(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記細菌性皮膚病用殺菌組成物が、界面活性剤、保湿剤、溶媒、抗酸化剤からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の細菌性皮膚病用殺菌組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の細菌性皮膚病用殺菌組成物の実施形態について詳述する。本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物は、ヨウ化銀からなる1nm以上100nm以下のナノ粒子(ヨウ化銀ナノ粒子ともいう)と、ヨウ化物イオンと、水溶性高分子と、カルボキシル基を有する有機酸(以下、単に有機酸ともいう)および/またはその塩とを含む。また、本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物において、ヨウ化銀中の銀とヨウ化物イオン(銀イオンと反応せずに組成物中にイオンとして存在しているヨウ化物イオン)のモル比が1:1〜1:1000である。
本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物は、例えば、銀塩と、ヨウ化物と、水溶性高分子と、有機酸および/またはその塩とを溶媒中で混合することにより製造することができる。銀塩とヨウ化物とを混合することで銀塩とヨウ化物とが反応し、ヨウ化銀が生成される。各成分の割合は特に限定されないが、生成されるヨウ化銀ナノ粒子中に含有される銀と組成物中にイオンとして存在しているヨウ化物イオンとのモル比が1:1〜1:1000となるように、銀塩を構成する銀イオンとヨウ化物を構成するヨウ化物イオンの比率が設定されることが好ましい。混合する順序などは特に限定されず、例えば既に得られているヨウ化銀ナノ粒子、水溶性高分子、有機酸および/またはその塩を含む組成物にヨウ化物イオンを添加するなどして調製されるようにしてもよい。
【0013】
本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物に含まれるヨウ化銀の殺菌性については従来から知られており、様々な殺菌組成物として利用されている。本実施形態では、その中でも非常に粒子径の小さい1nm以上100nm以下のナノ粒子状のものが利用できる。また、少量でもより効率よく殺菌性を発揮するようにする観点から、ヨウ化銀ナノ粒子の粒子径は小さいほど好ましい。一方で、粒子径が1nm未満であるとヨウ化銀の物質としての安定性が低下する。そのため、ヨウ化銀ナノ粒子の粒子径は、10nm未満1nm以上のシングルナノサイズであることがより好ましい。なお、当該粒子径は、例えば銀塩とヨウ化物とを反応させるときの銀塩に含まれる銀イオンとヨウ化物に含まれるヨウ化物イオンとの比率を調整するなどして制御することができる。
【0014】
上述のとおり、ヨウ化銀ナノ粒子は、例えば銀塩とヨウ化物とを反応させることにより得ることができる。
銀塩としては、硝酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀及び硫酸銀などが挙げられる。また、ヨウ化物としては、ヨウ化カリウムなどが挙げられる。これら銀塩とヨウ化物との組合せについては自由に選択する事ができる。
【0015】
上述のとおり例示した細菌性皮膚病用殺菌組成物の調製において、銀塩とヨウ化物の比率については、ヨウ化物が銀塩に対し、化学量論的に過剰であることが望ましい。具体的には、本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物中に存在するヨウ化銀中の銀と、ヨウ化物イオン(銀イオンと反応せずに組成物中にイオンとして存在しているヨウ化物イオン)とのモル比が、1:1〜1:1000となるように、銀塩を構成する銀イオンと、ヨウ化物を構成するヨウ化物イオンのモル比を設定することが好ましい。特に、本実施形態においては、銀イオンとヨウ化物イオンとの間のモル比の差が大きくなるほど粒子径の小さいヨウ化銀ナノ粒子が得られるため好ましい。
1:1よりもヨウ化物イオンの割合が小さくなると、組成物の調製において全てのヨウ化物イオンが銀イオンと反応し、ヨウ化銀ナノ粒子の周囲に後述の電気二重層が形成されなくなる。その結果、ヨウ化銀ナノ粒子のゼータ電位が低下し、粒子が凝集して沈降するか、或いは粒子同士が結合して粒子径が大きくなって沈降するなどして、ヨウ化銀ナノ粒子の分散安定性が低下する。一方、1:1000よりもヨウ化物イオンの割合が多くなると、ヨウ化物イオンが過剰になりすぎて、銀と錯体を形成してしまう。
【0016】
ここで、本実施形態でヨウ化銀ナノ粒子の周囲に形成される電気二重層について説明する。ヨウ化物は溶液中ではヨウ化物イオンとして存在しており、銀塩が水に溶解してできた銀イオンと反応してヨウ化銀のナノ粒子を生成する。生成されたヨウ化銀ナノ粒子は溶液中に存在する過剰のヨウ化物イオンを吸着してマイナスの電荷を帯び、さらに吸着されたヨウ化銀イオンは過剰のヨウ化物イオンの対イオンを吸着する。これによりヨウ化銀ナノ粒子の周囲には電気二重層が形成される。当該電気二重層がその周囲に形成されたヨウ化銀ナノ粒子は、高いゼータ電位を有することで、分散安定化する。
【0017】
本実施形態においては、この分散安定化したヨウ化銀ナノ粒子を、分散剤である水溶性高分子が保護している。また、有機酸および/またはその塩がヨウ化銀ナノ粒子の凝集を抑制する。これにより、ヨウ化銀ナノ粒子の分散安定性を極めて高めることができるので、粒子サイズが数nmであっても、長期間、ヨウ化銀ナノ粒子の凝集を抑制することができる。
水溶性高分子は、ナノ粒子の分散性を上げるものであれば特に制限はない。一例として、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコールなどの水溶性高分子分散剤が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物が含有するようにしてもよい。これらの水溶性高分子は、様々な分子量のものがあるが、分子量が高くなるに従い、粒径の小さいナノ粒子が得られるため、500以上の分子量の水溶性高分子が好適に用いられる。
当該水溶性高分子の割合は特に限定されないが、組成物全体量100質量部に対し、0.1質量部またはそれより大きい割合とすることが、ヨウ化銀ナノ粒子の分散性をより高める観点から好ましい。水溶性高分子の割合の上限値については特に限定されないが、細菌とヨウ化銀との接触効率を考慮すると、組成物全体量100質量部に対し、1質量部またはそれより小さい割合で含有されることが好ましい。
【0018】
カルボキシル基(-COOH)を有する有機酸および/またはその塩としては、特に制限はない。当該有機酸の具体例としてはクエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、アスコルビン酸、グリコール酸や、これらの塩などのオキシカルボン酸が好適に挙げられ、例えばこれらのうち1種または2種以上を本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物が含有するようにすることができる。中でもクエン酸がより好適に用いられる。
当該有機酸および/またはその塩の割合は特に限定されないが、組成物全体量100質量部に対し、0.01質量部またはそれより大きい割合とすることが、殺菌性を向上させる点から好ましい。有機酸および/またはその塩の割合の上限値については特に限定されないが、有機酸とヨウ化物イオンが反応して、着色してしまうのを抑制するなどの理由から、組成物全体量100質量部に対し、5質量部またはそれより小さい割合で含有されることが好ましい。
本実施形態で分散安定なヨウ化銀ナノ粒子を含む分散液を調製する場合、ヨウ化銀ナノ粒子の凝集を防止することが重要となる。ヨウ化銀ナノ粒子の凝集は粒子が有するゼータ電位に大きく影響されるため、有機酸および/またはその塩を用い、分散液のpHを酸性側にし、ヨウ化銀ナノ粒子のゼータ電位を高くすることで、凝集を抑制できる。有機酸および/またはその塩の添加量は、ヨウ化銀ナノ粒子の凝集をより抑制できるようにする観点から、水溶液のpHを2.0〜6.0に調整する量であることが好ましい。また、ヨウ化銀ナノ粒子の粒子径を制御するためには、ヨウ化銀ナノ粒子の主成分である銀イオンの溶液中からの供給を、如何に制御するかが重要となる。つまり、ヨウ化銀ナノ粒子の合成時に反応に寄与せず組成物中に残っている銀イオンや、経時変化により、ナノ粒子から溶出してきた銀イオンなどによるナノ粒子の粒子成長を如何に阻害するかが重要となる。有機酸および/またはその塩は銀イオンと錯体を形成し安定化しやすいため、上述の銀イオンが粒子成長に関与するのを阻害できる。このうち、オキシカルボン酸、特にクエン酸は、銀イオンと錯体を形成し安定化しやすい。従って、pH調整剤としてオキシカルボン酸(より好ましくはクエン酸)を用いることが、数nmの極めて小さい粒子径で、且つ、分散安定性に優れたヨウ化銀ナノ粒子を合成する上で、より好適である。
【0019】
本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物においては、例えば、生成されるヨウ化銀ナノ粒子中に含有される銀と組成物中にイオンとして存在しているヨウ化物イオンとのモル比が1:1〜1:1000となるように銀塩を構成する銀イオンとヨウ化物を構成するヨウ化物イオンの比率を設定するとともに、;水溶性高分子が組成物全体量100質量部に対し0.1〜1質量部であり、;有機酸および/またはその塩が組成物全体量100質量部に対し0.01〜5質量部とすることが好ましい。
上記の各成分を混合するなどして得られた本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物は、その形態については特に限定されず、例えば溶液状以外にも、ゾル、ゲルなど、組成物が流動性を有する態様とすることができる。
【0020】
本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物は、当該組成物に対し例えば100質量%とする量の、界面活性剤、保湿剤、溶媒、抗酸化剤、からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。これらの成分は、通常、銀塩、ヨウ化物、水溶性高分子、有機酸および/またはその塩を溶媒中で混合してヨウ化銀ナノ粒子を生成させた後に組成物中に添加することができるほか、これに限定されず、例えばヨウ化銀ナノ粒子を生成する前に添加してもよい。
【0021】
界面活性剤としては、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤など適宜利用できるが、刺激性の観点から非イオン性の界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、ピログルタミン酸POE多価アルコールエーテルエステル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。界面活性剤を配合すると、被毛が密に生えている犬等のペットであっても微細なミセルの状態で本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物が、皮膚表面にまんべんなく行き渡りやすくなり、さらに有効成分であるヨウ化銀のナノ粒子が、表皮細胞に浸透しやすくなる。そのため、ヨウ化銀ナノ粒子が原因細菌と接触しやすくなる。
【0022】
保湿剤としては、セラミド類、フィトスフィンゴシンなどの各種角質細胞間脂質;ヒアルロン酸ナトリウムなどのヒアルロン酸塩とその酸誘導体;ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エチルへキサンジオール、ヘキシレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、ヘキサンジオール、カプリルグリコールなどの各種のポリオールが挙げられる。これらのうちでセラミド類やフィトスフィンゴシンは、優れた皮膚に対する潤いを保つ作用を有しており、皮膚のキメを整えるので好ましい。中でも、セラミド類は、損傷を受けた皮膚に特に必要とされる物質であるため好ましい。
【0023】
溶媒としては、水のほか、濡れ性等の向上のために、エタノール及びイソプロパノールのようなアルコール; ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及びジエチレングリコールジブチルエーテルのようなグリコールエーテル; ポリエチレングリコール−300及びポリエチレングリコール−400のようなポリエチレングリコール; プロピレングリコール及びグリセリンのようなグリコール; 2−ピロリドン及びN−メチル− 2−ピロリドンのようなピロリドン; グリセロールホルマル; ジメチルスルホキシド; ジブチルセベケート; ポリソルベート80のようなポリオキシエチレンソルビタンエステル; 及びこれらの混合物などの有機溶媒を添加してもよい。
【0024】
さらに本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物の劣化を防止するために、抗酸化剤が好適に用いられてもよい。具体的には、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、l − アスコルビン酸、エリトルビン酸、アセチルシステイン、システイン、モノチオグリセロール、チオグリコール酸、チオ乳酸、チオ尿素、ジチオスレイトール、ジチオエリスレイトール、グルタチオン、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、ノルジヒドログアヤレチック酸、没食子酸プロピル、α − トコフェロール、及びこれらの混合物などから適宜選択できる。
【0025】
このようにして得られた細菌性皮膚病用殺菌組成物は、様々な方法で使用することができる。例えば、膿皮症などの細菌性皮膚病を発症しているペットや細菌性皮膚病を発症していないペットに、普段のシャンプーの後などに本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物を定期的に皮膚に塗布することで、皮膚上の細菌を殺菌し、膿皮症などの細菌性皮膚病を治療または予防することができる。
膿皮症を含むペットの細菌性皮膚病の原因菌は、例えば皮膚に常在している細菌である。細菌は普段から皮膚に存在しているが、何らかの生体側の要因(ストレス、基礎疾患など)による細菌の増殖に伴って炎症反応を生じることによって発症する。皮膚に常在している細菌としては、例えばStaphylococcus pseudintermedius、Staphylococcus schleiferi、Staphylococcus aureus、Staphylococcus hyicus、Pseudomonas aeruginosa、Proteus mirabilis、クレブシエラ属、Escherichia coli、エンテロバクター属、アクチノミセス属、ノカルジア属、ミコバクテリア属などが挙げられる。
【0026】
以上、本実施形態によれば、従来のように抗生剤を用いるのではなく、例えば、有効成分の一つとしてヨウ化銀という無機化合物を用いるため、細菌が耐性を獲得しづらくなる。また、ナノ粒子を用いているため、塗布後も患部に長く留まり効果を持続することができる。
また、本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物においては、ヨウ化物イオンがヨウ化銀ナノ粒子に吸着されることでヨウ化銀ナノ粒子の周囲に電気二重層が形成されており、その電気二重層が周囲に形成されたヨウ化銀ナノ粒子を水溶性高分子で保護する。さらに本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物に含有される有機酸および/またはその塩がヨウ化銀ナノ粒子の凝集を抑制する。よって、本実施形態によれば、含有されるヨウ化銀ナノ粒子の分散性に優れた細菌性皮膚病用殺菌組成物が得られる。ナノ粒子の状態でヨウ化銀粒子が分散していることで、少量でも効果的に殺菌効果が得られる。
また、本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物においては、例えば流動性を有する形態とすることができ、スプレーや、ローションなどの製品に応用する事ができる。
また、本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物において、有機酸および/または塩としてクエン酸などのオキシカルボン酸を含有することで、ヨウ化銀ナノ粒子が再凝集するのをより抑制することができるため、より長期間、性能を維持することができる。
【0027】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
0.8Mのヨウ化カリウム溶液320 mL(純度KI 99%(和光純薬製))に対し、ポリビニルピロリドン(Across organics製、分子量3500)を1wt%、さらに、クエン酸(純度98%(和光純薬製))を0.02 wt%添加し、完全溶解するまで攪拌した。別の容器に、0.5Mの硝酸銀溶液50 mL(純度99.8%(和光純薬製))を、遮蔽容器内で作製した。上記2つの溶液を瞬時に攪拌混合し、実施例1の細菌性皮膚病用殺菌組成物を得た。上記2つの溶液の混合割合は、組成物におけるヨウ化銀ナノ粒子中に含有される銀と組成物中にイオンとして存在しているヨウ化物イオンとのモル比が1:1になるように、混合するときにおける銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率を1:2として設定した。ここで、得られた細菌性皮膚病用殺菌組成物に含まれるヨウ化銀ナノ粒子の粒子径をゼータ電位・粒経測定システム(大塚電子製、レーザードップラー法(動的・電気泳動光散乱法))により測定したところ、この時の平均粒子径は80.0nmであった。なお、ここでいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。
【0029】
(実施例2)
銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率が1:5となる混合比率(得られる組成物のヨウ化銀ナノ粒子中に含有される銀と得られる組成物中にイオンとして存在しているヨウ化物イオンとのモル比(理論値)は1:4)とした以外は実施例1と同じ方法で細菌性皮膚病用殺菌組成物を得た。含有されるヨウ化銀ナノ粒子の平均粒子径は27.3nmであった。
【0030】
(実施例3)
銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率が1:10となる混合比率(得られる組成物のヨウ化銀ナノ粒子中に含有される銀と得られる組成物中にイオンとして存在しているヨウ化物イオンとのモル比(理論値)は1:9)とした以外は実施例1と同じ方法で細菌性皮膚病用殺菌組成物を得た。含有されるヨウ化銀ナノ粒子の平均粒子径は4.2nmであった。さらに、この実施例3のヨウ化銀ナノ粒子組成物を透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM-2100)を用いて観察した。その写真を
図1に示す。
【0031】
(実施例4)
実施例3で得られた細菌性皮膚病用殺菌組成物を1.0wt%、ヨウ化カリウム(純度KI 99%(和光純薬製))0.5wt%、クエン酸1水和物(純度98%(和光純薬製))1.0wt%、ポリビニルピロリドン(Across organics製、分子量3500)0.1wt%、残りは純水としてこれらを混合し、ヨウ化銀の割合が実施例1〜3の組成物よりも低い組成物を作成した。この組成物の銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率(実施例3の溶液混合時における銀イオン:実施例3の溶液混合時におけるヨウ化物イオンおよび実施例4で新たに添加されたヨウ化カリウム由来のヨウ化物イオンの和)は1:56であった。得られる組成物のヨウ化銀ナノ粒子中に含有される銀と得られる組成物中にイオンとして存在しているヨウ化物イオンとのモル比(理論値)は1:55である。また、含有されるヨウ化銀ナノ粒子の平均粒子径は3.8nmであった。
【0032】
(実施例5)
実施例3で得られた細菌性皮膚病用殺菌組成物を1.0wt%、ヨウ化カリウム(純度KI 99%(和光純薬製))1.0wt%、クエン酸1水和物(純度98%(和光純薬製))0.5wt%、ポリビニルピロリドン(Across organics製、分子量3500)0.1wt%、残りは純水としてこれらを混合し、ヨウ化銀の割合が実施例1〜4の組成物よりも低い組成物を作成した。この組成物の銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率(実施例3の溶液混合時における銀イオン:実施例3の溶液混合時におけるヨウ化物イオンおよび実施例5で新たに添加されたヨウ化カリウム由来のヨウ化物イオンの和)は1:100であった。得られる組成物のヨウ化銀ナノ粒子中に含有される銀と得られる組成物中にイオンとして存在しているヨウ化物イオンとのモル比(理論値)は1:99である。また、含有されるヨウ化銀ナノ粒子の平均粒子径は2.5nmであった。
【0033】
(実施例6)
実施例3で得られた細菌性皮膚病用殺菌組成物を0.3wt%、ヨウ化カリウム(純度KI 99%(和光純薬製))3.0wt%、クエン酸1水和物(純度98%(和光純薬製))0.1wt%、残りは純水としてこれらを混合し、ヨウ化銀の割合が実施例1〜5の組成物よりも低い組成物を作成した。この組成物の銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率(実施例3の溶液混合時における銀イオン:実施例3の溶液混合時におけるヨウ化物イオンおよび実施例6で新たに添加されたヨウ化カリウム由来のヨウ化物イオンの和)は1:800であった。得られる組成物のヨウ化銀ナノ粒子中に含有される銀と得られる組成物中にイオンとして存在しているヨウ化物イオンとのモル比(理論値)は1:799である。また、含有されるヨウ化銀ナノ粒子の平均粒子径は1.3nmであった。
【0034】
(比較例1)
ヨウ化カリウム(純度KI 99%(和光純薬製))0.5wt%、クエン酸1水和物(純度98%(和光純薬製))1.0wt%、ポリビニルピロリドン(Across organics製、分子量3500)0.1wt%、残りは純水としてこれらを混合し、ヨウ化銀を含まない溶液を作成した。
【0035】
(比較例2)
実施例1と同様にヨウ化カリウム溶液を作製し、別の容器に5Mの硝酸銀溶液を遮蔽容器内で作製した。上記溶液を、銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率が1:1になるよう攪拌混合し、ヨウ化銀ナノ粒子組成物を得た。この時の平均粒子径は180.8nmであった。
【0036】
(比較例3)
実施例1と同様にヨウ化カリウム溶液を作製し、別の容器に10Mの硝酸銀溶液を遮蔽容器内で作製した。上記溶液を、銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率が2:1になるよう攪拌混合し、ヨウ化銀ナノ粒子組成物を得た。この時の平均粒子径は626.9nmであった。また、得られたヨウ化銀ナノ粒子組成物は合成後、すぐ粒子が沈殿してしまった。
【0037】
(比較例4)
実施例3で得られた細菌性皮膚病用殺菌組成物を0.1wt%、ヨウ化カリウム(純度KI 99%(和光純薬製))1.4wt%、クエン酸1水和物(純度98%(和光純薬製))0.1wt%、残りは純水としてこれらを混合し、ヨウ化銀の割合が実施例の組成物よりも低い組成物を作成した。この組成物の銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率(実施例3の溶液混合時における銀イオン:実施例3の溶液混合時におけるヨウ化物イオンおよび比較例4で新たに添加されたヨウ化カリウム由来のヨウ化物イオンの和)は1:1250であった。ヨウ化銀ナノ粒子の存在は確認できなかった。
【0038】
(殺菌試験方法)
実施例、比較例の各組成物0.1mLと、大腸菌(Escherichia coli)、黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus)、または膿皮症症例犬から分離したStaphylococcus pseudintermediusメチシリン耐性株の菌懸濁液各0.1mLとをそれぞれ混合し、試験用のサンプルとした。各サンプルをマイクロチューブローテーターを用いて攪拌しながら、室温で5分間反応を行った。5分攪拌後、菌と各組成物に由来する化合物との反応を停止させるためにSCDLP培地を1mL加えた。その後、各サンプルをSCDLP培地を用いて10
2〜10
5に希釈し(10段階希釈)、1mLシャーレに塗布し、溶解したNB寒天培地と混和し、37℃培養を行った。形成されたコロニー数(CFU/1mL,Log10)((CFU:colony-forming unit))を算出することで、各組成物の各細菌に対する殺菌性を評価した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
以上の結果より、実施例1〜5の細菌性皮膚病用殺菌組成物はいずれの細菌においても検出限界値以下という高い殺菌性を示すことが確認できた。また、実施例6においても検出限界値以下ではなかったものの、99.99%と高い殺菌性を示すことが確認できた。一方、有効成分であるヨウ化銀を含まない比較例1やヨウ化銀ナノ粒子が沈殿してしまった比較例3では、ほとんど殺菌効果がなく、比較例2でも殺菌効果が低かった。これらの結果から、本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物は、通常の常在菌だけでなく、抗生剤耐性菌についても高い効果があることが確認できた。
【0041】
(実施例7)
実施例3で得られた細菌性皮膚病用殺菌組成物を1.0wt%、ヨウ化カリウム(純度KI 99%(和光純薬製))0.5wt%、クエン酸1水和物(純度98%(和光純薬製))1.0wt%、ポリビニルピロリドン(Across organics製、分子量3500)0.1wt%、界面活性剤(日本エマルジョン製EMALEX GWIS-120)0.01wt%、残りは純水とし、銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率が実施例4の組成物と同じである組成物を作成した。この組成物の銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率(実施例3の溶液混合時における銀イオン:実施例3の溶液混合時におけるヨウ化物イオンおよび実施例7で新たに添加されたヨウ化カリウム由来のヨウ化物イオンの和)は1:56であった。得られる組成物のヨウ化銀ナノ粒子中に含有される銀と得られる組成物中にイオンとして存在しているヨウ化物イオンとのモル比(理論値)は1:55である。また、含有されるヨウ化銀ナノ粒子の平均粒子径は3.8nmであった。
【0042】
(実施例8)
実施例3で得られた細菌性皮膚病用殺菌組成物を1.0wt%、ヨウ化カリウム(純度KI 99%(和光純薬製))1.0wt%、クエン酸1水和物(純度98%(和光純薬製))0.5wt%、ポリビニルピロリドン(Across organics製、分子量3500)0.1wt%、界面活性剤(日本エマルジョン製EMALEX GWIS-160)0.01wt%、残りは純水とし、銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率が実施例5の組成物と同じである組成物を作成した。この組成物の銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率(実施例3の溶液混合時における銀イオン:実施例3の溶液混合時におけるヨウ化物イオンおよび実施例8で新たに添加されたヨウ化カリウム由来のヨウ化物イオンの和)は1:100であった。得られる組成物のヨウ化銀ナノ粒子中に含有される銀と得られる組成物中にイオンとして存在しているヨウ化物イオンとのモル比(理論値)は1:99である。また、含有されるヨウ化銀ナノ粒子の平均粒子径は2.5nmであった。
【0043】
(実施例9)
実施例3で得られた細菌性皮膚病用殺菌組成物を0.3wt%、ヨウ化カリウム(純度KI 99%(和光純薬製))3.0wt%、クエン酸1水和物(純度98%(和光純薬製))0.1wt%、界面活性剤(日本エマルジョン製PYROTER CPI60)0.01wt%、残りは純水とし、銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率が実施例6の組成物と同じである組成物を作成した。この組成物の銀イオン:ヨウ化物イオンのモル比率(実施例3の溶液混合時における銀イオン:実施例3の溶液混合時におけるヨウ化物イオンおよび実施例9で新たに添加されたヨウ化カリウム由来のヨウ化物イオンの和)は1:800であった。得られる組成物のヨウ化銀ナノ粒子中に含有される銀と得られる組成物中にイオンとして存在しているヨウ化物イオンとのモル比(理論値)は1:799である。また、含有されるヨウ化銀ナノ粒子の平均粒子径は1.3nmであった。
【0044】
(動物皮膚を用いた殺菌性試験方法)
次に、実際の動物の皮膚を用いた殺菌性試験を行った。動物の皮膚としてはウサギの毛皮を用いた。
プラスチックシャーレに直系約3cmにカットしたウサギの毛皮を置き、その上から、膿皮症症例犬から分離したStaphylococcus pseudintermediusメチシリン耐性株の菌懸濁液(菌数:10
7.19 個/mL)各0.5mLを滴下した。1時間静置することで菌液の乾燥を行い、菌が付着した動物皮膚を作成した。吐出量0.15mlのスプレー容器に実施例の各組成物を入れ、菌が付着した動物皮膚上にスプレー噴霧を3回行い、37℃の恒温槽で6時間静置を行った。6時間後、SCDLP培地を10mL加え、菌の洗い出しを行った。その後、各サンプルをSCDLP培地を用いて10
2〜10
5に希釈し(10段階希釈)、シャーレに1mL入れ、溶解したNB寒天培地と混和し、37℃培養を行った。形成されたコロニー数(Log CFU)((CFU:colony-forming unit))を算出することで、動物皮膚上における各組成物の殺菌性を評価した。結果を表2に示す。なお、コントロールは、スプレー噴霧を行わず、菌を付着させた動物皮膚を37℃の恒温槽で6時間静置を行った後、動物皮膚上に存在していた菌数である。
【0045】
【表2】
【0046】
以上の結果より、実際に動物の皮膚を用いての殺菌試験では、実施例4〜6の組成物の殺菌性が99.996%〜99.999%であったのに対し、界面活性剤の入った実施例7〜9の組成物の殺菌性は検出限界値以下、あるいは99.9998%とより高い殺菌性を示すことが確認できた。実際の動物の皮膚は皮脂成分に覆われているため、界面活性剤を添加することで、皮膚への浸透性がより向上したと考えられる。これらの結果より、本実施形態の細菌性皮膚病用殺菌組成物は、実際の動物の皮膚においても高い殺菌性を示すことが確認できた。