(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579876
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】濾材及びこれを用いたフィルターユニット
(51)【国際特許分類】
B01D 46/52 20060101AFI20190912BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20190912BHJP
D04H 1/541 20120101ALI20190912BHJP
【FI】
B01D46/52 A
B01D39/16 A
D04H1/541
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-181301(P2015-181301)
(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公開番号】特開2017-56386(P2017-56386A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大場 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】田中 広志
【審査官】
宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−176797(JP,A)
【文献】
特開2014−176798(JP,A)
【文献】
特開2003−275519(JP,A)
【文献】
特開2001−293316(JP,A)
【文献】
特開2000−084333(JP,A)
【文献】
特開2003−166446(JP,A)
【文献】
特開2011−121056(JP,A)
【文献】
特開2001−179028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00−41/04
B01D 46/00−46/54
D04H 1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱接着繊維からなる不織布であり、以下の特性(A)〜(C)を満たす濾材をプリーツ形状となし、枠材で保持したフィルターユニットであって、前記プリーツ形状の山高さを山間隔で除した比が、3.0以上4.0以下であると共に、該フィルターユニットは、性能試験(JIS B9908)に準拠した比色法による平均比色法効率が65%以上であって、かつ、QF値が0.070以上0.079以下であることを特徴とするフィルターユニット。
(A)目付:120(g/m2)以上
(B)嵩密度:0.071(g/cm3)以下
(C)ガーレ剛軟度:900(mg)以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の空調装置に装着して除塵を行うための濾材並びにこれを用いたフィルターユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、空調装置は様々な環境で設置使用されており、塵埃を捕集した濾材は、当該装置に装着可能な形状に設計されたフィルターユニットとして着脱交換することが広く行われている。なお、オフィスビル等で使われるフィルターユニットには、JISで定められた比色法による平均比色法効率(後段で詳述)が65[%]以上であることが求められている。本出願人にあっても、高効率、低圧損のフィルターユニットを高い再現性を以て実現するために種々の技術を提案しており、例えば特開2008−212858号公報(以下、特許文献1)において、フィルタエレメント(以下、本明細書ではフィルターユニットとして包括的に用いる)の製造技術を提案している。この特許文献1では、プリーツを形成した濾材の外周端縁部にテープ状の枠材を固着するまでの工程で使用するため、プリーツを保持する治具を開示している。この技術では濾材としてプリーツ加工が可能な好適形態として種々の材質からなる不織布を用い得るとの記載がある。プリーツ形状に関しても濾材の山高さが5〜150[mm]程度の好適形態を開示し、作製された後のプリーツ形状を保持する上で、濾材表面にホットメルト樹脂からなるセパレーターを線状に塗布する形態を開示している。
【0003】
また、このようなフィルターユニットに用いる濾材として、例えば特開2014−208318号公報(以下、特許文献2)には、圧力損失、粉塵捕集効率や寿命といった一般的な性質に加え、抗菌性を発揮し得る濾材が開示されている。この技術は、鞘成分がポリエチレン、芯成分がポリプロピレンの複合繊維からなる1層構造の不織布濾材に関するものであり、濾材の粉塵捕集効率と通気抵抗とのバランスを実現する嵩密度が0.03〜0.20[g/cm
3]、プリーツ後のフィルターユニットの圧力損失を考慮した厚さ1.5[mm]以下、適度なプリーツ加工性を実現するため、ガーレ法における曲げ反発特性が100〜500[mg]などの開示があり、抗菌剤の含有量を所定量含むものと記載されている。また、この公報技術では、当該濾材にエレクトレット処理を実施し、山高さ50[mm]、山ピッチ6[mm]のビード樹脂を付与した後にプリーツ加工を施して610[mm]角のフィルターユニットを作製し、圧力損失とJIS11種の初期捕集効率並びに抗菌性が検証されている。
【0004】
このようなプリーツ加工に関する技術として、特開2002―95920号公報(特許文献3)には、プリーツ状の濾材に関し、プリーツの山高さHとピッチPとの関係を規定することによって、通気性の高いフィルターユニットを実現する技術が開示される。この公報では、厚さ0.4〜1.2[mm]の濾材をプリーツ形状に加工する際、山高さHとピッチPとの関係が「0.05≦H/P
2≦0.2」の条件を満たし、好適には山高さHが25[mm]以上とすることによって、所謂、構造圧損にも優れたフィルターユニットを提供し得ると記載されている。その具体的形態である実施例欄には、濾材としてエレクトレット処理を施し、形状保持を目的としたポリプロピレン製ネットを補強材としたフィルターユニットを作製し、圧力損失を検証している。
【0005】
これら各文献技術は、フィルターユニットのプリーツに関連するものであり、使用する濾材の加工適性を剛軟度(曲げ反発)や厚さなどの観点から評価、選択することを提案している。ここで、本来、濾材に求められる基本特性は圧力損失と捕集効率との2つであるが、これら2つの基本特性向上を同時に評価し得る評価手法として、後段で述べるQF(QUARITY FACTOR)値が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−212858号公報([特許請求の範囲]、[0008]、[0024]、[0028]〜[0029]、[
図1]、[
図2]など)
【特許文献2】特開2014−208318号公報([特許請求の範囲]、[0012]〜[0014]、[0020]、[表1]など)
【特許文献3】特開2002−95920号公報([特許請求の範囲]、実施例欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した背景技術では、何れもプリーツ形状の保持を目的として、製造工程内での治具(特許文献1)、ビード状の樹脂(特許文献2)、ネット(特許文献3)などの補助成分を用いてフィルターユニットが作製されている。プリーツ加工適性を考慮すれば、これら補助成分を用いず、自立的な構造維持を図るために特許文献2に提案されるような剛性の低い材質に代えて、より高い剛軟度を有する素材を選択することが可能である。しかしながら、剛軟度を高めるには濾材の目付と嵩密度とが必要になるが、圧力損失、捕集効率との双方を兼ね備えた技術は未だ知られていないと言う問題があった。
【0008】
このため、本願に係る発明者は、上述した補助部材を必要とせず、濾材の加工適性と、これによる濾材の高効率、低圧損といった基本性能との両立を図るべく、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。従って、本発明の目的は、実質的に補助部材を用いずにプリーツ形状の維持を図ることができ、しかも優れた濾材の基本性能との双方を満足する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的の達成を図るため、この出願に係る
フィルターユニットの構成によれば、熱接着繊維からなる不織布で
あり、以下の特性(A)〜(C)を満たす濾材をプリーツ形状となし、枠材で保持したフィルターユニットであって、前記プリーツ形状の山高さを山間隔で除した比が、3.0以上4.0以下であると共に、このフィルターユニットは、性能試験(JIS B9908)に準拠した比色法による平均比色法効率が65%以上であって、かつ、QF値が0.070以上0.079以下であることを特徴としている。
【0010】
(A)目付:120[g/m
2]以上
(B)嵩密度:0.071[g/cm
3]以下
(C)ガーレ剛軟度:900[mg]以上
尚、ここに言う各数値はJIS L1096(2010年版)「織物及び編物の生地試験方法」に準じて求められる値であり、「嵩密度」は1.96[kPa](20[g/cm
2]相当)の圧縮荷重時で求められる厚さと目付とから算出した値を示す。また、本明細書では、「ガーレ剛軟度」を単に剛軟度と称する場合がある。
【0011】
また、この濾材を実現にあたり、上述した濾材のQF値が0.14以上とするのが好適である。ここに言うQF値は、後段で詳述するように、濾材を所定の条件で捕集効率[%]並びに圧力損失[Pa]を測定し、以下の式から得られた実測値を表す。尚、式中の「Ln」は自然対数を底とする対数関数を表している。
【0012】
QF値=−Ln(1−捕集効率/100)/圧力損失
[以下、削除]
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成を適用することにより、プリーツ加工の適正化を図
り、優れた基本性能を有するフィルターユニッ
トを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適形態につき説明する。尚、以下の説明では、この発明の理解を容易とするため、特定の形状、配置関係などを例示して説明するが、本発明はこれら例示にのみ限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で任意好適に設計及び変形を行うことができる。
【0015】
まず、本発明の濾材を構成する熱接着繊維からなる不織布には、従来周知のとおり、少なくとも15[℃]以上、より好ましくは20[℃]以上の融点差がある2つ以上の樹脂から構成された芯鞘型またはサイドバイサイド型の複合繊維が好適に用いられる。用いる樹脂の組合せとしては、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート、6−ナイロンと6,6−ナイロン、ポリエチレンとポリプロピレンなどを使用することができるが、圧力損失と捕集効率とのバランスに優れた濾材を実現するため、エレクトレット処理が容易なポリエチレンを鞘とし、ポリプロピレンを芯とした複合繊維が最も好ましい。繊度及び繊維長は任意好適に採用することができるが、本発明の濾材に好ましい目付及び嵩密度が比較的大きいことから、前述した特許文献2にも例示されている繊度2.2〜22[dtex]、並びに繊維長33〜150[mm]とすることで経済性に優れたカード不織布を効率的に調製することができる。
【0016】
また、このような構成繊維からなるカードウエブを熱接着するに当たっては、実質的に無圧下で加熱し得るように、ドライオーブン、カレンダーなどを任意好適に選択することができるが、本発明の濾材が規定している物性値を高い再現性で実現するため、所定のクリアランスを採った1対の加熱ロールによるカレンダー処理が最も好ましい。このようにして得られた濾材は、熱接着の後に周知のコロナ帯電などのエレクトレット加工を施し、低い圧力損失と高い捕集効率を確保することができる。
【0017】
この濾材は、周知のプリーツ加工機に掛けることでプリーツ形状に仕上げられ、その際、山または谷となる折筋部分にのみ熱を掛けることで形状保持が可能となる。この際、剛軟度が高い程、より低温で形状保持を行うことが出来るため、上述したプリーツ加工に先立って行うエレクトレット処理の失効が軽減される。この後、特許文献1に提案しているように、例えばホットメルトフィルムを積層した枠材の接着面を予め加熱溶融させ、プリーツの山谷の各稜線の両端で保持することによって、濾材自体の剛性が高いため、当該稜線と平行な一対の枠の機能を濾材が兼備したフィルターユニットを作製することができる。従って、上述した稜線と平行な両端部では濾材が枠材として機能する。尚、この間、治具等でプリーツ形状を保持することで、本発明に係る山高さと山間隔の保持を図ることで目的とした前述の比を高い再現性で実現できる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例について、上述した好適形態で説明した特定の不織布を例示し、本発明の規定する条件を満たす濾材を平板で比較検討した場合、並びに、この平板状の濾材を所定のプリーツ形状としたフィルターユニットを検証した場合の各結果について説明する。
(濾材構成の検証)
始めに、本発明の実施例としての不織布は、前述した特許文献2に示される市販の芯鞘構造を有するポリオレフィン系短繊維「UCファイバー HR−LE」(繊度6.6[dtex],繊維長64[mm];宇部エクシモ(株)製、商品名)のみからなる3種類のカード不織布を調製し、150[℃]で1分間加熱後に所定の厚さにクリアランスを採った一対のロールからなるカレンダーに掛けて厚さを調整しながら熱接着を行った後、コロナ帯電を行うことで4種類の濾材を得た。これら濾材となる不織布の目付、厚さ、嵩密度、剛軟度並びにQF値を各々表1に示す。尚、QF値を算出するため、大気塵を上流から負荷しながら流速10cm/sで25cm角の間口が空いたダクトに濾材を挟み、上流と下流との差圧(圧力損失)及び上下流にパーティクルカウンターを設置し、大気塵に含まれる0.3μm〜0.5μmの粒子個数をカウントして捕集効率を算出し、前述の計算式により求めた。
【0019】
【表1】
【0020】
この表1からも理解できるように、濾材としての比較例C及びDに較べて、実施例A並びに実施例Bの双方の濾材は、嵩密度が小さいことでQF値が高くなった。これは、実施例Bのろ材が比較例Dの濾材と同一の目付でありながら、厚さを大きく採ることで嵩密度が小さく、しかも圧力損失は小さくなる。さらに、コロナ帯電加工によって、繊維は等しく帯電していたとすれば、より厚さの大きいろ材は、粒子との接触確率が高くなると推定される。従って、比較例Dに比べて実施例Bの捕集効率が高くなり、コロナ帯電によるエレクトレット効果も高く、得られるQF値も大きくなったと考えられる。また、目付の増加に較べて厚さを大きく採っているため、嵩密度が小さくなるに従って、不織布が曲げ硬く、ガーレ剛軟度が増大する傾向が認められた。このように実施例A及び実施例Bに係る2種類の濾材は優れた性能を実現し得ることが理解できる。また、比較例Cに係る濾材では、ガーレ剛軟度が4つのうちで最も低く、プリーツ形状の保持が難しいため、安定した測定を実施する目的で、ビード樹脂を25[mm]間隔で山谷の稜線とは直角をなす方向に線状塗布して補助部材となるセパレーターを形成し、評価に供することとした。さらに、比較例Dのろ材は、これら濾材の中で最もQF値が低いため、ユニット評価から除外した。
(フィルターユニットの検証)
このようにして得られた実施例A、実施例B、ビード形成した比較例Cの3種の濾材を用いて、フィルターユニットとしてのプリーツ形状の最適化を検証した。手法として、山高さを60[mm]に統一し、山間隔を種々に代えて初期圧損と比色法による効率とからQF値を算出することで性能を検証した。
【0021】
フィルターユニットは300[mm]角の間口面積に仕上げ、プリーツの稜線にわたる両端には枠材を取り付け、JIS B 9908(2001)「換気用エアフィルタユニット・換気用電気集じん器の性能試験法」に規定された形式2に基づく装置に装填して風量を7[m
3/分]で実施し、JIS11種並びにJIS15種の粉塵を供給した際の初期圧損と、平均比色法効率、並びに最終圧損70[Pa]に達するまでの給塵量を測定記録した。また、結果の整理に当たっては、前述したQF値を求めることで圧損と効率とのバランスを基本性能として評価し、表2に示すとおり、圧損と効率との双方を満足し、さらにQF値が優れている場合を「○」、2項目が良好な場合を「△」、1項目のみ良好な場合を「×」として判定した。ただし、比色法による平均比色法効率が65%を満たさないものはQF値に優れていても、要件を満たさないものとして判定した。
【0022】
【表2】
【0023】
この表からも理解できるとおり、山高さと山間隔の比が3.0以上4.0以下の範囲では、良好な結果をもたらすことが理解できる。また、上述したとおり、参考例B−2はQF値には優れていたが、平均比色法効率が65%以上との要件を満たさなかった。これは、上述した比の有用性を裏付ける結果であると理解できる。