【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明は特許文献2等に記載される高活性セメントの関連発明であり、本発明者は、前記特許文献2や特許文献3に記載される高活性セメントクリンカにおいて、セメントクリンカ中の鉱物組成(特に、C
3S量とC
2S量とこれらの割合)と遊離石灰量を制御すれば安定した製造が可能で初期強度発現性や強度増進性が良いセメントが得られること、加えて、該セメントに特定量の石灰石微粉末を添加し前記セメントと石灰石微粉末からなるセメント組成物にすれば更なる強度増進が図れ、前記本願発明の目的が達成できることを見出し本願発明を完成させた。
【0018】
本願の請求項1に係る発明は、「ボーグ式により求めたC
3S量が60〜71%かつC
2S量が1%以上かつC
3SとC
2Sとの合量が70〜80%で、C
3S/C
2S量比が少なくとも5以上のクリンカ鉱物組成を有し、遊離石灰量が1.0〜4.0重量%のエーライト高含有クリンカに石膏を添加してなるセメントに、石灰石微粉末を内割で2〜10重量%添加したことを特徴とするセメント組成物」である。
【0019】
本願発明のセメント組成物は、セメントと石灰石微粉末とからなる。セメントはエーライト高含有クリンカに石膏を添加してなるものである。石膏は二水石膏や無水石膏など、従来からセメントの製造に用いられているものであれば、特に限定されない。
【0020】
石膏の添加量は、エーライト高含有クリンカに対しSO
3換算で1.5〜4.0重量%が好ましい。1.5重量%未満では水和初期における流動性や凝結性などのフレッシュ性状が悪くなり作業性に支障をきたす虞がある。また、4.0重量%を超えると材齢28日での強度増進効果が得難くなる場合がある。
【0021】
セメントの粉末度は特に限定されないが、ブレーン値で3500〜5500(cm
2/g)であるのが好ましい。粉末度は高い方が強度発現性が良いのは言うまでもないが、粉末度が高すぎると材齢28日までの強度増進が小さくなり、粉末度が低すぎると初期の材齢から強度が十分でなくなる。本願発明の目的を経済的に達成するには、前記ブレーン値を3500〜4500(cm
2/g)程度にするのが好ましい。
【0022】
エーライト高含有クリンカは、ボーグ式により求めたC
3S量が60〜71%かつC
2S量が1%以上かつC
3SとC
2Sとの合量が70〜80%で、C
3S/C
2S量比が少なくとも5以上といった特定のクリンカ鉱物組成を有するものである。このように、クリンカ中のC
3S量とC
2S量とのバランスを図ることによって、安定したクリンカ製造ができるとともに初期強度発現性や強度増進性の良いセメントが得られる。
【0023】
クリンカ中のC
3S量は60〜71%である。C
3S量が60%未満では水和初期における良好なフレッシュ性状を有するとともに初期強度発現性や強度増進性が良いセメントが得難くなり、場合によっては材齢28日での強度も十分に確保し難くなる。
【0024】
また、71重量%を超えると相対的にC
2S量や間隙質相(アルミネート相)の量が少なくなるため、焼成方法によっては安定したクリンカ製造がし難くなる虞がある。
【0025】
クリンカ中のC
2S量は1%以上である。C
2S量が1%未満では間隙質相(アルミネート相)の量が過剰となり前記フレッシュ性状や強度増進性が悪くなる場合がある。また、強度増進性が小さくなり材齢28日での強度が小さくなる場合がある。
【0026】
クリンカ中の上記C
3Sと上記C
2Sとの合量は70〜80%である。70%未満だと相対的に間隙質相(アルミネート相)の量が多くなるため、フレッシュ性状が悪くなったり強度増進性が悪く材齢28日での強度が十分に確保できなる場合がある。
【0027】
また、80%を超えると相対的に間隙質相(アルミネート相)の量が少なくなりすぎて、焼成方法によっては安定したクリンカ製造がし難くなったり十分な初期強度が得られなくなったりする。
【0028】
クリンカ中のC
3S/C
2S量比は強度、強度増進性などの点から重要であり、本願発明ではC
3S/C
2S量比が少なくとも5以上である。5未満だと相対的にC
2S量が多くなるため強度発現性が不十分なものになってしまう。
【0029】
本願発明では、初期強度発現性および強度増進性が良く材齢28日での強度も十分に確保できることを目的とする。具体的には、JIS R 5201に準拠した圧縮強度試験におけるモルタルの材齢3日強度が35〜40N/mm
2の場合は材齢3日強度に対して材齢28日強度比が1.50以上、材齢3日強度が40N/mm
2を超える場合は材齢3日強度に対して材齢28日強度比が1.35以上となることを目標とし良否判断の基準としている。
【0030】
したがって、本願明細書で言う「十分な初期強度」とは材齢3日での上記数値を満たすものであり、「材齢28日での強度も十分な確保」とは材齢3日に対する材齢28日の強度比での上記数値を満たすものである。
【0031】
クリンカ中の遊離石灰量はクリンカの安定した製造、初期強度の確保、C
3Sの水和活性を高めるための刺激剤などの観点から重要であり、しっかりと制御する必要がある。1.0〜4.0重量%にすれば前記観点における各性能が得られ、前記本願発明の目的の達成が容易となる。
【0032】
本願発明のセメント組成物は、前述の通り、上記セメントに石灰石微粉末を内割で2〜10重量%添加し混合してなるものである。この範囲で石灰石微粉末を添加することによって強度増進、安定した初期水和性状が図れる。2重量%未満では十分な添加効果が得られない。また、10重量%を超えると添加量が増えるとともに強度増進性は悪くなる。石灰石の積極的な利用、石灰石微粉末の効果的添加量などの観点からは、2.5〜7.5重量%とするのが好ましい。
【0033】
一般に、石灰石微粉末の強度に対する効果は、材齢3日または材齢7日において強度が上昇して材齢28日においては石灰石微粉末の強度増加の効果が小さい。本願発明では、前述のような特定のクリンカを用いたセメントでも石灰石微粉末を特定量添加することにより材齢28日での強度増進が図れることを見出した。
【0034】
石灰石微粉末は、従来からセメント組成物やセメント混和材やコンクリートの構成材料として用いられているものであれば特に限定されない。石灰石微粉末の粉末度は、ブレーン値で2000〜10000(cm
2/g)であるのが好ましい。この範囲にすることによって本願発明の効果がより発揮される。
【0035】
本願発明のセメント組成物は、上記セメントと上記石灰石微粉末の二つの原材料のみからなるものでも十分に前記本願発明の目的を達成できるが、強度に著しい悪影響を与えなければ、必要に応じて、高炉スラグやフライアッシュなどの第三成分を含ませることができる。
【0036】
本願の請求項2に係る発明は、「前記エーライト高含有クリンカにおいて、ボーグ式により求めたC
2S量が1〜15%のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物」である。
【0037】
前述の通り、C
2Sはフレッシュ性状、強度増進性、安定したクリンカ製造などの観点からクリンカ中にある程度の量が必要であるが、15%を超えるのは好ましくない。15%を超えると、相対的にC
3S量及び/又は間隙質相(アルミネート相)の量が減るため、初期〜中期の強度発現性が悪くなり、前記本願発明の目的が達成できなくなる場合がある。
【0038】
より好ましい量は4〜10%である。この範囲にすれば経済的かつ安定したクリンカ製造ができ強度発現性も前記本願発明の目的を達したものとなる。
【0039】
本願の請求項3に係る発明は、「前記エーライト高含有クリンカにおいて、C
3S/C
2S量比が5〜55のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント組成物」である。
【0040】
前述の通り、前記本願発明の目的を達成する上でC
3S/C
2S量比(C
3S量とC
2S量のバランス)は重要であり、少なくとも5以上にする必要があるが、5〜55が好ましく、より好ましくは7〜20である。C
3S量とC
2S量とのバランスが良ければ、クリンカ製造がし易くなるとともに、材齢3日と28日での前記目標強度の確保ができ、更に長期強度の伸びも期待できる。
【0041】
本願の請求項4に係る発明は、「前記エーライト高含有クリンカにおいて、ボーグ式により求めたC
3A量が8〜12%かつC
4AF量が7〜10%かつC
3AとC
4AFの合量が18〜19%で、C
3A/C
4AF量比が0.9〜1.5のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載するセメント組成物」である。
【0042】
上述の通り、本願発明ではC
3S量やC
2S量は重要であるが、初期強度を確保するとともに前記石灰石微粉末の添加効果を効果的に引き出す上で、クリンカ中のC
3A量やC
4AF量を制御しておくことは好ましい。
【0043】
前記エーライト高含有クリンカにおいて、C
3A量は8〜12%が好ましい。C
3A量が8%未満では、気温や混練水の水温が低いなど、本願発明のセメント組成物の使用環境によっては、初期強度が容易に確保し難くなる場合がある。また、12%を超えると、気温や混練水の水温が高いなど、本願発明のセメント組成物の使用環境によっては、前記フレッシュ性状が悪くなり作業性に支障をきたす虞が生じる。
【0044】
前記エーライト高含有クリンカにおいて、C
4AF量は7〜10%が好ましい。C
4AF量が7%未満だと間隙質相が少なくなってクリンカ製造がし難くなる場合がある。また、10%を超えると相対的にC
3A量が減って、気温や混練水の水温が低いなど、本願発明のセメント組成物の使用環境によっては、初期強度が容易に確保し難くなる場合がある。
【0045】
また、上記C
3Aと上記C
4AFの合量は18〜19%であるのが好ましい。この範囲にすれば、エーライト(C
3S)が高含有であってもクリンカ製造が容易になるとともに、前記セメントに対する前記石灰石微粉末の添加効果が効果的となる。
【0046】
更に、前記エーライト高含有クリンカにおいて、C
3A/C
4AF量比は0.9〜1.5であるのが好ましい。C
3A量とC
4AF量とのバランスをこの範囲にすることによって、所定のC
3A量を確保しつつ安定したクリンカ製造ができる。
【0047】
本願の請求項5に係る発明は、「前記請求項1〜4のいずれか一項に記載のセメント組成物であって、該セメント組成物は、前記セメントと前記石灰石微粉末の二つの原材料のみからなることを特徴とするセメント組成物」である。
【0048】
前述の通り、本願発明のセメント組成物は、強度発現性を阻害するものでなければ、必要に応じて第三成分を含むことができるが、本願発明は、前記セメントと前記石灰石微粉末の二つの原材料(構成材料)だけで前記本願発明の目的を達成することができる点に特徴を有する。
【0049】
したがって、特許文献3のセメント組成物のように複数の無機混和材を用いないで済む分、製造が簡便になるとともにコスト面でも優位なものになる。また、この本願発明では、セメント組成物の原材料(構成材料)が少ないので、複数の無機混和材を用いたセメント組成物に比べ、均一な性能を有するものが得られ易い。
【0050】
また、一般的に使用されている普通セメントなどのセメントの代替として用いるのであれば、前記セメント組成物に敢えて第三成分を添加する必要はなく、従来の普通セメントと同様の感覚で使用できる。したがって、本願発明のこのセメント組成物は、土木、建築、地盤改良等の各分野で使用されている普通セメントの代替として汎用性の高いものである。