(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地震が生じると、ボイラ本体と支持鉄骨との間に相対変位が生じるだけでなく、ボイラ本体の外殻をなすボイラ缶とボイラ缶の内部に設けられる機器類との間にも相対変位が生じる。なお、この内部エレメントとして主なものは配管である。ところが、特許文献1も含め、これまで提案されている振れ止め装置は、ボイラ本体と支持鉄骨との相対変位について考慮しているものの、内部エレメント類の地震応答の低減を検討した例は見当たらない。
そこで本発明は、ボイラ缶の内部に設けられる内部エレメントの地震応答を低減できる吊り下げ式ボイラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のボイラは、ボイラ本体と、ボイラ本体を吊り下げて支持する支持鉄骨と、を備え、ボイラ本体は、水管と平板状のフィンとが交互に組み合わされた火炉壁と、火炉壁の内部に収容される内部エレメントと、火炉壁に対する内部エレメントの所定値を超える相対的な変位が生じると、内部エレメントと干渉して振動エネルギを吸収するバッファ機構と、を備えることを特徴とする。
本発明によれば、火炉壁に対する内部エレメントの所定値を超える相対的な変位が生じると、振動エネルギを吸収するバッファ機構を備えているので、内部エレメントの地震応答を低減できる。
【0006】
本発明のバッファ機構は、内部エレメントの主振動方向の相対的な変位に基づく干渉による荷重がフィンに加えられることが好ましい。
また、本発明のボイラにおいて、バッファ機構は、干渉により圧縮して塑性変形するエネルギ吸収体を備えることができる。
このバッファ機構として、エネルギ吸収体と、エネルギ吸収体を支持するとともに、火炉壁に固定される架台と、を備える場合に、架台を火炉壁のフィンに固定することが好ましい。この架台が、干渉により圧縮して塑性変形するエネルギ吸収能を備えることもできる。
また、エネルギ吸収体として、ハニカム構造体を用いるのが好ましく、このハニカム構造体は、主振動方向に軸線が沿って配置することができる。
以上のバッファ機構は、主振動方向における往路側と復路側の両側に一対設けることが好ましい。
【0007】
本発明のボイラにおいて、バッファ機構は、火炉壁に固定される、曲げ及びせん断が生じるダンパ要素と、内部エレメントに固定され、ダンパ要素が干渉する干渉体と、を備えることができる。
この干渉体としては、主振動方向における往路側と復路側の両側に一対設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、火炉壁に対する内部エレメントの所定値を超える相対的な変位が生じると、振動エネルギを吸収するバッファ機構を備えているので、内部エレメントの地震応答を低減できる吊り下げ式ボイラが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第1実施形態]
本実施形態に係る吊り下げ式のボイラ1は、
図1及び
図2に示すように、ボイラ本体3と、ボイラ本体3を取り囲む支持鉄骨5と、を備え、ボイラ本体3は吊り部材7を介して支持鉄骨5に吊り下げられる。なお、支持鉄骨5は、
図1には部分的にしか示していないが、鉛直方向に延びる複数本の柱5A、水平方向に延びる複数本の梁5Bなどを組み合わせて構成されている。
ボイラ本体3は、ボイラ缶10と、ボイラ缶10の内部に設けられる主に配管からなる内部エレメント4と、備えている。本実施形態は、ボイラ缶10の火炉壁11との関係で、内部エレメント4の地震応答を低減するバッファ機構20を備えている。
【0011】
火炉壁11はメンブレンウォールからなり、
図2に示すように、水管15と平板状のフィン16とを溶接により交互に組み合わせたものである。したがって、その内面12及び外面13は、水管15の外周面形状の一部とフィン16の面の形状とが交互に繰り返す凹凸形状となっている。火炉壁11は、その過熱防止、熱回収有効利用を主たる目的として水管15を備え、水管15に水、スチームを通すことによりこの目的を達している。したがって、火炉壁11において、水管15はフィン16よりも、ボイラ1がその機能を維持するために重要な要素と言える。
【0012】
バッファ機構20は、
図2(a),(b)に示すように、ボイラ缶10の火炉壁11に固定されている。火炉壁11は、火炉壁11は、内部エレメント4に臨む内面12と、内面12に対向する外面13と、を備えており、バッファ機構20は内面12の側に固定されている。
バッファ機構20は、ボイラ1の構造設計において、内部エレメント4と水管15及びフィン16で構成される火炉壁11との間に設定されるクリアランスCの範囲内に設けられている。
【0013】
バッファ機構20は、断面が門型をなす架台21と、架台21に取り付けられ、内部エレメント4が干渉すると干渉によるエネルギを吸収するエネルギ吸収体25と、を備えている。
架台21は、横断面が門型の例えば溝型鋼からなり、ウェブ22と、ウェブ22の両端に連なる一対のフランジ23,23と、を備えており、フランジ23,23が火炉壁11の水管15を跨ぎ、例えば溶接によってフィン16に固定される。このように、バッファ機構20は、荷重が水管15に直接は加わらないように固定されている。
【0014】
エネルギ吸収体25は、架台21のウェブ22に、例えば溶接によって固定されている。
エネルギ吸収体25は、地震動が生じて内部エレメント4が想定されるよりも大きく揺れ動いて、内部エレメント4が干渉すると、塑性変形することにより、運動エネルギを吸収して地震時応答を低減する。そのために、エネルギ吸収体25は、内部エレメント4がエネルギ吸収体25に干渉した際に、内部エレメント4及び火炉壁11が損傷するよりも早期に降伏する機械的な特性が与えられている。
なお、地震動が生じたときに、その構造上、ボイラ本体3は、
図2の白抜き矢印Aの方向の方が、これに直交する方向よりも揺れが大きくなるものとし、これを主振動方向Aということにする。
また、バッファ機構20をなす架台21及びエネルギ吸収体25は、内部エレメント4及び火炉壁11と同様の耐熱鋼で構成される。
【0015】
次に、
図3を参照して、バッファ機構20を備えるボイラ1が地震動を受けたときの、バッファ機構20の作用及び効果を説明する。
図3(a)に示す定常状態から地震動を受けて内部エレメント4が相対変位してエネルギ吸収体25に接近し、ついには干渉、衝突すると、
図3(b)に示すようにエネルギ吸収体25が収縮して塑性変形し、地震動によるエネルギを吸収する。地震動による揺れ戻しによって、内部エレメント4は、エネルギ吸収体25から一旦は離れるが、再度、エネルギ吸収体25に干渉する。このときの内部エレメント4の変位量は先の相対変位よりも大きくなる。したがって、エネルギ吸収体25は先の干渉のときよりも大きく収縮して、地震動エネルギを吸収する。
エネルギ吸収体25は、以上の挙動を繰り返すので、
図3(c)に示す荷重−変位の関係を呈しながら、内部エレメント4の地震時応答を低減する。
【0016】
バッファ機構20において、エネルギ吸収体25がエネルギを吸収するものの、架台21も荷重を受けるので、この荷重は架台21が固定されている火炉壁11に伝わる。この荷重によって、火炉壁11がその機能を失わないことが望まれるが、本実施形態はこの要望に応えるために、架台21をフィン16に固定して荷重をフィン16で受ける一方、水管15では荷重を直接は受けないようにしている。前述したように、水管15はボイラ1の機能を司るということができるので、架台21は、水管15を跨いでフランジ23,23をフィン16に取りつけ、万一、フィン16に損傷が生じた場合でも、ボイラ1の機能を担保している。
【0017】
以上説明したように、本実施形態によれば、クリアランスC内でエネルギを吸収するバッファ機構20を備えるので、内部エレメント4の地震時応答を低減できるとともに、エネルギ吸収効果によりボイラ1の支持鉄骨5全体としても地震応答低減効果が得られる。
さらに、本実施形態によれば、バッファ機構20からの荷重をフィン16で受け、水管15には直接は伝わらない構造を採用しているので、ボイラ1の機能を担保することができる。
【0018】
以上では、一つのバッファ機構20を説明したが、地震動により想定される荷重に応じて、平面方向、高さ方向に複数のバッファ機構20を設置してもよく、内部エレメント4の振動モードに基づき、最も効果的と考えられる位置に適切な数量を設置することができる。一般的には、内部エレメント4の振動モードが最も大きくなる箇所を確認し、そこにバッファ機構20を設ければよい。
【0019】
また、以上では、水管15の損傷を避けるために、水管15にはウェブ22及びフランジ23,23が接触しない構成としているが、水管15の機能を維持できるのであれば、水管15にウェブ22及びフランジ23,23が接触することを許容する。ただし、この場合でも、主にフィン16が荷重を受けることが前提である。
また、以上では、バッファ機構20のエネルギ吸収体25が塑性変形することにしているが、同時に又は遅れて架台21が塑性変形してエネルギを吸収してもよい。
【0020】
次に、本実施形態に用いるエネルギ吸収体は、以上で説明した作用を発現する限り任意であるが、
図4を参照して好ましい例を説明する。なお、
図4において、
図2に示す構成要素と同じ構成要素については、
図2と同じ符号を付している。
エネルギ吸収体の好ましい例として、
図4(b)に示すハニカムコア26を提案する。
ハニカムコア26は、
図4(b)に示すように、多数の例えば六角形のセル27が集合した構造を有しする。各セル27には、その軸線Lに沿って貫通する六角形状の貫通孔28が形成されており、この貫通孔28はそれぞれのセル27の両端に開口している。
【0021】
図4(a),(b)に示すように、ハニカムコア26からなるエネルギ吸収体は、内部エレメント4がハニカムコア26に干渉した時の圧縮方向が、軸線L方向と一致するように架台21に固定される。
ハニカムコア26は、内部エレメント4が干渉すると、収縮、変形することにより、内部エレメント4の衝突力によるエネルギを吸収する。
図5を参照して、その変遷の一例を説明する。
【0022】
内部エレメント4の干渉により、ハニカムコア26は、
図5(a)に破線で示す初期状態から変形、収縮して、ついには、
図5(b)に示すように完全な圧潰状態に至る。ハニカムコア26はこの時点でエネルギ吸収能を失う。その後にさらに内部エレメント4に大きな相対変位が生じると、
図5(c)に示すように、ハニカムコア26に代わって架台21が塑性変形をし、バッファ機構20が全体としてエネルギの吸収を担う。この
図5(a),(b),(c)の変遷を荷重−変位線図に示したのが
図5(d)である。なお、
図5(d)における(a),(b),(c)は、
図5(a),(b),(c)の状態に対応している。
【0023】
エネルギ吸収体としてのハニカムコア26も、前述したエネルギ吸収体25と同様に、内部エレメント4及び火炉壁11が損傷するよりも早期に降伏する機械的な特性が与えられており、また、内部エレメント4の振動モードに基づき、最も効果的と考えられる位置に適切な数量を設置することができる。具体的には、
図6(a)に示すように、間隔をあけて複数のバッファ機構20を設けることができるし、
図6(b)に示すように、三つのフィン16に跨る寸法を有するバッファ機構20を設けることもできる。
【0024】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を、
図7を参照して説明する。なお、第1実施形態と同じ構成については、
図7に
図2と同じ符号を付している。
第2実施形態に係るバッファ機構30は、曲げ及びせん断を受けるダンパ構造を採用するとともに、地震動による往復の振動に対してエネルギ吸収が可能に構成されている。
【0025】
バッファ機構30は、
図7(a),(b)に示すように、火炉壁11に最も近い内部エレメント4の水平(幅)方向Hの一端部であって、鉛直(上下)方向Vの下端部に設けられるものであり、火炉壁11の側に設けられる主ダンパ要素31と、内部エレメント4の側に設けられ、主振動方向Aに所定値を超える振動が生じたときに主ダンパ要素31と干渉するダンパ受け35と、を備えている。
主ダンパ要素31は、火炉壁11のフィン16に一端(固定端)側が固定され、火炉壁11から垂直に延びる第一アーム32と、第一アーム32の他端(自由端)側に一端(固定端)側が固定され、火炉壁11に平行に延びる第二アーム33と、備えている。
主ダンパ要素31は、第一アーム32が内部エレメント4の水平方向Hの端部から所定距離だけ離れたところに位置し、また、第二アーム33が内部エレメント4の鉛直方向Vの下端部よりも所定距離だけ離れたところに位置している。
【0026】
ダンパ受け35は、内部エレメント4の下面4Aに取り付けられる、横断面が門型の例えば溝型鋼からなる部材である。ダンパ受け35は、下面4Aに固定される固定部36と、固定部36の幅方向の両端から垂れ下がる一対の係止片37A,37Bと、を備えている。なお、ここでいう幅方向は、地震動が生じる方向と一致する。また、固定部36及び係止片37A,37Bは、矩形の平板からなるが、あくまで一例であり、所期の目的を達成できる限り、その形態は限定されない。
ダンパ受け35は、係止片37A,37Bの間に挿入空隙38が設けられ、この挿入空隙38には主ダンパ要素31の第二アーム33が挿入されている。挿入空隙38の幅W38は、内部エレメント4の厚さTよりも大きく設定されており、定常時には、内部エレメント4が係止片37A,37Bから離れている。
【0027】
次に、バッファ機構30を備えるボイラ1が地震動を受けたときの、バッファ機構30の作用及び効果を説明する。
定常状態から地震動を受けて内部エレメント4が相対変位すると、ダンパ受け35の係止片37Aが第二アーム33と接近し、ついには干渉する。そうすると、主ダンパ要素31の第二アーム33が曲げ及びせん断を受けて塑性変形し、地震動によるエネルギを吸収する。地震動による揺れ戻しによって、第二アーム33は係止片37Aから一旦は離れるが、今度は、係止片37Bに干渉する。このときの内部エレメント4の変位量は先の相対変位よりも大きくなる。したがって、に示すように、第二アーム33が曲げ及びせん断を受けて塑性変形し、先の干渉のときよりも大きく収縮して、地震動エネルギを吸収する。
主ダンパ要素31をなす第二アーム33は、以上の挙動を繰り返すので、
図7(d)に示す荷重−変位の関係を呈しながら、内部エレメント4の地震時応答を低減する。なお、
図7(c)に示すように、第一アーム32を補強する補強アーム34を第一アーム32とフィン16の間に設けることにより、第一アーム32の構造を小さくできる。
なお、塑性変形によるエネルギ吸収は第二アーム33で行うことを主とするが、第一実施形態に示したように、支持部材である
図7(a)、(b)の第一アーム32、
図7(c)の第一アーム32、補強アーム34、係止片37A、37Bが塑性化する構成としても問題ないことは言うまでもない。
【0028】
以上説明した通りであり、第2実施形態にかかるバッファ機構30も、第1実施形態のバッファ機構20と同様に、内部エレメント4の地震時応答を低減できるとともに、エネルギ吸収効果によりボイラ1の支持鉄骨5全体としても地震応答低減効果が得られる。また、バッファ機構20からの荷重をフィン16で受け、水管15には直接は伝わらない構造を採用しているので、ボイラ1の機能を担保することができる。
【0029】
加えて第2実施形態は、主振動方向Aに間隔をあけて一対の係止片37A,37Bを備えているので、往復振動の往路側と復路側のそれぞれに対してエネルギ吸収が可能であり、地震動のように往復振動が繰り返しして生じる場合には、よりエネルギ吸収量が大きくなり、地震応答低減効果が向上する。
また、第1実施形態のバッファ機構20は、内部エレメント4と火炉壁11の間に設置する必要があるため、内部エレメント4と火炉壁11の間の間隔によって、設置位置が制約されることもある。これに対して、第2実施形態のバッファ機構30は内部エレメント4の下面4Aに設けることができるため、設置位置の制約はほとんどない。また、バッファ機構20は、エネルギ吸収体25の収縮量(変形量)が内部エレメント4と火炉壁11の間の間隔よりも小さくならざるを得ないが、ダンパ受け35が内部エレメント4の下面4Aに設けられるバッファ機構30はそのような制約がないため、変形量を大きくできる。
【0030】
以上、本発明の好ましい二つの実施形態を説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。