(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記中空部は、前記タイヤモールドの周方向、幅方向又は径方向の一方の端部から他方の端部まで延長し、当該一方の端部及び他方の端部に前記加熱媒体給排路を設けたことを特徴とする請求項3に記載のタイヤモールド。
前記タイヤモールドが、ベースモールドと、当該ベースモールドと組み付けられ、タイヤの表面を成型する表面部を有するパターンモールドとを備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項9いずれかに記載のタイヤモールド。
ベースモールド及びパターンモールドそれぞれのマスターデータをスライスした複数のスライスデータに基づいて金属の粉粒体を溶融、結合し、各スライスデータで表される形状に対応する金属層を複数積層し、各マスターデータで表される形状に対応するベースモールド及びパターンモールドを造形する工程を備えたタイヤモールドの製造方法であって、
前記ベースモールド及びパターンモールドのマスターデータの複数のスライスデータの一部が、前記ベースモールド及びパターンモールドの内部に設けられる中空部の一部の形状と対応する領域を含み、
前記領域は、前記タイヤモールドの径方向又は前記タイヤモールドの幅方向に沿って独立して複数形成すると共に、前記中空部と、前記タイヤモールドの表面部との距離が中空部によって異なるように設定され、当該領域内において前記粉粒体の溶融、結合を停止し、前記領域内に前記加熱媒体給排路に連通する中空部を形成することを特徴とするタイヤモールドの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
[実施形態1]
図1は、加硫装置1の概略断面図である。
同図に示すように、加硫装置1は、回転中心軸が上下方向に延長する横置き状態で投入された未加硫タイヤ(以下、単にタイヤという)Tの一方(下側)のサイド部S1を成型,加硫するサイドモールド2と、当該サイドモールド2と対向し、タイヤTの他方(上側)のサイド部S2を成型,加硫するサイドモールド3とを備える。また、加硫装置1は、サイドモールド2;3の間において、タイヤTの接地面となるクラウン部C1に沿って環状に配設され、クラウン部C1を成型,加硫する複数のセクターモールド4を備える。なお、本明細書内で説明する幅方向、周方向、径方向とは、
図1に示す加硫装置1内に配置されたタイヤモールド(サイドモールド2;3、セクターモールド4)を基準とした方向である。
【0010】
タイヤTは、例えば図外のタイヤ成型ドラム上において成型された未加硫のタイヤ(グリーンタイヤ)である。タイヤTは、加硫装置1内において、上下方向に離間して配設された一対のビード部Tb;Tbに跨ってトロイダル状に延在する図外のカーカスや、クラウン部C1においてカーカス上に積層される複数のベルト及びトレッドゴム、サイド部S1;S2においてカーカス上に配置されるサイドゴム等の部材を含んで構成される。
【0011】
サイドモールド2は、中央部が開口した円盤状であり、基台5上に配設されている。サイドモールド2は、タイヤTが載置された状態において、成形面2aが一方のビード部Tb;Tbの近傍からクラウン部C1方向に延在するサイド部S1の表面と当接し、当該サイド部S1の表面を型付けする。なお、詳細については後述するが、サイドモールド2;3及びセクターモールド4は、母材となるベースモールド20と、ベースモールド20に対して着脱自在に組み付けられるパターン成形体としてのパターンモールド30とから構成される。
【0012】
サイドモールド2の内部には、径方向に延長する断面視矩形状の加熱室2bがサイド部S1の略全域に渡って形成されている。加熱室2bは、基台5の上面と対向するように、サイドモールド2内に形成される環状の流路である。詳しくは後述するが、加熱室2b内には、図外の熱源供給装置から加熱媒体が供給され、加熱媒体により生じる熱は、サイドモールド2を介してタイヤTのサイド部S1側に伝達される。サイドモールド2の開口部は、一方のビード部Tb;Tbの周囲を型付けするビードリング8a、及び後述のブラダー10を把持するクランプリング12aによって閉鎖される。
【0013】
サイドモールド3は、サイドモールド2と同様に、中央部が開口した円盤状である。サイドモールド3は、タイヤTが載置された状態において、成形面3aが他方のビード部Tb;Tbの近傍からクラウン部C1方向に延在するサイド部S2の表面と当接し、当該サイド部S2の表面を型付けする。サイドモールド3は、センターポスト6の昇降動作によって昇降自在とされたアウターリング7の下面に配設されている。
【0014】
サイドモールド3の内部には、加熱室2bと対応し、半径方向に延長する断面視矩形状の加熱室3bがサイド部S2の略全域に渡って形成されている。加熱室3bは、アウターリング7の下面と対向するように、サイドモールド3内に形成される環状の流路である。加熱室3b内には、図外の熱源供給装置から加熱媒体が供給され、加熱媒体が生じる熱は、サイドモールド3を介してタイヤTのサイド部S2側に伝達される。また、サイドモールド3の開口部は、他方のビード部Tb;Tbの周囲を型付けするビードリング8b、及び後述のブラダー10を把持するクランプリング12bによって閉鎖される。
【0015】
複数のセクターモールド4は、互いに周方向に組み合わされた状態において、タイヤTのクラウン部C1を環状に包囲する。セクターモールド4は、周方向に沿って、例えば8つに分割されている。クラウン部C1の表面と当接するパターン成形面4aは、クラウン部C1の表面上に所定のトレッドパターンを型付けする凹凸を含む。パターン成形面4aがクラウン部C1の表面と当接することにより、クラウン部C1には、パターン成形面4aに形成された凹凸が反転したトレッドパターンが型付けされる。
【0016】
各セクターモールド4の内部には、幅方向に延長する断面視略台形状の加熱室4bが形成されている。加熱室4bは、後述するセグメント9の内周面9bと対向するように、各セクターモールド4内に形成される環状の流路である。加熱室4b内には、他の加熱室2b;3bと同様に図外の熱源供給装置から加熱媒体が供給され、加熱媒体が生じる熱は、セクターモールド4を介してタイヤTのクラウン部C1側に伝達される。
【0017】
複数のセクターモールド4は、基台5上に配設されたスライダ機構に沿って径方向に拡径又は縮径自在に搭載された複数のセグメント9により保持される。セグメント9の外周面9aは、アウターリング7のアーム部11の内周面11bと同一勾配の傾斜面として形成される。加硫工程の開始時には、センターポスト6の降下によりセグメント9の外周面9aと、アーム部11の内周面11bとを勾配に沿って摺接させ、複数のセグメント9を径方向に縮径させる。そして、センターポスト6が降下限度位置まで降下すると、複数のセクターモールド4は、タイヤTのクラウン部C1を隙間なく取り囲んだ状態となる。その後、後述する加熱媒体がサイドモールド2の加熱室2b、サイドモールド3の加熱室3b及びセクターモールド4の加熱室4bに供給され、加熱室2b;3b;4b内を循環する加熱媒体の熱により、タイヤTのクラウン部C1側が加熱される。加硫工程が完了し、タイヤTを脱型するに際しては、センターポスト6の上昇によりアウターリング7のアーム部11によるセグメント9の拘束を解除し、各セグメント9を径方向外側に拡径する。
【0018】
サイドモールド2;3、及び複数のセクターモールド4によって包囲されたタイヤTの内周面側には、ブラダー10が配設される。ブラダー10は、加硫装置1の外部から供給される流体によって膨張する伸縮体である。ブラダー10の外周面は、ブラダー10の膨張によってタイヤTの内周面と密着し、タイヤTの外周面をサイドモールド2;3、及び複数のセクターモールド4側に押し付ける。
【0019】
以上のとおり、加硫装置1内のタイヤTは、サイドモールド2;3、複数のセクターモールド4、及びブラダー10によって加圧された状態に置かれる。さらに、タイヤTは、図外の熱源供給装置からサイドモールド2;3及びセクターモールド4の加熱室2b;3b及び加熱室4b内に供給され、当該加熱室2b;3b;4b内を循環する加熱媒体により加熱されて、加硫が徐々に進行する。
【0020】
加熱室2b;3b;4bに供給される加熱媒体は、タイヤTに熱を伝達する熱源となり得る材質であって、上記サイドモールド2;3やセクターモールド4の材質と異なる材質からなる。加熱媒体には、主として高温の液体やスチーム,不活性ガス等が用いられる。なお、加熱媒体は、少なくともセクターモールド4を構成するベースモールド20又はパターンモールド30の材質とは異なる材質を含めばよく、粉粒体等の金属や樹脂等の固体の他、水や油等の液体、スチームや不活性ガス等の気体、或いはこれらの混合物であってもよい。
【0021】
図外の熱源供給装置は、加熱室2b;3b;4b内に供給される加熱媒体の温度や供給量を調整する制御部を備えている。制御部は、加熱媒体の温度を調整する加熱部や、供給管に配設された流量調整弁を制御することにより、複数の加熱室2b;3b;4b内に供給される加熱媒体の温度及び供給量を制御する。
【0022】
加熱室2b内に供給された加熱媒体により、下側のサイドモールド2、及びビードリング8aが徐々に加熱される。サイドモールド2に伝達された熱は、主にサイドモールド2の成形面2aと当接するタイヤTのサイド部S1に伝達され、サイド部S1の加硫を促進する。また、ビードリング8aに伝達された熱は、主にビードリング8aと当接するタイヤTの一方のビード部Tb;Tbに伝達され、当該ビード部Tb;Tbの加硫を促進する。
加熱室3b内に供給された加熱媒体により、上側のサイドモールド3、及びビードリング8bが徐々に加熱される。サイドモールド3に伝達された熱は、主にサイドモールド3の成形面3aと当接するタイヤTのサイド部S2に伝達され、当該サイド部S2の加硫を促進する。また、ビードリング8bに伝達された熱は、主にビードリング8bと当接するタイヤTの他方のビード部Tb;Tbに伝達され、当該ビード部Tb;Tbの加硫を促進する。
加熱室4b内に供給された加熱媒体により、セクターモールド4が徐々に加熱される。セクターモールド4に伝達された熱は、主にセクターモールド4のパターン成形面4aを介してタイヤTのクラウン部C1に伝達され、クラウン部C1の加硫を促進する。
【0023】
図11は、セクターモールド4の部分拡大図である。
同図に示すように、セクターモールド4には、加熱室4bと外部とが連通可能な加熱媒体給排路としての加熱媒体供給路55a及び加熱媒体排出路55bが形成される。加熱媒体供給路55a及び加熱媒体排出路55bは、セクターモールド4の外周面21から加熱室4bの形状を規定する径方向外側面52に達する管路であって、例えばセクターモールド4と同一の金属の材質からなる。なお、加熱媒体供給路55a及び加熱媒体排出路55bの数や位置は限定されるものではなく、例えば、加熱室4bの幅方向、或いは周方向に沿って複数形成してもよい。
【0024】
加熱媒体供給路55aは、図外の熱源供給装置と加熱室4bとを接続し、熱源供給装置から供給される加熱媒体を加熱室4b内に供給する。加熱媒体排出路55bは、加熱室4bと図外の熱源供給装置とを接続し、加熱室4b内の加熱媒体を熱源供給装置へと排出する。つまり、加熱媒体は、熱源供給装置から加熱媒体供給路55aを介して加熱室4bへと供給され、加熱室4b内を循環した後、加熱媒体排出路55bを介して熱源供給装置へと排出される。そして、この場合の加熱室4bは、加熱媒体を移動,循環させる流路となる。このように、セクターモールド4の内部に形成された加熱室4bと、セクターモールド4の外部とを連通可能とする加熱媒体供給路55a及び加熱媒体排出路55bとを設けたことにより、加熱媒体が加熱室4b内を循環可能となり、加熱媒体の熱量を常に一定とすることができる。
なお、加熱媒体供給路55a及び加熱媒体排出路55bの説明では、セクターモールド4を前提として説明したが、セクターモールド4に限定されるものでなく、サイドモールド2;3も同様の構成である。
【0025】
図2は、複数のセクターモールド4のうち、1のセクターモールド4を示す概略斜視図である。また、
図3は、セクターモールド4の幅方向断面図(A−A断面)である。
以下、
図2,
図3を参照して、セクターモールド4の構造について詳説する。なお、本明細書においては、センター領域CCe、及びショルダー領域CSh1;CSh2の範囲は、タイヤTのクラウン部C1のプロファイル形状に応じて変化するものであるが、センター領域CCeは少なくともタイヤTのクラウン部C1の幅方向中心(タイヤセンター)を跨ぐ領域であり、ショルダー領域CSh1;CSh2は当該センター領域CCeを除く残余の領域であるものとする。また、以降の説明において、ベースモールド20及びパターンモールド30の詳細をセクターモールド4を中心に説明するが、サイドモールド2;3もセクターモールド4と同様にベースモールド20及びパターンモールド30により構成される。
【0026】
図2に示すように、セクターモールド4は、金属母材としてのベースモールド20と、前述のパターン成形面4aを有するパターンモールド30とが一体に組み付けられて構成される。ベースモールド20及びパターンモールド30は、上記加熱媒体の材質と異なる材質により構成され、例えばアルミニウムや鉄、ステンレス鋼等の金属の材質からなる。また、詳細については後述するが、ベースモールド20及びパターンモールド30は、3次元CADデータ等のセクターモールド4の基本モデルに基づいて、一般的な金属鋳造法や、後述する積層造形法により造形される。以下、ベースモールド20とパターンモールド30の具体的形状について説明する。
【0027】
図3に示すように、母材としてのベースモールド20は、セグメント9の内周面9bと対応する形状であり、当該内周面9bと対向して保持される外周面21を有する。外周面21がセグメント9の内周面9bと対応する形状を有することにより、外周面21はセグメント9の内周面9bと密着する。ベースモールド20の外周面21の反対側には、パターンモールド30を支持する載置面23が形成される。載置面23は、パターンモールド30のセンター部型付け領域Rcと対応するセンター側外周面33、ショルダー部型付け領域RSh1;RSh2と対応するショルダー側外周面32a;32b、及びバットレス部型付け領域Rb1;Rb2と対応するバットレス側外周面37a;37bの曲率と実質的に同一の曲率を有して幅方向に沿って湾曲する面である。パターンモールド30がベースモールド20に組み付けられた場合、載置面23上には、パターンモールド30のセンター側外周面33、ショルダー側外周面32a;32b、及びバットレス側外周面37a;37bの範囲が密着する。載置面23の幅方向外側にはそれぞれ、パターンモールド30に形成された接合部34;34の接合外周面34a;34bと当接する接合面24a;24bが形成される。
【0028】
図2に示すように、接合面24a;24b上には、パターンモールド30の接合部34;34を貫通するように開設された複数のボルト孔35と対応する位置に複数のボルト孔(不図示)が開設されている。ベースモールド20とパターンモールド30との組み付けは、パターンモールド30の複数のボルト孔35と、ベースモールド20の図外の複数のボルト孔とを位置合わせし、ボルト孔35側から図外のボルトを螺入することにより行われる。
【0029】
図2,
図3に示すように、外周面21と、載置面23及び接合面24a;24bとを接続する周方向の端面26a;26bは、それぞれ隣接する他のセクターモールド4を構成するベースモールド20の周方向の端面26b;26aと突き合わされて当接する。
【0030】
ベースモールド20の内部には、上述した加熱室4bが形成される。加熱室4bは、パターンモールド30のパターン成型面4aよりも径方向外側に位置し、セクターモールド4の幅方向に延長する略逆台形状の中空部である。加熱室4bは、例えば周方向に渡って形成され、セクターモールド4を構成するベースモールド20の一方の端部から他方の端部まで延長する。そして、加熱室4bは、端面26a;26bと隣接する端面26b;26a同士が当接することにより、円環状に形成される。また、加熱室4bの一方の端部には、上述した加熱媒体給排路としての加熱媒体供給路55aが設けられ、他方の端部には、加熱媒体排出路55bが設けられ、図外の熱源供給装置から加熱媒体供給路55a及び加熱媒体排出路55bを介して加熱媒体が供給される。なお、加熱室4bの延長方向は、周方向に限定されず、幅方向、径方向又は斜め方向であっても良い。
【0031】
次に、ベースモールド20に対して組み付けられるパターンモールド30について説明する。
前述のとおり、パターンモールド30は、ベースモールド20の載置面23とそれぞれ当接するセンター側外周面33、ショルダー側外周面32a;32b及びバットレス側外周面37a;37bを有する。センター側外周面33、ショルダー側外周面32a;32b及びバットレス側外周面37a;37bは、それぞれセンター部型付け領域Rc、ショルダー部型付け領域RSh1;RSh2及びバットレス部型付け領域Rb1;Rb2と対応する。
【0032】
パターンモールド30のセンター側外周面33、ショルダー側外周面32a;32b、及びバットレス側外周面37a;37bの反対側には、それぞれ前述のパターン成形面4aを構成するセンター側内周面38、ショルダー側内周面36a;36b、及びバットレス側内周面39a;39bが連続して形成される。
【0033】
図2,3に示すように、センター側内周面38上には、複数の主溝成型凸部43が突設される。複数の主溝成型凸部43は、センター側内周面38の周方向に沿って連続して延長し、タイヤセンターTCを挟んで等間隔に形成される。また、ショルダー側内周面36a;36b上には、複数の横溝成型凸部44が形成される。複数の横溝成型凸部44は、ショルダー側内周面36a;36bの周方向に沿って均等な間隔を有して配置され、主溝成型凸部43側からそれぞれ接合内周面34c;34d側に向かって弧状に延長する。このように、パターン成形面4aを構成するショルダー側内周面36a;36b及びセンター側内周面38には、加硫対象となるタイヤTのクラウン部C1に所望のトレッドパターンを成型する凸部が設けられている。そして、タイヤTがパターン成形面4aに押し付けられた状態で加硫されることにより、タイヤTのクラウン部C1には、凸部の形状が反転した形状を有する接地面や溝を含むトレッドパターンが形成される。なお、パターン成形面4aの形状は例示に過ぎず、主溝成型凸部43及び横溝成型凸部44の数や形状、寸法などの各要素を変更することにより、クラウン部C1の外周面に多様なトレッドパターンを成型することが可能である。また、図示は省略しているが、バットレス側内周面39a;39bにも所定の凹凸が形成されている。
【0034】
以上、加熱媒体が循環可能な中空部としての加熱室2b;3bをサイドモールド2;3に形成し、加熱室4bをセクターモールド4に形成する構成とすれば、従来のように基台5、アウターリング7及びアーム部11に加熱室が形成される場合と異なり、加熱室2b;3b;4bからタイヤTまでの間隔が近くなり、加熱室2b;3b;4b内に収容される加熱媒体の熱をサイドモールド2;3及びセクターモールド4を介してタイヤTへと伝達することができるので、熱がタイヤTに素早く伝達されるとともに、加硫に伴う放熱等のエネルギーロスが生じにくくなり、加硫効率を向上させることが可能となる。
また、加熱室2b;3b;4bをサイドモールド2;3及びセクターモールド4内に形成することにより、加硫装置1における径方向のサイズを小さくすることができるので、加硫装置1を製造する際の使用材料を抑えることができ、製造コストを低減することが可能となる。
【0035】
[実施形態2]
図4(a)は、他の実施形態に係る加硫装置1の一部を示す概略断面図であり、
図4(b)は、セクターモールド4の幅方向断面図である。本実施形態に係る加硫装置1は、実施形態1に係る加硫装置1と比較して、中空部としての加熱室2b;3b;4bが独立して複数形成される点で異なる。なお、上記実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0036】
本実施形態に係る加硫装置1のサイドモールド2及びサイドモールド3の内部には、断面視円形状の加熱室2b及び加熱室3bが複数形成される。加熱室2b;3bは、サイドモールド2;3内を延長する環状の流路であり、加熱室2b同士及び加熱室3b同士が径方向に互いに所定の間隔離間して形成される。また、加硫装置1のセクターモールド4の内部には、断面視円形状の加熱室4bが複数形成される。加熱室4bは、セクターモールド4内を延長する環状の流路であり、加熱室4b同士が幅方向に互いに所定の間隔離間して形成される。
【0037】
各加熱室2b;3b;4bの一方の端部には、上述した加熱媒体供給路55aが接続され、他方の端部には、加熱媒体排出路55bが接続される。各加熱室2b;3b;4bには、図外の熱源供給装置から加熱媒体が供給され、加熱媒体は加熱室2b;3b;4b内を循環する。加熱室2b;3b;4b同士は、互いに連通していない独立した状態であり、図外の熱源供給装置から加熱室2b;3b;4b内に一度供給された加熱媒体がその途中で他の加熱室2b;3b;4bへ移動することはない。
【0038】
このように、加熱室2b;3b;4bを独立して複数形成した場合でも、上記実施形態と同様に、加熱室2b;3b;4bからタイヤTまでの間隔が近くなるため、加硫効率を向上させることができる。また、加熱室2b;3b;4bをサイドモールド2;3及びセクターモールド4の任意の場所に形成することができ、加硫装置1の設計の自由度を向上させることが可能となる。なお、加熱室2b;3b;4bの形状、大きさ又は個数等は、図示したものに限定される訳でなく、タイヤTの大きさや用途に応じて適宜変更可能である。具体的には、冷却室2c;3c;4cの断面形状としては、円形、楕円形、多角形、波形等が使用され、その大きさも様々である。例えば、断面形状が円形の冷却室2c;3c;4cを採用した場合でも、その直径が冷却室2c;3c;4cによって異なるものも存在する。この理由としては、タイヤTのサイド部S1;S2、タイヤTのクラウン部C1等の位置によって最適な加硫条件が異なるからである。
【0039】
[実施形態3]
図5(a)は、他の実施形態に係る加硫装置1の一部を示す概略断面図であり、
図5(b)は、セクターモールド4の幅方向断面図である。本実施形態に係る加硫装置1は、実施形態2に係る加硫装置1と比較して、各加熱室2b;3b;4bからセクターモールド4のパターン成型面4aまでの間隔がセクターモールド4の領域によって変化する点で異なる。なお、各加熱室2b;3b;4bからパターン成型面4aまでの間隔以外の構成については、実施形態2の構成と同様である。
【0040】
図5(b)に示すように、本実施形態に係る加硫装置1の加熱室4bは、加熱室4bの外周面からセクターモールド4の成型面4a(パターンモールド30のセンター側内周面38、ショルダー側内周面36a;36b、バットレス側内周面39a;39b)までの間隔X1;X2;X3が加熱室4bの形成される領域(タイヤTのゲージ厚)によって変化する。より具体的には、タイヤTのゲージ厚が最も薄いセンター部型付け領域Rcに形成される加熱室4bの間隔X1が最も大きく設定され、タイヤTのゲージ厚が最も厚いショルダー側型付け領域RSh1;RSh2に形成される加熱室4bの間隔X2が最も小さく設定され、ゲージ厚がセンター部型付け領域Rcよりも厚くかつショルダー部型付け領域RSh1;RSh2よりも薄いバットレス型付け領域Rb1;Rb2に形成される加熱室4bの間隔X3が間隔X1よりも大きくかつ間隔X2よりも小さく設定される。なお、間隔X1;X2;X3は、タイヤTのパターン成型面4a(センター側内周面38、ショルダー側内周面36a;36b又はバットレス側内周面39a;39b)の法線方向である。
【0041】
また、
図5(a)に示す加熱室2b;3bも同様に、タイヤTのゲージ厚に応じて、サイドモールド2;3の成型面2a;3aから加熱室2b;3bの外周面までの間隔が異なる。より具体的には、タイヤTのゲージ厚の厚いビード部Tbやショルダー領域CSh1;CSh2近傍は、成型面2a;3aから加熱室2b;3bまでの間隔が小さく設定される。これに対して、ゲージ厚の薄いタイヤTのサイド部S1;S2の中間位置は、成型面2a;3aから加熱室2b;3bまでの間隔が大きく設定される。
【0042】
図13(a)は、タイヤの部位に関わらず、一様な熱量を付与する従来の加硫装置によって加硫されたタイヤのクラウン部C1のセンター領域CCe、及びショルダー領域CSh1;CSh2における加硫度の時間的変化を示すグラフであり、
図13(b)は、上述の実施形態3に係るセクターモールド4を備えた加硫装置1によって加硫されたタイヤのクラウン部C1のセンター領域CCe、及びショルダー領域CSh1;CSh2における加硫度の時間的変化を示すグラフである。
【0043】
図13(a)に示すように、従来の加硫装置を用いた場合、モールドから未加硫タイヤTに付与される熱量は、パターン成型面4aから加熱室4bまでの間隔等に依存するため、その部位に関わらず略一様となっている。具体的には、センター付近とショルダー付近とでは、主にゴムのゲージ厚の相違に起因して、ゲージ厚の薄いセンター付近の加硫度がゲージ厚の厚いショルダー付近よりも早く上昇する。そして、ゲージ厚の厚いショルダー付近が適正な加硫度に達した時点において、センター付近の加硫度が適正な加硫度を超えた過加硫となり易く、センター付近とショルダー付近とを同時に最適な加硫度にすることが困難となる。
【0044】
一方、
図13(b)に示すように、本実施形態に係る加硫装置1によれば、ゲージ厚が厚いショルダー領域CSh1;CSh2はパターン成型面4aから加熱室4bまでの間隔が小さく、熱がタイヤTに伝達されるまでの伝達速度が速いため、タイヤTの加熱温度及び加硫度が素早く上昇する。これに対して、ゲージ厚が薄いセンター領域CCeはパターン成型面4aから加熱室4bまでの間隔が大きく、熱がタイヤTに伝達されるまでの伝達速度が遅いため、タイヤTの加熱温度及び加硫度の上昇までに時間を要する。このように、加硫装置1により加硫されたタイヤは、加硫開始から所定時間経過後(例えば30分経過後)のセンター領域CCe、及びショルダー領域CSh1;CSh2の加硫度がともに適正加硫度の範囲内であることが確認できる。
【0045】
以上、本実施形態に係る加硫装置1によれば、上述したように加硫効率を向上させることができるだけでなく、加熱室2b;3b;4bと、成型面2a;3a及びパターン成型面4aとの間隔X1;X2;X3をタイヤTの領域に応じて任意に設定することにより、タイヤTの領域(部位)毎に加硫温度を詳細に設定でき、タイヤT全体として最適な加硫度にすることが可能となる。
【0046】
[実施形態4]
図6(a)は、他の実施形態に係る加硫装置1の一部を示す概略断面図であり、
図6(b)は、セクターモールド4の幅方向断面図である。本実施形態に係る加硫装置1は、実施形態2に係る加硫装置1と比較して、加熱室2b;3b;4bの疎密度合がセクターモールド4の領域によって変化する点で異なる。
【0047】
図6(b)に示すように、本実施形態に係る加硫装置1のセクターモールド4の内部に形成される加熱室4bは、タイヤTのゲージ厚に応じて加熱室4b同士の間隔(疎密度合)が変化する。より具体的には、タイヤTのゲージ厚が薄いセンター部型付け領域Rcに形成される加熱室4bの疎密度合が最も疎に設定され、タイヤTのゲージ厚が厚いショルダー部型付け領域RSh1;RSh2に形成される加熱室4bの疎密度合が最も密に設定され、ゲージ厚がセンター部型付け領域Rcよりも厚く、かつ、ショルダー側型付け領域RSh1;RSh2よりも薄いバットレス部型付け領域Rb1;Rb2に形成される加熱室4bの疎密度合がセンター部型付け領域Rcの疎密度合よりも密に設定され、かつ、バットレス部型付け領域Rb1;Rb2よりも疎に設定される。
【0048】
また、
図6(a)に示す加熱室2b;3bも同様に、タイヤTのゲージ厚に応じて粗密度合が変化する。具体的には、タイヤTのゲージ厚の厚いビード部Tbやショルダー領域CSh1;CSh2近傍に形成される加熱室2b;3bの疎密度合が密に設定される。これに対して、ゲージ厚の薄いタイヤTサイド部S1;S2の中間位置に形成される加熱室2b;3bの疎密度合が疎に設定される。
【0049】
以上、本実施形態に係る加硫装置1によれば、上述したように加硫効率を向上させることができるだけでなく、加熱室2b;3b;4bの疎密度合を未加硫のタイヤTの領域(タイヤTのゲージ厚)に応じて変更させることにより、タイヤの領域(部位)毎に加硫温度を詳細に設定でき、タイヤ全体として最適な加硫度にすることが可能となる。
【0050】
[実施形態5]
図7(a)は、他の実施形態に係る加硫装置1の一部を示す概略断面図であり、
図7(b)は、セクターモールド4の幅方向断面図である。本実施形態に係る加硫装置1は、実施形態2に係る加硫装置1と比較して、サイドモールド2;3及びセクターモールド4内に冷却媒体が収容される中空部としての冷却室2c;3c;4cが形成される点で異なる。
【0051】
本実施形態に係る加硫装置1のサイドモールド2;3内には、断面視円形状の冷却室2c及び冷却室3cが複数形成される。冷却室2c;3cは、加熱室2b;3bと平行であり、サイドモールド2;3内を延長する環状の流路であって、冷却室2c;3c同士が径方向に互いに所定の間隔離間して形成される。また、冷却室2c;3cは、例えばタイヤTのゲージ厚が薄いサイド部S1;S2の中間付近に設けられ、加熱室2b;3bよりも小径である。
セクターモールド4内には、断面視円形状の冷却室4cが複数形成される。冷却室4cは、加熱室4bと平行であり、セクターモールド4内を延長する環状の流路であって、冷却室4c同士が幅方向に互いに所定の間隔離間して形成される。また、冷却室4cは、例えばタイヤTのゲージ厚が薄いセクターモールド4のセンター部型付け領域Rcに設けられ、加熱室4bよりも小径である。また、冷却室2c;3c;4cは、図外の供給管及び排出管と接続され、図外の冷却媒体供給装置から供給管を介して冷却室2c;3c;4cへと冷却媒体が供給され、冷却室2c;3c;4cから排出管を介して冷却媒体供給装置へと排出される。
【0052】
冷却室2c;3c;4cに供給される冷却媒体は、サイドモールド2;3及びセクターモールド4を介して加熱媒体により加熱されたタイヤTの熱を奪うことが可能な材質であって、上記サイドモールド2;3やセクターモールド4の材質と異なる材質からなる。冷却媒体は、例えば低温の液体やガス等が用いられる。また、冷却媒体は、少なくともセクターモールド4を構成するベースモールド20又はパターンモールド30の材質とは異なる材質を含めばよく、金属や樹脂等の固体、水や油等の液体、不活性ガス等の気体、或いはこれらの混合物であってもよい。
【0053】
図外の冷却媒体供給装置は、冷却室2c;3c;4c内に供給される冷却媒体の温度や供給量を調整する制御部を備えている。制御部は、冷却媒体の温度を調整する冷却部や、供給管に配設された流量調整弁を制御することにより、複数の冷却室2c;3c;4c内に供給される冷却媒体の温度及び供給量を制御する。
【0054】
冷却室2c;3c内に供給された冷却媒体により、加熱室2b;3bにより加熱されたサイドモールド2;3のサイド部S1;S2の中間位置近傍が徐々に冷却される。また、冷却室4c内に供給された冷却媒体により、加熱室4bにより加熱されたセクターモールド4のセンター部型付け領域Rc近傍が徐々に冷却される。本実施形態に係る加硫装置1は、ゲージ厚が厚いショルダー領域CSh1;CSh2に冷却室2c;3c;4cが形成されていないので、加硫度が素早く上昇する。これに対して、ゲージ厚が薄いセンター領域CCeには、冷却室2c;3c;4cが形成され、冷却室2c;3c;4c内の冷却媒体によりセンター領域CCe近傍の熱が奪われるので、加硫度の上昇まで時間を要する。
【0055】
以上、本実施形態に係る加硫装置1によれば、上述したように加硫効率を向上させることができるだけでなく、冷却室2c;3c;4c内の冷却媒体がサイドモールド2;3及びセクターモールド4を介してタイヤTの熱を奪うので、タイヤの領域(部位)毎に加硫温度を詳細に設定でき、タイヤ全体として最適な加硫度にすることが可能となる。
【0056】
[実施形態6]
図8は、他の実施形態に係るセクターモールド4の一部を示す幅方向断面図である。本実施形態に係る加硫装置1は、実施形態1に係る加硫装置1と比較して、加熱室4bがセクターモールド4を構成するベースモールド20又はパターンモールド30内になく、ベースモールド20とパターンモールド30との間に挟み込まれた状態で介在する点で異なる。なお、実施形態6〜実施形態9の説明においては、セクターモールド4のみ図示し、セクターモールド4を中心として説明するが、サイドモールド2;3も同様の構成とすることが可能である。
【0057】
本実施形態に係る加硫装置1は、加熱室4bがベースモールド20の載置面23と、パターンモールド30のセンター側外周面33、ショルダー側外周面32a;32b及びバットレス側外周面37a;37bとの間に位置し、セクターモールド4の幅方向全域に設けられている。加熱室4bの外周面4mは、載置面23の曲率と実質的に同一の曲率を有して幅方向に沿って湾曲する面である。加熱室4bの内周面4nは、パターンモールド30のセンター側外周面33、ショルダー側外周面32a;32b、及びバットレス側外周面37a;37bの曲率と実質的に同一の曲率を有して幅方向に沿って湾曲する面である。
【0058】
以上、このような構成とすることにより、上記各実施形態と同様に、加熱室4bからタイヤTまでの距離が近くなり、加熱室4b内を循環する加熱媒体の熱がセクターモールド4を介してタイヤTへと伝達されるので、放熱等のエネルギーロスが生じにくく、加硫効率を向上させることが可能となる。
なお、例えば、タイヤTのゲージ厚に応じて加熱室4bの径方向の厚さを変更すれば、加熱室4b内を循環する加熱媒体の量を変更することができるので、タイヤTの領域(部位)毎に加硫温度を詳細に設定でき、タイヤ全体として最適な加硫度にすることが可能となる。
【0059】
[実施形態7]
図9は、他の実施形態に係るセクターモールド4の一部を示す幅方向断面図である。本実施形態に係る加硫装置1は、実施形態2に係る加硫装置1と比較して、加熱室4dがパターンモールド30にも形成される点で異なる。つまり、ベースモールド20内には加熱室4bが形成され、パターンモールド30内には加熱室4dが形成される。
【0060】
同図に示すように、セクターモールド4の内部には、断面視円形状の加熱室4dが複数形成される。加熱室4dは、セクターモールド4のパターンモールド30内を延長する環状の流路であり、各加熱室4d同士が幅方向に所定の間隔離間して形成される。加熱室4dは、ベースモールド20内に形成される加熱室4bよりも小径であり、加熱室4bと平行である。また、加熱室4dは、加熱室4bが形成されない領域を補うように、隣り合う加熱室4b;4bの間に形成される。
【0061】
以上、加熱室4bをベースモールド20に形成し、加熱室4dをパターンモールド30に形成すれば、加熱室4b及び加熱室4dからタイヤTまでの間隔が極めて近くなり、加熱室4b内を循環する加熱媒体の熱をセクターモールド4を介してより的確にタイヤTへと伝達することができるので、放熱に伴うエネルギーロスが生じにくく、加硫効率を向上させることが可能となる。また、セクターモールド4には、加熱室4bに加え、加熱室4dを形成したので、セクターモールド4及びタイヤTに伝達される熱量が大きくなり、加硫速度を向上することができる。
なお、本実施形態においては、セクターモールド4を構成するベースモールド20及びパターンモールド30の両方に加熱室4b及び加熱室4dを形成したが、ベースモールド20に加熱室4bを形成することなくパターンモールド30のみに加熱室4dを形成する構成としてもよい。
【0062】
[実施形態8]
図10は、他の実施形態に係るセクターモールド4の一部を示す幅方向断面図である。本実施形態に係る加硫装置1は、実施形態2に係る加硫装置1と比較して、収容凹部4eがベースモールド20の載置面23に形成される点で異なる。
【0063】
同図に示すように、ベースモールド20の載置面23には、外周面21の方向に凹む上方開口の収容凹部4eが複数形成される。収容凹部4eは、断面視略矩形状であり、収容凹部4e同士は、幅方向に所定の間隔離間して形成される。パターンモールド30が、ベースモールド20に組み付けられ、収容凹部4eがパターンモールド30のセンター側外周面33、ショルダー側外周面32a;32b及びバットレス側外周面37a;37bにより閉塞されることによって、加熱室4bが形成される。そして、ベースモールド20の収容凹部4eとパターンモールド30とによって形成された加熱室4bには、熱源供給装置から加熱媒体供給路55aを介して加熱媒体が供給される。
【0064】
以上、本実施形態に係る加硫装置1においても、加熱室4bからタイヤTまでの距離が近くなり、加熱室4b内に収容される加熱媒体の熱をセクターモールド4を介してタイヤTへと伝達することができるので、加硫に伴う放熱等のエネルギーロスが生じにくくなり、加硫効率を向上させることが可能となる。
【0065】
[実施形態9]
次に、セクターモールド4の他の実施形態について
図4を参照しつつ説明する。本実施形態に係る加硫装置1は、実施形態2に係る加硫装置1と比較して、加熱媒体の温度が加熱室4bによって異なる点で異なる。
図4に示す加硫装置1は、セクターモールド4の領域(タイヤTのゲージ厚)に応じて加熱室4b内を循環する加熱媒体の温度が異なる。具体的には、タイヤTのゲージ厚が薄いセンター部型付け領域Rcに形成される加熱室4b内を循環する加熱媒体の温度が低く設定される。これに対して、タイヤTのゲージ厚が厚いセンター部型付け領域Rc以外のショルダー部型付け領域RSh1;RSh2及びバットレス部型付け領域Rb1;Rb2に形成される加熱室4b内を循環する加熱媒体の温度が高く設定される。
【0066】
以上、本実施形態に係る加硫装置1によれば、上述したように加硫効率を向上させることができるだけでなく、タイヤTのゲージ厚に応じて加熱媒体の温度を任意に設定することにより、タイヤTの領域(部位)毎に加硫温度を詳細に設定でき、タイヤ全体として最適な加硫度にすることが可能となる。
【0067】
なお、本実施形態9においては、加熱媒体の温度をセンター部型付け領域Rcとセンター部型付け領域Rc以外との2個所で設定する構成としたが、これに限定されず3個所以上としてもよい。具体的には、タイヤTのゲージ厚が最も薄いセンター部型付け領域Rcに形成される加熱室4b内を循環する加熱媒体の温度を最も低く設定し、タイヤTのゲージ厚が最も厚いショルダー部型付け領域RSh1;RSh2に形成される加熱室4b内を循環する加熱媒体の温度を最も高く設定し、バットレス部型付け領域Rb1;Rb2に形成される加熱室4b内を循環する加熱媒体の温度をセンター部型付け領域Rcの加熱媒体の温度よりも高くかつショルダー部型付け領域RSh1;RSh2の加熱媒体の温度よりも低く設定することにより、より詳細な加硫温度の設定が可能となる。
【0068】
[製造方法について]
次に、実施形態1に係るセクターモールド4を例として、サイドモールド2;3及びセクターモールド4の主な製造方法について説明する。
上述のとおり、セクターモールド4は、一般的な金属鋳造法や、積層造形法を用いて製造される。ここで、特に積層造形法とは、3次元CADデータ等からなるセクターモールド4のマスターデータを、複数のスライスデータ(積層データ)に変換し、当該変換されたスライスデータに表される形状に対応する層を1層ずつ順に積層してマスターデータで表されるセクターモールド4の形状を造形,製造する手法である。また、本例においては、セクターモールド4がベースモールド20と、これに対応するパターンモールド30との組み合わせによって構成されることから、セクターモールド4と対応する1つのマスターデータを分割して、ベースモールド20及びパターンモールド30それぞれに対応するマスターデータを作成する。
【0069】
ベースモールド20及びパターンモールド30を製造するにあたり、好適な積層造形法としては、概略、複数のスライスデータを受信する成形機側において、金属粉を噴射しながら同時にレーザー光を照射し、金属粉を溶融,結合させながら各スライスデータで表される形状に対応する層を順に造形する方式や、複数のスライスデータを受信する成形機側において、チャンバー内に予め敷き詰められた金属粉末に対してレーザー光を照射し、金属粉を溶融,結合させることにより、各スライスデータで表される形状に対応する層を造形する方式等が採用できる。
【0070】
図12は、積層造形装置80の一例を示す概略図である。積層造形装置80は、スライスデータを受信するとともに、当該スライスデータに基づいて各機構を制御する制御装置82と、テーブル移動装置83上に設けられ、X軸、Y軸、Z軸方向に移動可能な走査テーブル85と、走査テーブル85上に敷設される素地85aの方向に金属粉を噴射するとともに、レーザー光Lを照射するノズル機構87と、ノズル機構87内に金属粉を常時供給するチャンバー89と、ノズル機構87に対してレーザー光Lを出力するレーザー出力装置90とを備える。なお、本例においてノズル機構87からは金属粉の一例としての鉄粉が噴射されるものとする。
【0071】
走査テーブル85は、テーブル移動装置83上に配設される。テーブル移動装置83は、走査テーブル85をZ軸方向(上下方向)に昇降させる昇降部83aと、当該昇降部83aの昇降動作と連動して昇降する支持板上に配設されたスライダ機構83bと、スライダ機構83bによってX軸方向(左右方向)にスライス移動可能とされた移動板84と、当該移動板84上に配設されたスライダ機構84aとを備える。
【0072】
スライダ機構84aは、走査テーブル85をX軸方向と直交するY軸方向(前後方向)にスライス可能に支持する。昇降部83a、スライダ機構83b;84aは、それぞれ制御装置82から出力される駆動信号に応じて動作するモータ等の駆動源を備えており、スライスデータに従ってこれらの駆動源が繰り返し制御されることによって、走査テーブル85上の素地85a上に各スライスデータで表される形状に対応する層が順に積層される。なお、本例においては、積層方向をベースモールド20の径方向外側から内側へ向かう方向に設定している。よって、走査テーブル85のX,Y軸方向への繰り返しの走査により1のスライスデータに対応する層が造形されると、走査テーブル85がZ軸方向に降下し、上層のスライスデータに対応する層が再び走査テーブル85のX,Y軸方向への繰り返しの走査により造形される。なお、本例においては、ノズル機構87内に対して、走査テーブル85をX軸、Y軸、Z軸方向に移動させる構成の積層造形装置80を例としているが、走査テーブル85に対してノズル機構87が移動する構成や、これらの両方が同時に移動する構成であってもよい。また、積層方向をベースモールド20の幅方向や周方向としてもよい。
【0073】
ノズル機構87は、Z軸方向に延長する円筒体であって、素地85a側にレーザー光Lを照射する照射口87aを有する。照射口87aから照射されるレーザー光Lは、制御装置82内に設けられたレーザー出力装置90により生成される。制御装置82は、各スライスデータに基づいてレーザー出力装置90を制御し、当該レーザー出力装置90からのレーザー光Lの出力有無、出力タイミング、出力時間等を制御する。レーザー出力装置90から出力されたレーザー光Lの光路は、光路調整ミラー91により変更される。光路調整ミラー91に反射したレーザー光Lは、ノズル機構87の先端に設けられた照射口87aの略中心を通って素地85a側に照射される。
【0074】
ノズル機構87の照射口87aの周囲には、素地85a側にチャンバー89内に収容された鉄粉を噴射する噴射口87bが設けられる。噴射口87bから噴射される鉄粉は、噴射口87bと図外の供給管を介して連通するチャンバー89から常時供給される。噴射口87bに達した鉄粉は、噴射口87bの直前に形成された図外のガス噴射口から噴射されるシールドガスと共に、レーザー光L側に集束されつつ素地85a側に噴射される。なお、シールドガスの噴射制御についても制御装置82により行われる。
【0075】
素地85a側に噴射された鉄粉は、照射口87aから照射される高出力のレーザー光Lによって溶融,結合する。そして、ノズル機構87によるレーザー光Lの照射と鉄粉の噴射を同時に行いつつ、走査テーブル85をスライスデータに従ってX,Y軸方向に走査することにより、スライスデータで表される形状を造形することができる。
【0076】
次に、積層造形装置80によりベースモールド20の加熱室4bを造形する例について説明する。
図12中に示す拡大図は、最下層のスライスデータD1に基づく1層目の造形が完了し、1層目上に積層されるスライスデータD2に基づく2層目を造形している途中の様子を示す図である。同図に示すように、2層目のスライスデータD2には、ベースモールド20の幅方向に延長する加熱室4bの一部の形状に対応する領域P1が含まれている。また、同様に、上層のスライスデータD3;D4;D5にも加熱室4bの一部の形状に対応する領域P2;P3;P4が含まれている。
【0077】
同図に示す状態から制御装置82が走査テーブル85をX1からX2に示す方向に走査し、ノズル機構87の先端部(レーザー光L)が領域P1の幅方向一端部K1に達すると、制御装置82は、走査テーブル85のX2方向への走査を一旦停止する。走査の停止後、制御装置82は、レーザー出力装置90を制御して、当該レーザー出力装置90からのレーザー光Lの出力を停止させ、加熱室4bに対応する中空部を形成する。
【0078】
レーザー光Lの出力が停止した状態は、走査テーブル85がX2方向へ走査され、ノズル機構87の先端部が、幅方向一端部K1と反対側の幅方向他端部の位置に達するまで継続する。ノズル機構87の先端部が幅方向他端部の位置に達すると、制御装置82は、レーザー光Lの出力及び走査テーブル85のX2方向への走査を再開する。走査の再開後、制御装置82は、ノズル機構87の先端部が、走査を領域P1の幅方向の他端部の位置に達するまで継続する。ノズル機構87の先端部が領域P1の幅方向の他端部の位置に達すると、制御装置82は、走査テーブル85のX2方向への走査を再び停止する。走査の停止後、制御装置82は、鉄粉を1層目上に噴射するとともに、レーザー光Lの照射を再開する。鉄粉の噴射、及びレーザー光Lの照射が再開されることにより、加熱室4bに対応する領域P1以外の部分の造形が再開される。そして、以上の制御を上層のスライスデータD3,D4,D5・・・についても繰り返すことにより、ベースモールド20内に3次元CADデータで表される形状と対応する加熱室4bを形成できる。
【0079】
なお、パターンモールド30の具体的な製造工程については省略するが、ベースモールド20と同様に、パターンモールド30と対応するマスターデータのスライスデータに基づいて、走査テーブル85及びノズル機構87を制御することにより、ベースモールド20と対応して組み付け可能であるとともに、トレッドパターンを成型する所定の凹凸等を有するパターンモールド30を容易に作製することができる。また、サイドモールド2;3についても、上述のセクターモールド4の製造工程と同様である。
【0080】
また、ノズル機構87の先端部が加熱媒体供給路55a及び加熱媒体排出路55bの一部に対応する領域に達したときに、レーザー光Lの照射を制御することにより、ベースモールド20内に、加熱室4bとベースモールド20の外部とを連通可能な加熱媒体供給路55a及び加熱媒体排出路55bを形成することができる。
また、サイドモールド2;3及びセクターモールド4を形成する素材は、上述のような金属粉に限定されず、合成樹脂等の樹脂粉、無機物の焼結体であるセラミックスやセラミックス粉、或いは、樹脂粉、セラミックス粉又は金属粉のいずれかを2種類以上混合した複合材料粉等であっても良い。
また、上記実施形態では、立体形状物であるモールドを形成する金属粉にレーザー光Lを照射して焼結するとしたが、このレーザー光Lは、通常のレーザー光Lの他に、半導体レーザーの光半導体によるLED光等が含まれ、焼結する素材の性質に応じて適宜変更すればよい。
以上、複数の実施形態を通じて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではない。また、上記各実施形態に係る構成を相互に組み合わせることも当然に可能である。