(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、本発明について、例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により、なんら限定されない。
【0018】
本発明の空隙層においては、例えば、前記表面配向性を有する化合物が、アルコキシシラン誘導体であり、前記アルコキシシラン誘導体は、フッ素原子数が5〜17または5〜10のフルオロアルキル基を含んでいてもよい。前記フルオロアルキル基は、一部の水素のみがフッ素で置換されたアルキル基でもよいが、全ての水素がフッ素で置換されたアルキル基(パーフルオロアルキル基)でもよい。
【0019】
本発明の空隙層は、例えば、前記ナノ粒子を、前記空隙層の骨格成分に対し、10〜50質量%含んでいてもよい。
【0020】
本発明の空隙層の製造方法は、例えば、前記空隙層の形成とともに、前記ナノ粒子からなる層を前記空隙層内部に形成してもよい。
【0021】
本発明の空隙層は、空隙に粘着剤または接着剤が浸透しにくい。このため、別の浸透抑制層の形成が不要で、前記本発明の空隙層と、粘接着層とを直接積層させることができる。したがって、前記浸透抑制層の形成工程による製造工程の増加を避けることができる。
【0022】
前記本発明の空隙層において、空隙に粘着剤または接着剤が浸透しにくい理由(メカニズム)は、例えば、以下のように考えられる。まず、表面配向性を有する化合物(例えば、パーフルオロアルキルを有する化合物)の表面配向性(空気界面への移行性)を利用して、前記化合物で表面修飾したナノ粒子自体に表面配向性を付与する。ここで、表面配向性を有する化合物のみでは、空隙層の表面改質は出来るが、マクロな粘着剤の浸透を抑制するには不十分である。このため、ナノ粒子により空隙層の最表面の空隙を埋めて物理的に粘着剤または接着剤の浸透を抑制する。しかしながら、表面修飾をしないナノ粒子は、表面配向性が無いため、空隙層中に存在するだけで空隙層表面に配向せず、浸透抑制効果は出ない。前記ナノ粒子を、表面配向性を有する化合物により修飾することで、前記ナノ粒子が空隙層への表面配向性を有するようになる。これにより、前述のとおり、前記ナノ粒子が空隙層の最表面の空隙を埋めて物理的に粘着剤または接着剤の浸透を抑制する。すなわち、表面配向性を有する化合物で修飾したナノ粒子が、空隙層の最表面の空隙を埋めることで、前記最表面(表層)に粘着剤または接着剤の浸透抑制層が形成される。これにより、前述のとおり、別の浸透抑制層を形成する工程が不要であり、前記浸透抑制層の形成工程による製造工程の増加を避けることができる。ただし、これらのメカニズムは、単なる例示であり、本発明をなんら限定しない。本発明の空隙層を製造するためには、例えば、後述するように、表面配向性を有する化合物で修飾したナノ粒子を空隙層形成用の塗工液中に添加しておけばよい。
【0023】
[1.空隙層、積層体、光学部材および光学装置]
本発明の空隙層は、前述のとおり、表面配向性を有する化合物で表面修飾したナノ粒子を含み、かつ、空隙率が35体積%以上である。また、本発明の積層体は、前述のとおり、前記本発明の空隙層と、粘接着層とが直接積層されている。前記粘接着層は、前記本発明の空隙層の片面に積層されていてもよいし、両面に積層されていてもよい。なお、本発明において、前記粘接着層が前記空隙層に「直接積層され」は、前記粘接着層が前記空隙層に直接接触していてもよいし、前記粘接着層が、前記空隙層中のナノ粒子(表面配向性を有する化合物で表面修飾したナノ粒子)により形成された層(浸透抑制層)を介して前記空隙層に積層されていてもよいし、前記粘接着層が、前記空隙層と前記粘接着層との合一により形成された中間層を介して前記空隙層に積層されていてもよい。
【0024】
本発明においては、前記本発明の空隙層または前記本発明の積層体の光透過率が、80%以上であってもよい。また、例えば、前記本発明の空隙層または前記本発明の積層体のヘイズが3%以下であってもよい。前記光透過率は、例えば、82%以上、84%以上、86%以上、または88%以上であってもよく、上限は、特に限定されないが、理想的には100%であり、例えば、95%以下、92%以下、91%以下、または90%以下であってもよい。前記本発明の空隙層または前記本発明の積層体のヘイズの測定は、例えば、後述するヘイズの測定方法により行うことができる。また、前記光透過率は、波長550nmの光の透過率であり、例えば、以下の測定方法により測定することができる。
【0025】
(光透過率の測定方法)
分光光度計U−4100(株式会社日立製作所の商品名)を用いて、前記積層体を、測定対象のサンプルとする。そして、空気の全光線透過率を100%とした際の前記サンプルの全光線透過率(光透過率)を測定する。前記全光線透過率(光透過率)の値は、波長550nmでの測定値をその値とする。
【0026】
本発明の積層体は、例えば、前記粘接着層の粘着力または接着力が、例えば、0.7N/25mm以上、0.8N/25mm以上、1.0N/25mm以上、または1.5N/25mm以上であってもよく、50N/25mm以下、30N/25mm以下、10N/25mm以下、5N/25mm以下、または3N/25mm以下であってもよい。該積層体をその他の層と貼り合わせをした際の取扱い時の剥がれのリスクという観点からは、前記粘接着層の粘着力または接着力が低すぎないことが好ましい。また、貼り直しの際のリワークという観点からは、前記粘接着層の粘着力または接着力が高すぎないことが好ましい。前記粘接着層の粘着力または接着力は、例えば、以下のようにして測定することができる。
【0027】
(粘着力または接着力の測定方法)
本発明の積層フィルム(樹脂フィルム基材上に、本発明の積層体が形成されたもの)を、50mm×140mmの短冊状にサンプリングを行い、前記サンプルをステンレス板に両面テープで固定する。PETフィルム(T100:三菱樹脂フィルム社製)にアクリル粘着層(厚み20μm)を貼合し、25mm×100mmにカットした粘着テープ片を、前記本発明の積層フィルムにおける、樹脂フィルムと反対側に貼合し、前記PETフィルムとのラミネートを行う。次に、前記サンプルを、オートグラフ引っ張り試験機(島津製作所社製:AG−Xplus)にチャック間距離が100mmになるようにチャッキングした後に、0.3m/minの引張速度で引っ張り試験を行う。50mmピール試験を行った平均試験力を、粘着ピール強度、すなわち粘着力とする。また、接着力も同一の測定方法で測定できる。本発明において、「粘着力」と「接着力」とに明確な区別はない。
【0028】
本発明の積層体は、例えば、フィルム等の基材上に形成されていてもよい。前記フィルムは、例えば、樹脂フィルムであってもよい。なお、一般に、比較的厚みが小さいものを「フィルム」と呼び、比較的厚みが大きいものを「シート」と呼んで区別する場合があるが、本発明では、「フィルム」と「シート」とに特に区別はないものとする。
【0029】
前記基材は、特に制限されず、例えば、熱可塑性樹脂製の基材、ガラス製の基材、シリコンに代表される無機基板、熱硬化性樹脂等で成形されたプラスチック、半導体等の素子、カーボンナノチュープに代表される炭素繊維系材料等が好ましく使用できるが、これらに限定されない。前記基材の形態は、例えば、フィルム、プレート等があげられる。前記熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、トリアセテート(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等があげられる。
【0030】
本発明の光学部材は、特に限定されないが、例えば、前記本発明の積層体を含む光学フィルムでもよい。
【0031】
本発明の光学装置(光学デバイス)は、特に限定されないが、例えば、画像表示装置でも照明装置でもよい。画像表示装置としては、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、マイクロLED(Light Emitting Diode)ディスプレイ等があげられる。照明装置としては、例えば、有機EL照明等があげられる。
【0032】
[2.空隙層]
以下、本発明の積層体における前記空隙層(以下、「本発明の空隙層」という場合がある。)について、例を挙げて説明する。ただし、本発明の空隙層は、これに限定されない。
【0033】
本発明の空隙層は、例えば、空隙率が35体積%以上であり、かつ、ピーク細孔径が50nm以下であってもよい。ただし、これは例示であって、本発明の空隙層は、これに限定されない。
【0034】
前記空隙率は、例えば、35体積%以上、38体積%以上、または40体積%以上であってもよく、90体積%以下、80体積%以下、または75体積%以下であってもよい。前記本発明の空隙層は、例えば、空隙率が60体積%以上の高空隙層であっても良い。
【0035】
前記空隙率は、例えば、下記の測定方法により測定することができる。
【0036】
(空隙率の測定方法)
空隙率の測定対象となる層が単一層で空隙を含んでいるだけならば、層の構成物質と空気との割合(体積比)は、定法(例えば重量および体積を測定して密度を算出する)により算出することが可能であるため、これにより、空隙率(体積%)を算出できる。また、屈折率と空隙率は相関関係があるため、例えば、層としての屈折率の値から空隙率を算出することもできる。具体的には、例えば、エリプソメーターで測定した屈折率の値から、Lorentz‐Lorenz’s formula(ローレンツ−ローレンツの式)より空隙率を算出する。
【0037】
本発明の空隙層は、例えば、後述するように、ゲル粉砕物(微細孔粒子)の化学結合により製造することができる。この場合、空隙層の空隙は、便宜上、下記(1)〜(3)の3種類に分けることができる。
(1)原料ゲル自体(粒子内)が有する空隙
(2)ゲル粉砕物単位が有する空隙
(3)ゲル粉砕物の堆積により生じる粉砕物間の空隙
【0038】
前記(2)の空隙は、ゲル粉砕物(微細孔粒子)のサイズ、大きさ等にかかわらず、前記ゲルを粉砕することにより生成された各粒子群を一つの塊(ブロック)とみなした際に、各ブロック内に形成されうる前記(1)とは別に粉砕時に形成される空隙である。また、前記(3)の空隙は、粉砕(例えば、メディアレス粉砕等)において、ゲル粉砕物(微細孔粒子)のサイズ、大きさ等が不ぞろいとなるために生じる空隙である。本発明の空隙層は、例えば、前記(1)〜(3)の空隙を有することで、適切な空隙率およびピーク細孔径を有する。
【0039】
また、前記ピーク細孔径は、例えば、5nm以上、10nm以上、または20nm以上であってもよく、50nm以下、40nm以下、または30nm以下であってもよい。空隙層において、空隙率が高い状態でピーク細孔径が大きすぎると、光が散乱して不透明になる。また、本発明において、空隙層のピーク細孔径の下限値は特に限定されないが、ピーク細孔径が小さすぎると、空隙率を高くしにくくなるため、ピーク細孔径が小さすぎないことが好ましい。本発明において、ピーク細孔径は、例えば、下記の方法により測定することができる。
【0040】
(ピーク細孔径の測定方法)
細孔分布/比表面積測定装置(BELLSORP MINI/マイクロトラックベル社の商品名)を用いて、窒素吸着によるBJHプロットおよびBETプロット、等温吸着線を算出した結果から、ピーク細孔径を算出する。
【0041】
また、本発明の空隙層は、前述のとおり、表面配向性を有する化合物で表面修飾したナノ粒子を含む。前記ナノ粒子については、後に詳述する。本発明の空隙層は、前記ナノ粒子を、前記空隙層の骨格成分に対し、例えば10〜50質量%、15〜40質量%、または20〜30質量%含んでいてもよい。なお、本発明の空隙層において「骨格成分」は、空気以外で本発明の空隙層を形成している成分のうち最も質量が多い成分のことをいう。本発明の空隙層における「骨格成分」は、本発明の空隙層がシリコーン多孔体である場合は、例えば、モノアルキル(トリメトキシ)シランの縮合生成物である。
【0042】
また、本発明の空隙層の厚みは、特に限定されないが、例えば、100nm以上、200nm以上、または300nm以上であってもよく、10000nm以下、5000nm以下、または2000nm以下であってもよい。
【0043】
本発明の空隙層は、例えば、後述するように、多孔体ゲルの粉砕物を使用することで、前記多孔体ゲルの三次元構造が破壊され、前記多孔体ゲルとは異なる新たな三次元構造が形成されている。このように、本発明の空隙層は、前記多孔体ゲルから形成される層では得られない新たな孔構造(新たな空隙構造)が形成された層となったことで、空隙率が高いナノスケールの空隙層を形成することができる。また、本発明の空隙層は、例えば、前記空隙層がシリコーン多孔体である場合、例えば、ケイ素化合物ゲルのシロキサン結合官能基数を調整しつつ、前記粉砕物同士を化学的に結合する。また、前記空隙層の前駆体として新たな三次元構造が形成された後に、結合工程で化学結合(例えば、架橋)されるため、本発明の空隙層は、例えば、前記空隙層が機能性多孔体である場合、空隙を有する構造であるが、十分な強度と可撓性とを維持できる。したがって、本発明によれば、容易且つ簡便に、空隙層を、様々な対象物に付与することができる。
【0044】
本発明の空隙層は、例えば、後述するように、多孔体ゲルの粉砕物を含み、前記粉砕物同士が化学的に結合している。本発明の空隙層において、前記粉砕物同士の化学的な結合(化学結合)の形態は、特に制限されず、前記化学結合の具体例は、例えば、架橋結合等が挙げられる。なお、前記粉砕物同士を化学的に結合させる方法は、例えば、前述した空隙層の製造方法において、詳細に説明したとおりである。
【0045】
前記架橋結合は、例えば、シロキサン結合である。シロキサン結合は、例えば、以下に示す、T2の結合、T3の結合、T4の結合が例示できる。本発明のシリコーン多孔体がシロキサン結合を有する場合、例えば、いずれか一種の結合を有してもよいし、いずれか二種の結合を有してもよいし、三種全ての結合を有してもよい。前記シロキサン結合のうち、T2およびT3の比率が多いほど、可撓性に富み、ゲル本来の特性を期待できるが、膜強度が脆弱になる。一方で、前記シロキサン結合のうちT4比率が多いと、膜強度と発現しやすいが、空隙サイズが小さくなり、可撓性が脆くなる。このため、例えば、用途に応じて、T2、T3、T4比率を変えることが好ましい。
【0047】
本発明の空隙層が前記シロキサン結合を有する場合、T2、T3およびT4の割合は、例えば、T2を「1」として相対的に表した場合、T2:T3:T4=1:[1〜100]:[0〜50]、1:[1〜80]:[1〜40]、1:[5〜60]:[1〜30]である。
【0048】
また、本発明の空隙層は、例えば、含まれるケイ素原子がシロキサン結合していることが好ましい。具体例として、前記シリコーン多孔体に含まれる全ケイ素原子のうち、未結合のケイ素原子(つまり、残留シラノール)の割合は、例えば、50%未満、30%以下、15%以下、である。
【0049】
本発明の空隙層は、例えば、孔構造を有している。本発明において、孔の空隙サイズは、空隙(孔)の長軸の直径および短軸の直径のうち、前記長軸の直径を指すものとする。空孔サイズは、例えば、5nm〜50nmである。前記空隙サイズは、その下限が、例えば、5nm以上、10nm以上、20nm以上であり、その上限が、例えば、50nm以下、40nm以下、30nm以下であり、その範囲が、例えば、5nm〜50nm、10nm〜40nmである。空隙サイズは、空隙構造を用いる用途に応じて好ましい空隙サイズが決まるため、例えば、目的に応じて、所望の空隙サイズに調整する必要がある。空隙サイズは、例えば、以下の方法により評価できる。
【0050】
(空隙層の断面SEM観察)
本発明において、空隙層の形態は、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察および解析できる。具体的には、例えば、前記空隙層を、冷却下でFIB加工(加速電圧:30kV)し、得られた断面サンプルについてFIB−SEM(FEI社製:商品名Helios NanoLab600、加速電圧:1kV)により、観察倍率100,000倍にて断面電子像を得ることができる。
【0051】
(空隙サイズの評価)
本発明において、前記空隙サイズは、BET試験法により定量化できる。具体的には、細孔分布/比表面積測定装置(BELLSORP MINI/マイクロトラックベル社の商品名)のキャピラリに、サンプル(本発明の空隙層)を0.1g投入した後、室温で24時間、減圧乾燥を行って、空隙構造内の気体を脱気する。そして、前記サンプルに窒素ガスを吸着させることで、BETプロットおよびBJHプロット、吸着等温線を描き、細孔分布を求める。これによって、空隙サイズが評価できる。
【0052】
本発明の空隙層において、空隙率を示す膜密度は、特に制限されず、その下限が、例えば、1g/cm
3以上、5g/cm
3以上、10g/cm
3以上、15g/cm
3以上であり、その上限が、例えば、50g/cm
3以下、40g/cm
3以下、30g/cm
3以下、2.1g/cm
3以下であり、その範囲が、例えば、5〜50g/cm
3、10〜40g/cm
3、15〜30g/cm
3、1〜2.1g/cm
3である。
【0053】
前記膜密度は、例えば、以下のような方法により測定できる。
【0054】
(膜密度の評価)
アクリルフィルムに空隙層(本発明の空隙層)を形成した後、X線回折装置(RIGAKU社製:RINT−2000)を用いて全反射領域のX線反射率を測定した。Intensityと2θのフィッティグを行った後に、空隙層・基材の全反射臨界角から空孔率(P%)を算出する。膜密度は以下の式で表すことができる。
膜密度(%)=100(%)−空孔率(P%)
【0055】
本発明の空隙層は、例えば、前述のように孔構造(多孔質構造)を有していてもよく、例えば、前記孔構造が連続した連泡構造体であってもよい。前記連泡構造体とは、例えば、前記空隙層において、三次元的に、孔構造が連なっていることを意味し、前記孔構造の内部空隙が連続している状態ともいえる。多孔質体が連泡構造を有する場合、これにより、バルク中に占める空隙率を高めることが可能であるが、中空シリカのような独泡粒子を使用する場合は、連泡構造を形成できない。これに対して、本発明の空隙層は、ゾル粒子(ゾルを形成する多孔体ゲルの粉砕物)が三次元の樹状構造を有するために、塗工膜(前記多孔体ゲルの粉砕物を含むゾルの塗工膜)中で、前記樹状粒子が沈降・堆積することで、容易に連泡構造を形成することが可能である。また、本発明の空隙層は、より好ましくは、連泡構造が複数の細孔分布を有するモノリス構造を形成することが好ましい。前記モノリス構造は、例えば、ナノサイズの微細な空隙が存在する構造と、同ナノ空隙が集合した連泡構造として存在する階層構造を指すものとする。前記モノリス構造を形成する場合、例えば、微細な空隙で膜強度を付与しつつ、粗大な連泡空隙で高空隙率を付与し、膜強度と高空隙率とを両立することができる。それらのモノリス構造を形成するには、例えば、まず、前記粉砕物に粉砕する前段階の前記多孔体ゲルにおいて、生成する空隙構造の細孔分布を制御することが重要である。また、例えば、前記多孔体ゲルを粉砕する際、前記粉砕物の粒度分布を、所望のサイズに制御することで、前記モノリス構造を形成させることができる。
【0056】
本発明の空隙層において、透明性を示すヘイズは、特に制限されず、その下限が、例えば、0.1%以上、0.2%以上、0.3%以上であり、その上限が、例えば、10%以下、5%以下、3%以下であり、その範囲が、例えば、0.1〜10%、0.2〜5%、0.3〜3%である。
【0057】
前記ヘイズは、例えば、以下のような方法により測定できる。
【0058】
(ヘイズの評価)
空隙層(本発明の空隙層)を50mm×50mmのサイズにカットし、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所社製:HM−150)にセットしてヘイズを測定する。ヘイズ値については、以下の式より算出を行う。
ヘイズ(%)=[拡散透過率(%)/全光線透過率(%)]×100(%)
【0059】
前記屈折率は、一般に、真空中の光の波面の伝達速度と、媒質内の伝播速度との比を、その媒質の屈折率という。本発明の空隙層の屈折率は、特に制限されず、その上限が、例えば、1.3以下、1.3未満、1.25以下、1.2以下、1.15以下であり、その下限が、例えば、1.05以上、1.06以上、1.07以上であり、その範囲が、例えば、1.05以上1.3以下、1.05以上1.3未満、1.05以上1.25以下、1.06以上〜1.2未満、1.07以上〜1.15以下である。
【0060】
本発明において、前記屈折率は、特に断らない限り、波長550nmにおいて測定した屈折率をいう。また、屈折率の測定方法は、特に限定されず、例えば、下記の方法により測定できる。
【0061】
(屈折率の評価)
アクリルフィルムに空隙層(本発明の空隙層)を形成した後に、50mm×50mmのサイズにカットし、これを粘着層でガラス板(厚み:3mm)の表面に貼合する。前記ガラス板の裏面中央部(直径20mm程度)を黒マジックで塗りつぶして、前記ガラス板の裏面で反射しないサンプルを調製する。エリプソメーター(J.A.Woollam Japan社製:VASE)に前記サンプルをセットし、500nmの波長、入射角50〜80度の条件で、屈折率を測定し、その平均値を屈折率とする。
【0062】
本発明の空隙層の厚みは、特に制限されず、その下限が、例えば、0.05μm以上、0.1μm以上であり、その上限が、例えば、1000μm以下、100μm以下であり、その範囲が、例えば、0.05〜1000μm、0.1〜100μmである。
【0063】
本発明の空隙層の形態は、特に制限されず、例えば、フィルム形状でもよいし、ブロック形状等でもよい。
【0064】
本発明の空隙層の製造方法は、特に制限されないが、例えば、後述する製造方法により製造することができる。
【0065】
[3.表面配向性を有する化合物で表面修飾したナノ粒子]
本発明の空隙層は、前述のとおり、表面配向性を有する化合物を含む。
【0066】
前記表面配向性を有する化合物は、例えば、フッ素原子数が5〜17または5〜10のフルオロアルキル基を含んでいてもよい。前記フルオロアルキル基は、一部の水素のみがフッ素で置換されたアルキル基でもよいが、全ての水素がフッ素で置換されたアルキル基(パーフルオロアルキル基)でもよい。また、前記フルオロアルキル基は、例えば、その構造の一部にパーフルオロアルキル基を含むフルオロアルキル基でもよい。前記フルオロアルキル基におけるアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数が2〜10の直鎖または分枝アルキル基があげられる。
【0067】
また、前述のとおり、例えば、前記表面配向性を有する化合物が、アルコキシシラン誘導体であり、前記アルコキシシラン誘導体は、フッ素原子数が5〜17または5〜10のフルオロアルキル基を含んでいてもよい。前記フルオロアルキル基は、一部の水素のみがフッ素で置換されたアルキル基でもよいが、全ての水素がフッ素で置換されたアルキル基(パーフルオロアルキル基)でもよい。また、前記フルオロアルキル基は、例えば、その構造の一部にパーフルオロアルキル基を含むフルオロアルキル基でもよい。前記フルオロアルキル基におけるアルキル基としては、特に限定されないが、前述のとおり、例えば、炭素数が2〜10の直鎖または分枝アルキル基があげられる。
【0068】
前記アルコキシシラン誘導体は、例えば、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、またはテトラアルコキシシランの誘導体であってもよい。より具体的には、前記アルコキシシランの1分子中におけるアルコキシ基のうち1以上のアルキル基が、前記フルオロアルキル基に置き換わった誘導体でもよい。前記フルオロアルキル基におけるアルキル基としては、例えば前述のとおりである。また、前記アルコキシシラン誘導体の分子中において、アルキル基がフルオロアルキル基に置き換わっていないアルコキシ基は、特に限定されないが、例えば、炭素数が1〜4の直鎖または分枝アルキル基があげられ、例えば、メトキシ基等でもよい。前記アルコキシシラン誘導体としては、具体的には、例えば、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H−ノナフルオロヘキシル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル)シラン、トリエトキシ[5,5,6,6,7,7,7−ヘプタフルオロ−4,4−ビス(トリフルオロメチル)ヘプチル]シラン等があげられる。また、前記アルコキシシラン誘導体は、1種類のみ用いてもよいが複数種類併用してもよい。
【0069】
また、前記表面配向性を有する化合物の例として、前記アルコキシシラン誘導体以外には、例えば、パーフルオロ基を有し、さらに末端にヒドロキシル基やスルホン酸ナトリウム基等の親水性部位と疎水性部位とを一つの構造中に含む界面活性剤等があげられる。
【0070】
前記ナノ粒子は、特に限定されないが、例えば、シリカ粒子でもよく、より具体的には、例えば、後述するようなケイ素化合物ゲルの粉砕物等であってもよい。前記ナノ粒子の粒子径は、特に限定されないが、例えば、体積平均粒子径が、1nm以上、2nm以上、3nm以上、または5nm以上であってもよく、1000nm以下、500nm以下、200nm以下、または50nm以下であってもよい。なお、前記体積平均粒子径は、例えば、動的光散乱法、レーザー回折法等の粒度分布評価装置、および走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡等により測定することができる。
【0071】
前記ナノ粒子を、前記表面配向性を有する化合物により修飾する方法は、特に限定されず、例えば、公知の方法等を適宜用いることができる。より具体的には、例えば、前記ナノ粒子および前記表面配向性を有する化合物を、液中で加熱し、反応させればよい。前記液における媒質(分散媒)は特に限定されず、例えば、水およびアルコールがあげられ、1種類のみ用いても複数種類併用してもよい。前記アルコールとしては、例えば、IPA(イソプロピルアルコール)、IBA(イソブチルアルコール)、エタノール、メタノール等が挙げられ、またMIBK(メチルイソブチルケトン)やMEK(メチルエチルケトン)のような前記アルコール以外が含まれてもよい。前記反応の反応温度および反応時間も、特に限定されず、適宜設定可能である。
【0072】
[4.空隙層および積層体の製造方法]
本発明の空隙層および積層体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下に説明する製造方法により行うことができる。ただし、以下の説明は例示であり、本発明をなんら限定しない。なお、以下において、本発明の空隙層を製造する方法を、「本発明の空隙層の製造方法」ということがある。
【0073】
[4−1.空隙層の製造方法]
以下、本発明の空隙層の製造方法について、例を挙げて説明する。ただし、本発明の空隙層の製造方法は、以下の説明によりなんら限定されない。
【0074】
本発明の空隙層は、例えば、ケイ素化合物により形成されていてもよい。また、本発明の空隙層は、例えば、微細孔粒子同士の化学結合により形成された空隙層であってもよい。例えば、前記微細孔粒子が、ゲルの粉砕物であってもよい。そして、本発明の空隙層は、例えば、前記微細孔粒子同士の化学結合により形成された骨格に加え、前記表面配向性を有する化合物で表面修飾したナノ粒子を含んでいてもよい。
【0075】
本発明の空隙層の製造方法において、例えば、前記多孔体のゲルを粉砕するためのゲル粉砕工程は、1段階でもよいが、複数の粉砕段階に分けて行うことが好ましい。前記粉砕段階数は、特に限定されず、例えば、2段階でも良いし、3段階以上でも良い。
【0076】
なお、本発明において、「粒子」(例えば、前記ゲルの粉砕物の粒子等)の形状は、特に限定されず、例えば、球状でも良いが、非球状系等でも良い。また、本発明において、前記粉砕物の粒子は、例えば、ゾルゲル数珠状粒子、ナノ粒子(中空ナノシリカ・ナノバルーン粒子)、ナノ繊維等であっても良い。
【0077】
本発明において、例えば、前記ゲルが多孔質ゲルであることが好ましく、前記ゲルの粉砕物が多孔質であることが好ましいが、これには限定されない。
【0078】
本発明において、前記ゲル粉砕物は、例えば、粒子状、繊維状、平板状の少なくとも一つの形状を有する構造からなっていても良い。前記粒子状および平板状の構成単位は、例えば、無機物からなっていても良い。また、前記粒子状構成単位の構成元素は、例えば、Si、Mg、Al、Ti、ZnおよびZrからなる群から選択される少なくとも一つの元素を含んでいても良い。粒子状を形成する構造体(構成単位)は、実粒子でも中空粒子でもよく、具体的にはシリコーン粒子や微細孔を有するシリコーン粒子、シリカ中空ナノ粒子やシリカ中空ナノバルーン等が挙げられる。前記繊維状の構成単位は、例えば、直径がナノサイズのナノファイバーであり、具体的にはセルロースナノファイバーやアルミナナノファイバー等が挙げられる。平板状の構成単位は、例えば、ナノクレイが挙げられ、具体的にはナノサイズのベントナイト(例えばクニピアF[商品名])等が挙げられる。前記繊維状の構成単位は、特に限定されないが、例えば、カーボンナノファイバー、セルロースナノファイバー、アルミナナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、ポリマーナノファイバー、ガラスナノファイバー、およびシリカナノファイバーからなる群から選択される少なくとも一つの繊維状物質であっても良い。
【0079】
本発明の空隙層の製造方法において、前記ゲル粉砕工程(例えば、前記複数の粉砕段階であり、例えば、前記第1の粉砕段階および前記第2の粉砕段階)は、例えば、前記「他の溶媒」中で行ってもよい。なお、前記「他の溶媒」についての詳細は、後述する。
【0080】
なお、本発明において、「溶媒」(例えば、ゲル製造用溶媒、空隙層製造用溶媒、置換用溶媒等)は、ゲルまたはその粉砕物等を溶解しなくても良く、例えば、前記ゲルまたはその粉砕物等を、前記溶媒中に分散させたり沈殿させたりしても良い。
【0081】
前記第1の粉砕段階後の前記ゲルの体積平均粒子径は、例えば、0.5〜100μm、1〜100μm、1〜50μm、2〜20μm、または3〜10μmであっても良い。前記第2の粉砕段階後の前記ゲルの体積平均粒子径は、例えば、10〜1000nm、100〜500nm、または200〜300nmであっても良い。前記体積平均粒子径は、前記ゲルを含む液(ゲル含有液)における前記粉砕物の粒度バラツキを示す。前記体積平均粒子径は、例えば、動的光散乱法、レーザー回折法等の粒度分布評価装置、および走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡等により測定することができる。
【0082】
本発明の空隙層の製造方法は、例えば、塊状の多孔体を溶媒中でゲル化して前記ゲルとするゲル化工程を含む。この場合、例えば、前記複数段階の粉砕段階のうち最初の粉砕段階(例えば、前記第1の粉砕段階)において、前記ゲル化工程によりゲル化した前記ゲルを使用する。
【0083】
本発明の空隙層の製造方法は、例えば、ゲル化した前記ゲルを溶媒中で熟成する熟成工程を含む。この場合、例えば、前記複数段階の粉砕段階のうち最初の粉砕段階(例えば、前記第1の粉砕段階)において、前記熟成工程後の前記ゲルを使用する。
【0084】
本発明の空隙層の製造方法は、例えば、前記ゲル化工程後、前記溶媒を他の溶媒に置換する前記溶媒置換工程を行う。この場合、例えば、前記複数段階の粉砕段階のうち最初の粉砕段階(例えば、前記第1の粉砕段階)において、前記他の溶媒中の前記ゲルを使用する。
【0085】
本発明の空隙層の製造方法の前記複数段階の粉砕段階の少なくとも一つ(例えば、前記第1の粉砕段階および前記第2の粉砕段階の少なくとも一方)において、例えば、前記液のせん断粘度を測定しながら前記多孔体の粉砕を制御する。
【0086】
本発明の空隙層の製造方法の前記複数段階の粉砕段階の少なくとも一つ(例えば、前記第1の粉砕段階および前記第2の粉砕段階の少なくとも一方)を、例えば、高圧メディアレス粉砕により行う。
【0087】
本発明の空隙層の製造方法において、前記ゲルが、例えば、3官能以下の飽和結合官能基を少なくとも含むケイ素化合物のゲルである。
【0088】
なお、以下、本発明の空隙層の製造方法において、前記ゲル粉砕工程を含む工程により得られるゲル粉砕物含有液を「本発明のゲル粉砕物含有液」ということがある。
【0089】
本発明のゲル粉砕物含有液によれば、例えば、その塗工膜を形成し、前記塗工膜中の前記粉砕物同士を化学的に結合することで、機能性多孔体としての前記本発明の空隙層を形成できる。本発明のゲル粉砕物含有液によれば、例えば、前記本発明の空隙層を、様々な対象物に付与することができる。したがって、本発明のゲル粉砕物含有液およびその製造方法は、例えば、前記本発明の空隙層の製造において有用である。
【0090】
本発明のゲル粉砕物含有液は、例えば、極めて優れた均一性を有しているため、例えば、前記本発明の空隙層を、光学部材等の用途に適用した場合、その外観を良好にすることができる。
【0091】
本発明のゲル粉砕物含有液は、例えば、前記ゲル粉砕物含有液を基板上に塗工(コーティング)し、さらに乾燥することで、高い空隙率を有する層(空隙層)を得るための、ゲル粉砕物含有液であっても良い。また、本発明のゲル粉砕物含有液は、例えば、高空隙率多孔体(厚みが大きい、または塊状のバルク体)を得るためのゲル粉砕物含有液であっても良い。前記バルク体は、例えば、前記ゲル粉砕物含有液を用いてバルク製膜を行うことで得ることができる。
【0092】
例えば、前記本発明のゲル粉砕物含有液を製造する工程と、前記ゲル粉砕物含有液に前記表面配向性を有する化合物で表面修飾したナノ粒子を加える工程と、それを基板上に塗工して塗工膜を形成する工程と、前記塗工膜を乾燥させる工程とを含む製造方法により、高い空隙率を有する前記本発明の空隙層を製造することができる。
【0093】
また、例えば、前記本発明のゲル粉砕物含有液を製造する工程と、ロール状の前記樹脂フィルムを繰り出す工程と、繰り出された前記樹脂フィルムに前記ゲル粉砕物含有液を塗工して塗工膜を形成する工程と、前記塗工膜を乾燥させる工程と、前記乾燥させる工程後に、前記本発明の空隙層が前記樹脂フィルム上に形成された積層フィルムを巻き取る工程とを含む製造方法により、例えば、後述するず2および3に示すように、ロール状である積層フィルム(積層フィルムロール)を製造することができる。
【0094】
[4−2.ゲル粉砕物含有液及びその製造方法]
本発明のゲル粉砕物含有液は、例えば、前記ゲル粉砕工程(例えば、前記第1の粉砕段階及び前記第2の粉砕段階)により粉砕したゲルの粉砕物と、前記他の溶媒とを含む。
【0095】
本発明の空隙層の製造方法は、例えば、前述のように、前記ゲル(例えば、多孔体ゲル)を粉砕するためのゲル粉砕工程を複数段階含んでいてもよく、例えば、前記第1の粉砕段階及び前記第2の粉砕段階を含んでいてもよい。以下、主に、本発明のゲル粉砕物含有液の製造方法が前記第1の粉砕段階及び前記第2の粉砕段階を含む場合を例に挙げて説明する。以下、主に、前記ゲルが多孔体(多孔体ゲル)である場合について説明する。しかし、本発明はこれに限定されず、前記ゲルが多孔体である場合以外も、前記ゲルが多孔体(多孔体ゲル)である場合の説明を類推適用することができる。また、以下、本発明の空隙層の製造方法における前記複数の粉砕段階(例えば、前記第1の粉砕段階及び前記第2の粉砕段階)を合わせて「ゲル粉砕工程」ということがある。
【0096】
本発明のゲル粉砕物含有液は、例えば、後述するように、空気層と同様の機能(例えば、低屈折性)を奏する機能性多孔体の製造に使用できる。前記機能性多孔体は、例えば、本発明の空隙層であってもよい。具体的に、本発明の製造方法により得られるゲル粉砕物含有液は、前記多孔体ゲルの粉砕物を含んでおり、前記粉砕物は、未粉砕の前記多孔体ゲルの三次元構造が破壊され、前記未粉砕の多孔体ゲルとは異なる新たな三次元構造を形成できる。このため、例えば、前記ゲル粉砕物含有液を用いて形成した塗工膜(機能性多孔体の前駆体)は、前記未粉砕の多孔体ゲルを用いて形成される層では得られない新たな孔構造(新たな空隙構造)が形成された層となる。これによって、前記層は、空気層と同様の機能(例えば、同様の低屈折性)を奏することができる。また、本発明のゲル粉砕物含有液は、例えば、前記粉砕物が残留シラノール基を含むことにより、前記塗工膜(機能性多孔体の前駆体)として新たな三次元構造が形成された後に、前記粉砕物同士を化学的に結合させることができる。これにより、形成された機能性多孔体は、空隙を有する構造であるが、十分な強度と可撓性とを維持できる。このため、本発明によれば、容易且つ簡便に、機能性多孔体を様々な対象物に付与できる。本発明の製造方法により得られるゲル粉砕物含有液は、例えば、空気層の代替品となり得る前記多孔質構造の製造において、非常に有用である。また、前記空気層の場合、例えば、部材と部材とを、両者の間にスペーサー等を介することで間隙を設けて積層することにより、前記部材間に空気層を形成する必要があった。しかし、本発明のゲル粉砕物含有液を用いて形成される前記機能性多孔体は、これを目的の部位に配置するのみで、前記空気層と同様の機能を発揮させることができる。したがって、前述のように、前記空気層を形成するよりも、容易且つ簡便に、前記空気層と同様の機能を、様々な対象物に付与することができる。
【0097】
本発明のゲル粉砕物含有液は、例えば、前記機能性多孔体の形成用溶液、または、空隙層もしくは低屈折率層の形成用溶液ということもできる。本発明のゲル粉砕物含有液において、前記多孔体は、その粉砕物である。
【0098】
本発明のゲル粉砕物含有液において、粉砕物(多孔体ゲルの粒子)の体積平均粒子径の範囲は、例えば、10〜1000nmであり、100〜500nmであり、200〜300nmである。前記体積平均粒子径は、本発明のゲル粉砕物含有液における前記粉砕物の粒度バラツキを示す。前記体積平均粒子径は、前述のとおり、例えば、動的光散乱法、レーザー回折法等の粒度分布評価装置、および走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡等により測定することができる。
【0099】
また、本発明のゲル粉砕物含有液において、前記粉砕物のゲル濃度は、特に制限されず、例えば、粒径10〜1000nmの粒子が、2.5〜4.5重量%、2.7〜4.0重量%、2.8〜3.2重量%である。
【0100】
本発明のゲル粉砕物含有液において、前記ゲル(例えば、多孔体ゲル)は、特に制限されず、例えば、ケイ素化合物等が挙げられる。
【0101】
前記ケイ素化合物は、特に制限されないが、例えば、少なくとも3官能以下の飽和結合官能基を含むケイ素化合物が挙げられる。前記「3官能基以下の飽和結合官能基を含む」とは、ケイ素化合物が、3つ以下の官能基を有し、且つ、これらの官能基が、ケイ素(Si)と飽和結合していることを意味する。
【0102】
前記ケイ素化合物は、例えば、下記式(2)で表される化合物である。
【化2】
【0103】
前記式(2)中、例えば、Xは、2、3または4であり、
R
1およびR
2は、それぞれ、直鎖もしくは分枝アルキル基であり、
R
1およびR
2は、同一でも異なっていても良く、
R
1は、Xが2の場合、互いに同一でも異なっていても良く、
R
2は、互いに同一でも異なっていても良い。
【0104】
前記XおよびR
1は、例えば、前記式(1)におけるXおよびR
1と同じである。また、前記R
2は、例えば、後述する式(1)におけるR
1の例示が援用できる。
【0105】
前記式(2)で表されるケイ素化合物の具体例としては、例えば、Xが3である下記式(2’)に示す化合物が挙げられる。下記式(2’)において、R
1およびR
2は、それぞれ、前記式(2)と同様である。R
1およびR
2がメチル基の場合、前記ケイ素化合物は、トリメトキシ(メチル)シラン(以下、「MTMS」ともいう)である。
【化3】
【0106】
本発明のゲル粉砕物含有液において、前記溶媒としては、例えば、分散媒等が挙げられる。前記分散媒(以下、「塗工用溶媒」ともいう)は、特に制限されず、例えば、後述するゲル化溶媒および粉砕用溶媒があげられ、好ましくは前記粉砕用溶媒である。前記塗工用溶媒としては、沸点が70℃以上180℃未満であり、かつ、20℃での飽和蒸気圧が15kPa以下である有機溶媒を含む。
【0107】
前記有機溶媒としては、例えば、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、1−ペンチルアルコール(ペンタノール)、エチルアルコール(エタノール)、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ−ノルマル−ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、キシレン、クレゾール、クロロベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸ノルマル−ブチル、酢酸ノルマル−プロピル、酢酸ノルマル−ペンチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、スチレン、テトラクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、トルエン、1−ブタノール、2−ブタノール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチル−ノルマル−ブチルケトン、イソペンタノール、等が挙げられる。また、前記分散媒中には、表面張力を低下させるペルフルオロ系界面活性剤やシリコン系界面活性剤等を適量含んでもよい。
【0108】
本発明のゲル粉砕物含有液は、例えば、前記分散媒に分散させたゾル状の前記粉砕物であるゾル粒子液等が挙げられる。本発明のゲル粉砕物含有液は、例えば、基材上に塗工・乾燥した後に、後述する結合工程により化学架橋を行うことで、一定レベル以上の膜強度を有する空隙層を、連続成膜することが可能である。なお、本発明における「ゾル」とは、ゲルの三次元構造を粉砕することで、粉砕物(つまり、空隙構造の一部を保持したナノ三次元構造の多孔体ゾルの粒子)が、溶媒中に分散して流動性を示す状態をいう。
【0109】
本発明のゲル粉砕物含有液は、例えば、前記ゲルの粉砕物同士を化学的に結合させるための触媒を含んでいても良い。前記触媒の含有率は、特に限定されないが、前記ゲルの粉砕物の重量に対し、例えば、0.01〜20重量%、0.05〜10重量%、または0.1〜5重量%である。
【0110】
また、本発明のゲル粉砕物含有液は、例えば、さらに、前記ゲルの粉砕物同士を間接的に結合させるための架橋補助剤を含んでいても良い。前記架橋補助剤の含有率は、特に限定されないが、例えば、前記ゲルの粉砕物の重量に対して0.01〜20重量%、0.05〜15重量%、または0.1〜10重量%である。
【0111】
なお、本発明のゲル粉砕物含有液は、前記ゲルの構成単位モノマーの官能基のうち、ゲル内架橋構造に寄与していない官能基の割合が、例えば、30mol%以下、25mol%以下、20mol%以下、15mol%以下であっても良く、例えば、1mol%以上、2mol%以上、3mol%以上、4mol%以上であっても良い。前記ゲル内架橋構造に寄与していない官能基の割合は、例えば、下記のようにして測定することができる。
【0112】
(ゲル内架橋構造に寄与していない官能基の割合の測定方法)
ゲルを乾燥後、固体NMR(Si-NMR)を測定し、NMRのピーク比から架橋構造に寄与していない残存シラノール基(ゲル内架橋構造に寄与していない官能基)の割合を算出する。また、前記官能基がシラノール基以外の場合でも、これに準じて、NMRのピーク比からゲル内架橋構造に寄与していない官能基の割合を算出することができる。
【0113】
以下に、本発明ゲル粉砕物含有液の製造方法を、例を挙げて説明する。本発明のゲル粉砕物含有液は、特に記載しない限り、以下の説明を援用できる。
【0114】
本発明のゲル粉砕物含有液の製造方法において、混合工程は、前記多孔体ゲルの粒子(粉砕物)と前記溶媒とを混合する工程であり、あってもよいし、なくてもよい。前記混合工程の具体例としては、例えば、少なくとも3官能以下の飽和結合官能基を含むケイ素化合物から得られたゲル状のケイ素化合物(ケイ素化合物ゲル)の粉砕物と分散媒とを混合する工程が挙げられる。本発明において、前記多孔体ゲルの粉砕物は、後述するゲル粉砕工程により、前記多孔体ゲルから得ることができる。また、前記多孔体ゲルの粉砕物は、例えば、後述する熟成工程を施した熟成処理後の前記多孔体ゲルから得ることができる。
【0115】
本発明のゲル粉砕物含有液の製造方法において、ゲル化工程は、例えば、塊状の多孔体を溶媒中でゲル化して前記多孔体ゲルとする工程であり、前記ゲル化工程の具体例としては、例えば、前記少なくとも3官能以下の飽和結合官能基を含むケイ素化合物を溶媒中でゲル化して、ケイ素化合物ゲルを生成する工程である。
【0116】
以下では、前記ゲル化工程を、前記多孔体が、ケイ素化合物である場合を例にとって説明する。
【0117】
前記ゲル化工程は、例えば、モノマーの前記ケイ素化合物を、脱水縮合触媒の存在下、脱水縮合反応によりゲル化する工程であり、これによって、ケイ素化合物ゲルが得られる。前記ケイ素化合物ゲルは、例えば、残留シラノール基を有し、前記残留シラノール基は、後述する前記ケイ素化合物ゲルの粉砕物同士の化学的な結合に応じて、適宜、調整することが好ましい。
【0118】
前記ゲル化工程において、前記ケイ素化合物は、特に制限されず、脱水縮合反応によりゲル化するものであればよい。前記脱水縮合により、例えば、前記ケイ素化合物間が結合される。前記ケイ素化合物間の結合は、例えば、水素結合または分子間力結合である。
【0119】
前記ケイ素化合物は、例えば、下記式(1)で表されるケイ素化合物が挙げられる。前記式(1)のケイ素化合物は、水酸基を有するため、前記式(1)のケイ素化合物間は、例えば、それぞれの水酸基を介して、水素結合または分子間力結合が可能である。
【0121】
前記式(1)中、例えば、Xは、2、3または4であり、R
1は、直鎖もしくは分枝アルキル基、である。前記R
1の炭素数は、例えば、1〜6、1〜4、1〜2である。前記直鎖アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、前記分枝アルキル基は、例えば、イソプロピル基、イソブチル基等が挙げられる。前記Xは、例えば、3または4である。
【0122】
前記式(1)で表されるケイ素化合物の具体例としては、例えば、Xが3である下記式(1’)に示す化合物が挙げられる。下記式(1’)において、R
1は、前記式(1)と同様であり、例えば、メチル基である。R
1がメチル基の場合、前記ケイ素化合物は、トリス(ヒドロキシ)メチルシランである。前記Xが3の場合、前記ケイ素化合物は、例えば、3つの官能基を有する3官能シランである。
【0124】
また、前記式(1)で表されるケイ素化合物の具体例としては、例えば、Xが4である化合物が挙げられる。この場合、前記ケイ素化合物は、例えば、4つの官能基を有する4官能シランである。
【0125】
前記ケイ素化合物は、例えば、加水分解により前記式(1)のケイ素化合物を形成する前駆体でもよい。前記前駆体としては、例えば、加水分解により前記ケイ素化合物を生成できるものであればよく、具体例として、前記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0126】
前記ケイ素化合物が前記式(2)で表される前駆体の場合、本発明の製造方法は、例えば、前記ゲル化工程に先立って、前記前駆体を加水分解する工程を含んでもよい。
【0127】
前記加水分解の方法は、特に制限されず、例えば、触媒存在下での化学反応により行うことができる。前記触媒としては、例えば、シュウ酸、酢酸等の酸等が挙げられる。前記加水分解反応は、例えば、シュウ酸の水溶液を、前記ケイ素化合物前駆体のジメチルスルホキシド溶液に、室温環境下でゆっくり滴下混合させた後に、そのまま30分程度撹拌することで行うことができる。前記ケイ素化合物前駆体を加水分解する際は、例えば、前記ケイ素化合物前駆体のアルコキシ基を完全に加水分解することで、その後のゲル化・熟成・空隙構造形成後の加熱・固定化を、さらに効率良く発現することができる。
【0128】
本発明において、前記ケイ素化合物は、例えば、トリメトキシ(メチル)シランの加水分解物が例示できる。
【0129】
前記モノマーのケイ素化合物は、特に制限されず、例えば、製造する機能性多孔体の用途に応じて、適宜選択できる。前記機能性多孔体の製造において、前記ケイ素化合物は、例えば、低屈折率性を重視する場合、低屈折率性に優れる点から、前記3官能シランが好ましく、また、強度(例えば、耐擦傷性)を重視する場合は、耐擦傷性に優れる点から、前記4官能シランが好ましい。また、前記ケイ素化合物ゲルの原料となる前記ケイ素化合物は、例えば、一種類のみを使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。具体例として、前記ケイ素化合物として、例えば、前記3官能シランのみを含んでもよいし、前記4官能シランのみを含んでもよいし、前記3官能シランと前記4官能シランの両方を含んでもよいし、さらに、その他のケイ素化合物を含んでもよい。前記ケイ素化合物として、二種類以上のケイ素化合物を使用する場合、その比率は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0130】
前記ケイ素化合物等の多孔体のゲル化は、例えば、前記多孔体間の脱水縮合反応により行うことができる。前記脱水縮合反応は、例えば、触媒存在下で行うことが好ましく、前記触媒としては、例えば、塩酸、シュウ酸、硫酸等の酸触媒、およびアンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム等の塩基触媒等の、脱水縮合触媒が挙げられる。前記脱水縮合触媒は、酸触媒でも塩基触媒でも良いが、塩基触媒が好ましい。前記脱水縮合反応において、前記多孔体に対する前記触媒の添加量は、特に制限されず、前記多孔体1モルに対して、触媒は、例えば、0.01〜10モル、0.05〜7モル、0.1〜5モルである。
【0131】
前記ケイ素化合物等の多孔体のゲル化は、例えば、溶媒中で行うことが好ましい。前記溶媒における前記多孔体の割合は、特に制限されない。前記溶媒は、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、γ−ブチルラクトン(GBL)、アセトニトリル(MeCN)、エチレングリコールエチルエーテル(EGEE)等が挙げられる。前記溶媒は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記ゲル化に使用する溶媒を、以下、「ゲル化用溶媒」ともいう。
【0132】
前記ゲル化の条件は、特に制限されない。前記多孔体を含む前記溶媒に対する処理温度は、例えば、20〜30℃、22〜28℃、24〜26℃であり、処理時間は、例えば、1〜60分、5〜40分、10〜30分である。前記脱水縮合反応を行う場合、その処理条件は、特に制限されず、これらの例示を援用できる。前記ゲル化を行うことで、前記多孔体がケイ素化合物である場合、例えば、シロキサン結合が成長し、前記ケイ素化合物の一次粒子が形成され、さらに反応が進行することで、前記一次粒子同士が、数珠状に連なり三次元構造のゲルが生成される。
【0133】
前記ゲル化工程において得られる前記多孔体のゲル形態は、特に制限されない。「ゲル」とは、一般に、溶質が、相互作用のために独立した運動性を失って集合した構造をもち、固化した状態をいう。また、ゲルの中でも、一般に、ウェットゲルは、分散媒を含み、分散媒中で溶質が一様な構造をとるものをいい、キセロゲルは、溶媒が除去されて、溶質が、空隙を持つ網目構造をとるものをいう。本発明において、前記ケイ素化合物ゲルは、例えば、ウェットゲルを用いることが好ましい。前記多孔体ゲルがケイ素化合物ゲルである場合、前記ケイ素化合物ゲルの残量シラノール基は、特に制限されず、例えば、後述する範囲が同様に例示できる。
【0134】
前記ゲル化により得られた前記多孔体ゲルは、例えば、このまま前記溶媒置換工程および前記第1の粉砕段階に供してもよいが、前記第1の粉砕段階に先立ち、前記熟成工程において熟成処理を施してもよい。前記熟成工程は、ゲル化した前記多孔体(多孔体ゲル)を溶媒中で熟成する。前記熟成工程において、前記熟成処理の条件は、特に制限されず、例えば、前記多孔体ゲルを、溶媒中、所定温度でインキュベートすればよい。前記熟成処理によれば、例えば、ゲル化で得られた三次元構造を有する多孔体ゲルについて、前記一次粒子をさらに成長させることができ、これによって前記粒子自体のサイズを大きくすることが可能である。そして、結果的に、前記粒子同士が接触しているネック部分の接触状態を、例えば、点接触から面接触に増やすことができる。上記のような熟成処理を行った多孔体ゲルは、例えば、ゲル自体の強度が増加し、結果的には、粉砕を行った後の前記粉砕物の三次元基本構造の強度をより向上できる。これにより、前記本発明のゲル粉砕物含有液を用いて塗工膜を形成した場合、例えば、塗工後の乾燥工程においても、前記三次元基本構造が堆積した空隙構造の細孔サイズが、前記乾燥工程において生じる前記塗工膜中の溶媒の揮発に伴って、収縮することを抑制できる。
【0135】
前記熟成処理の温度は、その下限が、例えば、30℃以上、35℃以上、40℃以上であり、その上限が、例えば、80℃以下、75℃以下、70℃以下であり、その範囲が、例えば、30〜80℃、35〜75℃、40〜70℃である。前記所定の時間は、特に制限されず、その下限が、例えば、5時間以上、10時間以上、15時間以上であり、その上限が、例えば、50時間以下、40時間以下、30時間以下であり、その範囲が、例えば、5〜50時間、10〜40時間、15〜30時間である。なお、熟成の最適な条件については、例えば、前述したように、前記多孔体ゲルにおける、前記一次粒子のサイズの増大、および前記ネック部分の接触面積の増大が得られる条件に設定することが好ましい。また、前記熟成工程において、前記熟成処理の温度は、例えば、使用する溶媒の沸点を考慮することが好ましい。前記熟成処理は、例えば、熟成温度が高すぎると、前記溶媒が過剰に揮発してしまい、前記塗工液の濃縮により、三次元空隙構造の細孔が閉口する等の不具合が生じる可能性がある。一方で、前記熟成処理は、例えば、熟成温度が低すぎると、前記熟成による効果が十分に得られず、量産プロセスの経時での温度バラツキが増大することとなり、品質に劣る製品ができる可能性がある。
【0136】
前記熟成処理は、例えば、前記ゲル化工程と同じ溶媒を使用でき、具体的には、前記ゲル処理後の反応物(つまり、前記多孔体ゲルを含む前記溶媒)に対して、そのまま施すことが好ましい。前記多孔体ゲルが、前記ケイ素化合物ゲルである場合、ゲル化後の熟成処理を終えた前記ケイ素化合物ゲルに含まれる残留シラノール基のモル数は、例えば、ゲル化に使用した原材料(例えば、前記ケイ素化合物またはその前駆体)のアルコキシ基のモル数を100とした場合の残留シラノール基の割合であり、その下限が、例えば、50%以上、40%以上、30%以上であり、その上限が、例えば、1%以下、3%以下、5%以下であり、その範囲が、例えば、1〜50%、3〜40%、5〜30%である。前記ケイ素化合物ゲルの硬度を上げる目的では、例えば、残留シラノール基のモル数が低いほど好ましい。残留シラノール基のモル数が高すぎると、例えば、前記機能性多孔体の形成において、前記機能性多孔体の前駆体が架橋されるまでに、空隙構造を保持できなくなる可能性がある。一方で、残留シラノール基のモル数が低すぎると、例えば、前記結合工程において、前記機能性多孔体の前駆体を架橋できなくなり、十分な膜強度を付与できなくなる可能性がある。なお、上記は、残留シラノール基の例であるが、例えば、前記ケイ素化合物ゲルの原材料として、前記ケイ素化合物を各種反応性官能基で修飾したものを使用する場合は、各々の官能基に対しても、同様の現象を適用できる。
【0137】
前記ゲル化により得られた前記多孔体ゲルは、例えば、前記熟成工程において熟成処理を施した後、溶媒置換工程を施し、さらにその後、前記ゲル粉砕工程に供する。前記溶媒置換工程は、前記溶媒を他の溶媒に置換する。
【0138】
本発明において、前記ゲル粉砕工程は、前述のように、前記多孔体ゲルを粉砕する工程である。前記粉砕は、例えば、前記ゲル化工程後の前記多孔体ゲルに施してもよいし、さらに、前記熟成処理を施した前記熟成後の多孔体ゲルに施してもよい。
【0139】
また、前述のとおり、前記溶媒置換工程に先立ち(例えば、前記熟成工程後に)、前記ゲルの形状および大きさを制御するゲル形態制御工程を行っても良い。前記ゲル形態制御工程において制御する前記ゲルの形状および大きさは、特に限定されないが、例えば、前述のとおりである。前記ゲル形態制御工程は、例えば、前記ゲルを、適切な大きさおよび形状の立体(3次元体)に分割する(例えば、切り分ける)ことにより行っても良い。
【0140】
さらに、前述のとおり、前記ゲルに前記溶媒置換工程を施してから前記ゲル粉砕工程を行なう。前記溶媒置換工程は、前記溶媒を他の溶媒に置換する。前記溶媒を前記他の溶媒に置換しないと、例えば、ゲル化工程で使用した触媒および溶媒が、前記熟成工程後も残存することで、さらに経時にゲル化が生じて最終的に得られるゲル粉砕物含有液のポットライフに影響するおそれ、前記ゲル粉砕物含有液を用いて形成した塗工膜を乾燥した際の乾燥効率が低下するおそれ等があるためである。なお、前記ゲル粉砕工程における前記他の溶媒を、以下、「粉砕用溶媒」ともいう。
【0141】
前記粉砕用溶媒(他の溶媒)は、特に制限されず、例えば、有機溶媒が使用できる。前記有機溶媒は、例えば、沸点140℃以下、130℃以下、沸点100℃以下、沸点85℃以下の溶媒が挙げられる。具体例としては、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、メタノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、ペンチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、メチルセロソルブ、アセトン等が挙げられる。前記粉砕用溶媒は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上の併用でもよい。
【0142】
また、前記粉砕用溶媒の極性が低い場合等は、例えば、前記溶媒置換工程を複数の溶媒置換段階に分けて行ない、前記溶媒置換段階において、後に行う段階の方が、先に行う段階よりも、前記他の溶媒の親水性が低くなるようにしても良い。このようにすることで、例えば、溶媒置換効率を向上させ、前記ゲル中のゲル製造用溶媒(例えばDMSO)の残存量をきわめて低くすることも可能である。具体例として、例えば、前記溶媒置換工程を3段階の溶媒置換段階に分けて行ない、第1の溶媒置換段階で、ゲル中のDMSOをまず水に置換し、つぎに、第2の溶媒置換段階で、ゲル中の前記水をIPAに置換し、さらに、第3の置換段階で、ゲル中の前記IPAをイソブチルアルコールに置換しても良い。
【0143】
前記ゲル化用溶媒と前記粉砕用溶媒との組合せは、特に制限されず、例えば、DMSOとIPAとの組合せ、DMSOとエタノールとの組合せ、DMSOとイソブチルアルコールとの組合せ、DMSOとn−ブタノールとの組合せ等が挙げられる。このように、前記ゲル化用溶媒を前記破砕用溶媒に置換することで、例えば、後述する塗膜形成において、より均一な塗工膜を形成することができる。
【0144】
前記溶媒置換工程は、特に限定されないが、例えば、以下のようにして行うことができる。すなわち、まず、前記ゲル製造工程により製造したゲル(例えば、前記熟成処理後のゲル)を、前記他の溶媒に浸漬もしくは接触させ、前記ゲル中のゲル製造用触媒、縮合反応で生成したアルコール成分、水等を、前記他の溶媒中に溶解させる。その後、前記ゲルを浸漬もしくは接触させた溶媒を捨てて、新たな溶媒に再度前記ゲルを浸漬もしくは接触させる。これを、前記ゲル中のゲル製造用溶媒の残存量が、所望の量となるまで繰り返す。1回あたりの浸漬時間は、例えば0.5時間以上、1時間以上、または1.5時間以上であり、上限値は特に限定されないが、例えば10時間以下である。また上記溶媒の浸漬は前記溶媒のゲルへの連続的な接触で対応してもよい。また、前記浸漬中の温度は特に限定されないが、例えば20〜70℃、25〜65℃、または30〜60℃であっても良い。加熱を行なうと溶媒置換が早く進行し、置換させるのに必要な溶媒量が少なくて済むが、室温で簡便に溶媒置換を行なってもよい。また、例えば、前記溶媒置換工程を複数の溶媒置換段階に分けて行なう場合は、前記複数の溶媒置換段階のそれぞれを、前述のようにして行っても良い。
【0145】
前記溶媒置換工程を、複数の溶媒置換段階に分けて行い、後に行う段階の方が、先に行う段階よりも、前記他の溶媒の親水性が低い場合、前記他の溶媒(置換用溶媒)は、特に限定されない。最後に行う前記溶媒置換段階においては、前記他の溶媒(置換用溶媒)が空隙層製造用溶媒であることが好ましい。前記空隙層製造用溶媒としては、例えば、沸点140℃以下の溶媒が挙げられる。また、前記空隙層製造用溶媒としては、例えば、アルコール、エーテル、ケトン、エステル系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒等が挙げられる。沸点140℃以下のアルコールの具体例としては、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、メタノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール(IBA)、1−ペンタノール、2−ペンタノール等が挙げられる。沸点140℃以下のエーテルの具体例としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等が挙げられる。沸点140℃以下のケトンの具体例としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン等が挙げられる。沸点140℃以下のエステル系溶媒の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸ノルマルプロピル等が挙げられる。沸点140℃以下の脂肪族炭化水素系溶媒の具体例としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等が挙げられる。沸点140℃以下の芳香族系溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、アニソール等が挙げられる。塗工時において、基材(例えば樹脂フィルム)を侵食しにくいという観点からは、前記空隙層製造用溶媒は、アルコール、エーテルまたは脂肪族炭化水素系溶媒が好ましい。また、前記粉砕用溶媒は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上の併用でもよい。特には、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール(IBA)、ペンチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、メチルセロソルブ、ヘプタン、オクタンが室温での低揮発性の面から好ましい。特に、ゲルの材質である粒子(例えばシリカ化合物)の飛散を抑制するためには、前記空隙層製造用溶媒の飽和蒸気圧が高すぎない(揮発性が高すぎない)ことが好ましい。そのような溶媒としては、例えば、炭素数3または4以上の脂肪族基を有する溶媒が好ましく、炭素数4以上の脂肪族基を有する溶媒がより好ましい。前記炭素数3または4以上の脂肪族基を有する溶媒は、例えば、アルコールであっても良い。そのような溶媒として、具体的には、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、イソブチルアルコール(IBA)、n−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノールが好ましく、特に、イソブチルアルコール(IBA)が好ましい。
【0146】
最後に行う前記溶媒置換段階以外における前記他の溶媒(置換用溶媒)は、特に限定されないが、例えば、アルコール、エーテル、ケトン等が挙げられる。アルコールの具体例としては、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、メタノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール(IBA)、ペンチルアルコール等が挙げられる。エーテルの具体例としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等が挙げられる。ケトンの具体例としては、例えば、アセトン等が挙げられる。前記他の溶媒(置換用溶媒)は、前記ゲル製造用溶媒またはその前の段階における前記他の溶媒(置換用溶媒)を置換可能であれば良い。また、最後に行う前記溶媒置換段階以外における前記他の溶媒(置換用溶媒)は、最終的にゲル中に残留しないか、または、残留しても塗工時において、基材(例えば樹脂フィルム)を侵食しにくい溶媒が好ましい。塗工時において、基材(例えば樹脂フィルム)を侵食しにくいという観点からは、最後に行う前記溶媒置換段階以外における前記他の溶媒(置換用溶媒)は、アルコールが好ましい。このように、前記複数の溶媒置換段階の少なくとも一つにおいて、前記他の溶媒がアルコールであることが好ましい。
【0147】
最初に行う前記溶媒置換段階において、前記他の溶媒は、例えば、水もしくは水を任意の割合で含んでいる混合溶媒であっても良い。水もしくは水を含む混合溶媒であれば、親水性が高いゲル製造用溶媒(例えばDMSO)との相溶性が高いため、前記ゲル製造用溶媒を置換しやすく、また、コスト面からも好ましい。
【0148】
前記複数の溶媒置換段階は、前記他の溶媒が水である段階と、その後に行う、前記他の溶媒が炭素数3以下の脂肪族基を有する溶媒である段階と、さらにその後に行う、前記他の溶媒が炭素数4以上の脂肪族基を有する溶媒である段階と、を含んていても良い。また、前記炭素数3以下の脂肪族基を有する溶媒と、前記炭素数4以上の脂肪族基を有する溶媒との少なくとも一つが、アルコールであっても良い。炭素数3以下の脂肪族基を有するアルコールは、特に限定されないが、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、メタノール、n−プロピルアルコール等が挙げられる。炭素数4以上の脂肪族基を有するアルコールは、特に限定されないが、例えば、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール(IBA)、ペンチルアルコール等が挙げられる。例えば、前記炭素数3以下の脂肪族基を有する溶媒が、イソプロピルアルコールであり、前記炭素数4以上の脂肪族基を有する溶媒が、イソブチルアルコールであっても良い。
【0149】
本発明者らは、例えば、200℃以下の比較的マイルドな条件で膜強度のある空隙層を形成させるため、前記ゲル製造用溶媒の残存量に着眼することが非常に重要であることを見出した。この知見は、前記特許文献および非特許文献を含めた先行技術には示されておらず、本発明者らが独自に見出した知見である。
【0150】
このように、ゲル中のゲル製造用溶媒の残存量を低減することで低屈折率の空隙層を製造できる理由(メカニズム)は不明であるが、例えば、以下のように推測される。すなわち、前述のとおり、ゲル製造用溶媒は、ゲル化反応進行のため、高沸点溶媒(例えばDMSO等)が好ましい。そして、前記ゲルから製造されたゾル液を塗工乾燥して空隙層を製造する際に、通常の乾燥温度および乾燥時間(特には限定されないが、例えば、100℃で1分等)では、前記高沸点溶媒を完全に除去することは困難である。乾燥温度が高すぎる、または乾燥時間が長すぎると、基材の劣化等の問題が生じる恐れがあるためである。そして、前記塗工乾燥時に残留した前記高沸点溶媒が、前記ゲルの粉砕物同士の間に入り込み、前記粉砕物同士を滑らせ、前記粉砕物同士が密に堆積してしまい空隙率が少なくなるため、低屈折率が発現しにくいと推測される。すなわち、逆に、前記高沸点溶媒の残存量を少なくすれば、そのような現象を抑制でき、低屈折率が発現可能と考えられる。ただし、これらは、推測されるメカニズムの一例であり、本発明をなんら限定しない。
【0151】
なお、本発明において、「溶媒」(例えば、ゲル製造用溶媒、空隙層製造用溶媒、置換用溶媒等)は、ゲルまたはその粉砕物等を溶解しなくても良く、例えば、前記ゲルまたはその粉砕物等を、前記溶媒中に分散させたり沈殿させたりしても良い。
【0152】
前記ゲル製造用溶媒は、前述のとおり、例えば、沸点が140℃以上であっても良い。
【0153】
前記ゲル製造用溶媒は、例えば、水溶性溶媒である。なお、本発明において、「水溶性溶媒」は、水と任意の比率で混合可能な溶媒をいう。
【0154】
前記溶媒置換工程を、複数の溶媒置換段階に分けて行う場合、その方法は特に限定されないが、それぞれの溶媒置換段階を、例えば、以下のようにして行うことができる。すなわち、まず、前記ゲルを、前記他の溶媒に浸漬もしくは接触させ、前記ゲル中のゲル製造用触媒、縮合反応で生成したアルコール成分、水等を、前記他の溶媒中に溶解させる。その後、前記ゲルを浸漬もしくは接触させた溶媒を捨てて、新たな溶媒に再度前記ゲルを浸漬もしくは接触させる。これを、前記ゲル中のゲル製造用溶媒の残存量が、所望の量となるまで繰り返す。1回あたりの浸漬時間は、例えば0.5時間以上、1時間以上、または1.5時間以上であり、上限値は特に限定されないが、例えば10時間以下である。また上記溶媒の浸漬は前記溶媒のゲルへの連続的な接触で対応してもよい。また、前記浸漬中の温度は特に限定されないが、例えば20〜70℃、25〜65℃、または30〜60℃であっても良い。加熱を行なうと溶媒置換が早く進行し、置換させるのに必要な溶媒量が少なくて済むが、室温で簡便に溶媒置換を行なってもよい。この溶媒置換段階を、前記他の溶媒(置換用溶媒)を、徐々に親水性が高い溶媒から親水性が低い(疎水性が高い)溶媒に変えて、複数回行う。親水性が高いゲル製造用溶媒(例えばDMSO等)を除くためには、例えば、前述のとおり、最初に水を置換用溶媒として用いることが、簡易的かつ効率が良い。そして、水でDMSO等を除いたあと、ゲル中の水を、例えば、イソプロピルアルコール⇒イソブチルアルコール(塗工用溶媒)の順番で置換する。すなわち、水とイソブチルアルコールは相溶性が低いため、イソプロピルアルコールに一度置換後、塗工溶媒であるイソブチルアルコールに置換することで、効率よく溶媒置換を行うことができる。ただし、これは一例であり、前述のとおり、前記他の溶媒(置換用溶媒)は、特に限定されない。
【0155】
本発明において、ゲルの製造方法は、例えば、前述のとおり、前記溶媒置換段階を、前記他の溶媒(置換用溶媒)を、徐々に親水性が高い溶媒から親水性が低い(疎水性が高い)溶媒に変えて、複数回行ってもよい。これによれば、前述のとおり、前記ゲル中のゲル製造用溶媒の残存量を、きわめて低くすることができる。それだけでなく、例えば、塗工用溶媒のみを用いて1段階で溶媒置換を行うよりも、溶媒の使用量をきわめて少なく抑え、低コスト化することも可能である。
【0156】
そして、前記溶媒置換工程後に、前記ゲルを前記粉砕用溶媒中で粉砕する、ゲル粉砕工程を行なう。また、例えば、前述のとおり、前記溶媒置換工程後、前記ゲル粉砕工程に先立ち、必要に応じ、ゲル濃度測定を行なっても良く、さらにその後、必要に応じ、前記ゲル濃度調整工程を行なっても良い。前記溶媒置換工程後前記ゲル粉砕工程前のゲル濃度測定は、例えば、以下のようにして行うことができる。すなわち、まず、前記溶媒置換工程後、前記他の溶媒(粉砕用溶媒)中からゲルを取り出す。このゲルは、例えば、前記ゲル形態制御工程により、適切な形状および大きさ(例えば、ブロック状)の塊に制御されている。次に、前記ゲルの塊の周囲に付着する溶媒を除去した後、重量乾燥法にて一つのゲルの塊に占める固形分濃度を測定する。この時、測定値の再現性をとるために、測定を、ランダムに取り出した複数(例えば6つ)の塊で行ない、その平均値と値のバラつきを算出する。前記濃度調整工程は、例えば、さらに前記他の溶媒(粉砕用溶媒)を加えることにより、前記ゲル含有液のゲル濃度を低下させても良い。また、前記濃度調整工程は、逆に、前記他の溶媒(粉砕用溶媒)を蒸発させることにより、前記ゲル含有液のゲル濃度を上昇させても良い。
【0157】
本発明のゲル粉砕物含有液の製造方法では、前述の通り、前記ゲル粉砕工程を、1段階で行なってもよいが、複数の粉砕段階に分けて行うことが好ましい。具体的には、例えば、前記第1の粉砕段階及び前記第2の粉砕段階を行なってもよい。また、前記ゲル粉砕工程は、前記第1の粉砕段階及び前記第2の粉砕段階に加えて、さらにゲル粉砕工程を施してもよい。すなわち、本発明の製造方法において、前記ゲル粉砕工程は、2段階の粉砕段階のみに限定されず、3段階以上の粉砕段階を含んでもよい。
【0158】
以上のようにして、前記微細孔粒子(ゲル状化合物の粉砕物)を含む液(例えば懸濁液)を作製することができる。さらに、前記微細孔粒子を含む液を作製した後に、または作製工程中に、前記微細孔粒子どうしを化学的に結合させる触媒を加えることにより、前記微細孔粒子および前記触媒を含む含有液を作製することができる。前記触媒の添加量は、特に限定されないが、前記ゲル状ケイ素化合物の粉砕物の重量に対し、例えば、0.01〜20重量%、0.05〜10重量%、または0.1〜5重量%である。前記触媒は、例えば、前記微細孔粒子同士の架橋結合を促進する触媒であっても良い。前記微細孔粒子どうしを化学的に結合させる化学反応としては、シリカゾル分子に含まれる残留シラノール基の脱水縮合反応を利用することが好ましい。シラノール基の水酸基同士の反応を前記触媒で促進することで、短時間で空隙構造を硬化させる連続成膜が可能である。前記触媒としては、例えば、光活性触媒および熱活性触媒が挙げられる。前記光活性触媒によれば、例えば、前記空隙層形成工程において、加熱によらずに前記微細孔粒子どうしを化学的に結合(例えば架橋結合)させることができる。これによれば、例えば、前記空隙層形成工程において、前記空隙層全体の収縮が起こりにくいため、より高い空隙率を維持できる。また、前記触媒に加え、またはこれに代えて、触媒を発生する物質(触媒発生剤)を用いても良い。例えば、前記光活性触媒に加え、またはこれに代えて、光により触媒を発生する物質(光触媒発生剤)を用いても良いし、前記熱活性触媒に加え、またはこれに代えて、熱により触媒を発生する物質(熱触媒発生剤)を用いても良い。前記光触媒発生剤としては、特に限定されないが、例えば、光塩基発生剤(光照射により塩基性触媒を発生する物質)、光酸発生剤(光照射により酸性触媒を発生する物質)等が挙げられ、光塩基発生剤が好ましい。前記光塩基発生剤としては、例えば、9−アントリルメチル N,N−ジエチルカルバメート(9-anthrylmethyl N,N-diethylcarbamate、商品名WPBG−018)、(E)−1−[3−(2−ヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]ピペリジン((E)-1-[3-(2-hydroxyphenyl)-2-propenoyl]piperidine、商品名WPBG−027)、1−(アントラキノン−2−イル)エチル イミダゾールカルボキシレート(1-(anthraquinon-2-yl)ethyl imidazolecarboxylate、商品名WPBG−140)、2−ニトロフェニルメチル 4−メタクリロイルオキシピペリジン−1−カルボキシラート(商品名WPBG−165)、1,2−ジイソプロピル−3−〔ビス(ジメチルアミノ)メチレン〕グアニジウム 2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナート(商品名WPBG−266)、1,2−ジシクロヘキシル−4,4,5,5−テトラメチルビグアニジウム n−ブチルトリフェニルボラート(商品名WPBG−300)、および2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(東京化成工業株式会社)、4-ピペリジンメタノールを含む化合物(商品名HDPD-PB100:ヘレウス社製)等が挙げられる。なお、前記「WPBG」を含む商品名は、いずれも和光純薬工業株式会社の商品名である。前記光酸発生剤としては、例えば、芳香族スルホニウム塩(商品名SP-170:ADEKA社)、トリアリールスルホニウム塩(商品名CPI101A:サンアプロ社)、芳香族ヨードニウム塩(商品名Irgacure250:チバ・ジャパン社)等が挙げられる。また、前記微細孔粒子どうしを化学的に結合させる触媒は、前記光活性触媒および前記光触媒発生剤に限定されず、例えば、熱活性触媒または熱触媒発生剤でも良い。前記微細孔粒子どうしを化学的に結合させる触媒は、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム等の塩基触媒、塩酸、酢酸、シュウ酸等の酸触媒等が挙げられる。これらの中で、塩基触媒が好ましい。前記微細孔粒子どうしを化学的に結合させる触媒もしくは触媒発生剤は、例えば、前記粉砕物(微細孔粒子)を含むゾル粒子液(例えば懸濁液)に、塗工直前に添加して使用する、または前記触媒もしくは触媒発生剤を溶媒に混合した混合液として使用することができる。前記混合液は、例えば、前記ゾル粒子液に直接添加して溶解した塗工液、前記触媒もしくは触媒発生剤を溶媒に溶解した溶液、または、前記触媒もしくは触媒発生剤を溶媒に分散した分散液でもよい。前記溶媒は、特に制限されず、例えば、水、緩衝液等が挙げられる。
【0159】
また、例えば、さらに、前記微細孔粒子を含む液を作製した後に、前記微細孔粒子含有液中に高沸点溶剤を微量添加することにより、塗工による膜形成時の膜外観を向上させることが可能となる。前記高沸点溶剤量は、特に限定されないが、前記微細孔粒子含有液の固形分量に対し、例えば0.05倍〜0.8倍量、0.1〜0.5倍量、特には0.15倍〜0.4倍量である。前記高沸点溶剤としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、γ−ブチルラクトン(GBL)、エチレングリコールエチルエーテル(EGEE)などが挙げられる。特には沸点110℃以上の溶剤が好ましく前記具体例に限定されない。前記高沸点溶剤は、粒子が並んで形成される膜形成時にレベリング剤代わりに作用していると考えられる。ゲル合成時も前記高沸点溶剤を使用することが好ましい。しかしながら、合成時の使用した溶剤は完全に除去した後に、前記微細孔粒子を含有する液を作製後に改めて前記高沸点溶剤を添加する方が詳細は不明であるが効率的に作用しやすい。ただし、これらのメカニズムは例示であって、本発明をなんら限定しない。
【0160】
そして、製造したゲル粉砕物含有液に、前記表面配向性を有する化合物で表面修飾したナノ粒子を加え、これを本発明の空隙層の製造に用いることができる。このとき、例えば、前述のとおり、前記ナノ粒子が、前記空隙層の骨格成分に対し、例えば10〜50質量%、15〜40質量%、または20〜30質量%となる割合で前記ナノ粒子を加えればよい。
【0161】
[4−3.空隙層、積層体、および粘接着層の製造方法]
以下に、本発明の積層体の製造方法を、前記積層体を構成する本発明の空隙層の製造方法および粘接着層の製造方法と併せて、例を挙げて説明する。以下においては、主に、前記本発明の空隙層が、ケイ素化合物により形成されたシリコーン多孔体である場合について説明する。しかし、本発明の空隙層は、シリコーン多孔体のみに限定されない。本発明の空隙層がシリコーン多孔体以外である場合においては、特に断らない限り、以下の説明を準用できる。また、以下において、本発明の空隙層の製造に用いるゲル粉砕物含有液は、特に断らない限り、前記表面配向性を有する化合物で表面修飾したナノ粒子を含んでいるものとする。前記表面配向性を有する化合物で表面修飾したナノ粒子は、例えば、前述のとおり、前記ゲル粉砕物含有液の製造後に、前記ゲル粉砕物含有液に加えることができる。
【0162】
本発明の空隙層の製造方法は、例えば、前記本発明のゲル粉砕物含有液を用いて、前記空隙層の前駆体を形成する前駆体形成工程、および、前記前駆体に含まれる前記ゲル粉砕物含有液の前記粉砕物同士を化学的に結合させる結合工程を含む。前記前駆体は、例えば、塗工膜ということもできる。
【0163】
本発明の空隙層の製造方法によれば、例えば、空気層と同様の機能を奏する多孔質構造が形成される。その理由は、例えば、以下のように推測されるが、本発明は、この推測には制限されない。以下、本発明の空隙層がシリコーン多孔体である場合を例に挙げて説明する。
【0164】
前記シリコーン多孔体の製造方法で使用する前記本発明のゲル粉砕物含有液は、前記ケイ素化合物ゲルの粉砕物を含むことから、前記ゲル状シリカ化合物の三次元構造が、三次元基本構造に分散された状態となっている。このため、前記シリコーン多孔体の製造方法では、例えば、前記ゲル粉砕物含有液を用いて前記前駆体(例えば、塗工膜)を形成すると、前記三次元基本構造が堆積され、前記三次元基本構造に基づく空隙構造が形成される。つまり、前記シリコーン多孔体の製造方法によれば、前記ケイ素化合物ゲルの三次元構造とは異なる、前記三次元基本構造の前記粉砕物から形成された新たな三次元構造が形成される。また、前記シリコーン多孔体の製造方法においては、さらに、前記粉砕物同士の化学的に結合させるため、前記新たな三次元構造が固定化される。このため、前記シリコーン多孔体の製造方法により得られる前記シリコーン多孔体は、空隙を有する構造であるが、十分な強度と可撓性とを維持できる。本発明により得られる空隙層(例えば、シリコーン多孔体)は、例えば、空隙を利用する部材として、断熱材、吸音材、光学部材、インク受像層等の幅広い分野の製品に使うことが可能で、さらに、各種機能を付与した積層フィルムを作製することができる。
【0165】
本発明の空隙層の製造方法は、特に記載しない限り、前記本発明のゲル粉砕物含有液の説明を援用できる。
【0166】
前記多孔体の前駆体の形成工程においては、例えば、前記本発明のゲル粉砕物含有液を、前記基材上に塗工する。本発明のゲル粉砕物含有液は、例えば、基材上に塗工し、前記塗工膜を乾燥した後に、前記結合工程により前記粉砕物同士を化学的に結合(例えば、架橋)することで、一定レベル以上の膜強度を有する空隙層を、連続成膜することが可能である。
【0167】
前記基材に対する前記ゲル粉砕物含有液の塗工量は、特に制限されず、例えば、所望の前記本発明の空隙層の厚み等に応じて、適宜設定できる。具体例として、厚み0.1〜1000μmの前記シリコーン多孔体を形成する場合、前記基材に対する前記ゲル粉砕物含有液の塗工量は、前記基材の面積1m
2あたり、例えば、前記粉砕物0.01〜60000μg、0.1〜5000μg、1〜50μgである。前記ゲル粉砕物含有液の好ましい塗工量は、例えば、液の濃度や塗工方式等と関係するため、一義的に定義することは難しいが、生産性を考慮すると、できるだけ薄層で塗工することが好ましい。塗布量が多すぎると、例えば、溶媒が揮発する前に乾燥炉で乾燥される可能性が高くなる。これにより、溶媒中でナノ粉砕ゾル粒子が沈降・堆積し、空隙構造を形成する前に、溶媒が乾燥することで、空隙の形成が阻害されて空隙率が大きく低下する可能性がある。一方で、塗布量が薄過ぎると、基材の凹凸・親疎水性のバラツキ等により塗工ハジキが発生するリスクが高くなる可能性がある。
【0168】
前記基材に前記ゲル粉砕物含有液を塗工した後、前記多孔体の前駆体(塗工膜)に乾燥処理を施してもよい。前記乾燥処理によって、例えば、前記多孔体の前駆体中の前記溶媒(前記ゲル粉砕物含有液に含まれる溶媒)を除去するだけでなく、乾燥処理中に、ゾル粒子を沈降・堆積させ、空隙構造を形成させることを目的としている。前記乾燥処理の温度は、例えば、50〜250℃、60〜150℃、70〜130℃であり、前記乾燥処理の時間は、例えば、0.1〜30分、0.2〜10分、0.3〜3分である。乾燥処理温度、および時間については、例えば、連続生産性や高い空隙率の発現の関連では、より低く短いほうが好ましい。条件が厳しすぎると、例えば、基材が樹脂フィルムの場合、前記基材のガラス転移温度に近づくことで、前記基材が乾燥炉の中で伸展してしまい、塗工直後に、形成された空隙構造にクラック等の欠点が発生する可能性がある。一方で、条件が緩すぎる場合、例えば、乾燥炉を出たタイミングで残留溶媒を含むため、次工程でロールと擦れた際に、スクラッチ傷が入る等の外観上の不具合が発生する可能性がある。
【0169】
前記乾燥処理は、例えば、自然乾燥でもよいし、加熱乾燥でもよいし、減圧乾燥でもよい。前記乾燥方法は、特に制限されず、例えば、一般的な加熱手段が使用できる。前記加熱手段は例えば、熱風器、加熱ロール、遠赤外線ヒーター等が挙げられる。中でも、工業的に連続生産することを前提とした場合は、加熱乾燥を用いることが好ましい。また、使用される溶媒については、乾燥時の溶媒揮発に伴う収縮応力の発生、それによる空隙層(前記シリコーン多孔体)のクラック現象を抑える目的で、表面張力が低い溶媒が好ましい。前記溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)に代表される低級アルコール、ヘキサン、ペルフルオロヘキサン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0170】
前記基材は、特に制限されず、例えば、熱可塑性樹脂製の基材、ガラス製の基材、シリコンに代表される無機基板、熱硬化性樹脂等で成形されたプラスチック、半導体等の素子、カーボンナノチュープに代表される炭素繊維系材料等が好ましく使用できるが、これらに限定されない。前記基材の形態は、例えば、フィルム、プレート等があげられる。前記熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、トリアセテート(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等があげられる。
【0171】
本発明の空隙層の製造方法において、前記結合工程は、前記多孔体の前駆体(塗工膜)に含まれる前記粉砕物同士を化学的に結合させる工程である。前記結合工程によって、例えば、前記多孔体の前駆体における前記粉砕物の三次元構造が、固定化される。従来の焼結による固定化を行う場合は、例えば、200℃以上の高温処理を行うことで、シラノール基の脱水縮合、シロキサン結合の形成を誘発する。本発明における前記結合工程においては、上記の脱水縮合反応を触媒する各種添加剤を反応させることで、例えば、基材が樹脂フィルムの場合に、前記基材にダメージを起こすことなく、100℃前後の比較的低い乾燥温度、および数分未満の短い処理時間で、連続的に空隙構造を形成、固定化することができる。
【0172】
前記化学的に結合させる方法は、特に制限されず、例えば、前記ゲル(例えば、ケイ素化合物ゲル)の種類に応じて、適宜決定できる。具体例として、前記化学的な結合は、例えば、前記粉砕物同士の化学的な架橋結合により行うことができ、その他にも、例えば、酸化チタン等の無機粒子等を、前記粉砕物に添加した場合、前記無機粒子と前記粉砕物とを化学的に架橋結合させることも考えられる。また、酵素等の生体触媒を担持させる場合も、触媒活性点とは別の部位と前記粉砕物とを化学架橋結合させる場合もある。したがって、本発明は、例えば、前記ゾル粒子同士で形成する空隙層だけでなく、有機無機ハイブリッド空隙層、ホストゲスト空隙層等の応用展開が考えられるが、これらに限定されない。
【0173】
前記結合工程は、例えば、前記ゲル(例えば、ケイ素化合物ゲル)の粉砕物の種類に応じて、触媒存在下での化学反応により行うことができる。本発明における化学反応としては、前記ケイ素化合物ゲルの粉砕物に含まれる残留シラノール基の脱水縮合反応を利用することが好ましい。シラノール基の水酸基同士の反応を前記触媒で促進することで、短時間で空隙構造を硬化させる連続成膜が可能である。前記触媒としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム等の塩基触媒、塩酸、酢酸、シュウ酸等の酸触媒等が挙げられるが、これらに限定されない。前記脱水縮合反応の触媒は、塩基触媒が特に好ましい。また、光(例えば紫外線)を照射することで触媒活性が発現する、光酸発生触媒や光塩基発生触媒等も好ましく用いることができる。光酸発生触媒および光塩基発生触媒としては、特に限定されないが、例えば、前述のとおりである。前記触媒は、例えば、前述のとおり、前記粉砕物を含むゾル粒子液に、塗工直前に添加して使用する、または、前記触媒を溶媒に混合した混合液として使用することが好ましい。前記混合液は、例えば、前記ゾル粒子液に直接添加して溶解した塗工液、前記触媒を溶媒に溶解した溶液、前記触媒を溶媒に分散した分散液でもよい。前記溶媒は、特に制限されず、前述のとおり、例えば、水、緩衝液等が挙げられる。
【0174】
また、例えば、本発明のゲル含有液には、さらに、前記ゲルの粉砕物同士を間接的に結合させるための架橋補助剤を添加してもよい。この架橋補助剤が、粒子(前記粉砕物)同士の間に入り込み、粒子と架橋補助剤が各々相互作用もしくは結合することで、距離的に多少離れた粒子同士も結合させることが可能であり、効率よく強度を上げることが可能となる。前記架橋補助剤としては、多架橋シランモノマーが好ましい。前記多架橋シランモノマーは、具体的には、例えば、2以上3以下のアルコキシシリル基を有し、アルコキシシリル基間の鎖長が炭素数1以上10以下であっても良く、炭素以外の元素も含んでもよい。前記架橋補助剤としては、例えば、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)プロパン、ビス(トリメトキシシリル)プロパン、ビス(トリエトキシシリル)ブタン、ビス(トリメトキシシリル)ブタン、ビス(トリエトキシシリル)ペンタン、ビス(トリメトキシシリル)ペンタン、ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリメトキシシリル)-N-ブチル-N-プロピル-エタン-1,2-ジアミン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス-(3-トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。この架橋補助剤の添加量としては、特に限定されないが、例えば、前記ケイ素化合物の粉砕物の重量に対して0.01〜20重量%、0.05〜15重量%、または0.1〜10重量%である。
【0175】
前記触媒存在下での化学反応は、例えば、事前に前記ゲル粉砕物含有液に添加された前記触媒もしくは触媒発生剤を含む前記塗工膜に対し光照射もしくは加熱、または、前記塗工膜に、前記触媒を吹き付けてから光照射もしくは加熱、または、前記触媒もしくは触媒発生剤を吹き付けながら光照射もしくは加熱することによって、行うことができる。例えば、前記触媒が光活性触媒である場合は、光照射により、前記微細孔粒子どうしを化学的に結合させて前記シリコーン多孔体を形成することができる。また、前記触媒が、熱活性触媒である場合は、加熱により、前記微細孔粒子どうしを化学的に結合させて前記シリコーン多孔体を形成することができる。前記光照射における光照射量(エネルギー)は、特に限定されないが、@360nm換算で、例えば、200〜800mJ/cm
2、250〜600mJ/cm
2、または300〜400mJ/cm
2である。照射量が十分でなく触媒発生剤の光吸収による分解が進まず効果が不十分となることを防止する観点からは、200mJ/cm
2以上の積算光量が良い。また、空隙層下の基材にダメージがかかり熱ジワが発生することを防止する観点からは、800mJ/cm
2以下の積算光量が良い。前記光照射における光の波長は、特に限定されないが、例えば、200〜500nm、300〜450nmである。前記光照射における光の照射時間は、特に限定されないが、例えば、0.1〜30分、0.2〜10分、0.3〜3分である。前記加熱処理の条件は、特に制限されず、前記加熱温度は、例えば、50〜250℃、60〜150℃、70〜130℃であり、前記加熱時間は、例えば、0.1〜30分、0.2〜10分、0.3〜3分である。また、使用される溶媒については、例えば、乾燥時の溶媒揮発に伴う収縮応力の発生、それによる空隙層のクラック現象を抑える目的で、表面張力が低い溶媒が好ましい。例えば、イソプロピルアルコール(IPA)に代表される低級アルコール、ヘキサン、ペルフルオロヘキサン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0176】
以上のようにして、本発明の空隙層(例えば、シリコーン多孔体)を製造することができる。ただし、本発明の空隙層の製造方法は、上記に限定されない。なお、シリコーン多孔体である本発明の空隙層を、以下において「本発明のシリコーン多孔体」ということがある。
【0177】
また、本発明の積層体の製造においては、本発明の空隙層上に、さらに粘接着層を形成する(粘接着層形成工程)。具体的には、例えば、本発明の空隙層上に、粘着剤または接着剤を塗布(塗工)することにより、前記粘接着層を形成しても良い。また、基材上に前記粘接着層が積層された粘着テープ等の、前記粘接着層側を、本発明の空隙層上に貼り合せることにより、本発明の空隙層上に前記粘接着層を形成しても良い。この場合、前記粘着テープ等の基材は、そのまま貼り合せたままにしても良いし、前記粘接着層から剥離しても良い。特に、前述のとおり、基材を剥離して、基材を有しない(基材レスの)空隙層含有粘接着シートとすることで、厚みを大幅に低減することができ、デバイス等の厚み増加を抑制できる。本発明において、「粘着剤」および「粘着層」は、例えば、被着体の再剥離を前提とした剤または層をいう。本発明において、「接着剤」および「接着層」は、例えば、被着体の再剥離を前提としない剤または層をいう。ただし、本発明において、「粘着剤」と「接着剤」は、必ずしも明確に区別できるものではなく、「粘着層」と「接着層」は、必ずしも明確に区別できるものではない。本発明において、前記粘接着層を形成する粘着剤または接着剤は特に限定されず、例えば、一般的な粘着剤または接着剤等が使用できる。前記粘着剤または接着剤としては、例えば、アクリル系、ビニルアルコール系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系等のポリマー製接着剤、ゴム系接着剤等があげられる。また、グルタルアルデヒド、メラミン、シュウ酸等のビニルアルコール系ポリマーの水溶性架橋剤等から構成される接着剤等もあげられる。粘着剤としては、例えば、前述した粘着剤があげられる。これら粘着剤および接着剤は、1種類のみ用いても、複数種類を併用(例えば、混合、積層等)しても良い。前述のとおり、前記粘接着層により、前記空隙層を、物理的ダメージ(特に擦傷)から保護することが可能である。また、前記粘接着層は、基材を有しない(基材レスの)空隙層含有粘接着シートとしても前記空隙層が潰れないように、耐圧性に優れたものが好ましいが、特には限定されない。また、前記粘接着層の厚みは、特に制限されないが、例えば、0.1〜100μm、5〜50μm、10〜30μm、または12〜25μmである。
【0178】
このようにして得られる本発明の空隙層は、例えば、さらに、他のフィルム(層)と積層して、前記多孔質構造を含む積層構造体としてもよい。この場合、前記積層構造体において、各構成要素は、例えば、前記粘接着層(粘着剤または接着剤)を介して積層させてもよい。
【0179】
前記各構成要素の積層は、例えば、効率的であることから、長尺フィルムを用いた連続処理(いわゆるRoll to Roll等)により積層を行ってもよく、基材が成形物・素子等の場合はバッチ処理を行ったものを積層してもよい。
【0180】
以下に、基材(樹脂フィルム)上に前記本発明の積層体を形成する方法について、連続処理工程に関して、
図1〜3を用いて例をあげて説明する。
図2については、前記空隙層(シリコーン多孔体)を製膜した後に、保護フィルムを貼合して巻き取る工程を示しているが、別の機能性フィルムに積層を行う場合は、上記の手法を用いてもよいし、別の機能性フィルムを塗工、乾燥した後に、上記成膜を行った前記空隙層を、巻き取り直前に貼り合せることも可能である。なお、図示した製膜方式はあくまで一例であり、これらに限定されない。
【0181】
なお、前記基材は、前述した樹脂フィルムでもよい。この場合、前記基材上への前記空隙層の形成により、本発明の空隙層が得られる。また、前記基材上で前記空隙層を形成した後、前記空隙層を、本発明の空隙層の説明において前述した樹脂フィルムに積層することによっても、本発明の空隙層が得られる。
【0182】
図1の断面図に、前記基材(樹脂フィルム)上に前記空隙層、前記中間層および前記粘接着層が前記順序で積層された本発明の積層体の製造方法における工程の一例を、模式的に示す。
図1において、前記空隙層の形成方法は、基材(樹脂フィルム)10上に、前記ゲル状化合物の粉砕物のゾル粒子液20’’を塗工して塗工膜を形成する塗工工程(1)、ゾル粒子液20’’を乾燥させて、乾燥後の塗工膜20’を形成する乾燥工程(2)、および、塗工膜20’に化学処理(例えば、架橋処理)をして、空隙層20を形成する化学処理工程(例えば、架橋工程)(3)、空隙層20上に粘接着層30を塗工する粘接着層塗工工程(粘接着層形成工程)(4)、および、空隙層20を粘接着層30と反応させて中間層22を形成する中間層形成工程(5)を含む。なお、前記化学処理工程(架橋工程)(3)は、本発明の積層フィルムの製造方法における前記「空隙層形成工程」に該当する。また、同図では、中間層形成工程(5)(以下「エージング工程」という場合がある。)が、空隙層20の強度を向上させる工程(空隙層20内部で架橋反応を起こさせる架橋反応工程)を兼ねており、中間層形成工程(5)の後に、空隙層20が、強度の向上した空隙層21に変化している。ただし、本発明はこれに限定されず、例えば、中間層形成工程(5)の後に空隙層20が変化していなくても良い。また、粘接着層形成工程は、前述のとおり、粘接着層の塗工に限定されず、粘接着層を有する粘着テープの貼合等であっても良い。以上の工程(1)〜(5)により、図示のとおり、樹脂フィルム10上に、空隙層21と、中間層22と、粘接着層30とが、前記順序で積層された積層フィルムを製造できる。ただし、中間層形成工程(5)がなく、製造される本発明の積層体が中間層を含まなくてもよい。さらに、本発明の積層フィルムの製造方法は、前記工程(1)〜(5)以外の工程を、適宜含んでいても良いし、含んでいなくても良い。
【0183】
前記塗工工程(1)において、ゾル粒子液20’’の塗工方法は特に限定されず、一般的な塗工方法を採用できる。前記塗工方法としては、例えば、スロットダイ法、リバースグラビアコート法、マイクログラビア法(マイクログラビアコート法)、ディップ法(ディップコート法)、スピンコート法、刷毛塗り法、ロールコート法、フレキソ印刷法、ワイヤーバーコート法、スプレーコート法、エクストルージョンコート法、カーテンコート法、リバースコート法等が挙げられる。これらの中で、生産性、塗膜の平滑性等の観点から、エクストルージョンコート法、カーテンコート法、ロールコート法、マイクログラビアコート法等が好ましい。前記ゾル粒子液20’’の塗工量は、特に限定されず、例えば、空隙層20の厚みが適切になるように、適宜設定可能である。空隙層21の厚みは、特に限定されず、例えば、前述の通りである。
【0184】
前記乾燥工程(2)において、ゾル粒子液20’’を乾燥し(すなわち、ゾル粒子液20’’に含まれる分散媒を除去し)、乾燥後の塗工膜(空隙層の前駆体)20’を形成する。乾燥処理の条件は、特に限定されず、前述の通りである。
【0185】
さらに、前記化学処理工程(3)において、塗工前に添加した前記触媒または前記触媒発生剤(例えば、光活性触媒、光触媒発生剤、熱活性触媒または熱触媒発生剤)を含む塗工膜20’に対し、光照射または加熱し、塗工膜20’中の前記粉砕物同士を化学的に結合させて(例えば、架橋させて)、空隙層20を形成する。前記化学処理工程(3)における光照射または加熱条件は、特に限定されず、前述の通りである。
【0186】
さらに、粘接着層塗工工程(粘接着層形成工程)(4)および中間層形成工程(5)の条件も特に限定されず、例えば、前述のとおりである。
【0187】
つぎに、
図2に、スロットダイ法の塗工装置およびそれを用いた前記空隙層の形成方法の一例を模式的に示す。なお、
図2は、断面図であるが、見易さのため、ハッチを省略している。
【0188】
図示のとおり、この装置を用いた方法における各工程は、基材10を、ローラによって一方向に搬送しながら行う。搬送速度は、特に限定されず、例えば、1〜100m/分、3〜50m/分、5〜30m/分である。
【0189】
まず、送り出しローラ101から基材10を繰り出して搬送しながら、塗工ロール102において、基材10にゾル粒子液20’’を塗工する塗工工程(1)を行い、続いて、オーブンゾーン110内で乾燥工程(2)に移行する。
図2の塗工装置では、塗工工程(1)の後、乾燥工程(2)に先立ち、予備乾燥工程を行う。予備乾燥工程は、加熱をせずに、室温で行うことができる。乾燥工程(2)においては、加熱手段111を用いる。加熱手段111としては、前述のとおり、熱風器、加熱ロール、遠赤外線ヒーター等を適宜用いることができる。また、例えば、乾燥工程(2)を複数の工程に分け、後の乾燥工程になるほど乾燥温度を高くしても良い。
【0190】
乾燥工程(2)の後に、化学処理ゾーン120内で化学処理工程(3)を行う。化学処理工程(3)においては、例えば、乾燥後の塗工膜20’が光活性触媒を含む場合、基材10の上下に配置したランプ(光照射手段)121で光照射する。または、例えば、乾燥後の塗工膜20’が熱活性触媒を含む場合、ランプ(光照射装置)121に代えて熱風器(加熱手段)を用い、基材10の上下に配置した熱風器121で基材10を加熱する。この架橋処理により、塗工膜20’中の前記粉砕物同士の化学的結合が起こり、空隙層20が硬化・強化される。なお、本例では、乾燥工程(2)の後に化学処理工程(3)を行っているが、前述のとおり、本発明の製造方法のどの段階で前記粉砕物同士の化学的結合を起こさせるかは、特に限定されない。例えば、前述のように、乾燥工程(2)が化学処理工程(3)を兼ねていても良い。また、乾燥工程(2)において前記化学的結合が起こった場合でも、さらに化学処理工程(3)を行い、前記粉砕物同士の化学的結合を、さらに強固にしても良い。また、乾燥工程(2)よりも前の工程(例えば、予備乾燥工程、塗工工程(1)、塗工液(例えば懸濁液)を作製する工程等)において、前記粉砕物同士の化学的結合が起こっても良い。
【0191】
化学処理工程(3)の後に、粘接着層塗工ゾーン130a内で、粘接着層塗工手段131aにより、空隙層20上に粘着剤または接着剤を塗布(塗工)し、粘接着層30を形成する粘接着層塗工工程(粘接着層形成工程)(4)を行う。また、前述のとおり、粘着剤または接着剤を塗布(塗工)に代えて、粘接着層30を有する粘着テープ等の貼合(貼付)でも良い。
【0192】
さらに、中間層形成ゾーン(エージングゾーン)130内で中間層形成工程(エージング工程)(5)を行い、空隙層20と粘接着層30を反応させて中間層22を形成する。また、前述のとおり、この工程で、空隙層20は、内部で架橋反応が起こり、強度が向上した空隙層21となる。中間層形成工程(エージング工程)(5)は、例えば、基材10の上下に配置した熱風器(加熱手段)131を用いて空隙層20および粘接着層30を加熱することにより行っても良い。加熱温度、時間等は、特に限定されないが、例えば、前述のとおりである。
【0193】
そして、中間体形成工程(エージング工程)(5)の後、基材10上に空隙層21が形成された積層体を、巻き取りロール105により巻き取る。なお、
図2では、前記積層体の空隙層21を、ロール106から繰り出される保護シートで被覆して保護している。ここで、前記保護シートに代えて、長尺フィルムから形成された他の層を空隙層21上に積層させても良い。
【0194】
図3に、マイクログラビア法(マイクログラビアコート法)の塗工装置およびそれを用いた前記空隙層の形成方法の一例を模式的に示す。なお、同図は、断面図であるが、見易さのため、ハッチを省略している。
【0195】
図示のとおり、この装置を用いた方法における各工程は、
図2と同様、基材10を、ローラによって一方向に搬送しながら行う。搬送速度は、特に限定されず、例えば、1〜100m/分、3〜50m/分、5〜30m/分である。
【0196】
まず、送り出しローラ201から基材10を繰り出して搬送しながら、基材10にゾル粒子液20’’を塗工する塗工工程(1)を行う。ゾル粒子液20’’の塗工は、図示のとおり、液溜め202、ドクター(ドクターナイフ)203およびマイクログラビア204を用いて行う。具体的には、液溜め202に貯留されているゾル粒子液20’’を、マイクログラビア204表面に付着させ、さらに、ドクター203で所定の厚さに制御しながら、マイクログラビア204で基材10表面に塗工する。なお、マイクログラビア204は、例示であり、これに限定されるものではなく、他の任意の塗工手段を用いても良い。
【0197】
つぎに、乾燥工程(2)を行う。具体的には、図示のとおり、オーブンゾーン210中に、ゾル粒子液20’’が塗工された基材10を搬送し、オーブンゾーン210内の加熱手段211により加熱してゾル粒子液20’’を乾燥する。加熱手段211は、例えば、
図2と同様でも良い。また、例えば、オーブンゾーン210を複数の区分に分けることにより、乾燥工程(2)を複数の工程に分け、後の乾燥工程になるほど乾燥温度を高くしても良い。乾燥工程(2)の後に、化学処理ゾーン220内で、化学処理工程(3)を行う。化学処理工程(3)においては、例えば、乾燥後の塗工膜20’が光活性触媒を含む場合、基材10の上下に配置したランプ(光照射手段)221で光照射する。または、例えば、乾燥後の塗工膜20’が熱活性触媒を含む場合、ランプ(光照射装置)221に代えて熱風器(加熱手段)を用い、基材10の上下に配置した熱風器(加熱手段)221で、基材10を加熱する。この架橋処理により、塗工膜20’中の前記粉砕物同士の化学的結合が起こり、空隙層20が形成される。
【0198】
化学処理工程(3)の後に、粘接着層塗工ゾーン230a内で、粘接着層塗工手段231aにより、空隙層20上に粘着剤または接着剤を塗布(塗工)し、粘接着層30を形成する粘接着層塗工工程(粘接着層形成工程)(4)を行う。また、前述のとおり、粘着剤または接着剤を塗布(塗工)に代えて、粘接着層30を有する粘着テープ等の貼合(貼付)でも良い。
【0199】
さらに、中間層形成ゾーン(エージングゾーン)230内で中間層形成工程(エージング工程)(5)を行い、空隙層20と粘接着層30を反応させて中間層22を形成する。また、前述のとおり、この工程で、空隙層20は、強度が向上した空隙層21となる。中間層形成工程(エージング工程)(5)は、例えば、基材10の上下に配置した熱風器(加熱手段)231を用いて空隙層20および粘接着層30を加熱することにより行っても良い。加熱温度、時間等は、特に限定されないが、例えば、前述のとおりである。
【0200】
そして、中間体形成工程(エージング工程)(5)の後、基材10上に空隙層21が形成された積層フィルムを、巻き取りロール251により巻き取る。その後に、前記積層フィルム上に、例えば、他の層を積層させてもよい。また、前記積層フィルムを巻き取りロール251により巻き取る前に、前記積層フィルムに、例えば、他の層を積層させてもよい。
【実施例】
【0201】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0202】
なお、以下の参考例、実施例および比較例において、各物質の部数(相対的な使用量)は、特に断らない限り、質量部(重量部)である。
【0203】
[参考例1:空隙層形成用塗工液の製造]
まず、ケイ素化合物のゲル化(下記工程(1))および熟成工程(下記工程(2))を行ない、多孔質構造を有するゲル(シリコーン多孔体)を製造した。さらにその後、下記(3)形態制御工程、(4)溶媒置換工程、および(5)ゲル粉砕工程を行ない、空隙層形成用塗工液(ゲル粉砕物含有液)を得た。なお、本参考例では、下記のとおり、下記(3)形態制御工程を、下記工程(1)とは別の工程として行なった。しかし、本発明は、これに限定されず、例えば、下記(3)形態制御工程を、下記工程(1)中に行なっても良い。
【0204】
(1)ケイ素化合物のゲル化
DMSO 22kgに、ケイ素化合物の前駆体であるMTMSを9.5kg溶解させた。前記混合液に、0.01mol/Lのシュウ酸水溶液を5kg添加し、室温で120分、撹拌を行うことでMTMSを加水分解して、トリス(ヒドロキシ)メチルシランを生成した。
【0205】
DMSO 55kgに、28%濃度のアンモニア水3.8kg、および純水2kgを添加した後、さらに、前記加水分解処理した前記混合液を追添し、室温で60分撹拌した。60分撹拌後の液を、長さ30cm×幅30cm×高さ5cmのステンレス容器中に流し込んで室温で静置することにより、トリストリス(ヒドロキシ)メチルシランのゲル化を行い、ゲル状ケイ素化合物を得た。
【0206】
(2)熟成工程
前記ゲル化処理を行なって得られた、ゲル状ケイ素化合物を40℃で20時間インキュベートして、熟成処理を行ない、前記直方体形状の塊のゲルを得た。このゲルは、原料中におけるDMSO(沸点130℃以上の高沸点溶媒)の使用量が、原料全体の約83重量%であったことから、沸点130℃以上の高沸点溶媒を50重量%以上含んでいることが明らかであった。また、このゲルは、原料中におけるMTMS(ゲルの構成単位であるモノマー)の使用量が、原料全体の約8重量%であったことから、ゲルの構成単位であるモノマー(MTMS)の加水分解により発生する沸点130℃未満の溶媒(この場合はメタノール)の含有量は、20重量%以下であることが明らかであった。
【0207】
(3)形態制御工程
前記工程(1)(2)によって前記30cm×30cm×5cmのステンレス容器中で合成されたゲル上に、置換溶媒である水を流し込んだ。つぎに、前記ステンレス容器中でゲルに対して上部から切断用治具の切断刃をゆっくり挿入し、ゲルを1.5cm×2cm×5cmのサイズの直方体に切断した。
【0208】
(4)溶媒置換工程
つぎに、下記(4−1)〜(4−3)のようにして溶媒置換工程を行った。
【0209】
(4−1) 前記「(3)形態制御工程」の後、前記ゲル状ケイ素化合物の8倍の重量の水中に前記ゲル状ケイ素化合物を浸漬させ、水のみ対流するようにゆっくり1h撹拌した。1h後に水を同量の水に交換し、さらに3h撹拌した。さらにその後、再度水を交換し、その後、60℃でゆっくり撹拌しながら3h加熱した。
【0210】
(4−2) (4−1)の後、水を、前記ゲル状ケイ素化合物の4倍の重量のイソプロピルアルコールに交換し、同じく60℃で6h撹拌下加熱した。
【0211】
(4−3) (4−2)の後、イソプロピルアルコールを同じ重量のイソブチルアルコールに交換し、同じく60℃で6h加熱し、前記ゲル状ケイ素化合物中に含まれる溶媒をイソブチルアルコールに置換した。以上のようにして、本発明の空隙層製造用ゲルを製造した。
【0212】
(5)ゲル粉砕工程
前記(4)溶媒置換工程後の前記ゲル(ゲル状ケイ素化合物)に対して、第1の粉砕段階で連続式乳化分散(太平洋機工社製、マイルダーMDN304型)、第2の粉砕段階で高圧メディアレス粉砕(スギノマシン社製、スターバーストHJP−25005型)の2段階で粉砕を行なった。この粉砕処理は、前記溶媒置換されたゲル状ケイ素化合物を溶媒含有したゲル43.4kgに対しイソブチルアルコール26.6kgを追加、秤量した後、第1の粉砕段階は循環粉砕にて20分間、第2の粉砕段階は粉砕圧力100MPaの粉砕を行なった。このようにして、ナノメートルサイズの粒子(前記ゲルの粉砕物)が分散したイソブチルアルコール分散液(ゲル粉砕物含有液)を得た。さらに、前記ゲル粉砕物含有液3kg中にWPBG-266(商品名、Wako製)のメチルイソブチルケトン1.5%濃度溶液を224g添加し、さらにビス(トリメトキシリル)エタン(TCI製)のメチルイソブチルケトン5%濃度溶液を67.2g添加したあと、N,N-ジメチルホルムアミドを31.8g添加・混合し塗工液を得た。
【0213】
以上のようにして、本参考例(参考例1)の空隙層形成用塗工液(ゲル粉砕物含有液)を製造した。また、空隙層形成用塗工液(ゲル粉砕物含有液)中におけるゲル粉砕物(微細孔粒子)のピーク細孔径を、前述の方法で測定したところ、12nmであった。
【0214】
[参考例2:フルオロアルキル基によるナノ粒子の修飾反応]
0.1N(0.1mol/L)のHCl水溶液0.06gにIPA(イソプロピルアルコール)0.27gを添加後撹拌し、均一な溶液を得た。その液にMIBK−ST(日産化学の商品名:Siナノ粒子のMIBK[メチルイソブチルケトン]分散液)を10g添加し、さらにトリメトキシ(1H,1H,2H,2H−ノナフルオロヘキシル)シランを0.7g添加した。そのようにして得られた混合物を60℃で1h加熱撹拌して前記Siナノ粒子の修飾反応を行ない、前記Siナノ粒子のフルオロアルキル基修飾済み分散液(修飾ナノ粒子分散液)を得た。
【0215】
[参考例3:粘接着層の形成]
下記(1)〜(3)の手順により、本参考例(参考例3)の粘接着層を形成した。
【0216】
(1)アクリル系ポリマー溶液の調製
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた4つ口フラスコ内に、ブチルアクリレート90.7部、N−アクリロイルモルホリン6部、アクリル酸3部、2−ヒドロキシブチルアクリレート0.3部、および、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を、酢酸エチル100gと共に入れた。つぎに、前記4つ口フラスコ内の内容物を緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して窒素置換した。その後、前記4つ口フラスコ内の液温を55℃付近に保って8時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー溶液を調製した。
【0217】
(2)アクリル系粘着剤組成物の調製
前記(1)で得られたアクリル系ポリマー溶液の固形分100部に対して、イソシアネート架橋剤(日本ポリウレタン工業社製の商品名「コロネートL」、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネートのアダクト体)0.2部、ベンゾイルパーオキサイド(日本油脂社製の商品名「ナイパーBMT」)0.3部、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン(信越化学工業社製の商品名「KBM−403」)0.2部を配合したアクリル系粘着剤組成物(アクリル系粘着剤溶液)を調製した。
【0218】
(3)粘接着層の形成
前記(2)で得られたアクリル系粘着剤組成物を、シリコーン処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム社製、厚さ:38μm)の片面に、乾燥後の粘着剤層の厚さが10μmになるように塗布し、150℃で3分間乾燥を行い、粘着剤層(粘接着層)を形成した。この粘着剤層(粘接着層)の23℃時の貯蔵弾性率G’は、1.3×10
5であった。
【0219】
[参考例4:粘接着層の形成]
下記(1)〜(3)の手順により、本参考例(参考例4)の粘接着層を形成した。
【0220】
(1)アクリル系ポリマー溶液の調製
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた4つ口フラスコ内に、ブチルアクリレート97部、アクリル酸3部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1部、および、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.1部を、酢酸エチル100gと共に入れた。つぎに、前記4つ口フラスコ内の内容物を緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して窒素置換した。その後、前記4つ口フラスコ内の液温を55℃付近に保って8時間重合反応を行い、アクリル系ポリマーの溶液を調製した。
【0221】
(2)アクリル系粘着剤組成物の調製
前記(1)で得られたアクリル系ポリマー溶液の固形分100部に対して、イソシアネート架橋剤(日本ポリウレタン工業社製の商品名「コロネートL」、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネートのアダクト体)0.5部、ベンゾイルパーオキサイド(日本油脂社製の商品名「ナイパーBMT」)0.2部、および、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン(信越化学工業社製の商品名「KBM−403」)0.2部を配合して、アクリル系粘着剤組成物の溶液を調製した。
【0222】
(3)粘接着層の形成
前記(2)で得られたアクリル系粘着剤組成物の溶液を、シリコーン処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム社製、厚さ:38μm)の片面に、乾燥後の粘着剤層の厚さが20μmになるように塗布し、150℃で3分間乾燥を行い、粘着剤層(粘接着層)を形成した。この粘着剤層(粘接着層)の23℃時の貯蔵弾性率G’は、1.1×10
5であった。
【0223】
[参考例5:粘接着層の形成]
下記(1)〜(3)の手順により、本参考例(参考例5)の粘接着層を形成した。
【0224】
(1)アクリル系ポリマー溶液の調製
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた4つ口フラスコ内に、ブチルアクリレート77部、フェノキシエチルアクリレート20部、N−ビニル−2−ピロリドン2部、アクリル酸0.5部、4−ヒドロキシブチルアクリレート0.5部、および、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.1部を酢酸エチル100部と共に入れた。つぎに、前記4つ口フラスコ内の内容物を緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して窒素置換した。その後、前記4つ口フラスコ内の液温を55℃付近に保って8時間重合反応を行い、アクリル系ポリマーの溶液を調製した。
【0225】
(2)アクリル系粘着剤組成物の調製
前記(1)で得られたアクリル系ポリマーの溶液の固形分100部に対して、イソシアネート架橋剤(三井化学社製の商品名「タケネートD160N」、トリメチロールプロパンヘキサメチレンジイソシアネート)0.1部、ベンゾイルパーオキサイド(日本油脂社製の商品名「ナイパーBMT」)0.3部、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン(信越化学工業社製の商品名「KBM−403」)0.2部を配合して、アクリル系粘着剤組成物の溶液を調製した。
【0226】
(3)粘接着層の形成
前記(2)で得られたアクリル系粘着剤組成物の溶液を、シリコーン系剥離剤で処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレータフィルム:三菱化学ポリエステルフィルム株式会社製、商品名「MRF38」)の片面に塗布し、150℃で3分間乾燥を行い、セパレータフィルムの表面に厚さが20μmの粘着剤層(粘接着層)を形成した。この粘着剤層(粘接着層)の23℃時の貯蔵弾性率G’は、1.1×10
5であった。
【0227】
[参考例6:粘接着層の形成]
下記(1)〜(3)の手順により、本参考例(参考例6)の粘接着層を形成した。
【0228】
(1)プレポリマー組成物の調製
アクリル酸2−エチルヘキシル68部、N−ビニル−2−ピロリドン14.5部、およびアクリル酸2−ヒドロキシエチル17.5部から構成されるモノマー混合物に、光重合開始剤(商品名「イルガキュア184」、BASF社)0.035部および光重合開始剤(商品名「イルガキュア651」、BASF社)0.035部を配合した後、粘度(BH粘度計No.5ローター、10rpm、測定温度30℃)が約20Pa・sになるまで紫外線を照射して、上記モノマー成分の一部が重合したプレポリマー組成物を得た。
【0229】
(2)アクリル系粘着剤組成物の調製
前記(1)で得られたプレポリマー組成物に、ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)0.150部、シランカップリング剤(商品名「KBM−403」、信越化学工業社)0.3部を添加して混合し、アクリル系粘着剤組成物を得た。
【0230】
(3)粘接着層の形成
前記(2)で得られたアクリル系粘着剤組成物を、シリコーン処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム社製、厚さ:50μm)の片面に、乾燥後の粘着剤層の厚さが25μmになるように塗布し、さらに塗布層上にシリコーン処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム社製、厚さ:38μm)を設けて塗布層を被覆し酸素を遮断した。つぎに、この積層体に積層体の上面(MRF38側)から、ブラックライト(東芝製)にて、照度5mW/cm2の紫外線を300秒間照射した。さらに90℃の乾燥機で2分間乾燥処理を行い、残存モノマーを揮発させ粘着剤層(粘接着層)を形成した。この粘着剤層(粘接着層)の23℃時の貯蔵弾性率G’は、1.1×10
5であった。
【0231】
[実施例1]
参考例1で作製した空隙層形成塗工液3g中に、参考例2で得られた修飾ナノ粒子分散液を0.06g添加した後、さらにアクリル基材上に塗工・乾燥し、膜厚約800nmの空隙層(空隙率59体積%)を形成した。つぎに、空隙層面からUV照射(300mJ)を行なった。その後、参考例3で得られた厚み10μmの粘接着層(粘着剤)を前記空隙層面上に貼り合わせ、前記空隙層と前記粘接着層との積層体を製造した。
【0232】
さらに、前記のようにして製造した本実施例の積層体を、85℃85%RHのオーブンに投入し、130hの加熱加湿耐久性試験を行なった。前記加熱加湿耐久性試験後の空隙層の空隙箇所の埋まり度合をSEMで確認し、空隙率の残存率を算出した。その結果を表1に示す。
【0233】
[実施例2]
参考例3の粘着剤の代わりに参考例4で得られた粘着剤を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行なって本実施例の空隙層および積層体を製造した。さらに、実施例1と同様にして加熱加湿耐久性試験を行ない、空隙率の残存率を算出した。その結果を表1に示す。
【0234】
[実施例3]
参考例3の粘着剤の代わりに参考例5で得られた粘着剤を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行なって本実施例の空隙層および積層体を製造した。さらに、実施例1と同様にして加熱加湿耐久性試験を行ない、空隙率の残存率を算出した。その結果を表1に示す。
【0235】
[実施例4]
参考例3の粘着剤の代わりに参考例6で得られた粘着剤を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行なって本実施例の空隙層および積層体を製造した。さらに、実施例1と同様にして加熱加湿耐久性試験を行ない、空隙率の残存率を算出した。その結果を表1に示す。
【0236】
[比較例1]
参考例2で得られた修飾ナノ粒子分散液に代えて、同量のMIBK−ST(日産化学の商品名:Siナノ粒子のMIBK[メチルイソブチルケトン]分散液)を、フルオロアルキル基で修飾せずにそのまま用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行ない、本比較例の空隙層および積層体を製造した。さらに、実施例1と同様にして加熱加湿耐久性試験を行ない、空隙率の残存率を算出した。その結果を表1に示す。
【0237】
[比較例2]
参考例2で得られた修飾ナノ粒子分散液に代えて、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H−ノナフルオロヘキシル)シラン0.01gのみを添加した(Siナノ粒子を添加しなかった)こと以外は、実施例1と同様の操作を行なって本比較例の空隙層および積層体を製造した。さらに、実施例1と同様にして加熱加湿耐久性試験を行ない、空隙率の残存率を算出した。その結果を表1に示す。
【0238】
また、実施例1〜4および比較例1〜2の積層体について、それぞれ、粘着力を、前述の測定方法により測定した。その結果を、併せて表1に示す。
【0239】
【表1】
【0240】
表1に示したとおり、実施例1〜4の空隙層を用いた積層体では、空隙への粘着剤(粘接着層)の浸透しにくさが実現できており、耐久性試験後の空隙層の空隙残存率が高かった。これに対し、ナノ粒子をフルオロアルキル基で修飾せずにそのまま用いた比較例1、および、ナノ粒子を用いずトリメトキシ(1H,1H,2H,2H−ノナフルオロヘキシル)シラン0.01gのみを添加した比較例2は、いずれも、粘着剤(粘接着層)が空隙層の空隙に浸透してしまい、耐久性試験後の空隙層の空隙残存率が低かった。
【0241】
なお、
図4に、実施例1の積層体の、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面写真(断面SEM像)を示す。また、
図5に、比較例1の積層体の断面写真(断面SEM像)を示し、
図6に、比較例2の積層体の断面写真(断面SEM像)を示す。
図4〜6の断面SEM像は、いずれも、前記耐久性試験後の断面SEM像である。
図4の写真に示すとおり、実施例1の積層体では、耐久性試験後の空隙層の空隙残存率が高かったことが確認できた。これに対し、比較例1および2の積層体では、
図5および6の写真に示すとおり、粘着剤(粘接着層)が空隙層の空隙に浸透してしまい、耐久性試験後の空隙層の空隙残存率が低かった。