(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579583
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】指固定具、及び、指固定具製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 5/10 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
A61F5/10
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-100094(P2016-100094)
(22)【出願日】2016年5月19日
(65)【公開番号】特開2017-205314(P2017-205314A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2018年1月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年4月27日厚生連高岡病院において行われた臨床試験
(73)【特許権者】
【識別番号】502318216
【氏名又は名称】株式会社能作
(73)【特許権者】
【識別番号】506144961
【氏名又は名称】有限会社Medical・Link
(73)【特許権者】
【識別番号】516147763
【氏名又は名称】多田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100137394
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】能作 克治
(72)【発明者】
【氏名】鳥畠 康充
(72)【発明者】
【氏名】多田 薫
【審査官】
須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第02087863(EP,A1)
【文献】
特開2016−016194(JP,A)
【文献】
特開2008−036329(JP,A)
【文献】
特開昭58−008530(JP,A)
【文献】
特開平11−019106(JP,A)
【文献】
特表2015−509413(JP,A)
【文献】
実開昭58−024210(JP,U)
【文献】
仏国特許出願公開第02030916(FR,A1)
【文献】
特開2000−157567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F5/10
A61F13/10
A44C9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度97wt%以上の錫により構成された筒体と、
前記筒体の壁面に設けられ、前記筒体の一方の開口端部から他方の開口端部まで連続して離間可能なスリット状の離間空間であるスリット状離間部と、
前記壁面のうち、前記スリット状離間部とは異なる領域に設けられた開口部と
を備え、
前記スリット状離間部は、前記筒体の内空間の広さを変更可能に形成され、
前記筒体の内径は、人の手の指の太さと同じ程度であり、
前記筒体の壁面における離間空間側の端部は、前記スリット状離間部を挟んで、局所的に互いに略平行になり、
前記スリット状離間部は、前記筒体の一方の端部から、他方の端部まで湾曲しながら連続している
指固定具。
【請求項2】
前記開口部は、前記スリット状離間部と対向する位置の壁面に設けられ、
前記筒体は、99wt%以上の錫と、0.5wt%以下の銀とを含む合金により構成されている
請求項1に記載の指固定具。
【請求項3】
前記スリット状離間部は、前記筒体の一方の端部から他方の端部まで、筒体の軸に対して斜め方向に連続している
請求項2に記載の指固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指の関節部分を固定する指固定具、及び、指固定具製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、錫又は錫合金からなり、複数のベースプレートと複数のサポートプレートとで構成された矯正装具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−36329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
装着者自身が比較的容易に装着できる指固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る指固定具は、手の力で変形させることができる硬さの金属で構成された筒体と、前記筒体の壁面に設けられ、前記筒体の一方の端部から他方の端部まで連続して離間可能なスリット状離間部と、前記壁面のうち、前記スリット状離間部とは異なる領域に設けられた開口部とを備え、前記スリット状離間部は、前記筒体の内空間の広さを変更可能に形成されている。
【0006】
好適には、前記筒体は、純度97wt%以上の錫により構成され、前記スリット状離間部は、前記筒体の一方の端部から、他方の端部まで湾曲しながら連続している。
【0007】
好適には、前記開口部は、前記スリット状離間部と対向する位置の壁面に設けられ、前記筒体は、99wt%以上の錫と、0.5wt%以下の銀とを含む合金により構成されている。
【0008】
好適には、前記スリット状離間部は、前記筒体の一方の端部から他方の端部まで、筒体の軸に対して斜め方向に連続している。
【0009】
好適には、前記筒体の内径は、人の手の指の太さと同じ程度であり、へバーデン結節の指を固定するために用いられる。
【0010】
また、本発明に係る指固定具は、手の力で変形させることができる硬さの金属で構成された筒体と、前記筒体の壁面に設けられ、前記筒体の一方の端部から他方の端部まで連続して離間可能なスリット状離間部とを備え、前記スリット状離間部は、前記筒体の一方の端部から他方の端部まで、筒体の軸に対して斜め方向に連続している。
【0011】
また、本発明に係る指固定具製造方法は、手の力で変形させることができる硬さの金属で、開口が設けられた金属板を形成する工程と、形成された金属板を筒状に変形させる工程とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、装着者自身が比較的容易に装着できる指固定具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】人の手指に装着された状態の指固定具1を例示する図である。
【
図2】指固定具1の開口部12と、手指の第一関節の位置関係を例示する図である。
【
図3】指固定具1の製造方法を例示するフローチャート(S10)である。
【
図5】金属プレート2の曲げ工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[背景]
まず、本発明がなされた背景を説明する。
本発明の着想は、へバーデン結節の治療具を検討する過程で生まれた。ヘバーデン結節とは、手指の第一関節(DIP関節)の関節面が摩耗して変形し、可動域制限や疼痛を来す疾患である。原因は未だ不明であるが、労作との関連性が指摘されており、40歳代以降の女性に多く発症するとされている。
ヘバーデン結節の有病率は高く、一般人口において30%に達すると報告されている。しかし、ヘバーデン結節には決め手となる治療方法が存在せず、一般的には、局所の安静や外用薬で治療されている。
【0015】
局所の安静を図るためには、各種材料による外固定が行われている。外固定には、アルミ製やプラスチック製のシーネと呼ばれる固定具や、各種装具、テープ剤などが使用されている。
外固定では、変形した関節を元に戻すことはできないが、局所で生じている炎症を鎮静化し疼痛を軽減することが可能である。
【0016】
しかしながら、外固定に伴う掻痒感や不快感、悪臭などの問題が未だに解決されていない。また、シーネや装具は整容面について劣っており、装着した際は外観上の問題も生じている。加えて、装着にも手間がかかることが多く、外固定による治療は、患者にとって敷居の高いものとなっている。
【0017】
そこで、本願発明者らは、錫の殺菌作用、変形可能性、及び質感に着目し、衛生的で、手の力で曲げ変形可能であり、かつ、繰り返しの曲げ変形に対する耐性を有し、意匠性を備えた指固定具1を開発した。殺菌作用については、錫と銀の合金によって、黄色ブドウ球菌や大腸菌に対し十分な殺菌作用を有する。一方で、細胞毒性を有しない。変形可能性については、銀の含有量を微調整しながら、調整しやすい形状を模索し、併せて最適化した。そして、意匠性、曲げ変形に対する耐性、及び、調整容易性の観点から、シンプルな形状としつつ、各種機能を盛り込んだ。耐性試験においても、150回程度の曲げ変形に耐えることを確認し、外固定期間に指固定具1が破断する可能性は極めて低いと考えられる。
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る指固定具1を説明する。
図1は、人の手指に装着された状態の指固定具1を例示する図である。
図1に示すように、指固定具1は、筒体10と、筒体10の壁面に設けられた開口部12と、筒体10の壁面に設けられたスリット状離間部14とを有する。
筒体10は、指の太さとほぼ同じ内径を有し、指の同様の断面形状を有する。例えば、筒体10は、円周40mm〜60mmの筒形状であり、筒の両端は開口となっている。装着者は、
図1に例示するように、筒体10の内空間に指の関節を挿入する。
【0019】
筒体10は、手の力で変形させることができる硬さの金属で構成されている。例えば、筒体10は、純度97wt%以上の錫によって構成される。より具体的には、筒体10は、99wt%以上の錫と、0.5wt%以下の銀とを含む合金によって構成されている。本例の筒体10は、99wt%以上の錫と、0.01wt%以上0.50wt%以下の銀とを含む合金によって構成されている。銀が1.0wt%を超えると、合金が硬くなりすぎて装着者が手の力で変形させることが困難になる。一方で、銀が0.01%未満だと、合金が柔らかすぎて装着中に変形して指から脱落する可能性がある。
装着者が自身の力で筒体10の形状を指の形及び太さに合うように変形させることを考えると、筒体10の板厚が1.5mm〜2.5mmであり、銀が0.01wt%〜0.50wt%の錫合金で構成されていることが望ましい。
本例の筒体10は、板厚が2.0mm前後であり、長さが1.5cm〜2.5cmの筒形状である。
【0020】
なお、筒体10は、錫と銀の合金で構成することにより、殺菌作用が期待できる。錫の殺菌作用は、黄色ブドウ球菌や大腸菌に対して十分に作用し、かつ、細胞毒性を有しないため、人体にとって好適である。
加えて、錫と銀の合金は、金属光沢を有し、シンプルなデザインと相まって、装飾具のような外見を実現する。
【0021】
図1(A)に例示するように、筒体10の壁面に開口部12が設けられている。本例の開口部12は、指の太さと同じ程度の径を有する開口である。なお、開口部12は、本例よりも小さなものを複数設けられてもよい。
開口部12は、水分や蒸気などの排出口として機能し、指固定具1を装着したままでの手洗いを可能にする。さらに、
図2に示すように、指関節の逃げ空間としての機能も期待でき、過剰な指の拘束による不快感を抑えることができる。
【0022】
図1(B)に例示するように、スリット状離間部14は、開口部12と対向する位置に設けられている。
スリット状離間部14は、
図1(C)に例示するように、筒体10の一方の端部から他方の端部まで連続して離間可能なスリット状の離間空間であり、筒体10の内空間の広さを変更可能にしている。スリット状の離間空間であるため、筒体10の壁面における離間空間側の端部は、スリット状離間部14を挟んで、局所的に互いに略平行になる。
本例のスリット状離間部14は、湾曲しながら、筒体10の一方の端部から他方の端部まで、筒体10の軸に対して斜め方向に連続している。スリット状離間部14が筒体10の軸に対して斜め方向に設けられた場合、つるが指に巻きついたような状態となるため、スリット状離間部が筒体10の軸と平行に設けられた場合と比較して、スリット状離間部14を広げても、指から脱落しにくくなる。
【0023】
このように、本実施形態の指固定具1は、筒体10を基本骨格としつつ、スリット状離間部14の開閉によって、筒体10の内空間の広さや形状を調整するため、装着者自身が片手で容易に着脱し調整することができる。また、調整のための変形部位が比較的少ないため、曲げによる金属疲労の蓄積が抑えられる。また、指輪のようなシンプルなデザインであり、意匠性にも優れる。
【0024】
次に、指固定具1の製造方法を説明する。
図3は、指固定具1の製造方法を例示するフローチャート(S10)である。
図3に示すように、ステップ100(S100)において、予め用意された鋳型に、溶融した錫合金を流し込んで、
図4に例示する金属プレート2(金属板)を成形する。より具体的には、鋳造用のシリコン型に、溶融した錫合金を流し込んで鋳造品を作成し、作成された鋳造品をシリコン型から取り出して、注入口部分をニッパ等で切断して、金属プレート2とする。金属プレート2は、
図4に例示するように、開口部22が設けられた金属板である。金属プレート2の両端部には、互いに回転対称な位置に、回転対称な形状の突出領域24(図の左下から突出した突出領域24Aと、右上から突出した突出領域24B)が設けられている。これらの突出領域24は、金属プレート2が筒状に変形されると、互いに隣り合って、スリット状離間部14を形成する。突出領域24の突出量は、例えば、5mm〜13mm程度である。
【0025】
ステップ110(S110)において、
図5に例示するように、成形された金属プレート2を筒状に曲げて、指固定具1とする。より具体的には、
図5(B)に例示するように、指の太さ程度の棒状部材7に金属プレート2を押し当てて筒状に変形させる。棒状部材7は、指の形状又は大きさを模したものであり、例えば、直径18mm程度の円柱部材である。
【0026】
このように指固定具1を製造することによって、精度の高い製品を効率的に作ることができる。
また、金属プレート2の状態で販売場所(例えば、病院や店舗など)に配送し、販売場所で金属プレート2を筒状に変形させて、指固定具1を完成させてもよい。平面的な金属プレート2は、筒状の指固定具1よりも搬送が容易である。また、装着者の指の形状や大きさに合わせてオンデマンドで指固定具1を完成させることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 指固定具
2 金属プレート
10 筒体
12 開口部
14 スリット状離間部