特許第6579977号(P6579977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579977
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】セメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/02 20060101AFI20190912BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   C04B7/02
   C04B14/28
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-37040(P2016-37040)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-154904(P2017-154904A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】592037907
【氏名又は名称】株式会社デイ・シイ
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】二戸 信和
(72)【発明者】
【氏名】安藝 朋子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 修
(72)【発明者】
【氏名】弥栄 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】星野 清一
(72)【発明者】
【氏名】平尾 宙
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−47153(JP,A)
【文献】 米国特許第5584926(US,A)
【文献】 特開2013−47154(JP,A)
【文献】 特開2012−197197(JP,A)
【文献】 特開2014−97918(JP,A)
【文献】 特開2012−91992(JP,A)
【文献】 特開2012−224504(JP,A)
【文献】 特開2012−240856(JP,A)
【文献】 特開2007−186360(JP,A)
【文献】 特開2017−95300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 − 32/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーグ式により求めたCS量が60〜71%かつCS量が1%以上かつCSとCSとの合量が70〜80%で、CS/CS量比が少なくとも5以上のクリンカ鉱物組成を有し、遊離石灰量が1.0〜4.0重量%のエーライト高含有クリンカに石膏を添加してなるセメントに、石灰石微粉末を内割で2〜10重量%添加したことを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
前記エーライト高含有クリンカにおいて、ボーグ式により求めたCS量が1〜15%のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記エーライト高含有クリンカにおいて、CS/CS量比が5〜55のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記エーライト高含有クリンカにおいて、ボーグ式により求めたCA量が8〜12%かつCAF量が7〜10%かつCAとCAFの合量が18〜19%で、CA/CAF量比が0.9〜1.5のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載するセメント組成物。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれか一項に記載のセメント組成物であって、該セメント組成物は、前記セメントと前記石灰石微粉末の二つの原材料のみからなることを特徴とするセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンクリートやモルタルのセメント、地盤改良材における固化材などとして好適に使用できる初期強度発現性、強度増進性の良好なセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、目的に応じて高炉セメントやフライアッシュセメントといった各種混合セメントが開発され使用されてきている。また、目的に応じた強度発現性や流動性などを得るべく、普通ポルトランドセメントなどのベースセメントに高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、石灰石微粉末などのセメント混和材を混和した各種セメント組成物が開発され使用されてきている。
【0003】
特に、近年は、セメントおよびコンクリート分野におけるCO削減、産業副産物の処理や再利用といった環境負荷低減の観点から、高炉スラグ微粉末やフライアッシュなどの産業副産物の資源としての有効利用を図った混合セメントやセメント組成物の検討が注目されている。
【0004】
しかし、ベースセメントとして普通ポルトランドセメントあるいはこれと同等の強度発現性を示すセメントを使用した上記混合セメントやセメント組成物では、高炉スラグ微粉末やフライアッシュなど、混和材の種類によっては混和によって十分な初期強度が得られなくなるといった問題が生じた。
【0005】
そのため、シリカフュームなどの活性シリカ粉、炭酸カリウム等の強度増進剤の併用による解決が図られてきたが、強度発現性は改善されるものの、凝結性、流動性、乾燥収縮などの他の性能、コストなどの面で新たな問題が生ずる場合もあり、必ずしも有効な解決策にはなっていない。
【0006】
強度発現性の良いセメントとして早強ポルトランドセメントが知られているが、普通ポルトランドセメントに比べ価格、供給等の面で実用性に欠けるため、これをベースセメントとして用いた混合セメントやセメント組成物はあまり用いられていない。
【0007】
最近では、ベースセメントを構成するセメントクリンカに立ち返って、該セメントクリンカの鉱物組成に着目した検討もなされている。
【0008】
例えば、特許文献1には、ボーグ式により算出されたCS量が60%以上の高CSかつ低CSのセメントクリンカに石膏と全組成物当たり5質量%の石灰石を含む水硬性組成物が記載されている。そして、石灰石を配合することにより、配合しない場合に比べて良好な強さ発現を示すことが記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、セメントクリンカの鉱物組成がボーグ式による計算値でCS>70%、CS<5%、該セメントクリンカ中の遊離石灰量が0.5〜7.5重量%の高活性セメントクリンカと、該高活性セメントクリンカに石膏をSO換算で1.5〜4.0重量%となるように添加してなる高活性セメントが記載されている。
【0010】
また、特許文献3には、ボーグ式による計算値の鉱物組成がCS>70%かつCS<5%で遊離石灰量が0.5〜7.5重量%の高活性セメントクリンカに石膏をSO換算で1.5〜4.0重量%となるように添加してなる高活性セメント60〜97重量%と、高炉スラグ、無水石膏、石灰石微粉末、ポゾラン物質のうちの一種以上からなる無機混和材3〜40重量%とからなる中性化抑制型早強セメント組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2014−97918号公報
【特許文献2】特許第5747407号公報
【特許文献3】特許第5818579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載される水硬性組成物は、CS量が60%以上の高CSかつ低CSのセメントクリンカによるものであり石灰石を配合することによって更に強度は増しある程度の強度は確保されるものの、普通ポルトランドセメントと比べ材齢3日での初期強度は高くなく材齢28日での強度も十分に確保されているとは言えない。材齢3日または7日強度は、間隙質相が多く間隙質相と石灰石の水和反応により増加したが、材齢28日での強度は増加するとは言えない。
【0013】
また、特許文献2や特許文献3に記載される高活性セメントクリンカを用いたセメントは、材齢3日での初期強度は確保できるものの、クリンカ中のCS量が1%未満と著しく少なかったり遊離石灰量が5重量%以上と多目であるため、材齢7日以降の強度の増加が十分ではなく材齢28日での強度が十分に高いとは言えない。
【0014】
また、特許文献3に記載されるセメント組成物は、材齢28日でのポゾラン反応等が緩慢である混和材によっては材齢28日の強度が十分に確保できなくなる可能性がある。
【0015】
更に、特許文献2や特許文献3に記載される高活性セメントクリンカは、遊離石灰量が5重量%以上と多目であることから焼成方法によっては安定した製造が難しくなる恐れがある。
【0016】
本願発明は、上述のような課題を鑑みてなしたものであり、初期強度発現性および強度増進性が良く材齢28日での強度も十分に確保できるセメント(セメント組成物)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明は特許文献2等に記載される高活性セメントの関連発明であり、本発明者は、前記特許文献2や特許文献3に記載される高活性セメントクリンカにおいて、セメントクリンカ中の鉱物組成(特に、CS量とCS量とこれらの割合)と遊離石灰量を制御すれば安定した製造が可能で初期強度発現性や強度増進性が良いセメントが得られること、加えて、該セメントに特定量の石灰石微粉末を添加し前記セメントと石灰石微粉末からなるセメント組成物にすれば更なる強度増進が図れ、前記本願発明の目的が達成できることを見出し本願発明を完成させた。
【0018】
本願の請求項1に係る発明は、「ボーグ式により求めたCS量が60〜71%かつCS量が1%以上かつCSとCSとの合量が70〜80%で、CS/CS量比が少なくとも5以上のクリンカ鉱物組成を有し、遊離石灰量が1.0〜4.0重量%のエーライト高含有クリンカに石膏を添加してなるセメントに、石灰石微粉末を内割で2〜10重量%添加したことを特徴とするセメント組成物」である。
【0019】
本願発明のセメント組成物は、セメントと石灰石微粉末とからなる。セメントはエーライト高含有クリンカに石膏を添加してなるものである。石膏は二水石膏や無水石膏など、従来からセメントの製造に用いられているものであれば、特に限定されない。
【0020】
石膏の添加量は、エーライト高含有クリンカに対しSO換算で1.5〜4.0重量%が好ましい。1.5重量%未満では水和初期における流動性や凝結性などのフレッシュ性状が悪くなり作業性に支障をきたす虞がある。また、4.0重量%を超えると材齢28日での強度増進効果が得難くなる場合がある。
【0021】
セメントの粉末度は特に限定されないが、ブレーン値で3500〜5500(cm/g)であるのが好ましい。粉末度は高い方が強度発現性が良いのは言うまでもないが、粉末度が高すぎると材齢28日までの強度増進が小さくなり、粉末度が低すぎると初期の材齢から強度が十分でなくなる。本願発明の目的を経済的に達成するには、前記ブレーン値を3500〜4500(cm/g)程度にするのが好ましい。
【0022】
エーライト高含有クリンカは、ボーグ式により求めたCS量が60〜71%かつCS量が1%以上かつCSとCSとの合量が70〜80%で、CS/CS量比が少なくとも5以上といった特定のクリンカ鉱物組成を有するものである。このように、クリンカ中のCS量とCS量とのバランスを図ることによって、安定したクリンカ製造ができるとともに初期強度発現性や強度増進性の良いセメントが得られる。
【0023】
クリンカ中のCS量は60〜71%である。CS量が60%未満では水和初期における良好なフレッシュ性状を有するとともに初期強度発現性や強度増進性が良いセメントが得難くなり、場合によっては材齢28日での強度も十分に確保し難くなる。
【0024】
また、71重量%を超えると相対的にCS量や間隙質相(アルミネート相)の量が少なくなるため、焼成方法によっては安定したクリンカ製造がし難くなる虞がある。
【0025】
クリンカ中のCS量は1%以上である。CS量が1%未満では間隙質相(アルミネート相)の量が過剰となり前記フレッシュ性状や強度増進性が悪くなる場合がある。また、強度増進性が小さくなり材齢28日での強度が小さくなる場合がある。
【0026】
クリンカ中の上記CSと上記CSとの合量は70〜80%である。70%未満だと相対的に間隙質相(アルミネート相)の量が多くなるため、フレッシュ性状が悪くなったり強度増進性が悪く材齢28日での強度が十分に確保できなる場合がある。
【0027】
また、80%を超えると相対的に間隙質相(アルミネート相)の量が少なくなりすぎて、焼成方法によっては安定したクリンカ製造がし難くなったり十分な初期強度が得られなくなったりする。
【0028】
クリンカ中のCS/CS量比は強度、強度増進性などの点から重要であり、本願発明ではCS/CS量比が少なくとも5以上である。5未満だと相対的にCS量が多くなるため強度発現性が不十分なものになってしまう。
【0029】
本願発明では、初期強度発現性および強度増進性が良く材齢28日での強度も十分に確保できることを目的とする。具体的には、JIS R 5201に準拠した圧縮強度試験におけるモルタルの材齢3日強度が35〜40N/mmの場合は材齢3日強度に対して材齢28日強度比が1.50以上、材齢3日強度が40N/mmを超える場合は材齢3日強度に対して材齢28日強度比が1.35以上となることを目標とし良否判断の基準としている。
【0030】
したがって、本願明細書で言う「十分な初期強度」とは材齢3日での上記数値を満たすものであり、「材齢28日での強度も十分な確保」とは材齢3日に対する材齢28日の強度比での上記数値を満たすものである。
【0031】
クリンカ中の遊離石灰量はクリンカの安定した製造、初期強度の確保、CSの水和活性を高めるための刺激剤などの観点から重要であり、しっかりと制御する必要がある。1.0〜4.0重量%にすれば前記観点における各性能が得られ、前記本願発明の目的の達成が容易となる。
【0032】
本願発明のセメント組成物は、前述の通り、上記セメントに石灰石微粉末を内割で2〜10重量%添加し混合してなるものである。この範囲で石灰石微粉末を添加することによって強度増進、安定した初期水和性状が図れる。2重量%未満では十分な添加効果が得られない。また、10重量%を超えると添加量が増えるとともに強度増進性は悪くなる。石灰石の積極的な利用、石灰石微粉末の効果的添加量などの観点からは、2.5〜7.5重量%とするのが好ましい。
【0033】
一般に、石灰石微粉末の強度に対する効果は、材齢3日または材齢7日において強度が上昇して材齢28日においては石灰石微粉末の強度増加の効果が小さい。本願発明では、前述のような特定のクリンカを用いたセメントでも石灰石微粉末を特定量添加することにより材齢28日での強度増進が図れることを見出した。
【0034】
石灰石微粉末は、従来からセメント組成物やセメント混和材やコンクリートの構成材料として用いられているものであれば特に限定されない。石灰石微粉末の粉末度は、ブレーン値で2000〜10000(cm/g)であるのが好ましい。この範囲にすることによって本願発明の効果がより発揮される。
【0035】
本願発明のセメント組成物は、上記セメントと上記石灰石微粉末の二つの原材料のみからなるものでも十分に前記本願発明の目的を達成できるが、強度に著しい悪影響を与えなければ、必要に応じて、高炉スラグやフライアッシュなどの第三成分を含ませることができる。
【0036】
本願の請求項2に係る発明は、「前記エーライト高含有クリンカにおいて、ボーグ式により求めたCS量が1〜15%のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物」である。
【0037】
前述の通り、CSはフレッシュ性状、強度増進性、安定したクリンカ製造などの観点からクリンカ中にある程度の量が必要であるが、15%を超えるのは好ましくない。15%を超えると、相対的にCS量及び/又は間隙質相(アルミネート相)の量が減るため、初期〜中期の強度発現性が悪くなり、前記本願発明の目的が達成できなくなる場合がある。
【0038】
より好ましい量は4〜10%である。この範囲にすれば経済的かつ安定したクリンカ製造ができ強度発現性も前記本願発明の目的を達したものとなる。
【0039】
本願の請求項3に係る発明は、「前記エーライト高含有クリンカにおいて、CS/CS量比が5〜55のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント組成物」である。
【0040】
前述の通り、前記本願発明の目的を達成する上でCS/CS量比(CS量とCS量のバランス)は重要であり、少なくとも5以上にする必要があるが、5〜55が好ましく、より好ましくは7〜20である。CS量とCS量とのバランスが良ければ、クリンカ製造がし易くなるとともに、材齢3日と28日での前記目標強度の確保ができ、更に長期強度の伸びも期待できる。
【0041】
本願の請求項4に係る発明は、「前記エーライト高含有クリンカにおいて、ボーグ式により求めたCA量が8〜12%かつCAF量が7〜10%かつCAとCAFの合量が18〜19%で、CA/CAF量比が0.9〜1.5のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載するセメント組成物」である。
【0042】
上述の通り、本願発明ではCS量やCS量は重要であるが、初期強度を確保するとともに前記石灰石微粉末の添加効果を効果的に引き出す上で、クリンカ中のCA量やCAF量を制御しておくことは好ましい。
【0043】
前記エーライト高含有クリンカにおいて、CA量は8〜12%が好ましい。CA量が8%未満では、気温や混練水の水温が低いなど、本願発明のセメント組成物の使用環境によっては、初期強度が容易に確保し難くなる場合がある。また、12%を超えると、気温や混練水の水温が高いなど、本願発明のセメント組成物の使用環境によっては、前記フレッシュ性状が悪くなり作業性に支障をきたす虞が生じる。
【0044】
前記エーライト高含有クリンカにおいて、CAF量は7〜10%が好ましい。CAF量が7%未満だと間隙質相が少なくなってクリンカ製造がし難くなる場合がある。また、10%を超えると相対的にCA量が減って、気温や混練水の水温が低いなど、本願発明のセメント組成物の使用環境によっては、初期強度が容易に確保し難くなる場合がある。
【0045】
また、上記CAと上記CAFの合量は18〜19%であるのが好ましい。この範囲にすれば、エーライト(CS)が高含有であってもクリンカ製造が容易になるとともに、前記セメントに対する前記石灰石微粉末の添加効果が効果的となる。
【0046】
更に、前記エーライト高含有クリンカにおいて、CA/CAF量比は0.9〜1.5であるのが好ましい。CA量とCAF量とのバランスをこの範囲にすることによって、所定のCA量を確保しつつ安定したクリンカ製造ができる。
【0047】
本願の請求項5に係る発明は、「前記請求項1〜4のいずれか一項に記載のセメント組成物であって、該セメント組成物は、前記セメントと前記石灰石微粉末の二つの原材料のみからなることを特徴とするセメント組成物」である。
【0048】
前述の通り、本願発明のセメント組成物は、強度発現性を阻害するものでなければ、必要に応じて第三成分を含むことができるが、本願発明は、前記セメントと前記石灰石微粉末の二つの原材料(構成材料)だけで前記本願発明の目的を達成することができる点に特徴を有する。
【0049】
したがって、特許文献3のセメント組成物のように複数の無機混和材を用いないで済む分、製造が簡便になるとともにコスト面でも優位なものになる。また、この本願発明では、セメント組成物の原材料(構成材料)が少ないので、複数の無機混和材を用いたセメント組成物に比べ、均一な性能を有するものが得られ易い。
【0050】
また、一般的に使用されている普通セメントなどのセメントの代替として用いるのであれば、前記セメント組成物に敢えて第三成分を添加する必要はなく、従来の普通セメントと同様の感覚で使用できる。したがって、本願発明のこのセメント組成物は、土木、建築、地盤改良等の各分野で使用されている普通セメントの代替として汎用性の高いものである。
【発明の効果】
【0051】
本願発明のセメント組成物は、初期強度発現性および強度増進性が良く材齢28日での強度も十分に確保できるものである。また、用いるエーライト高含有クリンカは安定して製造できるので、水和性能も均一かつ安定したものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本願発明のセメント組成物について、より詳しく説明する。
【0053】
[セメント組成物]
本願発明のセメント組成物は、基本的には、エーライト高含有クリンカを用いたセメントと石灰石微粉末との二つの構成材料のみからなる。このセメント組成物は、従来の普通セメントに比べ、初期強度発現性が良く材齢28日での強度も高いので、普通セメントの代替セメントとして、土木・建築、地盤改良などの分野で広く使用できる汎用性の高いものである。このセメント組成物の製造は、従来の方法で下記のセメントと下記の石灰石微粉末とを混合もしくは混合粉砕して行えばよい。
【0054】
必要に応じて、強度発現性を大きく損なわない範囲で、高炉スラグ粉末やフライアッシュなどの第三成分を加えてもよい。また、普通セメントに比べ強度発現性が良いので、高炉セメントやフライアッシュセメントなどの従来の混合セメントのベースセメントである普通セメントの代替セメントとして本願発明のセメント組成物を使うこともできる。以下に、本願発明のセメント組成物の各構成材料について説明する。
【0055】
[セメント組成物の構成材料]
A.セメント
本願発明で用いるセメントは、下記のエーライト高含有クリンカに下記の石膏を所定量添加し混合粉砕してなるものである。セメントの製造装置や製造方法は従来に準じたものでよい。
【0056】
また、例えば、CS量が1%未満、かつ遊離石灰量が4重量%を超えるエーライト高含有クリンカと他のクリンカを混合及び/又は分離粉砕して本願発明のセメントを製造することもできる。
【0057】
セメントの粉末度は特に限定されないが、ブレーン値で3500〜5500(cm/g)であるのが好ましい。より好ましくは、3700〜4500(cm/g)である。
【0058】
[エーライト高含有クリンカ]
(1)クリンカ鉱物組成
本願発明で用いるエーライト高含有クリンカは、ボーグ式により求めたCS量が60〜71%かつCS量が1%以上(好ましくは1〜15%、より好ましくは4〜10%)かつCSとCSとの合量が70〜80%で、CS/CS量比が少なくとも5以上(好ましくは5〜55、より好ましくは7〜20)のクリンカ鉱物組成を有するものである。
【0059】
このような鉱物組成にするのは前述の通りである。CSとCS以外はカルシウムアルミネート系を主体とした間隙質相からなり、該間隙質相にはCA、CAF等の鉱物が含まれる。
【0060】
上記間隙質相におけるCAとCAFは、ボーグ式により求めたCA量が8〜12%かつCAF量が7〜10%かつCAとCAFの合量が18〜19%で、CA/CAF量比が0.9〜1.5のクリンカ鉱物組成を有するのが好ましい。このような鉱物組成が好ましいのは前述の通りである。
【0061】
本願発明で用いるボーグ式は、従来からセメントクリンカ中の主鉱物組成を算定するのに用いられている式であり、各鉱物の割合はセメントクリンカの化学組成の分析結果から算定される。得られた割合は、あくまで前記化学組成の分析結果に基づく算定値であるからして、セメントクリンカ中の実際の割合と合致するものではない。なお、%は質量%である。
【0062】
<ボーグ式>
S(%)=(4.07×CaO%)−(7.60×SiO%)−(6.7×Al%)−(1.43×Fe%)−(2.85×SO%)
S(%)=(2.8×SiO%)−(0.754×CS%)
A(%)=(2.65×Al%)−(1.69×Fe%)
AF(%)=3.04×Fe
Sは初期材齢から長期材齢に亘ってセメント強度発現の主となる鉱物であって、これが多いほど高強度かつ早強となる。生成量が多いほど高温焼成や十分な焼成時間が必要になるなど、焼成し難くなる。
【0063】
Sは初期材齢での強度発現にはあまり寄与しないが、長期に亘り水和を継続するため中〜長期材齢での強度発現には寄与する。したがって、強度増進性を図る場合はある程度必要である。また、安定したクリンカ焼成を図る場合にも欠かせない。更に、これがあるほど化学抵抗性や乾燥収縮に優れたものとなる。
【0064】
Aは水和活性が高く初期材齢での強度発現に大きく寄与する。しかし、これが多いと急硬性になるなどフレッシュ性状が悪くなり強度増進性も悪くなる。
AFは水和性能としては目立った特徴はないが、クリンカ焼成では間隙質相として易焼成、安定した焼成などに寄与する。
【0065】
なお、クリンカ中には上記CS、CS、CA、CAF以外に、製造条件によってそれぞれ他のアルミネート系鉱物、アルミノシリケート系鉱物、非晶質間隙質相などが存在する。
【0066】
(2)遊離石灰
遊離石灰はクリンカの安定した製造、CSの水和活性を高めるための刺激剤などの観点からその量を制御することは重要である。また、遊離石灰があると水和初期の発熱量が多くなり練りあがり温度高くなるので初期強度が高くなる。但し、多すぎると膨張、流動性の低下、ポッピングアウト、クリンカの風化等を招く虞があるので、多すぎるのは好ましくない。
【0067】
本願発明では、クリンカ中の遊離石灰量は1.0〜4.0重量%である。この範囲にすれば遊離石灰をクリンカ中に含ませたことによる上記のプラスの効果だけを得易くなる。
【0068】
(3)クリンカ製造
本願発明に用いるエーライト高含有クリンカの製造は、例えば、特許文献2や特許文献3に記載される高活性セメントクリンカの製造方法に準じて行えばよい。
【0069】
すなわち、従来からクリンカ主原料として使用されている石灰石、粘土、珪石、鉄原料等の各原料を、所定の鉱物組成と遊離石灰量になるようにHM(水硬率)、AI(活動係数)、SM(ケイ酸率)、IM(鉄率)、LSD(石灰飽和度)などのモジュラスを用いて得た調合設計に基づき原料ミルやブレンディングサイロを用いて調合し、得られた調合原料をセメント焼成キルンで焼成してクリンカを得る。焼成温度は1250〜1600℃が好ましい。焼成後のクリンカ冷却、粗砕等は従来と同様である。
【0070】
[石膏]
石膏は無水石膏や二水石膏など、従来からセメント製造に使われているものであれば特に限定されない。
【0071】
石膏の添加量は、上記エーライト高含有クリンカに対しSO換算で1.5〜4.0重量%が好ましい。1.5重量%未満では水和初期における流動性や凝結性などのフレッシュ性状が悪くなり作業性に支障をきたす虞がある。また、4.0重量%を超えると材齢28日からの強度が増進しない場合がある。
【0072】
B.石灰石微粉末
石灰石微粉末は、流動性の確保、材齢3日〜28日における強度増進、収縮抑制などを図るために上記セメントに所定量添加する。上記セメントに添加する石灰石微粉末の量は内割で2〜10重量%、好ましくは2.5〜7.5重量%である。このような量にするのは前述の通りである。
【0073】
石灰石微粉末は、従来からセメント組成物やセメント混和材やコンクリートの構成材料として用いられているものであれば特に限定されない。石灰石微粉末の粉末度は、ブレーン値で2000〜10000(cm/g)であるのが好ましい。
【0074】
次に、本願発明のセメント組成物の強度性能確認試験について説明する。
【0075】
≪強度性能確認試験;実施例≫
<使用材料>
(1)セメント
・表1に示す各試製セメント(石膏は昭和電工社製の排脱した二水石膏を用い、クリンカに対しSO換算で一律2.5%添加)
(2)石灰石微粉末
・石灰石微粉末(秩父太平洋社製;ブレーン値4770cm/g)
(3)高炉スラグ微粉末
・高炉スラグ微粉末(デイ・シイ社製;ブレーン値4350cm/g)
【0076】
<ベースセメント及びセメント組成物>
表1にベースセメントのクリンカ構成と粉末度、表2に前記ベースセメントを用いたセメント組成物の配合をそれぞれ示す。ベースセメントとセメント組成物の製造は、前述の通り、従来の方法に準じて行った。なお、クリンカ中には、記載の鉱物の他、遊離石灰、硫酸アルカリなどが少量含まれる。また、表1のベースセメントEが普通ポルトランドセメントに相当する。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
<強度性能確認試験>
JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠してモルタル試験体を作製し、各試験材齢で前記JIS規格に記載の圧縮強度試験方法に準じて圧縮強度試験を行った。試験材齢は3日、7日、28日とした。圧縮強度試験結果を表3に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
ここでは、材齢3日強度が35〜40(N/mm)の場合は材齢3日強度に対して材齢28日強度比が1.50以上、材齢3日強度が40(N/mm)を超える場合は材齢3日強度に対して材齢28日強度比が1.35以上、かつ材齢28日強度がベースセメントより同一のベースセメントを用いたセメント組成物の方が高い場合に良好と判断した。
【0082】
ベースセメントAを用いた配合No.1〜7において、高炉スラグ微粉末を用いた配合No.2ではベースセメントAのみ(配合No.1)と比較して強度が小さかった。また、高炉スラグ微粉末の添加はある程度あっても、石灰石微粉末の添加量が1重量%と量の少ない配合No.3では強度増進の効果が小さかった。また、石灰石微粉末の添加量が15重量%と量の多い配合No.7では、ベースセメントAのみ(配合No.1)より強度が小さくなった。
【0083】
上記に対し、石灰石微粉末の添加量が本願発明の範囲の2〜10重量%にある配合No.4〜6では、材齢3日での初期強度が35(N/mm)を超えるとともに材齢28日での強度もベースセメントAのみ(配合No.1)より高くなり、材齢28日強度比を満足しつつ強度確保が十分できた。
【0084】
ベースセメントBを用いた配合No.9〜10においても、石灰石微粉末を本願発明の範囲で添加することにより、初期強度発現性と強度増進性がよく、材齢28日強度比を満足しつつ材齢28日での強度も確保できるものが得られた。
【0085】
また、ベースセメントC、Dを用いた配合No.12、No.14の本願発明のものは、ベースセメントCのみ(配合No.11)、ベースセメントDのみ(配合No.13)のものと比べ前記判断基準を満足する良好な結果となった。
【0086】
ベースセメントの構成が本願発明の範囲から外れるベースセメントEを用いた配合No.15〜17のものは、本願発明の添加量範囲で石灰石微粉末を添加したにもかかわらず添加効果は得られず、材齢3日での初期強度発現は十分でなかった。