圧が下限電圧2.75[V]に達した状態をSOC0%とする。なお、後述する特性試験では、周囲温度を25[℃]とした状態で、上述の定電流充電および定電圧充電を行いSOC100%とした後、上述の定電流放電を行い、(1)式および(2)式から電池放電容量に基づきSOCを設定する。
【0021】
ここで、新品のリチウムイオン二次電池(以下、新品電池)と、新品(0サイクル)から100サイクル充放電毎に500サイクルまでの充放電を行ったリチウムイオン二次電池(以下、劣化電池)とを準備し、電気的特性の検討を行う。新品電池および各劣化電池において、SOC100%の状態からSOC0%まで1[C](2.25[A])で定電流放電を行ったときの電流積分値を電池放電容量とし、電池放電容量と電池劣化の相関性を
図2に示す。
図2から、電池放電容量は電池劣化に伴い一次関数的に減少することが分かる。すなわち、リチウムイオン二次電池の電池公称容量Q
Brは、電池劣化に伴い変化する。このため、電池劣化特性試験時にはSOCの設定に注意を要する。なお、リチウムイオン二次電池の電流・電圧制御には、NF回路設計ブロック製リチウムイオン電池評価システムAs−510−LB4を使用した。また、試験におけるリチウムイオン二次電池の周囲温度の管理には、ETAC製恒温槽HIFLEX KEYLESS TL401を使用した。
【0022】
図3(a)および(b)に、リチウムイオン二次電池の等価回路を示す。
図3(a)に示す等価回路は、内部電圧V
0と内部抵抗R
B0を直列接続した最も簡易な等価回路である。しかしながら、実際のリチウムイオン二次電池(以下、実電池)は、定電流充放電を行った場合においても電池内部インピーダンスによる電位降下V
Zは一定にならない。また、実電池は、電池端子間電圧が充電開始時に急激に立ち上がった後、時間経過に伴い徐々に上昇する一方、放電開始時に急激に立ち下がった後、時間経過に伴い徐々に下降する過渡特性を有する。これらのことから、リチウムイオン二次電池の等価回路として、
図3(b)に示す直列抵抗R
B0と多段接続したCR並列回路からなる等価回路を用いて、内部インピーダンスにより生じる過渡特性、さらには電圧波形の遅れを表現することが好ましい。ここで、充電時の電流を正とすると、電池内部インピーダンスによる電位降下V
Zは、電池端子間電圧V
Bおよび電池内部電圧V
0を用いて(3)式により表現される。
【数3】
【0023】
[電池劣化診断方法]
以下、本実施形態に係る電池劣化診断方法について、詳しく説明する。本実施形態に係る電池劣化診断方法は、充電終了後、電池端子間電圧V
Bが充電率(SOC)で定まる電池内部電圧V
0に収束する過程において、電池端子間電圧V
Bから電池内部電圧V
0を差し引いた電位差を積分した面積(積分値)Sを用いて、リチウムイオン二次電池の電池劣化を診断する。この電池劣化診断方法は、数値積分を主とする簡単な四則演算のみを用いて電池劣化を診断することができるため、比較的安価で実用性が高い。
【0024】
図4に、時間幅100秒、振幅1[C](2.25[A])のパルス電流(矩形波電流)でリチウムイオン二次電池を充電したときの電流・電圧波形を示す。
図4に示す充電終了後の過渡応答電圧波形(電池端子間電圧波形)V
Bは、
図3(b)においてCR並列回路を1段にした等価回路、すなわち直列抵抗R
B0および1つのCR並列回路(抵抗R
B1およびキャパシタC
B1からなるCR並列回路)を直列接続した等価回路を用いると、(4)式で与えられる。
【数4】
【0025】
図4に示すように、電池内部電圧V
0は充電中に上昇し、充電終了後は一定となる。このため、充電率(SOC)が変化せず電池内部電圧V
0の変動分を考慮する必要のない充電終了後の電池端子電圧波形V
Bを電池劣化診断に用いる。なお、電池内部電圧V
0は、本来SOCの関数であるが、SOCが変化しない充電終了後の過渡応答電圧波形においては、充電終了後のSOCが定める定数とみなすことができる。すなわち、充電終了後のSOCが大であれば電池内部電圧V
0は大となり、充電終了後のSOCが小であれば電池内部電圧V
0は小となる。
図4に示した電圧波形V
Bの充電終了後の拡大波形を、
図5に示す。電池端子間電圧V
Bから電池内部電圧V
0を差し引いて積分した面積Sは、
図5に示す斜線部に相当する。
【0026】
等価回路における直列抵抗R
B0およびCR並列回路の抵抗R
B1、CR並列回路の抵抗R
B1とキャパシタC
B1の積である時定数τ
1は、電池劣化に伴い大となる。しかしながら、直列抵抗R
B0は接触抵抗による影響が大であり、電池劣化診断に用いるパラメータとして有用でない。本実施形態に係る電池劣化診断方法では、充電終了直後における直列抵抗R
B0による急峻な電位降下を用いないため、等価回路から直列抵抗R
B0を分離することが可能となる。
【0027】
電池劣化に伴い抵抗R
B1が大となると、充電終了後の電池端子間電圧V
Bから電池内部電圧V
0を差し引いた電位差が大となる。また、電池劣化に伴い抵抗R
B1とキャパシタC
B1の積である時定数τ
1が大となると、充電終了後における電池端子間電圧V
Bが電池内部電圧V
0に収束していく傾きが小となる。したがって、電池劣化に伴い、電池端子間電圧V
Bから電池内部電圧V
0を差し引いて積分した斜線部の面積Sが大となるため、面積Sの比較により電池劣化診断が可能となる。
【0028】
電池端子間電圧V
Bが電池内部電圧V
0に収束したときの時間をTmaxとした場合、電池端子間電圧V
Bから電池内部電圧V
0を差し引いて積分した面積Sは、(5)式により与えられる。
【数5】
(5)式において時間Tmaxを無限大とすると、面積Sは(6)式により与えられる。
【数6】
(6)式より、面積Sは、充電中に蓄えられた電荷を充電終了後に放出する電荷量qと、抵抗R
B1との積で表される。電荷量qは、抵抗R
B1、キャパシタC
B1および充電電流Iの積で表される。したがって、電池劣化に伴う面積Sの比較は、電池劣化に伴う電荷量qと抵抗R
B1の変化を比較することと同義である。
【0029】
[電池劣化診断方法の精度検証]
まず、理論波形による検証について説明する。電池端子間電圧V
Bの理論波形を計算するにあたり、直列抵抗R
B0とCR並列回路を直列に接続したCR並列1段の等価回路を用いる。充電終了後の電池端子間電圧V
Bが電池内部電圧V
0に収束する過程において、電池内部電圧V
0は、一定であるため考慮しない。このため、電池端子間電圧V
Bの理論波形は、電池端子間電圧V
Bから電池内部電圧V
0を除いた波形により表現できる。等価回路における各回路定数は、直列抵抗R
B0を30[mΩ]とし、CR並列回路のキャパシタC
B1を1[F]とし、CR並列回路の抵抗R
B1を8[mΩ]から16[mΩ]まで2[mΩ]毎に変化させることとした。また、充電電流を1[C](2.25[A])のパルス電流とし、充電中における電池端子間電圧V
Bが定常状態となるよう、充電時間を10秒間とした。このような条件の下、充電終了後の過渡応答電圧波形(電池端子間電圧波形)V
Bの観測を行い、充電終了後に電池端子間電圧V
Bが電池内部電圧V
0に収束する過程において、電池端子間電圧V
Bから電池内部電圧V
0を差し引いて積分した面積Sの比較を行う。サンプリング周波数を2[kHz]とし、面積Sを(7)式により求める。ここで、△tを時間刻みとする。
【数7】
【0030】
図6に、抵抗R
B1を8[mΩ]とした場合における充電終了後の電池端子間電圧V
Bの理論波形を示す。また、
図7に、(5)式により計算した面積Sの理論値(Theoretical value)の抵抗R
B1特性、および理論波形から(7)式により計算した面積S(Without noise)の抵抗R
B1特性を示す。
図7から、抵抗R
B1が大となるに伴い、抵抗R
B1に比例して面積Sが大となることが分かる。また、(5)式により算出した面積Sの理論値と、理論波形から(7)式により算出した面積Sとが良好に一致していることも分かる。
【0031】
次に、ノイズによる検証について説明する。ノイズによる検証時の条件は、上述した理論波形による検証時の条件と同じものとする。重畳するノイズは、1[C](2.25[A])のパルス電流により充電を行った実測波形結果から、±1[mV]の乱数により表現する。ノイズの振幅は、充電終了後の電圧(R
B1I)の13.2%にあたる。
【0032】
図8に、抵抗R
B1を8[mΩ]とした場合における充電終了後のノイズによる影響を考慮した電池端子間電圧V
Bの理論波形を示す。また、
図9に、ノイズによる影響を考慮した場合と考慮しない場合における面積Sの抵抗R
B1特性を示す。
図9から、ノイズによる影響を考慮した場合においても、抵抗R
B1が大となるに伴い、面積Sがほぼ直線的に増加することが分かる。したがって、本実施形態に係る電池劣化診断方法は、ノイズに強く、安定性が高いため、電池劣化を診断する手法として有用であるといえる。
【0033】
[電池劣化診断方法を用いた特性試験]
実電池はSOCや温度等の運用状況により特性が変化することから、各特性試験を行うことにより、本実施形態に係る電池劣化診断方法の有用性を検討する。併せて、本実施形態に係る電池劣化診断方法に必要な電流パルス幅、サンプリング周波数、最大観測時間等を検討する。各特性試験において数値積分は、充電終了後T
max秒間(例えば、30秒間)実施するものとし、充電終了後T
max秒経過時の電池端子間電圧V
Bを電池内部電圧V
Tmaxと定義し、(7)式を用いて計算する。すなわち、T
maxは、必ずしも電池端子間電圧V
Bが電池内部電圧V
0に収束したときの時間である必要はなく、電池端子間電圧V
Bが電池内部電圧V
0に収束する途中の時間であってもよい。したがって、本実施形態に係る電池劣化診断方法は、電池端子間電圧V
Bが電池内部電圧V
Tmaxに収束する過程において、電池端子間電圧V
Bから電池内部電圧V
Tmaxを差し引いた電位差を積分した積分値(面積S)により、電池劣化を診断することができる。
【0034】
(電池劣化依存性)
電池劣化依存性に関する試験条件は、周囲温度を25[℃]、新品電池および各劣化電池における充電終了時のSOCを50%、充電電流を振幅1[C](2.25[A])のパルス電流とする。まず、電池劣化診断が可能な時間刻みを検討するため、サンプリング周波数を1[Hz]および2[kHz]とし、特性試験を行う。このときの充電時間は100秒間とする。
【0035】
図10(a)に、サンプリング周波数を1[Hz]とした場合、
図10(b)に、サンプリング周波数を2[kHz]とした場合の新品電池および各劣化電池における充電終了前後の電池端子間電圧V
Bを示す。また、
図11に、サンプリング周波数を1[Hz]および2[kHz]とした場合の面積Sの電池劣化特性を示す。
図11から、サンプリング周波数を2[kHz]から1[Hz]と低下させても、面積Sは500サイクル劣化電池において最大で9.15%の差異であるため、サンプリング周波数を1[Hz]にしても電池劣化診断が可能であることが分かる。
【0036】
次に、充電時間を15秒間および100秒間として、面積Sの充電時間依存性および電池劣化依存性を検討する。
図12に、充電時間を15秒間とし、サンプリング周波数を1[Hz]とした場合の充電終了前後における新品電池および各劣化電池の電池端子間電圧V
Bを示す。また、
図13に、充電時間を15秒間および100秒間とし、サンプリング周波数を1[Hz]とした場合における新品電池および各劣化電池の面積Sの電池劣化依存性を示す。
図13から、電池劣化に比例して面積Sが大となることが分かる。また、新品電池と500サイクル電池における面積Sを比較すると、15秒間の充電を行った場合では面積が37.1%大となり、100秒間の充電を行った場合では面積が77.4%大となることが分かる。したがって、
図13から、充電時間を15秒間とした場合においても電池劣化診断が可能であるが、充電時間を大とすることにより電池劣化による面積Sの変化が顕著となることから、充電時間を100秒間とした場合の方が電池劣化診断の精度が高まることが分かる。
【0037】
(SOC依存性)
SOC依存性に関する特性試験条件は、周囲温度を25[℃]、新品電池および各劣化電池における充電終了時のSOCを20%〜80%、充電電流を振幅1[C](2.25[A])のパルス電流、サンプリング周波数を1[Hz]とする。
【0038】
図14に、充電時間を15秒間および100秒間とし、充電終了時のSOCを20%〜80%まで10%刻みに変化させた充電終了前後における新品電池の電池端子間電圧V
Bを示す。
図15に、新品電池および各劣化電池に対して15秒間および100秒間の充電を行った場合における、面積SのSOC特性を示す。
図15(a)に示すように、充電時間を15秒間とした新品電池の場合、面積SのSOCによる最大の差異は、SOC20%における面積Sに対してSOC60%における面積Sが23.0%大となる点で観測される。また、新品電池と500サイクル劣化電池において計算した面積Sの差が最小となるのは、SOC60%において500サイクル劣化電池の面積Sが18.7%大となる点である。
【0039】
また、
図15(b)に示すように、充電時間を100秒間とした新品電池の場合、面積SのSOCによる最大の差異は、SOC40%における面積に対してSOC80%における面積Sが14.7%大となる点で観測される。また、新品電池と500サイクル劣化電池において計算した面積Sの差が最小となるのは、SOC50%において500サイクル劣化電池の面積が65.4%大となる点である。
【0040】
図15(a)および
図15(b)から、充電時間を長くすると、面積SはSOCによる影響が相対的に小となることが分かり、また、充電時間を大とする方が電池劣化に伴う面積Sの変化が相対的に大となることが分かる。しかしながら、充電時間を大とした場合であっても、面積SのSOC依存性は小であるといえる。したがって、本実施形態に係る電池劣化診断方法によれば、SOCにかかわらず(SOCを推定することなく)電池劣化を診断することができる。これに対して、充電終了後の電池端子間電圧V
Bが電池内部電圧V
0に収束する過程において、電池端子間電圧V
Bを積分した面積(積分値)S’を用いて電池劣化診断を行う場合、電池内部電圧V
0が充電終了後のSOCに概ね比例することから、面積S’のSOC依存性は極めて大となる。したがって、面積S’を用いて電池劣化診断を行う場合、リチウムイオン二次電池のSOCを推定しなければ電池劣化を診断することができない。
【0041】
(温度依存性)
温度依存性に関する試験条件は、周囲温度を−10[℃]〜+40[℃]まで10[℃]毎に変化させ、新品電池および各劣化電池における充電終了時のSOCを50%とし、充電電流を振幅1[C](2.25[A])のパルス電流とする。また、サンプリング周波数を1[Hz]とし、充電時間を15秒間および100秒間とする。
【0042】
図16に、周囲温度が異なる新品電池に対して、15秒間および100秒間の充電を行った場合における充電終了前後の電池端子間電圧V
Bを示す。
図17に、新品電池および各劣化電池に対して15秒間および100秒間の充電を行った場合における、面積Sの温度特性を示す。
図17から、充電時間を15秒間および100秒間とした場合の双方において、温度の上昇に伴い面積Sが指数関数的に小となることが分かる。したがって、充電時の温度が一定でない場合、本実施形態に係る電池劣化診断方法による電池劣化判定は困難になるため、温度補正を行うことが好ましい。また、
図17から、充電時間を大とする方が電池劣化に伴う面積Sの変化が大となることが分かる。このため、充電時間を、電池劣化特性が十分に観測される100秒間以上設けることが好ましい。
【0043】
(温度補正)
次に、充電時間を100秒間として温度補正の検討を行う。
図17に示すように、温度の上昇に伴い面積Sが指数関数的に小となるため、
図17(b)に示す実測データから、最小二乗法により近似曲線を求める。面積Sは、周囲温度Tを用いて(8)式に示す指数関数で表現することができる。
【数8】
【0044】
図17(b)に示す面積Sの温度特性データに、最小二乗法による近似曲線を追加したものを
図18に示す。また、(8)式に示す近似曲線の各係数Aおよび1/T
tの電池劣化特性を表2に示す。
【表2】
【0045】
表2に示すように、係数Aは電池劣化に伴い大となる。係数1/T
tは、電池劣化に依存せず、差が最大となる100サイクルと500サイクルにおいて0.0041[1/℃]の差をもつ。(8)式におけるexp(−T/T
t)は、電池劣化に依存せず一定であるとみなす。係数1/T
tを、表2に示す新品電池および各劣化電池の平均値である0.0198とし、(8)式に代入して得られた(9)式を、温度を考慮した面積Sの補正式とする。すなわち、Aは、温度補正後の面積となる。
【数9】
図17(b)に示した面積Sを(9)式に代入して得られた係数Aの電池劣化特性を、
図19に示す。
図19から、電池劣化に伴い係数Aが大となることが分かる。このため、(9)式の係数Aを求めることにより、リチウムイオン二次電池の電池劣化診断が可能となる。
【0046】
面積Sは、SOCにより若干変化する。高精度の温度補正式の導出を行うためには、周囲温度を変化させた場合の各SOCにおける面積Sの平均値を用いて、温度補正式の導出を行うことが好ましい。
【0047】
高精度の温度補正式導出に関する試験条件は、周囲温度を−10[℃]〜+40[℃]まで10[℃]毎に変化させ、新品電池および各劣化電池における充電終了時のSOCを20%〜80%まで10%刻みに変化させ、充電電流を振幅1[C](2.25[A])、充電時間100秒のパルス電流とし、サンプリング周波数を1[Hz]とする。
図20に、各SOCにおいて計算した面積Sの平均値を示す。
【0048】
図20から、充電終了時のSOCを50%とした場合における温度補正式の導出と同様に(
図18参照)、最小二乗法を用いて近似曲線を求める。
図20に示す面積Sの温度特性データに、最小二乗法による近似曲線を追加したものを
図21に示す。また、(8)式に示す近似曲線の各係数Aおよび1/T
tの電池劣化特性を表3に示す。
【表3】
【0049】
表3に示すように、係数(温度補正後の面積)Aは電池劣化に伴い大となる。係数1/T
tは、電池劣化に伴う依存性は観測されず、差が最大となる新品電池と400サイクル劣化電池において0.0045[1/℃]の差をもつ。係数1/T
tを表3に示す各劣化電池の平均値である0.0176とし、(8)式に代入して得られた(10)式を、高精度の温度補正式とする。
【数10】
【0050】
(10)式に示す温度補正式により計算した係数Aの電池劣化特性を、
図22に示す。ここで、プロットの色の濃淡はSOCの変化を表現している。
図22から、電池劣化に伴い係数Aが大となることが分かる。したがって、(10)式の係数Aを求めることにより、リチウムイオン二次電池の電池劣化診断が可能となる。
【0051】
[電池劣化診断装置]
図1に示す電池劣化診断装置1は、本実施形態に係る電池劣化診断方法を行うための装置であり、演算部11と、記憶部12と、診断部13とを含む。なお、
図1では、リチウムイオン二次電池の充電を行う充電回路2と電池劣化診断装置1とを別々に設けているが、電池劣化診断装置1を充電回路2もしくは充電回路2の保護装置(図示略)に内蔵してもよい。電池劣化診断装置1には、電圧測定手段3により測定されたリチウムイオン二次電池の電池端子間電圧V
Bに関する信号と、周囲温度測定手段4により測定されたリチウムイオン二次電池の周囲温度(外気温度)に関する信号が入力される。なお、
図1では、電圧測定手段3および周囲温度測定手段4を電池劣化診断装置1に含めていないが、これらの測定手段3、4を電池劣化診断装置1に含めてもよい。
【0052】
演算部11は、リチウムイオン二次電池の充電の終了後(充電ステップ終了後)、リチウムイオン二次電池の電池端子間電圧V
Bが電池内部電圧V
0(電池内部電圧V
Tmax)に収束する過程において、電池端子間電圧V
Bから電池内部電圧V
0(電池内部電圧V
Tmax)を差し引いた電位差を積分し、当該電位差の積分値(面積S)を算出する。例えば、演算部11は、(7)式に従って積分値(面積S)を算出することができる。この場合、△tは電圧測定手段3のサンプリング間隔であり、nは電圧測定手段3のサンプリング数であり、mは電池端子間電圧V
Bが電池内部電圧V
0(電池内部電圧V
Tmax)に収束するまでの総サンプリング数である。n=0のときの電池端子間電圧V
Bは、上記の等価回路を用いて算出するとV
B=R
B1I+V
0となるが(
図5参照)、充電の終了直後(直列抵抗R
B0による急峻な電位降下の直後)に電圧測定手段3で測定してもよい。また、演算部11は、周囲温度測定手段4による周囲温度の測定結果から、温度補正後の積分値(温度補正後の面積A)を算出する。
【0053】
記憶部12には、積分値(面積S)とリチウムイオン二次電池の充放電サイクル数との関係を示す第1データ(例えば、
図11に示すプロファイル)と、リチウムイオン二次電池の周囲温度の上昇に伴い指数関数的に大きくなる補正関数、例えば(9)式や(10)式におけるexp(T/T
t)と、補正関数により補正された積分値(温度補正後の面積A)とリチウムイオン二次電池の充放電サイクル数との関係を示す第2データ(例えば、
図22に示すプロファイル)とが格納されている。
【0054】
記憶部12に補正関数および第2データが格納されている場合、演算部11は、周囲温度測定手段4による周囲温度の測定結果および補正関数により積分値(面積S)の補正を行い、診断部13は、補正後の積分値(温度補正後の面積A)および第2データに基づいてリチウムイオン二次電池の電池劣化を診断する。一方、記憶部12に補正関数および第2データが格納されていない場合、診断部13は、演算部11で算出された積分値(面積S)および第1データに基づいてリチウムイオン二次電池の電池劣化を診断する。
【0055】
結局、本実施形態に係る電池劣化診断方法および電池劣化診断装置1によれば、リチウムイオン二次電池を使用機器から取り外す必要がなく、計算負荷が小であり、電池稼働中に電池劣化診断が可能であるため、実用性が高く有用である。したがって、本実施形態に係る電池劣化診断装置1は、民生品として実用性が高く、バッテリーマネージメントシステム(BMS)等の保護装置への搭載による安全運用への貢献が期待される。ところで、充電終了後の電池端子間電圧V
Bが電池内部電圧V
0(電池内部電圧V
Tmax)に収束する過程において、電池端子間電圧V
Bを積分した面積(積分値)S’を用いて電池劣化診断を行う場合、電池内部電圧V
0が充電終了後のSOCに概ね比例することから、面積S’はSOCによる影響が極めて大きくなる。このため、面積S’を用いて電池劣化診断を行う場合、リチウムイオン二次電池のSOCを推定しなければ電池劣化を診断することができない。これに対して、電池端子間電圧V
Bから電池内部電圧V
0(電池内部電圧V
Tmax)を差し引いた電位差を積分した面積(積分値)Sを用いて電池劣化診断を行う本実施形態では、面積SのSOC依存性が小であることから、リチウムイオン二次電池のSOCにかかわらず(SOCを推定することなく)電池劣化を診断することができる。
【0056】
以上、本発明に係る電池劣化診断方法および電池劣化診断装置の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0057】
例えば、上記実施形態では、二次電池としてリチウムイオン二次電池を例に挙げて説明したが、本発明に係る電池劣化診断方法および電池劣化診断装置は、リチウムイオン二次電池以外の二次電池にも適用することができる。
【0058】
また、上記実施形態では、充電ステップにおいてパルス電流を用いたが、充電終了時に電流値が瞬時にゼロになるのであれば、任意の電流を用いることができる。