【実施例1】
【0018】
図1は、本実施例に係る対物レンズ10の構成を説明するための図である。対物レンズ10は、先玉埋め込みレンズである先玉レンズ11と、レンズ保持枠14と、遮光絞りである絞り15を備え、先玉レンズ11の物体側の面に、絞り15を配置した構造を有する顕微鏡対物レンズである。
図1(a)は、先玉埋め込みレンズである先玉レンズ11の断面図であり、
図1(b)は、先玉レンズ11とレンズ保持枠14の断面図であり、
図1(c)は、遮光絞りである絞り15近傍の拡大断面図である。
【0019】
図1(a)に示すように、最も物体側に配置された先玉レンズ11は、第1レンズ12と第2レンズ13からなる接合レンズであり、球の一部をカットした球欠形状に近い形状を有している。第2レンズ13は、半球面を越える球冠を有する物体側に凹面を向けたメニスカスレンズであり、第2レンズ13には、異なる屈折率を有し像側に凸面を有する第1レンズ12が埋め込まれている。第1レンズ12は、物体側に平面(第1面12a)を向けた平凸レンズである。
【0020】
第2レンズ13は、有効光束を屈折させるレンズ面に加えて、先玉レンズ11の輪郭を構成する物体側に向けられた端面13aを有している。端面13aは光軸AXと直交する第1面12aに対して傾斜しているため、端面13aの少なくとも一部は第1面12aよりも像側に形成されている。ここで、有効光束とは、対物レンズ10の瞳に入射する、最軸外光線Lと光軸AXの間の領域を通過する光束のことをいう。
【0021】
端面13aは、有効光束が通過しないレンズ部分の一部をカットすることで、有効光束が通過しない領域に形成される。これにより、端面13aよりも物体側であって第1面12aよりも像側の有効光束が通過しない領域に空間が形成される。絞り15は、この空間に配置されて、端面13aに支持される。即ち、端面13aは、絞り15を支持する支持部として機能する。
【0022】
なお、対物レンズ10は高いNAを有しているため、先玉レンズ11の半球を越える領域にも有効光束が通過する。このため、対物レンズ10では、端面13aの傾斜角(光軸AXと直交する面と端面13aの間の角度)は10°程度と小さい。
【0023】
図1(b)及び
図1(c)に示すように、先玉レンズ11は、対物レンズ10に設けられたレンズ保持枠14によって保持されている。レンズ保持枠14は、先玉レンズ11の最も物体側のレンズ面である第1面12aよりも物体側に突出した端面14aと、先玉レンズ11(第2レンズ13)に当接する当接部14cと、絞り15を支持する支持部である平面14dを備えている。レンズ保持枠14は、例えば、真鍮など、高い加工性、剛性を有する材料からなることが望ましい。
【0024】
先玉レンズ11は、第2レンズ13が接着剤により当接部14cに固定されることで、レンズ保持枠14に保持される。当接部14cは、有効光束を遮らないように、第2レンズ13上の領域であって有効光束が通過しない領域に当接する。
【0025】
端面14aは、物体側に突出した切削代14bが切削加工されることにより形成される。より詳細には、端面14aは、先玉レンズ11をレンズ保持枠14に固定した後に、切削代14bの端部が第1面12a(より厳密には、第1面12aが形成されている平面)に近づくように、切削代14bを加工することにより形成される。即ち、切削代14bの物体側の端部は第1面12aよりも物体側に突出した突出部であり、加工後においては、端面14aが突出部として機能する。
【0026】
平面14dは、物体側に向けられた平面であり、平面14d上には、接着剤により絞り15が貼り付けられる。平面14dは、端面14aよりも像側に形成されていて、また、第1面12aよりも像側に形成されている。即ち、平面14dは、先玉レンズ11がレンズ保持枠14に固定され、絞り15が平面14dに貼り付けられたときに、絞り15が第1面12aよりも突出しないように、加工前の切削代14bの端部よりも十分に像側に形成されている。
【0027】
また、平面14dは、先玉レンズ11がレンズ保持枠14に固定されているときに、光軸AXと直交する方向に関して、端面14aと第1面12aの間に位置するように、形成されている。これにより、端面14aと第1面12aの間に絞り15の配置に適した有効光束が通過しない空間が形成される。
【0028】
絞り15は、物点外から生じた不要光を遮断するために先玉レンズ11への物体側からの光の入射を制限する遮光絞りである。また、像側から入射した不要光が物体に照射されることを防止する役割も担っている。絞り15は、光軸AXに沿った方向から見たときに、第1面12aの径よりも大きな内径を有する円環形状を有していて、絞り15の厚さは、例えば、40μm程度である。また、絞り15の材質は、例えばステンレス鋼(SUS)等が使われる。絞り15は、端面13a及び平面14dに支持されて、第1面12aよりも像側で且つ当接部14cよりも物体側に配置されている。より詳細には、絞り15は、絞り15の光軸AXから遠い方の端部が接着剤により平面14dに固定され、光軸AXに近い方の端部が接着剤により端面13aに固定される。その結果、絞り15は、第1面12aよりも像側にある空間であって、光軸AXと直交する方向に関して端面14aと第1面12aの間の有効光束が通過しない空間に配置される。なお、絞り15とレンズ保持枠14と第2レンズ13で囲まれた空間は、余った接着剤を逃がすための空間として利用される。
【0029】
以上のように構成された対物レンズ10では、絞り15が第1面12aよりも像側に配置されているため、端面14aは、第1面12aと絞り15の両方よりも物体側に突出している。このため、対物レンズ10が物体に衝突する場合には、端面14aが物体に衝突し、第1面12aや絞り15が物体に直接衝突することがない。これにより、先玉レンズ11に衝撃が加わることを確実に防止することができる。
【0030】
さらに、対物レンズ10では、絞り15が第1面12aよりも像側に配置されているため、第1面12aを基準にして切削代14bの切削量を確定することができる。このため、第1面12aに対する端面14aの突出量を最小限に抑えることが可能となり、WDが光学設計上のWDに対して必要以上に短くなってしまうことを防止することができる。これにより、絞り15によって不要光を十分に除去しつつ、十分なWDを確保することができる。高NAの対物レンズほど光学設計上のWDが短くなりやすいことから、対物レンズ10が高いNAの対物レンズである場合に特に効果的である。
【0031】
従って、対物レンズ10によれば、衝突からレンズを保護しつつ、作動距離を十分に確保し、且つ、不要光を十分に除去することができる。また、対物レンズ10では、平面14dを端面14aに対して十分に像側に形成することで、絞り15の厚さについて公差が大きい場合や、貼り付ける際に絞り15が波打ったり反ったりした場合や、接着剤の厚みにバラツキを生じた場合でも、絞り15が第1面12aよりも物体側に突出することを確実に防止することができる。このため、対物レンズ10は、個体によらず安定して上記の効果を得ることができる。
【0032】
さらに、対物レンズ10では、絞り15は、先玉レンズ11からレンズ保持枠14にまで伸びている。これにより、先玉レンズ11とレンズ保持枠14を接着している接着剤が絞り15によって覆い隠されるため、接着剤への光の入射に起因する散乱光の発生を防止することができる。
【0033】
図2は、顕微鏡対物レンズ10の組立手順を示すフローチャートである。
図2を参照しながら、対物レンズ10の組立方法の一例について具体的に説明する。
【0034】
まず、先玉レンズ11をレンズ保持枠14に当接させて、接着剤で固定する(ステップS1)。ここでは、切削代14bの物体側の端部が第1面12aよりも物体側に突出するように、また、平面14dが第1面12aよりも像側に位置するように、先玉レンズ11に当接部14cを当接させる。そして、先玉レンズ11とレンズ保持枠14を接着剤で接着することで、先玉レンズ11をレンズ保持枠14に固定する。
【0035】
次に、レンズ保持枠14の突出部を加工する(ステップS2)。ここでは、突出部である切削代14bの端部が第1面12aに近づくように、切削代14bを加工して、端面14aを形成する。
【0036】
最後に、絞り15を配置して固定する(ステップS3)。ここでは、絞り15を先玉レンズ11及びレンズ保持枠14で支持し、第1面12aよりも像側に配置して固定する。より詳細には、絞り15の光軸AXから遠い方の端部を平面14dに配置して接着剤により固定し、光軸AXに近い方の端部を端面13aに配置し接着剤により固定する。
【0037】
図3は、顕微鏡対物レンズ10の別の組立手順を示すフローチャートである。対物レンズ10は、
図2に示す組立手順の代わりに
図3に示す組立手順に従って組み立てられてもよい。なお、
図3に示す組立手順は、
図2のステップS3で行われる作業と同様の作業が、先玉レンズ11をレンズ保持枠14に固定する手順の次に行われ(ステップS2a)、
図2のステップS2で行われる作業と同様の作業が、それに続いて行われる(ステップS3a)点が、
図2に示す組立手順とは異なっている。
【0038】
上述したように、対物レンズ10では、絞り15が第1面12aよりも像側に位置しているため、切削代14bの切削量は、第1面12aとの関係で確定する。従って、
図2及び
図3に示すように、対物レンズ10の組み立てでは、レンズ保持枠14に先玉レンズ11を固定した後であれば、任意のタイミングで突出部を加工することができる。
【実施例2】
【0039】
図4は、本実施例に係る対物レンズ20の構成を説明するための図である。対物レンズ20は、対物レンズ10と同様に、先玉埋め込みレンズ(先玉レンズ21)と、レンズ保持枠14と、遮光絞りである絞り15を備え、先玉埋め込みレンズの物体側の面に、絞り15を配置した構造を有する顕微鏡対物レンズである。
図4(a)は、先玉埋め込みレンズである先玉レンズ21の断面図であり、
図4(b)は、先玉レンズ21とレンズ保持枠14の断面図であり、
図4(c)は、絞り15近傍の拡大断面図である。
【0040】
対物レンズ20は、先玉レンズ11の代わりに先玉レンズ21を備える点が、対物レンズ10とは異なっている。なお、先玉レンズ21は、
図4(a)に示すように、平凸レンズである第1レンズ22とメニスカスレンズである第2レンズ23からなる接合レンズであり、球の一部をカットした球欠形状に近い形状を有している点は、対物レンズ10の先玉レンズ11と同様である。また、第2レンズ23は、有効光束を屈折させるレンズ面に加えて、先玉レンズ(先玉レンズ21)の輪郭を構成する物体側に向けられた端面(端面23a)を有している点も、対物レンズ10の第2レンズ13と同様である。
【0041】
ただし、第2レンズ23は、絞り支持部である端面23aが第1面22aよりも像側に形成された光軸AXと直交する平面であり、第1面22aに対して平行である点が、第2レンズ13とは異なっている。即ち、先玉レンズ21では、第1面22aと端面23aの間に段差が形成されている。なお、第1面22aと端面23aは、光軸AXと平行な面によって接続されている。その他の点は、対物レンズ20は、対物レンズ10と同様である。
【0042】
対物レンズ20の組み立て手順は、以下の点を除き、対物レンズ10の組み立て手順と同様である。
図2及び
図3のステップS1において、先玉レンズ21は、切削代14bの物体側の端部が第1面22aよりも物体側に突出するように、また、平面14dが端面23aと同一平面上に位置するように、レンズ保持枠14に固定される。その後、絞り15は、端面23aと平面14dに接着剤で固定される。
【0043】
対物レンズ20によっても、対物レンズ10と同様に、衝突からレンズを保護しつつ、作動距離を十分に確保し、且つ、不要光を十分に除去することができる。また、対物レンズ20によれば、先玉レンズ21と絞り15の接触領域が平面となるため、対物レンズ10に比べて絞り15をより確実に固定することができる。
【実施例3】
【0044】
図5は、本実施例に係る対物レンズ30の構成を説明するための図である。対物レンズ30は、対物レンズ10と同様に、先玉埋め込みレンズ(先玉レンズ31)と、レンズ保持枠14と、遮光絞りである絞り15を備え、先玉埋め込みレンズの物体側の面に、絞り15を配置した構造を有する顕微鏡対物レンズである。
図5(a)は、先玉埋め込みレンズである先玉レンズ31の断面図であり、
図5(b)は、先玉レンズ31とレンズ保持枠14の断面図であり、
図5(c)は、絞り15近傍の拡大断面図である。
【0045】
対物レンズ30は、先玉レンズ21の代わりに先玉レンズ31を備える点が、対物レンズ20とは異なっている。なお、先玉レンズ31は、第1レンズ32の第1面32aと第2レンズ33の端面33aが光軸AXに対して傾斜した面で接続されている点が、先玉レンズ21とは異なっている。その他の点は、対物レンズ30は、対物レンズ20と同様である。また、対物レンズ30の組み立て手順は、対物レンズ20の組み立て手順と同様である。
【0046】
対物レンズ30によっても、対物レンズ10及び対物レンズ20と同様に、衝突からレンズを保護しつつ、作動距離を十分に確保し、且つ、不要光を十分に除去することができる。また、対物レンズ30によっても、対物レンズ20と同様に、先玉レンズ21と絞り15の接触領域が平面となるため、絞り15をより確実に固定することができる。さらに、対物レンズ30によれば、第1面32aと端面33aを接続する面が傾斜しているため、絞り15を第2レンズ33に配置する際に、絞り15を端面33a上に案内するガイド面として機能する。このため、絞り15を容易に所定位置に配置することができる。
【0047】
上述した各実施例は、発明の理解を容易にするために具体例を示したものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。顕微鏡対物レンズ、及び、顕微鏡対物レンズの組立方法は、特許請求の範囲により規定される本発明の思想を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。この明細書で説明される個別の実施例の文脈におけるいくつかの特徴を組み合わせて単一の実施例としてもよい。
【0048】
絞り15が先玉レンズとレンズ保持枠14の両方に支持される例を示したが、絞り15は、先玉レンズに支持されていればよく、レンズ保持枠14に支持されていなくてもよい。即ち、先玉レンズの支持部でのみ絞り15が支持されていてもよい。
【0049】
また、絞り15が接着剤により先玉レンズとレンズ保持枠14に固定される例を示したが、絞り15は、他の方法により固定されてもよい。例えば、絞り15は蒸着により形成されてもよい。
【0050】
光学設計上のWDを長くするためには、先玉レンズは、第1レンズを第2レンズに埋め込んだ接合レンズである埋め込みレンズであることが望ましいが、先玉レンズは埋め込みレンズに限られない。先玉レンズは、例えば、単レンズであってもよい。
【0051】
また、先玉レンズが平凸レンズからなる第1レンズを含む接合レンズである例を示したが、第1レンズは平凸レンズに限られない。物体側のレンズ面は曲率を有していてもよく、例えば、凹面であってもよい。
【0052】
なお、レンズ保持枠14と絞り15が別体として構成される例を示したが、一定以上の加工精度が得られる場合には、レンズ保持枠14と絞り15は一体に形成されても良い。