(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施の形態について、
図1乃至
図5を参照しつつ説明する。なお以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。最初に本実施の形態における車両用制御装置の基本構成について
図1を参照しつつ説明する。
【0010】
車両用制御装置101は、エンジン制御ユニット(ECU)51を有し、エンジン(図示せず)の動作制御処理や後述する本実施の形態における燃料噴射弁駆動特性校正処理等を実行するように構成される。
【0011】
エンジン制御ユニット51は、マイクロコンピュータ(CPU)1と、DCDC制御部(DCDC−CON)2と、DCDCブースト電圧生成部(DCDC)3とを有して構成される。
【0012】
マイクロコンピュータ1は、エンジン回転数、アクセル開度、外気温度、大気圧などの各種の図示されないセンサによる検出信号が入力され、従来同様、エンジンの様々な動作制御処理や後述する本実施の形態における燃料噴射弁駆動特性校正処理等が実行可能に構成される。
【0013】
DCDCブースト電圧生成部3は、燃料噴射弁4による燃料噴射のための通電開始の際に必要なブースト電圧を発生、出力可能に構成される。DCDCブースト電圧生成部3は、いわゆるDC−DCコンバータ回路を用いたもので、その基本的な回路構成は従来と同様である。DCDCブースト電圧生成部3は、DCDC制御部2を介したマイクロコンピュータ1からの制御に応じて、出力されるブースト電圧の電圧値が可変可能に構成されると共に、ブースト電圧の出力の要否が制御可能に構成される。
【0014】
DCDC制御部2は、マイクロコンピュータ1から入力される制御信号に応じてDCDCブースト電圧生成部3へ対する上述のような動作制御を行うよう構成されたものとなっている。
【0015】
次に、
図2及び
図3を参照しつつ、本実施の形態における燃料噴射弁駆動特性校正方法について説明する。最初に本実施の形態における燃料噴射弁駆動特性校正方法について概括的に説明する。
【0016】
一般的に同一の仕様の基で製造された同一の回路構成を有する車両用制御装置は、本来、同一の動作特性を有する燃料噴射弁を同一の駆動条件で駆動した場合、燃料噴射弁に流れる電流(以下、「噴射弁電流」と称する)の立ち上がり時間は許容できる程度の範囲でほぼ同一となる。
【0017】
ところが、それぞれの車両用制御装置を構成する電子部品のばらつきの程度がある程度大きくなると、噴射弁電流の立ち上がり時間は許容できる範囲を逸脱する場合がある。
【0018】
例えば
図5に示されたように、同一の仕様で製造され同一の回路構成を有する2つの車両用制御装置A,B(
図5においては、それぞれ「ECU_A」、「ECU_B」と表記)のそれぞれにおいて、同一の動作特性を有する燃料噴射弁の駆動開始時に燃料噴射弁へ印加するそれぞれのブースト電圧V
BS-A,V
BS-Bを同一としても(
図5(B)参照)、それぞれの装置に用いられている電子部品の電気的特性のばらつきがあるため、噴射弁電流が目標ブースト電流(目標電流)I
BS-Tに達するまでの噴射弁電流の立ち上がり時間は、車両用制御装置Aがt
Aであるのに対して(
図5(A)実線の特性線参照)、車両用制御装置Bにおいては、車両用制御装置Aの立ち上がり時間より大きいt
B(
図5(A)二点鎖線の特性線参照)となる場合がある。
【0019】
このような立ち上がり時間の差は、特に、微小噴射であるいわゆるパイロット噴射などにおいて、噴射量の著しい差を招き所望のエンジン制御が実現困難となる等の問題を招く。
【0020】
本実施の形態における燃料噴射弁駆動特性校正方法は、同一の仕様の基で製造されて同一の回路構成を有する車両用制御装置を用いて同一の動作特性を有する燃料噴射弁を同一の駆動条件で駆動した場合の、それぞれの噴射弁電流の立ち上がり時間を同一に校正するものである。
【0021】
すなわち、車両用制御装置101の製造時、又は、使用開始時において、噴射弁電流の立ち上がり時間を計測し、その値が予め設定された基準の時間を上回る場合に噴射弁電流の立ち上がり時間が基準の時間となるようにDCDCブースト電圧生成部3から出力されるブースト電圧を補正し、同一構成の車両制御装置間での噴射弁電流の立ち上がり時間が同一となるよう校正し、以後の燃料噴射弁4の駆動制御に供するようにする。
【0022】
図2には、噴射弁電流の立ち上がり時間の計測処理の手順が、
図3には、ブースト電圧の補正処理の手順が、それぞれ示されており、以下、これらの図を参照しつつ具体的に説明する。最初に、噴射弁電流の立ち上がり時間の計測処理について説明する。この噴射弁電流の立ち上がり時間の計測処理は、車両用制御装置において実行できるようにして、又、製造の際に車両用制御装置の動作試験を行う試験装置等の外部装置によって車両用制御装置を動作制御することで実行できるようにしていずれでも良いものである。
【0023】
以下の説明においては、
図2に示された噴射弁電流の立ち上がり時間の計測処理、及び、
図3に示されたブースト電圧の補正処理が車両用制御装置101において実行されるようにいわゆるソフトウェアとして搭載されている。
【0024】
ここで、前提となる本実施の形態における車両用制御装置101によって実行される燃料噴射弁4の駆動方法について説明する。燃料噴射弁4の駆動開始時においては、通常、燃料噴射弁4が有する電磁コイル(図示省略)のインダクタンスのために噴射弁電流が素早く所望のレベルまで立ち上がるまで比較的時間を要する。
【0025】
そのため駆動開始時には、ブースト電圧と称される比較的高い電圧を印加し、噴射弁電流を短時間で所望のレベルまで上昇させ、噴射弁電流も最初の目標値よりも低いレベルに維持すれば良いため、燃料噴射弁4に印加する電圧もブースト電圧よりも低い電圧に切り替える駆動方法が採られるのが一般的である。本実施の形態における燃料噴射弁4の駆動もそのような従来の駆動方法に基づくものであることを前提としている。
【0026】
しかして、マイクロコンピュータ1による処理が開始されると、最初に燃料噴射弁4に対して、所定の燃料噴射時における所定のブースト電圧の印加が行われる(
図2のステップS102参照)。
【0027】
ここで所定の燃料噴射とは、例えばパイロット噴射であり、所定のブースト電圧(以下、説明の便宜上「基準ブースト電圧」と称する)は、車両用制御装置101に接続される燃料噴射弁4の動作特性等に基づいて、所望のパイロット燃料噴射量(所定の燃料噴射)が得られるよう予め設定された値である。なお以下の説明において、適宜、上述の基準ブースト電圧を「V
BS-A」と表記することとする。
【0028】
基準ブースト電圧V
BS-Aの印加と同時に噴射弁電流が目標ブースト電流I
BS-Tに達するまでの時間(立ち上がり時間)の計測が開始される(
図2のステップS104、及び、ステップS106参照)。
【0029】
そして噴射弁電流が目標ブースト電流I
BS-Tに達すると立ち上がり時間の計測が終了され、立ち上がり時間が決定されることなる(
図2のステップS108、及び、ステップS110参照)。ここで上述のように計測された立ち上がり時間を、以後の説明において、適宜、「t
B」と表記する。
【0030】
上述のようにして取得された立ち上がり時間t
Bは、車両用制御装置101の適宜な記憶領域、例えばマイクロコンピュータ1において適宜確保された記憶領域に記憶されることとなる。
【0031】
なお噴射弁電流は、従来同様、DCDCブースト電圧生成部3を介してDCDC制御部2にフィードバックされるようになっており、DCDC制御部2は、噴射弁電流が目標ブースト電流I
BS-Tに達した時点でDCDCブースト電圧生成部3に対してブースト電圧の出力停止を指示するようになっている。
【0032】
マイクロコンピュータ1においては、DCDC制御部2を介してのDCDCブースト電圧生成部3からのブースト電圧の出力のタイミングと、DCDC制御部2によるDCDCブースト電圧生成部3のブースト電圧出力停止のタイミングとが認識可能となっているため、この間の経過時間を計時することで立ち上がり時間が取得されるものとなっている。
【0033】
次に、上述のようにして取得された立ち上がり時間を基にして行われるブースト電圧補正処理について、
図3を参照しつつ説明する。
【0034】
マイクロコンピュータ1による処理が開始されると、噴射弁電流の立ち上がり時間t
Bが記憶、保持されているマイクロコンピュータ1の記憶領域からの読み出しが行われる(
図3のステップS202参照)。
【0035】
次いで、予め設定されている本来の立ち上がり時間t
Aと、記憶領域から読み出された実際に計測された立ち上がり時間t
Bとの時間差が算出され(
図3のステップS204参照)、その時間差に応じてDCDCブースト電圧生成部3から出力すべきブースト電圧の目標値である目標ブースト電圧の補正が行われる(
図3のステップS206参照)。
なお、立ち上がり時間t
Aは、先の基準ブースト電圧V
BS-Aが設定された車両用制御装置によって燃料噴射弁4を駆動した際に得られるものであり、以後の説明においては、適宜、「基準立ち上がり時間」と称する。
【0036】
目標ブースト電圧の補正は、噴射弁電流の立ち上がり時間を短縮、延長するためのものであるから、基本的には、基準立ち上がり時間との時間差に応じて目標ブースト電圧の増大、減少となるような補正が施される。なお具体的に如何なる補正を行うかは、DCDCブースト電圧生成部3の入出力特性等を考慮して、試験結果やシミュレーション結果に基づいて定めるのが好適である。
【0037】
上述のようにして目標ブースト電圧補正が行われ、新たな目標ブースト電圧V
BS-Cが決定される(
図3のステップS208参照)。この新たな目標ブースト電圧V
BS-Cは、マイクロコンピュータ1の適宜な記憶領域に記憶、保持され、以後、この目標ブースト電圧に対応する燃料噴射の際に、DCDCブースト電圧生成部3が出力すべきブースト電圧の目標値とされ、出力される。
【0038】
上述のようにして決定された新たな目標ブースト電圧V
BS-Cは、立ち上がり時間t
Bによって基準ブースト電圧V
BS-Aを上回る、もしくは下回るかが決められる。かかる目標ブースト電圧V
BS-Cを用いて燃料噴射弁4の駆動を行うことにより、駆動開始時における噴射弁電流の立ち上がり時間t
Cは、基準立ち上がり時間t
Aと同一となる(
図4(A)及び
図4(B)参照)。
【0039】
その結果、同一構成を有する車両用制御装置のいずれを用いても同一の噴射特性を有する燃料噴射弁を用いた燃料噴射においては、同一の燃料噴射量が確保され、信頼性、安定性の高い燃料噴射制御が実現されることとなる。なお、
図5において、”ECU_A”の表記は、基準ブースト電圧がV
BS-Aに設定された車両用制御装置を、”ECU_B”の表記は、ブースト電圧補正が行われ、目標ブースト電圧V
BS-Cとされた車両用制御装置をそれぞれ示すものとする。
【0040】
上述した本実施の形態においては、車両用制御装置101において燃料噴射弁駆動特性校正処理が実行されるようにしたが、先に述べたように車両用制御装置101の製造行程において、車両用制御装置101の動作試験を行う試験装置に実行させ、補正された目標ブースト電圧(
図3のS208参照)を取得し、その取得データを車両用制御装置101の出荷時に記憶させるようにしても良い。
【0041】
また燃料噴射弁4に代えて、燃料噴射弁4と電気的等価回路を用いて上述した燃料噴射弁駆動特性校正処理を実行するようにしても良い。