(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の色彩のインクを吐出することが可能なインクヘッドをメディアの搬送方向と直交する方向で走査しながら、マルチパス方式によって前記メディア上に所望の印刷を行うインクジェットプリンタであって、
印刷画像データより作成された画像データに基づいて、1つの画素に吐出される複数の色彩の各インクを、ラスター列における各画素間で、1ラスター列を形成する走査回数に応じて振り分けて、複数のパスデータを作成するパスデータ作成手段と、
前記パスデータ作成手段で作成された前記パスデータに基づいて、前記メディアの搬送、前記インクヘッドの移動、前記インクヘッドからのインクの吐出を制御する制御手段と
を有し、
前記制御手段は、前記1つの画素に対して、前記複数の色彩のインクのうちの少なくとも1つの色彩のインクを、他の色彩のインクと異なるタイミングで吐出するインクジェットプリンタにおいて、
吐出周期、周期のズレ量を算出する算出手段と、
前記パスデータにおける任意のラスター列において各インク毎にデータを分解し、分解したデータにおけるインクの吐出間隔を前記算出手段で算出した吐出周期とするとともに、基準となるタイミングで吐出される第1のインクに対して、異なるタイミングで吐出される第2のインクを前記算出手段で算出した周期のズレ量だけ遅らせたタイミングで吐出するタイミングデータを作成するタイミングデータ作成手段と
を有し、
前記算出手段は、前記タイミングデータ作成手段で各インク毎に分解したデータにおける前記第1のインクと前記第2のインクとの吐出のタイミングの位相のズレおよび吐出周期に基づいて、周期のズレ量を算出する
ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【背景技術】
【0003】
従来より、マイクロコンピューターによって全体の動作を制御され、メディアの搬送方向と直交する方向に移動するインクヘッドからインクを吐出する処理を繰り返し行い、当該メディア上に所望の印刷を行うインクジェットプリンタが知られている。
【0004】
こうしたインクジェットプリンタでは、インクヘッドのメディアの搬送方向と直交する方向での移動、つまり、インクヘッドの当該方向での走査により、当該方向に沿って帯状に印刷された印刷バンドが形成され、こうした印刷バンドを複数形成することにより、1つの画像を形成する。
【0005】
さらに、マルチパス方式により印刷画像を形成するインクジェットプリンタがある。マルチパス方式では、複数のパスデータによる印刷を繰り返すことにより印刷バンドと印刷バンドとの境界の継ぎ目を目立たなくするために、下記のような印刷方法が用いられている。
【0006】
例えば、メディアの搬送方向(以下、単に「搬送方向」と称する。)に360dpiの間隔で8つのノズルが形成されたインクヘッド(
図1(a)を参照する。)を用い、画素間の間隔が360dpiで、搬送方向に8画素、搬送方向と直交する所定の方向に10画素の合計80画素で形成される画像データ(
図1(b)を参照する。)に基づいて印刷する場合について説明する。
【0007】
なお、
図1(a)に示すインクヘッドについては、簡略化して表されており、例えば、画像を形成するためのインクとしてシアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKのインクを吐出するようなインクヘッドでは、各色毎に、搬送方向に360dpiの間隔で8つのノズルが並設されたノズル列が形成され、こうしたノズル列が搬送方向と直交する所定の方向に沿って並設される。つまり、この場合、インクヘッドには、4つのノズル列が搬送方向と直交する所定の方向に沿って配設される。なお、以下の説明では、この所定の方向(つまり、ノズル列が並設される方向であり、インクヘッドが走査する方向である。)を、「走査方向」と適宜称する。
【0008】
また、マルチパス方式による印刷において、1回の操作により形成される画像のデータをパスデータと適宜称する。さらに、画像データのうち、横方向一列の画素の並びをラスター列と適宜称する。
【0009】
そして、
図1(b)に示す画像データから、1画素おきに1つの画素に4色のインクが吐出されるパスデータA(
図2(a)を参照する。)と、パスデータAで4色のインクが吐出されていない画素に4色のインクが吐出されるパスデータB(
図2(b)を参照する。)とが作成され、作成されたパスデータAとパスデータBとに基づいて、インクヘッドからインクが吐出される。
【0010】
従って、
図1(b)に示す画像データは、1画素分の走査方向における並びを表すラスター列が、インクヘッドが走査方向に2回走査することで印刷される。
【0011】
ここで、インクヘッドを走査方向にN回走査することで、搬送方向における1つのノズルの総ピッチ分の印刷を行う(以下、説明の便宜上「全印刷」と適宜称する。)ことが可能な場合には、搬送方向に並んで配設されたインクヘッドのノズルの個数をW個とすると、メディアの搬送量は、W/Nノズル分となる。
【0012】
即ち、
図1(d)に示す画像を印刷するには、メディアの搬送量は、「8/2」、つまり、「4」ノズル分となる。
【0013】
従って、
図1(b)に示される画像データに基づく全印刷では、まず、インクヘッドの第1回目の走査により、メディアの搬送方向の下流側から4画素分を、パスデータAに基づいて印刷する(
図3(a)を参照する。)。
【0014】
その後、インクヘッドの第2回目の走査により、メディアの搬送方向の下流側から8画素分を、パスデータBに基づいて印刷する(
図3(b)を参照する。)。
【0015】
そして、インクヘッドの第3回目の走査により、メディアの搬送方向の上流側から4画素分を、パスデータAに基づいて印刷する(
図4を参照する。)。
【0016】
このように、
図1(b)に示す画像データに基づく印刷では、インクヘッドを走査方向に3回走査することで全印刷が完了するが、各ラスター列はすべて、インクヘッドの走査方向における2回の走査により印刷されている。
【0017】
ところで、上記したインクジェットプリンタでは、例えば、インクヘッドからシアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKのインクが1つの画素上に吐出されるような場合には、巨視的には、インクヘッドの1回の走査で1画素おきにインクが吐出されているため、吐出されたインクが散って印刷されているが、微視的には、シアンC、マゼンタM、イエローYおよびブラックKの各インクが、1つの画素内で重なって印刷されている。
【0018】
このように、こうしたインクジェットプリンタでは、1つの画素上に4種類のインクが集中して吐出されるため、乾燥性を一定以上に向上することが難しかった。
【0019】
また、こうしたインクジェットプリンタでは、1つの画素に1度に4種類のインクを吐出しているため、吐出されたインクは、画素内においてインク同士で接合して1つの大きな液滴となってしまうことがあり、こうした場合には、印刷結果に粒子感が生じ易く、印刷品位が低下してしまっていた。
【0020】
このため、メディアに吐出したインクの乾燥性が向上するとともに、印刷結果における粒子感を低減するインクジェットプリンタの提案が望まれていた。
【0021】
なお、本願出願人が特許出願のときに知っている先行技術は、文献公知発明に係る発明ではないため、本願明細書に記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明によるインクジェットプリンタの実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0029】
図5には、本発明によるインクジェットプリンタの概略構成説明図が示されている。
【0030】
この
図5に示すインクジェットプリンタ10は、基台部材12に支持され、走査方向に延長して配設された固定系のベース部材14と、ベース部材14の左右両端に配設された側方部材16L、16Rと、左右2つの側方部材16L、16Rを連結する中央壁20と、中央壁20の壁面に走査方向に延長して配設されたガイドレール22と、中央壁20の壁面に平行して走査方向に移動自在に配設されたベルト24と、ベルト24に固定的に配設されるとともにガイドレール22に摺動自在に配設されたキャリッジ26と、ベース部材14上に位置するメディアたる記録紙28と対向するようにしてキャリッジ26内に配設されたインクヘッド30とを有して構成されている。
【0031】
なお、記録紙28は、給紙装置(図示せず。)によってベース部材14上に供給され、走査方向において所定の長さを有するとともに、走査方向と直交する方向(つまり、搬送方向である。)に搬送されるようになされている。
【0032】
また、こうしたインクジェットプリンタ10の全体の動作は、マイクロコンピューター50によって制御される。
【0033】
より詳細には、インクヘッド30は、底面30eが記録紙28と対向するようにキャリッジ26に配設され、キャリッジ26を介して走査方向で移動する。
【0034】
また、インクヘッド30は、画像を形成するためのインクとして、シアンC、マゼンタM、イエローYおよびブラックKの4色のインクを吐出する構成となっている。
【0035】
即ち、インクヘッド30における記録紙28と対向する底面30eには、シアンCのインクを吐出するためのノズル列30−1、マゼンタMのインクを吐出するためのノズル列30−2、イエローYのインクを吐出するためのノズル列30−3およびブラックKのインクを吐出するためのノズル列30−4が所定の間隔を空けて走査方向に並設されている(
図6を参照する。)。
【0036】
また、マイクロコンピューター50は、印刷画像データからパスデータを作成する処理や、パスデータに基づいてタイミングデータを作成する処理などを行い、さらに、こうして作成されたデータに基づいて、記録紙28に当該印刷画像データに基づく画像を印刷する処理を行う。
【0037】
ここで、
図7を参照しながら、マイクロコンピューター50の機能的構成について説明する。
【0038】
マイクロコンピューター50は、記録紙28に印刷する画像(以下、「印刷画像」と称する。)を表す印刷画像データや当該データから作成される画像データの構成条件などの各種のデータを記憶する記憶部52と、データ作成部56(後述する。)で作成したデータに基づいて記録紙28に印刷画像を印刷するようキャリッジ26の移動、インクヘッド30におけるインクの吐出および記録紙28の搬送などの制御を行う制御部54と、記憶部52に記憶された印刷画像データに基づいて、パスデータやタイミングデータを作成するデータ作成部56とを有して構成されている。
【0039】
具体的には、記憶部52は、インクジェットプリンタ10と別体で設けられたパーソナルコンピューターから入力された印刷画像データや設定された画像データの構成条件などを記憶する。
【0040】
なお、こうした画像データの構成条件としては、走査方向の画像解像度、インクヘッド30の走査速度、1ラスター列を形成する走査回数などであり、こうしたデータは、例えば、作業者により設定される。
【0041】
また、制御部54は、データ作成部56で作成したパスデータおよびタイミングデータに基づいて、インクヘッド30からのインクの吐出、キャリッジ26の移動、記録紙28の搬送などの制御を行う。
【0042】
データ作成部56は、記憶部52に記憶された印刷画像データからインクジェットプリンタ10で処理可能な画像データを作成する画像データ作成部57と、作成された画像データから複数のパスデータを作成するパスデータ作成部58と、インクの吐出およびタイミングデータ作成時に必要となる周期のズレ量を算出する算出部60と、算出部60で算出したデータおよびパスデータ作成部58で作成したパスデータに基づいて、タイミングデータを作成するタイミングデータ作成部62とを備えている。
【0043】
パスデータ作成部58は、画像データ作成部57で作成された画像データに基づいて、1つの画素に吐出される複数のインクを、1ラスター列を形成する走査回数に応じて振り分けたパスデータを複数作成する。
【0044】
即ち、パスデータ作成部58では、走査回数分のパスデータが作成される。各パスデータは、各ラスター列における各画素について、各パスデータの互いに対応する画素に異なる色彩のインクが吐出されるようにする。なお、インクヘッド30より吐出されるインクの色彩の数よりも走査回数が多い場合には、各パスデータの互いに対応する画素において、インクが吐出されない画素を有するパスデータが作成されることもある。
【0045】
そして、作成される各パスデータの解像度は、吐出するインクの色数に依存せずに、1ラスター列を形成する走査回数によって決まり、画像データの解像度を1ラスター列を形成する走査回数で除算することにより算出することができる。
【0046】
例えば、画像データ作成部57で作成された画像データが、
図1(b)に示すような、画素間の間隔が360dpiで、搬送方向に8画素、走査方向に10画素の合計80画素で形成されるデータとし、記憶部52に記憶された1ラスター列を形成する走査回数が「2」とすると、パスデータ作成部58では、
図8(a)(b)に示す2種類のパスデータが作成される。
【0047】
つまり、第1のパスデータでは、各ラスター列のうち、画素p1、p3、p5、p7、p9においては、ブラックKおよびシアンCのインクを吐出し、画素p2、p4、p6、p8、p10においては、マゼンタMおよびイエローYのインクを吐出するようなデータとして作成される(
図8(a)を参照する。)。
【0048】
また、第2のパスデータでは、各ラスター列のうち、画素p1、p3、p5、p7、p9においては、マゼンタMおよびイエローYのインクを吐出し、画素p2、p4、p6、p8、p10においては、ブラックKおよびシアンCのインクを吐出するようなデータとして作成される(
図8(b)を参照する。)。
【0049】
図1(b)に示す画像データから作成される第1のパスデータおよび第2のパスデータにより、同じ画素に吐出されるインクの組み合わせは、ブラックKとシアンC、マゼンタMとイエローYの組み合わせとなる。
【0050】
タイミングデータ作成部62は、パスデータ作成部58において作成されたパスデータおよび算出部60において算出された値(具体的には、吐出周期および周期のズレ量である。)に基づいて、タイミングデータを作成する。
【0051】
ここで、パスデータ作成部58において作成されたパスデータにおける各ラスター列では、1回の走査において、各画素にインクを吐出するため、360dpi間隔でインクを吐出しなければならず、インクの吐出周期をTとすると、各ラスター列は走査方向の10画素を含むため、各ラスター列における1回の走査にかかる時間Tpは、Tp=10Tとなる(
図9(a)を参照する。)。
【0052】
これに対して、従来の技術によるインクジェットプリンタで作成されたパスデータにおける各ラスター列では、1回の走査において、1画素おきにインクを吐出するため、180dpiの間隔でインクを吐出しているので、各ラスター列における1回の走査にかかる時間Tpは、Tp=5Tとなる(
図9(b)を参照する。)。
【0053】
即ち、
図8(a)(b)に示すパスデータでは、各ラスター列における1回の走査にかかる時間は、従来の技術によるインクジェットプリンタでの、ラスター列における1回の走査にかかる時間の2倍の時間を要することとなってしまう。
【0054】
そこで、タイミングデータ作成部62は、各パスデータにおいて各色毎にデータを分解し、所定のインクの吐出のタイミングを基準のタイミングとして、インクを吐出する画素位置に応じて、この基準のタイミングから位相をずらして、各インクを吐出するタイミングデータを作成する。
【0055】
具体的には、第1のパスデータでは、まず、任意のラスター列において各色毎にデータを分解する(
図10(a)を参照する。)。
【0056】
こうして作成されたパスデータは、走査方向に180dpiの間隔でインクを吐出するデータとなり、マゼンタMのデータおよびイエローYのデータでは、ブラックKのデータおよびシアンCのデータより360dpiだけタイミングがずれている。つまり、各データにおいては、180dpiの間隔でインクを吐出し、マゼンタMのデータおよびイエローYのデータでは、ブラックKのデータおよびシアンCのデータより、180dpiの半分の360dpi分ずれたタイミングでインクが吐出される。
【0057】
その後、ブラックKのインクを吐出するタイミングを基準のタイミングとし、シアンCのインクを吐出するタイミングを基準のタイミングと一致するタイミングとするとともに、マゼンタMおよびイエローYのインクを吐出するタイミングを基準のタイミングから180°(1/2周期)位相をずらすタイミングとする(
図10(b)を参照する。)。
【0058】
即ち、第1のパスデータにおいて、180dpi間隔に並んだブラックKおよびシアンCのインクを吐出するタイミングデータを基準タイミングに合わせて作成し、180dpi間隔に並んだマゼンタMおよびイエローYのインクを吐出するタイミングデータを基準タイミングから180°(1/2周期)位相を遅らせたタイミングで作成する。
【0059】
こうして作成されたパスデータに、算出部60で算出された吐出周期や周期のズレ量を用いて、各インクを吐出するタイミングを表すタイミングデータを作成する。
【0060】
こうして作成されたタイミングデータによって、ラスター列における1回の走査にかかる時間Tpは、吐出周期をTとすると、Tp=5T+ΔTとなり、従来の技術によるインクジェットプリンタでのラスター列における1回の走査にかかる時間に近似する。なお、ΔTは、位相がずれたことにより生じる周期のズレ量であり、この場合には、ΔT=T/2となる。
【0061】
算出部60は、記憶部52に記憶された画像データの構成条件のうちの走査方向の画像解像度、インクヘッド30の走査速度、1ラスター列を形成する走査回数を用いて、吐出周期Tを下記(1)式により算出する。
【0062】
T=N/(R・V)・・・(1)
T:吐出周期
N:1ラスター列を形成する走査回数
R:走査方向の画像解像度
V:インクヘッドの走査速度
【0063】
また、算出部60は、算出した吐出周期から周期のズレ量ΔTを下記(2)式により算出する。
【0064】
ΔT=T・C・・・(2)
ΔT:周期のズレ量
T:吐出周期
C:ずらした位相の周期
【0065】
具体的には、走査方向の画像解像度Rを360dpi、インクヘッド30の走査速度Vを40inch/sec、1ラスター列を形成する走査回数Nを2回とすると、吐出周期Tは、138.9μsecとなる。
【0066】
また、例えば、
図10(a)(b)に示すように、走査方向に180dpiで生成されたデータに対して360dpiずらした位置、つまり、1/2周期ずらした位置にマゼンタMおよびイエローYのインクを吐出するようにした場合には、周期のズレ量ΔTは、ΔT=138.9×1/2=69.45μsecとなる。
【0067】
算出部60では、吐出周期Tや周期のズレ量ΔTを算出して、タイミングデータ作成部62に出力し、タイミングデータ作成部62では、出力されたデータに基づいてタイミングデータを作成する。
【0068】
具体的には、算出部60で、吐出周期T=138.9μsec、周期のズレ量ΔT=69.45μsecと算出され、こうしたデータがタイミングデータ作成部62に出力されると、タイミングデータ作成部62では、ブラックKおよびシアンCのインクを吐出するタイミングデータとして、吐出周期138.9μsecとし、マゼンタMおよびイエローYのインクを吐出するタイミングデータとして、吐出周期138.9μsecとするとともに、ブラックKおよびシアンCのインクを吐出するタイミングデータから69.45μsec遅れたタイミングで吐出するようにしたタイミングデータを作成する。
【0069】
なお、各ラスター列における1回の走査にかかる時間Tpは、最後の1吐出分の周期のズレ量ΔTを加算して算出されることとなり、Tp=T・n+ΔTとなる。なお、nは、各色についてラスター列におけるインクが吐出される画素数である。
【0070】
つまり、
図10(a)(b)においては、Tp=138.9×5+69.45=763.95μsecとなる。
【0071】
ここで、
図1(b)に示すような画像データから作成された第1のパスデータでは、1ラスター列に含まれる画素数が10画素と少ないため、各ラスター列における1回の走査にかかる時間Tpにおいて加算される周期のズレ量ΔTの比率が高くなる。しかしながら、一般的な画像では、走査方向に数万画素ならぶこととなるため、各ラスター列における1回の走査にかかる時間Tpにおいて加算される周期のズレΔTの比率は極めて小さいものとなり、実質的に無視できる。
【0072】
このため、各パスデータを上述したタイミングデータに基づいて印刷することで、本発明によるインクジェットプリンタ10は、従来の技術によるインクジェットプリンタと比較して、1つのパスデータによる1回の走査にかかる時間Tpが同程度となり、生産性が低下することがなくなる。
【0073】
つまり、パスデータ作成部58で作成されたパスデータからタイミングデータ作成部62でタイミングデータを作成する場合、各ラスター列を形成する走査回数が2回、1画素に吐出されるインク滴がシアンC、マゼンタM、イエローYおよびブラックKの4つであるときには、1回の走査で隣り合う画素に異なる2つのインク滴を吐出するようなタイミングデータが作成される。
【0074】
従って、このときには、
図9(a)または
図10(b)のようなタイミングデータが作成される。
パスデータおよびタイミングデータを作成した状態で、作業者による操作子(図示せず。)などの操作により、印刷開始の処理がなされると、作成したパスデータおよびタイミングデータに基づく制御部54の各部材への制御によって、メディア28に対して印刷が行われる。なお、作業者による操作子などの操作により印刷開始の処理がなされた後に、パスデータおよびタイミングデータの作成を行ってもよい。
【0075】
具体的には、制御部54は、キャリッジ26の移動、インクヘッド30におけるインクの吐出および記録紙28の搬送などの制御を行って、各色毎に、タイミングデータに基づくタイミングで、パスデータに基づく位置に、パスデータに基づく色濃度(インク量)でインクを吐出するように制御する。
【0076】
つまり、本発明によるインクジェットプリンタ10では、まず、インクヘッド30の第1回目の走査により、メディアの搬送方向の下流側から4画素分を、第1のパスデータおよび第1のタイミングデータに基づいて印刷する(
図11(a)を参照する。)。
【0077】
その後、インクヘッド30の第2回目の走査により、メディアの搬送方向の下流側から8画素分を、第2のパスデータおよび第2のタイミングデータに基づいて印刷する(
図11(b)を参照する。)。
【0078】
そして、インクヘッド30の第3回目の走査により、メディアの搬送方向の上流側から4画素分を第1のパスデータおよび第1のタイミングデータに基づいて印刷する(
図4を参照する。)。
【0079】
以上において説明したように、本発明によるインクジェットプリンタ10は、画像データに基づいて、1つの画素に吐出される複数のインクを、各ラスター列を形成する走査回数に応じて振り分けた複数のパスデータを作成するようにした。
これにより、本発明によるインクジェットプリンタ10においては、各ラスター列の1回の走査において1つの画素に吐出されるインクの数を減らすことができるため、乾燥性を向上することができる。
【0080】
また、本発明によるインクジェットプリンタ10においては、各インクが1つの液滴になるようなことがなくなり、印刷結果に粒子感を生じずに印刷品位を向上することができる。
【0081】
さらに、本発明によるインクジェットプリンタ10は、作成したパスデータに基づいて、所定のインクを吐出するタイミングを基準のタイミングとし、当該所定のインクと異なる画素に吐出されるインクは、当該基準のタイミングと所定量だけ位相をずらしたタイミングで吐出するようにしたタイミングデータを作成するようにした。
【0082】
これにより、本発明によるインクジェットプリンタ10においては、従来の技術によるインクジェットプリンタにおける生産性と同程度の生産性を維持することが可能となる。
【0083】
なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(5)に示すように変形するようにしてもよい。
【0084】
(1)上記した実施の形態においては、算出部60において、1ラスター列を形成する走査回数、走査方向の解像度およびインクヘッドの走査速度から吐出周期を算出するとともに、吐出周期およびずらした位相の周期から周期のズレ量を算出し、算出した値を用いてタイミングデータを作成するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。
【0085】
即ち、所定の情報に基づいてリニアエンコーダから生成される吐出タイミングを逓倍してインクの吐出タイミングをずらすようにしてもよい。
【0086】
例えば、所定の情報としては、1ラスター列の走査回数および各色彩のインクの吐出タイミングである。
【0087】
ここで、使用されるインクがシアンC、マゼンタM、イエローYおよびブラックKの4色、1ラスター列を形成する走査回数が「2」、
図8(a)(b)に示すようにしたパスデータが作成された場合には、ブラックKとシアンCのインクと、マゼンタMおよびイエローYのインクの吐出のタイミングは1/2周期ずらすようにする。
【0088】
なお、このときずらす周期については、基準のタイミングによるインクが吐出される画素に対する異なるタイミングによるインクが吐出される画素の位置と、1ラスター列を形成する走査回数とに基づいて決定され、具体的には、基準のタイミングによるインクが吐出される画素と、異なるタイミングによるインクが吐出される画素とがa画素離れ、1ラスター列を形成する走査回数がbとすると、ずらす周期はa/bとなる。
【0089】
より詳細には、第1のパスデータでは、マゼンタMおよびイエローYのインクが吐出される画素は、ブラックKおよびシアンCのインクが吐出される画素の隣、つまり、1画素だけ離れており、1ラスター列を形成する走査回数が「2」であるため、1/2周期となる。
【0090】
つまり、
図8(a)に示す第1のパスデータでは、ブラックKおよびシアンCの2色のインクの吐出のタイミングを基準タイミングとし、マゼンタMおよびイエローYの2色を、基準タイミングから1/2周期ずらした第2のタイミングとしてタイミングデータを作成する。また、
図8(b)に示す第2のパスデータでは、マゼンタMおよびイエローYの2色のインクの吐出のタイミングを基準タイミングとし、ブラックKおよびシアンCの2色を、基準タイミングから1/2周期ずらした第2にタイミングとしてタイミングデータを作成する。
【0091】
具体的には、リニアエンコーダから生成される吐出周期をタイマー機能などでカウントし、このカウントした値が、例えば、360カウントであった場合には、第2のタイミングは、基準タイミングから1/2周期、つまり、180カウントだけ遅くしたタイミングとなる。
【0092】
ここで、ブラックKのインクと、マゼンタMのインクについて着目すると、第1のパスデータでは、ブラックKのインクを吐出周期360カウントで吐出し、マゼンタMのインクを、ブラックKのインクを吐出した時点から180カウントだけ遅くしたタイミングで、吐出周期360カウントで吐出するようになる(
図14(a)を参照する。)。
【0093】
また、使用されるインクがシアンC、マゼンタM、イエローYおよびブラックKの4色、1ラスター列を形成する走査回数が「4」、
図13(a)(b)(c)(d)に示すパスデータが作成された場合には、基準タイミングで吐出するインク以外のインクは、基準タイミングから1/4周期、2/4周期および3/4周期でずらすようにする。
【0094】
例えば、
図13(a)に示すパスデータでは、シアンCのインクが吐出される画素は、ブラックKのインクが吐出される画素と1画素だけ離れており、1ラスター列を形成する走査回数が「4」であるため、ブラックKとシアンCとのインクの吐出のタイミングは、1/4周期すらす。また、マゼンタMのインクが吐出される画素は、ブラックKのインクが吐出される画素と2画素離れているため、ブラックKとマゼンタMとのインクの吐出のタイミングは2/4周期ずらす。さらに、イエローYのインクが吐出される画素は、部落Kのインクが吐出される画素と3画素離れているため、ブラックKとイエローYとのインクの吐出のタイミングは3/4周期ずらす。
【0095】
より詳細には、
図13(a)に示すパスデータでは、ブラックKのインクの吐出のタイミングを基準タイミングとし、シアンCを基準タイミングから1/4周期ずらした第2のタイミングで吐出し、マゼンタMを基準タイミングから2/4周期(つまり、第2のタイミングから1/4周期である。)ずらした第3のタイミングで吐出し、イエローYを基準タイミングから3/4(つまり、第3のタイミングから1/4周期である。)ずらした第4のタイミングで吐出するタイミングデータを作成する。
【0096】
具体的には、リニアエンコーダから生成される吐出周期をタイマー機能などでカウントし、このカウントした値が、例えば、360カウントであった場合には、第2のタイミングは、基準タイミングから1/4周期、つまり、90カウントだけ遅くしたタイミングとなる。また、第3のタイミングは、基準タイミングから2/4周期、つまり、180カウントだけ遅くしたタイミングとなる。さらに、第4のタイミングは、基準タイミングから3/4周期、つまり、270カウントだけ遅くしたタイミングとなる。
【0097】
即ち、
図13(a)のパスデータでは、ブラックKのインクを吐出周期360カウントで吐出し、シアンCのインクをブラックKのインクを吐出した時点から90カウントだけ遅くしたタイミングで、吐出周期360カウントで吐出するようになり、マゼンタMのインクをブラックKのインクを吐出した時点から180カウントだけ遅くしたタイミングで、吐出周期360カウントで吐出するようになり、イエローYのインクをブラックKのインクを吐出した時点から270カウントだけ遅くしたタイミングで吐出周期360カウントで吐出するようになる(
図14(b)を参照する。)。
【0098】
(2)上記した実施の形態においては、第1のパスデータに対するタイミングデータを作成する際に、ブラックKのインクを吐出するタイミングを基準のタイミングとしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、シアンCのインクを吐出するタイミングを基準のタイミングとしてもよい。また、第2のパスデータに対するタイミングデータを作成する際に、マゼンタMのインクを吐出するタイミングを基準のタイミングとしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、Yイエローのインクを吐出するタイミングを基準のタイミングとしてもよい。
【0099】
(3)上記した実施の形態においては、パスデータ作成部58においてパスデータを作成する際に、同じ画素に吐出されるインクの組み合わせとして、ブラックKとシアンC、マゼンタMとイエローYの組み合わせとしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、ブラックKとマゼンタM、シアンCとイエローYの組み合わせであってもよいし、ブラックKとイエローY、マゼンタMとシアンCの組み合わせであってもよい。
【0100】
(4)上記した実施の形態においては、インクヘッド30から、画像を形成するためのインクとしてシアンC、マゼンタM、イエローYおよびブラックKの4色のインクが吐出するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、インクヘッド30から6色、8色あるいは10色以上のインクを吐出するようにしてもよい。
【0101】
なお、画像を形成するためのインクとは、アンダーコートやトップコートのためのホワイトインクやクリアーインクは含まれない。
【0102】
即ち、例えば、シアンC、ライトシアンLc、マゼンタM、ライトマゼンタLm、イエローYおよびブラックKの6色のインクを吐出する場合には、
図12(a)(b)に示すような、2種類のパスデータが作成される。
【0103】
つまり、
図12(a)に示すパスデータでは、各ラスター列において、画素p1、p3、p5、p7、p9においては、ブラックK、ライトシアンLcおよびシアンCのインクを吐出し、画素p2、p4、p6、p8p10においては、マゼンタM、ライトマゼンタLmおよびイエローYのインクを吐出するデータとして作成される。
【0104】
また、
図12(b)に示すパスデータでは、各ラスター列において、画素p1、p3、p5、p7、p9においては、マゼンタM、ライトマゼンタLmおよびイエローYのインクを吐出し、画素p2、p4、p6、p8、p10においては、ブラックK、ライトシアンLcおよびシアンCのインクを吐出するデータとして作成される。
【0105】
(5)上記した実施の形態においては、パスデータを作製する際に、1ラスター列を形成する走査回数を「2」としたが、これに限られるものではないことは勿論であり、1ラスター列を形成する走査回数を「2」以上としてもよい。
【0106】
即ち、例えば、1ラスター列を形成する走査回数が「4」の場合には、4種類のパスデータが作成され、作成された各パスデータは、1ラスター列における各画素において他のパスデータと異なる色彩のインクが1種類だけ吐出される。
【0107】
具体的には、例えば、
図13(a)(b)(c)(d)に示すような、4種類のパスデータが作成される。
【0108】
つまり、
図13(a)に示すパスデータでは、各ラスター列において、画素p1、p5、p9においてはブラックKのインクを吐出し、画素p2、p6、p10においてはシアンCのインクを吐出し、画素p3、p7においてはマゼンタMのインクを吐出し、画素p4、p8においてはイエローYのインクを吐出するデータとして作成される。
【0109】
また、
図13(b)に示すパスデータでは、各ラスター列において、画素p1、p5、p9においてはイエローYのインクを吐出し、画素p2、p6、p10においてはブラックKのインクを吐出し、画素p3、p7においてはシアンCのインクを吐出し、画素p4、p8においてはマゼンタMのインクを吐出するデータとして作成される。
【0110】
さらに、
図13(c)に示すパスデータでは、各ラスター列において、画素p1、p5、p9においてはマゼンタMのインクを吐出し、画素p2、p6、p10においてはイエローYのインクを吐出し、画素p3、p7においてはブラックKのインクを吐出し、画素p4、p8においてはシアンCのインクを吐出するデータとして作成される。
【0111】
さらにまた、
図13(d)に示すパスデータでは、各ラスター列において、画素p1、p5、p9においてはシアンCのインクを吐出し、画素p2、p6、p10においてはマゼンタMのインクを吐出し、画素p3、p7においてはイエローYのインクを吐出し、画素p4、p8においてはブラックKのインクを吐出するデータとして作成される。
【0112】
(6)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(5)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。