特許第6579791号(P6579791)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本バイリーン株式会社の特許一覧

特許6579791ポリエーテルスルホン系繊維集合体の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579791
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】ポリエーテルスルホン系繊維集合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4326 20120101AFI20190912BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20190912BHJP
   D01F 6/94 20060101ALI20190912BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   D04H1/4326
   D04H1/728
   D01F6/94 Z
   C08G59/40
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-93771(P2015-93771)
(22)【出願日】2015年5月1日
(65)【公開番号】特開2016-211092(P2016-211092A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】若元 佑太
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】角前 洋介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 達規
(72)【発明者】
【氏名】針谷 佳織
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−199836(JP,A)
【文献】 特開2009−007687(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/052175(WO,A1)
【文献】 特開平05−005210(JP,A)
【文献】 特開2014−234581(JP,A)
【文献】 特開2011−079945(JP,A)
【文献】 特開2011−122124(JP,A)
【文献】 特開2009−249770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/00−59/72
D01F1/00−6/96
9/00−9/04
D04H1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有しないポリエーテルスルホン、エポキシ基を有する化合物、及びエポキシ基と反応可能な化合物とを含む紡糸液を紡糸し、繊維を集積した後、熱処理を実施して、繊維同士の交差点を接着することを特徴とする、ポリエーテルスルホン系繊維集合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエーテルスルホン系繊維集合体の製造方法に関する。特には、変形しにくく、取り扱い性に優れるポリエーテルスルホン系繊維集合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルスルホン繊維は耐熱性、耐熱水性等に優れているため、各種用途への適用が期待されている。例えば、固体高分子形燃料電池を構成する高分子電解質膜は膜抵抗の低いものが要求されており、この膜抵抗を低減させる方法として、スルホン酸基の濃度を増加させる方法や、膜厚さを低減させる方法があるが、いずれの方法においても、膜の機械的強度の低下や含水時の寸法変化を招くため、不織布などの繊維集合体を支持体として用い、膜の機械的強度の向上や含水時の寸法変化を抑制することが行なわれている。そのため、ポリエーテルスルホン繊維集合体を支持体として用いることが考えられたが、支持体として使用する場合、高分子電解質溶液中に繊維集合体を浸漬することになるが、その際に繊維集合体が変形しやすく、取り扱いにくいため、高分子電解質膜に皺が発生するなど、充分な品質をもった高分子電解質膜を製造することが困難であった。
【0003】
同様に、ポリエーテルスルホン繊維集合体を気体又は液体の濾過材として使用しようとしても、変形しやすいため、充分な濾過作用を発揮できないものであった。
【0004】
以前、本願出願人は、繊維同士の結合力を高め、形態安定性に優れる不織布の製造方法として、「静電紡糸法により紡糸した繊維を含む繊維ウエブに、前記繊維を溶解可能な溶媒Aと、前記繊維を溶解不可能で、前記溶媒Aと混合可能、かつ前記溶媒Aよりも沸点の低い溶媒Bとの混合溶媒を付与した後、加熱することによって、前記混合溶媒を除去することを特徴とする不織布の製造方法。」(特許文献1)を提案したが、繊維ウエブに混合溶媒を均一に付与できるように、繊維ウエブを混合溶媒に浸漬した後、ロール等により加圧して付与量を調節し、加熱するのが好ましいため、工程が煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−7687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたもので、変形しにくいポリエーテルスルホン系繊維集合体を簡易に製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、「水酸基を有しないポリエーテルスルホン、エポキシ基を有する化合物、及びエポキシ基と反応可能な化合物とを含む紡糸液を紡糸し、繊維を集積した後、熱処理を実施して、繊維同士の交差点を接着することを特徴とする、ポリエーテルスルホン系繊維集合体の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1にかかるポリエーテルスルホン系繊維集合体の製造方法は、水酸基を有しないポリエーテルスルホン、エポキシ基を有する化合物、及びエポキシ基と反応可能な化合物とを含む紡糸液を紡糸し、熱処理を実施することによって、繊維同士の交差点を接着しているため、変形しにくいポリエーテルスルホン系繊維集合体を製造することができる。なお、熱処理によってエポキシ基を有する化合物とエポキシ基と反応可能な化合物とが反応して結合し、接着するため、従来の混合溶媒を用いた場合のように、混合溶媒の付与、付与量の調節、及び加熱をする必要がないため、簡易にポリエーテルスルホン繊維集合体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリエーテルスルホン系繊維集合体(以下、「PESU系繊維集合体」と表記することがある)を製造するために、まず、ポリエーテルスルホン(以下、「PESU」と表記することがある)を準備する。このPESUは次の一般式(1)で表される構造単位を有する高分子である。
【0010】
【化1】
[式中、R11及びR12は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、水酸基、フェニル基、スルホン酸基、チオール基、アミノ基、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜10のアルケニル基を示し、p及びqは、それぞれ独立に0〜4の整数を示す。R11又はR12が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。]
【0011】
なお、PESUは上記一般式(1)で表される構造単位に加えて、次の一般式(2)〜(5)で表される構造単位を1種類又は2種類以上有していても良い。
【0012】
【化2】
[式中、R21、R22、R23及びR24は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、フェニル基、スルホン酸基、チオール基、アミノ基、メチル基又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。]
【0013】
【化3】
[式中、R31及びR32は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、フェニル基、水酸基、スルホン酸基、チオール基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数2〜10のアルケニル基を示す。R31又はR32が複数存在する場合、複数のR31又はR32はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。また、Xは、単結合、−S−で表される基、−O−で表される基、カルボニル基、炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基又は炭素数5〜20の2価の脂環式炭化水素基を示す。さらに、r及びsはそれぞれ独立に、0〜4の整数である。]
【0014】
【化4】
[式中、rは0〜4の整数であり、また、R41は、ハロゲン原子、水酸基、スルホン酸基、チオール基、アミノ基、フェニル基、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜10のアルケニル基を示す。R41が複数存在する場合は、複数のR41はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0015】
【化5】
[式中、Ar51は、2価の縮合多環式炭化水素基を示し、この2価の縮合多環式炭化水素基に含まれる芳香環には、炭素数1〜10のアルキル基が置換していてもよい。但し、Ar51は、式(5)で表される構造単位が上記一般式(1)で表される構造単位と同じとならないように選択される。]
【0016】
なお、PESUが一般式(1)で表される構造単位に加えて、一般式(2)〜(5)で表される構造単位を1種類又は2種類以上有する場合、ランダム共重合体、交互共重合体、又はブロック共重合体であることができる。
【0017】
本発明のPESUは上述のような構造単位を有するが、水酸基を有するのが好ましい。PESUが水酸基を有すると、後述のエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」と表記することがある)のエポキシ基と反応して結合し、PESU繊維同士の接着力がより強くなると考えられるためである。なお、水酸基はどこに位置していても良いが、耐溶剤性に優れているように、末端に有しているのが好ましい。このように水酸基を有する場合、水酸基量はエポキシ化合物と結合しやすいように、100重合繰り返し単位あたり0.1以上であるのが好ましく、0.3以上であるのがより好ましく、0.6以上であるのが更に好ましい。一方で、水酸基量が多過ぎると分子量が小さくなり、機械的強度の低下や、紡糸が困難になる傾向があるため、100重合繰り返し単位あたり3以下であるのが好ましく、2以下であるのがより好ましく、1.4以下であるのが更に好ましい。このような水酸基を有するPESU、特に末端に水酸基を有するPESUは、例えば、ハイドロキノン、ビスフェノール等の両末端にヒドロキシル基を有する化合物と、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンなどのジハロゲノジフェニルスルホンとを適当な溶媒中で加熱し、重縮合させる方法によって製造することができる。
【0018】
なお、PESUは1種類である必要はなく、構造単位の組合せの異なるPESU、水酸基量の異なるPESU、及び/又は分子量の異なるPESU等の2種以上の異なるPESUを使用することができる。
【0019】
上述のようなPESUに加えて、エポキシ基を有する化合物(エポキシ化合物)を用意する。このエポキシ化合物はエポキシ基を有しているため、後述のエポキシ基と反応可能な化合物(以下、「エポキシ反応化合物」と表記することがある)と反応してPESU繊維同士の接着に関与することができる。なお、PESUが水酸基を有する場合には、エポキシ化合物はPESUの水酸基とも反応して結合し、PESU繊維同士の接着に関与できると考えている。
【0020】
このエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂;ノボラック型エポキシ樹脂;脂肪族、脂環式もしくは芳香族グリシジルエーテル化合物;脂肪族、脂環式もしくは芳香族グリシジルエステル化合物;不飽和基を複数有する脂肪族化合物もしくは脂環式化合物を酢酸と過酢酸とでエポキシ化したエポキシ化合物;脂肪族、脂環式もしくは芳香族グリシジルアミン化合物を例示することができる。
【0021】
より具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールジグリシジルエーテル;ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブタンジオールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリ−1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル;ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エリスリットポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、ジグリシジルアニリン、テトラグリシジル4,4′−ジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、高級油脂のポリエポキシ化合物を挙げることができる。なお、エポキシ化合物は単独で、又は2種以上のエポキシ化合物を使用することができる。
【0022】
そして、更に、エポキシ基と反応可能な化合物(エポキシ反応化合物)を用意する。このエポキシ反応化合物が前述のエポキシ化合物のエポキシ基と反応して結合し、PESU繊維同士を接着することができる。
【0023】
このエポキシ反応化合物はエポキシ化合物のエポキシ基と反応可能であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族アミン;アミンアダクト(ポリアミンエポキシ樹脂アダクト)、ポリアミン−エチレンオキシド(ED)アダクト、ポリアミン−プロピレンオキシド(PO)アダクト、シアノエチル化ポリアミン、ケチミン(ケトイミン)等の変性アミン;無水フタル酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)(TME)、グリセリントリス(アンヒドロトリメリテート)(TMG)等の芳香族酸無水物;無水マレイン酸、無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等の環状脂肪族酸無水物;主としてダイマー酸とポリアミンの縮合により生成した、分子中に反応性の第一及び第二アミノ基を有するポリアミノアミド;フェノール、アルキルフェノール類(クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノールなど)、多価フェノール(レゾルシン、カテコールなど)、ハロゲン化フェノール、フェニルフェノール、アミノフェノールなどのフェノール類;フェノール樹脂、アミノ樹脂等の合成樹脂初期縮合物;2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール類;を挙げることができる。これらの中でもフェノールは反応性が高く、また、紡糸液を調製する際に、PESU溶液と混合してもゲル化しないため好適である。なお、エポキシ反応化合物は単独で、又は2種以上のエポキシ反応化合物を使用することができる。
【0024】
更に、PESU、エポキシ化合物、及びエポキシ反応化合物のいずれも溶解させることのできる溶媒を用意する。この溶媒は特に限定するものではないが、例えば、1.1.2−トリクロロエタン、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、キシレンなどの有機溶媒を単独で、又は混合して使用することができる。
【0025】
次いで、PESU、エポキシ化合物、及びエポキシ反応化合物を混合し、いずれも溶解した紡糸液を調製する。なお、これら原料の混合方法は特に限定するものではない。例えば、PESU、エポキシ化合物、及びエポキシ反応化合物を同じ溶媒に溶解させて紡糸液を調製することができるし、前記1種又は2種を溶解させた溶液を別々に調製した後、任意の割合で混ぜ合わせて、紡糸液を調製することもできる。
【0026】
なお、紡糸液を調製する場合、耐溶剤性に優れるPESU繊維を製造しやすいように、また、PESU繊維を紡糸できるように、PESUの固形分質量100部に対して、エポキシ化合物とエポキシ反応化合物の固形分総質量で10〜50部となるように混合するのが好ましく、15〜40部となるように混合するのがより好ましく、15〜35部となるように混合するのが更に好ましく、15〜30部となるように混合するのが更に好ましく、20〜30部となるように混合するのが更に好ましい。
【0027】
また、エポキシ化合物とエポキシ反応化合物とが反応して結合し、PESU繊維同士の交差点が接着しやすいように、エポキシ化合物1モル当量に対してエポキシ反応化合物0.5〜2モル当量混合するのが好ましく、エポキシ化合物1モル当量に対してエポキシ反応化合物0.6〜1.7モル当量混合するのがより好ましく、エポキシ化合物1モル当量に対してエポキシ反応化合物0.7〜1.4モル当量混合するのが更に好ましい。
【0028】
なお、静電紡糸法により紡糸する場合、紡糸液の導電性が不十分であると、紡糸性に劣り、繊維化するのが困難な場合があるため、このような場合には、紡糸液に塩を適量添加して、導電性を調節するのが好ましい。
【0029】
次いで、前記紡糸液を紡糸して繊維を形成し、この繊維を集積して、前駆ポリエーテルスルホン系繊維集合体を形成する。この紡糸方法として、従来公知の紡糸方法を採用することができる。例えば、湿式紡糸法、乾式紡糸法、フラッシュ紡糸法、遠心紡糸法、静電紡糸法、特開2009−287138号公報に開示されているような、ガスの剪断作用により紡糸する方法、或いは特開2011−32593号公報に開示されているような、電界の作用に加えてガスの剪断力を作用させて紡糸する方法などによって紡糸し、紡糸した繊維を直接、ドラムやネットなどの捕集体上に集積して、前駆ポリエーテルスルホン系繊維集合体を形成することができる。これらの中でも静電紡糸法によれば、平均繊維径が細く(平均繊維径が2,000nm以下)、繊維径が揃っており、しかも連続した繊維を紡糸できるため好適である。
【0030】
次いで、熱処理を実施し、エポキシ化合物のエポキシ基とエポキシ反応化合物とを反応させることにより、PESU繊維同士の交差点を接着して、ポリエーテルスルホン系繊維集合体を製造することができる。なお、PESUが水酸基を有する場合には、PESUの水酸基とエポキシ化合物との反応も進行して結合すると考えられるため、繊維同士の交差点を接着するうえでより好ましい。
【0031】
本発明においては、エポキシ化合物のエポキシ反応化合物との反応(PESUが水酸基を含む場合には、エポキシ化合物とPESUとの反応も)がスムーズに進行し、また、紡糸液を構成する溶媒によってPESU繊維が溶解してしまうことがないように、紡糸液を構成する溶媒が揮発する温度以上で加熱、つまり、紡糸液を構成する溶媒の沸点以上で加熱(以下、「第1加熱」と表記することがある)した後、200℃〜400℃(より好ましくは、210℃〜350℃)で再度加熱(以下、「第2加熱」と表記することがある)して、エポキシ化合物とエポキシ反応化合物(PESUが水酸基を含む場合には、エポキシ化合物とPESUも)とを反応させるのが好ましい。
【0032】
なお、好ましい第1加熱温度は、(溶媒の沸点よりも5℃高い温度)〜(溶媒の沸点よりも30℃高い温度)であり、より好ましい第1加熱温度は、(溶媒の沸点よりも10℃高い温度)〜(溶媒の沸点よりも20℃高い温度)である。この「沸点」はJIS K5601−2−3により得られる値をいう。なお、上記温度は前駆ポリエーテルスルホン系繊維集合体表面における温度であり、熱源の温度が上記温度範囲を外れていても良い。
【0033】
また、第1加熱の時間は充分に溶媒が揮発する時間であれば良く、特に限定するものではないが、1〜60分であるのが好ましく、3〜50分であるのがより好ましく、5〜40分であるのが更に好ましい。一方、第2加熱の時間は充分に結合が進行する時間であれば良く、特に限定するものではないが、1分以上であるのが好ましく、3分以上であるのがより好ましく、5分以上であるのが更に好ましい。他方で、あまり長時間加熱しても結合が進行しないため、1時間以内であるのが好ましく、45分以内であるのがより好ましい。
【0034】
以上の方法によりポリエーテルスルホン系繊維集合体を製造することができるが、必要であれば、ポリエーテルスルホン系繊維集合体が各種用途に適合するように、各種後処理を実施することができる。例えば、カレンダー処理などを実施することができる。
【0035】
このように、本発明によれば、エポキシ化合物とエポキシ反応化合物との反応により、繊維同士の交差点を接着しているため、変形しにくいポリエーテルスルホン系繊維集合体を製造することができる。なお、熱処理によってエポキシ化合物とエポキシ反応化合物とを反応させて接着しており、従来の混合溶媒を用いた場合のように繊維が溶解しないため、所望性能を有するポリエーテルスルホン繊維集合体を製造することができる。また、単に熱処理を実施するだけで繊維同士の交差点を接着しているため、簡易な製造方法である。
【0036】
なお、本発明の製造方法により製造したポリエーテルスルホン繊維集合体を構成するPESU繊維の平均繊維径は1nm〜10,000nmであることができ、PESU繊維の表面積を広くして、PESU繊維の繊維表面を有効に利用できるように、2,000nm以下とするのが好ましく、1,000nm以下とするのがより好ましく、800nm以下とするのが更に好ましく、600nm以下とするのが更に好ましい。この「繊維径」は、ポリエーテルスルホン系繊維集合体の平面における電子顕微鏡写真から測定して得られる繊維の直径を意味し、「平均繊維径」は50箇所の繊維径の算術平均値をいう。
【0037】
また、PESU繊維の繊維長は1mm以上であることができ、5mm以上であるのが好ましく、10mm以上であるのがより好ましく、実質的に連続繊維であるのが最も好ましい。「実質的に連続繊維」とは、ポリエーテルスルホン系繊維集合体の5,000倍の電子顕微鏡写真を撮影した場合に、その端部を確認できないことを意味する。
【0038】
更に、本発明の製造方法により製造したポリエーテルスルホン繊維集合体は紡糸した繊維を集積したものであるため、その集合状態は基本的に不規則であり、いわゆる不織布状態にある。このように不織布状態にあると、空隙率が高く、各種用途に適用しやすい。例えば、膜支持体(例えば、固体高分子電解質膜、ゲル電解質膜など)、フィルタ用濾過材、電気化学素子用セパレータ(例えば、アルカリ一次電池用セパレータ、アルカリ二次電池用セパレータ、リチウムイオン二次電池用セパレータ、電気二重層キャパシタ用セパレータ、電解コンデンサ用セパレータなど)などの、各種用途に適用できる。
【0039】
更に、本発明の製造方法により製造したポリエーテルスルホン繊維集合体の目付(JIS L1085に準じて10cm×10cmとして測定した値)は、0.1〜200g/mであることができ、好ましくは0.1〜100g/mであり、より好ましくは0.5〜20g/mであり、更に好ましくは1〜10g/mである。また、ポリエーテルスルホン系繊維集合体の厚さは、5N荷重時の外側マイクロメーターを用いて測定した値(μm)で、0.5μm〜1.5mmであることができ、好ましくは0.5μm〜1mmであり、より好ましくは2μm〜100μmであり、更に好ましくは5μm〜50μmである。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
参考例
<PESUの用意>
下記(6)の構造単位を有する、末端に水酸基を有するPESU[住友化学株式会社製、スミカエクセル(登録商標)、品番:PES5003PS、水酸基量:100重合繰り返し単位あたり0.6〜1.4の量で水酸基を末端に有する]を用意した。
【0042】
【化6】
【0043】
<エポキシ化合物の用意>
エポキシ化合物としてノボラック型エポキシ樹脂を用意した。
【0044】
<エポキシ反応化合物の用意>
エポキシ反応化合物として、フェノールを用意した。
【0045】
<紡糸液の調製>
ジメチルアセトアミド(沸点:165℃)を溶媒とし、PESU、ノボラック型エポキシ樹脂及びフェノールを、(ノボラック型エポキシ樹脂)対(フェノール)のモル当量比が1:1、かつPESUの固形分質量100部に対するノボラック型エポキシ樹脂とフェノールの固形分総質量が30部となるように混合し、溶解させて紡糸液(濃度:29%)を調製した。
【0046】
<ポリエーテルスルホン系繊維集合体の製造>
前記紡糸液を用い、下記の静電紡糸条件により紡糸した前駆PESU連続繊維を、ドラム上に集積させて前駆PESU連続繊維集合シートを形成した後、温度180℃で30分間の第1熱処理、及び温度250℃で30分間の第2熱処理を実施して、PESU繊維を溶解させることなく、PESU繊維同士の交差点を接着して、PESU連続繊維(平均繊維径:600nm)からなる不織布状シート(目付:3g/m、厚さ:15μm)を製造した。
【0047】
この不織布状シートの表面を指で擦ったが、PESU繊維の脱落も、不織布状シートの層間剥離も発生せず、PESU繊維同士がしっかりと接着した状態にあった。また、この不織布状シートを純水中に浸漬した後、不織布状シートの一端を持って引張ったが、皺が発生しない、変形しにくく、取り扱いやすいシートであった。
【0048】
<静電紡糸条件>
・電極:金属ノズル(内径:0.33mm)とステンレスメッシュ
・ノズルからの吐出量:1g/時間
・ノズル先端とドラムとの距離:10cm
・紡糸空間内の温湿度:25℃/30%RH
【0049】
(比較例1)
<紡糸液の調製>
ジメチルアセトアミド(沸点:165℃)に参考例と同じPESUを溶解させて、紡糸液(濃度:25%)を調製した。
【0050】
<ポリエーテルスルホン系繊維集合体の製造>
前記紡糸液を用い、参考例と同じ静電紡糸条件により紡糸した前駆PESU連続繊維を、ドラム上に集積させ、第1熱処理及び第2熱処理を実施することなく、PESU連続繊維(平均繊維径:400nm)からなる、不織布状シート(目付:4g/m、厚さ:20μm)を製造した。
【0051】
この不織布状シートの表面を指で擦ったところ、PESU繊維が脱落するばかりでなく、不織布状シートの層間剥離も発生し、PESU繊維同士の接着が不十分であった。また、この不織布状シートを純水中に浸漬した後、不織布状シートの一端を持って引張っると、皺が発生し、取り扱い性の悪いシートであった。
【0052】
実施例1
上記(6)の構造単位を有する、水酸基を有しないPESU[住友化学株式会社製、スミカエクセル(登録商標)、品番:PES5200P]を用意し、この水酸基を有しないPESUを用いたこと以外は参考例と同様にして、紡糸液(濃度:29%)の調製、静電紡糸による前駆PESU連続繊維集合シートの形成、第1熱処理、及び第2熱処理を実施して、PESU繊維を溶解させることなく、PESU繊維同士の交差点を接着して、PESU連続繊維(平均繊維径:600nm)からなる不織布状シート(目付:4g/m、厚さ:20μm)を製造した。
【0053】
この不織布状シートの表面を指で擦ったが、PESU繊維の脱落も、不織布状シートの層間剥離も発生せず、PESU繊維同士がしっかりと接着した状態にあった。また、この不織布状シートを純水中に浸漬した後、不織布状シートの一端を持って引張ったが、皺が発生しない、変形しにくく、取り扱いやすいシートであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のポリエーテルスルホン系繊維集合体の製造方法によれば、変形しにくいポリエーテルスルホン系繊維集合体を簡易に製造することができる。