(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.光学フィルムの製造方法
本発明の光学フィルムの製造方法においては、フィルムの把持手段として複数のクリップを備えるテンター延伸装置が用いられる。本発明の製造方法は、長尺状の樹脂フィルムの両側縁部を該クリップによって搬送方向のクリップ間隔L1で把持すること(把持工程)、該樹脂フィルムを長手方向に搬送しながら幅方向のクリップ間隔をW1からW2まで減少させて、該樹脂フィルムを幅方向に弛緩させること(弛緩工程)、および、幅方向に弛緩した該樹脂フィルムを長手方向に搬送しながら搬送方向のクリップ間隔をL2まで拡大して、該樹脂フィルムを長手方向に延伸すること(延伸工程)、を含む。クリップでフィルムを把持するテンター延伸装置においては、延伸前の張力がかかっていない状態で樹脂フィルム端部をクリップで把持してから加温や延伸によって樹脂フィルムに張力がかかるまでの過程において、加温の面内バラツキや各々のクリップ搬送精度によって樹脂フィルムに応力がかかり、その結果、延伸初期領域で樹脂フィルムに大きなシワや折れが生じてしまいクリップミスにつながると考えられる。これに対し、本発明においては、長手方向への延伸に先立って樹脂フィルムを幅方向に弛緩させる。これにより、長手方向への延伸前の領域において幅方向に樹脂フィルムが緩んだ弛緩領域を形成して、樹脂フィルムを把持するテンター入口領域において、樹脂フィルムに過度の張りが生じることを回避することができるので、クリップミスの発生を抑制することができる。
【0009】
本発明の製造方法において用いられる樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂基材と該熱可塑性樹脂基材の片側に形成された樹脂層とを有する積層体であってもよく、単一のフィルムからなる単層体であってもよい。製造される光学フィルムは、上記把持工程、弛緩工程および延伸工程を含む製造方法によって製造され得る限りにおいて任意の適切な光学フィルムであり得る。光学フィルムは、その厚みが好ましくは110μm以下であり、好ましくは80μm以下、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。一方、光学フィルムの厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上である。
【0010】
製造される光学フィルムの具体例としては、偏光膜、光学補償フィルム等が好ましく例示できる。
【0011】
本発明の製造方法で用いられるテンター延伸装置としては、例えば、レール間距離が連続的に減少するテーパー部とレール間距離が一定である直線部とを有する一対のレールと、各レール上をクリップ間隔を変化させながら走行可能な複数のクリップと、を備える延伸装置が用いられ得る。このような延伸装置によれば、樹脂フィルムの両側縁部をクリップで把持した状態で、搬送方向のクリップ間隔(同一レール上のクリップ間距離)および幅方向のクリップ間隔(異なるレール上のクリップ間距離)を変化させることによって、樹脂フィルムの長手方向への延伸(MD延伸)および幅方向への弛緩(TD弛緩)が可能となる。
【0012】
図1は、本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置の一例の全体構成を説明する概略平面図である。
図1を参照しながら、本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置について説明する。延伸装置100は、平面視で、左右両側に、無端レール10Lと無端レール10Rとを左右対称に有する。なお、本明細書においては、樹脂フィルムの入口側から見て左側の無端レールを左側の無端レール10L、右側の無端レールを右側の無端レール10Rと称する。左右の無端レール10L、10R上にはそれぞれ、樹脂フィルム把持用の多数のクリップ20が配置されている。クリップ20は、それぞれのレールに案内されてループ状に巡回移動する。左側の無端レール10L上のクリップ20は反時計廻り方向に巡回移動し、右側の無端レール10R上のクリップ20は時計廻り方向に巡回移動する。延伸装置においては、樹脂フィルムの搬入側から搬出側へ向けて、把持ゾーンA、TD弛緩ゾーンB、MD延伸ゾーンC、および解放ゾーンDが順に設けられている。なお、これらのそれぞれのゾーンは、樹脂フィルムが実質的に把持、TD弛緩(またはTD弛緩およびMD延伸)、MD延伸および解放されるゾーンを意味し、機械的、構造的に独立した区画を意味するものではない。また、
図1の延伸装置におけるそれぞれのゾーンの長さの比率は、実際の長さの比率と異なることに留意されたい。
【0013】
把持ゾーンAでは、左右の無端レール10R、10Lは、レール間距離が一定である直線部とされている。代表的には、左右の無端レール10R、10Lは、処理対象となる樹脂フィルムの初期幅に対応するレール間距離で互いに略平行となるよう構成されている。TD弛緩ゾーンBでは、左右の無端レール10R、10Lは、レール間距離が連続的に減少するテーパー部とされている。代表的には、左右の無端レール10R、10Lは、把持ゾーンA側からMD延伸ゾーンC側に向かうに従ってレール間距離が上記樹脂フィルムの弛緩後の幅に対応するまで徐々に減少する構成とされている。MD延伸ゾーンCおよび解放ゾーンDでは、左右の無端レール10R、10Lは、レール間距離が一定である直線部とされており、代表的には、上記樹脂フィルムの弛緩後の幅に対応するレール間距離で互いに略平行となるよう構成されている。
【0014】
左側の無端レール10L上のクリップ(左側のクリップ)20および右側の無端レール10R上のクリップ(右側のクリップ)20は、それぞれ独立して巡回移動し得る。例えば、左側の無端レール10Lの駆動用スプロケット30a、30bが電動モータ40a、40bによって反時計廻り方向に回転駆動され、右側の無端レール10Rの駆動用スプロケット30a、30bが電動モータ40a、40bによって時計廻り方向に回転駆動される。その結果、これら駆動用スプロケット30a、30bに係合している駆動ローラ(図示せず)のクリップ担持部材(図示せず)に走行力が与えられる。これにより、左側のクリップ20は反時計廻り方向に巡回移動し、右側のクリップ20は時計廻り方向に巡回移動する。左側の電動モータおよび右側の電動モータを、それぞれ独立して駆動させることにより、左側のクリップ20および右側のクリップ20をそれぞれ独立して巡回移動させることができる。
【0015】
クリップサイズは、好ましくは12mm〜40mmであり、より好ましくは15mm〜35mmである。クリップサイズが12mm未満である場合には、延伸張力を保持できなくなって破断したり、クリップ搬送部の強度不足により駆動不具合が発生する場合がある。クリップサイズが40mmを超えると、クリップ近傍で延伸されない領域が大きくなり端部のムラが発生したり、非把持部が局所的に延伸されることで樹脂フィルムの表面に割れが発生する場合がある。なお、クリップサイズとは、把持領域の幅を意味する。
【0016】
さらに、左側のクリップ20および右側のクリップ20は、それぞれ可変ピッチ型である。すなわち、左右のクリップ20、20は、それぞれ独立して、移動に伴って搬送方向のクリップ間隔(クリップピッチ)が変化し得る。可変ピッチ型のクリップは、パンタグラフ機構(例えば、特開2008−23775号公報に記載の構成)等の任意の適切な構成により実現され得る。
【0017】
図1に例示したような延伸装置を用いる場合、本発明の製造方法は、把持ゾーンAにおいて樹脂フィルムの両側縁部をクリップによって搬送方向のクリップ間隔L1で把持すること(把持工程)、樹脂フィルムをテーパー部を通過させて幅方向のクリップ間隔をW1からW2まで減少させ、これにより、樹脂フィルムを幅方向に弛緩させること(弛緩工程)、樹脂フィルムを直線部を通過させながら搬送方向のクリップ間隔をL2まで拡大して、樹脂フィルムを長手方向に延伸すること(MD延伸工程)、を含み得る。必要に応じて、樹脂フィルムを把持するクリップを解放すること(解放工程)をさらに含んでもよい。
図2および
図3はそれぞれ、これらの工程を含む本発明の製造方法の一例を説明する概略図である。以下、これらの図を参照しながら各工程についてより詳細に説明する。
【0018】
まず、把持工程(把持ゾーンA)において、左右のクリップ20によって、延伸装置に取り込まれた樹脂フィルム50の両側縁部を一定の把持間隔(クリップ間隔)L1で把持し、左右の無端レールに案内された各クリップ20の移動により、当該樹脂フィルム50をTD弛緩ゾーンBに搬送する。把持ゾーンAにおける両側縁部の把持間隔(クリップ間隔)は、代表的には互いに等しい間隔とされる。L1は、例えば30mm〜200mmであり得る。なお、クリップ間隔とは、隣り合うクリップの中心間の距離である。
【0019】
クリップによって把持される樹脂フィルムとしては、製造される光学フィルムの用途等に応じて任意の適切なフィルムが選択され得る。製造される光学フィルムが偏光膜である場合、一例として熱可塑性樹脂基材と該熱可塑性樹脂基材の片側に形成されたPVA系樹脂層とを有する積層体が樹脂フィルムとして把持される。以下、当該積層体について特有の特徴・条件等について説明し、その後で、弛緩工程以降の工程を説明する。弛緩工程以降の工程については、積層体であるか通常の樹脂フィルム(単一のフィルム)であるかにかかわらず、同様の操作・条件等が適用され得る。
【0020】
上記積層体は、長尺状の熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成することにより作製される。熱可塑性樹脂基材は、PVA系樹脂層(得られる偏光膜)を片側から支持し得る限り、任意の適切な構成とされる。
【0021】
熱可塑性樹脂基材の形成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重体樹脂等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、シクロオレフィン系樹脂(例えば、ノルボルネン系樹脂)、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールをさらに含む共重合体が挙げられる。
【0022】
熱可塑性樹脂基材の延伸温度は、熱可塑性樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定することができる。延伸温度は、代表的には、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、好ましくはTg+10℃以上、さらに好ましくはTg+15℃〜Tg+30℃である。延伸方式として乾式延伸方式または湿式延伸方式を採用し、熱可塑性樹脂基材の形成材料として非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いる場合、延伸温度を熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(例えば、60℃〜100℃)より低くすることができる。
【0023】
熱可塑性樹脂基材に、予め、表面改質処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、熱可塑性樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。なお、表面改質処理および/または易接着層の形成は、上記延伸前に行ってもよいし、上記延伸後に行ってもよい。
【0024】
上記PVA系樹脂層の形成方法は、任意の適切な方法を採用することができる。好ましくは、延伸処理が施された熱可塑性樹脂基材上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層を形成する。
【0025】
上記PVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂を用いることができる。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%〜100モル%であり、好ましくは95.0モル%〜99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%〜99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜を得ることができる。ケン化度が高すぎる場合には、塗布液がゲル化しやすく、均一な塗布膜を形成することが困難となるおそれがある。
【0026】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000〜10000であり、好ましくは1200〜4500、さらに好ましくは1500〜4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。
【0027】
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドN−メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部〜20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0028】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用し得る。
【0029】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。
【0030】
上記乾燥温度は、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以下であることが好ましく、さらに好ましくはTg−20℃以下である。このような温度で乾燥することにより、PVA系樹脂層を形成する前に熱可塑性樹脂基材が変形するのを防止して、得られるPVA系樹脂層の配向性が悪化するのを防止することができる。こうして、熱可塑性樹脂基材がPVA系樹脂層とともに良好に変形し得、後述の積層体の弛緩および延伸を良好に行うことができる。その結果、PVA系樹脂層に良好な配向性を付与することができ、優れた光学特性を有する偏光膜を得ることができる。ここで、「配向性」とは、PVA系樹脂層の分子鎖の配向を意味する。
【0031】
次いで、弛緩工程(TD弛緩ゾーンB)において、左右のクリップ20で把持された樹脂フィルム50を長手方向へ搬送しながら、幅方向に弛緩させる。TD弛緩ゾーンBにおいては、左右の無端レール10R、10Lがレール間距離が連続的に減少するテーパー部とされているので、当該ゾーンを通過させることによって幅方向のクリップ間隔がW1からW2まで減少し、これにより、樹脂フィルム50の幅方向への弛緩が行われる。弛緩量は、レール間距離の変化量を調整することによって制御することができる。具体的には、TD弛緩ゾーンBの入口(把持ゾーンA側端部)におけるレール間距離に対するTD弛緩ゾーンBの出口(MD延伸ゾーンC側端部)におけるレール間距離の比を小さくするほど、大きい弛緩量が得られる。なお、本明細書において、「樹脂フィルムを幅方向へ弛緩させる」とは、樹脂フィルムに幅方向に弛緩した(換言すれば、テンションがかかっていない)領域を形成することを意味し、1つの実施形態においては、樹脂フィルムを幅方向へ収縮させることであり得る。
【0032】
図2に例示する実施形態においては、弛緩工程において、樹脂フィルム50の幅方向への弛緩のみが行われる。この場合、搬送方向のクリップ間隔(L1)を維持したままで、樹脂フィルム50をTD弛緩ゾーンBを通過させる。一方、
図3に例示する実施形態においては、弛緩工程において、樹脂フィルム50の幅方向への弛緩と長手方向への延伸とが行われる。この場合、樹脂フィルム50をTD弛緩ゾーンBを通過させながら、クリップ20の搬送方向への移動速度を徐々に増大させて搬送方向のクリップ間隔をL1からL1’まで拡大する。弛緩工程と延伸工程とにおいて多段階でMD延伸を行うことにより最終延伸倍率を高くすることができる。また、幅方向への弛緩と長手方向への延伸とを同時に行うことにより過度の弛緩を回避し得るので、弛緩に起因するシワの発生等を抑制することができるという効果が得られ得る。
【0033】
幅方向のクリップ間隔の減少倍率B(B=W2/W1)は、MD延伸倍率等に応じて任意の適切な値に設定することができる。減少倍率Bは、好ましくは0.60〜0.99、より好ましくは0.65〜0.90、さらに好ましくは0.70〜0.80である。このような減少倍率であれば、樹脂フィルムの幅方向に弛緩領域が好適に形成され得る。また、偏光膜の製造においては、より優れた光学特性を得ることができる。なお、幅方向のクリップ間隔は、左右のクリップで把持されている部分の樹脂フィルムの幅に対応し得る。
【0034】
弛緩工程がMD延伸を含む実施形態(
図3に例示する実施形態)においては、自由端で長手方向に一軸延伸する場合における幅方向への収縮率よりも大きい収縮率となるように幅方向のクリップ間隔を減少させることが好ましい。具体的には、長手方向への延伸倍率a(a=L1’/L1)と幅方向のクリップ間隔の減少倍率Bとが、B<1/√aの関係を満たすことが好ましい。このような関係を満たす場合、長手方向への延伸に関わらず樹脂フィルムの幅方向に弛緩領域が好適に形成され得る。長手方向への延伸倍率aは、好ましくは1.0倍〜5.5倍、より好ましくは1.1倍〜4.0倍であり得る。
【0035】
弛緩工程における樹脂フィルムの温度(弛緩温度)は、樹脂フィルムの形成材料等に応じて任意の適切な値に設定することができる。偏光膜を製造する場合における積層体の弛緩温度は、代表的には熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、さらに好ましくはTg+15℃以上である。その一方で、積層体の弛緩温度は、好ましくは170℃以下である。
【0036】
次いで、延伸工程(MD延伸ゾーンC)において、左右のクリップ20で把持された樹脂フィルム50を長手方向へ搬送しながら、長手方向に延伸する。樹脂フィルム50の延伸は、クリップ20の搬送方向への移動速度を徐々に増大させ、搬送方向のクリップ間隔をL2まで拡大することにより行われる。MD延伸ゾーンCの入口における搬送方向のクリップ間隔(L1またはL1’)とMD延伸ゾーンCの出口における搬送方向のクリップ間隔(L2)とを調整することにより、延伸倍率(弛緩工程がMD延伸を含まない場合はL2/L1、含む場合はL2/L1’)を制御することができる。なお、延伸工程において、幅方向への収縮を同時に行ってもよい。延伸工程において幅方向への収縮を同時に行う場合には、MD延伸ゾーンCにおいて、左右の無端レール10R、10Lのレール間距離が連続的に減少するテーパー部を設ければよい。左右のレール間距離の減少量を調整することにより、幅方向の収縮率を制御することができる。
【0037】
延伸工程後における樹脂フィルムの総延伸倍率(延伸工程における延伸倍率と弛緩工程における延伸倍率との積、L2/L1)は、樹脂フィルムの元長に対して、好ましくは2.0倍以上、より好ましくは2.0倍〜6.5倍である。
【0038】
延伸温度は、樹脂フィルムの形成材料等に応じて任意の適切な値に設定することができる。偏光膜を製造する場合における延伸温度は、代表的には熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、さらに好ましくはTg+15℃以上である。その一方で、延伸温度は、好ましくは170℃以下である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
【0039】
最後に、解放工程(解放ゾーンD)において、樹脂フィルム50を把持するクリップ20を解放する。解放工程においては、代表的には、クリップ間距離およびクリップ間隔がいずれも一定とされる。必要に応じて、樹脂フィルム50を所望の温度(好ましくはガラス転移温度(Tg)以下)に冷却した後にクリップを解放する。
【0040】
本発明の光学フィルムの製造方法は、上記以外に、その他の工程を含み得る。光学フィルムとして偏光膜を製造する場合におけるその他の工程としては、例えば、不溶化工程、染色工程、架橋工程、上記延伸とは別の延伸工程、洗浄工程、乾燥(水分率の調節)工程等が挙げられる。その他の工程は、任意の適切なタイミングで行い得る。
【0041】
上記染色工程は、代表的には、PVA系樹脂層を二色性物質で染色する工程である。好ましくは、PVA系樹脂層に二色性物質を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、二色性物質を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に染色液を塗布する方法、PVA系樹脂層に染色液を噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、二色性物質を含む染色液に積層体を浸漬させる方法である。二色性物質が良好に吸着し得るからである。積層体両面を染色液に浸漬させてもよいし、片面のみ浸漬させてもよい。なお、染色工程および/または後述の架橋工程において、延伸を同時に行ってもよい。
【0042】
上記二色性物質としては、例えば、ヨウ素、有機染料が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。二色性物質は、好ましくは、ヨウ素である。二色性物質としてヨウ素を用いる場合、上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜1.0重量部である。ヨウ素の水に対する溶解性を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物塩を配合することが好ましい。ヨウ化物塩としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムである。ヨウ化物塩の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.3重量部〜15重量部である。
【0043】
染色液の染色時の液温は、好ましくは20℃〜40℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、好ましくは5秒〜300秒である。このような条件であれば、PVA系樹脂層に十分に二色性物質を吸着させることができる。
【0044】
上記不溶化工程および架橋工程は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。上記洗浄工程は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。上記乾燥工程における乾燥温度は、好ましくは30℃〜100℃である。
【0045】
B.偏光膜
上記製造方法により作製される偏光膜は、実質的には、二色性物質を吸着配向させたPVA系樹脂膜である。偏光膜は、好ましくは、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。
【0046】
偏光膜の使用方法は、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、上記熱可塑性樹脂基材と一体となった状態で使用してもよいし、熱可塑性樹脂基材から他の部材に転写して(熱可塑性樹脂基材を剥離して)使用してもよい。
【0047】
上記製造方法により作製される偏光膜は、収縮応力が小さく、高温環境下でも寸法安定性に優れ得る。また、単体透過率42%における偏光度は、好ましくは99.99%以上である。このように光学特性に優れ得る。
【実施例】
【0048】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
<積層体の作製>
熱可塑性樹脂基材として、非晶性PET基材(100μm厚)を準備し、当該非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、50℃〜60℃の温度で乾燥した。これにより、非晶性PET基材上に14μm厚のPVA層を製膜し、積層体を作製した。
【0050】
<TD弛緩およびMD延伸>
得られた積層体を、
図1に示すような延伸装置を用いて、幅方向へ弛緩させ、次いで、長手方向に延伸した。具体的には、把持ゾーンAにおいて、クリップ間隔L1:40mmで積層体の両側縁部を把持して長手方向に搬送し、TD弛緩ゾーンBにおいて、100℃で幅方向のクリップ間隔を800mm(W1)から680mm(W2)まで減少させて積層体を幅方向に収縮した(TD弛緩ゾーンBの出口におけるクリップ間隔L1’:40mm)。次いで、MD延伸ゾーンCにおいて、120℃で積層体を長手方向に3倍に空中延伸した(MD延伸ゾーンCの出口におけるクリップ間隔L2:120mm、幅方向のクリップ間隔W3:680mm)。その後、解放ゾーンDにおいて、積層体を把持するクリップを解放した。
TD弛緩における長手方向への延伸倍率a(a=L1’/L1)は1であり、幅方向のクリップ間隔の減少倍率B(B=W2/W1)は0.85であり、B<1/√aの関係を満たした。
TD弛緩およびMD延伸においては、チャッキングミスは起こらなかった。
【0051】
<染色処理>
次いで、積層体を、25℃のヨウ素水溶液(ヨウ素濃度:0.5重量%、ヨウ化カリウム濃度:10重量%)に30秒間浸漬させた。
【0052】
<架橋処理>
染色後の積層体を、60℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:5重量%、ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に60秒間浸漬させると同時に、MD方向に1.6倍に延伸した(総延伸倍率:5倍)。
【0053】
<洗浄処理>
架橋処理後、積層体を、25℃のヨウ化カリウム水溶液(ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に5秒間浸漬させた。
このようにして、熱可塑性樹脂基材上に、厚み3.5μmの偏光膜を作製した。
【0054】
[実施例2]
以下のようにしてTD弛緩およびMD延伸を行ったこと以外は実施例1と同様にして、樹脂基材上に、厚み3.5μmの偏光膜を作製した。
<TD弛緩およびMD延伸>
得られた積層体を、
図1に示すような延伸装置を用いて、幅方向へ弛緩させ、次いで、長手方向に延伸した。具体的には、把持ゾーンAにおいて、クリップ間隔L1:40mmで積層体の両側縁部を把持して長手方向に搬送し、TD弛緩ゾーンBにおいて、100℃で幅方向のクリップ間隔を800mm(W1)から680mm(W2)まで減少させて積層体を幅方向に収縮した。同時にTD弛緩ゾーンBにおいて、クリップ間隔をL1’:45mmまで増大させて長手方向に延伸した。次いで、MD延伸ゾーンCにおいて、120℃で積層体を長手方向に3倍に空中延伸した(MD延伸ゾーンCの出口におけるクリップ間隔L2:120mm、幅方向のクリップ間隔W3:680mm)。その後、解放ゾーンDにおいて、積層体を把持するクリップを解放した。すなわち、TD弛緩ゾーンBにおいて同時にMD延伸を行ったこと以外は実施例1と同様にして、TD弛緩およびMD延伸を行った。
TD弛緩における長手方向への延伸倍率a(a=L1’/L1)は1.125であり、したがって1/√aは0.943であり、幅方向のクリップ間隔の減少倍率B(B=W2/W1)は0.85であり、B<1/√aの関係を満たした。
TD弛緩およびMD延伸においては、チャッキングミスは起こらなかった。
【0055】
[実施例3]
以下のようにしてTD弛緩およびMD延伸を行ったこと以外は実施例1と同様にして、樹脂基材上に、厚み3.5μmの偏光膜を作製した。
<TD弛緩およびMD延伸>
得られた積層体を、
図1に示すような延伸装置を用いて、幅方向へ弛緩させ、次いで、長手方向に延伸した。具体的には、把持ゾーンAにおいて、クリップ間隔L1:40mmで積層体の両側縁部を把持して長手方向に搬送し、TD弛緩ゾーンBにおいて、100℃で幅方向のクリップ間隔を800mm(W1)から680mm(W2)まで減少させて積層体を幅方向に収縮した。同時にTD弛緩ゾーンBにおいて、クリップ間隔をL1’:45mmまで増大させて長手方向に延伸した。次いで、MD延伸ゾーンCにおいて、120℃で積層体を長手方向に3倍に空中延伸した(MD延伸ゾーンCの出口におけるクリップ間隔L2:120mm)。同時に延伸ゾーンCにおいて、幅方向のクリップ間隔を680mm(W2)から560mm(W3)まで減少させて積層体を幅方向に収縮した。その後、解放ゾーンDにおいて、積層体を把持するクリップを解放した。すなわち、TD弛緩ゾーンBにおいて同時にMD延伸を行ったこと、および、MD延伸ゾーンCにおいて同時に幅方向の収縮を行ったこと以外は実施例1と同様にして、TD弛緩およびMD延伸を行った。
TD弛緩における長手方向への延伸倍率a(a=L1’/L1)は1.125であり、したがって1/√aは0.943であり、幅方向のクリップ間隔の減少倍率B(B=W2/W1)は0.85であり、B<1/√aの関係を満たした。
TD弛緩およびMD延伸においては、チャッキングミスは起こらなかった。
【0056】
[実施例4]
以下のようにしてTD弛緩およびMD延伸を行ったこと以外は実施例1と同様にして、樹脂基材上に、厚み3.5μmの偏光膜を作製した。
<TD弛緩およびMD延伸>
得られた積層体を、
図1に示すような延伸装置を用いて、幅方向へ弛緩させ、次いで、長手方向に延伸した。具体的には、把持ゾーンAにおいて、クリップ間隔L1:40mmで積層体の両側縁部を把持して長手方向に搬送し、TD弛緩ゾーンBにおいて、100℃で幅方向のクリップ間隔を800mm(W1)から680mm(W2)まで減少させて積層体を幅方向に収縮した。同時にTD弛緩ゾーンBにおいて、クリップ間隔をL1’:60mmまで増大させて長手方向に延伸した。次いで、MD延伸ゾーンCにおいて、120℃で積層体を長手方向に3倍に空中延伸した(MD延伸ゾーンCの出口におけるクリップ間隔L2:120mm)。同時に延伸ゾーンCにおいて、幅方向のクリップ間隔を680mm(W2)から560mm(W3)まで減少させて積層体を幅方向に収縮した。その後、解放ゾーンDにおいて、積層体を把持するクリップを解放した。すなわち、TD弛緩ゾーンBにおけるMD延伸倍率を1.5倍としたこと以外は実施例3と同様にして、TD弛緩およびMD延伸を行った。
TD弛緩における長手方向への延伸倍率a(a=L1’/L1)は1.5であり、したがって1/√aは0.816であり、幅方向のクリップ間隔の減少倍率B(B=W2/W1)は0.85であり、B<1/√aの関係を満たさなかった。
TD弛緩およびMD延伸においては、積層体に若干のシワが認められたがチャッキングミスは起こらず、実用上の問題は生じなかった。
【0057】
[比較例1]
以下のようにしてMD延伸およびTD収縮を行ったこと以外は実施例1と同様にして、樹脂基材上に、厚み3.5μmの偏光膜を作製した。
<MD延伸およびTD収縮>
得られた積層体を、まず長手方向に延伸し、次いで長手方向に延伸しながら幅方向に収縮させた。具体的には、最初に、クリップ間隔L1:40mmで積層体の両側縁部を把持して長手方向に搬送し、次いで、100℃で幅方向のクリップ間隔を800mm(W1)に維持しながらクリップ間隔をL1’:70mmまで増大させて長手方向に延伸した。次いで、120℃で幅方向のクリップ間隔を800mm(W2=W1)から560mm(W3)まで減少させて積層体を幅方向に収縮しながら長手方向に3倍に空中延伸した(延伸ゾーンの出口におけるクリップ間隔L2:120mm)。その後、解放ゾーンDにおいて、積層体を把持するクリップを解放した。
MD延伸およびTD収縮においては、チャッキングミスが発生した。
【0058】
[評価]
実施例1〜4と比較例1とを比較すると明らかなように、長手方向への延伸に先立って樹脂フィルムを幅方向に弛緩させることにより、チャッキングミスの発生を抑制することができる。実施例3と実施例4とを比較すると明らかなように、TD弛緩における長手方向への延伸倍率と幅方向のクリップ間隔の減少倍率とを所定の関係に制御することにより、シワ等の発生がさらに抑制され、結果として、チャッキングミスの発生をさらに抑制し得ることがわかる。