【実施例】
【0057】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0058】
1.変異株の作出
(種菌)
種菌(親株)として、公益財団法人岩手生物工学研究センター保有の交雑株、シイタケ(Lentinula edodes)SR−1株(二核菌糸体)を使用した。
【0059】
種菌は9cmシャーレに作製した0.25×MYPG寒天培地(0.25%麦芽エキス,0.1%酵母エキス,0.1%ペプトン,0.5%グルコース,1.5%アガー)に植菌し、23℃で静置培養を行い、以下の実験に用いた。
【0060】
(プロトプラストの調製)
種菌の菌糸を寒天培地より薄く掻き取り、寒天培地8枚分の菌糸を100mlの0.25×MYPG液体培地(2本)へ植菌し23℃、170rpmにて2週間振とう培養を行った。培養後にガラスフィルター(ガラス濾過器P250、柴田科学)によって菌糸を回収し、0.5×MYPG液体培地(0.5%麦芽エキス,0.2%酵母エキス,0.2%ペプトン,1.0%グルコース)へ移した。
【0061】
次いで、菌糸をポリトロンホモジナイザーを用いて破砕し、φ100μmカットのセルストレイナーに通しφ100μm以下の菌糸だけを回収し、それを0.5×MYPG液体培地(0.5%麦芽エキス,0.2%酵母エキス,0.2%ペプトン,1.0%グルコース)中、25℃にて6日間、静置培養を行った(25ml×8枚シャーレ)。
【0062】
静置培養後、菌糸をφ100μmカットのセルストレイナーで回収し、50S−0.6Mバッファー[50mMコハク酸エステル,0.6Mマンニトール(pH5.6)]で洗浄し、再度φ100μmカットのセルストレイナーで菌糸を回収した。
【0063】
回収後の菌糸は重量を測定した後、菌糸1gに対して10mlの酵素液[2.5%Cellulase Onozuka RS(Yakult)、4.2U Chiticase(Sigma)/50S−0.6M バッファー]を加えて懸濁し、28℃にて4時間振とうすることで酵素反応を行った。
【0064】
酵素反応後、酵素処理液を40μmのセルストレイナーで濾過し、菌糸の残渣を取り除いた後、2700rpmの低速で10分間遠心分離して上清を取り除き、プロトプラストを回収した。
【0065】
回収したプロトプラストを、STCバッファー[10mM Tris−HCl(pH7.5),10mM CaCl
2,1.2Mソルビトール]に再懸濁し、プロトプラスト液を得た。
【0066】
プロトプラスト液はヘマトメーターを用いてプロトプラストの計測を行い、最終的に1×10
7個/100μlとなるように調整した。
【0067】
(変異株の作出)
プロトプラスト液に対しUVを照射し、変異株を作出した。SR−1株はプロトプラスト化することで、核の構成をそのまま維持する二核菌糸体と、片方の核が脱落する一核菌糸体が得られるが、本実験では、二核菌糸体を用いた。
【0068】
UV照射の条件は、プロトプラストの生存率が約1%となるように設定した。一般的に、プロトプラストの再生率は約1%となることから、1×10
7個のプロトプラストにUVを照射し、再生するプロトプラストが1000個程度となるようなUV照射の条件を設定した。具体的には、東芝社製殺菌ランプ(TOSHIBA GL15)を使用し、光源から約40cmの位置で3分間UV照射を行った。
【0069】
(TILLING法によるexg2遺伝子変異株の検出方法)
菌糸からのゲノムDNAの回収はDNeasy Plant Mini Kit(Qiagen)を用いた。手順はQiagenのプロトコールに従って行った。
【0070】
TILLING用の1st PCRのためのプライマーには、以下のプライマーセットを使用した。
【0071】
プライマーセットの配列は下記の通り。
フォワードプライマー:GCTACGGACTGACCTCGGACAGCAGCATGTTTTGCCTCTT (配列番号4)
リバースプライマー:CTGACGTGATGCTCCTGACGACAGGGACGTCATTTCGTGT (配列番号5)
【0072】
1st PCRはExTaq(TaKaRa)を用いて行った。組成と反応条件を以下に示す:
TILLING用のPCR組成[10×ExTaqバッファー 2μl、2.5mM dNTP mix 1.6μl、フォワードプライマー(10μM)0.2μl,リバースプライマー(10μM)0.2μl、精製後DNA(3μl)、12.9μl滅菌水、Ex Taq 0.1μl/合計20μl]
PCR反応条件:[95℃ 2分間、(95℃ 1分間、55℃ 1分間、72℃ 1分30秒間)×35サイクル、72℃ 7分間、10℃にて保管]。
【0073】
1st PCR後のPCR産物はillustra ExoProStar(GE)を用いて精製した。精製方法を以下に示す。
ExoProStarは20倍に希釈し、使用した。(50μlエキソヌクレアーゼI、50μlアルカリフォスフォターゼ、900μl水)
【0074】
PCR産物2μlと希釈液2μlを混合し、37℃で30分間、酵素反応を行い、その後85℃で10分間、酵素を失活させた。反応液に96μlの水を加えて25倍に希釈し、2nd PCRのテンプレートとした。
【0075】
2nd PCRの蛍光プライマーは以下のプライマーセットを用いた。
プライマーセットの配列は下記の通り。
フォワードプライマー:GCTACGGACTGACCTCGGAC (配列番号6)
リバースプライマー:CTGACGTGATGCTCCTGACG (配列番号7)
【0076】
蛍光ラベルしたプライマーはUni Lab U2は700の蛍光ダイラベル(IRD)にて5’末端へ標識し、Uni Lab L2は800の蛍光ダイラベル(IRD)にて5’末端標識した。2nd PCRを行う際には、Uni Lab U2の蛍光ラベル:非ラベル=3:7、Uni Lab L2の蛍光ラベル:非ラベル=4:6に混合した物を用いた。
【0077】
2nd PCRはExTaq(TaKaRa)を用いて行った。組成と反応条件を以下に示す:
TILLING用のPCR組成[10×ExTaqバッファー 2μl、2.5mM dNTP mix 1.6μl、フォワードプライマー(10μM)0.4μl,リバースプライマー(10μM)0.4μl、精製後DNA(4μl)、11.5μl滅菌水、Ex Taq 0.06μl/合計20μl]
PCR反応条件:[95℃ 2分間、(95℃ 1分間、55℃ 1分間、72℃ 1分30秒間)×35サイクル、72℃ 7分間、次いで、(99℃ 10分間、70℃ 0.2〜0.3分間)×70サイクル、10℃にて保管]。
【0078】
PCR後の産物は以下のとおり、CEL Iヌクレアーゼで処理した(96穴プレートを使用)。
【0079】
CEL I酵素液:滅菌水1800μl、CELIバッファー 315μl(CEL Iバッファーは1M MgSO
4、1M HEPES(pH7.5)、2M KCl、dH
2O/100mlをオートクレーブ滅菌した後に10%Triton X(w/v)200μl、BSA(20mg/ml)1μlを添加したものを用いた)、CEL I酵素7.5μl/96サンプル。
【0080】
上記PCR産物に上記のCEL I酵素液(20μl)を添加した。シェーカーにて軽く混合し、45℃で15分間、酵素反応を行い、その後、0.15MのEDTA(5μl)を添加して、酵素反応を停止した。
【0081】
CEL Iヌクレアーゼ処理反応後のサンプルは水膨潤Sephadex G50によって精製を行った。水膨潤Sephadex G50は次の通り調製を行った。
【0082】
Sephadex G50を適量カラムローダー上に加え、付属のヘラで広げながら充填していき、余分なSephadexは取り除いた。カラムローダー上部に、精製用96穴プレート(Milipore社 MultiScreen HTS)をガイドピンに合わせて逆さにセットし、ローダーとプレートをしっかり手で固定したままひっくり返し、Sephadexをカラムプレート側へ移した。Sephadexが充填されたプレートカラムへ、346μlの水を加え室温で1時間放置し、ゲルを膨潤させた。プレートホルダー(Millipore社 Centrifuge Alignment Frame)を用いてカラムプレートをセットし、460xgで5分間遠心し、余分な水分を除去することで作製した。
【0083】
カラムプレートの下にサンプル回収用の96well Reaction Plateをセットし、CEL Iヌクレアーゼ処理反応後のサンプルをゲルの中央にのせ、460xgで2間遠心し、サンプルを精製した。
【0084】
次いで、サンプルを1×Tillingローディングバッファー(脱イオンホルムアミド25ml、0.5M EDTA 500μl、BPB 6mg)3.5μlと混合し、85℃で1時間、加熱・乾燥させ、液量を15μl程度として、これを電気泳動へ用いた。
【0085】
電気泳動用のゲルは、KBplus Gel Matrix(KB+6.5% Gel Matrix 500ml LI−COR Biosciences)20ml、150μl 10%APS、15μl TEMEDを混合して作製した。電気泳動バッファーにはTBE(108g Tris、55gホウ酸、9.2g EDTA)を使用した。
【0086】
電気泳動及び波形の解析はLI−COR Biosciences社のDNA Analyzerを使用して行った。
【0087】
(結果)
本研究では、UV照射したプロトプラストから再生した二核菌糸体935株(Mu001株〜Mu935株)を得ることができた。
【0088】
得られた菌糸体よりゲノムDNAを抽出し、抽出したDNAを3菌株ずつ等量ずつ混合して、TILLING用のテンプレートとした。上記のとおり、フォワードプライマー、及びリバースプライマーをプライマーセットとして上記TILLING用のPCR(上記1st及び2nd PCR)を行い、得られたPCR産物をCELIヌクレアーゼにより処理し、電気泳動を行った。
【0089】
その結果、Mu597、Mu693、Mu789株より抽出したゲノムDNAを含むテンプレートに関して、他のテンプレートとは異なるバンドパターンが得られた。さらに、Mu597株、Mu693株、Mu789株より抽出したゲノムDNAを個別にテンプレートとして用いて、上記TILLING用PCR(上記1st及び2nd PCR)に付して得られた産物を電気泳動したところ、Mu789株より抽出したゲノムDNAにのみ、特異的なバンドパターンが得られた(
図2)。
【0090】
次に、Mu789株より抽出したゲノムDNAをテンプレートに、標識されていないフォワードプライマー、及びリバースプライマーを使用するPCRを行い、得られたバンドを精製し、塩基配列を決定した。親株であるSR−1株では、exg2遺伝子の2128番目の塩基がチミジンであるのに対して、Mu789株のexg2遺伝子では2128番目の塩基がグアニンに置換されていることが明らかになった(
図3)。Mu789株のexg2遺伝子の塩基配列について、アミノ酸変換したところ、Mu789株における2128番目の塩基置換は、EXG2タンパク質における710番目のアミノ酸置換を伴うものであり、710番目のアミノ酸残基がチロシンよりアスパラギン酸に変異していることが明らかとなった(
図4)。
【0091】
なお、本発明者らはMu789株を、2014年6月6日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に受託番号NITE P−01865として寄託した。
【0092】
2.子実体の保存試験
(子実体の形成及びサンプリング)
植菌後103日間23℃の恒温室で菌糸を培養した後、一晩菌床全体を水に浸漬し、次いで、湿度90%以上の12時間日長、15℃のインキュベーター内に静置して発生操作を行った。菌傘の膜が切れた段階で子実体を収穫し、25℃のデシケーター内に保存して、保存試験を行った。
【0093】
デシケーターには、飽和塩化アンモニウム水溶液を入れて、デシケーター内が湿度約80%になるようにした。子実体は収穫した直後(収穫0日目)、収穫から4日目(収穫4日目)でサンプリングを行った。子実体は、柄、傘、ひだに分けてサンプリングし、液体窒素で凍結させた。mRNA抽出用のサンプルは、乳鉢で細かく粉砕した後、Fast Red Pro用のチューブ(Lysing Matrix C;Q−Bio gene)に入れて−80℃で保存した。
【0094】
(レンチナンの測定)
サンプリング後の子実体(柄、傘、ひだを含む)を、凍結乾燥後、乳ばちでパウダー状になるまですりつぶした。0.5gを測りとった後、10倍量の水を加え、オートクレーブで121℃にて20分間、熱水抽出した。抽出液をろ紙一枚、ガーゼ3枚を重ねたガラスフィルター(ガラス濾過器P250、柴田科学)で吸引ろ過し、ろ液に等量のエタノールを加えて、一時間以上4℃でエタノール沈澱を行った。遠心後、ペレットを100%エタノールで2回洗浄し、ペレットを凍結乾燥した。ペレットの総重量を測り、細かく砕いた後、1mgを測りとり、1時間以上20mlの水で膨潤させた後、オートクレーブで121℃、15分処理して完全に溶解させ、抗原溶液とした。
【0095】
50μg/ml抗原溶液(100μl)をマイクロプレート(ELISA用)に入れ、37℃にて2時間静置して、抗原を吸着させたのち、プレートに入っている抗原溶液を捨てて、PBS−T(0.02% Tween 20を含むPBS:NaCl 137mM;NaHPO
2 8.1mM;KCl 2.68mM;KH
2PO
4 1.47mM)で3回洗浄した。
【0096】
そこに、1%のブロッキング溶液(1%スキムミルクを含むPBS)を各200μl入れ、20℃にて120分間インキュベーションしてブロッキングを行った。
【0097】
一方、抗原溶液(適当な希釈系列と、発色用ポジティブコントロールとしてレンチナンを入れないものを作っておく)と等量の一次抗体(レンチナン抗体:100倍希釈)をまぜ、5℃(氷上)で30分インキュベーションを行い、一次抗体を抗原溶液中の抗原と事前に反応させ、抗原−抗体溶液を得た。
【0098】
プレートのブロッキング溶液を捨てて、PBS−Tで3回洗浄した。このプレートに抗原−抗体溶液を各100μl分注し、20℃で60分間インキュベーションし、事前の反応で結合しなかった抗体とプレート上の抗原とを反応させた。抗原−抗体溶液を捨て、PBS−Tで洗浄した後、二次抗体(rabbit IgG抗体:2000倍希釈)を200μl入れ、20℃で90分インキュベーションして、一次抗体と二次抗体を反応させた。
【0099】
二次抗体の反応後、基質溶液[o−フェニレンジアミン5mg,30%H
20
2 5μlを含む0.1Mクエン酸バッファー(pH5.0),10ml]100μlを分注し、発色用ポジティブコントロールが発色するまで5〜10分間、20℃の暗所でインキュベーションした。反応停止液(4N H
2SO
4)50μlを分注し、酵素反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで492nmの吸光度を測定し、子実体におけるレンチナン量を求めた。
【0100】
(結果)
Mu789株の子実体を上記のとおり形成し、そのレンチナン量及び収穫後のレンチナン量を測定した。比較対象として、収穫後のレンチナン分解が明らかになっている市販株(H600株)、Mu789株の親株であるSR−1株、SR−1株においてexg2株をRNAi法により抑制したivr−exg2株(EXG2抑制モデル株:特開2006−271218号公報)の子実体におけるレンチナン量を、同様に測定した。結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
市販株、親株及びEXG2抑制モデル株の収穫直後のレンチナン量がおよそ5mg/g程度であったのに対し、Mu789株の収穫直後のレンチナン量はおよそ10mg/gと他の菌株よりレンチナン量が顕著に多いことが明らかになった。
【0103】
また、保存後(収穫から4日後)のレンチナン残存率は、市販株及び親株において50〜60%程度となり、EXG2抑制モデル株においておよそ75%程度であった。一方、Mu789株のレンチナン残存率はおよそ90%程度であった。
【0104】
Mu789株は、従来の公知の株と比べて、レンチナン含量が高いと共に、収穫後のレンチナン残存率も高いことが明らかとなった。これらの結果は、Mu789株におけるEXG2の活性は顕著に抑制されていることを示す。
【0105】
3.PCRによる変異株検出
Mu789株を育種親として利用するために、単胞子由来の菌株から、Mu789株と同様に変異を有する菌株を選抜する手法の確立を試みた。
【0106】
Mu789株の子実体をひだを下にして薬包紙に静置し、落下した胞子を回収した。回収した胞子は滅菌水で適当な濃度に希釈して、MYPG培地に播種し、発芽した菌糸を単胞子分離株として単離した。
【0107】
得られた単胞子分離株の菌糸を楊枝で回収し、KAPA 3G plant PCR kitにより、ダイレクトPCRを行った。PCR反応液の調製及びPCR条件はKAPA 3G plant PCR kit(日本ジェネティクス株式会社)のプロトコールに従った。使用したプライマーの配列は下記の通り。
フォワードプライマー:AGCAGCATGTTTTGCCTCTT (配列番号8)
リバースプライマー:ACAGGGACGTCATTTCGTGT (配列番号9)
【0108】
変異検出用のプライマーは、フォワードプライマーの3’末端側に上記2128番目の塩基変異を含み、さらに、野生型の配列では増幅されないように、その3’末端側に、野生型のexg2遺伝子における対応する位置にある塩基とは異なる、さらにもう一塩基を追加したプライマーを設計した。すなわち、フォワードプライマーは野生株とは3’末端が2塩基置換され、Mu789株とは3’末端が1塩基置換されている。変異検出用の各プライマーの配列は下記のとおり。コントロールのプライマーは、下線部に野生型に由来するTAを有するものを用いた。
フォワードプライマー:TGAACAGGTGCCGGACTT
GC (配列番号10)
リバースプライマー:TGTACAGGGACGTCATTTCG (配列番号11)
(下線は野生型ではTA)
【0109】
ダイレクトPCRの結果得られたPCR産物を鋳型として、変異検出PCRを行った。PCRはExTaq(TaKaRa)を用いて行った。組成と反応条件を以下に示す:
変異検出PCRの組成[10×ExTaqバッファー 1μl、2.5mM dNTP mix 0.8μl、フォワードプライマー(10μM)0.2μl,リバースプライマー(10μM)0.2μl、精製後DNA(2μl)、5.77μl滅菌水、Ex Taq 0.03μl/合計10μl]
PCR反応条件:[95℃ 2分間、(95℃ 1分間、60℃ 1分間、72℃ 30分間)×35サイクル、72℃ 7分間、10℃にて保管]。
【0110】
菌株の対照として、野生型であるSR−1株を用いて、同様の操作を行った。
ダイレクトPCRの結果得られた各PCR産物を電気泳動した結果を、
図5に示す。野生型に対し、変異検出用のプライマーを用いた場合(レーン1及び3)においては、コントロールのプライマーを用いた場合(レーン2及び4)と比較して明瞭なバンドが確認されなかった。一方、変異株であるMu789株に対し、変異検出用のプライマーを用いた場合(レーン5及び7)においては、Mu789株に対しコントロールのプライマーを用いた場合(レーン6及び8)と比較して明瞭なバンドが確認された。すなわち、変異検出用のプライマーを用いたPCRを行うことによって変異株を検出できることが明らかとなった。
【0111】
4.変異型のexg2遺伝子をホモに持つ菌株の解析
(I)方法
(i)子実体の形成及びサンプリング
Mu789株の子実体より単胞子分離を行い、変異型のexg2遺伝子をホモに持つ菌株と野生型のexg2遺伝子をホモに持つ菌株の作出を行った。すなわち、上記「2.子実体の保存試験」で得られたMu789株の子実体より、落下した胞子を回収し、滅菌水に懸濁した。得られた懸濁液を最小寒天培地に塗布した後、再生した菌糸を分離した。再生した菌糸については、顕微鏡下でクランプ結合の有無を確認し、クランプ結合のない一核菌糸のみを単離した(単胞子分離株)。
【0112】
得られた単胞子分離株について、上記「3.PCRによる変異株検出」に記載の変異検出手法を用いて、変異型のexg2遺伝子を持つ菌株と野生型のexg2遺伝子を持つ菌株とに分けた。次いで、変異型のexg2遺伝子を持つ菌株同士、および野生型のexg2遺伝子を持つ菌株同士でそれぞれ交配を行い、クランプ結合を確認することで交配した二核菌糸をそれぞれ得た。
【0113】
得られた二核菌糸を上記「2.子実体の保存試験」と同様の手法を用いて子実体の形成及びサンプリング、ならびに、保存試験を行った。
【0114】
(ii)グルカナーゼ活性の測定
収穫した直後(収穫0日目)、及び収穫から4日目(収穫4日目)の子実体のヒダ部分を液体窒素で粉砕したのち、200mM酢酸ナトリウムを加えて、グルカナーゼの抽出を行った。得られた抽出液を遠心分離し、上澄みを酵素液とした。グルカナーゼ活性は、酵素液と1%ラミナリン基質液を混合し、37℃にて30分間反応を行い、生成された還元糖量を4−ヒドロキシ−ベンゾヒドラジド(PAHBAH)法を用いて測定した。なお、グルカナーゼ活性は、酵素液中のタンパク質をブラッドフォード(Bradford)法を用いて定量し、タンパク質1mgあたりのunit(U/mgタンパク質)であらわす。
【0115】
(iii)EXG2発現量の測定
前記酵素液を用いてウ
エスタンブロッティングを行い、EXG2発現量を確認した。はじめに、全ての酵素液のタンパク質濃度が等しくなるように、200mM酢酸ナトリウムで調整し、調整した酵素液とSDSサンプルバッファーを混合、煮沸し、5〜20%グラジエントSDS−PAGEを行った。泳動したタンパク質はiBlot(登録商標)Gel Transfer Device(Thermo Fisher Scientific Inc.)を使用し、ゲルからメンブレンに転写した。抗体反応には、一次抗体にEXG2−rabbit抗体、二次抗体にanti−Rabbit抗体を用いた。検出はECL Prime Western Blotting Detection Reagent(GEヘルスケア)を使用し、化学発光法にてバンドを確認した。
【0116】
(II)結果
交配により、変異型のexg2遺伝子をホモに持つ菌株を3菌株(a,bおよびcと記載する)、野生型のexg2遺伝子をホモに持つ菌株を4菌株(d,e,fおよびgと記載する)を得、それぞれより子実体を得た。これら子実体と、exg2の変異をヘテロに持つMu789株(hと記載する)の子実体について、収穫した直後、及び収穫から4日目のグルカナーゼ活性の測定を行った。
【0117】
結果を
図6に示す。
結果、野生型のexg2遺伝子をホモに持つ菌株(d,e,fおよびg)の全てにおいて、収穫直後(D0)よりも収穫から4日目(D4)のグルカナーゼ活性が高くなった。
【0118】
一方、変異型のexg2遺伝子をホモに持つ菌株(a,bおよびc)では、収穫から4日目のグルカナーゼ活性は、収穫直後と比較してほとんど変化せず、またその活性は野生型のexg2遺伝子をホモに持つ菌株(d,e,fおよびg)の収穫から4日目のグルカナーゼ活性と比較して、著しく低い活性を示した。
【0119】
また、exg2の変異をヘテロに持つMu789株(h)の収穫から4日目のグルカナーゼ活性には、変異型のexg2遺伝子をホモに持つ菌株(a,bおよびc)より高く、野生型のexg2遺伝子をホモに持つ菌株(d,e,fおよびg)より低い値を示した。
【0120】
次いで、各菌株の子実体について、収穫から4日目のEXG2発現量の測定を行った。
結果を
図7に示す。
結果、全ての菌株でEXG2の発現が確認できたが、変異型のexg2遺伝子をホモに持つ菌株(a,bおよびc)では、野生型のexg2遺伝子をホモに持つ菌株(d,e,fおよびg)に比べてEXG2発現量が少なかった。
【0121】
以上の結果より、変異型のexg2遺伝子により、EXG2の発現が抑制され、それによりグルカナーゼ活性が低下することが示された。すなわち、Mu789株においては、exg2遺伝子の変異に起因してEXG2の発現が抑制され、その結果、子実体におけるレンチナン含量及び収穫後のレンチナン残存率の増大を生じることが示された。