特許第6579809号(P6579809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579809
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】ゴム物品用モールド
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/10 20060101AFI20190912BHJP
   B29C 33/02 20060101ALI20190912BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20190912BHJP
   B29K 21/00 20060101ALN20190912BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20190912BHJP
【FI】
   B29C33/10
   B29C33/02
   B29C35/02
   B29K21:00
   B29L30:00
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-116927(P2015-116927)
(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公開番号】特開2017-1271(P2017-1271A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2017年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100080296
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】開 俊介
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−122415(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/129651(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C33/00−33/76
B29C35/00−35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム物品を成型する成型面から背面に貫通する孔と、
前記孔内に配置され、当該孔を形成する孔壁との間に前記孔の延在する方向に沿って延長する断面環状の排気流路を形成する芯部と、
前記孔壁と前記芯部とを連結する連結部と、
を備え
前記排気流路は、
前記成型面から前記芯部の背面側の端部まで延長し、前記孔の周方向に沿って均一な寸法の隙間により形成されたゴム物品用モールド。
【請求項2】
前記連結部が、前記孔壁と前記芯部とを前記背面側で連結し、
前記断面環状の排気流路が前記成型面に臨む請求項1に記載のゴム物品用モールド。
【請求項3】
前記連結部が、前記芯部における前記成型面側の端面に作用するタイヤの押圧力に対して、前記芯部を前記孔壁に対して不動に連結する請求項1又は請求項2に記載のゴム物品用モールド。
【請求項4】
前記芯部における前記成型面側の端面が、前記成型面と面一である請求項1乃至請求項3いずれかに記載のゴム物品用モールド。
【請求項5】
前記連結部は、前記孔壁と前記芯部とを最短距離で連結する請求項1乃至請求項4いずれかに記載のゴム物品用モールド。
【請求項6】
前記排気流路の寸法が0mmより大きく0.5mmより小さい請求項1乃至請求項5いずれかに記載のゴム物品用モールド。
【請求項7】
前記孔壁、芯部、及び連結部が積層造形法により造型された請求項1乃至請求項6いずれかに記載のゴム物品用モールド。
【請求項8】
ゴム物品を成形する成型面から背面に貫通する環状の中空部を備え、
前記中空部は、
該中空部を形成する外側部材と内側部材とで囲まれる空間から前記外側部材に内側部材を連結した連結部を除いて形成され
前記成型面から前記内側部材の背面側の端部まで延長し、前記外側部材の周方向に沿って均一な寸法の隙間により形成されたゴム物品用モールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム物品用モールドに関し、特に、ゴム物品の生産効率を向上させることが可能なゴム物品用モールドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤモールドには、加硫中のタイヤ表面とモールドの成型面との間から空気を排出するための複数の空気抜き孔が設けられている。空気抜き孔は、例えば直径0.6mm〜1.6mm程度の円孔を、ドリルによる孔加工や、モールドの製造時に予め設けた孔にベントピースとよばれる筒部材を別途打ち込むことにより形成される。この空気抜き孔には、加硫中のタイヤのゴムが進入し、加硫完了後のタイヤ表面に例えば10mm以上の長さの針状のゴムばりであるスピューを形成する要因となることが知られている。スピューは、製品タイヤとしての美観上及び性能上の理由から加硫成型後に除去されるが、根本部分がタイヤ表面に残存するためタイヤ表面に凹凸が生じる結果、タイヤの接地面積を減少させる要因となり、タイヤの初期性能を低下させる。
これに対して特許文献1には、空気抜き孔内に、当該空気抜き孔内の空気の流通を遮断するプラグと、このプラグを成型面側に付勢するスプリングとを設けた構成が開示されている。当該構成によれば、成型中のタイヤ表面がプラグに接触する以前には、空気抜き孔の孔壁とプラグ外周との間で空気の流れが許容される。一方、タイヤ表面がプラグに接触し、スプリングの付勢力よりも大きな力でプラグを押圧したときには、プラグが空気抜き孔に押し付けられて空気抜き孔が閉塞され、空気抜き孔へのゴムの進入が阻害されるため、スピューの発生が抑制される。
また、特許文献2には、鋳造によりタイヤモールドを製造する際に、モールドを構成する素材とは膨張係数の異なる素材の薄板状のブレードを成型面から背面に貫通するように複数設けて鋳ぐるみとし、冷却後のブレードとモールド本体との収縮率の差からブレードとモールド本体との間に生じるスリット状の隙間を空気抜き孔として形成することにより、成型面側から背面側への空気の排出を可能にしつつ、スピューの形成を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−116012号公報
【特許文献2】特開平11−300746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1によれば、空気抜き孔内にプラグやスプリング等の部品を設ける必要があるため、モールド自体の生産効率が悪いという問題がある。即ち、タイヤを成型するモールドには、約1000個程度の空気抜き孔を設ける必要があるため、個々の空気抜き孔にスプリングやプラグを設けるために多大な工数と時間を要し、効率が悪い。
また、特許文献2によれば、タイヤ表面に薄肉板状のスピューが形成されることになり、モールドからの脱型時に切れやすく、切れたゴムが空気抜き孔を塞いでしまい空気抜き孔としての機能が失われる。このため、隙間のゴム詰まりを除去するために、モールドを頻繁に清掃する必要があり、タイヤの生産効率が悪いという問題がある。
そこで、本発明では、加硫成型後のタイヤの美観及び性能を損なうことなく、タイヤ生産の効率を向上可能なタイヤモールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するためのゴム物品用モールドの構成として、ゴム物品を成型する成型面から背面に貫通する孔と、孔内に配置され、当該孔を形成する孔壁との間に孔の延在する方向に沿って延長する断面環状の排気流路を形成する芯部と、孔壁と芯部とを連結する連結部とを備え、排気流路は、成型面から芯部の背面側の端部まで延長し、孔の周方向に沿って均一な寸法の隙間により形成された構成とした。
本構成によれば、孔を形成する孔壁に対して芯部が連結部によって連結されているため、孔に対して別途の加工を行う必要がない。また、加硫対象となるタイヤ表面のゴムが、孔壁と芯部との間において孔軸方向に沿って延長する断面環状の排気流路内に進入するため、加硫完了後のスピューの形状が環状となって脱型時に切断され難くなり、スピューが排気流路内に残留する可能性を低減させることができる。また、スピューが環状に形成されることにより、従来のスピューとの比較においてタイヤ表面からの突出高さが低減するとともに、肉厚が薄肉となるため、タイヤの美観及び性能に与える影響を限りなく低減させることができる。
したがって、加硫成型後のタイヤの美観及び性能を損なうことなく、タイヤ生産の効率を向上可能となる。
また、他の構成として、連結部が、孔壁と芯部とを背面側で連結し、断面環状の排気流路が成型面に臨む構成、或いは、連結部が、芯部における成型面側の端面に作用するタイヤの押圧力に対して、芯部を孔壁に対して不動に連結する構成を採用してもよい。
このような構成によっても、タイヤ表面に環状のスピューをより確実に形成することができる。
また、芯部における成型面側の端面は、成型面と面一であること、或いは、連結部は、孔壁から孔軸方向に向けて延長することが望ましい。
また、排気流路の寸法が0mmより大きく0.5mmより小さい場合、空気の排気を確保しつつ、厚さが薄肉な環状のスピューを形成することができる。また、排気流路により形成されるスピューは、場合によっては、消失するか、又は断続的に消失するため、スピューをカットする必要をなくすことができる。例えば、空気抜き孔の隙間寸法を、さらに0.06mmより小さくすることで、空気抜き孔へのゴムの侵入がほとんどなくなり、空気のみを排出することができる。したがって、例えば、ゴム物品の一つであるタイヤを成型した場合には、タイヤの外観性能、タイヤの運動性能を大幅に向上させることができる。
また、孔を形成する孔壁、芯部、及び連結部を積層造形法により造型すれば、形状精度の高い排気流路を効率的に形成することができる。
また、ゴム物品を成形する成型面から背面に貫通する環状の中空部を備え、中空部は、中空部を形成する外側部材と内側部材とで囲まれる空間から外側部材に内側部材を連結した連結部を除いて形成され、成型面から内側部材の背面側の端部まで延長し、外側部材の周方向に沿って均一な寸法の隙間により形成されたので、スピューが環状に形成されるため、従来のスピューとの比較においてタイヤ表面からの突出高さが低減するとともに、肉厚が薄肉となるため、タイヤの美観及び性能に与える影響を限りなく低減させることができる。したがって、加硫成型後のタイヤの美観及び性能を損なうことなく、タイヤ生産の効率を向上可能となる。
なお、上記発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、特徴群を構成する個々の構成もまた発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】加硫装置の要部を模式的に示す半断面図である。
図2】トレッドモールドを示す図である。
図3】トレッドモールドに設けられた排気手段の斜視透視図、断面図及び平面図である。
図4】積層造形装置の一実施形態を示す図である。
図5】トレッドモールドの断面図及び拡大断面図である。
図6】排気手段におけるタイヤ加硫成型時の様子を示す模式図である。
図7】排気手段の他の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0008】
図1は、加硫装置2の要部を模式的に示す半断面図である。本実施形態に係るモールドは、図1に示す加硫装置2内に設けられる。加硫装置2は、タイヤTの外側表面のうちサイド部Tsを成型する一対のサイド成型部3,3と、トレッド部Ttを成型するトレッド成型部4と、タイヤの内側表面を成型するブラダー5とを備える。サイド成型部3,3は、上下に対向して配置され、タイヤTのサイド部Tsの円周方向に沿うように略円盤状に形成される。トレッド成型部4は、上下のサイド成型部3,3の間に設けられ、タイヤTの円周方向に沿って環状に配置された複数のセクターピース6によって構成される。サイド成型部3,3は、ベース盤8と、サイドモールド9とを備える。ベース盤8は、サイドモールド9を固定するためのアタッチメントである。サイドモールド9は、未加硫のタイヤTのサイド部Tsの表面に型付けするための所定の成型パターンを備える。セクターピース6は、セクターセグメント10と、トレッドモールド11とを備える。セクターセグメント10は、複数に分割されたトレッドモールド11の分割ピースを固定するためのアタッチメントである。トレッドモールド11は、未加硫のタイヤTのトレッド部Ttに所定の型付けを行うための成型パターンを備える。また、サイドモールド9及びトレッドモールド11は、成型面と、タイヤ成型時のタイヤTの外表面Taとの間に介在する空気を背面側に排出するための排気手段15を備える。
【0009】
サイドモールド9は、ベース盤8とともに上下方向に移動可能とされ、トレッドモールド11は、セクターセグメント10とともに半径方向に移動可能に構成される。サイドモールド9,9及び複数のセクターピース6よりなるトレッドモールド11を近接させることで未加硫のタイヤTの全域を包囲する成型空間が形成される。成型空間内に未加硫のタイヤTを収容した後に、タイヤTの内面側に配置されたブラダー5を膨張させる。ブラダー5の膨張により、タイヤTは、内面側からサイドモールド9,9及びトレッドモールド11に向けて押圧され、タイヤTの外表面Taとサイドモールド9,9及びトレッドモールド11表面との間に介在する空気を排気手段15によりサイドモールド9,9及びトレッドモールド11の成型面側から背面側に排出しつつ、サイドモールド9,9及びトレッドモールド11に形成された成型パターンをタイヤTの外面に転写する。そして、成型パターンの転写とともに、タイヤTを所定の温度で加熱することで、タイヤTの加硫成型がなされる。なお、加硫成型の完了後には、サイドモールド9,9及びトレッドモールド11が、互いに離間する方向に移動して型開き状態とされ、加硫完了後のタイヤTの取り出しが行われる。
【0010】
本実施形態に係るサイドモールド9及びトレッドモールド11は、積層造型法により製造される。積層造型法では、コンピュータによる設計、所謂CADにより設計されたモールドのモデルデータを均一な厚さでスライスした層状の部分形状に分割して複数の部分形状データ(以下、スライスデータという)に変換し、部分形状の厚みに対応して堆積された金属粉末に対して、スライスデータに基づいてレーザを照射し、レーザの照射により焼結した金属粉末の焼結層を順次積層することにより立体的なモールドを製造する。
【0011】
以下、タイヤTの外面を型付けするサイドモールド9及びトレッドモールド11について説明する。なお、説明の便宜上、以下、トレッドモールド11を例として説明する。
図2は、トレッドモールド11を示す図である。同図に示すように、トレッドモールド11は、成型面11aにタイヤTの外表面Taの接地面を成型する接地面成型部12及びトレッド部Ttに型付けする複数の溝成型部13と、加硫成型時にタイヤTの外表面Taと当該トレッドモールド11の成型面11aとの間に介在する空気を排気するための複数の排気手段15とを備える。接地面成型部12は、トレッドモールド11の成型面全域を1つの所定の曲面で形成された成型面11aにおける土台部分であって、タイヤにおける接地面を成型する。溝成型部13は、成型面11aにおいて、接地面成型部12の表面から所定高さで突出し、タイヤ円周方向及びタイヤ幅方向に延長して設けられ、タイヤにおけるリブ溝やラグ溝など接地面より窪む凹溝を成型する。排気手段15は、トレッドモールド11が加硫装置2において横向きに収容されたタイヤTのトレッド部Ttを成型するように取り付けられるため、例えば加硫時に空気溜まりが生じやすいタイヤTのショルダー部Tcに対応する位置にタイヤ円周方向に沿って複数設けられる(図1参照)。
【0012】
図3(a)は、トレッドモールド11の設計時に設けられた排気手段15の斜視透視図、図3(b)は、図3(a)における排気手段15の軸線を含む断面図、図3(c),(d)は、図3(b)における排気手段15の隙間FのA−A断面図及びB−B断面図である。
図3(b)に特に示すように、排気手段15は、トレッドモールド11の成型面11aの接地面成型部12から背面11bに渡って貫通する孔20と、当該孔20内に配置され、孔20を形成する孔壁20aとの間で孔軸mに沿った断面形状が概ね円環状となる隙間Fを形成する芯部30と、孔壁20aと芯部30の外周面30aとの間に渡って延長し、芯部30を孔壁20aに対して不動となるように連結する連結部50とにより構成される。図3(a)に示すように、孔壁20aと芯部30の外周面30aとの間に形成される隙間Fは、孔20の孔軸mに沿って延長し、成型面11a側の空気を背面11b側へ排出する排気流路として構成される。
即ち、排気流路は、ゴム物品を成形する成型面11aから背面11bに貫通する環状の隙間Fとして形成された中空部を備え、隙間Fとしての中空部が、該中空部を形成する外側部材として設けられたトレッドモールド11の本体の孔20と、孔20に対する内側部材として設けられた芯部30との間で囲まれる空間から、孔20と芯部30とを連結する連結部50を除いて形成される。
【0013】
図3(b)に示すように、孔20は、孔軸(軸線)mが、接地面成型部12の法線方向に沿って延長する円孔として設けられる。孔20は、成型面11a側から背面11b側にかけて、一定の直径寸法D1を有して直線的に延長する。孔20の直径寸法D1は、従来の円孔からなる空気抜き孔の直径0.6mm〜1.6mmよりも大きくても同程度でもよく、例えば、2mm以上に設定される。
【0014】
図3(b)に示すように、連結部50は、背面11b側において孔壁20aから芯部30の外周面30aに向けて所定の突出寸法Hを有して形成される。連結部50は、成型面11a側の開口端から所定距離だけ背面11b側に位置する位置Xを起点として、背面11bに到達するように孔軸mに沿って延長する。また、図3(c)に示すように、連結部50は、孔軸mを対称軸として、互いに正対するように芯部30の軸回りに2か所設けられる。換言すれば、連結部50は、孔軸mと直交する同一直線上において、孔壁20aから孔軸mの方向に向けて最短距離で突出し、孔壁20aに対して芯部30を不動に連結する。連結部50における孔20の周方向に沿った長さ寸法Wは、成型面11aから背面11b側へ向かう空気の流通を妨げず、かつ、成型時に芯部30がタイヤにより押圧されたときに、孔20内における位置が変化しない強度を有するように設定される。
【0015】
芯部30は、孔20の延在する方向に沿って延長し、孔20内において上述の連結部50を介して配置される軸体である。芯部30の直径寸法D2は、孔20の直径寸法D1よりも小径に設定されており、その外周面30aと孔壁20aとの間に、周方向に沿って均一な寸法(隙間幅Z)を有する隙間Fが形成される。芯部30の軸心は、孔20の孔軸mと同心である。図3(b)に示すように、芯部30の成型面11a側の端面30tは、接地面成型部12の曲率に倣う形状で面一となるように形成される。このような構成によれば、後述の円環状のスピューの内外に不要な凹凸が生じることを防止できる。また、芯部30の背面11b側の端面30sは、背面11bから突出することなく、背面11bと面一に形成される。即ち、芯部30における孔軸mに沿う長さLは、成型面11aから背面11bまでの厚さHと同一、又は厚さHよりも短く設定される。
【0016】
次に、上記孔20の孔壁20aと芯部30の外周面30aとにより構成される隙間Fにおける孔軸mに沿った断面形状の変化について説明する。図3(b)に示すように、芯部30は孔20内において、位置Xを起点として背面11b側に延長する連結部50によって連結されているため、図3(d)に示す如く、成型面11aから位置Xの範囲においては連結部50が存在しておらず、当該範囲における隙間Fの断面形状は円環状となり、当該円環状の隙間Fは成型面11aに臨む。そして、成型面11aに臨む円環状の隙間F内にゴムが進入した状態で加硫が完了した場合、スピューの形状も円環状となる。なお、以下の説明において、成型面11aから位置Xの範囲に渡る隙間Fを環状隙間F1という場合がある。
【0017】
一方、図3(b),(d)に示すように、位置Xを起点として背面11b側に至るまでの隙間Fの断面形状は、連結部50の存在によって周方向に分断された複数の弧状状を呈する。上記同様に、以下の説明において位置Xから背面11bの範囲に渡る隙間Fを弧状隙間F2という場合がある。このように、隙間Fによって形成される排気流路全体の孔軸の方向に沿った断面形状は、成型面11aから背面11bに至るまでの間に円環状から弧状となるように変化する。
【0018】
図3(c),(d)に示すように、環状隙間F1及び弧状隙間F2の隙間幅Zは、例えば0mmより大きく0.5mmより小さい範囲で任意に設定される。より好ましくは、隙間幅Zを0mmより大きく0.06mmより小さい範囲に設定することにより、成型面11aから背面11b側に流れる空気の流量を確保しつつ、成型面11a側に形成された環状隙間F1内へのゴムの進入高さ(スピューのタイヤ表面からの突出高さ)及びスピューの肉厚を理想的な範囲とすることができる。
例えば、隙間幅Zを0.5mm以上に設定した場合、環状隙間F1の断面積の増大によってゴムの進入高さは低くなるものの、円環状のスピューの肉厚が厚くなり易く、タイヤの美観、及び使用時の初期性能を阻害する要因となり得る。また、隙間幅Zを0mmに設定した場合、成型面11a側の空気が抜けず成型後のタイヤ表面にベアーが発生する要因となり得る。
【0019】
即ち、環状の中空部の隙間の隙間寸法を、0.5mmより小さくすることで、形成されたスピューは、非常に厚みが薄く、且つ、高さも低いため、加硫成型後にスピューの除去をしなくても、タイヤを車両に装着し、乾燥路面で通常に走行しさえすれば、100km程度の走行ですぐに従来のスピュー痕が摩耗で除去された状態と同様になり、タイヤの外観性能、タイヤの運動性能及び摩耗性能が悪化することなくすべての性能で良好である。なお、従来の排気手段の空気抜き孔(断面が円形で、孔径が1mm〜2mmの円形状)により形成されたスピューは、カッターで除去した残りのスピュー痕が走行による摩耗によってなくなるまでに、トレッドゴム弾性率の柔らかいウィンタータイヤで300km程度の初期走行が必要であり、トレッドゴム弾性率の硬い夏用の高性能乗用車タイヤで500kmから1000km程度の初期走行が必要である。さらに、環状の中空部の隙間寸法を、0.06mmよりも小さくすることで、形成されるスピューは、高さがさらに減少し、タイヤ表面の中空部の環状の延在方向に沿って断続的に形成される状態から消失してゆく。つまり、空気抜き孔の幅を0mmより大きく、言い換えれば、空気抜き孔がなくならないように、空気抜き孔の幅を0.06mmより小さくしてゆくことで、空気抜き孔へのゴムの進入がほとんどなくなり、空気等のみを排出するできる。
なお、空気抜き孔の幅を0mm(空気抜き孔のない状態)とした場合には、空気等排気性能が0となり、タイヤ表面の傷、凹み、内部への空気入りが発生し、タイヤが製造できなくなってしまう。
【0020】
そこで、隙間幅Zを上記範囲に設定することにより、成型面11aから背面11b側に流れる空気の流量を確保しつつ、タイヤ表面からの突出高さが低く抑制され、肉厚が薄肉とされた理想的な円環状のスピューを形成することができる。そして、上記隙間幅Zを有する環状隙間F1への進入によって形成された円環状のスピューは、従来の針状のスピューとの比較においてタイヤ表面からの突出高さが抑制され、薄肉の円環状であるため、スピューの除去工程を経ることなく製品タイヤとしてそのまま使用しても、路面との接地により容易に押し潰され、接地面積の減少を限りなく抑制することができる。また、当該円環状のスピューは、肉厚が薄いため路面との摩擦により容易に摩滅してタイヤ表面から消滅するので、タイヤ使用時の初期から安定した性能を発揮することができる。
【0021】
なお、隙間幅Zの設定は、タイヤ種別に応じて異なるスピューの体積に基づいて行うことができる。具体的には、特定のタイヤに形成された針状のスピューの体積を、当該スピューの突出高さ、及び当該スピューを形成した従来の円孔の空気抜き孔の断面積により算出する。そして、算出した体積に相当するゴムが環状隙間F1に進入したと仮定して隙間幅Zを上記範囲から適宜設定し、新たなサイドモールド9及びトレッドモールド11により、上記特定のタイヤと同種のタイヤを成型すれば、針状のスピューよりも突出高さが抑制され、薄肉な円環状のスピューを形成することができる。
また、隙間幅Zの設定により、環状隙間F1の断面積及び環状隙間F1へのゴムの進入高さが算出可能となるため、連結部50の起点となる位置Xをゴムが到達しない
地点に設定することができる。
【0022】
図4は、積層造型装置40の一例を示す図である。積層造型装置40は、所定距離離間して設けられた左右一対のステージ41,42と、左右のステージ41,42の間に昇降自在に配備されたワークテーブル43とを備える。左右のステージ41,42は、互いの上面がひとつの平面上に位置するように、同一高さに設定される。ステージ41,42は、上下方向に延長する円筒状のシリンダ部44,45を有する。シリンダ部44,45は、ステージ41,42の上面41a,42a側に開口する。シリンダ部44,45の内部には、内周面に沿って摺動可能なピストン46A,47Aを有するフィーダ46,47が設けられる。フィーダ46,47は、図外の造型装置制御手段から出力される信号に基づいて駆動する図外の駆動機構の動作により、シリンダ部44,45の軸線方向に沿って昇降する。ピストン46A,47A上には、モールドを製造する素材となる金属粉末Sがステージ41,42の上面まで充填される。
【0023】
ステージ41,42の上面41a,42aには、当該上面41a,42aに沿って移動するローラ48が配置される。ローラ48は、図外の駆動装置により左右のステージ41,42の上面41a,42aに外周面を接触しながら転動し、左右のステージ41,42間を移動する。ワークテーブル43の上方には、レーザLaを照射するレーザガン51と、レーザガン51で発生したレーザLaを金属粉末Sに向けて照射する照射ミラー52とが設けられる。照射ミラー52は、図外の造型装置制御手段から出力される制御信号に基づいて、ワークテーブル43の上面に堆積した金属粉末Sを焼結して焼結層を形成する。照射ミラー52は、図外の造型装置制御手段から出力されるスライスデータに基づいた図外の駆動手段の駆動により、ワークテーブル43に設定された座標軸を走査方向として移動し、ワークテーブル43の上面に堆積した金属粉末Sを順次焼結する。1のスライスデータに対応する焼結層が形成された後には、当該スライスデータの上位に設定されたスライスデータに基づく焼結が開始され、以後、各スライスデータに対応する焼結層が積層するように形成され、図2に示す形状のトレッドモールド11が製造される。
【0024】
以下、積層造型装置40による排気手段15の造型方法について説明する。上述のとおり、本実施形態に係る排気手段15は、孔壁20aと芯部30とを連結部50により連結,支持することにより、成型面11a側に臨む環状隙間F1を形成しており、連結部50以外の範囲では、芯部30と孔壁20aとが直接接続されていない。このため、上述の積層造型装置により排気手段15をモールドに精度良く設けるには、モールドの設計時に、以下のような設定が必要となる。
【0025】
すなわち、図4に示す積層造型装置40では、下方から上方に向けてモールドの造形が進行する。このため、既に芯部30の一部として形成された焼結層の上に新たな金属粉末Sを堆積させて芯部30の他部を構成する新たな焼結層を積層することになる。
しかし、上述のとおり芯部30は、連結部50の範囲以外では孔壁20aとの接続がないため、連結部50を造形する前に芯部30の造型を開始した場合、既に焼結された芯部30の一部を構成する焼結層の上に、新たな金属粉末Sを堆積するときに、既に焼結された焼結層を孔壁20aに対して位置ずれさせてしまう。芯部30の位置が孔壁20aに対してずれてしまうと、孔20と芯部30との間に均等な隙間幅Zを形成できなくなるばかりか、芯部30が孔壁20aと繋がった状態で造形されてしまうことになる。そこで、トレッドモールド11を設計するときに、芯部30の造形が開始される前に、連結部50が造型されるように、連結部50の位置が積層方向の下側となるように位置を設定しておく必要がある。
【0026】
図5は、トレッドモールド11をタイヤ幅方向に沿って切断した断面図及び拡大断面図を示す。なお、同図に示す斜線はハッチングを示すものではなく、積層造形装置40によって造形された焼結層の縞模様を示している。同図に示すように、連結部50は、積層方向の下側に位置するように設定されている。即ち、トレッドモールド11をCADにより設計する際に、連結部50が少なくとも芯部30の一部の造型が開始される前に造形されるようにその積層方向が設定されている。また、トレッドモールド11は、3次元の湾曲形状であるため、排気手段15の設けられる位置によって、連結部50の形成される位置が異なるため、排気手段15の位置に応じて連結部50が積層方向の下側に位置するように設けるようにすると良い。
これにより、排気手段15はトレッドモールド11の孔20の孔壁20aの造形が開始された後に、孔壁20aと連結部50との造形が開始され、次いで連結部50と芯部30との造型が開始されるので、芯部30を孔壁20aに対して連結部50を介して連結,支持した状態とすることができる。
【0027】
図6は、排気手段15を備えたトレッドモールド11によるタイヤTのタイヤ加硫成型時の様子を示す模式図である。図6(a)に示すように、加硫開始の直後においては、成型空間内に設けられた未加硫のタイヤTの外表面Taとトレッドモールド11の成型面11aの接地面成型部12との間に空気が介在した状態にある。この状態からタイヤTの内表面Tb側に設けたブラダー5が膨張すると、タイヤTはトレッドモールド11の成型面11a方向に押圧され、タイヤTの外表面Taと成型面11aとの間に介在する空気が排気手段15の環状隙間F1及び弧状隙間F2からなる排気流路を通じて背面11b側に徐々に排出される。図6(b)に示すように、ブラダー5の膨張が進行して、タイヤTの外表面Taと成型面11aとの間から、ほとんどの空気が背面11bに排出されると、タイヤTの外表面Taが成型面11a及び芯部30の端面30tに密着する。図6(c)に示すように、ブラダー5の膨張が進行し、タイヤTが成型面11a側にさらに押し付けられると、タイヤTの外表面Taのゴムが環状隙間F1に対して、ゆっくりと背面11b側に進入する。そして、図6(d)に示すように、環状隙間F1内のゴムは背面11b側にさらに進入し、連結部50に到達する前に加硫成型が終了する。
【0028】
加硫成型の完了後には、トレッドモールド11を放射状にサイドモールド9,9を上下方向に離間させ、タイヤTを脱型し、加硫済みのタイヤTを取り出す。図6(e)に示すように、モールドから取り出された加硫済みのタイヤTのタイヤ表面には、従来のスピューの突出高さよりも低く、薄肉な円環状のスピューJが形成される。
また、環状隙間F1によって形成されたスピューJに対しては、孔壁20aと芯部30の外周面30aとの間から引き抜かれる際に摩擦力が生じる。しかし、スピューJは円環状に形成されているため、孔壁20aや外周面30aとの間に生じる摩擦力が分散される。よって、スピューJの一部又は全体が、環状隙間F1内に残留したままちぎれることが抑制される。つまり、本構成からなる排気手段15を有するモールドによれば、脱型時においてスピューが残留する可能性を大幅に低減できるため、環状隙間F1及び弧状隙間F2からなる排気流路の清掃回数を従来に比べて大幅に減らすことができる。よって、モールドを連続的に使用できる稼働時間が従来よりも長くなり、タイヤの生産性を向上させることができる。
【0029】
また、排気手段15は、積層造形法の採用によりトレッドモールドと同時に造型されるため、ドリル等を用いた穿孔工程や、スプリングやプラグを設けるための工程を省略でき、トレッドモールド自体の生産性を向上させることができる。
【0030】
図7(a),(b)は、排気手段15の他の形態を示す図である。上述の実施形態では、孔壁20a及び芯部30により形成される環状隙間F1の断面形状を円環状として説明したが、断面形状はこれに限られるものではない。例えば、図7(a),(b)に示すように、孔20及び芯部30の断面形状を四角状として、環状隙間F1の断面形状を角環状としてもよい。またこの場合、連結部50を互いに対向する面にそれぞれ配置し、芯部30を孔壁20aに対して連結,支持すれば良い。このように環状隙間F1の断面形状は、円環状に限られず、三角環状、四角環状、或いは、これ以上の多角環状であってもよい。また、円環状については、真円環状の他、楕円環状であってもよい。また、上述の実施形態では、連結部50を互いに正対するように配置したが、芯部30を不動に連結,支持できる強度が得られる限り、その数は問わない。また、連結部50を孔軸mに沿って複数配置してもよい。
【0031】
なお、上記実施形態では、タイヤを加硫成型するモールドを用いて説明したが、タイヤ製造におけるモールドに限定されず、クローラーや防振ゴム等の他のゴム物品を成型する際のモールドであっても良い。
【0032】
また、上記実施形態では、立体形状物であるモールドを形成する粉末の金属粉末にレーザ光を照射して焼結するとして説明したが、このような通常のレーザ光の他に、半導体レーザの半導体によるLEDの光等の光を照射することも可能であり、焼結する粉体の性質に応じて粉体を焼結させるための光を含むエネルギー源を用いれば良い。
【0033】
また、モールドを構成する素材は、上述のような金属粉末に限らず、合成樹脂等の樹脂粉末や、無機物の焼結体であるセラミックスやセラミックス粉末、樹脂粉末とセラミックス粉末と金属粉末との混合物を用いた複合材料粉末等であっても良い。
【符号の説明】
【0034】
9 サイドモールド、11 トレッドモールド、11a 成型面、11b 背面、
15 排気手段、F1 環状隙間、F2 弧状隙間、T タイヤ、
Ts サイド部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7