(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
渓床に間隔を隔てて立設した複数の剛構造体の間に横架された水通し部ネットと、端部の剛構造体と渓岸との間に横架された袖部ネットとを具備する透過型捕捉構造物であって、
前記袖部ネットの上流面に、該袖部ネットの上流側の渓岸と袖部ネットとの間に堆積した流下物で構成される防護緩衝層が州状に形成されるように、前記袖部ネットの網目が水通し部ネットの網目より小さい寸法関係にあることを特徴とする、
透過型捕捉構造物。
前記ネット本体が前記ネット本体は両端部に端輪を有する複数の単索と、前記単索の交点に配置し、該単索の端輪とピン式連結が可能な複数の中継連結具とを組み合せてネット状に構成されていることを特徴とする、請求項3に記載の透過型捕捉構造物。
前記剛構造体の周面に、該剛構造体の長手方向に沿って複数のストッパが突設されていて、該ストッパに外装された前記端末取付ロープの端輪の可動域がストッパにより一定範囲に規制されていることを特徴とする、請求項3又は6に記載の透過型捕捉構造物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の透過型捕捉構造物にはつぎのような問題点がある。
<1>
図14に示した透過型捕捉構造物は渓岸92が裸地のままであると、大規模洪水時に二点鎖線に示すように渓岸92の浸食が進行して透過型捕捉構造物としての砂防機能を喪失してしまう。
<2>渓岸92をコンクリート構造物等の人工護岸構造物で被覆して浸食防止を図ることも可能であるが、山間部の現場への護岸資材及び施工機材の搬入が困難となって、護岸コストが極めて高くつく。
<3>水通し部ネット91を構成する各横ロープの両端部を支柱90,90間に取り付けて横架する場合、各横ロープの緊張作業に多大の労力と時間を要して捕捉ネットの取付け作業の作業効率が低い。
<4>透過型捕捉構造物に用いられていた従来の捕捉ネットは、受撃時に捕捉ネットの交点がずれ動いて網目が拡縮変形し易いこと、捕捉ネットの交点のずれに伴う衝撃荷重の伝達ロスが大きいこと、衝撃力の拡散範囲が狭く受撃範囲に位置する横ロープに応力が集中して破断し易いこと等の問題点を有する。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところはつぎの透過型捕捉構造物を提供することにある。
<1>洪水時における、袖部ネットの破壊を防止しつつ、渓床の洗掘と渓岸の浸食を確実に防止すること。
<2>渓岸の表面を人工的な護岸構造物で保護する必要がなく、経済的に渓岸を保護すること。
<3>水通し部ネットによる衝撃力の分散性能を高め、捕捉ネットの強度を最大限に発揮できて緩衝性能が向上すること。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、渓床に間隔を隔てて立設した複数の剛構造体の間に横架された水通し部ネットと、端部の剛構造体と渓岸との間に横架された袖部ネットとを具備する透過型捕捉構造物であって、前記袖部ネットの上流面に、該袖部ネットの上流側の渓岸と袖部ネットとの間に堆積した流下物で構成される防護緩衝層が州状に形成されるように、前記袖部ネットの網目が水通し部ネットの網目より小さい寸法関係にある。
本発明の他の形態において、前記袖部ネットの網目が水通し部ネットの網目の10〜95%の範囲で形成されている。
本発明の他の形態において、前記水通しネットは複数の端末取付ロープを具備したネット本体と、
ロープ材の両端部を摺動不能に固定してループ状に形成した二重ロープ構造の背面ループ材とを具備し、前記端末取付ロープは端部に端輪を有し、前記剛構造体の渓谷谷側に横架した背面ループ材を前記端末取付ロープの端輪に係留させて前記
ネット本体と背面ループ材との間が連結され、前記ネット本体へ作用した衝撃力を、端末取付ロープを経由して背面ループ材へ分散して伝達可能なように、端末取付ロープと背面ループ材との連続体が前記複数の剛構造体の周面間に掛け渡されている。
本発明の他の形態において、前記ネット本体が前記ネット本体は両端部に端輪を有する複数の単索と、前記単索の交点に配置し、該単索の端輪とピン式連結が可能な複数の中継連結具とを組み合せてネット状に構成されている。
本発明の他の形態において、横方向に配列した複数の単索が中継連結具を介して連続した横索を構成し、前記横索、端末取付ロープ、及び
ネット本体によりループ構造を呈している。
本発明の他の形態において、前記端末取付ロープが中継連結具を介してネット本体の左右両側辺に接続し
た単索で構成されている。
本発明の他の形態において、前記剛構造体の周面に、該剛構造体の長手方向に沿って複数のストッパが突設されていて、該ストッパに外装された前記端末取付ロープの端輪の可動域がストッパにより一定範囲に規制されている。
本発明の他の形態において、前記中継連結具が着脱可能な複数の係留ピンを具備し、該係留ピンを介して単索の端輪と回動自在に連結してある。
本発明の他の形態において、前記中継連結具が相対向して配置した一対の単板と、該単板間に貫挿させて着脱可能な複数の係留ピンとを具備する。
本発明の他の形態において、前記袖部ネットが枠ロープと、該枠ロープに固定して設けられた内接ネットとにより構成されている。
本発明の他の形態において、袖部ネットの天端高さが水通し部ネットの天端より高く形成してある。
【発明の効果】
【0007】
本発明はつぎの何れかひとつの効果が得られる。
<1>袖部ネットの網目を水通し部ネットの網目より小さい寸法関係にすることで、通常時は完全透過型構造物として機能させると共に、洪水時は、袖部ネットを不透過型構造物として機能させる一方で、水通し部ネットのみを透過型構造物として機能させることができる。
<2>袖部ネットと水通し部ネットの網目の寸法差を利用して袖部ネットの上流側に防護緩衝層を形成することが可能となる。
防護緩衝層は流下物の堆積物で自然に形成されるものであるから、渓岸の表面を人工的な護岸構造物で保護する必要がなく、経済的に渓岸を保護できる。
<3>防護緩衝層が袖部ネットと渓岸の防護壁として機能するため、袖部ネットの破壊を防止しつつ、渓床の洗掘と渓岸の浸食を確実に防止できる。
<4>ネット本体と、背面ループ材とにより水通しネットを構成する場合には、ネット本体の両側に延設した端末取付ロープの端輪が動滑車として機能するため、背面ループ材用のロープ材を小さな力で引っ張る作業を繰り返する簡単な作業で複数の剛構造体の間に水通しネットを張設することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施例1]
<1>透過型捕捉構造物の概要
図1〜11を参照しながら本実施例に係る透過型捕捉構造物10について説明する。
透過型捕捉構造物10は渓床80に間隔を隔てて立設した複数の剛構造体30,30の間に横架された水通し部ネット20と、各剛構造体30と渓岸81との間に横架された袖部ネット40,40とを具備する。
袖部ネット40の網目寸法は水通し部ネット20の網目寸法より小さく形成してあり、袖部ネット40の天端高さは水通し部ネット20の天端より高く形成してある。
【0010】
<2>水通し部ネット
水通し部ネット20は金属製、繊維製、または樹脂製のシングルロープ、シングルチェーン、帯状鋼板の何れか一種、又はこれら複数種を組み合わせて、方形、円形、又は楕円形の網目に編成した公知のネット状物を含み、ネットのその左右両辺が剛構造体30に固定して支持されている。
【0011】
図2〜5を参照しながら本例の水通し部ネット20について説明する。
本例の水通し部ネット20は、ネットの左右両側部に延出させた複数の端末取付ロープ26を有する帯状のネット本体25と、複数の端末取付ロープ26を介してネット本体25を剛構造体30,30の間に取り付ける背面ループ材60とを具備する。
ネット本体25は剛構造体30,30の渓谷山側に配設され、背面ループ材60は剛構造体30,30の渓谷谷側に配設される。
【0012】
本例ではネット本体25及び端末取付ロープ26が、両端部に無端の端輪21,21を有する複数の単索22と、これら複数の単索22の端部と連結可能な複数の中継連結具50とを組み合せて構成する場合について説明する。
【0013】
<2.1>ネット本体
本例のネット本体25について説明すると、ネット本体25は複数の単索22を縦列方向及び横列方向に配置し、各単索22の交点に中継連結具50を介装して組み立てたネット状物である。
横方向に配列した複数の単索22は中継連結具50を介して同一線上に位置していて、連続した横索23を構成する。
縦方向に配列した複数の単索22は中継連結具50を介して同一線上に位置していて、連続した縦索24を構成する。
これら複数の横索23と複数の縦索24とが交差して格子状に組み立てられている。
ネット本体25には縦横方向に配索した4本の単索22と4つの中継連結具50に囲繞された方形の網目Aが画成されている。
【0014】
<2.1.1>単索
単索22はネット本体25及び端末取付ロープ26を構成する兼用ロープ材である。
図6を参照して説明すると、単索22は1本又は複数本を撚り合せた鋼製又は繊維製のロープからなり、その両端に無端の端輪21を有している。
ネット本体25としては、単索22に高強度の鋼製ロープ材を用い、鋼製ロープ材の両端部を折返してアイスプライス又は圧縮加工を施して端輪21を形成する。
【0015】
<2.1.2>中継連結具
中継連結具50は複数の単索22の間を着脱可能に連結するための連結具である。
図7,8に例示した中継連結具50について説明すると、中継連結具50は相対向して配置した一対の単板51,51と、単板51,51間に貫挿させた複数の係留ピン52とからなる。
各単板31の周縁には係留ピン52を貫挿可能な複数のピン孔53が開設されている。
本例では等間隔に4つのピン孔53を形成した形態を示すが、ピン孔53の形成数は適宜選択可能である。
係留ピン52は図示したボルト及びナットの他に連結ピンを使用することも可能である。
係留ピン52は一対の単板51,51と共に端輪21に貫挿することで単索22と中継連結具50との間をピン構造で連結可能であり、単索22は中継連結具50の係留ピン52を中心に回動可能である。
【0016】
<2.2>
ネット本体の組立例
図4,5に示すように、複数の単索22を縦横方向に配置し、各単索22の交点に中継連結具50を介装して帯状のネット本体25を組み立てる。
単索22の交点に中継連結具50を介装したのは、各単索22の交点のずれ動きをなくすためであり、各単索22の交点のずれをなくすことで、中継連結具50に連結された複数の単索22の相互間における荷重伝達が可能となるうえに、荷重の伝達ロスも少なくなる。
【0017】
中継連結具50を介してネット本体25の左右両側辺に複数の単索22の一端を連結して端末取付ロープ26を多段的に組み付ける。
ネット本体25は工場で全体を組み立てできることの他に、ネット本体25の分割体を現場へ小分けして搬入して現場で組み立てることも可能である。
【0018】
<2.3>端末取付ロープ
端末取付ロープ26はネット本体25の左右側辺に設けた単索22製のロープ材であり、ネット本体25を剛構造体30に取り付けるために機能する。
複数の端末取付ロープ26は中継連結具50を介してネット本体25を構成する横索23の延長線上に位置する。
端末取付ロープ26とネット本体25間の連結構造は
図8に示した中継連結具50を用いた連結構造と同じである。
【0019】
<2.4>背面ループ材
図2,3を参照して説明すると、背面ループ材60は端末取付ロープ26を介してネット本体25を剛構造体30,30の間に横架するためのロープ材であり、剛構造体30,30のスパンの2倍以上の長さを有する。
背面ループ材60は1本のロープ材を左右両側の各端末取付ロープ26の端輪21に跨って挿通して架け渡し、このロープ材の端部近くの重合部を固定具61で摺動不能に固定してループ状に形成したものである。
【0020】
<2.4.1>ネット本体と背面ループ材の関係
ネット本体25を構成する横索23は横方向に配列した複数の単索22と中継連結具50を介して同一線上に位置していて、その両端に端末取付ロープ26が延出している。
背面ループ材60は端末取付ロープ26,26の間に掛け渡されていることから、横索23、端末取付ロープ26、及び水通し部ネット20を通じて全体が連続性を有するループ構造を呈する。
【0021】
<2.4.2>端末取付ロープと背面ループ材を組み合せた理由
背面ループ材60を水通し部ネット20の左右両側から延出した端末取付ロープ26,26の端輪21,21に係留させて架け渡したのは、各端末取付ロープ26の自由端側の端輪21を動滑車として機能させて、背面ループ材60を小さな力で収縮方向に引っ張ることで、隣り合う剛構造体30,30の間に水通し部ネット20を張設するためと、衝撃荷重をネット本体25と背面ループ材60とに分散させるためである。
【0022】
<3>剛構造体
剛構造体30は水通し部ネット20を支持する高剛性の柱状構造物であり、本例では剛構造体30が断面円形を呈する支柱である場合について説明する。
【0023】
<3.1>剛構造体の素材例
剛構造体30は例えば鋼管、コンクリート充填鋼管、コンクリート柱等の高剛性の柱体であり、渓床に所定の間隔を隔てて立設されている。
【0024】
<3.2>ストッパ
図9に拡大して示すように、剛構造体30の外周には端末取付ロープ26の取り付け高さに合せて複数のストッパ31が突設されている。ストッパ31は各端末取付ロープ26の自由端側の端輪21を外装し、端輪21の可動域(端末取付ロープ26の移動量)を一定範囲に規制するために機能する。
【0025】
ストッパ31の形成位置について、本例ではストッパ31を剛構造体30の最外側面に突設した形態を示すが、ストッパ31の突設位置は剛構造体30の前面側(ネット本体25の設置側)から剛構造体30の背面側(背面ループ材60の設置側)に至るまでの区間内であればよい。
【0026】
<4>袖部ネット
袖部ネット40は水通し部ネット20より小さな網目を有するネット状物である。
本例では袖部ネット40が略三角形、又は略台形に囲繞した枠ロープ41と、枠ロープ41内で複数のロープ材を縦横方向に交差させ、その交差部を固定して格子状に形成した内接ネット42とにより構成する場合について説明する。
内接ネット42は枠ロープ41に一体に固定されている。
【0027】
図10を参照して袖部ネット40と剛性構造体30の取り付け例について説明すると、剛性構造体30の側面の上下部には夫々ブラケット32が突設してあって、袖部ネット40の内方辺の枠ロープ41が、止めピン33を介して剛性構造体30の上下部に取り付けられている。
袖部ネット40の斜辺は、
図1に示す単数又は複数のアンカー82を介して渓岸81に固定されている。
【0028】
<5>水通し部ネットと袖部ネットの網目寸法の関係
本発明では袖部ネット40の網目は水通し部ネット20の網目より小さい寸法関係に設定されている。
袖部ネット40の網目を小さい寸法にしたのは、大規模な洪水発生時に水通し部ネット20の透水を許容した状態のまま、袖部ネット40で土石流等の流下物を積極的に捕捉して、袖部ネット40の上流側に流下物の堆積物である防護緩衝層70を形成するためである。
換言すれば、水通し部ネット20と比べて袖部ネット40の捕捉性能を高めて、袖部ネット40側を先行して目詰まりさせるためである。
【0029】
<6>水通し部ネットと袖部ネットの網目
水通し部ネット20の網目寸法は、巨礫の最大径の1.5〜2.0に設定されている。
袖部ネット40の網目寸法は、水通し部ネット20の網目寸法に対して10〜95%の範囲に形成してあり、望ましくは50cm以下である。
水通し部ネット20に対する袖部ネット40の網目寸法が10%より小さいと、大規模洪水の発生時に衝撃荷重が巨大化して袖部ネット40が破損し易くなり、95%を超えると袖部ネット40の上流側に防護緩衝層70が形成され難くなる。
【0030】
[透過型捕捉構造物の施工方法]
つぎに透過型捕捉構造物10の施工方法について説明する。
【0031】
<1>剛構造体の立設
図1,2に示すように、所定の間隔を隔てて渓床等に剛構造体30,30を立設する。
剛構造体30,30の渓谷山側にネット本体25を搬入し、剛構造体30,30の渓谷谷側に背面ループ材60用のロープ材を搬入する。
【0032】
<2>水通し部ネットの取付け
図2に示すように、背面ループ材60用のロープ材の一部を剛構造体30の周面に巻き掛けながら、ネット本体25の両側から延出した各端末取付ロープ26の自由端の端輪21に挿通して折り返す。
この際、各端末取付ロープ26の端輪21を対応する各ストッパ31に外装する(
図9)。
この状態で、剛構造体30の背面側に折り返した背面ループ材60用のロープ材の両端部を収縮方向に締め付ける。背面ループ材60を介して剛構造体30の周面に巻き付けた左右一対の端末取付ロープ26が引っ張られることで、剛構造体30,30の前面側にネット本体25が横架される。
背面ループ材60はロープ材の重合部を固定具61で摺動不能に固定する。
【0033】
水通し部ネット20を取付ける際、各端末取付ロープ26の自由端側の端輪21が動滑車として機能するため、背面ループ材60を小さな力で引っ張るだけの簡単な作業で隣り合う剛構造体30,30の間にネット本体25を張設できる。したがって、ネット本体25の取り付けに大型チェーンブロック等の牽引機材が不要となって、水通し部ネット20の組付作業性を改善して工費と工期を大幅に削減できる。
【0034】
<3>袖部ネットの取付け
水通し部ネット20の取付け作業と並行して、又は単独で剛性構造体30と渓岸81との間に袖部ネット40を取り付けることで透過型捕捉構造物10が完成する。
【0035】
[
透過型捕捉構造物の砂防機能]
つぎに透過型捕捉構造物10の砂防機能について説明する。
【0036】
<1>中小規模洪水時
中小規模の洪水の場合は、水通し部ネット20及び袖部ネット40の下段の網目を通じて、災害を及ぼさない程度の大きさの礫や泥水等が流下する。
【0037】
<2>大規模洪水時
図11を参照して大規模な土石流等の発生時における砂防機能について説明する。
土石流や流木等の流下物は図面の下方向から上方へ向けて流下する。
袖部ネット40の網目が水通し部ネット20の網目より小さいことから、袖部ネット40が目詰まりを生じてその透過機能が低下していく。
目合い寸法が大きく目詰まりを生じ難い水通し部ネット20では、良好な透過機能を持続する。
【0038】
<2.1>防護緩衝層の形成
袖部ネット40が目詰まりを生じると、流下物の捕捉量と堆積量が増して袖部ネット40の渓谷山側に堆積した流下物による難透水性の防護緩衝層70が造成される。
防護緩衝層70は袖部ネット40の渓谷山側に位置する両岸の渓岸81,81を保護しながら、袖部ネット40の渓谷山側へ向けて「州」の形態で堆積量を増していく。
防護緩衝層70の高さ及び幅寸法は袖部ネット40に近い側が最も大きく、袖部ネット40から離隔するにつれて徐々に小さくなる。
防護緩衝層70は時間の経過に伴い石礫の隙間に細かい土砂等が詰まり込んで硬質で大重量の土塊構造物に変質していく。
土塊構造物に変質した防護緩衝層70は、重力式コンクリート堰堤と同等の機能を発揮する。
【0039】
<2.2>渓岸の浸食防止
防護緩衝層70,70は防護壁として機能するため、袖部ネット40が破壊されずに済むだけでなく、渓岸81,81の洗掘や浸食を確実に防止できる。
防護緩衝層70,70は流下物の堆積物で自然に造成されるものであるから、渓岸81,81が裸地状態であってもその表面を人工的な護岸構造物で保護する必要がなく、経済的に渓岸81,81を保護できる。
防護緩衝層70,70の裾部は袖部ネット40の上流側の渓床80だけでなく、水通し部ネット20の上流側の渓床80へも拡張する。そのため、透過型捕捉構造物10の上流側の渓床80全体の洗掘も効果的に防止できる。
【0040】
<2.3>衝撃力の吸収
袖部ネット40の上流側に防護緩衝層70が位置していて、袖部ネット40を保護している。
袖部ネット40へ向かう後続の流下物が防護緩衝層70の側面に衝当する際に、防護緩衝層70の緩衝作用により流下エネルギーが減衰される。
【0041】
<2.4>流下物の誘導
防護緩衝層70に衝当した後続の流下物は、防護緩衝層70の傾斜した側面に沿って流下し、水通し部ネット20へ向けて誘導される。
更に、水通し部ネット20の天端が袖部ネット40の天端より低い位置関係にあるため、この高低差により流下物が水通し部ネット20へ向けて誘導される。
【0042】
<2.5>水通し部ネットによる砂防
水通し部ネット20では網目より大きな流木や土石等の流下物を捕捉し、通過させてもよい網目より小さな土石等の流下物を流出させることができる。
【0043】
<3>水通し部ネットの他の作用
本例の水通し部ネット20は上記の他に以下の作用を発揮する。
【0044】
<3.1>網目の拡張変形の抑止
従来の捕捉ネットではロープの交点がずれ動いて網目が拡張変形していたが、ネット本体25では各単索22の交点が滑動不能に固定されているために網目Aが拡張変形することがなく、不用意に過大な流下物を流出させず、流下物の捕捉機能を保証できる。
【0045】
<3.2>衝撃力の拡散
従来の捕捉ネットでは鋼製ロープの交点がずれ動くために、衝撃力の拡散範囲が狭く、受撃範囲に位置する横ロープに応力が集中して破断し易いものであった。
これに対しネット本体25では各単索22の交点がずれ動かないことと、中継連結具50を介して各単索22の交点における単索22の自由回動が可能な構造になっている。
そのために、中継連結具50に連結されたすべての単索22に対して衝撃荷重を分散して伝達できるので伝達ロスを極めて小さくできると共に、水通し部ネット20の一部に作用した衝撃力をネット全体へ伝達できて、水通し部ネット20が本来有する強度を最大限に発揮できる。
例えば
図5に示したネット本体25の中央部に衝撃力が作用した場合、矢印で示すようにネット本体25の中央部の周囲に位置する各単索22へ衝撃力が連鎖的に伝達していく。
【0046】
<3.3>衝撃力の伝達経路
本例では水通し部ネット20に作用する衝撃力は以下に詳述するネット本体25、背面ループ材60、及び剛構造体30により支持される。
【0047】
<3.3.1>ネット本体と背面ループ材による衝撃力の緩衝作用
ネット本体25と背面ループ材60は一対の剛構造体30,30の間に連続性を有した状態で摺動可能に巻き掛けてある。
土石流等の流下物がネット本体25に衝突すると、その衝撃力が端末取付ロープ26,30を介して渓谷谷側の背面ループ材60に伝達する。
ネット本体25が渓谷谷側へ撓み変形することで背面ループ材60の引張力が増していく。
ネット本体25と背面ループ材60は緩衝具を具備していないが、ロープ材の伸びにより衝撃力を緩衝することが可能となる。
【0048】
透過型捕捉構造物の一部に摩擦摺動式の緩衝具を介在させた場合には、土石流等の衝撃力が繰り返し作用するので、緩衝具に継続的な緩衝作用を期待することができない。
これに対して、透過型捕捉構造物10では、ネット本体25による弾性変形、及び背面ループ材60の伸縮により衝撃力を緩衝できる。
【0049】
背面ループ材60が二重ロープ構造になっているため、背面ループ材60による衝撃荷重の負担が軽減される。
そのため、背面ループ材60は低強度の小径ロープ材で対応でき、固定具61も小型のもので対応できる。
【0050】
<3.3.2>ストッパによる衝撃力の伝達
水通し部ネット20に巨大な衝撃力が作用すると背面ループ材60の伸びにより剛構造体30に巻き掛けた端末取付ロープ26が僅かに摺動する。
端末取付ロープ26の摺動に伴い、
図9に示した端末取付ロープ26の端輪21の先端部がストッパ31に当接すると、端末取付ロープ26の摺動が規制される。
そのため、ネット本体25に作用した衝撃力はストッパ31を通じて剛構造体30に対して曲げ力と回転力として伝わる。
最終的にネット本体25に作用した衝撃力は剛構造体30の曲げ耐力と回転耐力により支持される。
衝撃力の支持部材に剛構造体30が加わることで、背面ループ材60の荷重負担が軽減される。
仮に背面ループ材60が破断しても、ネット本体25と剛構造体30とが継続して衝撃力を支持できるので、従来と比べて透過型捕捉構造物10の安全性が格段に高まる。
【0051】
<4>捕捉流下物の撤去
透過型捕捉構造物10の水通し部ネット20及び袖部ネット40に捕捉して堆積された土石流や流木等の流下物を公知の手段で撤去する。
流下物を撤去して外力をなくすと、水通し部ネット20を構成するネット本体25と背面ループ材60が自己復元力により受撃前の元の形状に復元するので、背面ループ材60を締め直す必要がない。
【0052】
<5>捕捉ネットの補修
水通し部ネット20のネット本体25の一部が損傷した場合には、ネット本体25全体を交換せずに、損傷した単索22のみを中継連結具50から取り外して新たなものに交換でき、又、中継連結具50が損傷した場合も同様に簡単に付け替えて補修することができる。
【0053】
[実施例2]
図12,13に他の水通し部ネット20を構成するネット本体25について説明する。
先の実施例では、複数の単索22を縦横方向に交差して配置し、その交点に中継連結具50を介装してネット本体25を構成した形態について説明したが、複数の単索22を斜め方向に交差させて組み立ててもよい。
図12はネット本体25の上下辺、左右辺を除き、複数の単索22を斜め方向に交差させて、菱形の網目Aを形成した形態を示す。
図13は複数の横方向に配置した単索22と、交差斜め方向に配置した単索22とを交差させ、三角形の網目Aを形成した形態を示す。
図13に示したネット本体25を90度回転させた形態であってもよい。
また
図5,12,13に示した複数のネット本体25の形態を階層的に組み合わせて水通し部ネット20を組み立ててもよい。
図示を省略するが、何れの形態もネット本体25の左右側辺に複数の端末取付ロープ26が取り付けられていることと、端末取付ロープ26を介してネット本体25と背面ループ材60が連続性を有するように接続されていることは、既述した実施例1と同じ構造である。
【0054】
本例にあっては、各中継連結具50に連結する単索22の連結数を変更することで、ネット本体25内の網目Aの形状を円形を除いた任意の幾何学形状(三角形、方形、菱形、多角形等)を選択してネット本体25の強度を変更できる。
更に複数の単索22と複数の中継連結具50の組み合わせることでネット本体25の輪郭形状も任意の形状に組み立てることが可能である。
【0055】
さらにネット本体25は、連続したロープを交差させ、その交差部をクリップ類で固定した格子状の網目を有する公知のネットを適用することも可能である。