【実施例】
【0023】
(実施例1)
図1は本発明の実施例1による無線給電装置の概略構成図である。
【0024】
図1において、無線給電装置100は、複数の電源に接続された送電素子から送るエネルギーを受電素子で受け取り、負荷に送る構成である。なお、
図1中にx軸を示しているが、これは実施例1の説明を容易にするために便宜上表示しているものである。
【0025】
商用電源8に接続する電源A(第1の電源)4は送電素子A(第1の送電素子)1に接続される。また、電源B(第2の電源)5は送電素子B(第2の送電素子)2に接続される。送電素子A1及び送電素子B2は例えばコイルであり、電源A4や電源B5から出力する交流電流が流れて、磁界を発生させる。受電素子3は、送電素子A1、B2と同様に、例えばコイルである。
【0026】
受電素子3は電力を消費する機器や素子、あるいは交流直流変換器(以下これらを総称して負荷6と記載する)に接続される。送電素子A1及び送電素子B2で発生させる磁界が受電素子3に鎖交すると、電圧を誘起して起電力が発生し、これによって受電素子3に電流が流れ、受電素子3に接続された負荷6によって電力が消費される。ここで、電力が消費されるということは、受電素子3に接続した機器が動作するということである。
【0027】
電源A4と電源B5とは、略同一の周波数となる交流電流を出力するものである。電源A4と電源B5とには位相差調整部7が接続されており、電源A4と電源B5との交流電流の位相差を位相差設定値で任意に設定できる。
【0028】
電源A4と電源B5とは、例えばTTL(Transister Transfer Level)信号をタイミング信号として入力し、タイミング信号の立ち上がりと同期するように正弦波電流の始まりを調整してもよい。あるいは電源A4と電源B5とは入力端子から入力する信号を増幅して出力する増幅器でもよい。
【0029】
前者の場合には、TTL信号を出力するための位相差調整部7に信号発生器を備えており、電源A4に出力するTTL信号と電源B5に出力するTTL信号のタイミングを変更することで、電源A4および電源B5から出力する高周波電流の位相差を変更できる。
【0030】
後者の場合も同様に位相調整部7に正弦波信号を出力する信号発生器を備えており、電源A4に出力する正弦波信号と電源B5に出力する正弦波信号の位相を変えることで電源A4および電源B5から出力する高周波電流の位相差を変更できる。あるいは、図示しないが電源A4と送電素子A1との間に移相器を設けて、交流電流の位相を変更することで位相差を設けてもよい。
【0031】
本実施例1においては、送電素子A1とは互いに対向して配置され
、送電素子A1、送電素子B2および受電素子3の、それぞれの中心軸が互いに略一致するように配置する。また、送電素子A1および送電素子B2の間に受電素子3が存在する位置関係が望ましい。この理由は後述する。
【0032】
送電素子A1、送電素子B2および受電素子3は、コンデンサの付加や、素子自体の浮遊容量を用いることで共振回路を形成して動作するものであってもよい。
【0033】
次に、
図2を用いて本発明の原理を説明する。
図2は、本発明の原理の説明図であり、互いに対向する2つの送電素子A1とB2とによる磁界強度を示す図である。
図2の縦軸は磁界強度を示し、横軸は位置を示す。
【0034】
図2の(a)、(b)に示すように、送電素子A1及び送電素子B2によって発生する磁界は、周波数が同じで互いに逆向きの進行波が合成されるため定在波となる。
【0035】
ところで、広い範囲に無線電力を伝送するためには、交流電流の周波数を数十MHzと高くすることが有効である。そのため、送電素子A1と送電素子B1との間には1/4波長以上といった具合に、磁界の強度分布が無視できない波数が存在する。
図2の(a)はその一例である。送電素子A1及び送電素子B2の間には定在波が発生するため、
図2の(a)に示すように受電素子3が、丁度、定在波節の位置(最小電力となる位置)にいると磁界強度が小さくなり、負荷で必要となる消費電力を満足する受電電力が得られなくなる恐れがある。
【0036】
また、受電素子3の位置が必ずしも節の位置ではなくても最大となる受電電力で受電できない位置が大半である。
【0037】
本発明の実施例1においては、送電素子A1と送電素子B2とに印加する交流電流の位相差を調整することで、例えば、
図2の(b)に示すように定在波の腹の位置(最適磁界強度となり、最大電力が得られる位置)を、送電素子A1と送電素子B2との中間の位置に調整し、受電素子3が最大電力を受電可能とすることができる。
【0038】
以上のことから、位相差調整部7において設定できる位相差は理想的には無段階であり、少なくとも3段階以上、望ましくは10段階以上であるとよく、そうすることで受電素子の位置が磁界の定在波の腹の位置となるように調整することができる。
【0039】
次に、送電素子A1、送電素子B2、受電素子3のそれぞれの中心軸を互いに略一致させ、受電素子3を、送電素子A1と送電素子B2との間に存在するよう配置する理由を、
図3を用いて説明する。
図3は、その縦軸は最大磁界強度を示し、横軸は位置を示す図である。理解を容易にするために片側に送電素子を2個設置する場合と比較して説明する。
【0040】
図3では、片側に送電素子を2個設置する場合にその2個の送電素子によって得られる最大磁界強度の場所特性9を破線で示す。また、2つの送電素子及び受電素子の中心軸を略一致させ、受電素子は送電素子間に存在するよう配置する場合の最大磁界強度の場所特性10を実線で示す。
【0041】
図3において、片側に送電素子を2個設置する場合には、破線の場所特性9に示すように、送電素子に近いところでは強い磁界を得られるが、そこから離れるに従って磁界強度は減少していき、それは概ね指数関数に従う。このため、
図3ではおよそ半分の位置で負荷に必要な受電電力11(破線)を下回ることとなる。
【0042】
一方で、両側に送電素子を設置する場合には、2つの送電素子の中間が最も受電電力は低くなるものの、前者と比較して負荷に必要な受電電力11を満足できる範囲が広くなる。
【0043】
次に、本発明の実施例1による効果を説明する。上述のように、受電素子の両側に送電素子を設置して給電することでより広い範囲に無線給電できるようになるが、この場合には、
図2に示したように、送電素子A1と送電素子B2との間に磁界の定在波が発生する。この定在波の節の部分に受電素子3が存在すると受電できない問題が生じるが、本発明の実施例1による位相差調整部7で電源A4及び電源B5から出力する交流電流の位相差を調整することで、受電素子3の位置が定在波の腹の位置とすることができ、このような配置であっても広い領域で安定して受電できるようになる。
【0044】
つまり、本発明の実施例1によれば、広い領域において、負荷に安定的に電力を給電可能な無線給電装置及び無線給電方法を実現することができる。
【0045】
位相差調整部7への位相差設定値の設定方法は、例えば、位相差調整部7に位相差設定部を設け、オペレータにより位相差設定部を介して、位相差設定値を位相差調整部7の内部メモリに記憶させることで行うことができる。
【0046】
なお、
図1に示した例では、送電素子A1、送電素子B2および受電素子3の、それぞれの中心軸が互いに略一致するように配置したが、送電素子A1の中心軸と、送電素子B2の中心軸とが略一致し、受電素子3の鎖交面に、送電素子A1の中心軸と送電素子B2の中心軸とが通過するように構成することもでき、受電素子3の中心軸が、送電素子A1及び送電素子B2の中心軸と必ずしも略一致する必要はない。
【0047】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について
図4を用いて説明する。実施例1と構成が同一の部分は説明を省略し、異なる部分について説明する。
図4は本発明の実施例2による無線給電装置200の概略構成図である。
図4において、位相差調整部7には位相差計算部12が接続される。位相差計算部12では受電素子位置情報を入力として位相差調整部7に位相差を出力する。受電素子位置情報は、例えば送電素子A1を基準として受電素子3の位置Xを入力としてもよいし、現在の位置から受電素子3が移動した移動量を入力としてもよい。
【0048】
位相差計算部12への受電素子位置情報の入力は、位相差計算部12の記憶部にキーボード等の外部入力装置により入力することにより実行することができる。
【0049】
次に、現在の位置から受電素子3が移動した移動量を入力する場合を例にして位相差計算部12の詳細を説明する。
【0050】
電源A4及び電源B5から出力する交流電流によって送電素子A1および送電素子B2に生じる磁界は、それぞれ次式(1)および(2)で表すことができる。
【0051】
H
A(x、t)=sin(2πft−(2πfx/c)+φ
A)・・・(1)
H
B(x、t)=sin(2πft+(2πfx/c)+φ
B)・・・(2)
上記式(1)、(2)において、H
A及びH
Bはそれぞれの送電素子A1、B2によって生じる磁界、xは位置、tは時刻、fは交流電流の周波数、φは交流電流の初期位相、cは媒質中の磁界の伝搬速度である。
【0052】
この場合、磁界H
AとH
Bが合成された磁界は次式(3)となる。
【0053】
H
A+H
B=2sin((1/2)・(4πfx+φ
A+φ
B))・cos((1/2)・(−(4πfx/c)+φ
A−φ
B))・・・(3)
上記式(3)のうち、位置xに依存する振幅Aは次式(4)となる。
【0054】
A=cos(((φ
A−φ
B)/2)−(2πfx/c))・・・(4)
現在、xの位置で受電素子3が磁界の腹の位置にいるとして、受電素子3がΔxだけ移動したとすると、上記式(4)の大括弧内は2πfΔx/cだけ変化することになる。
【0055】
したがって、Δxだけ移動した受電素子3が腹の位置となるためには、一例として(φ
A−φ
B)/2が2πfΔx/cと等しくなるようにすればよい。つまり、位相差の増減量Δφを次式(5)とすればよい。
【0056】
Δφ=4πfΔx/c ・・・(5)
以上から受電素子3の位置がΔx変化したら、位相差計算部12では上記式(5)にしたがってΔφを計算し、φ
1―φ
2+Δφを位相差計算部12の出力とする。
【0057】
上記の説明は位相差計算部12の入力を移動量、即ちΔxとした場合であるが、位置情報xとする場合には、式(4)のAの絶対値が最大となるように位相差であるφ
A−φ
Bを設定すれば良い。
【0058】
位相差計算部12への受電素子位置情報の入力方法は、例えば、位相差計算部12に受電素子位置情報設定部を設け、オペレータにより受電素子位置情報設定部を介して、受電素子位置情報を位相計算部の内部メモリに記憶させることで行うことができる。
【0059】
続いて、実施例2の効果について説明する。実施例2では、受電素子3の位置情報を入力すれば位相差を設定することができるため、受電素子3が頻繁に移動する状況下でもより安定して無線で給電できるようになる。
【0060】
つまり、本発明の実施例2によれば、広い領域において、受電素子3が頻繁に移動する状況下でも負荷に安定的に電力を給電可能な無線給電装置及び無線給電方法を実現することができる。
【0061】
(実施例3)
次に、本発明の実施例3について
図5および
図6を用いて説明する。実施例1と構成が同一の部分は説明を省略し、異なる部分について説明する。
図5は本発明の実施例3による無線給電装置300の概略構成図である。
図5において、位相差調整部7には位相差計算部13が接続される。位相差計算部13では受電電力情報を入力として位相差調整部7に位相差を出力する。
【0062】
また、受電素子3には受電電力計測部14が接続され、受電素子3で受電された電力値を計測する。受電電力計測部14は、受電素子3で受電された電力ではなく、電圧または電流値を計測する構成であってもよい。受電電力計測部14で計測した電力値は、受電電力表示部15に送られて受電電力が表示される。受電電力表示部15で表示される受電電力情報を、オペレータ等が位相差計算部13に入力すると受電電力がより高くなる位相差を計算して、位相差計算部13は、その結果を位相差調整部7に出力する。
【0063】
位相差計算部13の動作について
図6を用いて説明する。
図6は、位相差計算部13の動作を説明するフローチャートである。受電素子3の受電電力を最大とするためには、上記式(4)の振幅Aを最大とすればよく、受電素子3の位置が変化しない場合には、位相差である(φ1−φ2)を変更すれば良い。
【0064】
しかし、振幅Aは正弦関数であるため極大値を得る処理が必要となる。
【0065】
図6に示したフローチャートは、上記極大値を得るための動作フローを示す。
図6において、ステップS1からステップS3で位相差を、所定値毎、指定回数だけ変えて、そのときの受電電力情報を入力して記憶しておき、その中から最も受電電力が高い位相差をステップS4で決定する。そして、ステップS5で決定した位相差の値を位相差調整部7に出力する。
【0066】
ステップS4については、上記以外の方法があり、例えば、磁界の振幅Aは上記式(4)で示したように正弦関数で表されるため、受電電力はその自乗に従う。そのため、ステップS1からステップS3で所得した値を用いて上記関数でフィッティングし、そのフィッティング関数を用いて最大となる位相差を計算してもよい。
【0067】
図6に示した動作は、負荷を動作させる前に毎回行ってもよいし、毎回行うのでは無く、一度、設定した後は、受電素子3の位置を変更する毎に行うようにしてもよい。
【0068】
次に、実施例3の効果について説明する。実施例3においては、広い範囲で安定して給電できるかどうかの直接的な指標である受電電力を計測し、その結果を基にして位相差を決定しているため、精度よく位相差を決定できる。
【0069】
つまり、本発明の実施例3によれば、広い領域において、精度よく位相差を決定することができ、負荷に安定的に最大電力を給電可能な無線給電装置及び無線給電方法を実現することができる。
【0070】
(実施例4)
本発明の実施例4について
図7を用いて説明する。実施例2と同一部分の説明は省略し、異なる部分について説明する。
図7は本発明の実施例4による無線給電装置400の概略構成図である。
【0071】
図7において、受電素子3または負荷6に測距装置20を備えており、この測距装置20が、送電素子A1、B2と受電素子3との位置関係を測定する。測距装置20は、例えばレーザ距離計や音波式距離計、GPS(Global Positioning System)などであり、
図7に示すx軸方向の位置がわかる装置であればよい。
【0072】
測距装置20は通信装置(送信機)21と接続され、通信装置21は測距装置20から送られる位置情報を位相差計算部23に接続された通信装置(受信機)22に伝送する。位相差計算部23では、通信装置22から送られる位置情報を用いて位相差を計算し、位相差調整部23に位相差設定値を出力する。
【0073】
次に、実施例4による効果について説明する。測距装置20及び通信装置21、22を用いることで、受電素子3が頻繁に移動する場合であってもその移動量に応じた位相差を迅速に設定でき、特に受電素子3が高速で移動する場合でも追従できるようになるため、より安定して給電できるようになる。また、位置情報を入力する手間が削減できるため、そのために必要となる作業員(オペレータ)を削減可能である。
【0074】
つまり、本発明の実施例4によれば、作業員の手間を必要とすることなく、広い領域において、自動的に負荷に安定的に最大電力を給電可能な無線給電装置及び無線給電方法を実現することができる。
【0075】
(実施例5)
本発明の実施例5について
図8を用いて説明する。実施例3と同一部分の説明は省略し、異なる部分について説明する。
図8は本発明の実施例5による無線給電装置500の概略構成図である。
【0076】
図8において、受電電力計測部14には、通信装置21が接続される。また、位相差計算部24には通信装置22が接続される。通信装置21から通信装置22に受電電力計測部14で計測した受電電力の値を伝送する。位相差計算部24では通信装置22から送られる受電電力の値を用いて位相差を決定し、位相差調整部7に出力する。位相差計算部24では、
図6に示した処理と同様の処理で位相差を決定してもよいが、逐次送られてくる受電電力の値が最大となるように位相差の値を繰り返して設定して探索するか、フィードバック制御することで決定してもよい。
【0077】
次に、実施例5の効果について説明する。実施例5によれば、通信装置21、22を用いることで受電素子3が頻繁に移動する場合であってもその移動量に応じた位相差を迅速に設定でき、特に受電素子3が高速で移動する場合でも追従できるようになるため、より安定して給電できるようになる。また、位置情報を入力する手間が削減できるため、そのために必要となる作業員を削減可能である。
【0078】
つまり、本発明の実施例5によれば、広い領域において、精度よく位相差を決定することができ、自動的に負荷に安定的に最大電力を給電可能な無線給電装置及び無線給電方法を実現することができる。
【0079】
(実施例6)
本発明の実施例6について
図9を用いて説明する。実施例1と同一部分の説明は省略し、異なる部分について説明する。
図9は本発明の実施例6による無線給電装置600の概略構成図である。
【0080】
図9において、送電素子A1及び送電素子B2にはそれぞれ機械的に連結された移動機構31A、31Bを備えている。移動機構31A、31Bは動作指令部32と有線または無線にて接続されている。動作指令部32は、操作者(図示せず)が移動指令を入力すると、それに応じて移動機構31A、31Bを動作させるものである。送電素子A1、送電素子B1は、それぞれ移動機構31A、31Bと機械的に連結されているため、移動機構31A、31Bの移動に応じて位置が変化する。
【0081】
受電素子3が空間内を移動すると、操作者が動作指令部32を移動指令により操作して送電素子A1、B2が受電素子3と中心軸がほぼ一致する位置に移動させことができるようになる。そのため、受電素子3の位置が変化する状況であっても受電素子3が電力を受電できるようになり、広範囲で安定して無線給電できるようになる。
【0082】
つまり、本発明の実施例6によれば、より広範囲に移動する移動体である負荷に安定的に給電可能な無線給電装置及び無線給電方法を実現することができる。
【0083】
なお、
図9に示した実施例6においては、動作指令部32へ入力する指令は操作者が実行する例であるが、受電素子3または送電素子A1、B2の少なくとも何れか一方に受電素子3の位置を検出する装置を備え、これによって得られる位置情報を動作指令部32の入力として受電素子3と送電素子A1、B2が互いの中心軸がほぼ一致するように制御するように構成しても同様の効果が得られる。
【0084】
また、実施例1、2と同様に、実施例3、4、5、6においても、送電素子A1の中心軸と、送電素子B2の中心軸とが略一致し、受電素子3の鎖交面に、送電素子A1の中心軸と送電素子B2の中心軸とが通過するように構成することができる。
【0085】
また、位相差調整部7は、受電素子3の電気的特性(受電素子3に誘起される電圧、受電素子3に流れる電流、または受電素子3によって得られる受電電力)に従って、上記位相差を調整する。