特許第6580123号(P6580123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6580123プレス硬化用の鋼板を製作するための方法、および当該方法によって得られた部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6580123
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】プレス硬化用の鋼板を製作するための方法、および当該方法によって得られた部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20190912BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20190912BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20190912BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20190912BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20190912BHJP
   C22C 21/10 20060101ALN20190912BHJP
   C22C 30/00 20060101ALN20190912BHJP
【FI】
   C22C38/00 301W
   C22C38/58
   C22C38/00 301T
   C21D9/46 T
   C21D9/46 J
   C21D9/00 A
   C21D1/18 C
   !C22C21/10
   !C22C30/00
【請求項の数】27
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-504820(P2017-504820)
(86)(22)【出願日】2015年7月29日
(65)【公表番号】特表2017-525849(P2017-525849A)
(43)【公表日】2017年9月7日
(86)【国際出願番号】IB2015001273
(87)【国際公開番号】WO2016016707
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2017年3月17日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2014/001428
(32)【優先日】2014年7月30日
(33)【優先権主張国】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コボ,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】プエルタ・ベラスケス,フアン・ダビッド
(72)【発明者】
【氏名】ボーベ,マルタン
(72)【発明者】
【氏名】バンシ,カトリーヌ
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−015638(JP,A)
【文献】 特開2004−211197(JP,A)
【文献】 特開2013−227614(JP,A)
【文献】 特開平08−067942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/46−9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、重量により表される含量として
0.32%≦C≦0.36%、
0.40%≦Mn≦0.80%、
0.10%≦Si≦0.70%、
0.015%≦Al≦0.070%、
0.05%≦Cr≦1.20%、
0.25%≦Ni≦2%、
0.015%≦Ti≦0.10%、
0%≦Nb≦0.060%、
0.0005%≦B≦0.0040%、
0.003%≦N≦0.010%、
0.0001%≦S≦0.005%、
0.001%≦P≦0.025%
を含み、チタン含量および窒素含量が、
Ti/N>3.42
を満足し、炭素、マンガン含量、クロム含量およびケイ素含量が、
【数1】
を満足する、プレス硬化のための圧延鋼板であって、
化学組成が場合により、
0.05%≦Mo≦0.65%、
0.001%≦W≦0.30%、
0.0005%≦Ca≦0.005%
の元素のうちの1種以上を含み、
残部が、鉄および生産に起因する不可避的不純物から構成され、
Nisurf>Ninomであり、
Ninomが、鋼の公称ニッケル含量を表し、Nimaxが、Δ内での最大ニッケル含量を表し、ミクロンで表される深さΔについて、
【数2】
かつ、
【数3】
であるように、前記板材が、前記板材の表面付近の鋼の任意の地点において深さΔにわたってニッケル含量Nisurfを含み、
この含量NimaxおよびNinomが、重量百分率で表される、圧延鋼板。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼板であって、鋼板の組成が、
0.50重量%≦Si≦0.60重量%
を含むことを特徴とする、圧延鋼板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鋼板であって、鋼板の組成が、
0.30重量%≦Cr≦0.50重量%
を含むことを特徴とする、圧延鋼板。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の鋼板であって、鋼板の組成が、
0.30重量%≦Ni≦1.20重量%
を含むことを特徴とする、圧延鋼板。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼板であって、鋼板の組成が、0.30重量%≦Ni≦0.50重量%を含むことを特徴とする、圧延鋼板。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の鋼板であって、鋼板の組成が、
0.020重量%≦Ti
を含むことを特徴とする、圧延鋼板。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の鋼板であって、鋼板の組成が、
0.020重量%≦Ti≦0.040重量%
を含むことを特徴とする、圧延鋼板。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の鋼板であって、鋼板の組成が、
0.15重量%≦Mo≦0.25重量%
を含むことを特徴とする、圧延鋼板。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の鋼板であって、鋼板の組成が、
0.010重量%≦Nb≦0.060重量%
を含むことを特徴とする、圧延鋼板。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の鋼板であって、鋼板の組成が、
0.030重量%≦Nb≦0.050重量%
を含むことを特徴とする、圧延鋼板。
【請求項11】
鋼板の組成が、
0.50重量%≦Mn≦0.70重量%
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の圧延鋼板。
【請求項12】
請求項1に記載の鋼板であって、鋼板のミクロ組織が、フェライト−パーライト系であることを特徴とする、圧延鋼板。
【請求項13】
前記板材が、熱間圧延板であることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の圧延鋼板。
【請求項14】
前記板材が、冷間圧延および焼きなましを施された板材であることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の圧延鋼板。
【請求項15】
アルミニウムまたはアルミニウム合金もしくはアルミニウムベース型合金からできた金属層によってプレコートされていることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の圧延鋼板。
【請求項16】
亜鉛または亜鉛合金もしくは亜鉛ベース型合金からできた金属層によってプレコートされていることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の圧延鋼板。
【請求項17】
アルミニウムおよび鉄ならびに場合によりケイ素を含有する金属間合金からできた1つの被膜または幾つかの被膜によってプレコートされている、請求項1から14のいずれか一項に記載の圧延鋼板であって、プレコート皮膜が、FeSiAl12型の相τおよびFeSiAl型の相τの遊離アルミニウムを含有しないことを特徴とする、圧延鋼板。
【請求項18】
マルテンサイト系組織またはマルテンサイト−ベーナイト系組織を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の鋼板のプレス硬化によって得られた、部品。
【請求項19】
表面付近の鋼中のニッケル含量Nisurfが、深さΔにわたってNinomより高く、およびNimaxが、Δ内での最大ニッケル含量を表し、ミクロンで表される深さΔについて、
【数4】
かつ、
【数5】
であり、
この含量NimaxおよびNinomが、重量百分率で表される
ことを特徴とする、公称ニッケル含量Ninomを含む請求項18に記載のプレス硬化部品。
【請求項20】
請求項18または19に記載のプレス硬化部品であって、プレス硬化部品の機械的強度Rmが、1800MPa以上であることを特徴とする、プレス硬化部品。
【請求項21】
アルミニウムもしくはアルミニウムベース型合金または亜鉛もしくは亜鉛ベース型合金を含んでなる皮膜であって、プレス硬化の熱処理中の鋼基材とプレコート皮膜の間の拡散により鋼基材中の鉄が拡散された皮膜によって被覆されていることを特徴とする、請求項18から20のいずれか一項に記載のプレス硬化部品。
【請求項22】
・重量により表される含量として
0.32%≦C≦0.36%、
0.40%≦Mn≦0.80%、
0.10%≦Si≦0.70%、
0.015%≦Al≦0.070%、
0.05%≦Cr≦1.20%、
0.25%≦Ni≦2%、
0.015%≦Ti≦0.10%、
0%≦Nb≦0.060%、
0.0005%≦B≦0.0040%、
0.003%≦N≦0.010%、
0.0001%≦S≦0.005%、
0.001%≦P≦0.025%
を含み、チタン含量および窒素含量が、
Ti/N>3.42
を満足し、炭素、マンガン含量、クロム含量およびケイ素含量が、
【数6】
を満足し、
場合により、
0.05%≦Mo≦0.65%、
0.001%≦W≦0.30%、
0.0005%≦Ca≦0.005%
の元素のうちの1種以上を含み、
残部が、鉄および生産に起因する不可避的不純物から構成され
学組成を有する中間製品をキャストする工程、および次いで
・前記中間製品を、1250℃から1300℃の間に含まれる温度まで行う再加熱であって、この温度で20分から45分の間に含まれる保持時間にわたって行う再加熱を行う工程、および次いで
・前記中間製品を、熱間圧延板を得るために825℃から950℃の間に含まれる圧延終了温度ERTまで熱間圧延する工程、および次いで
・前記熱間圧延板を、熱間圧延およびコイル化を施された板材を得るために500℃から750℃の間に含まれる温度でコイル化する工程、および次いで
・先行の工程中に形成された酸化物層を酸洗いする工程
を一連の工程として含む、熱間圧延鋼板の製作方法であって、
当該熱間圧延鋼板は、さらに冷間圧延および740℃から820℃の間に含まれる温度で焼きなましを施すと、冷間圧延および焼きなましを施された板材が得られ、ここで、当該冷間圧延および焼きなましを施された板材は、
Nisurf>Ninomであり、
Ninomが、鋼の公称ニッケル含量を表し、Nimaxが、Δ内での最大ニッケル含量を表し、ミクロンで表される深さΔについて、
【数7】

かつ、
【数8】

であるように、板材が、板材の表面付近の鋼の任意の地点において深さΔにわたってニッケル含量Nisurfを含み、
この含量NimaxおよびNinomが、重量百分率で表される、
熱間圧延鋼板の制作方法
【請求項23】
・請求項22に記載の方法によって熱間圧延板を供給し、コイル化し、酸洗いし、製作する工程、および次いで
・熱間圧延、コイル化および酸洗いを施された前記板材を、冷間圧延板を得るために冷間圧延する工程、および次いで
・前記冷間圧延板を、冷間圧延および焼きなましを施された板材を得るために740℃から820℃の間に含まれる温度で焼きなましする工程
を一連の工程として含むことを特徴とする、冷間圧延および焼きなましを施された板材のための製作方法であって、
当該冷間圧延および焼きなましを施された板材が、
Nisurf>Ninomであり、
Ninomが、鋼の公称ニッケル含量を表し、Nimaxが、Δ内での最大ニッケル含量を表し、ミクロンで表される深さΔについて、
【数9】

かつ、
【数10】

であるように、板材が、板材の表面付近の鋼の任意の地点において深さΔにわたってニッケル含量Nisurfを含み、
この含量NimaxおよびNinomが、重量百分率で表される、
冷間圧延および焼きなましを施された板材のための制作方法
【請求項24】
請求項23に記載の方法によって製作された圧延板を供給し、次いで連続溶融めっき式プレコートを実施する、プレコートされた板材のための製作方法であって、前記プレコートが、アルミニウムまたはアルミニウム合金もしくはアルミニウムベース型合金または亜鉛または亜鉛合金もしくは亜鉛ベース型合金である、製作方法。
【請求項25】
請求項23に記載の方法による圧延板を供給し、次いで連続溶融めっき式プレコートを、アルミニウム合金またはアルミニウムベース型合金によって実施し、次いで
・プレコート皮膜が、FeSiAl12型の相τおよびFeSiAl型の相τの遊離アルミニウムをもはや含有しなくなり、オーステナイト変態が鋼基材中で起きないように、前記プレコートされた板材の熱的前処理を、620℃から680℃の間に含まれる温度θで6時間から15時間の間に含まれる保持時間tにわたって実施する、プレコートおよびプレアロイ化を施された板材のための製作方法であって、前処理が、炉内において水素と窒素との雰囲気下で実施される、製作方法。
【請求項26】
・請求項23から25のいずれか一項に記載の方法によって製作された板材を供給する工程、および次いで
・ブランク材を得るために前記板材を切断する工程、および次いで
・コールドスタンピングによる変形を前記ブランク材に実施する任意の工程、および次いで
・前記ブランク材を、鋼中に完全オーステナイト系組織を得るために810℃から950℃の間に含まれる温度に加熱する工程、および次いで
・前記ブランク材をプレス内部に搬送する工程、および次いで
・前記ブランク材をホットスタンピングして、部品を得る工程、および次いで
・前記部品をプレス内部に保持して、オーステナイト構造のマルテンサイト変態による硬化を達成する工程
を一連の工程として含む、請求項18から21のいずれか一項に記載のプレス硬化部品の製作方法。
【請求項27】
自動車用の構造用部品または強化部品の製作のための、請求項18から21のいずれか一項に記載のまたは請求項26に記載の方法によって製作されたプレス硬化部品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス硬化後に非常に高い強度の機械部品の製造用に意図された鋼板のための製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
公知のように、プレス内での焼入れによる硬化(またはプレス硬化)は、オーステナイト変態を達成するのに十分に高い温度でブランク鋼材を加熱すること、および次いでブランク材を、焼入れされたミクロ組織を得るようにプレス工具内にブランク材を保持することによってホットスタンピングすることからなる。本方法の一変更形態によれば、冷間予備スタンピングをブランク材に前もって実施した後、加熱およびプレス硬化を行ってもよい。このブランク材は例えば、アルミニウム合金または亜鉛合金によってプレコートすることができる。この場合、炉内での加熱中にプレコート皮膜は、脱炭およびスケールの形成に対して部品の表面を保護する化合物を生成するような拡散により、鋼基材と合金化する。この化合物は、熱間成形に適している。
【0003】
得られた部品は特に、侵入防止機能またはエネルギー吸収機能を提供するために自動車内に構造要素として使用される。従って、バンパークロスビーム、ドア用もしくはセンターピラー用の強化材またはフレームレールを実装例として挙げることができる。このようなプレス硬化部品は例えば、農業機械用の工具または部品を製造するためにも使用することができる。
【0004】
プレス内で得られる鋼の組成および冷却速度に応じて、機械的強度のレベルが上昇することもあり得るし、または低下することもあり得る。従って、公報EP2,137,327には、0.040%<C<0.100%、0.80%<Mn<2.00%、Si<0.30%、S<0.005%、P<0.030%、0.010%≦AI≦0.070%、0.015%<Nb<0.100%、0.030%≦Ti≦0.080%、N<0.009%、Cu、Ni、Mo<0.100%、Ca<0.006%を含有する鋼組成を開示しており、この鋼組成を用いた場合、プレス硬化後に500MPa超の機械的引張強度Rmを得ることができる。
【0005】
公報FR2,780,984には、より高い強度レベルが達成されることが開示されており、即ち、0.15%<C<0.5%、0.5%<Mn<3%、0.1%<Si<0.5%、0.01%<Cr<1%、Ti<0.2%、AlおよびP<0.1%、S<0.05%、0.0005%<B<0.08%を含有する鋼板により、1000超の強度Rm、さらには1500MPa超の強度Rmを達成できることが開示されている。
【0006】
このような強度は、数多くの用途において満足のいくものである。しかしながら、車両のエネルギー消費を低減する要望があり、機械的強度がさらに高められた、即ち、強度Rが1800MPa超である部品を使用してさらに軽量化された車両の探求へと駆り立てられている。一部の部品は塗装され、塗料焼付けサイクルを受けるため、この値には、焼付けによる熱処理の有無にかかわらず到達すべきである。
【0007】
ここで、このようなレベルの強度は一般に、完全にマルテンサイト系のミクロ組織またはマルテンサイトが非常に支配的なミクロ組織と関連付けられている。この種類のミクロ組織は、遅れ割れに対する抵抗性が低下していることが公知である。実際、プレス硬化後に製作された部品は、下記の3つの要因が複合して、ある程度の時間が経った後に割れまたは破損が起こりやすいものであり得る。
・大部分がマルテンサイト系のミクロ組織。
・十分な量の拡散性水素。十分な量の拡散性水素は、ホットスタンピングおよびプレス硬化の工程前に、炉におけるブランク材の加熱中に導入することができる。実際、炉内に存在する水蒸気が砕け散り、ブランク材の表面上に吸着される場合がある。
・十分なレベルの適用応力または残留応力の存在。
【0008】
遅れ割れの課題を解決する目的で、応力のレベルを最小化するために、再加熱炉の雰囲気と、ブランク材の切断条件とを厳密に制御することが提案された。ホットスタンピング部品への熱的後処理の実施も、水素の脱気を可能にするために提案された。しかしながら、これらの操作は、上記遅れ割れの危険性の排除を可能にして制約とコストの増大を克服する材料を望む産業の妨げとなっている。
【0009】
水素吸着を低減する特定の皮膜を鋼板の表面上に堆積することも提案された。しかしながら、同等の遅れ割れ抵抗性を提供するより簡便な方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2,137,327号明細書
【特許文献2】仏国特許発明第2,780,984号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、プレス硬化後に非常に高い機械的強度Rmと遅れ割れに対する高い抵抗性とを同時に提供するであろう部品のための製作方法が探求されているが、これらの目的の両立は、演繹的に困難である。
【0012】
さらに、鋼組成物が焼入れ促進作用および/または硬化作用のある元素(C、Mn、Cr、Mo等)に富んでいるほど、得られる熱間圧延板の硬度が高くなっていくことが公知である。従って、この硬度の増大は、冷間圧延ミルの圧延能力がある程度制限されることを考慮すると、多種多様な厚さの冷間圧延板を得るのに不利である。従って、熱間圧延板の段階で強度のレベルが高すぎると、非常に薄い冷間圧延板を得ることができない。従って、多種多様な冷間圧延板厚さを提供する方法が求められている。
【0013】
さらに、より多量の焼入れ促進作用および/または硬化作用のある元素の存在は、幾つかのパラメータの変動(圧延終了温度、コイル化温度、圧延帯材の幅にわたる冷却速度の変動)が薄板内部の機械的特性を変動させ得るため、製作における熱機械的処理中に影響を及ぼす可能性がある。従って、良好な機械的特性の均一性を有する板材を製作するように、特定の製作パラメータの変動に影響されにくくなった鋼組成が求められている。
【0014】
板材を異なる形態で入手できるように、特に溶融めっきによって容易に被覆することができる鋼組成も求められている。:無被覆の形態またはエンドユーザーの仕様に応じてアルミニウム合金もしくは亜鉛合金によって被覆されている形態。
【0015】
プレス硬化用に意図されたブランク材を得るための機械的切断工程に良好な適性を有する板材、即ち、機械的切断の段階における機械的強度が高すぎて切断工具または穴開け工具の破損が避けられなくなることがない板材を提供する方法も、求められている。
【0016】
本発明の目的は、経済的な製作方法により、上記課題のすべてを解決することである。
【0017】
驚くべきことに、本発明者らは、下記に詳述している組成を有する板材を供給することにより、上記課題が解決されたことを示したが、この板材は、表面領域にニッケルが特に富化されているという特徴を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的のために、本発明の主題は、化学組成が、重量により表される含量として0.24%≦C≦0.38%、0.40%≦Mn≦3%、0.10%≦Si≦0.70%、0.015%≦Al≦0.070%、0%≦Cr≦2%、0.25%≦Ni≦2%、0.015%≦Ti≦0.10%、0%≦Nb≦0.060%、0.0005%≦B≦0.0040%、0.003%≦N≦0.010%、0.0001%≦S≦0.005%、0.0001%≦P≦0.025%を含み、チタン含量および窒素含量が、Ti/N>3.42を満足すると理解され、炭素、マンガン含量、クロム含量およびケイ素含量が、
【0019】
【数1】
を満足すると理解されるプレス硬化のための圧延鋼板であって、化学組成が場合により、0.05%≦Mo≦0.65%、0.001%≦W≦0.30%、0.0005%≦Ca≦0.005%の元素のうちの1種以上を含み、残部が、鉄および生産に起因する不可避的不純物から構成され、Nisurf>Ninomであり、Ninomが、鋼の公称ニッケル含量を表し、Nimaxが、Δ内での最大ニッケル含量を表し、ミクロンで表される深さΔについて
【0020】
【数2】
かつ、
【0021】
【数3】
であるように、板材が、前記板材の表面付近の鋼の任意の地点において深さΔにわたってニッケル含量Nisurfを含み、この含量NimaxおよびNinomが、重量百分率で表される、圧延鋼板である。
【0022】
第1の態様によれば、板材の組成は、0.32重量%≦C≦0.36重量%、0.40重量%≦Mn≦0.80重量%、0.05重量%≦Cr≦1.20重量%を含む。
【0023】
第2の態様によれば、板材の組成は、0.24重量%≦C≦0.28重量%、1.50重量%≦Mn≦3重量%を含む。
【0024】
板材のケイ素含量は好ましくは、0.50%≦Si≦0.60%になるようなケイ素含量である。
【0025】
特定の一態様によれば、板材の組成は、0.30重量%≦Cr≦0.50重量%を含む。
【0026】
好ましくは、板材の組成は、0.30重量%≦Ni≦1.20%、非常に好ましくは0.30重量%≦Ni≦0.50重量%を含む。
【0027】
チタン含量は好ましくは、0.020%≦Tiになるようなチタン含量である。
【0028】
板材の組成は有利には、0.020%≦Ti≦0.040%を含む。
【0029】
好ましい一態様によれば、板材の組成は、0.15重量%≦Mo≦0.25重量%を含む。
【0030】
板材の組成は好ましくは、0.010重量%≦Nb≦0.060重量%、非常に好ましくは0.030%≦Nb≦0.050%を含む。
【0031】
特定の一態様によれば、組成は、0.50重量%≦Mn≦0.70重量%を含む。
【0032】
有利には、鋼板のミクロ組織は、フェライト−パーライト系である。
【0033】
好ましい一態様によれば、鋼板は、熱間圧延板である。
【0034】
好ましくは、板材は、熱間圧延および焼きなましを施された板材である。
【0035】
特定の一態様によれば、鋼板は、アルミニウムまたはアルミニウム合金もしくはアルミニウムベース型合金からできた金属層によってプレコートされている。
【0036】
特定の一態様によれば、鋼板は、亜鉛または亜鉛合金もしくは亜鉛ベース型合金からできた金属層によってプレコートされている。
【0037】
別の態様によれば、鋼板は、アルミニウムおよび鉄ならびに場合によりケイ素を含有する金属間合金からできた1つの被膜または幾つかの被膜によってプレコートされており、プレコート皮膜は、FeSiAl12型の相τおよびFeSiAl型の相τの遊離アルミニウムを含有しない。
【0038】
本発明の主題は、マルテンサイト系組織またはマルテンサイト−ベーナイト系組織を含む、上記態様のうちのいずれか1つによる組成の鋼板のプレス硬化によって得られた部品でもある。
【0039】
好ましくは、プレス硬化部品は、公称ニッケル含量Ninomを含み、表面付近の鋼中のニッケル含量Nisurfが、深さΔにわたってNinomより高く、およびNimaxが、Δ内での最大ニッケル含量を表しミクロンで表される深さΔについて、
【0040】
【数4】
かつ、
【0041】
【数5】
であり、この含量NimaxおよびNinomが、重量百分率で表される。
【0042】
有利には、プレス硬化部品は、1800MPa以上の機械的強度Rmを有する。
【0043】
好ましい一態様によれば、プレス硬化部品は、プレス硬化の熱処理中の鋼基材とプレコート皮膜との間での拡散の結果として生じた、アルミニウムもしくはアルミニウムベース型合金または亜鉛もしくは亜鉛ベース型合金によって被覆されている。
【0044】
本発明の別の目的は、上記に提示の態様のうちの1つによる化学組成を有する中間製品をキャストする工程、および次いで1250℃から1300℃の間の温度まで行う再加熱であって、この温度で20分から45分の間に含まれる保持時間にわたって行う再加熱を行う工程を一連の工程として含む、熱間圧延鋼板のための製作方法である。中間製品は、加熱圧延板を得るために825℃から950℃の間の圧延終了温度ERTまで熱間圧延し、次いで熱間圧延板を、熱間圧延およびコイル化を施された板材を得るために500℃から750℃の間の温度でコイル化し、次いで先行の工程中に形成された酸化物層を酸洗いによって除去する。
【0045】
本発明の目的は、上記方法によって熱間圧延板を供給し、コイル化し、酸洗いし、製作する工程、および次いでこの熱間圧延、コイル化および酸洗いを施された板材を、冷間圧延板を得るために冷間圧延する工程を一連の工程として含むことを特徴とする、冷間圧延および焼きなましを施された板材のための製作方法でもある。この冷間圧延板は、冷間圧延および焼きなましを施された板材を得るために740℃から820℃に含まれる間の温度で焼きなましされる。
【0046】
有利な一態様によれば、上記方法のうちの1つによって製作された圧延板を供給し、次いで連続プレコートを溶融めっきによって実施するが、プレコートは、アルミニウムまたはアルミニウム合金もしくはアルミニウムベース型合金であり、または亜鉛または亜鉛合金もしくは亜鉛ベース型合金である。
【0047】
有利には、本発明の一目的は、上記方法のうちの1つによって圧延された板材を供給し、次いで連続溶融めっき式プレコートを、アルミニウム合金またはアルミニウムベース型合金によって実施し、次いでプレコート皮膜が、FeSiAl12型の相τおよびFeSiAl型の相τの遊離アルミニウムをもはや含有しなくなり、オーステナイト変態が鋼基材中に起きないように、プレコートされた板材の熱的前処理を、620℃から680℃の間の温度θで6時間から15時間の間の保持時間tにわたって実施する、プレコートおよびプレアロイ化を施された板材のための製作方法であって、前処理が、炉内において水素と窒素との雰囲気下で実施される、製作方法でもある。
【0048】
本発明の一目的は、上記態様のうちの1つによる方法によって製作された板材を供給する工程、および次いで前記板材を、ブランク材を得るために切断する工程、および次いでコールドスタンピングによる変形をブランク材に実施する場合による工程を一連の工程として含む、プレス硬化部品のための製作方法でもある。ブランク材を、鋼中に完全オーステナイト系組織を得るために温度810℃から950℃の間に含まれる温度に加熱し、次いでブランク材をプレス内部に搬送する。部品を得るためにブランク材をホットスタンピングし、次いでオーステナイト系組織のマルテンサイト変態によって硬化を達成するために部品をプレス内部に保持する。
【0049】
本発明の一目的は、車両用の構造用部品または強化部品の製作のための、上記に提示の特徴を含むまたは上記に提示の方法によって製作されたプレス硬化部品の使用でもある。
【0050】
本発明の他の特徴および利点は、下記の添付図面を参照しながら、例として与えられる下記の記載の中で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】プレス硬化板材またはプレス硬化部品の表面付近のニッケル含量の変動を概略的に示す図であり、本発明を規定する特定のパラメータ:Nimax、Nisurf、NinomおよびΔが示されている。
図2】板材のC含量、Mn含量、Cr含量およびSi含量を組み合わせたパラメータに応じた、ホットスタンピングおよびプレス硬化を施された部品の機械的強度を示す図である。
図3】板材の表面付近の合計ニッケル含量を示すパラメータに応じた、ホットスタンピングおよびプレス硬化を施された部品について測定した拡散性水素含量を示す図である。
図4】板材の表層中のニッケル富化の量を示すパラメータに応じた、ホットスタンピングおよびプレス硬化を施された部品について測定した拡散性水素含量を示す図である。
図5】相異なる組成を有する板材の表面付近のニッケル含量の変動を示している。
図6】プレス硬化前に2つの態様の表面調製を施した、同一の組成の板材の表面付近のニッケル含量の変動を示す図である。
図7】表層中のニッケル富化の量に応じた、プレス硬化前に2つの表面調製態様を施した板材における拡散性水素含量の変動を示す図である。
図8】本発明による熱間圧延板の構造を示す図である。
図9】本発明による熱間圧延板の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明による方法において実装される金属板材の厚さは好ましくは、自動車産業用の構造部品または強化部品の製作において特に使用されている厚さ範囲である、0.5mmから4mmの間に含まれる。この厚さ範囲は、熱間圧延によっても達成できるし、または続いて冷間圧延および焼きなましを施すことによっても達成できる。この厚さ範囲は、工業用のプレス硬化工具、特にホットスタンピングプレスに適している。
【0053】
有利には、鋼は、重量により表される組成として下記の元素を含有する:
・0.24%から0.38%の間を占める炭素含量。この元素は、オーステナイト化処理に続いて行われる冷却後に得られる焼入れ性および機械的強度において、主要な役割を果たす。含量が0.24重量%未満の場合、コストのかかる元素をさらに添加していなければ、プレス内での焼戻しによる硬化後に機械的強度レベルが1800MPaに到達できない。含量が0.38重量%超の場合、遅れ割れの危険性が高まり、シャルピー式ノッチ付き曲げ試験によって測定される延性脆性遷移温度が−40℃超になるが、このことは、靱性が著しく低下しすぎていると考えられる。
【0054】
炭素含量が0.32%から0.36重量%の間に含まれる場合、溶接性を満足なレベルに保ち、製造コストを抑制しながら、目標特性を安定に得ることができる。
【0055】
スポット溶接への適性は、炭素含量が0.24%から0.28%の間に含まれる場合、特に良好である。
【0056】
後で分かるように、炭素含量は、マンガン含量、クロム含量およびケイ素含量と一緒に規定されなければならないものでもある。
【0057】
・脱酸剤としての役割に加えて、マンガンは、焼入れ性においても役割を果たす。マンガンの含量は、プレス内での冷却中に十分に低い変態開始温度Ms(オーステナイト→マルテンサイト)を得るために0.40重量%超でなければならず、この結果、強度Rmの増大が可能になる。遅れ割れに対する抵抗性の増大は、マンガン含量を3%に制限することによって達成できる。実際、マンガンがオーステナイト粒界に偏析すると、水素の存在下での粒間破断の危険性が高まる。一方、後で説明するように、遅れ割れに対する抵抗性は特に、ニッケル富化表層の存在に由来する。理論に拘束されることを望むわけではないが、マンガン含量が過剰である場合、厚い酸化物層がスラブの再加熱中に生成されることになるが、この酸化鉄および酸化マンガンの層の下に配置されるようにニッケルが十分に拡散する時間がない限り避けられないものだと考えられる。
【0058】
マンガン含量は好ましくは、炭素および場合によりクロム含量と一緒にして規定される:
・炭素含量が0.32重量%から0.36重量%の間を占め、マンガン含量が0.40%から0.80%の間を占め、クロム含量が0.05%から1.20%の間を占める場合、特に効果的なニッケル富化表層と板材機械的切断への非常に良好な適性とが同時に存在するため、優れた遅れ割れに対する抵抗性を得ることができる。マンガン含量は理想的には、高い機械的強度と遅れ割れに対する抵抗性の獲得とを両立するために0.50%から0.70%の間を占める。
・炭素含量が0.24%から0.28%の間を占めるとともに、マンガン含量が1.50%から3%の間を占める場合、スポット溶接への適性は、特に良好である。
【0059】
これらの組成範囲は、約320℃から370℃の間に含まれる冷却変態(オーステナイト→マルテンサイト)開始温度Msの達成を可能にし、このようにすれば、加熱硬化部品が十分に高い強度を有することを保証できる。
【0060】
・鋼のケイ素含量は、0.10重量%から0.70重量%の間を占めなければならず、0.10%超のケイ素含量を用いた場合、追加的な硬化を達成することができ、ケイ素が、溶鋼の脱酸に寄与する。しかしながら、ケイ素の含量は、再加熱工程および/または焼きなまし工程中の表面酸化物の過剰な形成を回避するためおよび溶融めっき性を損なわないために、0.70%に制限しなければならない。
【0061】
ケイ素含量は、部品がマルテンサイト変態後にプレス工具内に保持されているときに起き得る新鮮なマテンサイトの軟化を回避するために、0.50%超であるのが好ましい。ケイ素含量は、加熱変態温度Ac3(フェライト+パーライト→オーステナイト)を高くしすぎないようにするために0.60%未満であるのが好ましい。ケイ素含量が0.60%未満でない場合はこの結果、ホットスタンピング前にブランク材をより高い温度に再加熱することが必要になるが、これにより、方法の生産性が低下する。
【0062】
・0.015%以上の量のとき、アルミニウムは、生産中の溶湯の脱酸および窒素の沈殿を可能にする元素である。アルミニウムの含量が0.070%超である場合、アルミニウムは、延性の低下につながりやすい粗大なアルミン酸塩を鋼製造中に形成し得る。最適には、アルミニウムの含量は、0.020%から0.060%の間に含まれる。
【0063】
・クロムは、焼入れ性を高め、プレス硬化後に所望されるRmレベルの獲得に寄与する。含量が2重量%を超えると、プレス硬化部品における機械的特性の均一性へのクロムの効果は、飽和している。0.05%から1.20%の間に含まれるのが好ましい量においては、この元素は、強度の増大に寄与する。好ましくは、機械的強度および遅れ割れへの所望の効果は、追加コストを抑制しながら、0.30%から0.50%の間に含まれるクロムを添加することによって達成できる。マンガン含量が十分である場合、即ち、1.50%から3%の間のマンガンが含まれる場合、マンガンによって得られる焼入れ性が十分であると考えられるため、クロムの添加は、場合によるものだと考えられる。
【0064】
さらに、上記に規定の元素C、Mn、CrおよびSiのそれぞれについての条件に関して、本発明者らにより、これらの元素は、一緒にして指定すべきであることが示された。実際、図2には、パラメータ
【0065】
【数6】
に応じた、種々の炭素含量(0.22%から0.36%の間)、マンガン含量(0.4%から2.6%の間)、クロム含量(0%から1.3%の間)およびケイ素含量(0.1%から0.72%の間)を有する相異なる鋼組成物用のプレス硬化ブランク材の機械的強度を示している。
【0066】
図2に提示のデータは、オーステナイト領域において850℃または900℃の温度で加熱し、この温度に150秒保持し、次いでホットスタンピングし、工具内に保持することによって焼入れされたブランク材に関する。すべての場合において、ホットスタンピング後に得られる部品の構造は、全部がマルテンサイトである。直線1は、機械的強度の結果の下位包絡線を表す。パラメータPが1.1%超である場合、調査した種々の組成による分散にかかわらず、1800MPaの最小値が得られるように思われる。この条件が満足される場合、プレス冷却中のMs変態温度は、365℃未満である。この条件下では、プレス工具内に保持して硬化しているときの自己焼戻しマテンサイトの割合が極めて制限され、この結果、非常に多量の焼戻しされていないマテンサイトにより、高い機械的強度値の達成することができる。
【0067】
・チタンは、窒素に対する高い親和性を有する。本発明の鋼の窒素含量を考慮すると、チタン含量は、効果的な沈殿を得るように0.015%以上でなければならない。0.020重量%超の量においては、チタンが、この元素が焼入れ性に完全な効果を及ぼすための遊離形態で発見されるように、ホウ素を保護する。チタンの含量は、3.42N超でなければならず、この量は、遊離窒素が存在しなくなるようなTiN沈殿の化学量論によって規定される。しかしながら、0.10%超の場合、靱性に有害な役割を果たす粗大な窒化チタンを溶鋼中に形成する危険性がある。チタン含量は好ましくは、ホットスタンピング前のブランク材の再加熱中にオーステナイト粒の成長を制限することになる微細な窒化物を生成するように、0.020%から0.040%の間に含まれる。
【0068】
・0.010重量%超の量のとき、ニオブは、ブランク材の再加熱中にオーステナイト粒の成長を同様に制限し得るニオブの炭窒化物を形成する。しかしながら、ニオブの含量は、ニオブが熱間圧延中の再結晶を制限し、圧延力および製作難度を高める可能性があるため、0.060%に制限されなければならない。最適な効果は、ニオブ含量が0.030%から0.050%の間に含まれる場合に得られる。
【0069】
・0.0005重量%超の量のとき、ホウ素は、非常に強力に焼入れ性を高める。ホウ素は、オーステナイト粒界の接合部中に拡散して、リンの粒間偏析を予防することにより、肯定的な影響を与える。0.0040%超の場合、この効果は飽和状態である。
【0070】
・0.003%超の窒素含量は、オーステナイト粒の成長を制限するように上記TiN、Nb(CN)または(Ti、Nb)(CN)の沈殿を得ることを可能にする。しかしながら、窒素含量は、粗大な沈殿物が形成されないように0.010%に制限しなければならない。
【0071】
・場合により、板材は、0.05重量%から0.65重量%の間に含まれる量のモリブデンを含んでいてもよく、この元素は、ニオブおよびチタンとの共沈殿物を形成する。これらの沈殿物は、非常に熱安定であり、加熱したときのオーステナイト粒の成長の制限を強化する。最適な効果は、モリブデン含量が0.15%から0.25%の間に含まれる場合に得られる。
【0072】
・一選択肢として、鋼は、0.001%から0.30重量%の間に含まれる量のタングステンを含んでいてもよい。提示した量においては、この元素は、炭化物を形成するため、焼入れ性および硬化能を高める。
【0073】
・場合により、鋼は、0.0005%から0.005%の間に含まれる量のカルシウムを含有してもよい。カルシウムが酸素および硫黄と組み合わさることにより、このようにして製作された板材または部品の延性に悪影響する大型の介在物が形成されないようにできる。
【0074】
・硫黄およびリンの量が過剰だと、脆性が増大する。このことが、重量による硫黄含量が、硫化物の過剰な形成を回避するために0.005%に制限される理由である。しかしながら、極めて低い、即ち、0.0001%未満の硫黄含量は、この硫黄含量にすることでさらなる利益がもたらされない限り、不必要に達成コストのかかるものである。
【0075】
同様の理由のため、リン含量は、0.001重量%から0.025重量%の間に含まれる。過剰な含量においては、この元素がオーステナイト粒の接合部中に偏析し、粒間破断による遅れ割れの危険性が高まる。
【0076】
・ニッケルは、本発明の重要な元素である。実際、本発明者らにより、0.25%から2重量%の間に含まれる量のこの元素は、特定の形態の板材または部品の表面に濃縮された状態で配置されている場合、遅れ破壊のしやすさを非常に大幅に低減することが示された。
【0077】
この遅れ破壊のしやすさの低減に関して、本発明の幾つかの特性パラメータを概略的に示している図1を参照すると、表面富化を書き留めておいた板材の表面付近の鋼のニッケル含量の変動が、提示されている。便宜上の理由のため、板材の表面のうちの1つの表面のみを示したが、下記の記載がこの板材の他の表面にも同様に当てはまると理解される。鋼は、公称ニッケル含量Ninomを有する。後述の製作方法により、鋼板の表面領域は、最大Nimaxまでニッケル富化される。この最大Nimaxは、図1に示したように板材の表面に発見することができ、またはこの表面のわずかに下、この表面の数十または数百ナノメートル下に発見することができるが、この最大Nimaxにより、本発明に関する下記の記載および結果が変化することはない。同様に、ニッケル含量の変動は、図1に概略的に示したように線形でないこともあり得るが、拡散現象の結果として生じる特性プロファイルをとる。上記に関して付け加えると、特性パラメータに関する下記規定は、この種類のプロファイルに対しても有効である。従って、ニッケル富化表面区域は、任意の地点において、鋼の局所的なニッケル含量Nisurfが、Nisurf>Ninomになるようなニッケル含量であることを特徴とする。この富化区域は、深さΔを有する。
【0078】
驚くべきことに、本発明者らにより、遅れ割れに対する抵抗性は、富化表面積に特有で2つのパラメータPおよびPを考慮することによって得られることが示されたが、これらのパラメータは、幾つかの重要な条件を満足しなければならない。第一には、パラメータPは、
【0079】
【数7】
を規定する。
【0080】
この第1のパラメータは、富化層Δ中における合計でのニッケル含量を表しており、図1に提示されている刻み目の入った領域に対応する。
【0081】
第2のパラメータPは、
【0082】
【数8】
によって規定される。
【0083】
この第2のパラメータは、平均ニッケル含量勾配、即ち、層内部での富化の量Δを表す。
【0084】
本発明者らは、非常に高い機械的強度を有するプレス硬化部品の遅れ割れを予防する条件を求めた。この方法により、むき出しであるか金属コーティング(アルミニウムもしくはアルミニウム合金または亜鉛もしくは亜鉛合金)によってプレコートされているかにかかわらずブランク鋼材が提供され、このブランク鋼材を加熱し、次にホットスタンピングプレス内に搬送することになる点については、再度認識しておく。加熱工程中、有意な量で炉内に場合により存在する水蒸気は、ブランク材の表面上に吸着される。水の解離から発生した水素は、高温でオーステナイト系鋼基材中に溶解し得る。従って、水素の導入は、高い露点を有する炉の雰囲気、著しいオーステナイト化温度および長い保持時間によって促進される。冷却中、水素の溶解度が急激に低下する。周囲温度に戻った後、可能な金属プレコート皮膜と鋼基材との合金化によって形成された皮膜が、水素脱着に対して事実上封止されたバリアを形成する。従って、著しい拡散性水素含量は、マルテンサイト系組織を含む鋼基材の場合、遅れ割れの危険性を高める。従って、本発明者らは、ホットスタンピング部品よりも拡散性水素含量を低下させて、非常に低いレベル、即ち、0.16ppm以下にする手段を求めてきた。このレベルは、150時間曲げて応力をかけることで材料の降伏応力である応力に等しい応力下に置かれた部品が、割れを示さないことを保証するのに役立つ。
【0085】
本発明者らにより、この結果は、ホットスタンピング前のホットスタンピング部品の表面または板材もしくはブランク材の表面が、次の特定の特性を有する場合に達成されることが示された。
【0086】
図3は、1800MPaから2140MPaの間を占める強度Rmを有するプレス硬化部品について定めたものであるが、拡散性水素含量が上記パラメータPに依存することを示している。0.16ppm未満の拡散性水素含量を表しミクロンで表される、深さΔについて、
【0087】
【数9】
である場合に得られ、この含量NimaxおよびNinomが、重量百分率で表される。
【0088】
・同じプレス硬化部品に関する図4において、本発明者らにより、0.16ppm未満の拡散性水素含量は、層Δ中のニッケル富化が公称含量Ninomに対して臨界値に到達した場合、即ち、パラメータP
【0089】
【数10】
を満足する場合に達成されたことも示されたが、単位は、パラメータPの場合と同じである。図4には、結果の下位包絡線に対応する曲線2を示している。
【0090】
理論に拘束されることを望むわけではないが、これらの特徴は、特に前もってオーステナイト粒接合部がニッケル富化されていることにより、高温において板材への水素浸透を防ぐバリア効果を発生させ、この結果、水素拡散が制限されると考えられる。
【0091】
鋼の組成の残部は、鉄および生産に起因する不可避的不純物から構成される。
【0092】
ここで、本発明による方法について記載する。上記に提示の組成の中間製品をキャストする。この中間製品は、一般的に200mmから250mmの間を占める厚さのスラブ形状であってもよいし、もしくは一般的な厚さが数十ミリメートル程度の薄いスラブ形状であってもよく、任意の他の適切な形状にすることもできる。この中間製品を、1250℃から1300℃の間に含まれる温度にし、20分から45分の間に含まれる時間にわたってこの温度範囲に保持する。本発明から得た鋼組成の場合、鉄およびマンガンに本質的に富んだ酸化物層が、炉の雰囲気からの酸素との反応よって形成するが、この酸化物層においては、ニッケル溶解度が非常に低く、ニッケルが金属形態のままである。この酸化物層の成長に並行して、ニッケルが酸化物と鋼基材との界面に向かって拡散していき、この結果、鋼内部にニッケルに富んだ層が出現する。この段階においては、この層の厚さは特に、先に規定された鋼の公称ニッケル含量ならびに温度および保持条件に依存する。後続の製作サイクル中、この初期富化層には、
・一連の圧延工程によって達成される圧延率による薄肉化と、
・一連の製作工程中に板材を高温に保持することによる厚肉化とを同時に施される。しかしながら、この厚肉化は、スラブを再加熱する工程中の厚肉化より小さい規模で起きる。
熱間圧延板の製作サイクルは一般的に、
・1250℃から825℃までの温度範囲で熱間圧延(例えば、粗圧延、仕上げ加工)する工程と、
・500℃から750℃までにわたる温度範囲でコイル化する工程と
を含む。
【0093】
本発明者らにより、熱間圧延パラメータおよびコイル化パラメータの変動は、本方法においては上記範囲内でのある程度のバラツキが非常によく許容され、得られた製品に著しい影響を伴うこともないため、本発明によって規定された範囲において、機械的特性を大幅に改変しないことが示された。
【0094】
・この段階においては、一般的に1.5mmから4.5mmまでの厚さであり得る熱間圧延板を、ニッケル富化層が板材の表面付近に配置されるように酸化物層を排除する、それ自体は公知の方法によって酸洗いする。
【0095】
・より薄い板材を得ることが所望される場合、例えば30%から70%の間に含まれる適切な圧延率を伴うように冷間圧延を実施し、次いで加工硬化金属の再結晶を達成するように一般的に740℃から820℃の間に含まれる温度で焼きなましする。この熱処理の後、板材は、無被覆板材を得るように冷却することができるし、またはそれ自体は公知の方法を使用して浴中で連続溶融めっきし、最後に冷却してもよい。
【0096】
本発明者らにより、上記に詳述した製作工程の中では、特定の温度範囲および保持時間でスラブを再加熱する工程が、最終的な板材上のニッケル富化層の特性に支配的な影響を与えた工程だったことが示された。特に、本発明者らにより、被覆工程を含むか否かにかかわらず、冷間圧延板の焼きなましサイクルは、ニッケル富化表層の特性に副次的な影響しか与えないことが示された。言い換えると、比例的な量でニッケル富化層を薄肉化する冷間圧延における圧延比を除外すれば、この層のニッケル富化特性は、熱間圧延板においても、冷間圧延および焼きなましをさらに施された板材においても事実上同一であり、この焼きなましが、溶融めっきプレコート工程を含むか否かにかかわらない。
【0097】
このプレコート皮膜は、アルミニウム、アルミニウム合金(50%超のアルミニウムを含む。)またはアルミニウムベース型合金(アルミニウムが過半を占める構成成分である。)であってよい。有利には、このプレコート皮膜は、7重量%から15重量%までのケイ素、2重量%から4重量%までの鉄および場合により15ppmから30ppmの間のカルシウムを含み、残部がアルミニウムおよび生産に起因する不可避的不純物である、アルミニウム−ケイ素合金である。
【0098】
プレコート皮膜は、40%から45%までのZn、3%から10%までのFe、1%から3%までのSiを含有し、残部がアルミニウムおよび生産に起因する不可避的不純物である、アルミニウム合金であってもよい。
【0099】
一実施形態によれば、プレコート皮膜は、鉄を含有する金属間化合物形態のアルミニウム合金であってよい。この種類のプレコート皮膜は、アルミニウムまたはアルミニウム合金によってプレコートされている板材の熱的前処理によって得られる。プレコート皮膜がFeSiAl12型の相τおよびFeSiAl型の相τの遊離アルミニウムをもはや含有しなくなり、鋼基材中にオーステナイト変態を起こさないように、この熱的前処理は、保持時間tにわたって温度θで実施される。好適には、温度θは、620℃から680℃の間に含まれ、保持時間tは、6時間から15時間の間に含まれる。このようにすれば、鋼板からアルミニウムまたはアルミニウム合金への鉄の拡散が達成される。このとき、この種類のプレコート皮膜は、格段に速くした速度でホットスタンピング工程前のブランク材を加熱できるようにするが、このことは、ブランク材の再加熱中の高温保持時間を最小化できるようになるため、ブランク材を加熱する工程中に吸着される水素の量が低減されることを意味する。
【0100】
代替的には、プレコート皮膜は、亜鉛めっきすることができるし、または亜鉛めっきして合金化されていてもよく、即ち、亜鉛めっき浴の直後にインライン式の方法で実施される合金化熱処理後に7%から12%の間に含まれる鉄の量を有し得る。
【0101】
プレコート皮膜は、一連の工程において堆積されて重なり合っている層から構成されていてもよく、これらの層のうちの少なくとも1つがアルミニウムまたはアルミニウム合金であり得る。
【0102】
製作の後には、幾何形状がスタンピングおよびプレス硬化を施した部品の最終的な幾何形状に関連付けられている幾何形状のブランク材を得るように、それ自体は公知の方法によって板材を切断または穴開けする。上記に説明したように、0.32%から0.36%の間のC、0.40%から0.80%の間のMnおよび0.05%から1.20%の間のCrを特に含む板材の切断は、フェライト−パーライト系ミクロ組織との関連でこの段階における機械的強度が比較的低いため特に容易である。
【0103】
このブランク材は、鋼基材を完全オーステナイト化するように810℃から950℃の間に含まれる温度に加熱し、ホットスタンピングし、次いでマルテンサイト変態を達成するようにプレス工具内に保持する。ホットスタンピング工程中に適用されるひずみ比は、オーステナイト化処理前に冷間変形工程(スタンピング)が実施されたかどうかに応じて増減が可能である。本発明者らは、Ac3変態温度付近にブランク材を加熱すること、および次いでブランク材をこの温度に数分保持することからなるプレス硬化用の加熱における熱サイクルにより、ニッケル富化層に顕著な変化が起きないことを示した。
【0104】
言い換えると、ニッケル富化表層の特徴は、プレス硬化前の板材においても、プレス硬化後に板材から得られた部品においても同様である。
【0105】
本発明から得た組成が慣例的な鋼の成分より低いAc3変態温度を有するため、温度と保持時間を抑制しながらブランク材をオーステナイト化することができるが、このことは、加熱炉内で起きる可能性のある水素吸収を低減するのに役立つ。
【実施例】
【0106】
非限定的な例として、下記の実施形態により、本発明がもたらす利点を説明する。
【0107】
[実施例1]
下記の表1中に見受けられる組成を有する中間鋼製品を供給した。
【0108】
【表1】
【0109】
これらの中間製品を1275℃にし、この温度に45分保持し、次いで950℃の圧延終了温度ERTおよび650℃のコイル化温度を用いて熱間圧延した。次いで熱間圧延板を、先行の製作工程中に生成された酸化物層のみを除去するような抑制剤入りの酸浴中で酸洗いし、次いで1.5mmの厚さに冷間圧延した。得られた板材を、ブランク材の形状に切断した。機械的切断への適性を、この操作の実施に必要な力によって評価した。この特性は特に、この段階における板材の機械的強度および硬度に関連付けられている。次いでブランク材を、表2に提示の温度にし、この温度に150秒保持した後、ホットスタンピングし、プレス内で保持することによって冷却される。冷却速度は、750℃から400℃の間で測定すると、180℃/sから210℃/sの間に含まれる。得られたマルテンサイト構造の部品の機械的引張強度Rmを、12.5×50のISOけん引試験試料を使用して測定した。
【0110】
さらに、幾つかのブランク材は、−5℃の露点を有する雰囲気下で炉内において、850℃から950℃の間に含まれる温度に5分加熱した。次にこれらのブランク材を、上記に提示の条件と同一の条件下でホットスタンピングした。次いで、得られた部品についての拡散性水素の値を、それ自体は公知の熱脱着分析(TDA)方法によって測定した。この方法において、試験対象の試料は、赤外加熱炉内において窒素フロー下で900℃に加熱される。脱着に由来の水素含量は、温度の関数として測定する。拡散性水素は、周囲温度から360℃の間で脱着された合計での水素によって定量化する。表面付近の鋼中のニッケル含量の変動もまた、グロー放電分光法(GDOES、「Glow Discharge Optical Emission Spectrometry」、それ自体は公知の技法)を使用して、ホットスタンピングによって実装した板材について測定した。このようにして、パラメータNimax、Nisurf、NinomおよびΔの値を規定することができる。
【0111】
この試験の結果を、表2に報告している。
【0112】
【表2】
【0113】
板材AからDは、フェライト−パーライト系組織のため、切断に特によく適している。プレス硬化板材および部品AからFは、本発明に対応する組成およびニッケル富化表層に関して特徴を有する。
【0114】
例AからDは、0.32%から0.36%の間に含まれるC含量と、0.40%から0.80%の間に含まれるMn含量と、0.05%から1.20%の間に含まれるクロム含量と、0.30%から1.20%までの公称ニッケル含量とを組み合わせて特に含む組成、およびこの元素を富化された特定の層が、1950MPa超の強度Rmおよび0.16ppm以下の値の拡散性水素含量を結果としてもたらすように働くことを示している。
【0115】
試験Aからの例は、ニッケル含量を0.30%から0.50%の間に低下できることを示しているが、このニッケル含量は、経済的な製作条件下で機械的抵抗性および遅れ割れに対する抵抗性の観点から満足な結果を得るのに役立つ。
【0116】
例EからFは、満足な結果を、0.24%から0.28%の間の炭素含量および1.50%から3%の間を占めるマンガン含量を特に含む組成によって達成できることを示している。パラメータ
【0117】
【数11】
の値が高いことは、特に低い拡散性水素含量に関連付けられている。
【0118】
反対に、例GからKから得た部品は、鋼がニッケル富化表層を有さないため、0.25ppm超の拡散性水素含量を有する。さらに、例JからKは、1800MPaの強度Rmがプレス硬化後に得られないような、パラメータPが1.1%未満の鋼組成物に対応する。
【0119】
鋼組成物AからDおよびH、即ち、炭素含量が0.32%から0.35%の間に含まれる鋼組成物の場合、図5には、GDOES法によって測定された板材の表面と比較して測定された深さに応じた、ニッケル含量が示されている。この図中で各曲線のそばにある見出し文字は、鋼の参照符号に対応する。ニッケルを含有しない板材(参照符号H)とは対照的に、本発明による板材の表層が富化されていることが分かる。例BおよびCからは、所与の公称ニッケル含量(0.79%)において、0.51%から1.05%までのクロム含量の変動が、本発明の条件を満足しながら表層中での富化を維持するのに役立つという点に留意する。
【0120】
[実施例2]
上記条件下で製作された上記鋼EおよびFの組成に対応する組成を有する熱間圧延鋼板、即ち、それぞれ1%および1.49%のニッケル含量を含む熱間圧延鋼板を供給した。
【0121】
圧延後、板材に2種類の調製を施した:
・X:酸化物層のみを除去するような抑制剤を用いた酸洗い
・Y:100μmの研削
板材Fの表面からのグロー放電分光法によって測定されたニッケル含量を示している図6には、調製態様Xにおいてニッケル富化表層が存在するが(標識X付きの曲線)、研削により、酸化物層およびニッケル富化副層が取り除かれていたことを示している(標識Y付きの曲線)。
【0122】
1.5mmの厚さに冷間圧延した後、このようにして調製したブランク材を次に、炉内において10℃/sの速度で850℃に加熱し、この温度に5分保持した後、ホットスタンピングした。続いて、2つの調製態様において、拡散性水素含量をスタンピング部品について測定した。
【0123】
【表3】
【0124】
図7には、鋼組成および調製態様に応じた、拡散性水素含量を示している。例えば、参照符号EXは、調製態様Xによって鋼組成Eから製造された板材およびホットスタンピング部品に関する。
【0125】
これらの結果は、ニッケル富化表層、即ち、十分なニッケル含量勾配を示す表層が、低い拡散性水素含量を達成するために必要なことを示している。
【0126】
[実施例3]
下記の組成を有する厚さ235mmのスラブを調製した。
【0127】
【表4】
【0128】
これらのスラブを1290℃にし、この温度に30分保持した。
【0129】
次にこれらのスラブを、様々な圧延終了温度またはコイル化終了温度によって3.2mmの厚さに熱間圧延した。これらの熱間圧延板の機械的引張特性(降伏応力Re、引張強度Rm、全伸びEt)を、表4に報告している。
【0130】
【表5】
【0131】
ほとんど同一のコイル化温度(試験TおよびU)においては、圧延終了温度が70℃変動しても、機械的特性には非常にわずかな影響しかないことが観察されている。圧延終了温度(試験UおよびV)の付近においては、650℃から580℃までのコイル化温度の低下が、特に5%未満で変動する強度にごくわずかな影響しか与えないことが観察される。従って、本発明の条件下で製作された鋼板は、製作上の修正に影響されにくいため、良好な均一性を有する圧延鋼帯が結果として生じることが示された。
【0132】
図8および9には、それぞれ試験TおよびVから得た熱間圧延板を示している。これらの2つの条件に関しては、フェライト−パーライト系ミクロ組織が非常に類似していることが分かる。
【0133】
熱間圧延板は、ニッケル富化層を所定位置に残しながら、先行の工程中に形成された酸化物層のみを除去するように連続酸洗いした。次に板材を、1.4mmの目標厚さに圧延した。様々な条件において圧延力を同様にしながら、いかなる熱間圧延条件においても所望の厚さを達成することができた。
【0134】
次いで板材を、Ac1変態温度よりわずかに上の760℃の温度で焼きなましし、次いで冷却したら、9重量%のケイ素と3重量%の鉄とを含有し、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物である、浴中での焼戻しによって連続的にアルミン酸化する。従って、表面1つ当たり80g/m程度の皮膜付きの板材が結果として生じるが、この皮膜非常に規則的で欠陥のない厚さを有する。
【0135】
次いで、上記表4の試験Tの条件下で得られたブランク材を切断し、様々な条件下で加熱し、ホットスタンピングした。すべての場合において、得られた急速冷却により、鋼基材にマルテンサイト系組織が与えられた。幾つかの部品には、塗料焼付け熱サイクルをさらに施した。
【0136】
【表6】
【0137】
炉内のブランク材の温度および保持時間を問わず、後続の塗料焼付け処理の有無にもかかわらず、得られた抵抗性は、1800MPaを超えていることが観察される。
【0138】
[実施例4]
上記鋼Aおよび鋼Jの組成に対応する組成を有し、即ち、それぞれ0.39%および0%のニッケル含量を含み、実施例1に提示の条件下で製作された、冷間圧延および焼きなましを施された厚さ1.4mmの鋼板を供給した。次に皮膜を、実施例3に記載の組成の浴中での溶融めっきによって塗布した。これにより、厚さ30μmのアルミニウム合金プレコート皮膜付きの板材が結果として生じたが、この板材からブランク材を切り出した。
【0139】
このブランク材を、炉内において露点が−10℃に制御された雰囲気下で、900℃の最大温度でオーステナイト化したが、炉内でのブランク材の合計保持時間は、5分または15分だった。オーステナイト化後、ブランク材を炉からホットスタンピングプレスに素早く搬送し、工具内に保持することによって焼入れする。表5に報告した試験条件は、工業用の薄板ホットスタンピング法の代表的なものである。
【0140】
【表7】
【0141】
機械的引張特性(抵抗性Rmおよび全伸びEt)および拡散性水素含量をプレス硬化部品について測定し、表6に報告している。
【0142】
【表8】
【0143】
得られた部品A5とA6の強度が1800MPaを超えていることと、拡散性水素含量が0.16ppm未満であることとが観察されるが、部品J5とJ6の場合は強度が1800MPa未満であり、拡散性水素含量が0.16ppm超である。本発明の条件下では、部品の強度および水素含量に関する特性は、炉内の保持時間に応じて変動することがほとんどなく、この結果、非常に安定な製品が保証される。
【0144】
従って、非常に高い機械的強度と遅れ割れに対する抵抗性とを同時に有するプレス硬化部品を、本発明によって製作することができる。この部品は、自動車製造の分野において構造用部品または強化部品として使用すると、収益性が高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9