(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579973
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】EGRクーラの冷却効率回復方法及び装置
(51)【国際特許分類】
F02M 26/28 20160101AFI20190912BHJP
F28G 9/00 20060101ALI20190912BHJP
F28D 7/16 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
F02M26/28
F28G9/00 Z
F28D7/16 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-21494(P2016-21494)
(22)【出願日】2016年2月8日
(65)【公開番号】特開2017-141673(P2017-141673A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2018年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 雅俊
【審査官】
齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−133580(JP,A)
【文献】
特開2010−133287(JP,A)
【文献】
特開2012−177375(JP,A)
【文献】
特開2015−001201(JP,A)
【文献】
特開2011−132852(JP,A)
【文献】
特開2014−222034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/28
26/50
F28D 7/16
F28G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブと、該チューブを包囲するシェルとを備え、該シェルの内部に冷却水を給排し且つ前記チューブ内に排気ガスを通して該排気ガスと前記冷却水とを熱交換するようにしたEGRクーラの冷却効率回復方法であって、前記EGRクーラへの排気ガスの流通を停止すると共に、常温以下で貯留しておいた冷却水を前記EGRクーラに対し一時的に切り換えて導入することを特徴とするEGRクーラの冷却効率回復方法。
【請求項2】
チューブと、該チューブを包囲するシェルとを備え、該シェルの内部に冷却水を給排し且つ前記チューブ内に排気ガスを通して該排気ガスと前記冷却水とを熱交換するようにしたEGRクーラの冷却効率回復装置であって、前記EGRクーラへの排気ガスの流通を停止し得るEGRバルブと、常温以下で冷却水を貯留し得る水タンクとを備え、該水タンクに常温以下で貯留しておいた冷却水を前記EGRクーラに対し一時的に切り換えて導入し得るように構成したことを特徴とするEGRクーラの冷却効率回復装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGRクーラの冷却効率回復方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より自動車等のエンジンの排気ガスの一部をエンジンに再循環して窒素酸化物の発生を低減させるEGR装置が知られているが、このようなEGR装置では、エンジンに再循環する排気ガスを冷却すると、該排気ガスの温度が下がり且つその容積が小さくなることによって、エンジンの出力を余り低下させずに燃焼温度を低下して効果的に窒素酸化物の発生を低減させることができる為、エンジンに排気ガスを再循環するラインの途中に、排気ガスを冷却するEGRクーラを装備したものがある。
【0003】
図4は前記EGRクーラの一例を示す断面図であって、図中1は円筒状に形成されたシェルを示し、該シェル1の軸心方向両端には、シェル1の端面を閉塞するようプレート2,2が固着されていて、該各プレート2,2には、多数のチューブ3の両端が貫通状態で固着されており、これら多数のチューブ3はシェル1の内部を軸心方向に延びている。
【0004】
そして、シェル1の一方の端部近傍には、外部から冷却水入口管4が取り付けられ、シェル1の他方の端部近傍には、外部から冷却水出口管5が取り付けられており、給水パイプ9を通して導かれた冷却水10が冷却水入口管4からシェル1の内部に供給されてチューブ3の外側を流れ、冷却水出口管5から排水パイプ11を通してシェル1の外部に排出されるようになっている。
【0005】
更に、各プレート2,2の反シェル1側には、椀状に形成されたボンネット6,6が前記各プレート2,2の端面を被包するように固着され、一方のボンネット6の中央には排気ガス入口7が、他方のボンネット6の中央には排気ガス出口8が夫々設けられており、図示しない排気マニホールドから入側のEGRパイプ12を通して導いた排気ガス13が排気ガス入口7から一方のボンネット6の内部に入り、多数のチューブ3を通る間に該チューブ3の外側を流れる冷却水10との熱交換により冷却された後に、他方のボンネット6の内部に排出されて排気ガス出口8から出側のEGRパイプ14を通し図示しない吸気マニホールドへと再循環されるようになっている。尚、15は出側のEGRパイプ14に備えられたEGRバルブを示す。
【0006】
また、図中5aは冷却水入口管4に対しシェル1の直径方向に対峙する位置に設けたバイパス出口管を示しており、該バイパス出口管5aから冷却水10の一部を排水パイプ11aを通して抜き出すことにより、冷却水入口管4に対峙する箇所に冷却水10の澱みが生じないようにしてある。
【0007】
尚、この種のEGRクーラに関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−39019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、斯かるEGRクーラにおいては、高速高負荷の厳しい条件で連続運転を実施した場合に、煤分を多く含む排気ガス13がチューブ3内を通過することになるので、該チューブ3内に煤分が徐々に堆積して排気ガス13の冷却効率が下がり、これにより吸気マニホールドへ再循環される排気ガス13が体積的に大きくなって実質的なEGR率が下がる結果、EGRクーラの性能低下を招いてしまう虞れがあった。
【0010】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、高速高負荷の厳しい条件での連続運転により低下したEGRクーラの冷却効率を運転中に回復することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、チューブと、該チューブを包囲するシェルとを備え、該シェルの内部に冷却水を給排し且つ前記チューブ内に排気ガスを通して該排気ガスと前記冷却水とを熱交換するようにしたEGRクーラの冷却効率回復方法であって、前記EGRクーラへの排気ガスの流通を停止すると共に、常温以下で貯留しておいた冷却水を前記EGRクーラに対し一時的に切り換えて導入することを特徴とするものである。
【0012】
而して、このように排気ガスの流通が停止されたEGRクーラに対し常温以下の冷却水を強制的に導入すると、チューブ内が一時的に冷間状態まで温度低下して結露し、前記チューブの内周面の全周にわたり付着堆積していた煤分が凝縮水を含んで流れ落ち、前記各チューブの内周面における大半の部分が煤分による被覆状態から暴露状態へと戻され、EGRクーラの冷却効率が回復されることになる。
【0013】
また、本発明は、チューブと、該チューブを包囲するシェルとを備え、該シェルの内部に冷却水を給排し且つ前記チューブ内に排気ガスを通して該排気ガスと前記冷却水とを熱交換するようにしたEGRクーラの冷却効率回復装置であって、前記EGRクーラへの排気ガスの流通を停止し得るEGRバルブと、常温以下で冷却水を貯留し得る水タンクとを備え、該水タンクに常温以下で貯留しておいた冷却水を前記EGRクーラに対し一時的に切り換えて導入し得るように構成したことを特徴とするものでもある。
【0014】
而して、このようにすれば、EGRバルブによりEGRクーラへの排気ガスの流通を停止すると共に、水タンクに常温以下で貯留しておいた冷却水を前記EGRクーラに対し一時的に切り換えて導入することが可能となり、これによりチューブ内を一時的に冷間状態まで温度低下させて結露せしめ、前記チューブの内周面の全周にわたり付着堆積していた煤分を凝縮水を含ませて流れ落とし、前記各チューブの内周面における大半の部分を煤分による被覆状態から暴露状態へと戻し、EGRクーラの冷却効率を回復させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
上記した本発明のEGRクーラの冷却効率回復方法及び装置によれば、高速高負荷の厳しい条件での連続運転によりEGRクーラの冷却効率が低下したとしても、排気ガスの流通が停止されたEGRクーラに対し常温以下の冷却水を強制的に導入することにより、チューブ内を一時的に冷間状態まで温度低下させて結露せしめ、前記チューブの内周面の全周にわたり付着堆積していた煤分を凝縮水を含ませて流れ落とすことができるので、EGRクーラの冷却効率を運転中に回復することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【
図2】
図1の三方弁を切り換えた状態を示す概略図である。
【
図3】本形態例に関する試験結果を示すグラフである。
【
図4】一般的なEGRクーラの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1及び
図2は本発明を実施する形態の一例を示すもので、
図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、図中16は前述した
図4と略同様に構成したEGRクーラ、17は該EGRクーラ16を搭載したエンジンを示し、該エンジン17の冷却に使用している冷却水10の一部が抜き出されて給水パイプ9を介し前記EGRクーラ16のシェル1内に導かれるようになっているが、この給水パイプ9と並列にバイパス流路18が設けられており、該バイパス流路18の途中には、常温以下で冷却水10を貯留し得る水タンク19が装備されている。
【0019】
即ち、前記バイパス流路18は、前記給水パイプ9に対する合流部分に装備された三方弁20により冷却水10の流通が遮断されるようになっており、
図1に示す如く、常時は給水パイプ9が選択されてエンジン17からの冷却水10が前記EGRクーラ16のシェル1内に導かれるようになっているが、
図2に示す如く、前記三方弁20の切り換えにより前記バイパス流路18が選択されて冷却水10が前記水タンク19を経由して前記EGRクーラ16のシェル1内に導かれるようにもなっている。
【0020】
ここで、前記バイパス流路18を流れる冷却水10は、前記水タンク19の底部に導入され且つ該水タンク19の上部から抜き出されるようになっており、前記バイパス流路18が前記三方弁20により開通した初期の段階では、前記水タンク19内に貯留されていた常温以下の冷却水10が先行して送り出されるようになっている。
【0021】
また、前記水タンク19の側面には、空冷用のフィン21が多数形成されていて走行風等により内部の冷却水10が空冷されるようになっており、前記バイパス流路18が前記三方弁20により遮断されている間に、前記水タンク19内に貯留されている冷却水10が常温以下まで冷却されるようにしてある。
【0022】
尚、図中15はEGRクーラ16を経た排気ガス13を吸気系へ導くEGRパイプ14に備えられたEGRバルブを示し、該EGRバルブ15の閉操作により前記EGRクーラ16への排気ガス13の流通が停止されるようになっている。
【0023】
而して、高速高負荷の厳しい条件での連続運転によりチューブ3内に煤分が徐々に堆積して排気ガス13の冷却効率が下がってきた時に、EGRバルブ15の閉操作によりEGRクーラ16への排気ガス13の流通を停止すると共に、三方弁20の切り換えにより前記バイパス流路18を選択して冷却水10を前記水タンク19を経由させて流すと、前記水タンク19に常温以下で貯留しておいた冷却水10が前記EGRクーラ16のシェル1内に導入され、これによりチューブ3内が一時的に冷間状態まで温度低下して結露し、前記チューブ3の内周面の全周にわたり付着堆積していた煤分が凝縮水を含んで流れ落ち、前記各チューブ3の内周面における大半の部分が煤分による被覆状態から暴露状態へと戻され、EGRクーラ16の冷却効率が回復されることになる。
【0024】
ここで、
図1及び
図2には図示されていない排気管の途中にパティキュレートフィルタが搭載されている場合には、このパティキュレートフィルタの前段に備えた酸化触媒に対し燃料を添加して前記パティキュレートフィルタの強制再生を行う必要があるが、一般的に前記パティキュレートフィルタの強制再生時には、EGRバルブ15を閉じて排気ガスの再循環を中止した状態で行うことになるので、このタイミングでEGRクーラ16の回復を図るようにすれば効率的である。
【0025】
図3は本発明者が実際に行った試験結果を示すもので、エンジン負荷を高めて試験を開始してから数秒経過して安定状態となったt
0の時点でEGRクーラ16の冷却効率を初期値として計測すると、該EGRクーラ16の冷却効率は、時間の経過と共に初期値から徐々に低下してくるが、常温以下で貯留しておいた冷却水10を前記EGRクーラ16に対し一時的に切り換えて導入することで強制的に水温を下げた水温強制冷却運転を挟むと、t
0と同じ測定条件と看なし得るt
1の時点でEGRクーラ16の冷却効率が初期値まで回復するという優れた結果が得られた。
【0026】
ここで、常温以下で貯留しておいた冷却水10をEGRクーラ16に対し一時的に切り換えて導入するにあたってエンジン負荷を殆ど抜いているのは、試験の保安面からそのようにしているだけであり、実機への適用に際してエンジン負荷を抜く制御を伴うものではないことを付言しておく。
【0027】
ただし、本試験においては、水温強制冷却運転に合わせてエンジン負荷を殆ど抜いているので、水温強制冷却運転を挟んだ後でエンジン負荷を再び試験開始時のレベルまで高めてから数秒経過して安定状態となったt
1の時点をt
0の時点と同じ測定条件と看なすようにしている。
【0028】
尚、エンジン17の停止後に冷却水10の水温が冷間状態まで下がるとEGRクーラ16の冷却効率が回復するという現象は、本発明者の鋭意研究と鋭い洞察力により既に見いだされていたものであったが、これを運転中に強制的に再現してもEGRクーラ16の冷却効率が回復するという結果が得られることが本試験結果により検証された。
【0029】
従って、上記形態例によれば、高速高負荷の厳しい条件での連続運転によりEGRクーラ16の冷却効率が低下したとしても、排気ガス13の流通が停止されたEGRクーラ16に対し常温以下の冷却水10を強制的に導入することにより、チューブ3内を一時的に冷間状態まで温度低下させて結露せしめ、前記チューブ3の内周面の全周にわたり付着堆積していた煤分を凝縮水を含ませて流れ落とすことができるので、EGRクーラ16の冷却効率を運転中に回復することができる。
【0030】
尚、本発明のEGRクーラの冷却効率回復方法及び装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
1 シェル
3 チューブ
10 冷却水
13 排気ガス
15 EGRバルブ
16 EGRクーラ
17 エンジン
18 バイパス流路
19 水タンク