特許第6579596号(P6579596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579596
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】金属材の低温接合方法及び接合構造物
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
   B23K20/12 320
   B23K20/12 360
   B23K20/12 344
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-504390(P2018-504390)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2017007677
(87)【国際公開番号】WO2017154658
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2018年7月24日
(31)【優先権主張番号】特願2016-47806(P2016-47806)
(32)【優先日】2016年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129632
【弁理士】
【氏名又は名称】仲 晃一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】上路 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5255781(JP,B2)
【文献】 特開2012−40584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの金属材を被接合部において対向させて被接合界面を形成し、前記被接合部に所定の回転速度で回転させた回転ツールを圧入することで前記2つの金属材を接合する方法であって、
前記回転ツールの最外周の周速を51mm/s以下とすることにより、前記被接合部に強ひずみを導入して前記金属材が本来有する再結晶温度を低下させ、
接合温度を前記金属材が本来有する再結晶温度未満として前記被接合界面に再結晶粒を生成させること、
を特徴とする金属材の低温接合方法。
【請求項2】
前記再結晶粒の粒径を1μm以下とすること、
を特徴とする請求項1に記載の金属材の低温接合方法。
【請求項3】
前記回転ツールの最外周の周速を32mm/s以下とすること、
を特徴とする請求項1及び2に記載の金属材の低温接合方法。
【請求項4】
前記回転ツールの最外周の周速を19mm/s以下とすること、
を特徴とする請求項1〜3のうちのいずれかに記載の金属材の低温接合方法。
【請求項5】
前記回転ツールの圧入荷重を、前記回転ツールを回転させない状態で前記金属材に圧入できる値以上とすること、
を特徴とする請求項1〜4のうちのいずれかに記載の金属材の低温接合方法。
【請求項6】
前記回転ツールから前記金属材に印加される応力が、前記被接合部の温度における前記金属材の降伏応力以上となる範囲において、
前記圧入荷重を前記被接合部の温度上昇に伴って低下させること、
を特徴とする請求項1〜5のうちのいずれかに記載の金属材の低温接合方法。
【請求項7】
前記金属材がアルミニウム又はアルミニウム合金であること、
を特徴とする請求項1〜6のうちのいずれかに記載の金属材の低温接合方法。
【請求項8】
前記金属材が熱処理型アルミニウム合金、加工強化型アルミニウム又は加工強化型アルミニウム合金であること、
を特徴とする請求項1〜7のうちのいずれかに記載の金属材の低温接合方法。
【請求項9】
前記金属材が鉄系金属であること、
を特徴とする請求項1〜6のうちのいずれかに記載の金属材の低温接合方法。
【請求項10】
前記回転ツールが鉄系金属製であること、
を特徴とする請求項1〜9のうちのいずれかに記載の金属材の低温接合方法。
【請求項11】
少なくとも1つ以上の基材部と、
前記基材部同士を接合した接合部と、を有し、
前記基材部は高張力鋼材又は熱処理型アルミニウム合金材であり、
前記接合部は前記基材部と略同一の組成を有し、
前記接合部は平均粒径が1μm以下の微細等軸再結晶粒を含み、
前記接合部及び熱影響部の硬度が前記基材部の略8割以上であること、
を特徴とする接合構造物。
【請求項12】
前記基材部が350HV以上の母材硬度を有する高張力鋼材であること、
を特徴とする請求項11に記載の接合構造物。
【請求項13】
前記基材部が350HV未満の母材硬度を有する高張力鋼材であり、
前記接合部及び前記熱影響部の硬度が略前記母材硬度以上であること、
を特徴とする請求項11に記載の接合構造物。
【請求項14】
前記基材部が熱処理型アルミニウム合金材であり、
前記接合部及び前記熱処理部の硬度が前記母材硬度の略9割以上であること、
を特徴とする請求項11に記載の接合構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属材同士を直接接合する低温接合方法及び当該低温接合方法によって得られる接合構造物に関し、より具体的には、接合部及び熱影響部における機械的特性の低下を効果的に抑制することができる低温接合方法及び当該低温接合方法によって得られる接合構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼やアルミニウム合金等の金属材料の高強度化に伴い、接合構造物の機械的特性を律速する接合部での強度低下が深刻な問題となっている。これに対し、近年、接合中の最高到達温度が被接合材の融点に達せず、接合部における強度低下が従来の溶融溶接と比較して小さい摩擦攪拌接合が注目され、急速に実用化が進んでいる。
【0003】
しかしながら、固相接合である摩擦攪拌接合を用いた場合であっても、高張力鋼や熱処理型アルミニウム合金に関しては接合部での強度低下を抑制することが困難であり、接合構造物においてこれらの金属材料が本来有する機械的特性が十分に活用されていない。
【0004】
ここで、例えば、特許文献1(特開2005−131679号公報)では、熱処理型アルミニウム合金材を摩擦攪拌接合する方法であって、かかる熱処理型アルミニウム合金材にT4調質を施した後、更に復元処理を行ない、そしてその復元処理の施された、復元状態にある熱処理型アルミニウム合金材を、摩擦攪拌接合することを特徴とする熱処理型アルミニウム合金材の摩擦攪拌接合方法、が開示されている。
【0005】
上記特許文献1記載の摩擦攪拌接合方法においては、攪拌接合部、熱影響部及び母材のうち、母材の硬さが最も小さくなるように継手を構成することができ、攪拌接合部や熱影響部での破断を防止して、延性、ひいてはプレス成形性に優れた接合材を有利に得ることができる、としている。
【0006】
また、特許文献2(特開2015−057292号公報)では、少なくとも一方の被接合材が面心立方格子構造を有し再結晶温度が300℃以下の金属材である被接合材同士を接合部において当接させ、前記接合部に回転する棒状のツールを挿入し、前記接合部に冷却した冷媒を供給するとともに、前記ツールを移動させることにより、前記被接合材同士を接合する摩擦攪拌接合工程を有すること、を特徴とする金属材の摩擦攪拌接合方法、が開示されている。
【0007】
上記特許文献2に記載の摩擦攪拌接合方法においては、冷媒による強制冷却によって、十分に転位を含んだ微細等軸粒からなる攪拌部を形成することができることから、面心立方格子構造を有し再結晶温度が300℃以下の金属材であっても母材と同等以上の継手強度を得ることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−131679号公報
【特許文献2】特開2015−057292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている摩擦攪拌接合方法は、熱処理によって基準となる母材の硬度を低下させることで、相対的に接合部の硬度を上昇させるものであり、アルミニウム合金が本来有する機械的特性を活用することができない。
【0010】
また、上記特許文献2に開示されている摩擦攪拌接合方法を用いても、高張力鋼の接合部における強度低下を完全に抑制することはできないことに加え、冷媒及び冷媒供給機構を準備する必要がある。
【0011】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、各種高張力鋼やアルミニウムの接合部及び熱影響部における機械的特性の低下を効果的に抑制することができる簡便な低温接合方法及び当該低温接合方法によって得られる接合構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記目的を達成すべく、接合界面に再結晶粒を形成させて接合を達成する方法について鋭意研究を重ねた結果、接合界面に強ひずみを導入しつつ昇温を抑制すること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、
2つの金属材を被接合部において対向させて被接合界面を形成し、前記被接合部に所定の回転速度で回転させた回転ツールを圧入することで前記2つの金属材を接合する方法であって、
前記回転ツールの最外周の周速を51mm/s以下とすることにより、前記被接合部に強ひずみを導入して前記金属材が本来有する再結晶温度を低下させ、
接合温度を前記金属材が本来有する再結晶温度未満として前記被接合界面に再結晶粒を生成させること、
を特徴とする金属材の低温接合方法、を提供する。
【0014】
熱影響部の強度低下を抑制するためには、接合温度を低下させることが好ましい。ここで、従来の摩擦攪拌接合においては、接合温度が被接合材の融点(K)の約7割程度まで上昇するが、本発明の低温接合方法においては、回転ツールを従来の摩擦攪拌接合では考えられない程度に低い回転速度で回転させ、接合温度の上昇を抑制すると共に強ひずみを導入し、接合温度を被接合材である金属材が本来有する再結晶温度未満とすることで、熱影響部の強度低下を抑制することができる。ここで、回転ツールの最外周の周速を51mm/s以下とすることで、回転ツールの圧入荷重増加による接合温度の上昇を抑制することができる。なお、「金属材が本来有する再結晶温度」は金属材によって異なるが、一般的には金属材の融点(K)の約4割程度である。
【0015】
また、接合温度を被接合材である金属材が本来有する再結晶温度未満とすることで、回転ツールの圧入によって形成される攪拌部の再結晶粒径を低減することができ、当該微細粒化によって攪拌部の機械的特性を向上させることができる。
【0016】
本発明の金属材の低温接合方法においては、前記回転速度の低下及び前記圧入荷重の増加により前記接合温度を低下させ、前記再結晶粒の粒径を1μm以下とすること、が好ましい。
【0017】
一般的な摩擦攪拌接合における接合温度は、圧入する回転ツールの回転速度、圧入荷重及び移動速度と密接に関係していることが知られており、回転速度及び圧入荷重の増加、及び移動速度の低下に伴って上昇する。これに対して本発明者は、回転速度を極めて小さく設定した場合は圧入荷重を増加させても接合温度が大きく上昇することがなく、一方で、接合界面近傍に導入されるひずみは圧入荷重の増加によって顕著に上昇することを見出した。
【0018】
なお、回転ツールの移動速度は攪拌部における欠陥形成及び接合速度等の観点から適宜設定すればよく、スポット接合の場合は回転ツールの押込及び引抜速度、線接合の場合は被接合界面上での移動速度を調節すればよい。また、回転ツールの形状は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の摩擦攪拌接合用ツールの形状を用いることができる。一般的には棒状の回転ツールを用いるが、例えば、円盤状の回転ツールを用いてもよい。
【0019】
本発明の低温接合方法は、接合条件及び接合メカニズム等の観点で従来の摩擦攪拌接合と一線を画すものであり、低温下で被接合界面近傍に大きなひずみが導入されることで、実際に再結晶が生じる温度が「金属材が本来有する再結晶温度」よりも低下し、熱影響部の形成が抑制される「金属材が本来有する再結晶温度」未満で被接合界面に再結晶粒を生成させることで、良好な接合が達成される。
【0020】
なお、本発明の低温接合方法においては、(1)金属板の端部同士を突き合わせて接合部とし、回転ツールをその加工部の長手方向に沿って回転させつつ移動させて金属板同士を接合する接合、(2)金属板の端部同士を突き合わせて接合部とし、回転ツールをその接合部で移動させずに回転させて接合するスポット接合、(3)金属板同士を接合部において重ね合わせ、接合部に回転ツールを挿入し、回転ツールをその箇所で移動させずに回転させて金属板同士を接合するスポット接合、(4)金属板同士を接合部において重ね合わせ、接合部に回転ツールを挿入し、回転ツールをその接合部の長手方向に沿って回転させつつ移動させて金属板同士を接合する接合の(1)〜(4)の4つの態様およびこれらの組み合わせを含む。
【0021】
また、本発明の低温接合方法においては、前記回転ツールの最外周の周速を32mm/s以下とすることが好ましく、19mm/s以下とすることがより好ましい。回転ツールの最外周の周速を32mm/s以下とすることで、被接合界面近傍における温度上昇を抑制することができ、接合温度を金属材が本来有する再結晶温度未満とすることができる。また、回転ツールの最外周の周速を19mm/s以下とすることで、より確実に接合温度の上昇を抑制することができる。
【0022】
また、本発明の低温接合方法においては、前記圧入荷重を、前記回転ツールを回転させない状態で前記金属材に圧入できる値以上とすること、が好ましい。一般的な摩擦攪拌接合においては、摩擦熱による被接合材の軟化を利用して回転ツールを圧入するが、本発明の低温接合方法においては接合温度の上昇が抑制されているため、被接合材を塑性変形させる態様で回転ツールを圧入する必要がある。また、大荷重で回転ツールを被接合材に圧入することで、大きなひずみを被接合界面に導入することができる。
【0023】
また、本発明の低温接合方法においては、前記回転ツールから前記金属材に印加される応力が、前記被接合部の温度における前記金属材の降伏応力以上となる範囲において、前記圧入荷重を前記被接合部の温度上昇に伴って低下させること、が好ましい。金属材の降伏応力は温度の上昇に伴って低下することから、回転ツールを金属材に圧入するために最低限必要な荷重も温度の上昇に伴って低下する。つまり、回転ツールを金属材に圧入できる限りにおいて、できるだけ小さな荷重を用いることで、省エネルギーかつ低温での接合が可能となる。
【0024】
また、本発明の低温接合方法においては、前記金属材がアルミニウム又はアルミニウム合金であることが好ましく、前記金属材が熱処理型アルミニウム合金、加工強化型アルミニウム又は加工強化型アルミニウム合金であることがより好ましい。被接合材をアルミニウム又はアルミニウム合金とすることで、結晶粒径の増加や回復に起因する接合部の強度低下を抑制することができ、被接合材を熱処理型アルミニウム合金とすることで、析出物の粗大化や固溶に起因する接合部の強度低下についても抑制することができる。更に、被接合材を加工強化型アルミニウム又は加工強化型アルミニウム合金とすることで、回復や再結晶に伴う強度低下をより効果的に抑制することができる。なお、本発明の低温接合方法は異材接合にも好適に用いることができ、異材接合の場合は少なくとも一方の被接合材に関して本発明の特徴を有していればよい。
【0025】
また、本発明の低温接合方法においては、前記金属材が鉄系金属であることが好ましく、高張力鋼であることがより好ましい。被接合材を高張力鋼とすることで、従来の接合技術で問題となっていた熱影響部の形成を抑制することができ、特に、母材硬度が350HV未満の高張力鋼材に対して本発明の低温接合方法を適用することで、母材硬度と略同等の硬度を有する(殆ど硬度低下を生じない)接合部を得ることができる。
【0026】
なお、本発明の低温接合方法を用いる被接合材には、上記の金属材を用いることが好ましいが、通常の摩擦攪拌接合(接合温度が被接合材の融点の7〜8割程度のとなる摩擦攪拌接合)において、接合部(攪拌部、熱加工影響部及び熱影響部)の強度が母材強度未満となる金属を用いることが好ましい。本発明の低温接合方法を用いることで、当該金属材に関しても強度低下を効果的に抑制することができる。
【0027】
また、本発明の低温接合方法は従来の接合方法と比較して極めて低温で接合が達成されることから、接合界面における金属間化合物の形成が問題となる異材接合にも好適に用いることができ、例えば、アルミニウム材とマグネシウム材との異材接合やアルミニウム材と鋼材との異材接合に好適に用いることができる。
【0028】
更に、本発明の低温接合方法においては、前記回転ツールが鉄系金属製であること、が好ましい。従来の摩擦攪拌接合に関し、被接合材を鋼とする場合は回転ツールの寿命が大きな問題となっている。これに対し、高融点金属やセラミックス製の種々の回転ツールが検討されているが、十分な寿命が得られていないことに加えて高価なツールとなってしまう。
【0029】
本発明者は本発明の低温接合方法の接合温度に着目し、当該接合温度において被接合材である鋼よりも高強度な鉄系金属を用いて回転ツールを作製したところ、鉄系金属製の回転ツールで鋼材を接合できることを見出した。回転ツールを鉄系金属製とすることで、鋼の摩擦攪拌接合に従来使用されてきた回転ツールと比較して、極めて安価な回転ツールで接合を達成することができる。
【0030】
また、本発明は、
350HV未満の母材硬度を有する高張力鋼材の接合部を有し、
前記接合部には平均粒径が1μm以下の微細等軸再結晶粒を含み、
前記接合部及び熱影響部の硬度が略前記母材硬度以上であること、
を特徴とする接合構造物も提供する。
【0031】
本発明の接合構造物における接合部は機械的に接合されたものではなく、冶金的に接合されている。また、基本的に、接合部は被接合材である高張力鋼材と略同一の組成を有する微細等軸再結晶粒で構成されており、当該微細等軸再結晶粒の平均粒径が1μm以下となっていることから、母材に劣らない機械的特性を有している。
【0032】
また、一般的に高張力鋼材の接合部には熱影響部が形成され、当該熱影響部の硬度は母材よりも低くなるが、本発明の接合構造物においては熱影響部の硬度が母材硬度以上となっている。その結果、接合構造物の強度及び信頼性等が接合部に律速されず、高張力鋼材の機械的特性を十分に利用することができる。
【0033】
また、本発明は、
少なくとも1つ以上の基材部と、
前記基材部同士を接合した接合部と、を有し、
前記基材部は高張力鋼材又は熱処理型アルミニウム合金材であり、
前記接合部は前記基材部と略同一の組成を有し、
前記接合部は平均粒径が1μm以下の微細等軸再結晶粒を含み、
前記接合部及び熱影響部の硬度が前記基材部の略8割以上であること、
を特徴とする接合構造物も提供する。
【0034】
本発明の接合構造物において、接合部は機械的に形成されたものではなく、冶金的な接合が達成されている。また、高張力鋼材や熱処理型アルミニウム合金材に関しては接合部における大幅な機械的特性の低下が深刻な問題となるが、本発明の接合構造物では平均粒径が1μm以下の微細等軸再結晶粒によって被接合界面が消失しており、接合部及び熱影響部の硬度が基材部の略8割以上となっている。
【0035】
ここで、再結晶粒径は温度やひずみの履歴によって変化するため、観察する場所によって異なるが、接合界面及びその近傍に平均粒径が1μm以下の領域があればよい。なお、当該平均粒径は、例えば、光学顕微鏡又は走査電子顕微鏡による観察画像に対して切片法で算出すればよい。
【0036】
本発明の接合構造物においては、前記基材部が350HV以上の母材硬度を有する高張力鋼材であること、が好ましい。従来の溶接技術を用いた場合、350HV以上の母材硬度を有する高張力鋼材の接合部及び熱影響部では大幅な硬度低下が不可避であったが、本発明の接合構造物においては当該高硬度を有する高張力鋼材を基材部に使用しても接合部及び熱影響部の硬度低下が効果的に抑制されている。
【0037】
また、本発明の接合構造物においては、前記基材部が350HV未満の母材硬度を有する高張力鋼材であり、前記接合部及び前記熱影響部の硬度が略前記母材硬度以上であること、が好ましい。基材部に350HV未満の硬度を有する高張力鋼材を用いることで、接合部及び熱影響部の硬度低下が略完全に抑制されている。
【0038】
更に、本発明の接合構造物においては、前記基材部が熱処理型アルミニウム合金材であり、
前記接合部及び前記熱処理部の硬度が前記母材硬度の略9割以上であること、が好ましい。熱処理型アルミニウムは溶接時の温度上昇によって容易に硬度低下が生じるが、基材部に熱処理型アルミニウム合金材を用いた場合であっても、接合部及び熱処理部の硬度が母材硬度の略9割以上を維持している。
【0039】
なお、本発明の接合構造物は、上述の本発明の金属材の低温接合方法によって好適に製造することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、各種高張力鋼やアルミニウムの接合部及び熱影響部における機械的特性の低下を効果的に抑制することができる簡便な低温接合方法及び当該低温接合方法によって得られる接合構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の金属材の低温接合方法の一態様を示す模式図である。
図2】本発明の金属材の低温接合方法のその他の態様を示す模式図である。
図3】突合せ接合(線接合)時の状況を示す概略図である。
図4】本発明の接合構造物における接合部近傍の概略断面図である。
図5】点接合時の被接合材配置を示す模式図である。
図6】各温度で焼き戻し処理を行った炭素鋼板のSEM写真及びEBSD結晶粒界像である。
図7】実施例1で得られた接合部の断面写真である。
図8】実施例2で得られた接合部の断面写真である。
図9】実施例3で得られた接合部の断面写真である。
図10】実施例4で得られた接合部の断面写真である。
図11】実施例5で得られた接合部の断面写真である。
図12】実施例6〜8で得られた接合部の表面写真である。
図13】実施例6で得られた接合部の断面写真である。
図14】比較例1で得られた接合部の断面写真である。
図15】母材硬度が350HVの場合の接合部の硬度分布(接合部水平方向)である。
図16】母材硬度が450HVの場合の接合部の硬度分布(接合部水平方向)である。
図17】接合部の最低硬さと回転速度との関係を示すグラフである。
図18】接合部の最低硬さと母材硬さとの関係を示すグラフである。
図19】実施例3で得られた接合部の硬度分布(接合部水平方向)である。
図20】実施例4で得られた接合部の硬度分布(接合部水平方向)である。
図21】実施例6で得られた接合部の硬度分布(接合部水平方向)である。
図22】実施例2及び比較例2で得られた継手のせん断引張強度である。
図23】実施例1で得られた接合界面近傍の方位マップ像である。
図24】実施例2で得られた接合界面近傍の方位マップ像である。
図25】比較例3で得られた接合界面近傍の方位マップ像である。
図26】接合最高温度とツール回転速度の関係を示すグラフである。
図27】実施例3における接合中の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照しながら本発明の金属材の低温接合方法及び接合構造物の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0043】
(1)金属材の低温接合方法
本発明の金属材の低温接合方法は、その接合メカニズムは異なるが、接合プロセスは摩擦攪拌接合に類似している。摩擦攪拌接合とは、FSW(Friction Stir Welding)と称され、接合しようとする二つの金属材からなる被接合材それぞれの端部を突き合わせ、回転ツールの先端に設けられた突起部(プローブ)を両者の端部の間に挿入し、これら端部の長手方向に沿って回転ツールを回転させつつ移動させることによって、二つの金属部材を接合する方法である。
【0044】
本発明における金属材の低温接合方法は、上述のとおり、(1)金属板の端部同士を突き合わせて接合部とし、回転ツールをその加工部の長手方向に沿って回転させつつ移動させて金属板同士を接合する接合、(2)金属板の端部同士を突き合わせて接合部とし、回転ツールをその接合部で移動させずに回転させて接合するスポット接合、(3)金属板同士を接合部において重ね合わせ、接合部に回転ツールを挿入し、回転ツールをその箇所で移動させずに回転させて金属板同士を接合するスポット接合、(4)金属板同士を接合部において重ね合わせ、接合部に回転ツールを挿入し、回転ツールをその接合部の長手方向に沿って回転させつつ移動させて金属板同士を接合する接合の(1)〜(4)の4つの態様およびこれらの組み合わせを含むが、以下、代表的な態様として、「(3)金属板同士を接合部において重ね合わせ、接合部に回転ツールを挿入し、回転ツールをその箇所で移動させずに回転させて金属板同士を接合するスポット接合」について詳細に説明する。
【0045】
図1は、本発明の金属材の低温接合方法の一態様を示す模式図である。被接合材2及び被接合材2’を重ね合わせ、低速で回転させた回転ツール4を大荷重で一方の被接合材から圧入することにより、接合部6が形成される。
【0046】
図1に示すのは、円柱状の本体部(ショルダ部)8の底面に円柱状の突起部(プローブ部)10を有する回転ツール4を用いた場合であり、突起部(プローブ部)10が下側に配置した被接合材2’を突き抜けない程度に圧入することにより、本体部(ショルダ部)8の下方であって突起部(プローブ部)10の周囲に、接合部6が形成される。
【0047】
また、図2に示すのは、円柱状の本体部(ショルダ部)8の底面に突起部(プローブ部)10を有さない回転ツール4を用いた場合であり、回転ツール4を被接合材2に圧入することにより、接合部6が形成される。ここで、突起部(プローブ部)10を有さない場合は転ツール4を上側に配置した被接合材2のみに圧入し、回転ツール4の底面下方に接合部6を形成させることが好ましい。
【0048】
本発明の金属材の低温接合方法においては、回転ツール4の回転速度、圧入荷重及び移動速度を制御パラメータとして接合温度を調節し、接合温度を被接合材(2,2’)が本来有する再結晶温度未満とする。ここで、「被接合材(2,2’)が本来有する再結晶温度」はその組成や加工状態(加工度)等によって変化するが、例えば、各金属の再結晶温度はW:1200℃,Mo:900℃,Fe:500℃,Cu:200〜230℃,Al:150〜240℃,Mg:150℃である(須藤一ら,「金属組織学」,丸善(1972))。なお、本発明における「被接合材(2,2’)が本来有する再結晶温度」は、被接合材(2,2’)に対応する金属材で従来公知となっている値を用いれよいが、適当な報告値がない場合は、各温度で熱処理した被接合材(2,2’)の組織観察を行い、再結晶の有無を確認すればよい。
【0049】
また、本発明の低温接合方法においては、被接合界面に再結晶粒を生成させることで接合を達成するところ、接合温度を通常は再結晶が生じない「被接合材(2,2’)が本来有する再結晶温度」未満としている。ここで、本発明の低温接合方法においては、温度上昇を極力抑えた状態で回転ツール4の圧入によって被接合部に強ひずみを導入することで、再結晶が生じる温度(実際の再結晶温度)を低下させている。具体的には、回転ツール4の最外周の周速を51mm/s以下とすることにより、接合温度の上昇を抑制しつつ前記被接合部に強ひずみを導入して、前記金属材が本来有する再結晶温度を低下させている。なお、回転ツール4のショルダ径が12mmの場合、回転速度を80rpmとすることで最外周の周速を51mm/sとすることができる。また、接合温度を「被接合材(2,2’)が本来有する再結晶温度」未満とすることで、接合部に形成される再結晶粒の粗大化及び熱影響部における硬度低下を抑制することができる。
【0050】
回転ツール4の形状は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の摩擦攪拌接合用ツールの形状を用いることができるが、円柱状の本体部(ショルダ部)の底面に円柱状の突起部(プローブ部)を有するものを用いることが好ましい。突起部(プローブ部)の底面を略平面とすることで、被接合界面近傍に効率的に強ひずみを導入することができる。
【0051】
ここで、回転ツール4の回転速度の低下及び圧入荷重の増加により接合温度を低下させることができ、適当な回転速度及び圧入荷重を設定することにより、被接合部の結晶粒の粒径を1μm以下とすることができる。
【0052】
回転ツール4の回転速度は接合温度が「被接合材(2,2’)が本来有する再結晶温度」未満となるように適宜調節すればよいが、最外周の周速を32mm/s以下とすることが好ましく、19mm/s以下とすることがより好ましい。回転ツールの最外周の周速を32mm/s以下とすることで、被接合界面近傍における温度上昇を抑制することができる。また、回転ツールの最外周の周速を19mm/s以下とすることで、より確実に接合温度の上昇を抑制することができる。なお、回転ツール4のショルダ径が12mmの場合、最外周の周速は回転速度を50rpmとすることで32mm/sとなり、30rpmとすることで19mm/sとなる。
【0053】
回転ツール4の圧入荷重も接合温度が「被接合材(2,2’)が本来有する再結晶温度」未満となるように適宜調節すればよいが、回転ツール4を回転させない状態で被接合材(2,2’)に圧入できる値以上とすること、が好ましい。一般的な摩擦攪拌接合においては、摩擦熱による被接合材(2,2’)の軟化を利用して回転ツール4を圧入するが、本発明の低温接合方法においては接合温度の上昇が抑制されているため、被接合材(2,2’)を塑性変形させる態様で回転ツール4を圧入する必要がある。また、大荷重で回転ツール4を被接合材(2,2’)に圧入することで、大きなひずみを被接合界面に導入することができる。
【0054】
被接合材(2,2’)はアルミニウム又はアルミニウム合金であることが好ましく、被接合材(2,2’)が熱処理型アルミニウム合金、加工強化型アルミニウム又は加工強化型アルミニウム合金であることがより好ましい。被接合材(2,2’)をアルミニウム又はアルミニウム合金とすることで、結晶粒径の増加や回復に起因する接合部の強度低下を抑制することができ、被接合材(2,2’)を熱処理型アルミニウム合金とすることで、析出物の粗大化や固溶に起因する接合部の強度低下についても抑制することができる。更に、被接合材(2,2’)を加工強化型アルミニウム又は加工強化型アルミニウム合金とすることで、回復や再結晶に伴う強度低下をより効果的に抑制することができる。
【0055】
また、被接合材(2,2’)は鉄系金属であることが好ましく、高張力鋼であることがより好ましい。被接合材(2,2’)を高張力鋼とすることで、従来の接合技術で問題となっていた熱影響部の形成を抑制することができ、特に、母材硬度が350HV未満の高張力鋼材に対して本発明の低温接合方法を適用することで、母材硬度と略同等の硬度を有する(殆ど硬度低下を生じない)接合部を得ることができる。
【0056】
また、被接合材(2,2’)には通常の摩擦攪拌接合(接合温度が被接合材の融点の7〜8割程度のとなる摩擦攪拌接合)において、接合部(攪拌部、熱加工影響部及び熱影響部)の強度が母材強度未満となる金属を用いることが好ましい。本発明の低温接合方法を用いることで、当該金属材に関しても強度低下を効果的に抑制することができる。加えて、本発明の低温接合方法は従来の接合方法と比較して極めて低温で接合が達成されることから、接合界面における金属間化合物の形成が問題となる異材接合にも好適に用いることができ、例えば、アルミニウム材とマグネシウム材との異材接合やアルミニウム材と鋼材との異材接合に好適に用いることができる。
【0057】
回転ツール4は、鉄系金属製であることが好ましい。従来の摩擦攪拌接合に関し、被接合材(2,2’)を鋼とする場合は回転ツール4の寿命が大きな問題となっている。これに対し、高融点金属やセラミックス製の種々の回転ツール4が検討されているが、十分な寿命が得られていないことに加えて高価なツールとなってしまう。
【0058】
これに対し、本発明の低温接合方法では接合温度が「被接合材(2,2’)が本来有する再結晶温度」未満と低温であることから、鉄系金属製の回転ツール4で鋼材を接合できる。回転ツール4を鉄系金属製とすることで、鋼の摩擦攪拌接合に従来使用されてきた回転ツール4と比較して、極めて安価な回転ツール4で接合を達成することができる。
【0059】
ここで、鉄系金属製の回転ツール4を用いて高張力鋼材を接合する場合、接合中に回転ツール4に印加されるせん断応力によって突起部(プローブ部)を切断し、被接合材(2,2’)の接合部に埋没させてもよい。この場合、突起部(プローブ部)の圧入によって接合部に形成される凹部に突起部(プローブ部)が充填されるため、継手強度の観点からはより好ましい接合部が形成される。また、回転ツール4と被接合材(2,2’)が同種の材料であることから、腐食等の耐環境性に関しても深刻な問題とならない。
【0060】
なお、上述のとおり、本発明の低温接合方法は一般的な突合せ接合に適用することができ、この場合は図3に示すような態様で、被接合材(2,2’)を突き合わせた領域に回転ツール4を圧入し、突合せ線に沿って移動させることで、良好な線接合部を得ることができる。
【0061】
(2)接合構造物
図4に、本発明の接合構造物における接合部近傍の概略断面図を示す。なお、本発明の接合構造物における接合部の代表的な態様として、図4ではスポット接合部を示している。
【0062】
本発明の接合構造物20は、少なくとも1つ以上の基材部22と、基材部22同士を接合した接合部24と、を有している。基材部22は高張力鋼材又は熱処理型アルミニウム合金材であり、接合部24は基材部22と略同一の組成を有している。つまり、接合部24の形成に関して他元素の積極的な添加等はなされていない。
【0063】
接合部24は平均粒径が1μm以下の微細等軸再結晶粒を含んでおり、特に接合界面は当該微細等軸再結晶粒の形成によって形成されている。また、接合部における微細等軸再結晶粒の形成により、接合部24及び熱影響部26の硬度は基材部22の略8割以上となっている。
【0064】
また、接合部24は機械的に形成されたものではなく、冶金的な接合が達成されている。また、高張力鋼材や熱処理型アルミニウム合金材に関しては接合部24における大幅な機械的特性の低下が深刻な問題となるが、接合構造物20では平均粒径が1μm以下の微細等軸再結晶粒によって被接合界面が消失しており、接合部24及び熱影響部26の硬度が基材部の略8割以上となっている。
【0065】
また、接合構造物20においては、基材部22が350HV以上の母材硬度を有する高張力鋼材であること、が好ましい。従来の溶接技術を用いた場合、350HV以上の母材硬度を有する高張力鋼材の接合部24及び熱影響部26では大幅な硬度低下が不可避であったが、接合構造物20においては当該高硬度を有する高張力鋼材を基材部22に使用しても接合部24及び熱影響部26の硬度低下が効果的に抑制されている。
【0066】
また、接合構造物20においては、基材部22が350HV未満の母材硬度を有する高張力鋼材であり、接合部24及び熱影響部26の硬度が略母材硬度以上であること、が好ましい。基材部22に350HV未満の硬度を有する高張力鋼材を用いることで、接合部24及び熱影響部26の硬度低下が略完全に抑制されている。
【0067】
更に、接合構造物20においては、基材部22が熱処理型アルミニウム合金材であり、接合部24及び熱処理部26の硬度が母材硬度の略9割以上であること、が好ましい。熱処理型アルミニウムは溶接時の温度上昇によって容易に硬度低下が生じるが、基材部22に熱処理型アルミニウム合金材を用いた場合であっても、接合部24及び熱処理部26の硬度が母材硬度の略9割以上を維持している。
【0068】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0069】
≪実施例1≫
図5に示す配置で炭素鋼板(JIS−S45C)同士を重ね合わせ、上側の炭素鋼板から回転ツールを圧入して点接合を施した。ここで、回転ツールにはWC−Ni超硬合金製の円柱状ツール(φ12mm,プローブなし)を用い、炭素鋼板の板厚は1.0mm又は1.5mmとした。回転ツールの回転速度は30rpm又は50rpm、荷重は12ton又は15ton、接合時間は10秒又は30秒とした。なお、上述のとおりFeの再結晶温度は〜500℃であり、炭素鋼であるS45Cの再結晶温度は約600℃である。
【0070】
供試材として用いた炭素鋼板は、400℃、500℃、600℃の各温度における焼き戻し処理で硬度(強度)を変化させている。図5に各温度で焼き戻し処理を行った炭素鋼板のSEM写真及びEBSD結晶粒界像を示す。なお、SEM観察及びEBSD測定にはFE−SEM(日本電子株式会社製JSM−7001FA)及びTSL社製のOIM data Collection ver5.31を用いた。
【0071】
図6において、焼き戻し温度の上昇に伴う小角粒界及び炭化物の減少が認められ、400℃の場合は450HV、500℃の場合は350HV、600℃の場合は300HVとなっていた。なお、一般的にビッカース硬度の約3倍が引張強度(MPa)となることから、400℃の場合は1350MPa、500℃の場合は1050MPa、600℃の場合は900MPaの引張強度を有する高張力鋼に相当する。
【0072】
≪実施例2≫
回転ツールに工具鋼製(日立金属,YXR33)の円柱状ツール(φ12mm,プローブ:φ4mm,長さ1.8mm)を使用し、回転ツールの回転速度を50rpm、荷重を15ton、接合時間を10秒としたこと以外は実施例1と同様にして、点接合を施した。
【0073】
≪実施例3≫
回転ツールに工具鋼製(JIS−SKD61)の円柱状ツール(φ12mm,プローブ:φ4mm,長さ1.8mm)、被接合材に低炭素鋼板(JIS−SPCC)を用い、回転ツールの回転速度を50rpm、荷重を6ton、接合時間を60秒としたこと以外は実施例1と同様にして、点接合を施した。
【0074】
≪実施例4≫
図5に示す配置で、アルミニウム合金板(JIS−A6061−T6)同士を重ね合わせ、上側のアルミニウム合金板から回転ツールを圧入して点接合を施した。ここで、回転ツールにはWC−Ni超硬合金製の円柱状ツール(φ12mm,プローブなし)を用い、アルミニウム合金板の板厚は1.0mmとした。回転ツールの回転速度は30〜50rpm、荷重は3.5〜8ton、接合時間は20秒又は30秒とした。なお、上述のとおりAlの再結晶温度は150〜240℃であり、アルミニウム合金であるA6061の再結晶温度は250〜350℃である。
【0075】
≪実施例5≫
回転ツールの形状をφ12mm,プローブ:φ4mm,長さ1mmとした以外は実施例4と同様にして、点接合を施した。
【0076】
≪実施例6≫
板厚3mmの純アルミニウム板(A1050 H24)に回転ツールを圧入して移動させることで、線状の処理領域を形成させた。回転ツールにはWC−Ni超硬合金製の円柱状ツール(φ12mm,プローブ:φ4mm,長さ0.9mm)を用いた。また、回転ツールの回転速度は50rpm、移動速度は10mm/minとし、回転ツールの位置制御にて摩擦攪拌処理を施した。
【0077】
≪実施例7≫
回転速度を10rpmとした以外は実施例6と同様にして、摩擦攪拌処理を施した。
【0078】
≪実施例8≫
回転速度を5rpmとした以外は実施例6と同様にして、摩擦攪拌処理を施した。
【0079】
≪比較例1≫
回転速度を200〜1200rpm、荷重を4.5ton、接合時間を10秒とした以外は実施例1と同様にして、点接合を施した。
【0080】
≪比較例2≫
回転ツールにWC−Ni超硬合金製の円柱状ツール(φ12mm,プローブ:φ4mm,長さ1.8mm)を用いた以外は比較例1と同様にして、点接合を施した。
【0081】
≪比較例3≫
回転速度を2500rpm、荷重を0.4ton、接合時間を1.2秒とした以外は実施例4と同様にして、点接合を施した。
【0082】
[接合部の断面観察]
接合部における欠陥形成の有無及び接合界面の状況等を確認するため、接合部の断面を光学顕微鏡によって観察した。
【0083】
実施例1で得られた接合部(30rpm,15ton,30s)の断面写真を図7に示す。回転ツールの圧入によって上側の炭素鋼板に凹部が形成されており、当該凹部の下方において、上側の炭素鋼板と下側の炭素鋼板が接合されている。ここで、当該接合領域に欠陥等は認められず、良好な接合が達成されていることが分かる。
【0084】
実施例2で得られた接合部の断面写真を図8に示す。プローブを有する回転ツールの圧入によって、上側の炭素鋼板に当該回転ツールの底面形状に対応した凹部が形成されており、当該凹部の下方において、上側の炭素鋼板と下側の炭素鋼板が接合されている。ここで、当該接合領域に欠陥等は認められず、良好な接合が達成されていることが分かる。
【0085】
実施例3で得られた接合部の断面写真を図9に示す。プローブを有する回転ツールの圧入によって、上側の炭素鋼板に当該回転ツールの底面形状に対応した凹部が形成されており、当該凹部に破断した回転ツールのプローブ部が埋没している。当該凹部の下方において、上側の炭素鋼板と下側の炭素鋼板が接合され、当該接合領域に欠陥等は認められず、良好な接合が達成されていることが分かる。
【0086】
実施例4で得られた接合部(40rpm,7ton,30s)の断面写真を図10に示す。実施例1で得られた接合部と同様に、上側のアルミニウム合金板に凹部が形成されており、当該凹部の下方において、上側のアルミニウム合金板と下側のアルミニウム合金板が接合されている。ここで、当該接合領域に欠陥等は認められない。
【0087】
実施例5で得られた接合部(40rpm,6ton,20s)の断面写真を図11に示す。実施例2で得られた接合部と同様に、プローブを有する回転ツールの圧入によって、上側のアルミニウム合金板に当該回転ツールの底面形状に対応した凹部が形成されており、当該凹部の下方において、上側のアルミニウム合金板と下側のアルミニウム合金板が接合されている。ここで、当該接合領域に欠陥等は認められず、良好な接合が達成されていることが分かる。
【0088】
実施例6〜8で得られた攪拌部の表面写真を図12に示す。何れの条件においても線状の攪拌領域が形成されていることが分かる。また、摩擦攪拌は良好に達成されており、溝状欠陥等は確認されない。
【0089】
実施例6で得られた接合部の断面写真を図13に示す。断面写真においても欠陥は確認されず、回転ツールの回転速度を極めて遅く設定した場合であっても、良好な攪拌部が形成されることが分かる。
【0090】
比較例1で得られた接合部(400rpm,4.5ton,10s)の断面写真を図14に示す。実施例1で得られた接合部と同様に、上側の炭素鋼板に凹部が形成されており、当該凹部の下方において、上側の炭素鋼板と下側の炭素鋼板が接合されている。ここで、当該接合領域に欠陥等は認められない。
【0091】
[硬度測定]
上記実施例及び比較例で得られた接合部の断面について、ビッカース硬度試験を行った。なお、ビッカース硬度測定は荷重:0.1kgf、荷重負荷時間:15sの条件で行った。
【0092】
図15及び図16に、炭素鋼板の母材硬度を350HV及び450HVとした場合の硬度分布(接合部水平方向)を示す。炭素鋼板の母材硬度が350HVの場合、実施例1で得られた接合部においては母材硬度未満の軟化領域(熱影響部)が存在しない。また、炭素鋼板の母材硬度が450HVの場合は僅かに軟化した領域が存在するものの、比較例1で得られた接合部と比較すると硬度低下が明確に低減されている。
【0093】
実施例1及び比較例1で得られた接合部の最低硬さについて、回転ツールの回転速度との関係を図17に示す。比較例1で得られた接合部(200〜1200rpm)の最低硬さは接合条件に依らず母材の硬さよりも大幅に低い値となっているが、実施例1で得られた接合部の最低硬さは高い値を示している。図17において、回転速度を80rpmとした場合は接合部の硬度低下が効果的に抑制されている。特に、回転速度を50rpmとすると当該抑制効果が顕著であり、更に、回転速度を30rpmとした場合は母材からの硬度低下が殆ど認められない。
【0094】
実施例1及び比較例1で得られた接合部の最低硬さについて、母材硬さとの関係を図18に示す。比較例1で得られた接合部については母材硬さからの硬度低下が顕著であるが、実施例1で得られた接合部に関しては硬度低下が明確に低減されている。特に、回転速度を30rpmとした場合は、母材硬さが350HVまでは硬度低下が生じていない。
【0095】
図19及び図20に、実施例3及び実施例4で得られた接合部の硬度分布(接合部水平方向)を示す。固相接合である摩擦攪拌接合を用いた場合であっても、従来のアルミニウム合金板(JIS−A6061−T6)接合部では軟化領域(熱影響部)の形成が不可避であったが、実施例3及び実施例4で得られた接合部には母材硬度未満の軟化領域(熱影響部)が認められない。
【0096】
図21に、実施例6で得られた接合部の硬度分布(接合部水平方向)を示す。なお、攪拌部の上部、中部、下部においてそれぞれ測定している。供試材として用いた純アルミニウムはO材ではなくH24材であるが、攪拌部の硬度は母材と比較して大幅に高い値を示している。加えて、接合部に母材硬度未満の軟化領域(熱影響部)は認められない。
【0097】
[引張試験]
上記実施例及び比較例で得られた継手に関して、せん断引張強度を測定した。測定には引張試験機(SHIMADZU Autograph AGS−X 10kN)を用い、クロスヘッド速度1mm/minで継手のせん断引張強度を測定した。
【0098】
実施例2及び比較例2で得られた継手のせん断引張強度を図22に示す。比較例2で得られた継手は軟化領域(熱影響部)から破断することから、せん断引張強度は約8kNに留まっている。これに対し、軟化領域(熱影響部)が形成されない実施例2で得られた継手は、約12kNのせん断引張強度を有している。
【0099】
実施例3で得られた継手に関し、接合条件を6ton、50rpm、30秒とした場合のせん断引張強度は5.5kN、接合条件を7ton、40rpm、30秒とした場合のせん断引張強度は4.8kNであった。これに対し、比較例3で得られた継手のせん断引張強度は2.7kNであり、実施例3では従来の摩擦攪拌点接合と比較して大幅に高いせん断引張強度を有する継手が得られていることが分かる。
【0100】
[接合部の微細組織観察]
接合部における結晶粒の粒径及び形状を確認するため、接合部の断面のEBSD測定を行った。なお、EBSD測定にはFE−SEM(日本電子株式会社製JSM−7001FA)及びTSL社製のOIM data Collection ver5.31を用いた。
【0101】
実施例1及び実施例2で得られた接合部に関し、接合界面近傍の方位マップ像を図23及び図24にそれぞれ示す。どちらの接合界面近傍においても再結晶によって微細等軸粒が生成しており、平均結晶粒系は1μmを大幅に下回っている(実施例1:0.25μm,実施例2:0.33μm)。
【0102】
比較例3で得られた接合部に関し、接合界面近傍の方位マップ像を図25に示す。母材の平均結晶粒径が20μmであるのに対し、接合界面近傍に生成した微細等軸粒の平均結晶粒径は0.24μmとなっている。
【0103】
[接合温度測定]
熱画像カメラ(CINO社製 CPA−T640)を用い、上記実施例及び比較例における接合温度の測定を行った。
【0104】
実施例1及び比較例1における接合最高温度とツール回転速度の関係を図26に示す。実施例1における接合最高温度は比較例1の場合と比較して劇的に低下しており、300℃近傍の低温で炭素鋼板の接合が達成されていることが分かる。また、当該結果は、炭素鋼板(S45C)が本来有する再結晶温度(約600℃)未満の接合温度が実現されていることを示している。
【0105】
実施例3における接合中の温度変化を図27に示す。接合開始から接合温度は上昇し、接合時間終了時に最高温度となっているが、40rpmの場合は92.1℃、30rpmの場合は69.9℃と、極めて低い温度に留まっていることが分かる。また、当該結果は、アルミニウム合金板(A6061)が本来有する再結晶温度(250〜350℃)未満の接合温度が実現されていることを示している。
【符号の説明】
【0106】
2,2’・・・被接合材、
4・・・回転ツール、
6・・・接合部、
8・・・本体部(ショルダ部)、
10・・・突起部(プローブ部)、
20・・・接合構造物、
22・・・基材部、
24・・・接合部、
26・・・熱影響部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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