特許第6579709号(P6579709)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6579709プロテインA固定化有機高分子担体の製造方法
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  • 特許6579709-プロテインA固定化有機高分子担体の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579709
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】プロテインA固定化有機高分子担体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 17/08 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
   C07K17/08
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-219939(P2015-219939)
(22)【出願日】2015年11月9日
(65)【公開番号】特開2017-88535(P2017-88535A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】内山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小木戸 謙
【審査官】 金田 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−1462(JP,A)
【文献】 BIOTECHNOLOGY AND BIOENGINEERING,2002年,Vol. 80, No. 5,pp. 481-489
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基を有する有機高分子担体のエポキシ基をアミノ化して担体αを得る工程(A)と、
前記工程(A)で得られた前記担体αのアミノ基をカルボキシル化して担体βを得る工程(B)と、
前記工程(B)で得られた前記担体βのカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化して担体γを得る工程(C)と、
前記工程(C)で得られた前記担体γに、末端にヒスチジンタグを有するプロテインAを用いて、前記プロテインAを固定化して担体δを得る工程(D)と、
前記工程(D)で得られた前記担体δをアミド化する工程(E)と、
を有し、
前記工程(D)において、pH6.0以上で前記プロテインAを固定化することを特徴とするプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【請求項2】
前記有機高分子担体が多孔質モノリス型担体であることを特徴とする請求項1に記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【請求項3】
前記有機高分子担体がグリシジルメタクリレートとエチレングリコールジメタクリレートの共重合体からなることを特徴とする請求項1または2に記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(A)において、アンモニアを反応させることにより、前記有機高分子担体をアミノ化することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(B)において、前記担体αのアミノ基に環状酸無水物を反応させることにより、前記担体αをカルボキシル化することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【請求項6】
前記環状酸無水物が5員環状無水物であることを特徴とする請求項5に記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【請求項7】
前記環状酸無水物が無水コハク酸または2−メチルコハク酸無水物であることを特徴とする請求項5または6に記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【請求項8】
前記工程(B)において、前記担体βのカルボキシル基の密度を150μmol/mL〜500μmol/mLとすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【請求項9】
前記工程(C)において、35℃〜60℃で、前記担体βのカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【請求項10】
前記工程(E)において、2−アミノエタノールおよびトリスヒドロキシメチルアミノメタンの少なくともいずれか一方を用いて、前記担体δをアミド化することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインA固定化有機高分子担体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ医薬品は、従来の化学合成の低分子医薬では効果の低かった病気に対し、効果的かつ副作用の少ない医薬品として期待されている。バイオ医薬品の製造工程には、バイオ医薬品を含有する培養液から、その他の不純物を分離する工程が必要とされる。
【0003】
液体クロマトグラフィーは、バイオ医薬品の分離精製に重要な工程である。例えば、抗体医薬品の主成分である免疫グロブリンG(以下、「IgG」と言う。)を分離する手法としては、例えば、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー等が用いられる。
アフィニティクロマトグラフィーでは、精製対象となる目的物質と、選択的に相互作用する物質(リガンド)とを担体に固定しておき、目的物質をリガンドに特異的に吸着させることにより、不純物と分離している。また、吸着された目的物質は、相互作用を弱めることで溶出され、これを回収することで精製される。ここで、リガンドとしては、一般的にタンパク質が用いられる。特に、リガンドとしてプロテインAを用いた、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーは、抗体医薬の主成分であるIgGを高い選択性で吸着することが可能である。このプロテインAアフィニティクロマトグラフィーは、抗体医薬製造工程に広く用いられている。
【0004】
しかしながら、粒子充填型の液体クロマトグラフィーを用いた場合、粒子表面のメソポア中でのバイオマクロ分子の拡散律速を考慮せねばならず、精製を十分に行うためには、精製工程に長時間を要する。
精製工程に長時間を要すると、単位時間当たりの生産性が抑制され、また、バイオ医薬品の凝集体の生成等が懸念される。
【0005】
一方、多孔質モノリス型クロマトグラフィーは、行き止まりのない貫通型の大きな流路を有する多孔体を分離媒体としたクロマトグラフィーである。この分離媒体は、バイオマクロ分子の分離に不利なメソポアを排除した構造を取っており、分子の自然拡散に依存しないため、高速での分離精製が可能である。
例えば、特許文献1および特許文献2では、細孔径を高度に調整した多孔質シリカモノリス型担体を分離媒体とし、表面にプロテインAを固定化して、高流速・短時間でIgG精製を試みている。
【0006】
しかしながら、多孔質シリカモノリス型担体は強アルカリの溶液に曝すことができないため、IgG精製後の後洗浄工程において汎用的に用いられる苛性ソーダ水溶液を用いることができないという課題がある。このような課題から、分離媒体として用いられる担体は有機高分子担体であることが望ましい。
【0007】
BIA Separations d.o.o株式会社製のCIM(登録商標)r−Protein A(商品名)は、多孔質モノリス型有機高分子担体にプロテインAを固定化したアフィニティクロマトグラフィーであり、5CV/min〜8CV/minという超高流速で、精製対象となるIgGの吸着・溶出を行なうことが可能である。
しかしながら、CIM(登録商標)r−Protein A(商品名)は、粒子充填型の液体クロマトグラフィーと比較して動的吸着容量 (以下、「DBC」と言う。) が低く、およそ10mg/mL−ゲル程度である。そのため、高速性を生かしても、単位時間当たりの生産コストは十分に優れているとは言い難い。IgGの工業的な精製工程に用いるには、これよりも高いDBCが要求される。なお、「mg/mL−ゲル」は、ゲルの単位体積当たりの吸着量(mg)を示す。
【0008】
多孔質モノリス型有機高分子担体のDBCを向上させるには、多孔質モノリス型有機高分子担体へのアフィニティリガンドの導入効率を向上させる必要がある。しかしながら、多孔質モノリス型有機高分子担体へのアフィニティリガンドの導入を検討した事例は、粒子状担体と比較して著しく少ない。
例えば、非特許文献1では、市販の多孔質モノリス型有機高分子担体 CIM(登録商標) epoxy disk(BIA Separations d.o.o株式会社製)へのプロテインAの固定化を検討し、評価を行なっている。しかしながら、IgGのDBCは9mg/mL−ゲルに留まっており、DBCが十分とは言い難かった。
このように、従来、多孔質モノリス型有機高分子担体へのプロテインAの固定化法を最適化することは十分に検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015−2008号公報
【特許文献2】特開2012−1462号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J.Sep.Sci.2004,27,p811−818
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、多孔質モノリス型有機高分子担体の表面修飾効率を向上するプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するため、多孔質モノリス型有機高分子担体への表面修飾工程の詳細な検討を行なった。その結果、本発明者等は、エポキシ基を有する有機高分子担体のエポキシ基をアミノ化して担体αを得る工程(A)と、工程(A)で得られた前記担体αのアミノ基をカルボキシル化して担体βを得る工程(B)と、工程(B)で得られた前記担体βのカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化して担体γを得る工程(C)と、工程(C)で得られた担体γに、末端にヒスチジンタグを有するプロテインAを用いて、プロテインAを固定化して担体δを得る工程(D)と、工程(D)で得られた担体δをアミド化する工程(E)と、を有し、工程(D)において、pH6.0以上でプロテインAを固定化することにより、プロテインAの固定化効率が著しく向上することを見出しし、本発明を完成するに至った。
【0013】
[1]エポキシ基を有する有機高分子担体のエポキシ基をアミノ化して担体αを得る工程(A)と、前記工程(A)で得られた前記担体αのアミノ基をカルボキシル化して担体βを得る工程(B)と、前記工程(B)で得られた前記担体βのカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化して担体γを得る工程(C)と、前記工程(C)で得られた前記担体γに、末端にヒスチジンタグを有するプロテインAを用いて、前記プロテインAを固定化して担体δを得る工程(D)と、前記工程(D)で得られた前記担体δをアミド化する工程(E)と、を有し、前記工程(D)において、pH6.0以上で前記プロテインAを固定化することを特徴とするプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【0014】
[2]前記有機高分子担体が多孔質モノリス型担体である[1]に記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【0015】
[3]前記有機高分子担体がグリシジルメタクリレートとエチレングリコールジメタクリレートの共重合体からなる[1]または[2]に記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【0016】
[4]前記工程(A)において、アンモニアを反応させることにより、前記有機高分子担体をアミノ化する[1]〜[3]のいずれかに記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【0017】
[5]前記工程(B)において、前記担体αのアミノ基に環状酸無水物を反応させることにより、前記担体αをカルボキシル化する[1]〜[4]のいずれかに記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【0018】
[6]前記環状酸無水物が5員環状無水物である[5]に記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【0019】
[7]前記環状酸無水物が無水コハク酸または2−メチルコハク酸無水物である[5]または[6]に記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【0020】
[8]前記工程(B)において、前記担体βのカルボキシル基の密度を150μmol/mL〜500μmol/mLとする[1]〜[7]のいずれかに記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【0021】
[9]前記工程(C)において、35℃〜60℃で、前記担体βのカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化する[1]〜[8]のいずれかに記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【0022】
[10]前記工程(E)において、2−アミノエタノールおよびトリスヒドロキシメチルアミノメタンの少なくともいずれか一方を用いて、前記担体δをアミド化する[1]〜[9]のいずれかに記載のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、DBCの高いプロテインA固定化有機高分子担体を製造することができる。このプロテインA固定化有機高分子担体を用いることにより、IgGの分離精製を、高速・短時間で行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】末端にヒスチジンタグを有するプロテインAとN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化多孔質モノリス型有機高分子担体との反応機構を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0026】
[プロテインA固定化有機高分子担体の製造方法]
本実施形態のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法は、エポキシ基を有する有機高分子担体のエポキシ基をアミノ化して担体αを得る工程(A)と、前記工程(A)で得られた前記担体αのアミノ基をカルボキシル化して担体βを得る工程(B)と、前記工程(B)で得られた前記担体βのカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化して担体γを得る工程(C)と、前記工程(C)で得られた前記担体γに、末端にヒスチジンタグを有するプロテインAを用いて、前記プロテインAを固定化して担体δを得る工程(D)と、前記工程(D)で得られた前記担体δをアミド化する工程(E)と、を有し、前記工程(D)において、pH6.0以上で前記プロテインAを固定化する。
【0027】
「工程(A)」
本実施形態で用いられる有機高分子担体は、エポキシ基を有する。エポキシ基の由来は、特に限定されないが、グリシジルメタクリレート等のエポキシ含有化合物を単量体とする共重合体であることが好ましい。有機高分子担体におけるエポキシ基の含有量は、所望のプロテインA固定化量を得るために十分な量であることが好ましく、1μmol/mL−ゲル〜3000μmol/mL−ゲルであることが好ましく、1000μmol/mL−ゲル〜2000μmol/mL−ゲルであることがより好ましい。
【0028】
本実施形態で用いられる有機高分子担体は、貫通型の流路を有する多孔質モノリス型有機高分子担体であることが好ましい。
多孔質モノリス型有機高分子担体の流路径は、特に限定されないが、500nm〜1μmであることが好ましい。
多孔質モノリス型有機高分子担体の流路径が500nm以上であれば、カラムの背圧が上昇して高速性が失われることがない。一方、多孔質モノリス型有機高分子担体の流路径が1μm以下であれば、多孔質モノリス型有機高分子担体の表面積が少なくなり過ぎて、抗体の回収量が低下することがない。
上記の流路径は、細孔径分布測定器(商品名:Pascal 440、Thermo Scientific社製)を用いて、水銀圧入法により測定した値である。
【0029】
これらの特徴を有する多孔質モノリス型有機高分子担体としては、具体的には、BIA Separations d.o.o株式会社製の CIM(登録商標) epoxy(商品名)が挙げられる。
CIM(登録商標) epoxyは、グリシジルメタクリレート(単量体)とエチレングリコールジメタクリレート(架橋剤)の共重合体である。また、CIM(登録商標) epoxyは、平均流路600nm〜750nmの貫通型の流路を有する。
【0030】
工程(A)において、有機高分子担体のエポキシ基をアミノ化して、エポキシ基をアミノ化した有機高分子担体(以下、「担体α」と言う。)を得る方法は、特に限定されず、如何なる方法も用いられる。なお、有機高分子担体のエポキシ基をアミノ化するとは、有機高分子担体にアミノ基を導入することである。有機高分子担体のエポキシ基をアミノ化する方法としては、例えば、5%〜28%アンモニア水、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等をアミノ化剤として用いる方法が用いられる。
【0031】
有機高分子担体へのアミノ基の導入は、イオンクロマトグラフィーによって確認、定量する。有機高分子担体のエポキシ基をアミノ化処理して担体αとした後、担体αを希塩酸で洗浄してアミノ基を塩化アンモニウムとする。続いて、担体αを水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、その洗液の塩化物イオン濃度をイオンクロマトグラフィーで測定することにより、アミノ基を定量する。
【0032】
「工程(B)」
工程(B)において、工程(A)で得られた担体αのアミノ基をカルボキシル化して担体βを得る方法は、特に限定されず、如何なる方法も用いられる。担体αのアミノ基をカルボキシル化する方法としては、一般的に、担体αのアミノ基とカルボキシル基との間にスペーサーを導入する方法が挙げられる。なお、担体αのアミノ基をカルボキシル化するとは、担体αにカルボキシル基を導入することである。
担体αのアミノ基をカルボキシル化する方法としては、担体αのアミノ基に環状酸無水物を反応させることが好ましい。
環状酸無水物としては、無水コハク酸、2−メチルコハク酸無水物、2,2−ジメチルコハク酸無水物、o−アセチル−リンゴ酸無水物、ジアセチル−酒石酸無水物等の5員環状無水物、グルタル酸無水物、3−メチルグルタル酸無水物、ジグリコール酸無水物等の6員環状無水物等が挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基の導入効率が優れている点から、5員環状無水物であることが好ましく、無水コハク酸または2−メチルコハク酸無水物であることがより好ましい。
これらの環状酸無水物を用いた開環反応により、担体αにカルボキシル基を導入する。
【0033】
工程(B)において、担体βのカルボキシル基の密度を100μmol/mL〜500μmol/mLとすることが好ましく、150μmol/mL〜300μmol/mLとすることがより好ましい。
担体βのカルボキシル基の密度を上記の範囲とすることにより、カルボキシル基のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化の効率を増大させることができる。
【0034】
担体αへのカルボキシル基の導入は、イオンクロマトグラフィーによって確認、定量する。上記アミノ基の定量法と同様にして、担体αのアミノ基量を定量し、カルボキシル基導入工程前のアミノ基量と、同工程後のアミノ基量を比較し、同工程後に減少したアミノ基量が、環状酸無水物と反応した量と判断する。
【0035】
「工程(C)」
工程(C)において、工程(B)で得られた担体βのカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化して担体γを得る方法は、特に限定されず、如何なる方法も用いられる。
担体βのカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化する方法としては、例えば、縮合剤とN−ヒドロキシスクシンイミドを溶媒に溶解した反応溶液を、担体βに接触させる方法が挙げられる。
【0036】
縮合剤としては、例えば、N,N−ジイソプロピルカルボジイミド、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド型縮合剤、o−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、o−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート等のウロニウム型縮合剤、クロロトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート、(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート等のホスホニウム型縮合剤等が挙げられる。これらの中でも、溶媒への溶解性を考慮して、N,N−ジイソプロピルカルボジイミドが特に好ましい。
【0037】
カルボジイミド型縮合剤を用いる際、縮合剤とN−ヒドロキシスクシンイミドを溶媒に溶解してから10分以内に、反応溶液を担体βに接触させることが好ましい。調整後10分以内の反応溶液を用いれば、縮合剤が分解することがないため、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル化の効率が低下することを防止できる。なお、縮合剤の分解の反応機構は、非特許文献 (Biochemistry 1987,26,2155−2161.)に記載されている。
【0038】
工程(C)において、加熱条件下で担体βのカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化することが好ましい。加熱温度は、35℃〜60℃であることが好ましく、40℃〜50℃であることがより好ましい。
35℃〜60℃で、担体βのカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化することにより、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル化効率を増大させることができる。
【0039】
担体βのカルボキシル基のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化の進行は、担体βのカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化処理して得られた担体γをアルカリ加水分解し、分解の際に生じるN−ヒドロキシスクシンイミドをサイズ排除クロマトグラフィーで定量することにより確認する。
【0040】
「工程(D)」
本実施形態で用いられるプロテインAは、末端にヒスチジンタグを有していること以外、特に構造が限定されない。末端にヒスチジンタグを有するプロテインAとしては、例えば、非特許文献(Trends Biochem.Sci.1995,20,285−286)に記載されているような遺伝子合成法により得られる。入手可能な末端にヒスチジンタグを有するプロテインAとしては、例えば、Bio Vision株式会社製のProtein A(Lyophilized)(製品名)等が挙げられる。
【0041】
工程(D)において、工程(C)で得られた担体γに、末端にヒスチジンタグを有するプロテインAを用いて、プロテインAを固定化して担体δを得る方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。末端にヒスチジンタグを有するプロテインAと、担体γの表面のN−ヒドロキシスクシンイミドエステルとを接触させることにより、プロテインAのアミノ基とN−ヒドロキシスクシンイミドエステルとがアミド結合を形成することで、共有結合により、担体γにプロテインAを固定する。
【0042】
担体γにプロテインAを固定化する際、ヒスチジン側鎖のイミダゾール基が、図1に示す反応機構により、プロテインAに含まれるアミノ基とN−ヒドロキシスクシンイミドエステルが反応を促進していると想定される。これにより、プロテインAが、IgGとの相互作用能を損なうことなく、担体γに効率的に固定化される。
【0043】
工程(D)において、担体γにプロテインAを固定化するとき、すなわち、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルと、ヒスチジンタグを含むプロテインAとを反応させるとき、pH6.0以上、好ましくはpH6.0〜pH11.0の条件で行う。なお、この反応には、pH6.0〜pH11.0の炭酸緩衝液を用いることが好ましい。
pH6.0未満で反応させると、プロテインAの反応性が低下し、プロテインAの固定化効率が低下する傾向がある。一方、pH11を超えた条件で反応させると、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルの分解、プロテインAの分解、または、プロテインAの異性化を誘発し、プロテインAの固定化効率が低下する場合がある。
【0044】
担体γへのプロテインAの固定化量は、高速液体クロマトグラフィー (High performance liquid chromatography、HPLC)およびUV検出器により定量する。
反応後の反応液に含まれるプロテインAの量をUV検出器で測定し、算出されたプロテインA量を、反応開始前のプロテインAの量から差し引くことにより、担体γに固定化されたプロテインAの量(プロテインA固定化量)を定量する。
【0045】
「工程(E)」
末端にヒスチジンタグを有するプロテインAを担体γに固定化した後における、担体γの表面のN−ヒドロキシスクシンイミドエステルは、IgG精製工程において、試料に含まれる不純物と非特異的に反応する可能性が懸念される。そのため、プロテインAを担体γに固定化する工程(D)の後、工程(E)では、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルと、アミノ基を有する化合物とを結合させてアミド化することにより、反応性の低いアミドへと変換することが好ましい。
【0046】
工程(E)において、例えば、2−アミノエタノールおよびトリスヒドロキシメチルアミノメタンの少なくともいずれか一方を溶解した水溶液を調製し、この水溶液と担体δとを接触させることにより、未反応のN−ヒドロキシスクシンイミドエステルが、親水性が高く、反応性の低い官能基へと変換される。
【0047】
以上の工程(A)〜工程(E)を経て、プロテインA固定化有機高分子担体を得る。
【0048】
本実施形態のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法によれば、DBCの高いプロテインA固定化有機高分子担体を製造することができる。このプロテインA固定化有機高分子担体を用いることにより、IgGの分離精製を、高速・短時間で行なうことが可能となる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
「エポキシ基のアミノ化」
ゲル容量1mLのCIM(登録商標) epoxy(商品名)−1mL(BIA Separations d.o.o株式会社製)を出発基材とした。CIM(登録商標) epoxyは、グリシジルメタクリレートを単量体、エチレングリコールジメタクリレートを架橋剤とした共重合体である。CIM(登録商標) epoxyは、エポキシ基を1.8mmol/mLの密度で含有する平均流路径600nm〜750nmの多孔質モノリス型有機高分子担体である。
多孔質モノリス型有機高分子担体をペリスタティックポンプに接続し、0.5mL/minの流速で25%NH水溶液を3時間送液した後、水を送液し、多孔質モノリス型有機高分子担体を洗浄した。これにより、アミノ化した多孔質モノリス型有機高分子担体(担体α)を得た。
多孔質モノリス型有機高分子担体へのアミノ基の導入量を、以下の手順で定量した。
まず、反応後の多孔質モノリス型有機高分子担体を20CVの0.1mol/L塩酸で洗浄し、続いて、多孔質モノリス型有機高分子担体を30CVの水で洗浄した。
その後、水で洗浄した多孔質モノリス型有機高分子担体を20CVの0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、その洗液を回収し、洗液中に含まれる塩化物イオンをイオンクロマトグラフィーで測定した。イオンクロマトグラフィカラムとしてはSI−50(商品名、昭和電工株式会社製)、検出器としてはCDD−10A(商品名、島津製作所株式会社製) を用いた。
【0051】
「カルボキシル基の導入」
アミノ化を終了した後、多孔質モノリス型有機高分子担体に、20mL以上のジメチルホルムアミドをペリスタティックポンプで送液し、無水コハク酸2.0gおよび4−ジメチルアミノピリジン122mgをジメチルホルムアミド10mLに溶解させた反応液を、ペリスタティックポンプで0.5mL/minの流速で約20時間循環させた。
反応終了後、多孔質モノリス型有機高分子担体に対して、ジメチルホルムアミドによる洗浄、水による洗浄をこの順に行った。
多孔質モノリス型有機高分子担体へのカルボキシル基の導入量を、以下の手順で算出した。
アミノ基の導入量の定量法と同様にして、アミノ基の残存量を測定した。測定値より、反応前後のアミノ基消費量を算出し、カルボキシル基の導入量とした。
多孔質モノリス型有機高分子担体には、カルボキシル基が150μmol/mLの密度で導入されていることを確認した。
【0052】
「残存エポキシ基のジオール化」
カルボキシル基を導入した多孔質モノリス型有機高分子担体に対し、0.5mol/L硫酸水溶液をペリスタティックポンプで0.5mL/minの流速で4時間循環させ、残存エポキシ基をジオール化させた。
反応終了後、多孔質モノリス型有機高分子担体に対して、水による洗浄、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液による洗浄、水による洗浄をこの順に行った。それぞれの洗浄において、水および水酸化ナトリウム水溶液を20mL以上送液した。
【0053】
「カルボキシル基のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化」
カルボキシル基を導入し、残存エポキシ基をジオール化した多孔質モノリス型有機高分子担体に対し、水、0.1mol/L塩酸、水、ジメチルホルムアミドをそれぞれこの順に20mL以上送液した。
多孔質モノリス型有機高分子担体、および、N−ヒドロキシスクシンイミド1.15gを溶解させたジメチルホルムアミド20mLを50℃に加熱した。
50℃に加熱したN−ヒドロキシスクシンイミドのジメチルホルムアミド溶液に、N,N−ジイソプロピルカルボジイミド1.4mLを溶解させ、その溶液を50℃のまま多孔質モノリス型有機高分子担体に3mL/minの流速で15mL送液した。
その後、多孔質モノリス型有機高分子担体を50℃で10時間静置した。反応後、多孔質モノリス型有機高分子担体を室温にし、ジメチルホルムアミドで洗浄した。
【0054】
「末端にヒスチジンタグを有するプロテインAの固定化」
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル化した多孔質モノリス型有機高分子担体に、水、0.2mol/LNaHCO− 0.5mol/LNaCl水溶液を送液した。
Protein A(Lyophilized)(Bio Vision株式会社製)18mgを2mLの0.2mol/LNaHCO− 0.5mol/LNaCl水溶液に溶解した反応溶液を、0.2mL/minの流速で多孔質モノリス型有機高分子担体に送液した後、多孔質モノリス型有機高分子担体を4℃に保った。
24時間経過後、2mLの0.2mol/LNaHCO− 0.5mol/LNaCl(pH7.8)水溶液を10mL送液し、未反応のプロテインAの洗浄および回収を行なった。
多孔質モノリス型有機高分子担体へのプロテインAの固定化量を、以下の手法で定量した。
プロテインAの固定化反応終了後、洗浄液中に含まれるプロテインAの量はHPLCおよびUV検出器により算出した。
例えば、昭和電工株式会社製のKW−402.5(商品名)で洗浄液を分析し、プロテインAのUVピーク面積を測定することにより、洗浄液中のプロテインAの含有量が算出した。算出したプロテインAの含有量を、反応開始前のプロテイン量から差し引くことで、多孔質モノリス型有機高分子担体に固定化されたプロテインAの量を算出した。
【0055】
「未反応N−ヒドロキシスクシンイミドエステルのアミド基への変換」
プロテインAを固定化した多孔質モノリス型有機高分子担体に対し、水を10mL送液した後、0.5mol/L 2−アミノエタノール−20mMトリス緩衝液を10mL送液し、10分間静置することで、残存したN−ヒドロキシスクシンイミドエステルをアミド基へと変換した。
反応後、水、20%エタノール−20mMトリス緩衝液の順にそれぞれ20mL以上送液した後、多孔質モノリス型有機高分子担体を4℃に保った。
以上により、実施例1のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体を得た。
【0056】
「プロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体のDBC測定」
クロマトグラフィーシステム(AKTA avant150、GEヘルスケア・ジャパン社製)を用いて、実施例1のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体について、IgGヒト血清由来(Aldrich株式会社製、以下、「IgG」と略す。)の吸着・溶出試験を行なった。
IgGの吸着および溶出を、以下の条件で行なった。
【0057】
「DBC測定」
<吸着ステップ>
・IgG濃度:0.4mg/mL〜0.5mg/mL
・吸着緩衝液:1×PBS
・流速:6.9CV/min
<洗浄ステップ1>
・洗浄緩衝液:1×PBS
・流速:6.9CV/min
・送液量:5CV
<洗浄ステップ2>
・洗浄緩衝液:1×PBS+0.4mol/LNaCl
・流速:6.9CV/min
・送液量:5CV
<溶出ステップ>
・溶出液:0.1mol/Lグリシン塩酸塩水溶液(pH2.0)
・流速:6.9CV/min
・送液量:7CV
【0058】
吸着ステップで、溶液に含まれるIgGの10%がカラムから漏出してきた時点、および、溶液に含まれるIgGの50%がカラムから漏出してきた時点において、実施例1のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体に吸着されたIgGの容量(DBC10およびDBC50)をそれぞれ算出した。DBC10およびDBC50は、下記式により算出した。
DBC10(mg/mL)=10%漏出時点での送液量×IgG濃度/プロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体の体積
DBC50(mg/mL)=50%漏出時点での送液量×IgG濃度/プロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体の体積
ここで、10%漏出時点および50%漏出時点とは、カラム未装着時にIgG溶液を送液した際のUV吸収値を100%漏出とし、その吸収値の10%の吸収値が観測された時点を10%漏出時点、50%の吸収値が観測された時点を50%漏出時点とした。
【0059】
「結果」
IgGのDBC10は18mg/mL−ゲル、IgGのDBC50は20mg/mL−ゲルであった。
以上の結果から、末端にヒスチジンタグを有するプロテインAを用いることでプロテインAの固定化効率が向上し、IgGの吸着容量を向上したことが分かった。結果を表1に示す。
【0060】
[実施例2]
カルボキシル基の導入を、無水コハク酸2.0gの代わりに、メチルコハク酸無水物2.3gを用いて行ったこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体を得た。
【0061】
「DBC測定、結果」
実施例1と同様にして、実施例2のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体について、IgGの吸着・溶出試験を行なった。
その結果、IgGのDBC10は13mg/mL−ゲル、IgGのDBC50は16mg/mL−ゲルであった。
以上の結果から、末端にヒスチジンタグを有するプロテインAを用いることでプロテインAの固定化効率が向上し、IgGの吸着容量を向上したことが分かった。結果を表1に示す。
【0062】
[実施例3]
25%NH水溶液の送液時間を6時間としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体を得た。
【0063】
「DBC測定、結果」
実施例1と同様にして、実施例3のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体について、IgGの吸着・溶出試験を行なった。
その結果、IgGのDBC10は18mg/mL−ゲル、IgGのDBC50は19mg/mL−ゲルであった。
以上の結果から、末端にヒスチジンタグを有するプロテインAを用いることでプロテインAの固定化効率が向上し、IgGの吸着容量を向上したことが分かった。結果を表1に示す。
【0064】
[実施例4]
エポキシのアミノ化に用いるアミノ化試薬をH2O−25%NH水溶液=3:1(v/v)としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体を得た。
【0065】
「DBC測定、結果」
実施例1と同様にして、実施例4のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体について、IgGの吸着・溶出試験を行なった。
その結果、IgGのDBC10は14mg/mL−ゲル、IgGのDBC50は16mg/mL−ゲルであった。
以上の結果から、末端にヒスチジンタグを有するプロテインAを用いることでプロテインAの固定化効率が向上し、IgGの吸着容量を向上したことが分かった。結果を表1に示す。
【0066】
[実施例5]
25%NH水溶液の送液時間を15時間としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体を得た。カルボキシル基は600μmol/mL−ゲルの密度で導入されていることが確認された。
【0067】
「DBC測定、結果」
実施例1と同様にして、実施例5のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体について、IgGの吸着・溶出試験を行なった。
その結果、IgGのDBC10は9mg/mL−ゲル、IgGのDBC50は10mg/mL−ゲルであった。
以上の結果から、カルボキシル基の密度を600μmol/mL−ゲルとすると、末端にヒスチジンタグを有するプロテインAの固定化効率が若干低下した。結果を表1に示す。
【0068】
[実施例6]
カルボキシル基のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化の反応温度を25℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体を得た。
【0069】
「DBC測定、結果」
実施例1と同様にして、実施例6のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体について、IgGの吸着・溶出試験を行なった。
その結果、IgGのDBC10は12mg/mL−ゲル、IgGのDBC50は13mg/mL−ゲルであった。
以上の結果から、カルボキシル基のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化の反応温度を25℃とすると、末端にヒスチジンタグを有するプロテインAの固定化効率が若干低下した。結果を表1に示す。
【0070】
[比較例1]
CIM(登録商標) r−Protein A(商品名)を用いて、実施例1と同様にして、IgGの吸着・溶出試験を行なった。
その結果、IgGのDBC10は8.3mg/mL−ゲル、IgGのDBC50は11mg/mL−ゲルであった。結果を表2に示す。
【0071】
[比較例2]
多孔質モノリス型有機高分子担体に固定化するプロテインAとして、ヒスチジンタグを含まないrSPA(商品名、Repligen株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体を得た。
【0072】
「DBC測定、結果」
実施例1と同様にして、比較例2のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体について、IgGの吸着・溶出試験を行なった。
その結果、IgGのDBC10は3.5mg/mL−ゲル、IgGのDBC50は4.6mg/mL−ゲルであった。
以上の結果から、ヒスチジンタグを含まないプロテインAは固定化効率が低く、DBC向上効果がないことが分かった。結果を表2に示す。
【0073】
[比較例3]
末端にヒスチジンタグを有するプロテインAの固定化反応を、酸性溶液(50mmol/L酢酸−1.35mol/LNaCl水溶液(pH3.0))中で行なった。詳細を以下に示す。
【0074】
「末端にヒスチジンタグを有するプロテインAの固定化」
実施例1と同様にして、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル化した多孔質モノリス型有機高分子担体に、Protein A(Lyophilized)(Bio Vision株式会社製)を酸性溶液(50mmol/L酢酸−1.35mol/LNaCl水溶液)に0.6mg/mLに溶解した反応溶液15mLを、0.3mL/minの流速で送液した。
多孔質モノリス型有機高分子担体からプロテインAが破過するまで溶液を送液した後、多孔質モノリス型有機高分子担体を30℃で24時間静置し、プロテインAを固定化した。
反応後、反応溶液、水の順にそれぞれ20mL以上送液し、多孔質モノリス型有機高分子担体を洗浄した。
プロテインAの固定化量を、実施例1と同様の手法で算出した。
【0075】
「未反応N−ヒドロキシスクシンイミドエステルのアミド基への変換」
プロテインAを固定化した多孔質モノリス型有機高分子担体に対し、水を10mL送液した後、0.5mol/L エタノールアミン−20mMトリス緩衝液を10mL送液し、10分間静置することで、残存したN−ヒドロキシスクシンイミドエステルをアミド基へと変換した。
反応後、水、20%エタノール−20mMトリス緩衝液の順にそれぞれ20mL以上送液した後、多孔質モノリス型有機高分子担体を4℃に保った。
以上により、比較例3のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体を得た。
【0076】
「DBC測定、結果」
実施例1と同様にして、比較例3のプロテインA固定化多孔質モノリス型有機高分子担体について、IgGの吸着・溶出試験を行なった。
その結果、IgGのDBC10は5.4mg/mL−ゲル、IgGのDBC50は6.3mg/mL−ゲルであった。
以上の結果から、プロテインAの固定化反応時の反応溶液を酸性にすると、末端にヒスチジンタグを有するプロテインAの固定化効率が低下し、DBC向上効果がないことが分かった。結果を表2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のプロテインA固定化有機高分子担体の製造方法は、多孔質モノリス型有機高分子担体の表面修飾効率を向上することができるため、バイオ医薬品分野において好適に用いられる。
図1