(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6580129
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】ほぼV字形の横断部材を備える無段変速機用の駆動ベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 5/16 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
F16G5/16 C
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-513352(P2017-513352)
(86)(22)【出願日】2015年5月22日
(65)【公表番号】特表2017-516966(P2017-516966A)
(43)【公表日】2017年6月22日
(86)【国際出願番号】EP2015061478
(87)【国際公開番号】WO2015177372
(87)【国際公開日】20151126
【審査請求日】2018年4月27日
(31)【優先権主張番号】1040811
(32)【優先日】2014年5月22日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アドリアニュス アントニウス ヤコビュス マリア ファン トレイエン
(72)【発明者】
【氏名】コルネリス ヨハネス マリア ファン デル メーア
(72)【発明者】
【氏名】アリエン ブランツマ
【審査官】
高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−109748(JP,A)
【文献】
特開2002−276740(JP,A)
【文献】
特開平10−159912(JP,A)
【文献】
特開2011−075043(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2008−0034008(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速機用の駆動ベルト(50)であって、少なくとも1つの無端キャリヤ(8)と、複数の横断部材(1)とを備え、該横断部材(1)は、ベース部分(10)と、2つのピラー部分(11)とを有し、該ピラー部分(11)はそれぞれ、前記ベース部分(10)のそれぞれの側に設けられておりかつ前記ピラー部分(11)の間に前記横断部材(1)の開口(5)を規定しており、前記横断部材(1)は、該横断部材(1)の前記ピラー部分(11)の間に配置された前記無端キャリヤ(8)の周に沿って一列に配置されており、前記2つのピラー部分(11)のうちの少なくとも第1のピラー部分(11)は、第1のフック部分(13)を有し、該第1のフック部分(13)は、軸方向で少なくとも部分的に前記無端キャリヤ(8)上に延びており、該無端キャリヤ(8)は、前記第1のフック部分(13)と前記ベース部分(10)との間に配置されており、少なくとも2つのタイプ(I,II)の前記横断部材(1−a,1−b)が前記駆動ベルト(50)に含まれており、前記第1のフック部分(13)を有する前記2つのピラー部分(11)のうちの前記第1のピラー部分(11)は、前記無端キャリヤ(8)のそれぞれ反対側に配置されており、前記2つのピラー部分(11)のうちの前記第1のピラー部分(11)によって規定された前記開口(5)の側に対する、前記第1のフック部分(13)の軸方向範囲A13は、
A5−(A8*R8/R5)>A13>A5−A8
という条件を満たし、ここで、
A5は、前記2つのピラー部分(11)の間の前記開口(5)の軸方向寸法を表し、
A8は、前記無端キャリヤ(8)の軸方向寸法を表し、
R8は、前記無端キャリヤ(8)の半径方向寸法を表し、
R5は、前記横断部材(1)の前記第1のフック部分(13)と前記ベース部分(10)との間の前記開口(5)の半径方向寸法を表す、無段変速機用の駆動ベルト(50)において、
前記2つのピラー部分(11)のうちの第2のピラー部分(11)は、第2のフック部分(14)を有し、該第2のフック部分(14)は、前記2つのピラー部分(11)のうちの前記第1のピラー部分(11)と比較して、より小さい範囲だけ前記無端キャリヤ上に延びており、前記2つのピラー部分(11)のうちの前記第2のピラー部分(11)によって規定された前記開口(5)の側に対する、前記第2のフック部分(14)の軸方向範囲A14は、
A14<0.5*(A5−A8)
という条件を満たすことを特徴とする、無段変速機用の駆動ベルト(50)。
【請求項2】
前記2つのピラー部分(11)のうちの前記第1のピラー部分(11)によって規定された前記開口(5)の側に対する、前記第1のフック部分(13)の前記軸方向範囲A13は、さらに、
0.9*A5−(A8*R8/R5)>A13>1.1*(A5−A8)
という条件を満たす、請求項1記載の駆動ベルト。
【請求項3】
前記2つのピラー部分(11)のうちの前記第1のピラー部分(11)によって規定された前記開口(5)の側に対する、前記第1のフック部分(13)の前記軸方向範囲A13は、さらに、
0.75*A5−(A8*R8/R5)>A13>1.25*(A5−A8)
という条件を満たす、請求項1記載の駆動ベルト。
【請求項4】
前記2つのピラー部分(11)のうちの前記第1のピラー部分(11)によって規定された前記開口(5)の側に対する、前記第1のフック部分(13)の前記軸方向範囲A13は、さらに、
A13<(A5−A14)−(A8*R8/R5)、
という条件を満たす、請求項1から3のいずれか1項記載の駆動ベルト。
【請求項5】
前記開口(5)の前記軸方向寸法A5は0.5〜1.0mmだけ前記無端キャリヤ(8)の前記軸方向寸法A8を超えているおよび/または前記開口(5)の前記半径方向寸法R5は0.1〜0.25mmだけ前記無端キャリヤ(8)の前記半径方向寸法R8を超えている、請求項4記載の駆動ベルト。
【請求項6】
前記2つのタイプ(I,II)の前記横断部材(1−a,1−b)は、互いに異なる厚さを有する、請求項5記載の駆動ベルト。
【請求項7】
前記2つのタイプ(I,II)の前記横断部材(1−a,1−b)は、前記駆動ベルトにおいて交互に設けられている、請求項6記載の駆動ベルト。
【請求項8】
前記2つのタイプ(I,II)の前記横断部材(1−a,1−b)は、前記駆動ベルトにおいて不規則なまたはランダムな順序で設けられている、請求項1から6までのいずれか1項記載の駆動ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プーリの少なくとも部分的に円錐形のプーリシーブの間に駆動ベルトを収容するための2つのプーリを備えた無段変速機用の駆動ベルトに関する。公知の駆動ベルトは、無端の、すなわちリング状のキャリヤを有する。このキャリヤは、少なくとも1つの、しかしながら典型的には重ね合わされたフレキシブルなリングのセットと、無端キャリヤの周に沿ってほぼ接触した列を形成している複数の横断部材とから成る。通常、駆動ベルトの前記フレキシブルなリングおよび横断部材は両方とも金属、特に鋼から形成されている。
【0002】
横断部材はそれぞれ、少なくとも事実上台形の外輪郭を備えた、主に幅方向、すなわち駆動ベルトの周方向に対して軸方向に延びるベース部分と、ベース部分のそれぞれの軸方向側から、駆動ベルトの前記軸方向および周方向に対してほぼ垂直な方向、すなわち半径方向にそれぞれ延びる、2つのピラー部分とを有する。各横断部材は、これにより、ピラー部分と、そのベース部分との間に、中央に配置された開口を規定しており、この開口に、無端キャリヤの小さな周方向セクションが収容される。ベース部分およびピラー部分は、公知の横断部材の一体の部分である。事実上V字形の横断部材を備えるこのような駆動ベルトは、例えば、欧州特許出願公開第1219860号明細書、特にその
図6より公知である。
【0003】
横断部材のベース部分において、その前側主面において、いわゆる傾斜ゾーンが設けられている。傾斜ゾーンは、前記周方向でほぼ一定の厚さ、すなわち寸法を有する、横断部材の半径方向外側セクションと、半径方向内方へ少なくとも事実上テーパした、その半径方向内側セクションとの間の、軸方向に延びる移行部である。横断部材のこのような傾斜ゾーンおよびテーパした内側セクションにより、隣接し合う横断部材は、トランスミッションにおける駆動ベルトの湾曲した軌道部分において互いに傾斜することができる一方、これらの隣接し合う横断部材は、少なくとも、傾斜ゾーンに配置された、軸方向に向けられた接触ラインを介して、物理的に接触したままとなる。2つのトランスミッションプーリにおける傾斜エッジのそれぞれの半径方向位置の比が、プーリの間の、(ひいては)トランスミッションの(回転)速度比を決定する。
【0004】
さらに、横断部材のピラー部分には突出部が設けられており、これらの突出部は、前側主面からほぼ前記周方向へ突出している。駆動ベルトにおいて、各突出部は、駆動ベルトにおける隣接する横断部材の反対側の、すなわち後側主面に設けられた凹所に挿入される。このような突出部および凹所は、少なくとも半径方向において、しかしながら典型的には軸方向においても、駆動ベルトの横断部材の列における隣接し合う横断部材の相対移動を防止、または少なくとも制限するように機能する。
【0005】
そのベース部分のそれぞれの軸方向側において、横断部材には、トランスミッションプーリのプーリシーブに摩擦を生じながら係合するための接触面が設けられている。これらのプーリ接触面は、ベルト角と称される角度を成して互いに向けられており、このベルト角は、少なくともほぼ、プーリの円錐形のプーリシーブによって、これらのプーリシーブの間に規定された角度と一致し、この後者の角度はプーリ角と称される。さらに、これらのプーリ接触面は、波形になっているか、または実質的な表面粗さが提供されており、これにより、波形輪郭または表面粗さの先端部のみがプーリシーブと接触する。この特定の特徴により、公知のトランスミッションにおいて提供される冷却オイルは、前記波形輪郭または表面粗さの谷間に受け入れられ、これにより、駆動ベルトとトランスミッションプーリとの間の摩擦を改善する。
【0006】
トランスミッションにおける作動中、トランスミッションの駆動プーリのプーリシーブの間に配置された駆動ベルトの横断部材は、これらの横断部材のプーリ接触面においてこれらのプーリシーブによって加えられる摩擦力によって、その回転方向へ駆動される。これらの後者の駆動される横断部材は、駆動ベルトの無端キャリヤの周に沿って、先行する横断部材を押し付け、最終的に、トランスミッションの被駆動プーリを、やはり摩擦によって回転駆動する。横断部材とトランスミッションプーリのプーリシーブとの間でこのような摩擦(力)を発生させるために、プーリのプーリシーブは軸方向で互いに向かって押し付けられ、プーリシーブは、横断部材にその軸方向で互いに反対向きの締付力を加える。
【0007】
欧州特許出願公開第1219860号明細書によれば、特にトランスミッションプーリの間に配置された駆動ベルトの直線的なセクションにおいて、横断部材が無端キャリヤから分離することができることが防止されなければならない。この特定の目的のために、従来技術において複数のソリューションが提案されてきた。例えば、欧州特許出願公開第0014013号明細書および特開2002−195352号公報は、無端キャリヤのそれぞれの軸方向側を超えて軸方向に延びたフック部分を備える横断部材のピラー部分を設計することを開示しているのに対し、欧州特許出願公開第0026534号明細書、特開平02−138533号公報および米国特許第4604082号明細書などの多くのその他の文献は、ピラー部分とベース部分との間の開口を、無端キャリヤがこの開口に挿入された後に閉鎖する手段を提供することを開示している。これに対して、欧州特許出願公開第1219860号明細書によれば、ソリューションは、横断部材のベース部分に対するピラー部分の高さ、すなわち半径方向範囲に見られ、この高さは、無端キャリヤの(半径方向の)厚さではなく、駆動ベルトの周方向における横断部材の間の間隙または遊びに関連させられている。最後に、特開昭58−109748号公報は、1つのフック部分のみを備える横断部材の設計を開示している、すなわち、2つのピラー部分のうちの一方のみに、無端キャリヤのそれぞれの軸方向側を超えて軸方向に延びるフック部分が設けられている。しかしながら、この場合、2つのタイプのこのような横断部材が駆動ベルトに含まれており、それぞれのこのようなタイプは、横断部材の2つのピラー部分のうちの異なる一方に関連したフック部分を有し、これにより、駆動ベルトにおいて、無端キャリヤの軸方向両側は、駆動ベルトの横断部材の列に対して半径方向で制限されている。
【0008】
特開昭58−109748号公報の公知のソリューションは、横断部材が無端キャリヤに対して回転させられた向きにある状態で、まず横断部材のベース部分とフック部分との間に無端キャリヤを挿入し、次いで、それぞれの横断部材を無端キャリヤに対して回転させ、これらを適切な相対的整列状態にもたらすことによって横断部材を無端キャリヤに連続して取り付けることによって、駆動ベルトの比較的簡便な組立てを提供する。しかしながら、特開昭58−109748は、特にフック部分の寸法についておよび/または駆動ベルトの横断部材および無端キャリヤ構成部材の他の寸法に関してこれらの寸法をどのように決定するかについては、述べていない。
【0009】
本開示の課題は、横断部材のピラー部分のうちの一方または両方にフック部分を提供しながら、駆動ベルトを比較的容易に組み立てることができる駆動ベルトの新規の設計を提供することである。
【0010】
本開示による駆動ベルトは、本開示に添付された請求項のセットに定義されている。さらに、本開示の内容は、図面を参照した以下の記載に基づいて例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】2つのプーリおよび駆動ベルトを備えたトランスミッションの単純化された概略的な側面図である。
【
図2】ほぼV字形の横断部材を備える公知の駆動ベルトを、駆動ベルトの周方向に面した駆動ベルトの断面図で示しており、さらに、駆動ベルトの横断部材のみの別の側面図も示されている。
【
図3】公知の駆動ベルトのほぼV字形の横断部材の別の公知の実施の形態を、横断部材の正面図および側面図で示している。
【
図4】本開示による2つのタイプの横断部材を示している。
【
図5】駆動ベルトに組み込まれたときの、
図4に示された2つのタイプの横断部材を示している。
【
図6】駆動ベルトの複数の寸法が示された、
図5の概略バージョンを示している。
【0012】
図1は、例えば乗用車の動力伝達経路において使用するための無段変速機の中心部分を概略的に示している。このトランスミッションは、それ自体公知であり、少なくとも第1の可変プーリ101と第2の可変プーリ102とを含む。動力伝達経路において、第1のプーリ101は、エンジンに接続されていて、エンジンによって駆動され、第2のプーリ102は、通常は、複数の歯車を介して自動車の被動輪に接続されている。
【0013】
両トランスミッションプーリ101,102は、それぞれのプーリ101,102のプーリ軸103,104に固定された第1の円錐形のプーリシーブと、それぞれのプーリ軸103,104に対して軸方向に可動でありかつ回転方向でのみプーリ軸103,104に固定されている第2の円錐形のプーリシーブとを含む。トランスミッションの駆動ベルト50は、プーリのプーリシーブの間に受け入れられながら、プーリ101,102の周囲に巻き掛けられている。
図1から明らかなように、トランスミッションにおける駆動ベルト50の軌道は、2つの直線的な部分S
Tと、2つの湾曲した部分C
Tとを有し、この湾曲した部分C
Tにおいて、駆動ベルト50は、2つのトランスミッションプーリ101,102のそれぞれ1つの周囲において湾曲させられている。
【0014】
トランスミッションの作動中、駆動ベルト50は、両プーリ101,102のプーリシーブによって、これらのプーリシーブの間に挟まれ、これにより、摩擦によって両プーリ101,102の間に回転接続を提供する。このために、各プーリ101,102のそれぞれの可動なプーリシーブに作用する、電子制御可能でかつ液圧式に機能する移動手段が、トランスミッションに設けられている(図示せず)。駆動ベルト50に締付力を加えることに加えて、これらの移動手段は、プーリ101,102における駆動ベルトのそれぞれの半径方向位置R
1およびR
2、ひいてはプーリのプーリ軸103,104の間でトランスミッションによって提供される速度比をも制御する。
【0015】
公知の駆動ベルト50は、無端キャリヤ8と、少なくともほぼ接触した列において無端キャリヤ8の周に沿って無端キャリヤ8に取り付けられた複数の横断部材1とから成る。駆動ベルト50において、横断部材1は無端キャリヤ8の周に沿って可動であり、この無端キャリヤ8は、通常は、複数のフレキシブルな金属リングまたはバンドから成り、これらの金属バンドは、一方が他方を取り囲むように積層されている、すなわち互いに重ね合わされている。
【0016】
図2には、駆動ベルト50が、多くの公知の実施の形態のうちの1つで示されている。
図2の左側には、駆動ベルト50が断面図で示されており、
図2の右側には、駆動ベルト50の側面図が示されている。
図2から、駆動ベルト50の横断部材1が、ほぼ“V”の文字に似た形状である、すなわちほぼV字形であり、横断部材10の側部の間の角度が、トランスミッションプーリ101,102の円錐形のプーリシーブの間に存在する角度にちょうど一致するように設計されている。
【0017】
横断部材1は、ベース部分10と2つのピラー部分11とを含み、そのうちベース部分10は駆動ベルト50の軸方向に延びており、ピラー部分11は駆動ベルト50の半径方向に、それぞれベース部分10のそれぞれの軸方向側から延びている。その厚さ方向において、横断部材1は、横断部材の前側主面3と後側主面4との間に延びており、これらは両方とも、少なくともほぼ駆動ベルト50の周方向に向けられている。横断部材のピラー部分11とベース部分10との間には開口5が形成されており、無端キャリヤ8の小さな周方向部分が収容されている。
【0018】
横断部材1のベース部分10において、横断部材の前側主面3にはいわゆる傾斜ゾーン4が設けられている。この傾斜ゾーン4は、ほぼ一定の厚さを有する、横断部材の半径方向外側部分と、半径方向内方へテーパした、横断部材の半径方向内側部分との間の、軸方向に延びた移行部を表している。通常、傾斜ゾーン4は滑らかに凸面状に湾曲している。隣接し合う横断部材1が駆動ベルト50の湾曲部分C
Tにおいて互いに対して傾斜させられると、これらの横断部材は、傾斜ゾーン4の位置において接触したままである(ことができる)。
【0019】
横断部材1の各ピラー部分11には、前側主面3からほぼ前記周方向へ突出した突出部6が設けられている。駆動ベルト50において、突出部6は、隣接し合う横断部材1の相対移動を制限するために、隣接する横断部材1の反対側の、すなわち後側主面3に設けられた凹所7に挿入される。
【0020】
横断部材1の軸方向側において、横断部材1には、トランスミッションプーリ101,102(のプーリシーブ)に接触する接触面12が設けられている。
【0021】
特に公知の駆動ベルト50の直線的な部分S
Tにおいて、公知の駆動ベルト50の横断部材1が公知の駆動ベルト50の無端キャリヤ8から分離することができることを防止するために、ピラー部分11には、横断部材1のベース部分10に対する規定された最小の高さまたは半径方向範囲が提供されている。
【0022】
上記目的のために、その代わりに、開口5の一部に軸方向に突き出たフック部分9を横断部材1のピラー部分11に提供することも公知である。横断部材1のこの特定の公知の設計は
図3に示されている。これらのフック部分9は、無端キャリヤ8の軸方向側に係合し、横断部材1が無端キャリヤ8に対して半径方向内方へ分離することを防止する。
【0023】
特に横断部材1のこの後者の公知の設計は技術分野において頻繁に言及されているが、これは、破線で示した外輪郭8および矢印によって
図3に示されているように、無端キャリヤ8が組立て中にかなりの程度に変形させられることを要求する。すなわち、開口5上へのフック部分9の突き出しの大きさに依存して、駆動ベルト50の組付けがますます妨害されるおよび/または複雑化される。しかしながら、軸方向でのフック部分9の範囲、すなわちフック部分9の突き出し量が小さすぎると、横断部材1が作動中に無端キャリヤ8から分離してしまう恐れがある。
【0024】
駆動ベルト50の組立てを容易にするために、技術分野において、駆動ベルト50において2つのタイプI,IIの横断部材1を有することが提案されており、それぞれのタイプI,IIの横断部材1には、フック部分13を規定する1つのピラー部分11のみが設けられており、フック部分13を備える1つのピラー部分11は、前記2つのタイプI,IIの横断部材1の軸方向反対側に配置されている。
【0025】
図4は、2つのタイプI,IIの横断部材1の可能な実施の形態を提供している。正面図および断面
図A−Aの両方で
図4に示された第1のタイプIの横断部材1には、反対側の、すなわち右側ピラー部分11−rのフック部分14よりもかなり長いフック部分13を備えた左側ピラー部分11−lが設けられている。すなわち、第1のタイプIの横断部材1の左側ピラー部分11−lのフック部分13は、これにより、右側ピラー部分11−rのフック部分14よりもさらに軸方向へ延びている。本開示によれば、これに対して、正面図のみにおいて
図4に示された第2のタイプIIの横断部材1には、右側ピラー部分11−rのフック部分13よりもかなり小さなフック部分14を備える左側ピラー部分11−lが設けられている。
【0026】
図5には、両タイプI,IIの横断部材1を含む駆動ベルト50が、
図2における公知の駆動ベルト2の断面図と同様の断面図で示されている。1つの横断部材1−aの完全な外輪郭が
図5に示されており、この特定の横断部材1−aは、駆動ベルト50における後続の横断部材1−bの前方に位置しており、後続の横断部材1−bのより大きなフック部分13−bのみが見えている。すなわち、
図5において前方に位置しかつ右側ピラー部分11−rに関連したより大きなフック部分13−aを有する横断部材1−aは、
図4のタイプIIの横断部材1に対応するのに対し、左側ピラー部分11−lに関連したより大きなフック部分13−aを有する、他方の、すなわち
図5における後続の横断部材1−bは、
図4のタイプIの横断部材1に対応する。この
図5から、駆動ベルト50に組み込まれた、互いに異なるタイプI,IIの2つの相前後した横断部材1のより大きなフック部分13−a,13−bの間の幅方向または軸方向の距離は、個々の横断部材1のフック部分13,14の軸方向距離よりもかなり小さいということが明らかである。その結果、個々の横断部材1は、比較的容易に無端キャリヤ8に取り付けることができる。しかしながら、駆動ベルトが完全に組み立てられると、作動横断部材1の両タイプI,IIのより大きなフック部分13によって、横断部材1が無端キャリヤ8から半径方向内方へ分離することができることが有効に防止され、駆動ベルト50における隣接する横断部材1の複数の対の突出部6と凹所7とが、協働する。
【0027】
無端キャリヤ8と、前記2つのタイプI,IIの横断部材1との間の接触を最適に分散させるために、これらの横断部材1は、駆動ベルト50において互いに交互のパターンで組み込まれている。
【0028】
図6には、
図5に示された駆動ベルト50が再び、ただし概略的に、かつ実寸ではなく示されている。特に、無端キャリヤ8および横断部材1の中央開口5の実際の面取りされた形状は、矩形に近似しており、軸方向および半径方向における横断部材に対する開口5における無端キャリヤ8の遊びは、誇張されている。さらに、
図6において、点線で示した外輪郭は、駆動ベルト50の組立て中における横断部材1−aと無端キャリヤ8との相対移動を示している。
【0029】
図6の寸法により、横断部材1の取付けは問題ない。しかしながら、実際には、開口5に対する無端キャリヤ8の半径方向遊びおよび軸方向遊びは、好適には、図示されたよりも大幅に小さく選択されており、これにより、フック部分13またはフック部分13,14の軸方向範囲はより一層重要になる。事実、本開示によれば、最適性はこれに関して存在する。
【0030】
本開示によれば、
−開口5の半径方向範囲(高さ)R5;
−開口5の軸方向範囲(幅)A5;
−無端キャリヤ8の半径方向範囲R8;
−無端キャリヤ8の軸方向範囲A8;
−最大フック部分または唯一のフック部分13の軸方向範囲A13;
の寸法は、少なくとも以下の関係:
A13>A5−A8 (1)
A13<A5−(A8*R8/R5) (2)
を満たすべきである。
【0031】
これらの2つの等式(1)および(2)により、フック部分13の最適な軸方向範囲が、無端キャリヤ8とこのようなフック部分13との間の半径方向遊びに依存して見つけられる。
【0032】
実際には、好適には少なくとも10%、より好適には少なくとも25%の、最大フック部分または唯一のフック部分13の軸方向範囲A13に対する安全域を適用することが好ましい場合がある。
【0033】
第2の、より小さなフック部分14も適用されるならば、その軸方向範囲A14は、無端キャリヤ8と、横断部材1の開口5との間の軸方向遊びの半分よりも小さいべきである:
A14<0.5*(A5−A8) (3)
【0034】
この後者の場合、等式(1)および(2)の精度は、原則的に、以下のように高めることができる:
A13>(A5−A14)−A8 (4)
A13<(A5−A14)−(A8*R8/R5) (5)
【0035】
横断部材1に対する、開口5に配置された無端キャリヤ8の半径方向遊びおよび軸方向遊びは、通常、駆動ベルト50の用途によって決定され、実際には、軸方向遊びに対しては0.5〜1.0mmの範囲、半径方向遊びに対しては0.1〜0.25mmの範囲の値を有する。
【0036】
左側および右側のピラー部分11−l,11−r、特にそのそれぞれのフック部分13,14の設計の他に、
図4に示したように、この実施の形態による2つのタイプI,IIの横断部材1は、同じ形状を有している。しかしながら、これは、必ず要求されるものではない。対照的に、前記2つのタイプI,IIにおいて横断部材1の異なる別の設計的特徴を有することが有利である場合がある。例えば、厚さは、横断部材1の前記2つのタイプI,IIの間で異ならせることができ、すなわち、横断部材1の前記2つのタイプI,IIのために異なるように設定することができる。この場合、特に、トランスミッションにおける作動中に駆動ベルトによって発生されるノイズを減衰させるために、前記2つのタイプI,IIの横断部材1を駆動ベルト50において不規則なまたはランダムな順序で設けることが有利である。
【0037】
本開示は、前記説明の全ておよび添付図面の全ての詳細に加えて、添付の特許請求の範囲の全ての特徴にも関しかつこれらの特徴を含む。請求項における括弧書きの符号は、請求項の範囲を限定するのではなく、単に、それぞれの特徴の拘束しない例として提供されている。請求項に記載された特徴は、場合によっては、任意の製品または任意の方法において別々に適用することができるが、これらの特徴の2つ以上のあらゆる組合せを任意の製品または任意の方法において適用することも可能である。
【0038】
本開示によって表された発明は、明細書に明示的に言及された実施の形態および/または実施例に限定されるのではなく、その補正、変更および実用的な適用、特に当業者の到達範囲にあるものをも包含する。