特許第6580005号(P6580005)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6580005
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】シューズのアッパー構造およびシューズ
(51)【国際特許分類】
   A43B 23/02 20060101AFI20190912BHJP
   A43B 5/02 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   A43B23/02 101A
   A43B5/02
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-127821(P2016-127821)
(22)【出願日】2016年6月28日
(62)【分割の表示】特願2015-60185(P2015-60185)の分割
【原出願日】2015年3月23日
(65)【公開番号】特開2016-185380(P2016-185380A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2018年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103241
【弁理士】
【氏名又は名称】高崎 健一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】中村 敬
【審査官】 山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−110687(JP,A)
【文献】 特許第4886922(JP,B2)
【文献】 特開2005−329270(JP,A)
【文献】 特開平07−313207(JP,A)
【文献】 特開平08−164002(JP,A)
【文献】 実公昭63−048165(JP,Y2)
【文献】 実開昭58−090101(JP,U)
【文献】 英国特許出願公開第02247153(GB,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0299967(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 23/02
A43B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューズのアッパー構造であって、
着用者の足を覆うアッパーを備え、
前記アッパーの内甲側領域の一部を伸縮部から構成し、前記アッパーの外甲側領域を非伸縮部から構成するとともに、前記伸縮部の端部および前記非伸縮部の端部が重ね合わされておらず、前記伸縮部および前記非伸縮部の境界面が実質的にフラットな面を有している、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記伸縮部が足の内側縦アーチに対応する部分またはその一部の領域に配置されている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項3】
請求項1において、
前記伸縮部が足の内側縦アーチに対応する部分またはその一部の領域に配置され、前記非伸縮部が前記伸縮部を除く内甲側領域および外甲側領域に配置されている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項4】
請求項1において、
前記境界面が、前記伸縮部および前記非伸縮部の各々の端部の縫製により形成されている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項5】
請求項4において、
前記境界面に縫い目が現れていない、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項6】
シューズであって、
着用者の足を覆うアッパーと、
前記アッパーの下部に設けられるアウトソールとを備え、
前記アッパーの内甲側領域の一部を伸縮部から構成しかつ外甲側領域を非伸縮部から構成するとともに、前記伸縮部の端部および前記非伸縮部の端部が重ね合わされておらず、前記伸縮部および前記非伸縮部の境界面を実質的にフラットな面にし、
前記アウトソールの底面において、足の拇指球部領域、子指球部領域および踵骨の載距突起部分にそれぞれ対応する位置を結んでできる三角形状領域またはその内部に溝を形成した、
ことを特徴とするシューズ。
【請求項7】
請求項6において、
前記溝が複数本形成されており、子指球部領域またはその近傍領域に対応する位置を起点として内甲側に向かうにしたがい扇状に分布している、
ことを特徴とするシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シューズのアッパー(甲被)構造に関し、詳細には、ターン動作時のフィット性およびホールド性を向上させるための構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
シューズのアッパー構造として、たとえば特開2005−329270号公報に示すようなものが提案されている。当該公報には、アッパーの内甲側および外甲側にそれぞれ内側伸縮部および外側伸縮部を設けたことにより、運動時に踵が上がって足が屈曲する際にアッパーの内側伸縮部および外側伸縮部が足の変形に沿って伸縮することでフィット性が向上すると記載されている(当該公報の段落[0008]〜[0011]、[0032]〜[0034]および[0056]〜[0057]、ならびに図3図6参照)。
【0003】
しかしながら、上記公報に記載のものでは、踵が上がって足が屈曲する際の足の動きにのみ着目しており、ターン動作時の足の動きに関しては全く考慮されていなかった。その一方、ターン動作時には、蹴り出す足がアッパーの外甲側に移動しようとするため、上記公報に記載のアッパーのように外甲側に伸縮領域が設けられていると、ターン動作時に蹴り出す足に対してホールド性が低下することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、ターン動作時のフィット性およびホールド性を向上できるシューズのアッパー構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るシューズのアッパー構造は、着用者の足を覆うアッパーを備え、アッパーの内甲側領域の一部を伸縮部から構成し、伸縮部の端部および非伸縮部の端部が重ね合わされておらず、アッパーの外甲側領域を非伸縮部から構成するとともに、伸縮部および非伸縮部の境界面が実質的にフラットな面を有している。
【0006】
本発明によれば、アッパーの外甲側領域を非伸縮部から構成したことにより、ターン動作時に蹴り出す足がアッパーの外甲側に移動しようとした際には、アッパーの外甲側領域に配置された非伸縮部が足の外甲側を保持して足をホールドする。これにより、ターン動作時のホールド性を向上できる。しかも、本発明においては、アッパーの内甲側領域の一部を伸縮部から構成したので、伸縮部がターン動作時の足の捩じれに追従することができ、これにより、ターン動作時のフィット性を向上できる。
【0007】
さらに、本発明においては、伸縮部および非伸縮部の境界面が実質的にフラットな面を有しているので、当該アッパー構造がサッカーシューズ等のボールを蹴るシューズに適用された場合に、ボールキック時の感触を損なうのを防止でき、ボールに対するコントロール性を向上できる。ここで、「実質的に」という文言を入れたのは、伸縮部単体または非伸縮部単体のそれぞれの表面ほどフラットな面ではないが、伸縮部および非伸縮部の境目に大きな段差や凹凸等がなく、シューズの使用上フラットとみなし得るものを含めるためである(以下、本明細書中において同様)。
【0008】
本発明では、伸縮部が足の内側縦アーチに対応する部分またはその一部の領域に配置されている。ここで、「内側縦アーチ」とは、踵骨内側(つまり踵骨の載距突起部分)から舟状骨および第1楔状骨を通って第1中足骨先端(つまり足の拇指球部)へと伸びる領域である。これにより、ターン動作時の足の捩じれに対する伸縮部の追従性を高めることができ、ターン動作時のフィット性を一層向上できる。
【0009】
本発明では、伸縮部が足の内側縦アーチに対応する部分またはその一部の領域に配置され、非伸縮部が伸縮部を除く内甲側領域および外甲側領域に配置されている。
【0010】
本発明では、境界面が伸縮部および非伸縮部の各々の端部の縫製により形成されている。
【0011】
本発明では、境界面に縫い目が現れていない。これにより、ボールに対するコントロール性をさらに向上できる。
【0012】
本発明に係るシューズは、着用者の足を覆うアッパーと、アッパーの下部に設けられるアウトソールとを備え、アッパーの内甲側領域の一部を伸縮部から構成しかつ外甲側領域を非伸縮部から構成するとともに、伸縮部の端部および非伸縮部の端部が重ね合わされておらず、伸縮部および非伸縮部の境界面を実質的にフラットな面にし、アウトソールの底面において、足の拇指球部領域、子指球部領域および踵骨の載距突起部分にそれぞれ対応する位置を結んでできる三角形状領域またはその内部に溝を形成している。
【0013】
本発明によれば、アウトソールの底面において、足の拇指球部領域、子指球部領域および踵骨の載距突起部分にそれぞれ対応する位置を結んでできる三角形状領域またはその内部の一部の領域に溝を形成したことにより、当該三角形状領域の屈曲性が向上しており、アウトソールプレート本体の拇指球部領域が踵部領域に対して捩れやすくなっている。これにより、ターン動作時には、アウトソールの底面を地面に対して十分に接地させることができ、地面に対するグリップ力を大きくできるとともに、ターンを行う方向への脚の傾斜角度を大きくでき、その結果、ターンを行う方向への地面反力を十分に得ることができ、素早いターンを実現できるようになる。
【0014】
本発明においては、このような素早いターン動作時に、蹴り出す足がアッパーの外甲側に急激に移動しようとした際でも、アッパーの外甲側領域の非伸縮部が足の外甲側を確実に保持してホールド性を向上できる。また、素早いターン動作時の急激な足の捩じれに対してもアッパーの内甲側の伸縮部が確実に追従してフィット性を向上できる。
【0015】
さらに、本発明においては、伸縮部および非伸縮部の境界面が実質的にフラットな面を有しているので、当該アッパー構造がサッカーシューズ等のボールを蹴るシューズに適用された場合に、ボールキック時の感触を損なうのを防止でき、ボールに対するコントロール性を向上できる。
【0016】
本発明では、アウトソール底面の溝が複数本形成されており、これらの溝は、子指球部領域またはその近傍領域に対応する位置を起点として内甲側に向かうにしたがい扇状に分布している。この場合には、ターン動作時に、アウトソールの拇指球部領域が子指球部領域またはその近傍領域に対応する位置の回りに徐々に屈曲するので、アウトソールの屈曲をよりスムーズに行えるようになる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明に係るシューズのアッパー構造によれば、アッパーの外甲側領域を非伸縮部から構成したことにより、ターン動作時に蹴り出す足がアッパーの外甲側に移動しようとした際には、アッパーの外甲側領域に配置された非伸縮部が足の外甲側を保持して足をホールドでき、これにより、ターン動作時のホールド性を向上できる。しかも、本発明においては、アッパーの内甲側領域の一部を伸縮部から構成したので、伸縮部がターン動作時の足の捩じれに追従でき、これにより、ターン動作時のフィット性を向上できる。さらに、本発明においては、伸縮部および非伸縮部の境界面が実質的にフラットな面を有しているので、当該アッパー構造がサッカーシューズ等のボールを蹴るシューズに適用された場合に、ボールキック時の感触を損なうのを防止でき、ボールに対するコントロール性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施例によるアッパー構造を備えたシューズの平面概略図である。
図2】前記シューズ(図1)の内甲側側面図である。
図3】前記シューズ(図1)の外甲側側面図である。
図4】前記アッパー構造(図1)において伸縮部および非伸縮部の境界部分の断面概略図である。
図5図4の変形例を示す図である。
図6図4の他の変形例を示す図である。
図7図4のさらに他の変形例を示す図である。
図8】前記シューズ(図1)の底面概略図であって、アウトソール底面を示している。
図9】前記アッパー底面(図8)と足の骨格構造の位置関係を示す図である。
図10図8のX-X線断面図である。
図11図8のXI-XI線断面図である。
図12】本発明の変形例によるアッパー構造を備えたシューズの平面概略図である。
図13】前記シューズ(図12)の内甲側側面図である。
図14】前記シューズ(図12)の外甲側側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1ないし図11は本発明の一実施例によるアッパー構造が採用されたシューズを示している。ここでは、サッカーシューズを例にとって説明する。なお、以下の説明文中、前方(前側/前)および後方(後側/後)とは、シューズにおける前後方向の位置関係を表し、上方(上側/上)および下方(下側/下)とは、シューズにおける上下方向の位置関係を表すものとする。
【0020】
図1ないし図3に示すように、シューズ1は、着用者の足を覆うように足の踵部からつま先部まで配設されたアッパー2を有している。アッパー2は、内甲側の一部の領域(この例では中足部領域)に設けられた伸縮部20(黒色で着色した部分)と、内甲側領域の残りの領域および外甲側領域に設けられた非伸縮部21(グレーで着色した部分)とから構成されている。
【0021】
伸縮部20は、相対的に伸縮性の高い素材から構成されており、伸縮部20の表地としてはたとえばポリウレタン等が用いられ、裏地としてはたとえばポリエステルおよびポリウレタン等のメッシュ素材やニット素材等が用いられている。なお、裏地は単一素材から構成するようにしてもよい。また、表地および裏地ともその他の素材を用いるようにしてもよい。例えばスパンデックスのような弾性繊維を含む伸縮性素材から構成するようにしてもよい。ここで、スパンデックスとは、ポリウレタンを溶剤に溶かして紡糸した弾性繊維のことである。非伸縮部21は、相対的に伸縮性の低い素材から構成されており、非伸縮部21の表地としてはたとえば天然皮革や人工皮革、合成皮革、ポリウレタン、ナイロン等が用いられ、裏地としてはたとえばメッシュ素材が用いられている。
【0022】
アッパー2の足甲上部には、履き口10に連通して前方に延びる開口部が形成されており、当該開口部に舌革部11が配置されている。この例では、舌革部11がアッパー2の内甲側領域と一体に連設されており、伸縮部20と同様に黒色で着色されているが、舌革部11は非伸縮部21と同様の素材から構成するようにしてもよい。また、当該開口部に沿って複数のハトメ孔12が貫通形成されており、ハトメ孔12には靴紐13が挿通している。
【0023】
アッパー2の下部には、アウトソール3が接着等で固着されている。アウトソール3は薄肉のプレート状部材であって、好ましくは硬質弾性部材から構成されており、具体的には、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミド(PA)、ポリアミドエラストマー(PAE)、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂、またはエポキシ樹脂等や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂から構成されている。アウトソール3の底面3Sには、複数のクリーツ30、31が設けられている。クリーツ30は前足部領域に配置されており、クリーツ31は踵部領域に配置されている。
【0024】
アッパー2の伸縮部20および非伸縮部21の境界部分の断面を図4に示す。同図に示すように、伸縮部20および非伸縮部21の境界部分においては、伸縮部20の端部20Eおよび非伸縮部21の端部21Eがいずれも裏側に折り返されており、これらループ状の各折返し部が縫糸25で縫製されている。境界部分の表側(つまり伸縮部20の表面20aおよび非伸縮部21の表面21a)には、縫糸25が現れていない。このような縫製方法は、一般に「縫い割り」と呼称されている。同図に示すように、伸縮部20および非伸縮部21の境界部分は、実質的にフラットな境界面から形成されている。
【0025】
アウトソール3の底面3Sには、図8に示すように、複数の溝41〜45からなる溝4が形成されている。各溝41〜45は、前足部領域Fの後部側領域において外甲寄りの部位を起点として内甲側に向かうにしたがい概略扇状に分布しており、各クリーツ30とオーバラップすることなく、各クリーツ30を避けつつ配設されている。各溝41〜45は、外甲側から内甲側に向かうにしたがい、徐々に湾曲しつつ延びており、曲線状または概略直線状の溝になっている。隣り合う各溝の間隔は、外甲側領域よりも内甲側領域の方が広くなっており、外甲側から内甲側に向かうにしたがい、徐々にまたは段階的に広くなっている。
【0026】
図9は、アウトソール3の各部位と足の骨格構造との位置関係を示す底面概略図である。同図において、第1趾基節骨PPと第1趾中足骨MBとの間の第1中足趾節関節MPの周囲に分布する円形状の一点鎖線領域が拇指球部領域TEであり、同様に、第5趾基節骨PPと第5趾中足骨MBとの間の第5中足趾節関節MPの周囲に分布する円形状の一点鎖線領域が子指球部(小指球部)領域HEである。また、踵骨CCの載距突起部分STを円形の斜線領域で示している。なお、同図中、CUは立方骨を示し、NAは舟状骨を示している。
【0027】
溝4は、足の拇指球部領域TE内の部位、子指球部領域HE内の部位および踵骨CCの載距突起部分STにそれぞれ対応する位置を結んでできる三角形状領域TR(二点鎖線参照)に配置されている。三角形状領域TRは、好ましい例として、拇指球部領域TE内の後部側に位置する部位TE(円形の斜線領域参照)と、子指球部領域HE内の中央部の部位と、載距突起部分STの中央部の部位とを結んで形成されている。
【0028】
溝4は、三角形状領域TR内において、外甲側から内甲側に向かうにしたがい斜め後方に延びている。溝4は、この例では、三角形状領域TRの内部の一部の領域に分布しているが、三角形状領域TRの全域に分布させるようにしてもよい。溝4の起点は、この例では、子指球部領域HEの近傍において三角形状領域TRの外側に配置されているが、三角形状領域TRの境界線上またはその内部、あるいは子指球部領域HEの内部に配置するようにしてもよい。
【0029】
図9から分かるように、前足部領域Fにおいて内甲側のクリーツ30は拇指球部領域TEに対応する位置に、外甲側のクリーツ30は子指球部領域HEに対応する位置にそれぞれ配置されており、踵部領域Hにおいて内甲側のクリーツ31は載距突起部分STの近傍に配置されている。溝4の起点は、前足部領域Fの内外甲側の各クリーツ30の間のいずれかの部位に配置されている。
【0030】
溝4の横断面形状については、内甲側領域では、図8のX-X線断面である図10に示すように、各溝41〜45が概略三角形状を有しており、外甲側領域では、図8のXI-XI線断面である図11に示すように、各溝41〜45が概略円弧形状を有しているが(図10図11ではハッチング省略)、内甲側領域および外甲側領域の双方において、同一の横断面形状を有するようにしてもよい。各溝41〜45の深さは、この例では、内甲側領域および外甲側領域においていずれもdとなっているが、双方の領域で深さを変えるようにしてもよい。なお、図10図11中、符号3S’は、アウトソール3の足裏当接側の面を示している。
【0031】
図8および図9に示すように、三角形状領域TRの外甲側領域には、当該三角形状領域TRの剛性よりも剛性の高い高剛性領域部3Aおよび3Bが設けられている。高剛性領域部3A、3Bは、好ましくは硬質弾性部材から構成されており、具体的には、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミド(PA)、ポリアミドエラストマー(PAE)、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂、またはエポキシ樹脂等や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂から構成されている。また、高剛性領域部3A、3Bは、炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維等を強化用繊維とし、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチック(FRP)から構成するようにしてもよい。なお、これらの高剛性領域部3Aおよび3Bは省略することも可能である。
【0032】
アッパー2の伸縮部20は、好ましくは、足の内側縦アーチに対応する部分または内側縦アーチの一部の領域に対応する部分に配置されている。ここで、「内側縦アーチ」とは、踵骨内側つまり踵骨の載距突起部分ST(図9)から舟状骨NAおよび第1楔状骨を通って第1趾中足骨MB先端つまり足の拇指球部TE(同図)へと伸びる領域である。本実施例では、図2に示すように、アッパー2の伸縮部20の下部が足の内側縦アーチの一部の領域に対応する部分に配置されている。伸縮部20の後側縁部は足甲上部に向かって略直線状に足囲方向に延びており、前側縁部は後方側に屈曲しつつ足甲上部に向かって延びている。なお、前側縁部についても、後側縁部と同様に、足甲上部に向かって略直線状に足囲方向に延設するようにしてもよい。
【0033】
アッパー2の伸縮部20の伸長率は、7〜15%、好ましくは10〜12%に設定されており、非伸縮部21の伸長率は、5%未満に設定されている。ここで、伸縮部20および非伸縮部21の伸長率の測定は以下のようにして行う。
(1)試験方法
JIS L 1096 8.14.1 「織物及び編物の生地試験方法」A法(ストリップ法)に準拠した定速伸長法による。
試験片を引張試験機でつかんで引っ張った後、伸長率を測定する。
(2)試験条件
試験片のつかみ間隔: 200mm
引張速度: 200mm/min.
(3)伸長率の計算方法
伸長率(%)=(L1−L0)/L0×100
L0: つかみ間隔
L1: 荷重29.4Nの作用時のつかみ間隔
ここで、JISでは、荷重14.7N(1.5kgf)の作用時の伸長率を定めているが、任意の荷重でよいと記されているため、ここでは29.4Nを採用した。
(4)試験結果
試験片として、伸縮部20については、伸縮性のある編物のメッシュ素材(ポリエステル糸およびウレタン糸からなるメッシュ)に伸縮性のあるPUフィルム(厚み約0.3mm)およびホットメルト接着剤を熱圧着したものを用意し、非伸縮部21については、伸縮しにくい織物のメッシュ素材およびホットメルトを人工皮革に熱圧着したものを用意して、引張試験を行った結果は、以下のとおりである。
伸縮部20の伸長率: 11.1%
非伸縮部21の伸長率: 3.8%
【0034】
次に、本実施例の作用効果について説明する。
本アッパー構造においては、アッパー2の外甲側領域が非伸縮部21から構成されているので(図1図3参照)、ターン動作時に蹴り出す足がアッパー2の外甲側に移動しようとした際には、アッパー2の外甲側領域に配置された非伸縮部21が足の外甲側を保持して足をホールドし、これにより、ターン動作時のホールド性を向上できる。しかも、この場合には、アッパー2の内甲側領域の一部である中足部領域(または足の内側縦アーチの一部の領域に対応する部分)が伸縮部20から構成されているので(図1図2参照)、伸縮部20がターン動作時の足の捩じれに追従することができ、これにより、ターン動作時のフィット性を向上できる。
【0035】
また、伸縮部20および非伸縮部21の境界面には段差がなく、実質的にフラットな面になっているので(図4参照)、当該アッパー構造がサッカーシューズ等のボールを蹴るシューズに適用された場合に、ボールキック時の感触を損なうのを防止でき、ボールに対するコントロール性を向上できる。しかも、伸縮部20および非伸縮部21の境界面に縫い目が現れていないことにより(同図参照)、ボールに対するコントロール性をより向上できる。
【0036】
さらに、アウトソール3の底面3Sにおいて、足の拇指球部領域TE、子指球部領域HEおよび踵骨CCの載距突起部分STにそれぞれ対応する位置を結んでできる三角形状領域TRにまたはその内部の一部の領域に溝4が形成されているので(図8図9参照)、三角形状領域TRの屈曲性が向上しており、アウトソール3の拇指球部領域TEが踵部領域Hに対して捩れやすくなっている。これにより、ターン動作時には、アウトソール3の底面3Sを地面に対して十分に接地させることができ、地面に対するグリップ力を大きくできるとともに、ターンを行う方向への脚の傾斜角度を大きくでき、その結果、ターンを行う方向への地面反力を十分に得ることができ、素早いターンを実現できるようになる。
このような素早いターン動作時に、蹴り出す足がアッパー2の外甲側に急激に移動しようとした際でも、アッパー2の外甲側領域の非伸縮部21が足の外甲側を確実に保持して足をホールドするので、ホールド性を向上できる。また、素早いターン動作時の急激な足の捩じれに対してもアッパー2の内甲側の伸縮部20が確実に追従するので、フィット性を向上できる。
【0037】
また、隣り合う各溝41〜45の間隔が外甲側から内甲側に向かうにしたがい徐々に広くなっているので、アウトソール3において拇指球部領域TEに対応する領域が踵部領域Hに対して屈曲する際に、後方側の溝45から前方側の溝41にかけて段階的に徐々に屈曲することができ、これにより、アウトソール3の屈曲をスムーズに発生させることができる。さらに、三角形状領域TRの外甲側領域に三角形領域TRの剛性よりも剛性が高い高剛性領域3A、3Bが設けられているので、三角形状領域TRがその外甲側の高剛性領域3A、3Bよりも相対的に屈曲しやすくなっており、三角形状領域TRの屈曲性が相対的に向上している。
【0038】
以上、本発明に好適な実施例について説明したが、本発明の適用はこれに限定されるものではなく、本発明には種々の変形例が含まれる。以下に変形例のいくつかの例を挙げておく。なお、各変形例を示す図面において、前記実施例と同一符号は同一または相当部分を示している。
【0039】
<第1の変形例>
前記実施例では、アッパー2の伸縮部20および非伸縮部21の境界部分において、伸縮部20の端部20Eおよび非伸縮部21の端部21Eを縫糸25で「縫い割り」により縫製した例を示したが(図4参照)、本発明の適用はこれに限定されない。
【0040】
図5ないし図7は縫製の仕方の他の例を示している。
図5においては、前記実施例と同様に、伸縮部20の端部20Eおよび非伸縮部21の端部21Eが裏側に折り返されてこれらループ状の各折返し部が縫糸25で縫製されているが、同図に示すものでは、さらに、縫糸25を挟んで左右の部分が別の縫糸26により縫製されている。このような縫製方法は、一般に「縫い押え」と呼称されている。同図に示すように、伸縮部20および非伸縮部21の境界部分は、実質的にフラットな境界面から形成されている。
【0041】
図6に示すものでは、伸縮部20の端部20Eの上に非伸縮部21の端部21Eが重ねられて縫糸25で縫製されており、このような縫製方法は、一般に「重ね縫い」と呼称されている。同図に示すものでは、さらに、伸縮部20および非伸縮部21の境界部分の上に薄い樹脂製シート(たとえばポリウレタン(PU)シート等)27が熱圧着されている。これにより、境界部分の表側には縫糸25が現れておらず、境界部分がよりフラットに近い境界面から形成されている。
【0042】
図7に示すものでは、伸縮部20の端部20Eと非伸縮部21の端部21Eとが互いに突き合わされて縫糸25で縫製されており、このような縫製方法は、一般に「突き合わせ縫い」と呼称されている。また、図6に示すものと同様に、伸縮部20および非伸縮部21の境界部分の上に薄いPUシート等の樹脂製シート27が熱圧着されている。これにより、境界部分の表側には縫糸25が現れておらず、境界部分がより一層フラットに近い境界面から形成されている。
【0043】
<第2の変形例>
図12ないし図14は、本発明の変形例によるアッパー構造が採用されたシューズを示している。
前記実施例では、アッパー2の伸縮部20が内甲側領域の一部の領域である中足部領域(つまり内側縦アーチの一部の領域に対応する部分)または内側縦アーチに対応する部分に設けられた例を示したが、この変形例では、伸縮部20は、中足部領域から後方側にかけての内甲側領域に設けられている。図12および図13に示すように、伸縮部20の前端縁部の位置および形状は前記実施例に示すものと同様であるが、伸縮部20の後端縁部は踵後端まで延びている(図12および図14参照)。なお、この例では、踵後端における伸縮部20の後端縁部の形状が、踵後端を外甲側から内甲側にかけて斜め下方に横切るように形成されているが、後端縁部の形状はこれに限定されず、踵後端を外甲側から内甲側にかけて斜め上方に横切るように形成されていてもよく、あるいは、踵後端において上下方向に真っ直ぐに延設されていてもよい。
【0044】
<第3の変形例>
前記実施例では、アウトソール3の底面3Sに形成される溝4が外甲側から内甲側にかけて徐々に湾曲しつつ斜め後方に向かって配設された例を示したが、溝4の傾きや形状はこれに限定されるものではなく、その他の傾きでもよく、直線状に配設されていてもよい。また、溝4は、前後方向中心線Lを跨いで配設されていなくてもよく、前後方向中心線Lを挟んでいずれか一方の領域(つまり内甲側領域または外甲側領域)に配設されていてもよい。溝4の本数や隣り合う各溝4の間隔も前記実施例に示すものには限定されず、その他の本数でもよく、各溝4が平行に配設されていてもよい。さらに、溝の横断面形状についても、前記実施例に示すものには限定されず、その他の任意の形状をとり得る。
【0045】
<その他の変形例>
上述した実施例および各変形例はあらゆる点で本発明の単なる例示としてのみみなされるべきものであって、限定的なものではない。本発明が関連する分野の当業者は、本明細書中に明示の記載はなくても、上述の教示内容を考慮するとき、本発明の精神および本質的な特徴部分から外れることなく、本発明の原理を採用する種々の変形例やその他の実施例を構築し得る。
【0046】
<他の適用例>
前記実施例では、本発明によるアッパー構造がサッカーシューズに適用された例を示したが、本発明の適用はこれに限定されるものではなく、本発明は、ラグビーシューズやアメリカンフットボールシューズ、フットサルシューズ等の他のスポーツシューズにも同様に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明は、シューズ用アッパー構造に有用であり、とくに、ターン動作時のフィット性およびホールド性の向上を要求されるスポーツシューズに適している。
【符号の説明】
【0048】
1: シューズ

2: アッパー
20: 伸縮部
21: 非伸縮部
25: 縫糸

3: アウトソール
3S: 底面

4: 溝

TE: 拇指球部領域
HE: 子指球部領域
ST: 載距突起部分
CC: 踵骨
TR: 三角形状領域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0049】
【特許文献1】特開2005−329270号公報(段落[0008]〜[0011]、[0032]〜[0034]および[0056]〜[0057]、ならびに図3図6参照)
図1
図2
図3
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図14