(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579656
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】接続頭部を有する高圧燃料噴射管及びその頭部成形方法
(51)【国際特許分類】
F02M 55/02 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
F02M55/02 330D
F02M55/02 320P
F02M55/02 330A
F02M55/02 330B
F02M55/02 330C
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-237556(P2015-237556)
(22)【出願日】2015年12月4日
(65)【公開番号】特開2017-101645(P2017-101645A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000120249
【氏名又は名称】臼井国際産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】近藤 啓明
(72)【発明者】
【氏名】田上 昭雄
【審査官】
稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−201254(JP,A)
【文献】
特開2008−133817(JP,A)
【文献】
特開2009−275278(JP,A)
【文献】
特開2004−36441(JP,A)
【文献】
特開2002−54770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面に防錆被膜が施された細径厚肉鋼管の接続端部に、球面状のシート面と、該シート面から軸芯方向に間隔をおいて形成された環状フランジ部と、前記シート面に連なって前記環状フランジ部まで先端に向かって先細りとなる円錐面とから形成され外側周面を相手座部への截頭円錐状又は截頭円弧状のシート面となす接続頭部を有し、前記接続頭部の首下部に嵌着した外表面に防錆被膜が施されたワッシャーを備えた高圧燃料噴射管において、前記接続頭部の首下部とワッシャー端部との当接部を、前記防錆被膜を有しない金属対金属の接触構造としたことを特徴とする接続頭部を有する高圧燃料噴射管。
【請求項2】
予め定尺に切断された外表面に防錆被膜が施された細径厚肉鋼管の接続端部付近に、外表面に防錆被膜が施されたワッシャーを外嵌し、このワッシャーより先端側に接続のための頭部加工代を有してチャックに保持せしめ、しかる後当該鋼管の先端部を同軸外方から頭部型を備えたパンチ部材による押圧によって、外側周面を相手座部への截頭円錐状又は截頭円弧状のシート面とする頭部加工を行わしめて接続頭部を成形するとともに、当該接続頭部の首下部外周面を前記ワッシャーが覆うように成形する接続頭部を有する高圧燃料噴射管の頭部成形方法において、前記細径厚肉鋼管の接続頭部の首下部に相当する部位の防錆被膜と、前記接続頭部の首下部に当接する前記ワッシャー端部の防錆被膜をそれぞれ予め剥離除去した状態で頭部加工を施し、前記接続頭部の首下部とワッシャー端部との当接部が金属対金属の接触構造となるように成形することを特徴とする接続頭部を有する高圧燃料噴射管の頭部成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばディーゼル内燃機関における燃料の供給路として配設多用される管径4mm乃至20mm、肉厚1mm乃至8mm程度の比較的細径からなる厚肉鋼管による接続頭部を有する高圧燃料噴射管及びその頭部成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の接続頭部を有する高圧燃料噴射管としては、
図6に例示するように、接続頭部の首下部にワッシャー(接続座金)を嵌着したものが知られている(特許文献1、2参照)。このワッシャー付き高圧燃料噴射管は、厚肉細径鋼管11の接続端部に、外側周面を球面状のシート面13Aと、該シート面13Aから軸芯方向に間隔を隔てて設けた環状フランジ部15Aと、前記シート面13Aに連なって前記環状フランジ部15Aまで先端に向って先細りとなる円錐面14Aとからなる接続頭部12Aと、該接続頭部12Aの首下部に嵌着したワッシャー(接続座金)16Aとから構成されている。ここで、厚肉鋼管11は、予め定寸に切断されたステンレス鋼、トリップ鋼、高圧配管用炭素鋼、合金鋼等の鋼材よりなる管径が4mm乃至20mm、肉厚tが1mm乃至8mm程度の比較的細径厚肉管からなり、かつ予め外表面に防錆のための亜鉛めっき層等の防錆被膜11−1が施されたものが使用される。さらに、ワッシャー(接続座金)16Aについても外表面に前記と同様の亜鉛めっき層等の防錆被膜16A−1が施されたものが使用される。また、ワッシャー(接続座金)16A−2については外表面のみならず内表面にも前記と同様の亜鉛めっき層等の防錆被膜16A−1が施されたものが使用される。
【0003】
上記ワッシャー付き高圧燃料噴射管の頭部を成形する方法としては、例えば
図7に示すように、外表面に防錆のための亜鉛めっき層等の防錆被膜11−1が施された厚肉鋼管11の接続頭部付近に、当該鋼管と同様の亜鉛めっき層等の防錆被膜16A−1が施されたワッシャー16Aを頭部加工代を有して予め外嵌した状態で当該厚肉鋼管1をチャック17に保持し、その状態で当該鋼管11の先端部をパンチ部材18により軸芯方向へ押圧(プレス)すると、厚肉鋼管11の頭部加工代の部分が塑性流動し、接続頭部12Aが成形されると同時に、該接続頭部12Aの首下部外周面をワッシャー16Aが覆い、厚肉鋼管11の先端部に、外側周面を相手座部への球面状のシート面13Aと、該シート面13Aから軸芯方向に間隔をおいて設けた環状フランジ部15Aと、前記シート面13Aに連なって前記環状フランジ部15Aまで先端に向って先細りとなる円錐面14Aとから構成されたワッシャー付き高圧燃料噴射管が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4636515号
【特許文献2】特許5455303号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ディーゼル内燃機関におけるコモンレールシステムの高圧化に伴い、インジェクターの噴射口や稼動部のクリアランスが厳しくなる中で、そのディーゼル内燃機関向けの高圧燃料噴射管において端末の外面清浄度が要求される状況となってきた。しかるに、上記した従来の高圧燃料噴射管の頭部成形方法では、高圧化に伴う材料硬度(強度)や成型荷重のアップ等により成型時に接続頭部の首下部とワッシャ端部との当接部における亜鉛めっき層等の防錆被膜11−1、16A−1の剥離によるはみ出しが顕著となり、外面清浄度の要求が阻害される原因の一つとなっていること、又、この亜鉛めっき層等の防錆被膜の剥離による軸力の低下及びクリープ(滑り)による締結ナット締付け強度の低下の原因となる等の問題点があった。
【0006】
本発明は前記従来技術の有する前記問題点、即ち、成形時に発生する接続頭部の首下部とワッシャ端部との当接部における亜鉛めっき層等の剥離によるはみ出しを無くし、外面清浄度の向上と、軸力及び締付け強度の低下防止がはかられる、接続頭部を有する高圧燃料噴射管とその頭部成形方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る接続頭部を有する高圧燃料噴射管は、外表面に防錆被膜が施された細径厚肉鋼管の接続端部に、球面状のシート面と、該シート面から軸芯方向に間隔をおいて形成された環状フランジ部と、前記シート面に連なって前記環状フランジ部まで先端に向かって先細りとなる円錐面とから形成され外側周面を相手座部への截頭円錐状又は截頭円弧状のシート面となす接続頭部を有し、前記接続頭部の首下部に嵌着した外表面に防錆被膜が施されたワッシャーを備えた高圧燃料噴射管において、前記接続頭部の首下部とワッシャー端部との当接部を、前記防錆被膜を有しない金属対金属の接触構造としたことを特徴とするものである。
【0008】
又、本発明に係る高圧燃料噴射管の頭部成形方法は、予め定尺に切断された外表面に防錆被膜が施された細径厚肉鋼管の接続端部付近に、外表面に防錆被膜が施されたワッシャーを外嵌し、このワッシャーより先端側に接続のための頭部加工代を有してチャックに保持せしめ、しかる後当該鋼管の先端部を同軸外方から頭部型を備えたパンチ部材による押圧によって、外側周面を相手座部への截頭円錐状又は截頭円弧状のシート面とする頭部加工を行わしめて接続頭部を成形するとともに、当該接続頭部の首下部外周面を前記ワッシャーが覆うように成形する接続頭部を有する高圧燃料噴射管の頭部成形方法において、前記細径厚肉鋼管の接続頭部の首下部に相当する部位の防錆被膜と、前記接続頭部の首下部に当接する前記ワッシャー端部の防錆被膜をそれぞれ予め剥離除去した状態で頭部加工を施し、前記接続頭部の首下部とワッシャー端部との当接部が金属対金属の接触構造となるように成形することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高圧燃料噴射管は、細径厚肉鋼管の接続頭部の首下部に相当する部位の防錆被膜と、接続頭部の首下部外周面と当接するワッシャー端部の防錆被膜をそれぞれ無くして、当該接続頭部の首下部外周面とワッシャー端部との当接部を金属対金属の接触構造としたことにより、防錆被膜に起因する外面清浄度の低下が防止され高外面清浄度を確保できると共に、防錆被膜の剥離除去による軸力の低下及びクリープ(滑り)による締結ナット締付け強度の低下を防止できるという優れた効果を奏する。
【0010】
又、本発明の頭部成形方法によれば、細径厚肉鋼管の接続頭部の首下部に相当する部位の防錆被膜と、前記接続頭部の首下部に当接する前記ワッシャー端部の防錆被膜をそれぞれ予め剥離除去した状態で頭部加工を施すことにより、接続頭部成形時に押圧力により押し出される防錆被膜が無くなり当該防錆被膜のはみ出しを皆無にできるので、防錆被膜の剥離除去による軸力の低下及びクリープ(滑り)による締結ナット締付け強度の低下防止がはかられる、接続頭部を有する高圧燃料噴射管を既存の設備で容易に製造することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の接続頭部を有する高圧燃料噴射管及びその頭部成形方法に係る加工工程の一実施例を示す縦断面による説明図である。
【
図2】
図1に示す頭部成形方法に係る頭部成形前の高圧燃料噴射管の接続頭部に相当する部分を拡大して示す縦断面図である。
【
図3】
図1に示す頭部成形方法に係る頭部成形前のワッシャーを拡大して示す縦断面図である。
【
図4】
図1に示す頭部成形方法により成形された高圧燃料噴射管の接続頭部を拡大して示す縦断面図である。
【
図5】断面形状の異なるワッシャーを用いた高圧燃料噴射管の接続頭部例を示す縦断面図である。
【
図6】従来の接続頭部を有する高圧燃料噴射管の一例を示す縦断面図である。
【
図7】従来の接続頭部を有する高圧燃料噴射管の頭部を成形する方法の一例を示す縦断面による説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いる厚肉鋼管1には、前記したように予め定寸に切断されたステンレス鋼、トリップ鋼、高圧配管用炭素鋼、合金鋼等の鋼材よりなる管径が4mm乃至20mm、肉厚tが1mm乃至8mm程度の比較的細径厚肉管からなり、かつ外表面に防錆のための亜鉛めっき層等の防錆被膜1−2が施されたものが使用される。さらに、ワッシャー(接続座金)6Aについても外表面に前記と同様の亜鉛めっき層等の防錆被膜6A−2が施されたものが使用される。
【0013】
図1に示す高圧燃料噴射管の頭部成形方法は、前記厚肉鋼管1の接続頭部付近にワッシャー6Aを頭部加工代を有して予め外嵌する。厚肉鋼管1は、
図2に示すように接続頭部の首下部に相当する部位の防錆被膜1−2が予め剥離除去されて、鋼素地部1−1を有している。又、ワッシャー6Aは、
図3に示すように接続頭部の首下部外周面と当接するワッシャー端部の防錆被膜6A−2が予め剥離除去されて、鋼素地部6A−1を有している。
続いて、前記状態においてワッシャー6A及び厚肉鋼管1をチャック7に保持した状態で当該鋼管の先端部をパンチ部材8により軸芯方向へ押圧(プレス)すると、厚肉鋼管1の頭部加工代の部分が塑性流動し、接続頭部2Aが成形されると同時に、該接続頭部2Aの首下部外周面をワッシャー6Aが覆い、厚肉鋼管1の先端部に、外側周面を相手座部への球面状のシート面3Aと、該シート面3Aから軸芯方向に間隔をおいて設けた環状フランジ部5Aと、前記シート面3Aに連なって前記環状フランジ部5Aまで先端に向って先細りとなる円錐面4Aとから構成され、かつ、前記接続頭部2Aの首下部とワッシャー端部との当接部が、前記防錆被膜1−2、6A−2を有しない金属対金属の接触構造となしたワッシャー付き高圧燃料噴射管が得られる(
図4)。
なお、ワッシャー6Aの防錆被膜6A−2の剥離除去範囲としては、特に限定するものではないが、環状フランジ部5Aの外径より僅かに大きい径で除去しておくことが望ましい。即ち、防錆被膜6A−2の除去範囲が小さいと、パンチ部材8による軸芯方向押圧時に防錆被膜6A−2のはみ出しが発生し、他方、除去範囲が大き過ぎると外観が損なわれるためである。
【0014】
本発明の高圧燃料噴射管の接続頭部は、上記のように細径厚肉鋼管1の接続頭部2Aの首下部に相当する部位の防錆被膜1−2と、接続頭部2Aの首下部外周面と当接するワッシャー6A端部の防錆被膜6A−2をそれぞれ無くして、当該接続頭部の首下部外周面とワッシャー6A端部との当接部が金属対金属の接触構造となっているので、防錆被膜1−2、6A−2に起因する外面清浄度の低下が防止され高外面清浄度を確保できると共に、防錆被膜の剥離除去による軸力の低下及びクリープ(滑り)による締結ナット締付け強度の低下を防止できる。
【0015】
又、本発明の頭部成形方法によれば、細径厚肉鋼管1の接続頭部2Aの首下部に相当する部位の防錆被膜1−2と、前記接続頭部の首下部に当接する前記ワッシャー端部6Aの防錆被膜6A−2をそれぞれ予め剥離除去した状態で頭部加工を施すので、接続頭部成形時に押圧力により押し出される接続頭部首下部の防錆被膜1−2と接続頭部首下部に当接するワッシャー端部6Aの防錆被膜6A−2のはみ出しが皆無となり、防錆被膜の剥離除去による軸力の低下及びクリープ(滑り)による締結ナット締付け強度の低下防止がはかられる、接続頭部を有する高圧燃料噴射管を既存の設備で容易に製造することができる。
【0016】
なお、前記
図1〜
図4に示す実施例では、ワッシャーとして円筒状の筒体を用いた接続頭部を例にとり説明したが、例えば
図5(a)に示すように円筒状の筒体の内側内周に段付き拡径部6B−1を有するワッシャー6Bや、
図5(b)に示すようにスリーブワッシャー6Cを用いた高圧燃料噴射管にも適用できることはいうまでもない。また、前記
図1〜
図4に示す実施例における高圧料噴射管の接続頭部2Aの外表面の防錆被膜1−2は、必ずしも必要とするものではなく、なくてもよい。その場合は接続頭部2Aに相当する部位の防錆被膜1−2を予め剥離除去した状態で頭部加工を施す。
【符号の説明】
【0017】
1 厚肉鋼管
1−1、6A−1 鋼素地部
1−2、6A−2 防錆被膜
2A 接続頭部
3A シート面
4A 円錐面
5A 環状フランジ部
6A ワッシャー