【文献】
Cancer Research,2011年 4月,vol.7, no.8, Supplement,Abstract No.2832,[retrieve on 2018-9-14]. Retrieved from the internet <URL: http://cancerres.aacrjournals.org/content/71/8_Supplement/2832>
【文献】
The Journal of Biological Chemistry,2005年,vol.280, no.20,p.19543-19550
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、癌幹細胞に特異的に発現する細胞表面分子、及び、当該分子に対する抗体を用いた医薬組成物(抗癌剤等)や癌幹細胞検出用試薬に関する。
【0021】
本発明において「癌」とは、典型的には制御されない細胞増殖により特徴づけられる哺乳動物の生理学的状態を意味し、又はかかる生理学的状態を言う。本発明において、癌の種類は、特に限定されるものではないが、次のものが挙げられる。癌腫(上皮癌)としては、膵臓癌、前立腺癌、乳癌、皮膚癌、消化管の癌、肺癌、肝細胞癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、卵管癌、膣癌、肝臓癌、胆管癌、膀胱癌、尿管の癌、甲状腺癌、副腎癌、腎臓癌、又はその他の腺組織の癌が挙げられる。肉腫(非上皮癌)としては、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、黄紋筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、線維肉腫、悪性末梢神経腫瘍、消化管間質系腫瘍、類腱腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、白血病、リンパ腫、骨髄腫、その他の実質臓器の腫瘍、例えばメラノーマ又は脳腫瘍が挙げられる(Kumar V, Abbas AK, Fausio N. Robbins and Cotran Pathologic Basis of Disease. 7th Ed. Unit I: General Pathology, 7: Neoplasia, Biology of tumor growth: Benign and malignant neoplasms. 269-342, 2005)。
本発明において「腫瘍」とは、良性(非癌性)または、前癌性病変を含む悪性(癌性)の、過剰の細胞成長もしくは増殖から生じる任意の組織塊を指す。
【0022】
本発明において、癌幹細胞(CSC)とは、以下のi)及び/又はii)に記載された能力を有する細胞をいう。
i)自己複製能を保有する。自己複製能とは、分裂した2つの娘細胞のどちらか1つ又は両方の細胞が、細胞系譜上、親細胞と同等の能力及び分化程度を保持している細胞を産出できる能力をいう。
ii)癌細胞塊を構成する複数種の癌細胞へ分化できる。癌幹細胞から分化した複数種の癌細胞は、正常幹細胞と同様に、細胞系譜上、癌幹細胞を頂点とする階層構造を形成する。癌幹細胞から段階的に多種癌細胞が産出されることにより多様な特徴を有する癌細胞塊が形成される。
【0023】
癌幹細胞とは癌形成能をもち、正常幹細胞と同様に多分化能と自己複製能を持つ癌細胞である。癌幹細胞は、癌幹細胞を頂点とする階層構造を形成する。癌幹細胞から段階的に多種癌細胞が産出されることにより多様な特徴を有する癌細胞塊が形成される。癌細胞塊とは、細胞などがヒト腫瘍組織と同様にバラバラでなく相互に接着して形成する塊であり、癌細胞、間質細胞や血球細胞などの癌細胞以外の細胞、コラーゲンやラミニンなどの細胞外基質などで構築される塊をいう。
【0024】
本発明の医薬組成物による治療の対象とする癌幹細胞の由来は特に限定されるものではなく、ヒト、サル、チンパンジー、イヌ、ウシ、ブタ、ウサギ、ラット、マウス等の哺乳動物等に由来するものを用いることができるが、ヒト由来のものが好ましく、ヒト腫瘍組織由来であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明で検出される癌幹細胞は、癌組織の階層構造を再現する細胞群であることが好ましく、例えば検出された癌幹細胞が採取された癌組織を、好ましくは非ヒト動物に移植し継代することによって作製された樹立癌細胞株が、そのような癌組織の階層構造を再現することを確認することが可能である。さらに好ましくは非ヒト動物として、免疫不全動物、最も好ましくは、機能的なT細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞を欠損したNOGマウス等に癌組織を移植し継代することによって作製されたNOG樹立癌細胞株が、そのような癌組織の階層構造を再現することを確認することができる。
【0026】
さらに、本発明で検出される癌幹細胞は、スフェロイド培養により形成されたスフェロイド(細胞塊)でもあり得る。スフェロイド培養とは、癌幹細胞を培養できる培地を用いて非付着性もしくは低接着性の培養フラスコ、プレート、またはディッシュ等の培養容器に細胞を播種後、細胞を三次元的に浮遊した状態で細胞を培養することであり、この方法で形成された細胞塊をスフェロイドという。
【0027】
NOG樹立癌細胞株は当業者に知られた方法で作製することができ、例えばFujii E. et al., Pathol int. 2008; 58: 559-567に記載された方法などを用いることができ、外科手術で摘出したヒト大腸癌、胃癌、肺癌、乳癌、膵臓癌などをハサミで物理的にミンスし、NOGマウスに皮下移植・継代することにより樹立できる。NOG樹立癌細胞株では継代を経てもオリジナルであるヒト癌組織の特徴が維持される。
【0028】
本発明において癌幹細胞は、細胞マーカーを用いて選択することができる。本発明にて用いられる細胞マーカーとしては、例えばLgr5(ロイシン-リッチ-リピート含有Gタンパク質共役受容体5)、CD133、CD44、EpCAM、CD166、CD24、CD26、CD29を挙げることができる。
【0029】
本発明は、細胞マーカーであるLgr5の発現が陽性であり、無血清培養の条件において付着性で、高増殖性であることを特徴とする、癌幹細胞に発現する分子に関する。以下本明細書では、当該癌幹細胞を「Lgr5陽性の高増殖性癌幹細胞」と記載する場合がある。
【0030】
また、本発明は細胞マーカーであるLgr5の発現が陰性であり、無血清培養の条件において浮遊性で、低増殖性であることを特徴とする、癌幹細胞に発現する分子に関する。以下本明細書では、当該癌幹細胞を「Lgr5陰性の低増殖性癌幹細胞」と記載する場合がある。
【0031】
本発明の癌幹細胞の培養に用いられる培地あるいは培養液は、無血清であれば、癌幹細胞を培養できる限りどのような培地あるいは培養液でもよく、特に限定されない。例えばEGF、bFGF、hLIF、HGF、NGF、NSF-1、TGFβ、TNFα、ヘパリン、BSA、インスリン、Transferrin、Putrescine、Selenite、Progesterone、Hydrocortisone、D-(+)-Glucose、Sodium Bicarbonate、 HEPES、L-Glutamine、N-acetylcysteineを加えた従来公知の基礎培養液又はこれらの混合物を培養液として用いることができる。EGFの濃度は特に限定されないが、0.1〜100 ng/mL、好ましくは0.5〜50 ng/mL、より好ましくは1〜20 ng/mLである。bFGFの濃度は特に限定されないが、0.1〜100 ng/mL、好ましくは0.5〜50 ng/mL、より好ましくは1〜20 ng/mLである。hLIFの濃度は特に限定されないが、0.1〜100 ng/mL、好ましくは0.5〜50 ng/mL、より好ましくは1〜20 ng/mLである。HGFの濃度は特に限定されないが、0.1〜100 ng/mL、好ましくは1〜50 ng/mLである。NGFの濃度は特に限定されないが、0.1〜100 ng/mL、好ましくは1〜50 ng/mLである。NSF-1の濃度は特に限定されないが、0.1〜100 ng/mL、好ましくは1〜50 ng/mLである。TGFβの濃度は特に限定されないが、0.1〜100 ng/mL、好ましくは1〜50 ng/mLである。TNFαの濃度は特に限定されないが、0.1〜100 ng/mL、好ましくは1〜50 ng/mLである。Heparinの濃度は特に限定されないが、10 ng/mL〜10μg/mL、好ましくは2〜5μg/mLである。BSAの濃度は特に限定されないが、0.1〜10 mg/mL、好ましくは1〜8 mg/mLである。Insulinの濃度は特に限定されないが、1〜100μg/mL、好ましくは10〜50μg/mLである。Transferrinの濃度は特に限定されないが、10〜500μg/mL、好ましく50〜200μg/mLである。Putrescineの濃度は特に限定されないが、1〜50μg/mL、好ましくは10〜20μg/mLである。Seleniteの濃度は特に限定されないが、1〜50 nM、好ましくは20〜40 nMである。Progesteroneの濃度は特に限定されないが、1〜50 nM、好ましくは10〜30 nMである。Hydrocortisoneの濃度は特に限定されないが、10 ng/mL〜10μg/mL、好ましくは100 ng/mL〜1μg/mLである。D-(+)-Glucoseの濃度は特に限定されないが、1〜20 mg/mL、好ましくは5〜10 mg/mLである。Sodium Bicarbonateの濃度は特に限定されないが、0.1〜5 mg/mL、好ましくは0.5〜2 mg/mLである。HEPESの濃度は特に限定されないが、0.1〜50 mM、好ましくは1〜20 mMである。L-Glutamineの濃度は特に限定されないが、0.1〜10 mM、好ましくは1〜5 mMである。N-acetylcysteineの濃度は特に限定されないが、1〜200μg/mL、好ましく10〜100μg/mLである。公知の基礎培養液としては、癌幹細胞のもととなる癌細胞の培養に適したものであれば特に限定されないが、例えばDMEM/F12、DMEM、F10、F12、IMDM、EMEM、RPMI-1640、MEM、BME、Mocoy's 5A、MCDB131等が挙げられる。この中では、DMEM/F12が好ましい。
【0032】
最も好ましい幹細胞培地として、DMEM/F12培地に、最終濃度が20 ng/mLのヒトEGF、10 ng/mL のヒトbFGF、4μg/mLのヘパリン、4 mg/mLのBSA、25μg/mLのヒトインスリン、2.9 mg/mL グルコースを加えた培地が挙げられる。
【0033】
本明細書に記載されるように、Lgr5陽性の高増殖性癌幹細胞は、間葉性細胞(間葉系細胞)の性質を示す。一方で、本明細書に記載されるように、Lgr5陰性の低増殖性癌幹細胞は、上皮細胞の性質を示す。本発明における上皮細胞とは、生体内において上皮組織を構成する細胞を指す。
【0034】
本発明における癌幹細胞の由来は特に制限されないが、好ましくは固形癌であり、より好ましくは消化器癌由来である。消化器癌としては、例えば食道癌、胃癌、十二指腸癌、膵臓癌、胆管癌、胆嚢癌、胆道癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌などが挙げられるが、好ましくは大腸癌である。
【0035】
また本発明においては癌幹細胞は、好ましくは細胞マーカーであるCD133、CD44、EpCAM、CD166、CD24、CD26、CD29のいずれか一つ以上が陽性であり、さらに好ましくはCD133、CD44、EpCAM、CD166、CD24、CD26およびCD29が陽性である。
【0036】
さらに本発明においては、細胞マーカーとしてALDH(アセトアルデヒド脱水素酵素)活性を用いることができる。本発明においては、Lgr5陽性の付着性癌幹細胞は、ALDH活性の細胞マーカーが陽性であり、Lgr5陰性の癌幹細胞はALDH活性が陰性である。
【0037】
また、本発明においては、細胞マーカーとしてHLA-DMA、TMEM173、ZMAT3またはGPR110のいずれかひとつ以上を用いることができる。Lgr5陽性の付着性癌幹細胞は、HLA-DMA、TMEM173、ZMAT3またはGPR110のいずれかの細胞マーカーが陰性であり、Lgr5陰性の癌幹細胞は、HLA-DMA、TMEM173、ZMAT3またはGPR110のいずれかの細胞マーカーが陽性である。
【0038】
本発明においては、癌組織の階層構造を再現する特徴を有する癌幹細胞であることが好ましい。
本発明において階層構造とは、正常組織に見られる特徴的な固有構造の一部が、当該組織を発生元とする腫瘍構造に病理組織学的に検出されることを言い、一般に高分化型の癌でこの階層構造がより高度に再現し、例えば、腺腔形成臓器の腫瘍(胃癌、大腸癌、膵臓癌、肝癌、胆管癌、乳癌、肺腺癌、前立腺癌など)の場合、管腔形成や粘液細胞の出現等が見られ、扁平上皮構造を取る腫瘍(肺、皮膚、膣粘膜等の扁平上皮癌)の場合、上皮の重層構造形成と角化傾向等が見られることを言う。一方で、低分化型の癌ではこの階層構造の再現が不十分で、異型性に富むと言われている(Kumar V, Abbas AK, Fausio N. Robbins and Cotran Pathologic Basis of Disease. 7th Ed. Unit I: General Pathology, 7: Neoplasia, Biology of tumor growth: Benign and malignant neoplasms. 272-281, 2005)。この階層構造は癌の種々の生物反応の結果、再現されたものであると考えられることから、これを再現する癌幹細胞の利用価値は高いと考えられる。
階層構造を再現するとは、元となる癌幹細胞が持っていた特長的な固有構造が、癌幹細胞を分離または誘導後にも、同様に観察されることをいう。
【0039】
また本発明においては、上皮間葉移行能(Epithelial to Mesenchymal Transition, EMT)を有する癌幹細胞であることが好ましい。本発明において、上皮間葉移行能とは、上皮細胞が間葉細胞の性質を得て移行すること、あるいは間葉細胞が上皮細胞の性質を得て移行することの両方の意を含む。EMTは、胚形成の過程以外、正常細胞においては起こらない。互いに強固に結合して極性を示す上皮細胞が、互いにより緩く結合し、極性の消失を示し、および移動能力を有する間葉細胞を生じさせる。これらの間葉系細胞は、原発腫瘍の周辺の組織に拡散して行くことができるばかりでなく、該腫瘍から分離して血管やリンパ管に浸潤し、新たな場所に移動して、そこで分裂してさらなる腫瘍を形成することができる。さらなる腫瘍の形成は癌の薬物抵抗性もしくは転移または再発を説明する助けとなる。
【0040】
また本発明は、上記本発明の癌幹細胞を含む、実質的に均質な癌幹細胞集団に発現する分子に結合する抗体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。「実質的に均質」とは、Hu Y & Smyth GK., J Immunol Methods. 2009 Aug 15;347(1-2):70-8やIshizawa K & Rasheed ZA. et al., Cell Stem Cell. 2010 Sep 3;7(3):279-82に記載された方法など用いて、1000細胞、100細胞、10細胞を免疫不全動物に移植し、癌細胞集団が形成される頻度をExtreme Limiting Dilution Analysis (Hu Y & Smyth GK., J Immunol Methods. 2009 Aug 15; 347(1-2): 70-8)を用いて解析することにより、癌幹細胞の頻度が1/20以上、好ましくは1/10以上、より好ましくは1/5以上、さらに好ましくは1/3以上、さらに好ましくは1/2以上、最も好ましくは1/1であることをいう。
【0041】
本発明において、癌幹細胞集団は、例えば本明細書に記載される癌幹細胞を含む細胞あるいは癌幹細胞を含む細胞群を培養することにより作製することができる。
【0042】
本発明において付着培養とは、付着培養用の培養容器に細胞を播種後、付着した状態で細胞を培養、継代することをいい、浮遊細胞を除いた培養である。コンフルエントに増殖した細胞は、Accutaseを用いて剥がし新しい付着培養フラスコ、付着培養プレート、付着培養ディシュに継代し培養を続ける。付着培養用の培養容器は、付着培養に用いる容器であれば特に限定されず、付着培養用あるいは接着性の高いフラスコ、付着培養用あるいは接着性の高いプレート、付着培養用あるいは接着性の高い平底プレート、付着培養用あるいは接着性の高いディッシュなどを適宜選択して用いることができる。
付着培養に使用する培地は特に制限されないが、無血清の幹細胞培地を用いることが好ましい。
本発明において付着性とは、細胞を付着培養用の培養容器で培養した場合に培養容器に付着する性質のことをいう。
【0043】
本発明において浮遊培養とは、浮遊培養用の培養容器に細胞を播種後、浮遊した状態で細胞を培養、継代することをいい、付着細胞を除いた培養である。コンフルエントに増殖した細胞は、新しい低接着性細胞培養フラスコ、超低接着性細胞培養フラスコ、低接着性プレート、超低接着性プレート、低接着性ディッシュ、超低接着性ディッシュに継代し培養を続ける。浮遊培養用の培養容器は、浮遊培養用に用いる容器であれば特に限定されず、低接着性細胞培養フラスコ、超低接着性細胞培養フラスコ、低接着性プレート、超低接着性プレート、低接着性ディッシュ、超低接着性ディッシュなどを適宜選択して用いることができる。
浮遊培養に使用する培地は特に制限されないが、無血清の幹細胞培地を用いることが好ましい。なお付着培養または浮遊培養を行う前に、癌幹細胞を含む細胞群は増殖させることが好ましい。
本発明において浮遊性とは、細胞を浮遊培養用の培養容器で培養した場合に、培養容器に付着せず浮遊状態で培養できる性質のことをいう。
【0044】
細胞群を増殖させるとは、例えば、スフェロイド培養や非ヒト動物に移植し継代することにより増殖させることをいうが、特にこれらに限定されるものではない。
【0045】
本明細書に記載されているように、移植に際しては、非ヒト動物としては拒絶反応が起こりにくい点で免疫不全動物を用いることができる。免疫不全動物としては、機能的なT細胞を欠損している非ヒト動物、例えばヌードマウスやヌードラット、機能的なT細胞とB細胞とを欠損している非ヒト動物、例えばSCIDマウスやNOD-SCIDマウスの使用が好適であり、なかでも優れた可移植性を有するT細胞、B細胞、NK細胞とを欠損しているマウス(例えば、NOGマウスなどが含まれる)の使用がより好適である。
非ヒト動物の週齢は、例えば無胸腺ヌードマウス、SCIDマウス、NOD/SCIDマウス、NOGマウスの場合、4〜100週齢のものを用いることが好ましい。NOGマウスは、例えばWO 2002/043477に記載の方法により作製可能であり、(財)実験動物中央研究所やThe Jackson Laboratory(NSGマウス)から入手することも可能である。
【0046】
移植する細胞は細胞塊、組織片、個々に分散した細胞、単離後一旦培養された細胞、他の動物に移植されるという過程を経て再びその動物から単離された細胞など、どのようなものでもよいが、分散した細胞が好ましい。また、移植される細胞数は、10
6以下の数でよいが、それ以上の数の細胞を移植しても構わない。
【0047】
皮下移植は移植手技が簡便であるという点から好適な移植部位ではあるが、移植部位は特に制限されるものではなく、使用する動物によって適宜移植部位を選択することが好ましい。なお、NOG樹立癌細胞株の移植操作は、特に制限されず、慣用の移植操作に従って行うことができる。
【0048】
癌幹細胞または癌幹細胞集団は、例えば患者から採取した癌組織を無血清の幹細胞培地を用い付着培養または浮遊培養することで作製することができる。また、患者から採取した癌組織をスフェロイド培養し、その後無血清の幹細胞培地を用い付着培養または浮遊培養することで作製することもできる。また、患者から採取した癌組織を非ヒト動物に移植・継代した後に、無血清の幹細胞培地を用い付着培養または浮遊培養することで作製することもできる。さらには、患者から採取した癌組織をNOGマウスに移植・継代し作製したNOG樹立癌細胞株を、無血清の幹細胞培地を用い付着培養または浮遊培養する方法を用いることもできる。
【0049】
本発明の癌幹細胞または癌幹細胞集団は、医薬品や抗癌剤のスクリーニング方法などに使用することができる。
本発明の医薬品のスクリーニング方法の一態様として、以下の(a)〜(c)の工程を含む方法を提供する;
(a)Lgr5陽性の付着性癌幹細胞を含む実質的に均質な癌幹細胞集団を準備する工程、
(b)前記癌幹細胞集団または前記癌幹細胞集団に含まれる癌幹細胞を被検物質に接触させる工程、
(c)被検物質に接触させた癌幹細胞集団または癌幹細胞の生物学的特性の変化を検出する工程。
【0050】
本方法においては、まずLgr5陽性の付着性癌幹細胞を含む実質的に均質な癌幹細胞集団またはLgr5陰性の癌幹細胞を含む実質的に均質な癌幹細胞集団を準備する。次いで、作製された癌幹細胞集団または癌幹細胞集団に含まれる癌幹細胞を被検物質に接触させる。本方法において、被検物質に癌幹細胞集団または癌幹細胞集団に含まれる癌幹細胞を接触させる方法は特に制限されない。例えば、被検物質に癌幹細胞集団の培養細胞、または癌幹細胞集団に含まれる癌幹細胞を接触させることができる。当該処理は、細胞の培養液又は該細胞抽出液に被検物質を添加することにより行うことができる。被検物質がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを、癌幹細胞集団または癌幹細胞集団に含まれる癌幹細胞へ導入する、又は該ベクターを癌幹細胞集団または癌幹細胞集団に含まれる癌幹細胞の細胞抽出液に添加することで行うことも可能である。また、例えば、酵母又は動物細胞等を用いた2ハイブリッド法を利用することも可能である。
【0051】
本方法においては、次いで、被検物質で処理された癌幹細胞集団または癌幹細胞の生物学的特性の変化を検出する。ここで、生物学的特性の変化とは、例えば、増殖能の変化、生細胞数の変化、癌幹細胞集団または癌幹細胞の癌進展プロセスにおいて特徴的に認められる組織構造の変化、当該癌幹細胞集団または癌幹細胞に含まれるDNA、RNA、タンパク質、又は代謝産物の発現の変化などを挙げることができる。また、生物学的特徴の変化の検出は、例えば以下の方法で行うことができる。
【0052】
DNA、RNA、タンパク質、ペプチド及び代謝産物の発現確認については、特に制限はされず、慣用の発現確認方法に従って行うことができる。RNAとしては、マイクロRNA、siRNA、tRNA、snRNA、mRNA、又はノンコーディングRNA等が挙げられる。例えば、各遺伝子のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、又はRT-PCR法を実施することによって各遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、各遺伝子の発現レベルを測定することも可能である。また、各遺伝子からコードされるタンパク質を含む画分を定法に従って回収し、各タンパク質の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。また、各タンパク質に対する抗体を用いて、ウエスタンブロッティング法を実施し、各タンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。これらの方法により医薬品(医薬組成物)のスクリーニングを行うことができる。
【0053】
このような、癌幹細胞集団または癌幹細胞の癌進展プロセスにおいて特徴的に認められる当該癌幹細胞集団または癌幹細胞に含まれるDNA、RNA、タンパク質として、配列番号:1から6のいずれかに記載されるタンパク質またはポリペプチド、もしくは当該タンパク質またはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが好適に挙げられる。
【0054】
例えば、被検物質で処理した後の癌幹細胞集団または癌幹細胞の生物学的特性が、処理前と比較して変化を示さない、またはその変化の割合が低下したとき、被検物質は癌の再発や転移を抑制する働きを有する医薬品(医薬組成物)(例えば、癌の再発抑制剤、化学療法処置後アジュバント剤、術後アジュバント療法剤、抗癌剤または癌転移抑制剤)として有用であると考えられ、それらの被検物質を、癌疾患の治療又は予防効果を有する有効物質として選択することができる。このように癌の進展を抑制する働きを有する医薬品(医薬組成物)は、癌の再発抑制剤、化学療法処置後アジュバント剤、術後アジュバント療法剤、抗癌剤または癌転移抑制剤として用いられる。本発明の抗癌剤は、例えば薬剤や化学療法剤に対し抵抗性を有する癌に対して用いられてもよい。即ち本発明の医薬品(医薬組成物)には、薬剤抵抗性または化学療法剤抵抗性癌治療剤も含まれる。
【0055】
本発明において、前記医薬品(医薬組成物)は抗癌剤もしくは転移または再発抑制剤に特に限定されるものではなく、他に、血管新生抑制剤、細胞増殖抑制剤などとしても用いることができる。また本発明の医薬品(医薬組成物)は、化学療法剤と同時期または化学療法剤処置後に使用されてもよい。なお、前記医薬品は特に限定されるものではないが、タンパク質薬剤、核酸薬剤、低分子薬剤、細胞性薬剤などが挙げられる。
【0056】
本発明のスクリーニング方法の別の態様として、以下の(a)〜(c)の工程を含む医薬品(医薬組成物)のスクリーニング方法を提供する;
(a)Lgr5陰性の浮遊性癌幹細胞を含む実質的に均質な癌幹細胞集団を作製する工程、
(b)前記癌幹細胞集団または前記癌幹細胞集団に含まれる癌幹細胞を被検物質に接触させる工程
(c)被検物質に接触させた癌幹細胞集団または癌幹細胞の生物学的特性の変化を検出する工程。
【0057】
本方法においてはまずLgr5陰性の浮遊性癌幹細胞を含む実質的に均質な癌幹細胞集団を作製する。次いで、作製された癌幹細胞集団または癌幹細胞集団に含まれる癌幹細胞を被検物質で処理する。次いで、被検物質で処理された癌幹細胞集団または癌幹細胞の生物学的特性の変化を検出する。
【0058】
このような、癌幹細胞集団または癌幹細胞の癌進展プロセスにおいて特徴的に認められる当該癌幹細胞集団または癌幹細胞に含まれるDNA、RNA、タンパク質として、配列番号:1から8のいずれかに記載されるタンパク質またはポリペプチド、もしくは当該タンパク質またはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが好適に挙げられる。本発明の非限定の一態様では、配列番号:1から6に記載されるタンパク質またはポリペプチドもしくは当該タンパク質またはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが用いられ得る。さらに、本発明の非限定な異なる一態様では、配列番号:7または8に記載されるタンパク質またはポリペプチドもしくは当該タンパク質またはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが用いられ得る。
【0059】
当該スクリーニング方法により得られる医薬品(医薬組成物)は特に限定されるものではないが、抗癌剤として用いることができる。すなわち、被検物質で処理した後の癌幹細胞集団または癌幹細胞の生物学的特性が、処理前と比較して変化を示さない、またはその変化の割合が低下したとき、被検物質は癌の再発や転移を抑制する働きを有する医薬品(例えば、癌の再発抑制剤、化学療法処置後アジュバント剤、術後アジュバント療法剤、抗癌剤または癌転移抑制剤)として有用であると考えられ、それらの被検物質を、癌疾患の治療又は予防効果を有する有効物質として選択することができる。このように癌の進展を抑制する働きを有する医薬品(医薬組成物)は、癌の再発抑制剤、化学療法処置後アジュバント剤、術後アジュバント療法剤、抗癌剤または癌転移抑制剤として用いられる。
また本発明の医薬品(医薬組成物)には、配列番号:1から8に記載されるタンパク質に結合する少なくとも一つの抗体を有効成分として含有するLgr5陰性の癌の癌治療剤が含まれる。ここでLgr5陰性の癌には、薬剤抵抗性や化学療法剤に対し抵抗性を有する癌が含まれる。
【0060】
本発明のスクリーニング方法の、さらに別の態様として、本発明の癌幹細胞集団または癌幹細胞集団に含まれる癌幹細胞および被検物質を投与した非ヒト動物を使用する方法が挙げられる。具体的には以下の(a)〜(c)の工程を含む医薬品(医薬組成物)のスクリーニング方法を提供する;
(a)Lgr5陽性の付着性癌幹細胞を含む実質的に均質な癌幹細胞集団を作製する工程、
(b)非ヒト動物に前記細胞集団または前記癌幹細胞集団に含まれる癌幹細胞および被検物質を投与する工程
(c)前記非ヒト動物における腫瘍の形成を検出する工程。
【0061】
本方法においては、まずLgr5陽性の付着性癌幹細胞を含む実質的に均質な癌幹細胞集団を作製する。次いで、非ヒト動物に、作製された癌幹細胞集団または癌幹細胞集団に含まれる癌幹細胞および被検物質を投与する。
【0062】
本方法において、非ヒト動物に対する被検物質の投与方法は特に制限されない。投与する被検物質の種類に応じて、経口投与又は皮下、静脈、局所、経皮若しくは経腸(直腸)などの非経口投与を適宜選択することができる。
【0063】
また本方法において、非ヒト動物に対する癌幹細胞集団または癌幹細胞を投与する方法は特に制限されない。投与する細胞集団に応じて、適宜投与方法を選択することができるが、好ましくは皮下投与あるいは静脈内投与である。
【0064】
本方法においては次いで、該非ヒト動物における腫瘍の形成を検出する。
被検物質の評価は、当該非ヒト動物について、癌幹細胞集団または癌幹細胞および被検物質が投与された組織を摘出し、該投与組織の組織学的特徴を観察し、腫瘍が形成されているか否かを測定することによって行うことができる。ここで腫瘍が形成されていない場合、被検物質は癌の進展や転移を抑制する働きを有する医薬品(例えば抗癌剤もしくは癌転移または癌再発抑制剤)として有用であると考えられ、それらの被検物質を、癌疾患の治療又は予防効果を有する有効物質として選択することができる。即ち、当該スクリーニング方法により得られる医薬品(医薬組成物)は特に限定されるものではないが、抗癌剤もしくは癌転移または癌再発抑制剤として用いることができる。
【0065】
また本発明の方法における「被検物質」としては、特に制限はなく、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、抗体、ペプチド、アミノ酸等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物若しくは動物細胞抽出物等を挙げることができる。これらは精製物であっても、また植物、動物又は微生物等の抽出物等のように粗精製物であってもよい。また被検物質の製造方法も特に制限されず、天然物から単離されたものであっても、化学的又は生化学的に合成されたものであっても、また遺伝子工学的に調製されたものであってもよい。また、配列番号:1から8に記載されるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドの一部の配列にもとづいて公知の手法によって設計されたアンチセンス、RNAi分子も適宜使用され得る。上記被検物質は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。また、上記被検物質に加えて、これらの標識を複数種混合した混合物も、本発明の被検物質に含まれる。
【0066】
さらに、本発明は、配列番号:1から8に記載されるいずれかのタンパク質の部分ペプチドを含むワクチン等の医薬品、およびワクチンのスクリーニング方法も提供する。そのようなスクリーニング方法として、試験管内で本発明の癌ワクチンによって誘導された細胞傷害性T細胞(CTL)等を用いて本発明で開示される癌幹細胞を標的とする細胞傷害活性を測定する方法が好適に挙げられる。具体的には、ヒトの末梢血をフィコール・コンレイ密度勾配中で遠心分離して集められた末梢血単核球(PBMC)から接着細胞と非接着細胞とが分離される。接着細胞がAIM-V(ギブコ)中、100ng/mlのGM-CSF(ノバルティス)及び10IU/mlのIL-4(ギブコBRL)と共にインキュベートされる。この細胞が抗原提示細胞(APC)として使用される。上記非接着細胞がAIM-V中、30〜100IU/mlの組換えIL-4(味の素)と共にインキュベートされる。7〜10日目に、本発明によって提供される配列番号:1から8に記載されるいずれかのタンパク質の部分ペプチド(終濃度30μg/ml)がAPCに添加される。その1日後に組換えTNF-α及びIFN-α(住友製薬)を添加することによってAPCが成熟する。次いで放射線が照射されたAPCと自家非接着細胞から分離したCD8陽性細胞とが、IL-2を含まないAIM-V中で混合される。インキュベート2日後、IL-2(武田薬品工業)が終濃度100IU/mlで培養へ添加される。7日毎に、T細胞マイトジェンであるPHAで刺激した自家PHAブラスト(PHA刺激T細胞)をAPCとして、CD8陽性細胞が刺激される。刺激毎に、培養に100IU/mlのIL-2を含む新鮮培地が追加される。28日目のCTLが活性試験に使用される。CTLの標的となる細胞としては本発明によって提供されるLgr5陽性の高増殖性癌幹細胞とLgr5陰性の低増殖性癌幹細胞が使用され得る。細胞傷害活性はADCC活性の測定法に準じて
51Cr-sodium chromateの取込活性を測定することによって評価され得る。
【0067】
なお、本発明のスクリーニング方法により選抜される医薬品は、必要に応じて、さらに他の薬効試験や安全性試験などを行うことにより、またさらにヒト癌疾患患者への臨床試験を行うことにより、より効果の高い、また実用性の高い予防有効物質又は治療有効物質として選別することができる。このようにして選別される医薬品は、さらにその構造解析結果に基づいて、化学的合成、生化学的合成(発酵)又は遺伝子学的操作によって、工業的に製造することもできる。
【0068】
高い増殖能とは、本明細書記載の方法を用いてEGFおよびFGFを添加した無血清培地で培養した場合に、倍加時間が6日以下、好ましくは4日以下、さらに好ましくは3日以下であることをいう。
低い増殖能とは、本明細書記載の方法を用いてEGFおよびFGFを添加した無血清培地で培養した場合に、倍加時間が7日以上、好ましくは14日以上であり、さらに好ましくは有意な増殖を示さないことをいう。
【0069】
当該Lgr5陽性の高増殖性癌幹細胞とLgr5陰性の低増殖性癌幹細胞の調製においては、細胞マーカーであるLgr5を用いて分離することができる。この分離方法には、癌幹細胞を含む細胞集団をLgr5抗体を用いて分離する方法と、癌幹細胞を含む集団をいったん付着培養あるいは浮遊培養することにより、実質的に均質な癌幹細胞集団を準備した後でLgr5抗体を用いて分離する方法、癌幹細胞を含む集団を、増殖抑制剤を含むまたは含まない培地中で付着培養することにより、実質的に均質な癌幹細胞集団を準備した後でLgr5抗体を用いて分離する方法、とが挙げられる。本発明においては、どちらの方法を用いても構わない。好ましくは、NOGマウスで3世代以上継代した癌組織から細胞を分離し、無血清の幹細胞培地で付着培養することでLgr5陽性の高増殖性癌幹細胞を調製することできる。そして、得られたLgr5陽性の癌幹細胞をイリノテカン処理する(無血清幹細胞培地に10μg/mlのイリノテカンを添加し、3日間培養する)等の増殖抑制剤との接触等種々のストレス下に維持することでLgr5陰性の低増殖性癌幹細胞を調製することができる。
【0070】
さらに本発明が提供する方法によって誘導された増殖能が異なる癌幹細胞に被験物質を接触させることを含む医薬品のスクリーニング方法を提供する。即ち、増殖能が低い癌幹細胞を高い増殖能を有する癌幹細胞へ誘導する、あるいは増殖能が高い癌幹細胞を増殖能が低い癌幹細胞へ誘導する方法によって誘導された、高い増殖能を有する癌幹細胞、または低い増殖能を有する癌幹細胞に被験物質を接触させることによって当該癌幹細胞の生物学的特性の変化を検出することを含む医薬品のスクリーニング方法が提供される。
【0071】
すなわち、本明細書に記載されるように、高い増殖能を有する癌幹細胞を、浮遊培養、増殖抑制剤との接触等種々のストレス下に維持することによって低い増殖能を有する癌幹細胞を取得することができる。例えば、高い増殖能を有する癌幹細胞を浮遊培養することにより、高い増殖能を有する癌幹細胞を低い増殖能を有する癌幹細胞へと誘導することができる。あるいは高い増殖能を有する癌幹細胞を、低接着性プレート、超低接着性プレート、低接着性ディッシュ、超低接着性ディッシュ、低接着性フラスコ、超低接着性細胞培養フラスコなどの低接着性または超低接着性の細胞培養容器で培養することにより、高い増殖能を有する癌幹細胞を低い増殖能を有する癌幹細胞へと誘導することもできる。すなわち、高い増殖能を有する癌幹細胞を、低接着性プレート、超低接着性プレート、低接着性ディッシュ、超低接着性ディッシュ、低接着性フラスコ、超低接着性細胞培養フラスコなどの低接着性または超低接着性の細胞培養容器で培養することにより、低い増殖能を有する癌幹細胞を製造することもできる。
【0072】
非限定の一態様では5-FUあるいはイリノテカン等の増殖抑制剤を用いることにより、高い増殖能を有する癌幹細胞を低い増殖能を有する癌幹細胞へと誘導することもできる。すなわち、高い増殖能を有する癌幹細胞を5-FUあるいはイリノテカン等の増殖抑制剤に曝露することにより、低い増殖能を有する癌幹細胞を製造することができる。増殖抑制剤への曝露は、試験管内での培養または移植された非ヒト動物内等の生体内のいずれの環境下においても実施され得る。この場合において、当業者は癌幹細胞の増殖抑制剤に対する曝露量を適宜選択することが可能である。また、低い増殖能を有する癌幹細胞を5-FUあるいはイリノテカン等の増殖抑制剤を含まない培地中に再播種することにより、高い増殖能を有する癌幹細胞を製造することができる。別の非限定の一態様では、低い増殖能を有する癌幹細胞を保持した非ヒト動物に対する増殖抑制剤の投与を中止することにより、高い増殖能を有する癌幹細胞を製造することもできる。
【0073】
また、低い増殖能を有する癌幹細胞を付着培養することにより、高い増殖能を有する癌幹細胞へと誘導することができる。あるいは低い増殖能を有する癌幹細胞を平底プレート、プレート、付着培養プレート、付着培養フラスコ、ディッシュ、付着培養ディシュなどの低接着性ではない接着性の高い細胞培養容器で培養することにより、低い増殖能を有する癌幹細胞を高い増殖能を有する癌幹細胞へと誘導することもできる。すなわち、低い増殖能を有する癌幹細胞を平底プレート、プレート、付着培養プレート、付着培養フラスコ、ディッシュ、付着培養ディシュなどの低接着性ではない接着性の高い細胞培養容器で培養することにより、高い増殖能を有する癌幹細胞を製造することもできる。
【0074】
また本発明は、癌細胞検出用試薬に関する。本発明の癌細胞検出用試薬には、好ましくは有効成分として、配列番号:1から8に記載されるタンパク質(配列番号:1から8のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)に結合する少なくとも一つの抗体が含まれる。本発明の試薬の別の態様として、Lgr5陽性の癌細胞を検出するための試薬が挙げられ、当該試薬には、好ましくは配列番号:1から6に記載されるタンパク質(配列番号:1から6のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)に結合する少なくとも一つの抗体が含まれる。本発明の試薬のさらに別の態様として、Lgr5陰性の癌細胞を検出するための試薬が挙げられ、当該試薬には、好ましくは配列番号:1から8に記載されるタンパク質(配列番号:1から8のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)に結合する少なくとも一つの抗体が含まれる。
【0075】
<増殖抑制剤>
非限定な一態様では、増殖抑制剤として、DNA損傷剤、抗有糸分裂剤および/または代謝拮抗剤が好適に挙げられ得る。DNA損傷剤は、アルキル化剤、トポイソメラーゼ阻害剤および/またはDNAインターカレータであり得る。カルボプラチン(DNAアルキル化剤)、エトポシド(トポイソメラーゼIIの阻害剤)、ドキソルビシン(DNAインターカレータ)、ドセタキセル(抗有糸分裂剤)およびGemzar(ゲムシタビン、代謝拮抗剤)等が非限定の好適な増殖抑制剤として例示され得る。
【0076】
アルキル化剤は、以下の少なくとも1つから選択され得る。すなわち、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、メクロルエタミン、メルファラン、ウラシルマスタード、チオテパ、ブスルファン、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン、カルボプラチン、シスプラチン、サトラプラチン、オキサリプラチン、アルトレタミン、ET-743、XL119(ベカテカリン)、ダカルバジン、クロルメチン、ベンダムスチン、トロホスファミド、ウラムスチン、ホテムスチン、ニムスチン、プレドニムスチン、ラニムスチン、セムスチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、マンノスルファン、トレオスルファン、テモゾロミド、カルボコン、トリアジコン、トリエチレンメラミンおよびプロカルバジン等から選択される少なくとも1つのアルキル化剤が使用され得る。
【0077】
トポイソメラーゼ阻害剤は、以下の少なくとも1つから選択され得る。ドキソルビシン(Doxil)、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、アントラセンジオン(Novantrone)、ミトキサントロン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、プリカトマイシン、イリノテカン(Camptosar)、カンプトテシン、ルビテカン、ベロテカン、エトポシド、テニポシドおよびトポテカン(Hycamptin)等から選択される少なくとも1つのトポイソメラーゼ阻害剤が使用され得る。
【0078】
DNAインターカレータは、プロフラビン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ダウノルビシン、ダクチノマイシンおよびサリドマイド等から選択される少なくとも1つのトポイソメラーゼ阻害剤が使用され得る。
【0079】
抗有糸分裂剤は、以下の少なくとも1つから選択され得る。パクリタキセル(Abraxane)/Taxol、ドセタキセル(Taxotere)、BMS-275183、Xyotax、Tocosal、ビノルレビン(vinorlebine)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビンゾリジン、エトポシド(VP-16)、テニポシド(VM-26)、イクサベピロン、ラロタキセル、オルタタキセル、テセタキセル(tesetaxel)およびイスピネシブ等から選択される少なくとも1つのトポイソメラーゼ阻害剤が使用され得る。
【0080】
代謝拮抗剤は、以下の少なくとも1つから選択され得る。フルオロウラシル(5-FU)、フロクスウリジン(5-FUdR)、メトトレキセート、Xeloda、Arranon、ロイコボリン、ヒドロキシ尿素、チオグアニン(6-TG)、メルカプトプリン(6-MP)、シタラビン、ペントスタチン、リン酸フルダラビン、クラドリビン(2-CDA)、アスパラギナーゼ、ゲムシタビン、ペメトレキセド、ボルテゾミブ、アミノプテリン、ラルチトレキセド、クロファラビン、エノシタビン、サパシタビンおよびアザシチジン等から選択される少なくとも1つのトポイソメラーゼ阻害剤が使用され得る。
【0081】
さらに本発明は、上記本発明の方法により分離・誘導された癌幹細胞を用いた、抗癌剤のスクリーニング方法に関する。
【0082】
さらに本発明は、上記本発明の方法により分離・誘導された癌幹細胞を用いた、化合物の評価方法に関する。
【0083】
<癌幹細胞の検出方法>
また本発明は、本発明の癌幹細胞の存在を検出・同定又は定量するための方法を提供する。具体的には、以下の(a)および(b)の工程を含む本発明の癌幹細胞または実質的に均質な癌幹細胞の集団の存在を検出・同定又は定量するための方法を提供する;
(a)癌患者から取得したサンプルを準備する工程、
(b)該サンプルとLgr5抗体とを接触させる工程。
【0084】
本方法においては、まず癌患者から取得したサンプルを準備する。本発明において「サンプル」とは、好ましくは癌患者由来の臓器または組織であれば特に制限されなず、凍結または未凍結の臓器または組織を用いることができる。例えば癌患者から取得した癌(腫瘍)組織を挙げることができる。本方法においては次いで該サンプルとLgr5抗体とを接触させる。
【0085】
上記本発明の癌幹細胞または実質的に均質な癌幹細胞の集団の存在を検出・同定又は定量するための方法は、例えば癌の診断、癌患者の選別、薬剤(医薬組成物)の有効性の予見や有効性の確認、治療のモニタリング、癌のイメージングに用いることができる。
【0086】
具体的には、例えば、癌患者から臓器又は組織を摘出し、標本を作製し、標本を用いて癌幹細胞の存在を検出・同定又は定量することができる。標本の作製は公知の方法を適宜使用でき、例えばPFA-AMeX-Paraffin法(WO 09/078386)を用いることができる。サンプルとしては、例えば、凍結又は未凍結の臓器又は組織を用いることができる。癌患者のサンプルをまずPFA液で固定する。PFA液とはパラホルムアルデヒドの1〜6%水溶液にリン酸緩衝液などの緩衝液を加えた細胞固定溶液であり、好ましくは4%PFA固定液(4%パラホルムアルデヒド/0.01 M PBS(pH7.4))を用いる。PFA固定液による固定は、目的とする臓器又は組織を1〜6%、好ましくは4%のパラホルムアルデヒドを含むPFA固定液に、0〜8℃、好ましくは約4℃の温度で、2〜40時間、好ましくは6〜30時間浸漬することにより行うことができる。次いで固定した臓器又は組織をリン酸緩衝食塩水などで洗浄する。このとき、観察した臓器又は組織の部分を切り出した後、洗浄してもよい。
【0087】
このようにして調製した臓器又は組織を次にAMeX法でパラフィン包埋を行う。AMeX法は、冷アセトン固定、アセトンによる脱水、安息香酸メチルとキシレンによる透徹及びパラフィン包埋を一連の操作とする、パラフィン包埋法である。具体的には、−25〜8℃、好ましくは−20〜6℃のアセトンに2〜24時間、好ましくは4〜16時間浸漬し、次に組織を入れたアセトンを室温に戻す、あるいは室温のアセトンに臓器又は組織を移した後、室温で0.5〜5時間、好ましくは1〜4時間脱水する。次に、安息香酸メチル中に室温で0.5〜3時間、好ましくは0.5〜2時間浸漬、キシレン中に室温で0.5〜3時間、好ましくは0.5〜2時間浸漬して透徹を行い、その後55〜65℃、好ましくは58〜62℃のパラフィンに1〜4時間、好ましくは1〜3時間浸透して包埋する。このようにしてPFA-AMeX法で得られた臓器又は組織のパラフィンブロックは使用時まで低温で保存する。
【0088】
使用時には、上記で得られたパラフィンブロックを、ミクロトームなどを用いて薄切切片を作製し、さらに薄切切片の脱パラフィン及び親水化を行う。脱パラフィン及び親水化は公知の方法により実施することができる。例えば、脱パラフィンはキシレン、トルエンにより実施し、また親水化はアルコール、アセトンにより実施することができる。
【0089】
このようにして得られた薄切切片は、例えば、組織染色、免疫組織化学的染色又は酵素組織化学的染色を行って検出・同定又は定量に供する。
【0090】
作製した標本を組織染色(特殊染色)するときには、通常のパラフィン包埋切片で可能な染色は何でも使用することができる(例えば、PAS染色、ギムザ染色、トルイジンブルー染色など)。酵素組織化学的染色は、切片上で可能な染色が使用できる(例えば、ALP、ACP、TRAP、エステラーゼなどの種々の染色)。また、病理組織を染色するには、一般染色として、ヘマトキシリン、エオジン(Hematoxylin-Eosin)染色;膠原線維用として、ワン・ギーソン(Van Gieson)染色、アザン(Azan)染色、マッソントリクローム(Masson Trichrome)染色;弾性線維用として、ワイゲルト(Weigert)染色、エラスチカワンギーソン(Elastica Van Gieson)染色;細網線維・基底膜用として、渡辺の鍍銀染色、PAM染色(Periodic acid methenamine silver stain)などを用いることができる。
【0091】
免疫組織化学的染色又は酵素組織化学的染色は、一次抗体を酵素や標識物質で標識したものを用いる直接法と一次抗体を標識せずに二次抗体を標識する間接法などを用いて行うことができるが、これに限定されない。抗体は、通常知られる方法により標識されることができる。標識物質としては、例えば放射性同位元素、酵素、蛍光物質、ビオチン/アビジン等が挙げられる。これらの標識物質は市販の標識物質を使用することができる。放射性同位元素しては、例えば
32P、
33P、
131I、
125I、
3H、
14C、
35Sが挙げられる。酵素としては、例えばアルカリフォスファターゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ等が挙げられる。蛍光物質としては、例えばフロオロセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンが挙げられる。これらは市販のものを入手することができ、公知の方法によって標識される。
【0092】
また薄切切片は、例えば、組織染色、免疫組織化学的染色又は酵素組織化学的染色を行って検出・同定又は定量に供する。
【0093】
また、検出・同定又は定量は、臓器または組織標本は、臓器または組織標本中の細胞におけるDNA、RNAを定量することによっても行うことができる。これらの発現確認については、特に制限はされず、慣用の発現確認方法に従って行うことができる。RNAとしては、マイクロRNA、siRNA、tRNA、snRNA、mRNA、又はノンコーディングRNA等が挙げられる。例えば、Lgr5のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、又はRT-PCR法を実施することによって各遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、Lgr5の発現レベルを測定することも可能である。
【0094】
標本から所望の組織又は細胞などを採取するにはマイクロダイセクション法、特にレーザーマイクロダイセクション(LMD)法を用いることができる。LMD法は、生体組織から標的細胞群を採取することができるため、生体内において特定の遺伝子が、組織を構成する様々な細胞のうち、どの細胞にどれだけ発現しているのかを正確に知ることができる。マイクロダイセクションを行う機器として、例えばAS-LMDシステム(Leica Microsystems社製)を用いることができる。
【0095】
また、本発明において、配列番号:1から8に記載されるタンパク質に結合する少なくとも一つの抗体を用いて、癌患者から単離された試料における少なくとも一つの当該タンパク質の存在を検出することを含む、癌を診断する、癌幹細胞を検出する、または癌患者を選別する方法が提供される。癌幹細胞の存在を検出するには前記のLgr5抗体の代わりに配列番号:1から8に記載されるタンパク質に結合する少なくとも一つの抗体を使用することが可能である。
【0096】
本発明の非限定な一態様では、配列番号:1から6に記載されるタンパク質に結合する少なくとも一つの抗体を用いて、癌患者から単離された試料における少なくとも一つの当該タンパク質の存在を検出することを含む、癌を診断する、癌幹細胞を検出する、または癌患者を選別する方法が提供される。Lgr5陽性の癌幹細胞の存在を検出するには前記のLgr5抗体の代わりに配列番号:1から6に記載されるタンパク質に結合する少なくとも一つの抗体を使用することが可能である。当該タンパク質の存在を検出することによって、Lgr5陽性の癌幹細胞の存在を検出することが可能であるが、Lgr5の存在を併せて検出することも本発明では排除されていない。
【0097】
本発明の非限定な一態様では、配列番号:1から8に記載されるタンパク質に結合する少なくとも一つの抗体を用いる癌患者から単離された試料における少なくとも一つの当該タンパク質の存在を検出することを含む癌を診断する、癌幹細胞を検出する、または癌患者を選別する方法が提供される。Lgr5陰性の癌幹細胞の存在を検出するには前記のLgr5抗体の代わりに配列番号:1から8に記載されるタンパク質に結合する少なくとも一つの抗体を使用することが可能である。当該タンパク質の存在を検出することによって、Lgr5陰性の癌幹細胞の存在を検出することが可能であるが、Lgr5の存在を併せて検出することも本発明では排除されていない。
【0098】
また、本発明では、配列番号:1から8に記載されるタンパク質に結合する少なくとも1つの抗体を含む医薬組成物の有効性を確認する方法であって、当該医薬組成物が投与された被験者から単離された試料における配列番号:1から8に記載されるタンパク質および/または当該タンパク質をコードするポリヌクレオチドのいずれかひとつ以上の存在を検出することを含む方法が提供される。本方法においては、配列番号:1から8に記載されるタンパク質に結合する少なくとも1つの抗体、または配列番号:1から8に記載されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドおよび/またはその相補鎖の部分を検出に用いることもできる。他の非限定な一態様では、被験対象において癌の治療の有効性を評価する方法であって、被験対象に対して治療の少なくとも一部を提供する前に対象から得られた第1サンプルにおける配列番号:1から8に記載されるタンパク質および/または当該タンパク質をコードするポリヌクレオチドの少なくとも1つの発現を、治療の部分の提供後に対象から得た第2サンプルにおける配列番号:1から8に記載されるタンパク質および/または当該タンパク質をコードするポリヌクレオチドの少なくとも1つの発現と比較することを含む方法であって、第2サンプルにおける当該タンパク質および/または当該ポリヌクレオチドの第1サンプルに対して有意に低いレベルが、治療が被験対象において癌を阻害するのに有効な指標である方法が提供される。
【0099】
本発明の非限定な一態様において、本発明によって提供される抗体による治療の被験対象における有効性をモニターする方法であって、
(i)当該抗体の投与前に対象から投与前サンプルを得ること;
(ii)配列番号:1から8に記載されるタンパク質から選択される少なくとも1つのマーカータンパク質、そのmRNA、またはそのゲノムDNAの、投与前サンプル中での発現のレベルを検出すること;
(iii)対象から、1またはそれ以上の投与後サンプルを得ること;
(iv)配列番号:1から8に記載されるタンパク質から選択される少なくとも1つのマーカータンパク質、そのmRNAまたはそのゲノムDNAの投与後サンプルにおける発現または活性のレベルを検出すること;
(v)当該マーカータンパク質、当該mRNA、または当該ゲノムDNAの投与前サンプル中での発現または活性のレベルを、投与後サンプルまたはサンプル(複数)中の当該マーカータンパク質、当該mRNA、または当該ゲノムDNAと比較すること;および、
(vi)それに応じて、被験対象に対する抗体の投与を変更することから成るステップを含む方法が提供される。例えば、本発明の抗体の投与の増加が、検出されるよりも高いレベルへのマーカー(当該マーカータンパク質、当該mRNA、または当該ゲノムDNAの投与前サンプル中での発現または活性のレベル)の発現または活性を減少させるのに、即ち、抗体の有効性を増加させるために用いられ得る。
【0100】
本発明の別の非限定な一態様において、本発明によって提供される抗体による治療の被験対象における有効性をモニターする方法であって、
(i)当該抗体の投与前に対象から得られた投与前サンプルにおいてLgr5陽性の癌幹細胞を検出すること;
(ii)配列番号:1から6に記載されるタンパク質から選択される少なくとも1つのマーカータンパク質、そのmRNA、またはそのゲノムDNAの、投与前サンプル中での発現のレベルを検出すること;
(iii)対象から、1またはそれ以上の投与後サンプルを得ること;
(iv)配列番号:1から6に記載されるタンパク質から選択される少なくとも1つのマーカータンパク質、そのmRNAまたはそのゲノムDNAの投与後サンプルにおける発現または活性のレベルを検出すること;
(v)当該マーカータンパク質、当該mRNA、または当該ゲノムDNAの投与前サンプル中での発現または活性のレベルを、投与後サンプルまたはサンプル(複数)中の当該マーカータンパク質、当該mRNA、または当該ゲノムDNAと比較すること;および、
(vi)それに応じて、被験対象に対する抗体の投与を変更することから成るステップを含む方法が提供される。例えば、本発明の抗体の投与の増加が、検出されるよりも高いレベルへのマーカー(当該マーカータンパク質、当該mRNA、または当該ゲノムDNAの投与前サンプル中での発現または活性のレベル)の発現または活性を減少させるのに、即ち、抗体の有効性を増加させるために用いられ得る。
【0101】
本発明の異なる非限定な一態様において、本発明によって提供される抗体による治療の被験対象における有効性をモニターする方法であって、
(i)当該抗体の投与前に対象から得られた投与前サンプルにおいてLgr5陰性の癌幹細胞を検出すること;
(ii)配列番号:1から8に記載されるタンパク質から選択される少なくとも1つのマーカータンパク質、そのmRNA、またはそのゲノムDNAの、投与前サンプル中での発現のレベルを検出すること;
(iii)対象から、1またはそれ以上の投与後サンプルを得ること;
(iv)配列番号:1から8に記載されるタンパク質から選択される少なくとも1つのマーカータンパク質、そのmRNAまたはそのゲノムDNAの投与後サンプルにおける発現または活性のレベルを検出すること;
(v)当該マーカータンパク質、当該mRNA、または当該ゲノムDNAの投与前サンプル中での発現または活性のレベルを、投与後サンプルまたはサンプル(複数)中の当該マーカータンパク質、当該mRNA、または当該ゲノムDNAと比較すること;および、
(vi)それに応じて、被験対象に対する抗体の投与を変更することから成るステップを含む方法が提供される。例えば、本発明の抗体の投与の増加が、検出されるよりも高いレベルへのマーカー(当該マーカータンパク質、当該mRNA、または当該ゲノムDNAの投与前サンプル中での発現または活性のレベル)の発現または活性を減少させるのに、即ち、抗体の有効性を増加させるために用いられ得る。
【0102】
<癌幹細胞阻害剤>
癌幹細胞阻害剤とは、例えば、癌幹細胞の増殖の抑制、癌幹細胞の転移または再発の抑制、癌幹細胞の死滅などの効果を有する剤を意味し、癌細胞の増殖の抑制、癌細胞の転移または再発の抑制、癌細胞の死滅などの効果を有していてもよい。
【0103】
用語「抑制する」、「抑制すること」およびそれらと文言上同等な現象は、癌幹細胞の増殖、または転移等が非限定に例示される生物活性との関連で用いられる場合、生物活性の下方制御を指し、それは、タンパク質の生成または分子のリン酸化などの標的にした機能を低下または除去することができる。特定の実施形態では、抑制は、標的にした活性の約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%の低下を指すことができる。障害または疾患との関連で用いられる場合、本用語は、症状の発生の予防、症状の軽減、または、疾患、状態もしくは障害の緩和の成功を指す。
【0104】
「転移」は、癌が体の原発部位から他の領域に広がるか移って新しい場所に類似した癌性の病巣が発達する過程を指す。「転移性」または「転移する」細胞は、隣接細胞との接着性接触を失い、血流またはリンパを通して疾患の原発部位から移動して、近隣の体構造に侵入する細胞である。「再発」とは、癌患者から悪性腫瘍を摘出するための臓器の部分切除後、または当該切除の後の術後化学療法後、残存臓器に同じ悪性腫瘍が再現することをいう。
【0105】
<タンパク質>
本発明で使用されるタンパク質は、当業者に公知の任意の方法によって、該タンパク質をコードするDNAを含む遺伝子を含有する発現ベクターを作成し、該発現ベクターにより形質転換させた形質転換体を培養し、該タンパク質を生成、蓄積せしめ、これを採取することによって、容易に調製することが出来る。
【0106】
上記発現ベクターは、当該技術分野で公知の方法に従って作成することが出来る。例えば、
(1)タンパク質をコードするDNAを含む遺伝子を含有するDNA断片を切り出し、
(2)該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結する、
ことにより製造することができる。
【0107】
ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322,pBR325,pUC18,pUC118)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110,pTP5,pC194)、酵母由来プラスミド(例、pSH19,pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの動物ウイルス等を利用することが出来る。
【0108】
本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応した適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、宿主が大腸菌である場合は、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーターなどが、宿主が枯草菌である場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなど、宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV-TKプロモーターなどが挙げられる。
【0109】
発現ベクターには、以上の他に、所望により当該技術分野で公知の、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン等を付加することができる。また、必要に応じて、本発明で使用されるタンパク質を他のタンパク質(例えば、グルタチオンSトランスフェラーゼ及びプロテインA)との融合タンパク質として発現させることも可能である。このような融合タンパク質は、適当なプロテアーゼを使用して切断し、それぞれのタンパク質に分離することが出来る。
【0110】
宿主細胞としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞などが用いられる。
【0111】
エシェリヒア属菌の具体例としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12・DH1(Proc.Natl.Acad.Sci,USA, 60巻, 160(1968))、JM103(Nucleic Acids Research, 9巻, 309(1981))、JA221(Journal of Molecular Biology, 120巻, 517(1978))、及びHB101(Journal of Molecular Biology, 41巻, 459(1969))等が用いられる。
【0112】
バチルス属菌としては、例えば、バチルス・サチルス(Bacillus subtilis)MI114(Gene, 24巻, 255(1983))、207-21〔Journal of Biochemistry, 95巻, 87(1984)〕等が用いられる。
【0113】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス セレビシエ(Saccaromyces cerevisiae)AH22、AH22R-、NA87-11A、DKD-5D、20B-12、スキゾサッカロマイセス ポンベ(Schizosaccaromyces pombe)NCYC1913、NCYC2036、ピキア パストリス(Pichia pastoris)等が用いられる。
【0114】
動物細胞としては、例えば、サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO細胞と略記)、dhfr遺伝子欠損CHO細胞、マウスL細胞,マウスAtT-20細胞、マウスミエローマ細胞、ラットGH3細胞、ヒトFL細胞などが用いられる。
【0115】
これら宿主細胞の形質転換は、当該技術分野で公知の方法に従って行うことが出来る。例えば、以下に記載の文献を参照することが出来る。
Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 69巻, 2110(1972);Gene, 17巻, 107(1982);Molecular & General Genetics, 168巻, 111(1979);Methods in Enzymology, 194巻, 182-187(1991);Proc.Natl.Acad.Sci.USA), 75巻, 1929(1978);及びVirology,52巻,456(1973)。
【0116】
このようにして得られた形質転換体は、当該技術分野で公知の方法に従って培養することが出来る。
例えば、宿主がエシェリヒア属菌の場合、培養は通常約15〜43℃で約3〜24時間行ない、必要により、通気や撹拌を加えることもできる。宿主がバチルス属菌の場合、培養は通常、約30〜40℃で約6〜24時間行ない、必要により通気や撹拌を加えることもできる。
【0117】
宿主が酵母である形質転換体を培養する際、培養は通常、pHが約5〜8に調整された培地を用いて約20℃〜35℃で約24〜72時間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加えることもできる。
【0118】
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する際、pHは約6〜8に調整された培地を用いて、通常約30℃〜40℃で約15〜60時間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加えることもできる。
【0119】
上記培養物から本発明で使用されるタンパク質を分離精製するには、例えば、培養後、公知の方法で菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離やろ過によりタンパク質の粗抽出液を得る。緩衝液の中に尿素や塩酸グアニジンなどの蛋白質変性剤や、トリトンX-100
TMなどの界面活性剤が含まれていてもよい。培養液中にタンパク質が分泌される場合には、培養終了後、公知の方法で菌体あるいは細胞と上清とを分離し、上清を集める。このようにして得られた培養上清、あるいは抽出液中に含まれるタンパク質の精製は、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行なうことができる。
【0120】
こうして得られたタンパク質は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって、組換え体が産生するタンパク質を、精製前または精製後に、トリプシン及びキモトリプシンのような適当な蛋白修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、ポリペプチドを部分的に除去することもできる。
本発明で使用されるタンパク質の存在は、様々な結合アッセイ及び特異抗体を用いたエンザイムイムノアッセイ等により測定することができる。
【0121】
<抗体>
本発明で使用される抗体は、本発明で使用されるタンパク質と結合する限り特に制限はなく、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるもの等を含む。尚、本発明で使用される抗体は、本発明で使用されるタンパク質と特異的に結合することが好ましい。
【0122】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、本発明で使用されるタンパク質を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。
【0123】
該タンパク質をコードする遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または培養上清中から該タンパク質を公知の方法で精製する。
【0124】
次に、該タンパク質を感作抗原として用いる。あるいは、該タンパク質の部分ペプチドを感作抗原として使用することもできる。この際、部分ペプチドは該タンパク質のアミノ酸配列より当業者に公知の一般的な方法による化学合成により得ることができる。
【0125】
ここで、該タンパク質の部分ポリペプチドとしては、例えば、該タンパク質の構成アミノ酸配列のうち少なくとも10個以上、好ましくは50個以上、さらに好ましくは70個以上、より好ましくは100個以上、最も好ましくは200個以上のアミノ酸配列を有し、例えば、該タンパク質の機能と実質的に同等の生物学的活性を有するペプチドなどが用いられる。該部分ペプチドはC末端が通常カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート(-COO-)であるが、C末端がアミド(-CONH
2)またはエステル(-COOR)であってもよい。さらに、該部分ペプチドには、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基で保護されているもの、N端側が生体内で切断され生成したグルタミル基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチドなどの複合ペプチドなども含まれる。
【0126】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
【0127】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate−Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4〜21日毎に数回投与する。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することもできる。
【0128】
このように哺乳動物を免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を採取し、細胞融合に付されるが、好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0129】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞を用いる。このミエローマ細胞は、公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J.Immnol.(1979)123,1548−1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81,1-7)、NS-1(Kohler.G.and Milstein,C.Eur.J.Immunol.(1976)6, 511-519)、MPC-11(Margulies.D.H.et al., Cell(1976)8,405-415)、SP2/0(Shulman,M. et al.,Nature(1978)276,269-270)、F0(de St.Groth,S.F.et al.,J.Immunol.Methods(1980)35,1-21)、S194(Trowbridge,I.S. J. Exp. Med.(1978)148,313-323)、R210(Galfre,G.et al.,Nature(1979)277,131-133)等が好適に使用される。
【0130】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler.G. and Milstein,C.、Methods Enzymol.(1981)73,3-46)等に準じて行うことができる。
【0131】
より具体的には、前記細胞融合は、例えば細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0132】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定することができる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1−10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液(例えば平均分子量1000−6000程度)を通常30−60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)を形成する。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去する。
【0133】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。上記HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、数日〜数週間)継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、本発明で使用される抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングを行う。
【0134】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで該タンパク質に感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞と融合させ、該タンパク質への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1−59878号公報参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原となる該タンパク質を投与して抗体産生細胞を取得し、これを不死化させた細胞から該タンパク質に対するヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公開番号WO 94/25585号公報、WO 93/12227号公報、WO 92/03918号公報、WO 94/02602号公報参照)。
【0135】
ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域が一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製され得る。当該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより当該ヒト抗体が取得される。これらの方法は既に公知である(国際公開WO 1992/001047、WO 1992/020791、WO 1993/006213、WO 1993/011236、WO 1993/019172、WO 1995/001438、WO 1995/015388参照)。
【0136】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0137】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0138】
本発明で使用されるモノクローナル抗体は、例えば、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型のものであってもよい(例えば、Vandamme, A.M. et al., Eur.J.Biochem. (1990)192, 767-775, 1990参照)。
【0139】
具体的には、抗体を産生するハイブリドーマから、抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin,J.M.et al.,Biochemistry(1979)18,5294-5299)、AGPC法(Chomczynski,P. et al., Anal.Biochem. (1987)162, 156-159)等により行って全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia製)等を使用して目的のmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。
【0140】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等を用いて行う。また、cDNAの合成および増幅を行うには、5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman,M.A.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1988)85, 8998-9002、Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res. (1989) 17, 2919-2932)等を使用することができる。
【0141】
得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。そして、目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認する。
【0142】
目的とする抗体のV領域をコードするDNAを得たのち、これを、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを含有する発現ベクターへ組み込む。
【0143】
本発明で使用される抗体を製造するには、抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより、宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。
【0144】
抗体遺伝子の発現は、抗体重鎖(H鎖)または軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(WO 94/11523号公報参照)。
【0145】
また、組換え型抗体の産生には上記宿主細胞だけではなく、トランスジェニック動物を使用することができる。例えば、抗体遺伝子を、乳汁中に固有に産生される蛋白質(ヤギのカゼインなど)をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギまたはその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al.,Bio/Technology(1994)12, 699-702)。
【0146】
本発明では、上記抗体のほかに、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト型化(Humanized)抗体、ヒト抗体を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。そして本発明のモノクローナル抗体には、上記動物由来のモノクローナル抗体だけでなく、キメラ抗体、ヒト化抗体、bispecific抗体など人為的に改変した遺伝子組み換え型抗体も含まれる。
【0147】
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる。この既知の方法を用いて、有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0148】
ヒト型化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、これは、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR:complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576号公報参照)。
【0149】
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)とを連結するように設計したDNA配列を、CDR及びFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成する(WO98/13388号公報に記載の方法を参照)。
【0150】
CDRを介して連結されるヒト抗体のフレームワーク領域は、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K. et al.,Cancer Res.(1993)53,851-856)。
【0151】
キメラ抗体及びヒト型化抗体のC領域には、ヒト抗体のものが使用され、例えばH鎖では、CH1、CH2、CH3、CH4を、L鎖ではCκ、Cλを使用することができる。また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
【0152】
キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とからなる。一方、ヒト型化抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域と、ヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域とからなる。ヒト型化抗体はヒト体内における抗原性が低下されているため、本発明の治療剤の有効成分として有用である。
【0153】
本発明で使用される抗体は、抗体の全体分子に限られず、本発明で使用されるタンパク質に結合する限り、抗体断片又はその修飾物であってもよく、二価抗体も一価抗体も含まれる。例えば、抗体断片としては、Fab、F(ab')2、Fv、1個のFabと完全なFcを有するFab/c、またはH鎖若しくはL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)、Diabodyが挙げられる。具体的には、抗体を酵素、例えばパパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、または、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M. S. et al, J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology (1989) 178, 476-496, Academic Press,Inc., Plueckthun,A. & Skerra,A. Methods in Enzymology (1989) 178, 476-496, Academic Press,Inc., Lamoyi,E., Methods in Enzymology (1989) 121, 652-663、Rousseaux,J.et al., Methods in Enzymology (1989) 121, 663-669、Bird, R. E. et al., TIBTECH (1991) 9, 132-137参照)。
【0154】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域とを連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、本明細書に抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えば(GGGGS)n等のアミノ酸12-19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0155】
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖またはH鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖またはL鎖V領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部又は所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNA、およびその両端が各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
【0156】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。
【0157】
Diabodyは、可変領域と可変領域をリンカー等で結合したフラグメント(例えば、scFv等)を2つ結合させて二量体化させたものであり、通常、2つのVLと2つのVHを含む(P.Holliger et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90, 6444-6448 (1993)、EP 404097号、WO 93/11161号、Johnson et al., Method in Enzymology, 203, 88-98, (1991)、Holliger et al., Protein Engineering, 9, 299-305, (1996)、Perisic et al., Structure, 2, 1217-1226, (1994)、John et al., Protein Engineering, 12(7), 597-604, (1999)、Holliger et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 90, 6444-6448, (1993)、Atwell et al., Mol.Immunol., 33, 1301-1312, (1996)、等)。
【0158】
これら抗体断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明における「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
【0159】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した本発明抗体を使用することもできる。抗体に放射性同位元素、化学療法剤、細菌由来トキシン等の細胞障害性物質などを結合することも可能である。本発明における「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0160】
さらに、本発明で使用される抗体は、二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体は本発明で使用されるタンパク質上の異なるエピトープを認識する抗原結合部位を有する二重特異性抗体や本発明で使用されるタンパク質と他のタンパク質を認識する二重特異性抗体であってもよいし、一方の抗原結合部位が本発明で使用されるタンパク質を認識し、他方の抗原結合部位が化学療法剤、細胞由来トキシン等の細胞傷害性物質を認識してもよい。この場合、本発明で使用されるタンパク質を発現している癌幹細胞に直接細胞傷害性物質を作用させ癌幹細胞に特異的に傷害を与え、癌幹細胞の増殖を抑えることが可能である。また、一方の抗原結合部位が細胞傷害性T細胞に発現するCD3等のT細胞受容体複合体を構成する分子を認識し、もう一方の抗原結合部位が本発明の配列番号:1から8に記載されるいずれかのタンパク質中に存在するエピトープを認識する二重特異性抗体も使用され得る。二重特異性抗体は2種類の抗体のHL対を結合させて作製することもできるし、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて二重特異性抗体産生融合細胞を作製し、得ることもできる。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体を作製することも可能である。
【0161】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させ、取得することができる。哺乳類細胞の場合、常用される有用なプロモーター、発現させる抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter / enhancer)を挙げることができる。
【0162】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーター/エンハンサー、あるいはヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサー等が挙げられる。
【0163】
SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合はMulliganらの方法(Nature(1979)277, 108)により、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合はMizushimaらの方法(Nucleic Acids Res. (1990)18, 5322)により、容易に遺伝子発現を行うことができる。
【0164】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは、選択マーカーとしてアミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフエラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0165】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列及び発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて当該遺伝子を発現させることができる。プロモーターとしては、例えばlaczプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。laczプロモーターを使用する場合はWardらの方法(Nature(1098)341,544-546;FASEB J.(1992)6,2422−2427)により、あるいはaraBプロモーターを使用する場合はBetterらの方法(Science(1988)240,1041−1043)により発現することができる。
【0166】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei,S.P. et al., J.Bacteriol.(1987)169, 4379)を使用すればよい。そして、ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切に組み直して(refold)使用する。
【0167】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の発現系、例えば真核細胞又は原核細胞系を使用することができる。真核細胞としては、例えば樹立された哺乳類細胞系、昆虫細胞系、真糸状菌細胞および酵母細胞などの動物細胞等が挙げられ、原核細胞としては、例えば大腸菌細胞等の細菌細胞が挙げられる。好ましくは、本発明で使用される抗体は、哺乳類細胞、例えばCHO、COS、ミエローマ、BHK、Vero、HeLa細胞中で発現される。
【0168】
次に、形質転換された宿主細胞をin vitroまたはin vivoで培養して目的とする抗体を産生させる。宿主細胞の培養は公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0169】
前記のように発現、産生された抗体は、細胞、宿主動物から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティーカラムを用いて行うことができる。例えば、プロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D、POROS、Sepharose F.F.(Pharmacia製)等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、上記アフィニティーカラム以外のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow,David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0170】
本発明で使用される抗体の抗原結合活性(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)、リガンドレセプター結合阻害活性(Harada,A.et al., International Immunology (1993) 5, 681-690)の測定には公知の手段を使用することができる。
【0171】
本抗体の抗原結合活性を測定する方法として、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光抗体法を用いることができる。例えば、酵素免疫測定法を用いる場合、本発明で使用されるタンパク質をコーティングしたプレートに、前記抗体を含む試料、例えば、前記抗体産生細胞の培養上清や精製抗体を加える。アルカリフォスファターゼ等の酵素で標識した二次抗体を添加し、プレートをインキュベートし、洗浄した後、p-ニトロフェニル燐酸などの酵素基質を加えて吸光度を測定することで抗原結合活性を評価することができる。
【0172】
本発明で使用される抗体は前記の増殖抑制剤または毒性ペプチドまたは放射性化学物質などの細胞傷害性物質と適宜連結され得る。このような抗体修飾物(以下、抗体コンジュゲートと称する。)は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。すなわち、増殖抑制剤または細胞傷害性物質と抗体が互いに化学的に共役可能(例、共有結合することが可能)なように、リンカー分子は、増殖抑制剤を抗体に化学結合(上述のような)を介し、結合させる。好ましくは、結合剤(リンカー)は、切断可能なリンカーである。より好ましくは、温和な条件(即ち、薬物活性が影響を受けないような細胞内の条件)の下、リンカーは切断される。適した切断可能なリンカーの例としては、ジスルフィドリンカー、酸に不安定なリンカー、光に不安定なリンカー、ペプチダーゼに不安定なリンカー、及びエステラーゼに不安定なリンカーが挙げられる。ジスルフィドを含むリンカーは、生理学的条件の下で起こり得るジスルフィド交換を通じて切断可能なリンカーである。酸に不安定なリンカーは、酸性pHで切断可能なリンカーである。例えば、エンドソーム及びリソソームといった、特定の細胞内コンパートメントは、酸性pH(pH4〜5)を有し、酸に不安定なリンカーを切断するのに適した条件を提供する。光に不安定なリンカーは、光に暴露可能な体表面及び多くの体腔において、有用である。更に、赤外線光は、組織を透過し得る。ペプチダーゼに不安定なリンカーは、細胞内又は外の特定のペプチドを切断させるのに用いられ得る(例、Trouetら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1982) 79, 626-629、及びUmemotoらInt.J.Cancer (1989) 43, 677-684参照)。
【0173】
このような抗体修飾物は前記の化学的な修飾のほか、増殖抑制剤、毒性ペプチド或いは放射性化学物質などを認識するように遺伝子組換え技術を用いて設計した二重特異性抗体(bispecific antibody)のような分子型として取得され得る。本発明における「抗体」にはこれらの抗体も包含される。
【0174】
また、本発明が提供する抗体修飾物として、ricin、abrin、ribonuclease、onconase、DNase I、Staphylococcal enterotoxin-A、pokeweed antiviral protein、gelonin、diphtheria toxin、Pseudomonas exotoxin、Pseudomonas endotoxin、L-asparaginase、PEG L-Asparaginaseなどの毒性ペプチドで修飾された抗体も例示される。また別の態様では、一または二以上の増殖抑制剤と毒性ペプチドをそれぞれ組み合わせて抗体の修飾に使用できる。前記したように、本発明の配列番号:1から8の少なくとも1つに記載されるタンパク質に結合する抗体と上記の増殖抑制剤、毒性ペプチド或いは放射性化学物質との結合は共有結合または非共有結合が利用され得る。これら化学療法剤を結合した抗体修飾物の作製方法は公知である。
【0175】
更に、タンパク質性の薬剤や毒素は、遺伝子工学的な手法によって抗体と結合することができる。具体的には、たとえば上記毒性ペプチドをコードするDNAと本発明の配列番号:1から8の少なくとも1つに記載されるタンパク質のいずれかに結合する抗体をコードするDNAをインフレームで融合させて発現ベクター中に組み込んだ組換えベクターが構築できる。当該ベクターを適切な宿主細胞に導入することにより得られる形質転換細胞を培養し、組み込んだDNAを発現させて、毒性ペプチドを結合した抗体修飾物を融合タンパク質として得ることができる。抗体との融合タンパク質を得る場合、一般に、抗体のC末端側にタンパク質性の薬剤や毒素を配置される。抗体と、タンパク質性の薬剤や毒素の間には、ペプチドリンカーを介在させることもできる。
【0176】
本発明で使用される抗体は細胞傷害活性を有していてもよい。本発明における細胞傷害活性とは、例えば補体依存性細胞傷害(complement-dependent cytotoxicity:CDC)活性、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)活性などを挙げることができる。本発明において、CDC活性とは補体系による細胞傷害活性を意味し、ADCC活性とは標的細胞の細胞表面抗原に特異的抗体が付着した際、そのFc部分にFcγ受容体保有細胞(免疫細胞等)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に傷害を与える活性を意味する。
【0177】
本発明で使用される抗体がADCC活性を有するか否か、又はCDC活性を有するか否かは公知の方法により測定することができる(例えば、Current protocols in Immunology, Chapter7. Immunologic studies in humans, Editor, John E, Coligan et al., John Wiley & Sons,Inc.,(1993)等)。
【0178】
具体的には、例えば、細胞傷害活性の測定は以下の方法により行うことが可能である。
・エフェクター細胞の調製
CBA/Nマウスなどから脾臓を摘出し、RPMI1640培地(GIBCO社製)中で脾臓細胞を分離する。10%ウシ胎児血清(FBS、HyClone社製)を含む同培地で洗浄後、細胞濃度を5×10
6/mlに調製し、エフェクター細胞を調製する。
【0179】
・補体溶液の調製
Baby Rabbit Complement(CEDARLANE社製)を10% FBS含有培地(GIBCO社製)にて10倍希釈し、補体溶液を調製する。
【0180】
・標的細胞の調製
本発明で使用されるタンパク質発現細胞(癌幹細胞など)を0.2 mCiの
51Cr-sodium chromate(Amersham Pharmacia Biotech社製)とともに、10% FBS含有DMEM培地中で37℃にて1時間培養することにより放射性標識する。放射性標識後、細胞を10% FBS含有RPMI1640培地にて3回洗浄し、細胞濃度を2×10
5/mlに調製して、標的細胞を調製する。
【0181】
・ADCC活性の測定
96ウェルU底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞と、本発明で使用される抗体を50μlずつ加え、氷上にて15分間反応させる。その後、エフェクター細胞100μlを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。抗体の終濃度は0または10μg/mlとする。培養後、100μlの上清を回収し、ガンマカウンター(COBRAIIAUTO-GMMA、MODEL D5005、Packard Instrument Company社製)で放射活性を測定する。細胞傷害活性(%)は
(A−C)/(B−C)×100
により求めることができる。Aは各試料における放射活性(cpm)、Bは1%NP-40(半井社製)を加えた試料における放射活性(cpm)、Cは標的細胞のみを含む試料の放射活性(cpm)を示す。
【0182】
・CDC活性の測定
96ウェル平底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞と、本発明で使用される抗体を50μlずつ加え、氷上にて15分間反応させる。その後、補体溶液100μlを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。抗体の終濃度は0または3μg/mlとする。培養後、100μlの上清を回収し、ガンマカウンターで放射活性を測定する。細胞傷害活性はADCC活性の測定と同様にして求めることができる。
【0183】
本発明によって提供される抗体は糖鎖が改変された抗体も適宜使用され得る。抗体の糖鎖を改変することによって抗体の細胞傷害活性が増強され得ることが知られている。糖鎖が改変された抗体としては、例えば、次のような抗体が公知である。
−グリコシル化が修飾された抗体(WO1999/054342など)
−糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(WO2000/061739、WO2002/031140など)
−バイセクティングGlcNAc(バイセクティングN-アセチルグルコサミン)を有する糖鎖を有する抗体(WO2002/079255など)
本発明の抗体は、好ましくは、フコース欠損抗体の割合が高くなるように、又は、バイセクティングN-アセチルグルコサミンが付加された抗体の割合が高くなるように糖鎖組成が修飾された抗体が含まれる。
【0184】
本発明では中和活性を有する抗体も適宜使用され得る。一般的に、中和活性とは、ウイルスや毒素等の外来性の分子、ホルモンやサイトカイン等の内在性の分子が細胞に対して生物学的活性を有するリガンドの当該生物学的活性を阻害する活性をいう。即ち、中和活性を有する物質とは、当該リガンド又は当該リガンドが結合するレセプターに結合し、当該リガンドとレセプターの結合を阻害する物質をさす。中和活性によりリガンドとの結合を阻止されたレセプターは、当該レセプターを通じた生物学的活性を発揮することができなくなる。抗原結合分子が抗体である場合、このような中和活性を有する抗体は一般に中和抗体と呼ばれる。ある被検物質の中和活性は、リガンドの存在下における生物学的活性をその被検物質の存在下又は非存在下の条件の間で比較することにより測定され得る。
【0185】
実施例で後述されるEP27抗体の標的であるEREGの例が以下に例示される。配列番号:3で表されるEREGの主要な受容体として考えられているEGFレセプターの場合、リガンドの結合により二量体を形成し、細胞内に存在する自らのドメインであるチロシンキナーゼを活性化する。活性化されたチロシンキナーゼは自己リン酸化によりリン酸化チロシンを含むペプチドを形成し、それらに様々なシグナル伝達のアクセサリー分子を会合させる。それらは主にPLCγ(ホスフォリパーゼCγ)、Shc、Grb2などである。これらのアクセサリー分子のうち、前二者は更にEGFレセプターのチロシンキナーゼによりリン酸化を受ける。EGFレセプターからのシグナル伝達における主要な経路はShc、Grb2、Sos、Ras、Raf/MAPKキナーゼ/MAPキナーゼの順にリン酸化が伝達される経路である。更に副経路であるPLCγからPKCへの経路が存在すると考えられている。こうした細胞内のシグナルカスケードは細胞種毎に異なるため、目的とする標的細胞毎に適宜標的分子を設定することができ、上記の因子に限定されるものではない。生体内シグナルの活性化の測定キットは市販のものを適宜使用することができる(例えば、プロテインキナーゼC活性測定システム(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)等)。
【0186】
また、生体内シグナルカスケードの下流に存在する標的遺伝子に対する転写誘導作用を指標として、生体内シグナルの活性化を検出することもできる。転写活性の変化は、レポーターアッセイの原理によって検出することができる。具体的には、標的遺伝子の転写因子又はプロモーター領域の下流にGFP(Green Fluorescence Protein)やルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子を配し、そのレポーター活性を測定することにより、転写活性の変化をレポーター活性として測定することができる。
【0187】
更に、EGFレセプターは通常は細胞増殖を促進する方向に働くため、標的とする細胞の増殖活性を測定することによって、生体内シグナル伝達の活性化を評価することができる。本発明においては後者の細胞増殖活性を評価することによって本発明の中和抗体の中和活性を評価するが、本方法に限定されるものではなく、選択した標的細胞毎に前記に挙げた方法を好適に採用し評価することができる。
【0188】
即ち、例えば以下のような細胞増殖活性を測定することにより、抗EREG抗体の中和活性を評価又は測定することができる。例えば、培地中に添加した[
3H]ラベルしたチミジンの生細胞による取り込みをDNA複製能力の指標として測定する方法が用いられる。
より簡便な方法としてトリパンブルー等の色素を細胞外に排除する能力を顕微鏡下で計測する色素排除法や、MTT法が用いられる。後者は、生細胞がテトラゾリウム塩であるMTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetrazolium bromide)を青色のホルマザン産物へ転換する能力を有することを利用している。より具体的には、被検細胞の培養液に被験抗体を添加して一定時間を経過した後に、MTT溶液を培養液に加えて一定時間静置することによりMTTを細胞に取り込ませる。その結果、黄色の化合物であるMTTが細胞内のミトコンドリア内のコハク酸脱水素酵素により青色の化合物に変換される。この青色生成物を溶解し呈色させた後にその吸光度を測定することにより生細胞数の指標とするものである。
【0189】
MTT以外に、MTS、XTT、WST-1、WST-8等の試薬も市販されており(nacalai tesqueなど)好適に使用することができる。更に、細胞のATPや細胞培養物のインピーダンスを指標として細胞増殖活性を評価する方法も公知である。活性の測定に際しては、対照抗体として抗EREG抗体と同一のアイソタイプを有する抗体で当該中和活性を有しない結合抗体を、抗EREG抗体と同様に使用して、抗EREG抗体が対照抗体よりも強い中和活性を示すことにより活性を判定することができる。
【0190】
抗EREG抗体が増殖を抑制する細胞は、EREGタンパク質が発現している細胞であれば特に限定されない。好ましいEREG発現細胞は、たとえば癌細胞である。具体的には、大腸癌、肺腺癌、膵癌、胃癌、腎癌に由来する細胞は、本発明におけるEREG発現細胞として好適である。本発明によれば、これらの癌の、原発病巣、および転移病巣のいずれに対しても有効な細胞増殖の抑制効果を得ることができる。さらに好ましい癌細胞は、原発性大腸癌、転移性大腸癌、肺腺癌、膵癌、胃癌、腎癌である。従って、抗EREG抗体は、細胞増殖に起因する疾患、例えば、大腸癌、肺腺癌、膵癌、胃癌、腎癌などの治療、予防を目的として使用できる。これらの癌は、原発巣、転移巣にかかわらず、治療あるいは予防の対象とすることができる。より好ましくは原発性大腸癌、転移性大腸癌、膵癌の治療および/または予防を目的として抗EREG抗体を用いることができる。更に、これらの癌の中で、EREG依存性に増殖する癌は、本発明における治療および/または予防の対象として好ましい。
【0191】
尚、本明細書および表において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC-IUB Commision on Biochemical Nomenclatureによる略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、またアミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
【0192】
<本発明の癌幹細胞阻害剤>
本発明の癌幹細胞阻害剤の有効投与量は、一回につき体重1 kgあたり0.001 mgから1000 mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり0.01〜100000 mg/bodyの投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の阻害剤はこれらの投与量に制限されるものではない。また、本発明の阻害剤の投与時期としては、疾患の臨床症状が生ずる前後を問わず投与することができる。本発明の阻害剤は、常法にしたがって製剤化することができ(Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, 米国)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。このような担体および医薬添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。実際の添加物は、本発明の阻害剤の剤型に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれるが、もちろんこれらに限定するものではない。例えば、注射用製剤として使用する場合には、溶剤、例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等に溶解し、これに吸着防止剤、例えばTween80、Tween20、ゼラチン、ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解再構成する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよく、凍結乾燥のための賦形剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコールや糖類を使用することができる。本発明の阻害剤は通常非経口投与経路で、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜、経鼻、経肺などで投与されるが、経口投与も可能である。
【0193】
本発明において癌幹細胞阻害剤を抗癌剤と「組み合わせて用いる」とは、これらの薬剤を同時に、連続して、あるいは、一方を先に投与した後、時間をおいて投与してもよいことを意味する。
【0194】
本発明において癌幹細胞阻害剤は、適応として例えば、癌の再発予防、癌の再発抑制、癌の転移予防、癌の転移抑制、術後再発予防の補助療法、等の様々な態様で使用される得る。上記の態様で使用されれば、いかなる癌幹細胞阻害剤も本発明の癌幹細胞阻害剤として使用され得るが、非限定の好適な例としては、癌幹細胞増殖抑制剤、癌幹細胞破壊剤等が挙げられうる。本発明が提供する癌幹細胞増殖抑制剤は、対象とする癌幹細胞の増殖が抑制されればどのようなメカニズムによって癌幹細胞の増殖が抑制されるかは問われない。このような癌幹細胞増殖抑制剤の非限定の例としては、癌幹細胞の増殖または生育に対する中和活性、癌幹細胞に対する細胞傷害活性を有する抗体を有効成分として含む癌幹細胞増殖抑制剤等が摘示され得る。同様に、本発明が提供する癌幹細胞破壊剤は、対象とする癌幹細胞が破壊されればどのようなメカニズムによって癌幹細胞が破壊されるかは問われない。このような癌幹細胞破壊剤の非限定の例としては、癌幹細胞に対する細胞傷害活性、アポトーシス活性を有する抗体を有効成分として含む癌幹細胞増殖抑制剤等が摘示され得る。アポトーシス活性の測定法はTUNEL(Terminal deoxynucleotidyl Transferase Biotin-dUTP Nick End Labeling)アッセイ、カスパーゼ活性(特に、カスパーゼ−3)アッセイ、及びfasリガンド及びアネキシンVのアッセイを含む公知の方法を用いることによって、当業者であれば被験癌幹細胞破壊剤がアポトーシス活性を有しているか否かを測定することが可能である。さらに非限定の好適な例としては、癌幹細胞の分化促進剤等が好適に挙げられ得る。このような分化促進剤の非限定な例として、BMP4、すなわち、配列番号:9で表されるポリペプチドまたはもしくは当該ポリペプチドに含まれるアミノ酸のうち一つ又は複数のアミノ酸が付加、欠失、置換されたポリペプチド均等物が例示される得る。ポリペプチド均等物は配列番号:9で表されるポリペプチドが有するCSCに対する分化誘導活性と同等の分化誘導活性を有することが好ましい。当該分化誘導活性が同等であるか否かは、例えば、配列番号:9で表されるポリペプチドが有するCSCに対するCK20誘導活性の10%、好ましくは20%、また好ましくは30%、より好ましくは40%、さらに好ましくは50%である場合には同等であると定義され得る。さらに別の非限定の一態様では、当該分化誘導活性が同等であるか否かは、例えば、配列番号:9で表されるポリペプチドが有するCSCに対するCK20誘導活性の60%、好ましくは70%、また好ましくは80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%である場合には同等であると定義され得る。
【0195】
本発明の癌幹細胞阻害剤と組み合わせて用いる抗癌剤には、アルキル化剤、代謝拮抗剤、天然産物、白金錯体、およびその他の薬剤が含まれる。アルキル化剤としては、ナイトロジェンマスタード類(Nitrogen Mustards)、エチレンイミン類(Ethylenimines)、メチルメラミン類(Methylmelamines)、スルホン酸アルキル類(Alkyl Sulfonates)、ニトロソウレア類(Nitrosoureas)、トリアゼン類(Triazens)が挙げられる。ナイトロジェンマスタード類としては、例えば、メクロルエタミン(Mechlorethamine)、シクロフォスファミド(Cyclophosphamide)、イフォスファミド(Ifosfamide)、メルファラン(Melphalan)、クロラムブシル(Chlorambucil)が挙げられる。エチレンイミン類とメチルメラミン類としては、例えば、ヘキサメチルメラミン(Hexamethylmelamine)、チオテパ(Thiotepa)が挙げられる。スルホン酸アルキル類としては、ブスルファン(Busulfan)が挙げられる。ニトロソウレア類としては、例えば、カルムスチン(Carmustine: BCNU)、ロムスチン(Lomustine: CCNU)、セムスチン(Semustine: methyl-CCNU)、ストレプトゾシン(Streptozocin)が挙げられる。トリアゼン類としては、ダカルバジン(Dacarbazine: DTIC)が挙げられる。代謝拮抗剤としては、葉酸類似物質、ピリミジン類似物質、プリン類似物質が挙げられる。葉酸類似物質としては、メトトレキセート(Methotrexate)が挙げられる。ピリミジン類似物質としては、例えば、フルオロウラシル(Fluorouracil: 5-FU)、ドキシフルリジン(Doxifluridine: 5'-DFUR、商品名 フルツロン)、カペシタビン(Capecitabine、商品名 ゼローダ)、フロクスウリジン(Floxuridine: FudR)、シタラビン(Cytarabine)が挙げられる。プリン類似物質としては、例えば、メルカプトプリン(Mercaptopurine: 6-MP)、チオグアニン(Thioguanine: TG)、ペントスタチン(Pentostatin)が挙げられる。天然産物としては、ビンカアルカロイド類(Vinca Alkaloids)、エピポドフィロトキシン類(Epipodophyllotoxins)、抗生物質類が挙げられる。ビンカアルカロイド類としては、例えば、ビンブラスチン(Vinblastine: VLB)、ビンクリスチン(Vincristine: VCR)が挙げられる。エピポドフィロトキシン類としては、例えば、エトポシド(Etoposide)、テニポシド(Teniposide)が挙げられる。抗生物質としては、例えば、ダクチノマイシン(Dactinomycin: actinomycin D)、ダウノルビシン(Daunorubicin)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、ブレオマイシン(Bleomycin)、プリカマイシン(Plicamycin)、マイトマイシン(Mitomycin)が挙げられる。白金錯体とは、プラチナ配位複合体を指し、例えば、シスプラチン(Cisplatin: CDDP)、カルボプラチン(Carboplatin)が挙げられる。その他の薬剤としては、イリノテカン、カンプトテシン等のトポイソメラーゼ阻害剤、タキソール類、例えばパクリタキセル、ドセタキセル、アントラセネジオン類(Anthracenediones)、例えばミトキサントロン(Mitoxantrone)、尿素置換体類、例えばヒドロキシウレア(Hydroxyurea)、メチルヒドラジン類(Methyl Hydrazines)、例えば塩酸プロカルバジン(Procarbazine Hydrochloride、商品名 ナツラン)、ビタミンA代謝物類、例えばトレチノイン(Tretinoin、商品名 ベサノイド)が挙げられる。また、リツキシマブ、アレムツズマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、トラツズマブ、ゲムツズマブ等が挙げられる。
【0196】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0197】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0198】
免疫欠損NOGマウスにおけるヒト大腸癌細胞株の樹立
大腸癌検体は、PharmaLogicals Research(シンガポール)およびParkway Laboratory Services(シンガポール)の倫理委員会の承認の下で、同意を得た患者から入手したものである。腫瘍片を剪刀で細かく刻み、NOGマウスの側腹部に移植した。ヒト大腸癌異種移植片は、実験動物中央研究所(日本)より供与されたNOGマウス中で継代することにより維持した。本実験で使用したマウスは、PharmaLogicals Researchの動物実験ガイドラインに従って処置した。組織病理学的試験のため、ヒト組織の外科的検体の小片および異種移植腫瘍の小片を、4℃で16〜24時間、4%パラホルムアルデヒドで固定し、AMeX法によりパラフィンに包埋した(Sato Y, et al., (1986) Am J Pathol, 125; 431-435.、Sato Y, et al., (1992) Am J Pathol, 140; 775-779.、Suzuki M, et al. (2002) J Toxicol Sci, 27; 165-172.)。エオシンおよびヘマトキシリンで薄片を染色し、顕微鏡観察によって調べた。
【0199】
大腸CSCの単離およびインビトロ培養
異種移植片からの癌細胞の単一細胞浮遊液を、組織を剃刀で刻むことによって調製し、コラゲナーゼ/ディスパーゼ(Roche)およびDNaseI(Roche)を含むDPBS中、37℃で3時間インキュベーションした後、40μmセルストレーナー(BD Biosciences)で濾過し、溶解バッファー(BD Biosciences)に懸濁して、赤血球を除いた。得られた異種移植片由来の細胞(こうした細胞を原発性細胞、初発細胞またはプライマリー細胞と呼ぶ)を、5% CO
2雰囲気下、37℃で、N-2サプリメント(Invitrogen)、20 ng/mL ヒトEGF(Invitrogen)、10 ng/mL ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(Sigma)、4 μg/mL ヘパリン(Sigma)、4 mg/mL BSA(Invitrogen)、20 μg/mL ヒトインスリン、亜鉛溶液(Invitrogen)、および2.9 mg/mL グルコース(Sigma)を含む、DMEM/F12培地(Invitrogen)で培養した(Todaro M, et al. (2007) Cell Stem Cell 1; 389-402.)。付着CSCおよび浮遊CSCを培養するために、ポリスチレン処理した通常の細胞培養フラスコ(BD Biosciences)および超低接着細胞培養フラスコ(Corning)をそれぞれ使用した。
【0200】
インビボ腫瘍形成分析
連続希釈によって、細胞懸濁液を調製した。Hanks平衡塩溶液(Invitrogen)中の癌細胞懸濁液100μLを、50%マトリゲル(BD Bioscience)を用いてマウスの側腹部に皮下接種した。腫瘍の発達を、7週間モニタリングした。単一細胞の接種のために、細胞をFITC標識マウス抗ヒトCD326(EpCAM)抗体(Miltenyi Biotec)で標識し、テラサキプレート(Termo Fisher Scientific)に播種した。単一細胞は蛍光顕微鏡下で確認した。単一細胞を、50%マトリゲル50μlを用いてマウスの側腹部に接種した。腫瘍の発達を、10週間モニタリングした。
【0201】
全長ヒトLgr4、Lgr5、およびLgr6を発現する細胞の樹立
NM_018490(Lgr4)、NM_001017403(Lgr6)、およびNM_003667(Lgr5)の配列に基づくPCRによって、全長ヒトLgr4、Lgr5、およびLgr6 cDNAをクローニングした。クローニングした遺伝子のN末端にHAタグを付加または付加せずに、発現させた。Gene Pulser(BioRad)を用いて、チャイニーズハムスター卵巣細胞株CHO DG44(Invitrogen)に発現プラスミドをトランスフェクトした。G418を用いて、安定な細胞株であるHA-Lgr4/DG、HA-Lgr5/DG、およびHA-Lgr6/DGを選択した。
【0202】
可溶性Lgr5-Fcタンパク質の調製
可溶性のLgr5(アミノ酸1〜555)タンパク質を、CHO DG44のマウスIgG2aのFc部分との融合タンパク質として発現させた。ヤギ抗マウスIgG2a(Bethyl labotratories)およびHRPラット抗マウスIgG2amAb(Serotec)を用いるサンドイッチELISAにより、トランスフェクタントをスクリーニングした。sLgr5-Fcを最も豊富に生じたクローンを2D3と命名した。2D3培養上清を回収し、Lgr5-Fcタンパク質をプロテインA-セファロースカラムによってアフィニティ精製した(Pharmacia)。Lgr5-Fcはタンパク質免疫化およびELISAスクリーニングのための抗原として働いた。
【0203】
Lgr5-Fcタンパク質免疫化による抗Lgr5モノクローナル抗体の生成
完全フロイントアジュバント中に乳化させた50μgのLgr5-Fcを用いて、Balb/cマウス(Charles River Japan)を皮下免疫した。2週間後、フロイント不完全アジュバント中の同量を用いて2週間にわたり週1回の注射を繰り返した。細胞融合の3日前、マウスに25μgのLgr5Fcを静脈注射した。免疫化マウスに由来する脾臓リンパ球を、従来法(Kremer L and Marquez G (2004) Methods Mol Biol., 239; 243 - 260)により、P3-X63Ag8U1マウスミエローマ細胞(ATCC)と融合させた。ELISAを用いて、sLgr5-Fcとの反応性を有する抗体についてハイブリドーマ培養上清をスクリーニングした。Lgr5特異的マウスmAb 2T15E-2および2U2E-2を樹立した。
【0204】
フローサイトメトリー解析
大腸CSCを標識抗体でインキュベーションし、EPICS ALTRA(Beckman Coulter)およびFACSCalibur(Becton Dickinson)を用いて解析した。使用した抗体は、PE標識マウス抗ヒトCD133抗体(Miltenyi Biotec)、PE標識マウス抗ヒトCD44抗体(BD Pharmingen)、FITC標識マウス抗ヒトCD326(EpCAM)抗体(Miltenyi Biotec)、PE標識マウス抗ヒトCD166抗体(R&D Systems)、PE標識マウス抗ヒトCD24抗体(BD Pharmingen)、PE標識マウス抗ヒトCD26抗体(BD Pharmingen)、およびPE標識マウス抗ヒトCD29抗体(BD Pharmingen)であった。
【0205】
Lgr5を染色するために、大腸CSCを、マウス抗ヒトLgr5抗体(2T15E-2)と、次にPR標識ラット抗マウスIgG抗体(Invitrogen)と、インキュベーションした。アルデヒドデヒドロゲナーゼの活性は、AldeFluor Kit(Stemcell Technologies)を用いて測定した。抗マウスMHCクラスI抗体(Abcam)およびPEまたはAPC標識したヤギ抗ヒトIgG2a抗体(BioLegend)で染色することによって、マウス細胞とヒト大腸CSCを区別した。死細胞も、7-AAD Viability Dye(Beckman Coulter)によって除去した。
【0206】
ウェスタンブロット分析
Complete Miniプロテアーゼインヒビターカクテル(Roche)を添加したRIPAバッファー(Sigma)を用いて、タンパク質を抽出した。タンパク質をNuPAGEゲル(Invitrogen)で分画し、PVDF膜に転写した。1%スキムミルク含有PBSでブロッキングした後、膜を、ウサギ抗ヒトβカテニン抗体(Sigma)、ウサギ抗ヒトホスホc-JUN抗体 (Sigma)、ウサギ抗ヒトTCF1抗体 (Cell Signaling)、ウサギ抗ヒトTCF3抗体 (Cell Signaling)、ウサギ抗ヒトTCF4抗体 (Cell Signaling)、ウサギ抗ヒトLgr5抗体 (Abcam)、マウス抗ヒトEカドヘリン抗体 (Abcam)、ウサギ抗ヒトSnail 抗体(Abcam)、および、マウス抗ヒトGAPDH抗体 (Santa Cruz)でプローブした。BCIP/NBT基質(KPL)を用いて反応性のバンドを検出した。
【0207】
定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応
RNeasy Mini Kit including DNAase treatment(Qiagen)を用いて、全RNAを単離した。cDNAは、First-Strand cDNA Synthesis Kit(SABiosciences)を用いて合成した。定量的リアルタイムPCR(QRT-PCR)解析は、Mx3005P Real-Time PCR System(Stratagene)において、SYBR Green/Rox qPCR(SABiosciences)を用いて実施した。誘導倍率の値は、2-ΔΔCt法を用いて算出した。GAPDHおよびACTBを参照として用いた。実験はすべて3回ずつ行った。
【0208】
定量的リアルタイムPCR解析のためのプライマー
以下のプライマーを、反応性の転写産物を増幅するために用いた。
Lgr5:
フォワードプライマー5'-AGTTTATCCTTCTGGTGGTAGTCC-3'(配列番号:10)、
リバースプライマー5'-CAAGATGTAGAGAAGGGGATTGA-3'(配列番号:11)、
GAPDH:
フォワードプライマー5'-CTCTGCTCCTCCTGTTCGAC-3'(配列番号:12)、
リバースプライマー5'-ACGACCAAATCCGTTGACTC-3'(配列番号:13)、
ACTB:
フォワードプライマー5'-AAGTCCCTTGCCATCCTAAAA-3'(配列番号:14)、
リバースプライマー5'-ATGCTATCACCTCCCCTGTG-3'(配列番号:15)
【0209】
細胞増殖アッセイ
浮遊CSCおよび付着CSCを、それぞれウェルあたり浮遊CSC約100個および付着CSC1×10
4個で、96ウェルプレートに播種した。0および3日目に、製造元のプロトコールに従って、Cell Counting Kit-8アッセイ(Doujindo)により生細胞数を測定した。0日目の平均吸光度を100%と表した。化学感受性分析のため、浮遊CSCおよび付着CSCを、それぞれウェルあたり浮遊CSC約100個および付着CSC1×10
4個で、96ウェルプレートに播種し、24時間インキュベーションした後、10μg/mLの5-FU (Hospira)、10μg/mLのイリノテカン(Hospira)、50 mMのTCFインヒビターFH535 (Merck)、および50 mMのβカテニンインヒビターであるカルダモニン(Merck)を添加した。薬物存在下で3日間培養した後、Cell Counting Kit-8を細胞に加えた。DMSOまたは培地のみに曝露した細胞の平均吸光度を100%と表した。実験はすべて3回ずつ行った。
【0210】
培養細胞および異種移植組織に関する免疫蛍光染色
免疫蛍光細胞化学のために、4%パラホルムアルデヒドおよびメタノールで固定した細胞を、マウス抗ヒトE-カドヘリン抗体(Abcam)、ウサギ抗ヒトSnail抗体(Abcam)、またはウサギ抗ヒトβ-カテニン抗体(Sigma)と共にインキュベーションし、その後、それぞれAlexaFluor 488で標識したヤギ抗マウスIgG抗体またはヤギ抗ウサギIgG抗体を用いて可視化した。免疫蛍光組織化学のために、上記異種移植腫瘍のパラフィンブロック由来の薄片をマウス抗ヒトLgr5抗体(2U2E-2)またはウサギ抗ヒトSnail抗体(Abcam)と共にインキュベーションした。一次抗体とインキュベーションした後、Lgr5タンパク質を、ポリマー-HRP(DAKO)と結合したヤギ抗マウス抗体によって検出し、AlexaFluor 488標識チラミド(tyramide)(Invitrogen)によって可視化した。ビオチン化ヤギ抗ウサギ抗体(VECTOR)によってSnailタンパク質を検出し、AlexaFluor 568標識ストレプトアビジン(Invitrogen)によって可視化した。これらの細胞および検体も、DAPI(Invitrogen)で染色した。
【0211】
〔実施例1〕大腸癌異種移植片の樹立
既報(Fujii E. et al. (2008) Establishment and characterization of in vivo human tumor models in the NOD/SCID/gamma(c)(null) mouse. Pathol Int 58:559-567.)のとおり、本発明者らは、NOD/Shi-scid、IL-2Rγnull(NOG)マウスを用いて11種のヒト大腸癌異種移植片を樹立した(表1;免疫欠損NOGマウスにおいて樹立したヒト大腸癌細胞株の数)。
【0212】
【表1】
【0213】
上記表1中、アスタリスクは樹立されたが実験に適さないもの、短剣印は感染などを示す。
表1に示すように、53例のヒト大腸癌患者の試料から、17例の大腸癌異種移植片が樹立された。17例の異種移植片の他に、19例において、付随するEBV感染リンパ腫細胞(これはNOGマウスの状態を悪化させた)が生じ、14例において他の種類の感染が起こり、3例においては腫瘍増殖が起こらなかった。これら17例の異種移植片のうち、11例の異種移植片は、凍結融解後でさえ生存し、腫瘍再構築能を保持し、かつ元の腫瘍と類似した組織病理学的特徴を示した。これら11例の異種移植片のうち、10例はグレード2の中分化型腺癌に由来し、1例はグレード3の低分化型腺癌に由来した。
11種の異種移植片のうち10種は、中分化型大腸癌(MDCC)由来であり、残り1種は、低分化型大腸癌(PDCC)由来であった(表2;11例の異種移植片の樹立に使用した元のヒト大腸癌の組織病理学的分類)。
【0214】
【表2】
【0215】
MDCC異種移植片およびPDCC異種移植片のどちらも元の腫瘍とほぼ同じ組織病理学的形態を再構築したが、MDCC異種移植片が杯細胞を有する明確な上皮管および小さな出芽性(budding)クラスタ(上皮から間葉性への移行(EMT)を受けるようである)を形成した。対照的にPDCC異種移植片は明確な上皮管構造を示さなかった(
図1および
図16)。
【0216】
〔実施例2〕大腸CSCの単離
本発明者らは、大腸CSCを単離するために2種類のMDCC異種移植片、すなわちPLR59およびPLR123を使用した。これらの異種移植片を本発明者らが選択したのは、NOGマウスで10回の継代を経た後でさえ、迅速に増殖する一方で上皮管および小さな出芽クラスタを有する腫瘍を再構築する能力を保持していた(
図1)からである。したがってこれらの異種移植片から安定なCSCが得られると考えられた。
【0217】
NOGマウスで継代したPLR59およびPLR123に由来する原発性細胞(プライマリー細胞)のフローサイトメトリー解析によって、CD44、ALDH、CD26、およびLgr5のシグナルのレベルが、CD133、EpCAM、CD166、CD24、およびCD29より低いことが見出され、これにより、CSCの集団が少し存在することが示された(
図2)。実際、PLR59およびPLR123由来のプライマリー細胞を、注射部位あたり100個でNOGマウスに皮下移植した際、注射部位の約半数(12箇所の注射部位のうち5箇所;表3)において腫瘍が生じ、これらの腫瘍の組織病理学的形態は、階層構造をとる点で元の腫瘍と高度に類似していた(
図3)。しかしながら、PLR59およびPLR123に由来する10個のプライマリー細胞を注射部位あたり皮下に注射した場合はNOGマウスにおいて腫瘍を形成できなかった(表3)。表3に、接種から49日後の、癌形成活性を示す。
【0218】
【表3】
【0219】
上記表3中、アスタリスクはNOGマウスで樹立した腫瘍異種移植片、短剣印は細胞調製物を示す。原発性とは、NOGマウスで増殖させた異種移植腫瘍組織を採取した後、赤血球やマウス細胞を除去することで調製された細胞(プライマリー細胞)を示し、浮遊とは、プライマリー細胞を非付着条件下でインビトロ培養した細胞を示し、付着とは、付着条件下でインビトロ培養した細胞を示す。プラス印(1個)は形成された腫瘍の数であり、プラス印(2個)は接種部位の総数である。括弧は、腫瘍形成(癌形成)のパーセンテージを示す。Lgr5
+とはLgr5陽性を示し、Lgr5
-とはLgr5陰性を示す。
【0220】
PLR59およびPLR123に由来するプライマリー細胞を、EGFおよびFGFを添加した無血清培地で培養したところ、付着細胞および浮遊細胞が生じた。本発明者らは付着細胞および浮遊細胞を回収し、これらを別々に培養した。付着細胞は倍加時間約2.5日で増殖し、間葉細胞様形態を示したが、一方、浮遊細胞は有意な増殖を示さず、スフェロイド様細胞クラスタを形成した(
図4、
図5、
図18、および
図19)。1週間を超える培養の後、大腸CSCマーカーで判定したところ、付着細胞および浮遊細胞の両方が高度に均一となり、付着細胞はLgr5
+、ALDH
+、CD133
+、CD44
+、EpCAM
+、CD166
+、CD24
+、CD26
+、およびCD29
+であった。一方、浮遊細胞はLgr5
-、およびALDH
-であることから付着細胞と比較して異なっていた(
図6および
図20)。
付着細胞においては有意なレベルのLgr5 mRNAが検出されたが、浮遊細胞におけるLgr5 mRNAは検出不可能なレベルであった(
図27)。
【0221】
〔実施例3〕Lgr5タンパク質発現解析
Lgr5タンパク質の発現を調べるため、本発明者らは、それぞれ免疫組織化学分析用およびフローサイトメトリー分析用の、2種類のLgr5特異的モノクローナル抗体(2L36、2T15E-2および2U2E-2)を作製した。本発明者らの抗体はLgr5に高度に特異的であったが、Lgr5に対して両方とも高い相同性を有するLgr4およびLgr6に対しては交差反応しなかった(
図28、29)。これらの抗体を用いることにより、本発明者らは、付着性のCSCにLgr5が発現することを立証した。
【0222】
Lgr5陽性細胞はPLR59およびPLR123のもととなる腫瘍組織ならびにその異種移植癌組織の継代を通じて検出された(
図39)。前記もととなる腫瘍組織におけるLgr5陽性細胞の頻度は低かった(PLR59では0.01%でありPLR123では0.04%であった)。その異種移植癌組織においては、継代につれてLgr5陽性細胞の頻度は増大したが10世代以降は変化がなかった(
図39)。一方、PLR123異種移植モデルからの初発細胞の腫瘍再構築能力も継代につれて増大した。腫瘍再構築能力から評価された初発細胞中のCSCの割合の見積りは5継代後におよそ0.1%であったのに対して、14継代ではおよそ0.4%に増大した。
【0223】
〔実施例4〕Lgr5陽性およびLgr5陰性の大腸CSCの腫瘍再構築能力
大腸癌の幹細胞群の特徴がWntシグナル伝達であるならば、インビボではLgr5陽性の付着細胞しか腫瘍を形成することができない。これが本当なのかどうか確かめるため、本発明者らは、Lgr5陽性の付着細胞およびLgr5陰性の浮遊細胞の腫瘍形成能を調べた。
【0224】
結果、腫瘍形成能は、Lgr5陰性の浮遊細胞よりもLgr5陽性の付着細胞において強力であったが、Lgr5陽性細胞およびLgr5陰性細胞のどちらもNOGマウスにおける腫瘍形成能を保持していた。Lgr5陽性細胞10個の皮下注射により全ての注射部位(6箇所のうち6箇所)で腫瘍が生じたが、Lgr5陰性細胞では注射部位6箇所のうち2箇所(PLR123由来細胞)または1箇所(PLR59由来細胞)で腫瘍が形成された(表3)。なお、Lgr5陽性細胞は、接種部位あたりわずか1個の細胞を注射した場合でさえ、注射部位12箇所のうち2箇所(PLR123由来細胞)または1箇所(PLR59由来細胞)で腫瘍が再構築され(
図7)、Lgr5陽性細胞およびLgr5陰性細胞に由来する腫瘍の組織病理学的形態は、元の腫瘍とほぼ同じであった(
図17、
図40)。さらに細胞表面マーカーの発現およびLgr5陽性CSCの腫瘍開始活性は、1ヶ月の継代培養を経た後でさえ変化しなかった(
図30、31)。
【0225】
Lgr5陽性細胞は付着培養の条件下では対称に細胞分裂した(
図41)。一方で、マトリゲルおよび血清の存在下では、非対称に細胞分裂を行うことが、同条件下の培養においてLgr5タンパク質が二つの娘細胞のうちの一方に分配されたことによって示された(
図42CおよびD)。CSCの一つの特徴は自己複製(self-renewal)のための対称細胞分裂であり、CSCのもう一つの顕著な特徴は非対象細胞分裂である。Lgr5陽性の付着細胞は付着培養条件下で対称に分裂した(
図41)一方で、マトリゲルおよびFBSの存在下では、Lgr5タンパク質が一方の娘細胞に分配された(
図42)ことから示されるように、Lgr5陽性細胞は非対称分裂を経ることによって二つの異なる子孫を生じたことが示された。
【0226】
これらの結果により、PLR59およびPLR123に由来するLgr5陽性細胞およびLgr5陰性細胞は高純度の大腸CSCであること、および、Lgr5陽性およびLgr5陰性細胞は大腸癌における2種類の別個の状態のCSCを意味することが実証された。
【0227】
〔実施例5〕TCFおよびβ-カテニンの効果
Lgr5の発現と一致して、Lgr5陽性細胞ではβ-カテニン、TCF1、TCF3、およびTCF4タンパク質のレベルがアップレギュレーションされたが、Lgr5陰性細胞では認められなかった(
図7および
図21)。
一方、c-JunのN末端領域のリン酸化は、Lgr5陰性CSCと比べてLgr5陽性CSCでは検出されなかった(
図7および
図21)。
【0228】
Wntシグナル伝達が大腸CSCの増殖を駆動するかどうかとの疑問を解決するため、本発明者らは、β-カテニン/TCFインヒビターであるFH535、およびWnt/β-カテニンインヒビターであるカルダモニン(β-カテニンの分解を誘発する)が大腸CSCの増殖に与える効果を調べた。
【0229】
結果、50μMのFH535はLgr5陽性の大腸CSCの増殖を有意に低下させたが、Lgr5陰性の大腸CSCの増殖には影響を与えなかった(
図8および
図22)。一方、50μMのカルダモニンはLgr5陽性の大腸CSCにおいて生細胞数を70%まで減少させ、Lgr5陰性の大腸CSCにおいて約50%まで減少させた(
図8および
図22)。
【0230】
この結果は、TCFがLgr5陽性細胞の増殖を仲介すること、およびβ-カテニンが大腸CSCの生存に関与することを示唆するものである。興味深いことに、Lgr5陽性細胞はEGFおよびFGFの供給が無くても増殖し(
図9および23)、このことは、大腸CSCが、その増殖に関してWntシグナル伝達を活性化するための内因的/自己分泌機序を包含していることを示すものである。
【0231】
〔実施例6〕大腸CSCのLgr5陽性状態からLgr5陰性状態への交替能力
CSCの特徴の1つは、化学療法剤に対する抵抗性であるため、本発明者らは、5-FUおよびイリノテカンに対する大腸CSCの感受性を調べた。前述のように、Lgr5陽性細胞は倍加時間約2.5日で増殖したが、Lgr5陰性CSCは増殖という観点からは静止状態であった。5-FU(10μg/ml)およびイリノテカン(10μg/ml)で処理した場合、いずれもLgr5陽性の大腸CSCの増殖は有意に阻害されたが、Lgr5陰性の大腸CSCの増殖および生存には影響を与えなかった(
図10および
図24)。Lgr5陽性の大腸CSCを5-FU(10μg/ml)またはイリノテカン(10μg/ml)に3日間曝露した後、これらの化学療法剤に対して抵抗性を有する細胞が現れた。驚くべきことに、該薬物抵抗性細胞はLgr5陰性であり、かつその形態が変化しており(
図11、
図32、および
図25)、これによって、Lgr5陽性状態からLgr5陰性状態へ変化したことが示された。
【0232】
これらLgr5陰性常態化したCSCを特異的に検出するマーカーとして、HLA-DMA、TMEM173、ZMAT3およびGPR110を選定し、同分子に対する特異的抗体を用いた免疫染色を試みたところ、上記のイリノテカンに3日暴露しLgr5が陰性化した結腸CSCで特異的な染色像が得られた(
図43)。また、この免疫染色法が一般に汎用されるパラフィンブロックから得られた組織切片に対しても適用可能であることも確認された(
図43)。以上から、HLA-DMA、TMEM173、ZMAT3およびGPR110が、Lgr5が陰性化したCSCの特異的マーカーとなり得ることを示すものである。
【0233】
イリノテカン処理前に観察されたLgr5陽性を表す蛍光(
図44A)は、イリノテカン処理によって消失した(
図44B)。再度播種されイリノテカン非存在下で培養されたLgr5陰性細胞から、Lgr5陽性細胞が再播種後4日の時点で現れ(
図44C)、再播種後8日までに増加した(
図44D)。Lgr5陰性の該薬物抵抗性細胞の全てが、Lgr5陰性であり(
図44、および
図45)、CK20陰性のままであった(
図46)ことから、活発に増殖する状態から静止状態への結腸CSCの移行はLgr5分子の消失と関連していることが示唆された。前記の関連性はin vitroにおける増殖抑制剤抵抗性アッセイの結果によっても確認された(
図47)。また、ALDH活性は減少していたが、他のCSCマーカーは変化が観察されなかった(
図48)。
【0234】
イリノテカン処理によって取得されたLgr5陰性細胞の腫瘍形成活性を調べたところ、PLR59およびPLR123に由来する細胞10個の皮下注射ではNOGマウスにおいてそれぞれ2および1匹のマウスで腫瘍が形成された(表4)。表4に、接種から49時間後の、Lgr5陰性CSCの腫瘍形成活性を示す。下記表4中、アスタリスクはNOGマウスで樹立した腫瘍異種移植片を示す。プラス(1個)は腫瘍を示した動物の数であり、プラス(2個)は動物の総数である。
【0235】
【表4】
【0236】
本発明者らはまた、Lgr5陰性の大腸CSCがLgr5陽性状態に変化するのかどうか確認するため、イリノテカン処理によって調製されたLgr5陰性の大腸CSCを再度無血清の幹細胞培養液で付着培養したところ、Lgr5陽性となり、間葉細胞様形態を示すとともに(
図12および
図33)、細胞増殖を開始した。一方、Lgr5陽性の付着大腸CSCを超低接着プレートで培養したところ、本発明者らは細胞のいくつかが増殖を停止し、スフェロイド様構造を形成し、非常に低レベルのLgr5 mRNAを示したことを観察した(
図12および
図33)。Lgr5陽性状態からLgr5陰性状態への交替(およびその逆)は培養中の単一細胞を用いた観察でも確認された。単一のLgr5陽性細胞をマルチウェルプレートで培養したときは、イリノテカン処理後3日以内に細胞はLgr5陰性状態に移行した。イリノテカン処理によって取得された単一のLgr5陰性細胞をマルチウェルプレートでイリノテカン非存在下にて培養したときは、4日以内に19から43%の細胞がLgr5陽性状態に移行した(
図49および表5)。
【0237】
【表5】
【0238】
表5は、抗Lgr5抗体(2L36抗体)を用いて免疫細胞染色の結果染色されたLgr5陽性および陰性の細胞数の比率を表す。かっこ内の数字はLgr5陽性または陰性の細胞数の割合を示す。
【0239】
したがって本発明者らは、大腸CSCはLgr5陽性状態とLgr5陰性状態の間を交替し、そのような変化は外因的な要素およびニッチ環境を必要としないと結論づけた。
【0240】
〔実施例7〕Lgr5陽性の大腸CSCのインビトロおよびインビボにおけるEMT
核β-カテニンを発現している間葉様細胞は、EMTを受ける、移動性CSCおよび転移形成CSCであると考えられる(Brabletz T, Jung A, Spaderna S, Hlubek F, Kirchner T (2005) Opinion: migrating cancer stem cells - an integrated concept of malignant tumour progression. Nat Rev Cancer 5:744-749.)。Lgr5陽性の大腸CSCの形態が間葉細胞に似ているため、本発明者らはLgr5陽性の大腸CSCは移動性CSCに相当するかどうか試験した。ウエスタンブロット分析によって、Lgr5陽性の大腸CSCにおける、低レベルの細胞表面E-カドヘリン、高レベルのSnail、および核局在β-カテニンの発現(これはEMTの特徴である)が明らかになった(
図13、
図14、および
図26)。これに対して、Lgr5陰性の大腸CSCはいかなるEMTの兆候も示さず、すなわち、細胞表面E-カドヘリンが高発現し、Snailが低発現し、かつβ-カテニンの核局在は認められなかった。さらに、異種移植腫瘍組織で、出芽性領域でEMTを受けている細胞における、SnailとLgr5の同時発現が観察され(
図15)、これは、Lgr5陽性の大腸CSCが移動性幹細胞に相当するとの見解を支持するものである。
【0241】
さらに、本発明者らは、Lgr5陽性の大腸CSCは、肺、肝臓、リンパ節、および皮下を含む複数の組織において腫瘍を形成することを示した。興味深いことに、腫瘍細胞の静脈注射から少なくとも40日後までに、肝臓、リンパ節、および皮下においては上皮管構造をもつ腫瘍が再構成されたが、肺では再構成されなかった(
図34、35)。
【0242】
次に、Lgr5陰性CSCが直接癌の階層構造を生成するのか、または最初にin vivoにおいてLgr5陽性細胞に変換されるのかが調べられた。Lgr5陰性CSCを検出するために用いられるマーカーを探索するため、Lgr5陽性細胞、Lgr5陰性細胞および異種移植された腫瘍の初発細胞を用いた遺伝子発現のプロファイリング(profiling)が行われた。その結果、Lgr5陽性CSCおよび初発細胞と比較してLgr5陰性CSCにおいてその発現が高いレベルで検出可能な分子の中からHLA-DMAが選択された(
図50)。Lgr5抗体、HLA-DMA抗体およびEREG抗体を用いた組織免疫染色によってHLA-DMAがLgr5陰性CSCにおいて特異的に発現していることが確認された(
図51)。HLA-DMAはマクロファージでも発現するため、HLA-DMA抗体によって組織免疫染色において染色された細胞がマクロファージである可能性を排除するため、CSCで発現する別のマーカーもまた探索された。Lgr5陽性CSCおよび陰性CSCの双方で発現する(
図50)EREGに対する抗体を用いたLgr5陽性CSCおよび陰性のCSCの免疫組織染色によって、EREGがLgr5陽性CSCおよびLgr5陰性CSCの双方に発現することも確認された(
図51)。両マーカーを組み合わせて検出することによって、Lgr5陰性CSCはHLA-DMAおよびEREGがともに陽性である細胞として同定され得ることが確認された。Lgr陰性のCSCの均一な集団がNOGマウスに注入後、1日の間はLgr5を僅かに発現するがHLA-DMAおよびEREGが依然として陽性の細胞が出現した。注入後5日までにはHLA-DMA陰性でLgr5陽性およびEREG陽性の細胞が出現した(
図52)。Lgr5陰性のCSC由来の腫瘍は明らかに管構造を有し、Lgr5陽性の細胞を含んでいた(
図53)。
【0243】
in vivoでの増殖抑制剤耐性状態への変換の可能性を探るため、Lgr5陽性のCSCに由来する腫瘍を含むNOGマウスの腹腔内に最大耐性量(MTD)用量(120 mg/kg)のイリノテカンが投与された。腫瘍の成長はほぼ完全に阻害され(
図55)、管構造は極度に破壊された(
図54)。この状態ではLgr5陽性細胞は極端に減少した(
図54および
図56)。イリノテカン処理後Lgr5陰性でありHLA-DMA陽性細胞の数が顕著に増加した。対照的に、ベヒクルで処理された対照のマウスでは、管と出芽性領域の双方における癌細胞のおよそ1/3がLgr5陽性であった(
図54)。Lgr5陽性の細胞ならびにHLA-DMA陽性でLgr5陰性の細胞はともにEREG陽性であり、これらはCSCであることが確認された(
図54)。イリノテカン処理の終了後、Lgr5陽性細胞は再度出現した(
図54)。これらの結果を併せるとLgr5陰性のCSCが増殖抑制剤処理後の大腸癌の起源となりLgr5陽性細胞を経て癌の階層を再構成することが示された。
【0244】
〔実施例8〕癌幹細胞に特異的に発現する分子の同定
1.イリノテカン処理によるLgr5陰性付着細胞の調製
Lgr5陽性の付着細胞を幹細胞培地を用いて3×10
5細胞で6ウェルプレート(BD、Cat. No. 353046)に播種した。次の日に、イリノテカン(Hospira、61703-349-09)を最終濃度10 μg/mLの条件で細胞へ加え培養を継続した。3日間の培養後、イリノテカンに耐性の細胞が認められた。これらの細胞をAccutaseで回収し、FACSバッファーで懸濁後、死細胞染色として7-AAD Viability Dye、癌幹細胞マーカーとしてFITC標識mouse mAb to human CD326 (EpCAM)、PE標識mouse mAb to human CD133/1 (AC133)、PE標識mouse mAb to human CD44、PE標識mouse mAb to human CD166、PE標識mouse mAb to human CD24、PE標識mouse mAb to human CD26、あるいはPE標識mouse mAb to human CD29をそれぞれ加え、4℃で30分反応させた。Lgr5についてはmouse mAb to human Lgr5を加え4℃で30分反応させた後、FACSバッファーで1回洗浄し、PE標識goat Ab to mouse IgG2aを加え4℃で30分反応させた。次いで細胞をFACSバッファーで1回洗浄した後フローサイトメトリー解析に供した。ALDH活性はAldeFluor Kitを用いて、メーカー推奨の操作を行うことにより検出した。フローサイトメトリー解析にはEPICS ALTRA を用い、7-AAD Viability Dye陰性の細胞について癌幹細胞マーカーの解析を行った。イリノテカン耐性細胞はLgr5陽性からLgr5陰性へと変化が認められた。
【0245】
2.癌幹細胞に特異的に発現する分子の同定
PLR59、PLR123のプライマリー細胞、プライマリー細胞を付着培養することにより作製されたLgr5陽性で高増殖性の癌幹細胞、さらに該細胞を上記と同様の方法によりイリノテカン処理することで作製されたLgr5陰性で低増殖性の癌幹細胞をQIAshredder(Qiagen,、Cat. No. 79654) を用いて物理的に破壊し、RNeasy Mini Kit(Qiagen、Cat. No. 74104)とRNase-Free DNase Set(Qiagen、Cat. No. 79254)を用いてメーカー推奨の操作を行うことによりRNAを抽出した。抽出したRNAはAgilent 2100 Bioanalyzerを用いて純度・品質の解析を行った。cRNA合成後、Affymetrix社のGeneChip(HG-U133 plus2)を用いて遺伝子発現情報の取得を行った。データ解析は、Microsoft社のExcelおよび統計解析ソフトR(Statistics softwere R)を用いて行った。3種類の細胞(プライマリー細胞、Lgr5陽性細胞、Lgr5陰性細胞)を相互に比較し、個々で有意に発現が亢進している遺伝子のリストを作成した。すなわち、GeneChipの生データをGCRMAにより標準化および2を底としたlog化を行い、異なるサンプルタイプ間(プライマリー細胞とLgr5陽性細胞、Lgr5陽性細胞とLgr5陰性細胞、Lgr5陰性細胞とプライマリー細胞の3種類)において発現差の計算を実施した。発現変動遺伝子抽出のクライテリアとしては、以下の3種類を用いた。
【0246】
(1) プライマリー細胞と比較してLgr5陽性細胞で2倍以上に変化し、かつプライマリー細胞と比較してLgr5陰性細胞で2倍以上に変化している遺伝子(Lgr5陽性、陰性癌幹細胞に共通して高発現)(表6−1から6−10)(当該遺伝子によってコードされるタンパク質の一部のアミノ酸配列を、配列番号:1から6および9に示す。)
(2) プライマリー細胞と比較してLgr5陽性細胞で2倍以上に変化し、かつプライマリー細胞と比較してLgr5陰性細胞で2倍未満に変化している遺伝子(Lgr5陽性癌幹細胞のみに高発現)(表7−1から7−5)
(3) プライマリー細胞と比較してLgr5陽性細胞で2倍未満に変化し、かつプライマリー細胞と比較してLgr5陰性細胞で2倍以上に変化している遺伝子(Lgr5陰性癌幹細胞のみに高発現)(表8−1から8−2)(当該遺伝子によってコードされるタンパク質の一部のアミノ酸配列を、配列番号:7または8に示す。)
【0247】
また、癌幹細胞で特異的に細胞膜に提示される蛋白をコードする遺伝子を取得するために、GeneOntology(GO)においてGO:0005886[plasma membrane]を持つ遺伝子を抽出した。さらに、 GO:0005576[extracellular region]、GO:0009986[cell surface]、GO:0016020[membrane]を持つか、あるいは、膜蛋白予測ソフトTMHMMにより膜貫通領域が存在すると予測された遺伝子、シグナルペプチド予測ソフトSignalPによりシグナルペプチドが存在すると予測された遺伝子であって、かつGO:0031090[organelle membrane]を持たない遺伝子を抽出した。正常大腸組織由来のGeneChipデータも活用し、正常組織やプライマリー細胞において比較的発現が高い遺伝子や、Lgr5陽性細胞やLgr5陰性細胞において変化率の低い遺伝子は除外した。
【0248】
【表6-1】
【0249】
表6−2は表6−1の続きの表である。
【表6-2】
【0250】
表6−3は表6−2の続きの表である。
【表6-3】
【0251】
表6−4は表6−3の続きの表である。
【表6-4】
【0252】
表6−5は表6−4の続きの表である。
【表6-5】
【0253】
表6−6は表6−5の続きの表である。
【表6-6】
【0254】
表6−7は表6−6の続きの表である。
【表6-7】
【0255】
表6−8は表6−7の続きの表である。
【表6-8】
【0256】
表6−9は表6−8の続きの表である。
【表6-9】
【0257】
表6−10は表6−9の続きの表である。
【表6-10】
(上記表6−1から6−10における数値は発現差(log2 ratio)を示す)
【0258】
【表7-1】
【0259】
表7−2は表7−1の続きの表である。
【表7-2】
【0260】
表7−3は表7−2の続きの表である。
【表7-3】
【0261】
表7−4は表7−3の続きの表である。
【表7-4】
【0262】
表7−5は表7−4の続きの表である。
【表7-5】
(上記表7−1から7−5における数値は発現差(log2 ratio)を示す)
【0263】
【表8-1】
【0264】
表8−2は表8−1の続きの表である。
【表8-2】
(上記表8−1から8−2における数値は発現差(log2 ratio)を示す)
【0265】
さらに、癌幹細胞で特異的に細胞膜に提示される蛋白をコードする遺伝子を取得するために、下記に記載される別の基準で選択されたGeneOntology(GO)においてGO:0005886 [plasma membrane]を持つ遺伝子を抽出した(表9および10)。
【0266】
増殖型CSCならびに休止型CSC共通マーカー:Lgr5陰性細胞およびLgr5陽性細胞で発現値平均が64より大きく、プライマリー細胞に対し、Lgr5陰性細胞およびLgr5陽性細胞でともに4倍を超える変化があり、かつt-testで有意差が認められる遺伝子(表9)。
【0267】
【表9】
【0268】
休止型CSC特異的マーカー:Lgr5陰性細胞で発現値平均が64より大きく、プライマリー細胞およびLgr5陽性細胞で発現値平均がともに64未満で、Lgr5陽性細胞に対しLgr5陰性細胞で20倍を超える変化があり、かつt-testで有意差が認められる遺伝子(表10)。
【0269】
【表10】
【0270】
3.フローサイトメトリー解析による発現解析
3.1.NOG樹立癌細胞株のフローサイトメトリー解析
マウスより回収したNOG樹立癌細胞株をFACSバッファーで懸濁後、rat mAb to mouse MHC I (Abcam、ab15680)、 mAb to human EREG (EP27、WO2008/047723)を加え4℃で30分反応させた後、FACSバッファーで1回洗浄し、死細胞染色として7-AAD Viability Dye (Beckman Coulter、A07704)、2次抗体としてPE標識goat F(ab')2 fragment to mouse IgG (H+L) (Beckman Coulter、IM0855)およびAPC標識goat Ab to rat IgG (BioLegend、405406)を加え4℃で30分反応させた。次いで細胞をFACSバッファーで1回洗浄した後フローサイトメトリー解析に供した。フローサイトメトリー解析にはEPICS ALTRA を用い、7-AAD Viability Dye陰性かつマウスMHC陰性の細胞についてEREG発現の解析を行った。
【0271】
3.2.in vitro培養癌細胞株のフローサイトメトリー解析
Lgr5陽性の付着細胞およびイリノテカン処理によるLgr5陰性付着細胞をAccutaseで回収し、FACSバッファーで懸濁後、mouse mAb to human EREGを加え4℃で30分反応させた後、FACSバッファーで1回洗浄し、死細胞染色として7-AAD Viability Dye、2次抗体としてPE標識goat F(ab')2 fragment to mouse IgG (H+L)を加え4℃で30分反応させた。次いで細胞をFACSバッファーで1回洗浄した後フローサイトメトリー解析に供した。フローサイトメトリー解析にはEPICS ALTRA を用い、7-AAD Viability Dye陰性の細胞についてEREG発現の解析を行った。その結果、対応するタンパク質が細胞膜表面に高発現していることが示された。
【0272】
PLR59およびPLR123のプライマリー細胞、Lgr5
+癌幹細胞およびLgr5
−癌幹細胞におけるEREGのフローサイトメトリー解析結果を
図37に示した。EREGに対する抗体を用いて細胞を染色し、フローサイトメトリーにより解析した。プライマリー細胞においてはEREG陰性、Lgr5
+癌幹細胞およびLgr5
−癌幹細胞においてはEREG陽性の均質な細胞集団あることが示された。灰色は記載の抗体で細胞を染色した後の蛍光強度、白色は対照アイソタイプ抗体で細胞を染色した後の蛍光強度を示す。
【0273】
4.ADCC活性測定によるin vitro薬効確認
4.1.エフェクター細胞浮遊液の調製
ヒト由来エフェクター細胞は、ヒト末梢血より採取した単核球画分を用いた。1000単位/mLのヘパリン溶液(ノボ・ヘパリン注5千単位、ノボ・ノルディスク社)をあらかじめ200μL注入した注射器を用い、社内健常人ボランティア(成人男性)より末梢血50 mLを採取した。この末梢血をPBS(-)で2倍希釈した後、Ficoll-Paque PLUSをあらかじめ注入して遠心操作を行ったLeucosepリンパ球分離管(Greiner bio-one社)に加えた。これを遠心分離(2150 rpm、10分間、室温)した後、単核球画分層を分取した。10% FBS/D-MEMで1回細胞を洗浄した後、10% FBS/D-MEMで細胞密度を5 x 10
6/mLに調製し、エフェクター細胞浮遊液とした。
【0274】
4.2.標的細胞浮遊液の調製
標的細胞浮遊液は、試験時に用時調製した。1 x 10
6個の癌細胞株を遠心分離(1200 rpm、5分間、室温)し、細胞ペレットを200μLの0.2 mg/mL カルセイン-AM(ナカライテスク社)/DMEM (10% FBS)培地を添加し懸濁した。カルセイン-AM溶液で懸濁した細胞液をCO
2濃度5% 、温度37℃に設定したCO
2インキュベーター内で2時間培養した。10% FBS/D-MEMで1回洗浄した後、10% FBS/D-MEMで細胞密度を2 x 10
5/mLに調製し、標的細胞浮遊液とした。
【0275】
4.3.ADCC活性の測定
抗EREG抗体を0.5 mg/mLの濃度に調製し、10% FBS/D-MEMでさらに希釈し、抗体溶液とした。最終濃度は、0.4μg/mL、4μg/mL、40μg/mLとした。各濃度の抗体溶液または10% FBS/D-MEMを50μLずつ96ウェルU底プレートに注入した。次にすべてのウェルに標的細胞浮遊液を50μLずつ添加し、室温で15分静置した。続いて、抗体溶液と標的細胞浮遊液、または10% FBS/D-MEMと標的細胞浮遊液が注入されたウェルに、エフェクター細胞浮遊液を100μL添加した。10% FBS/D-MEMと標的細胞浮遊液が注入された別のウェルには10% FBS/D-MEMまたは2% NP-40溶液(NP-40 substitute、和光純薬工業株式会社)をそれぞれ100μL添加した。プレートを遠心(1200 rpm、5分間、室温)し、CO
2濃度5% 、温度37℃に設定したCO
2インキュベーターで4時間培養した。プレートを遠心(1200 rpm、5分間、室温)し、各ウェルより上清を100μLずつ回収し、蛍光光度計で蛍光強度(λ
ex=490 nm、λ
em=515 nm)を測定し、下式により特異的カルセイン遊離率:cytotoxicity(%)を求めた。
【0276】
〔式1〕
cytotoxicity(%) = (A-C) x 100/(B-C)
【0277】
Aは各ウェルにおける蛍光強度、Bは50μLの10% FBS/D-MEMに50μLの標的細胞浮遊液と100μLのNP-40溶液を添加したウェルにおける蛍光強度の平均値、Cは50μL 10% FBS/D-MEMに50μLの標的細胞浮遊液と100μLの10% FBS/D-MEMを添加したウェルにおける蛍光強度の平均値を示す。試験はN=3で行い、各抗体濃度のcytotoxicity(%)をMicrosoft Office Excel 2007を用いて求めた。
【0278】
抗EREG抗体によるPLR59細胞のLgr5陽性細胞およびLgr5陰性細胞ならびにPLR123細胞のLgr5陽性細胞およびLgr5陰性細胞に対するADCC活性を
図38に示した。その結果、コントロール抗体では細胞傷害活性が認められなかったが、抗EREG抗体では、PRL59、PLR123共に、Lgr5陽性および陰性のいずれの癌幹細胞に対しても用量依存的な細胞傷害活性が認められた。
【0279】
生体内でのEREGの発現を確認するために、NOGマウスの腹腔下にLgr5陽性細胞を投与したところ、腫瘍形成の初期段階ではEREGは高度に発現したが、腫瘍が明確な管構造を形成する後期段階ではEREGの発現は管構造に比較して出芽性クラスタに幾分限局していた。腫瘍を保持するマウスにイリノテカンが投与された後でもEREG陽性細胞は検出された(
図54)。そこでイリノテカン処理後のEREG抗体の抗腫瘍活性が調べられた。EREG抗体はADCC活性を発揮するためにはエフェクター細胞が必要であることから、EREG抗体の薬効評価のために用いられるモデルとしてSCIDマウスが使用された。イリノテカンの最終投与後4日および11日の時点で抗体が投与されると腫瘍の成長が抑制された(
図57)。
【0280】
転移モデルで薬効を評価するため、転移モデルにおけるEREG発現が最初に調べられた。Lgr5陽性細胞をNOGマウスの静脈内に注射した場合、腫瘍は肺を含む複数の組織で形成された。肺において形成された腫瘍細胞の大部分はEREG陽性を示した(
図58A)。マクロファージおよび単核球がエフェクター細胞としてADCCを発揮することができるSCID-Beigeマウスを用いて、EREG抗体の薬効が調べられた。Lgr5陽性細胞の注射の後、3日後から開始して週一回ずつで5回EREG抗体が投与されたマウスでは、遠隔部位での腫瘍細胞の数が、対照のマウスでの当該数と比較して極端に減少したことが示された(
図58B)。加えて、各腫瘍の大きさも抗体が投与されたマウスでは極端に減少していることも示された(
図58CおよびD)。
【0281】
〔実施例9〕臨床腫瘍検体におけるLgr5陰性および陽性CSCの存在
増殖型および休止型のCSCはLgr5抗体(2U2E-2)、HLA-DMA抗体およびEREG抗体を用いた組織免疫染色によって決定された(
図59および表11)。増殖型CSCはLgr5陽性細胞を表し、休止型CSCはHLA-DMA陽性かつEREG陽性の細胞を表す(表11)。HLA-DMAおよびEREGに対してともに陽性を示すLgr5陽性細胞、ならびにHLA-DMAおよびEREGに対してともに陽性を示すLgr5陰性細胞は、大腸癌患者から単離された原発性(プライマリー)および転移性の大腸癌検体に僅かであったが存在した(
図59)。ヒト大腸癌組織の12検体のうち、8例ではLgr5陽性細胞およびLgr5陰性細胞の双方が検出され、残る4例ではLgr5陽性細胞またはLgr5陰性細胞のいずれかが観察された。全検体中0.003から1.864%がLgr5陽性細胞で、0.001-10.243%がLgr5陰性細胞であった(表11)。
【0282】
【表11】
(P†:増殖型または休止型CSCが検出されたことを示す。N:増殖型または休止型CSCが検出されなかったことを示す。)
(頻度:細胞の百分率を表す。)
【0283】
Lgr5陽性および陰性のCSCはともに管および出芽性領域で検出された(
図59)。加えて、管におけるLgr5陽性および陰性のCSCは特定の領域にとどまらず、管全体にわたってランダムに観察された。
【0284】
〔実施例10〕Mab-ZAP、及びRat-ZAPを用いた各種抗体による抗腫瘍効果
イリノテカンで処理されたまたはイリノテカン未処理のPLR59、PLR123において、高発現している膜タンパク質を標的とした標的治療で抗腫瘍効果を示すことが出来るか否かが評価された。イリノテカンで処理されたまたはイリノテカン未処理PLR59またはPLR123の細胞表層に発現する抗原に対する表12に記載される市販抗体の結合活性がフローサイトメトリー(FCM)を用いて測定された。その結果を表13にまとめた。
【0285】
【表12】
【0286】
【表13】
(NTは無試験を表す)
【0287】
結合活性を有することが確認された各種抗体の(細胞内への)内在化活性が、Mab-ZAP、及びRat-ZAPを用いて評価された。Mab-ZAP、及びRat-ZAPは、抗マウスIgG抗体、もしくは抗ラットIgG抗体に蛋白合成阻害のトキシンであるサポリン(saporin)を結合させたもの(Advanced Targeting Systems社製)である。イリノテカン未処理の細胞に対する内在化活性が評価される場合、PLR59、PLR123細胞を30000細胞/80μL/ウェルの細胞密度で96ウェルプレートの各ウェルに播種した翌日、各ウェルに対して終濃度0.01、0.1、1 μg/mLになるように各種抗体溶液が添加された。続けて終濃度1 μg/mLとなるように各ウェルにMab-ZAP、もしくはRat-ZAPが添加されたプレートが37℃のCO
2インキュベーターで72時間培養された。イリノテカンで処理された細胞に対する内在化活性が評価される場合、PLR59、PLR123細胞および終濃度15 μMでイリノテカンがその各ウェルに添加された96ウェルプレートが、37℃のCO
2インキュベーターで72時間培養された。前記のようにイリノテカンの存在下または非存在下で培養された細胞に対する各種の抗体の内在化活性が評価された。アッセイの際には、イリノテカン未処理と同様にイリノテカンが含まれていない培地に置換された各ウェルに存在する細胞に対する各種の抗体の内在化活性が評価された。抗体とMab-ZAP、及びRat-ZAP が添加されて72時間の後、3% SDS(ナカライテスク社)が10 μL/ウェルの用量で各ウェルに添加されたプレートに存在する細胞は、プレートミキサーによってプレートを撹拌することによって、十分に溶解された。その後、CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay (Promega社)を100μL/ウェルの用量で添加された各ウェル中の混合液の発光シグナルが測定された。その結果得られた抗腫瘍活性を、表14および
図60〜72に示した。
図60〜72における縦軸で示された細胞増殖抑制の割合は、(Mab-ZAP、及びRat-ZAPが添加されず)被験抗体のみが添加されたウェル中の混合液の発光シグナルの値と細胞が播種されていないウェルの混合液の発光シグナルの値との差分を100%としたときの、(Mab-ZAP、及びRat-ZAPが添加されず)被験抗体のみが添加されたウェル中の混合液の発光シグナルの値と、被験抗体、Mab-ZAP、及びRat-ZAPが添加されたウェル中の混合液の発光シグナルの値との差分の相対値を意味する。表14での記号である−、+、++および+++は、被験抗体が1μg/μL濃度で試験されたときの内在化活性の相対値を表す。当該相対値は、(Mab-ZAP、及びRat-ZAPが添加されず)被験抗体のみが添加されたウェル中の混合液の発光シグナルの値と、細胞が播種されていないウェルの混合液の発光シグナルの値との差分を100%としたときの、(Mab-ZAP、及びRat-ZAPが添加されず)被験抗体のみが添加されたウェル中の混合液の発光シグナルの値と、被験抗体、Mab-ZAP、及びRat-ZAPが添加されたウェル中の混合液の発光シグナルの値の差分の相対値を意味し、-、+、++および+++は、当該相対値がそれぞれ5%未満、5%以上15%未満、15%以上25%未満、および25%以上を表す。
【0288】
【表14】
【0289】
図66に示すように、陽性対照として用いられた抗EPCAM抗体で十分な抗腫瘍活性が確認できている条件下において、イリノテカン未処理のPLR59、PLR123に対して、抗CD70抗体と抗FAS抗体は25%以上のインタナライゼーション(内在化)活性を示した(
図60および
図62)。またPLR59に対して、抗EDAR抗体が15〜25%の、抗PVRL4抗体、抗PROCR抗体が5〜15%の内在化活性を示した(
図61、63および65)。一方、イリノテカンで処理されたPLR59、PLR123に対して、抗FAS抗体と抗TNFRSF9抗体は25%以上の、抗PROM2抗体は5-15%のインタナライゼーション(内在化)活性を示した(
図67、70および68)。抗PVRL4抗体、抗PROCR抗体も、ともにイリノテカンで処理されたPLR59、PLR123に対して内在化活性を示し、PLR59に対する内在化活性はPLR123に対する内在化活性よりも高かった(
図69および71)。以上の結果より、評価した抗体は全て、PLR59、PLR123に対し、抗腫瘍効果を示すことが明らかになった。
【0290】
イリノテカン未処理およびイリノテカンで処理されたPLR59、PLR123に対するBMP4による分化促進効果が評価された。イリノテカン未処理の細胞に対する分化促進効果を評価する場合、BMP4(R&D Systems, 終濃度20nM)または対照バッファーが添加された培地に懸濁されたPLR59、PLR123細胞が、5 x10
5 細胞/ 1.5mL/ ウェルの細胞密度で12ウェルプレートの各ウェルに播種された。播種後2、4、7日後に同様の培地に交換することによって継代して培養された。イリノテカンで処理された細胞に対する分化促進効果を評価する場合、17 x10
5細胞/ 5mL/ フラスコの細胞密度でPLR59またはPLR123が播種された12.5 mL容量の培養フラスコに、播種の翌日、終濃度15 μMでイリノテカンを添加された。当該フラスコは、37℃のCO
2インキュベーターで72時間培養された。続いてBMP4または対照バッファーが添加された培地を用いて当該フラスコ中の培地が交換され、交換後2、4、7日後にさらに同様の培地で交換された。最初の培地交換から4日後及び9日後に単離された細胞からRNeasy Plus Mini Kit及びRNase-Free DNase Set(QIAGEN)を使用して抽出されたRNAを鋳型に用いて、ThermoScript RT-PCR System(Invitrogen)を用いてcDNAが合成された。
【0291】
前記のように単離されたcDNAを用いて定量的リアルタイムPCRを実施したところ、
図73に示すように、BMP4が添加されて培養されたPLR59およびPLR123細胞においてCK20の上昇が認められた。