(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凝結促進剤は、硫酸アルミニウム及びギ酸カルシウムであり、前記ポルトランドセメント100質量部に対して、前記硫酸アルミニウム0.01〜3.0質量部及び前記ギ酸カルシウム0.01〜3.0質量部含む、請求項1又は2に記載の高流動モルタル組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の高流動モルタル組成物は、ポルトランドセメント、無機粉体、無機系膨張材、細骨材、流動化剤、凝結促進剤、表面硬化材及び増粘剤を含む高流動モルタル組成物であって、増粘剤は、セルロース系増粘剤及びポリアクリルアミド系増粘剤を含有し、セルロース系増粘剤は、20℃における2質量%水溶液の粘度が10〜2000mPa・sであり、ポリアクリルアミド系増粘剤は、20℃における0.5質量%水溶液の粘度が10〜2000mPa・sである。本発明の高流動モルタル組成物と水とを配合し混練して得た高流動モルタルスラリーを用いることで、良好な流動性及び流動保持性(十分な可使時間を有する)を有し、施工性に優れるものとなる。そのため、本発明の高流動モルタル組成物を用いることにより、良好な水平レベル精度を有するモルタル硬化体を形成することができる。以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0016】
ポルトランドセメントとしては、水硬性材料として一般的なものであり、いずれの市販品も使用することができる。これらのなかでも、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」で規定されるポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0017】
無機粉体としては、JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」で規定される高炉スラグ微粉末、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」で規定されるフライアッシュ、石灰石微粉末等を用いることができ、これらの中から選択される一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。ここで、石灰石微粉末は、石灰石を粉砕したものが好適に使用できるが、炭酸カルシウムを主成分とする無機質の粉末状物質であれば、廃コンクリート等を粉砕したものや、化学的に精製した炭酸カルシウム等も代用することができる。中でも、無機粉体として、石灰石微粉末及びフライアッシュを併用することで、流動性、材料分離抵抗性、強度発現性や寸法安定性をより高めることができる。
【0018】
また、これらの無機粉体は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従い測定されるブレーン比表面積が、好ましくは3000〜8000cm
2/gであり、より好ましくは3000〜7000cm
2/gであり、更に好ましくは3100〜6000cm
2/gであり、特に好ましくは3200〜5200cm
2/gである。
【0019】
無機粉体のブレーン比表面積が3000cm
2/g未満の場合、高流動モルタル組成物と水とを混練して得られる高流動モルタルスラリーの材料分離抵抗性を高める効果が乏しくなる傾向がある。また、ブレーン比表面積が8000cm
2/gを超えると高流動モルタルスラリーの粘性が高くなる傾向が顕著になって流動性を阻害することがある。
【0020】
高流動モルタル組成物の流動性(流動速度)、材料分離抵抗性、作業性及び硬化特性をより向上する観点から、無機粉体の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは30〜90質量部であり、より好ましくは40〜80質量部であり、更に好ましくは45〜70質量部であり、特に好ましくは50〜65質量部である。
【0021】
無機粉体の含有量が少なすぎると良好な材料分離抵抗性が得られにくくなる。逆に、高流動モルタル組成物中の無機粉体の含有量が過剰であると、高流動モルタルスラリーの粘性が増加する傾向にあり、流動性が低下してしまう。このため無機粉体の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0022】
無機系膨張材としては、例えば、エトリンガイト系のカルシウムサルホアルミネートを主成分とする膨張材、生石灰等の石灰系膨張材、石膏等の石膏系膨張材及び生石灰や石膏を主成分とする生石灰−石膏系膨張材を用いることができ、これらの中から選択される一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。中でも無機系膨張材として、生石灰−石膏系膨張材を用いることが好ましい。
【0023】
また、これらの無機系膨張材は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従い測定されるブレーン比表面積が、好ましくは2000〜6000cm
2/gであり、より好ましくは2500〜5000cm
2/gであり、更に好ましくは2800〜4500cm
2/gであり、特に好ましくは3000〜4000cm
2/gである。
【0024】
無機系膨張材のブレーン比表面積が2000cm
2/g未満の場合、適正な膨張性を発現することが困難になり、モルタル硬化体の長さ変化の収縮が大きくなる傾向がある。また、ブレーン比表面積が6000cm
2/gを超えると適正な膨張性を発揮することが困難になり、過剰な膨張作用に起因するクラックが発生する傾向がある。
【0025】
無機系膨張材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.05〜7.0質量部であり、より好ましくは1.0〜6.0質量部であり、更に好ましくは1.5〜5.0質量部であり、特に好ましくは2.0〜4.0質量部である。
【0026】
無機系膨張材の含有量を上記範囲に調整することにより、適正な膨張性を発現してモルタル硬化体の長さ変化を抑制し易くなると同時に、過剰な膨張作用に起因するクラックの発生を防止し易くなる。
【0027】
細骨材としては、例えば、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等の砂類、スラグ細骨材、再生細骨材から適宜選択して用いることができる。特に細骨材としては、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等の砂類から選択したものを好適に用いることができる。
【0028】
細骨材は、細骨材100質量%中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含み、吸水率が1.6%以下であることが好ましい。細骨材の粒子径は、JIS Z 8801:2006に規定される呼び寸法の異なる数個の篩いを用いて測定することができる。また、「600μm以上の粒子径を有する粗粒分」とは、篩目600μmの篩いを用いたときの篩上残分の粒子の質量割合のことをいう。また、細骨材の吸水率は、JIS A 1109:2006に規定されている骨材の吸水率(単位:%)の測定方法に準じて測定した値をいう。
【0029】
細骨材中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%以上含む場合、又は、細骨材の吸水率が1.6%を超える場合、モルタル組成物の流動性が低下する傾向にある。上記粗粒分の下限値は特に制限がなく、0質量%であってもよい。優れた流動性を得るため、細骨材中の粗粒分は好ましくは0〜3質量%であり、より好ましくは0〜0.5質量%であり、更に好ましくは0〜0.2質量%であり、特に好ましくは0.01〜0.15質量%である。
【0030】
上記吸水率の下限値は特に制限がなく、0%であってもよい。細骨材の吸水率は、より好ましくは0〜1.50%であり、更に好ましくは0〜1.40%であり、特に好ましくは0〜1.30%であり、最も好ましくは0.1〜1.28%である。
【0031】
細骨材は、粗粒率が1.00〜1.40の範囲であり、単位容積質量が1.45〜1.70kg/Lの範囲であり、実績率が55.0〜61.0%の範囲であることが望ましい。これにより、モルタル組成物は、より良好な流動性を得ることができる。
【0032】
ここで、「粗粒率」とは、JIS A 1102:2006に規定される骨材の粗粒率をいう。また、「単位容積質量」とは、JIS A 1104:2006に規定される骨材の単位容積質量(単位:kg/L)をいう。また、「実績率」とは、JIS A 1104:2006に規定される骨材の実績率(単位:%)をいう。
【0033】
細骨材の粗粒率としては、好ましくは1.00〜1.40であり、より好ましくは1.10〜1.35であり、更に好ましくは1.11〜1.32であり、特に好ましくは1.12〜1.30である。
【0034】
細骨材の単位容積質量としては、好ましくは1.45〜1.70kg/Lであり、より好ましくは1.50〜1.60kg/Lであり、更に好ましくは1.51〜1.57kg/Lであり、特に好ましくは1.52〜1.55kg/Lである。
【0035】
細骨材の実績率としては、好ましくは55.0〜61.0%であり、より好ましくは56.0〜60.0%であり、更に好ましくは56.5〜59.5%であり、特に好ましくは57.0〜59.0%である。
【0036】
細骨材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは100〜400質量部、より好ましくは130〜350質量部であり、更に好ましくは150〜320質量部であり、特に好ましくは170〜300質量部である。
【0037】
細骨材の含有量を上記範囲に調整することにより、流動性及び材料分離抵抗性に優れた高流動モルタルスラリーを作製し易くなるとともに、硬化後の表面状態や硬化特性に優れたモルタル硬化体を形成することができる。
【0038】
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、リグニン系、メラミンスルホン酸系、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリカルボン酸系、ポリエーテル系及びポリエーテルポリカルボン酸系等の市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系及びポリエーテルポリカルボン酸等の市販の流動化剤を用いることが好ましい。
【0039】
流動化剤は、使用するポルトランドセメント等の高流動モルタル組成物を構成する成分に応じて、添加量を適宜選択して用いることにより、高流動モルタル組成物と水とを混練して調製する高流動モルタルスラリーの流動性等を調整することができる。
【0040】
流動化剤は、本実施形態の高流動モルタル組成物の特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。流動化剤の添加量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.05〜3.0質量部であり、より好ましくは0.1〜2.0質量部であり、更に好ましくは0.2〜1.0質量部であり、特に好ましくは0.3〜0.6質量部である。
【0041】
流動化剤の添加量が少なすぎると、好適な流動性を確保することが困難な場合がある。また、添加量が多すぎても添加量に見合った効果は期待できず、単に不経済であるだけでなく、場合によっては粘度が増加し好適な流動性を得るための混練水量が増大して硬化特性が悪化することがある。
【0042】
凝結促進剤は、モルタルスラリーの可使時間(流動保持性)及び水平レベル精度を調整するために用いられる。凝結促進剤として、硫酸アルミニウム及びギ酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0043】
凝結促進剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、好ましくは0.02〜6.0質量部であり、より好ましくは0.1〜2.0質量部であり、更に好ましくは0.2〜1.2質量部であり、特に好ましくは0.3〜1.1質量部である。
【0044】
硫酸アルミニウムの含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、好ましくは0.01〜3.0質量部であり、より好ましくは0.05〜1.0質量部であり、更に好ましくは0.1〜0.6質量部であり、特に好ましくは0.15〜0.55質量部である。
【0045】
ギ酸カルシウムの含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、好ましくは0.01〜3.0質量部であり、より好ましくは0.05〜1.0質量部であり、更に好ましくは0.1〜0.6質量部であり、特に好ましくは0.15〜0.55質量部である。
【0046】
硫酸アルミニウム及びギ酸カルシウムの含有量を上記範囲に調整することにより、好ましい可使時間(流動保持性)を有する高流動モルタルスラリー及び好ましい硬化特性を有するモルタル硬化体を得ることができるので好ましい。硫酸アルミニウム及びギ酸カルシウムの含有量が多すぎると、凝結促進効果が顕著になって、高流動モルタルスラリーの流動性や流動保持性が低下することがある。
【0047】
表面硬化材は、高流動モルタルスラリーが硬化する過程でモルタル硬化体の表面硬度が発現する時間を好適に調整するために用いられる。表面硬化材としては、例えば、水酸化カルシウム、ヘマタイト、マグネタイト等が挙げられる。中でも、ハンドリングの面から表面硬化材として水酸化カルシウムを用いることが好ましい。
【0048】
表面硬化材は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従い測定されるブレーン比表面積が、好ましくは5000〜30000cm
2/gであり、より好ましくは7000〜25000cm
2/gであり、更に好ましくは9000〜18000cm
2/gあり、特に好ましくは10000〜12000cm
2/gである。
【0049】
表面硬化材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、好ましくは0.1〜15質量部であり、より好ましくは0.5〜10質量部であり、更に好ましくは0.8〜7.0質量部であり、特に好ましくは1.0〜5.0質量部である。
【0050】
表面硬化材のブレーン比表面積及び含有量を上記範囲に調整することにより、高流動モルタルスラリーが硬化する過程で、モルタル硬化体の表面硬度が発現する時間を好適に調整することができるので好ましい。なお、表面硬化材の含有量が多すぎると、硬化後の収縮(長さ変化)が顕著になり、モルタル硬化体に微細なひび割れが生じることがある。
【0051】
本実施形態の高流動モルタル組成物では、高流動モルタル組成物と水とを混練して得た高流動モルタルスラリーの流動性と材料分離抵抗性とを高い次元でバランスさせ、さらにやせをより抑制し、良好な水平レベル精度を有するモルタル硬化体を形成することが可能とするために、セルロースを主成分とするセルロース系増粘剤A及びポリアクリルアミドを主成分とするポリアクリルアミド系増粘剤Bを併せて用いる。
【0052】
増粘剤Aとしては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、グリオキザール付加ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びカルボキシルエチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体を含む増粘剤が挙げられ、これらの中から選択される一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。この中でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びグリオキザール付加ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のヒドロキシプロピルメチルセルロース系増粘剤を用いることが好ましい。
【0053】
増粘剤Bとしては、例えば、ポリエチレングリコールを含有する増粘剤が挙げられる。
【0054】
増粘剤Aの20℃における2質量%水溶液の粘度が10〜2000mPa・sであり、増粘剤Bの20℃における0.5質量%水溶液の粘度が10〜2000mPa・sであることにより、やせをより抑制し、良好な水平レベル精度を有するモルタル硬化体を形成することが可能となる。
【0055】
増粘剤Aは、20℃における2質量%水溶液の粘度が、好ましくは50〜1000mPa・sであり、より好ましくは100〜700mPa・sであり、更に好ましくは350〜550mPa・sである。
【0056】
増粘剤Bは、20℃における0.5質量%水溶液の粘度が、好ましくは50〜1000mPa・sであり、より好ましくは100〜700mPa・sであり、更に好ましくは250〜550mPa・sである。
【0057】
ここで、増粘剤の「粘度」とは、増粘剤Aの2質量%水溶液又は増粘剤Bの0.5質量%水溶液をB型粘度計(BROOKFIELD社製デジタル粘度計 DV−I Prime)を用いてローターNo.2、回転速度20rpm、20℃で測定した値をいう。
【0058】
増粘剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.05〜1.0質量部であり、より好ましくは0.1〜0.8質量部であり、更に好ましくは0.2〜0.6質量部であり、特に好ましくは0.25〜0.5質量部である。増粘剤A及び増粘剤Bの質量比は、好ましくは95:5〜75:25の範囲であり、より好ましくは94:6〜76:24、更に好ましくは93:7〜77:23、特に好ましくは92:8〜78:22である。
【0059】
本実施形態の高流動モルタル組成物には、上記の必須成分に加えて、必要に応じて消泡剤、皮張り防止剤、再乳化形樹脂粉末及び合成樹脂繊維等を添加することができる。
【0060】
高流動モルタル組成物の調製方法は、特に限定されないが、水以外の材料を混合して調製することができる。混合に使用するミキサーは特に限定されず、アイリッヒミキサー、リボンミキサー、ロッキングミキサー等の粉体混合用ミキサーを使用することができる。
【0061】
このようにして調整される高流動モルタル組成物と、水とを配合し混練することにより、高流動モルタルスラリーを調製することができる。また、水の配合量を適宜選択することにより、高流動モルタルスラリーのフロー値を調整することができるので、用途に適した高流動モルタルスラリーを調製することができる。ここで、フロー値とはJASS 15M−103に記載の試験方法に準拠して測定した値であり、この値に基づき高流動モルタルスラリーの流動性を評価することができる。
【0062】
高流動モルタルスラリーを調製する際に用いられる水の配合量は、高流動モルタル組成物100質量部に対し、好ましくは22〜30質量部であり、より好ましくは23〜29質量部であり、更に好ましくは24〜28質量部であり、特に好ましくは25〜27質量部である。
【0063】
高流動モルタル組成物と水とを混練して調製した高流動モルタルスラリーのフロー値は、好ましくは200mm以上であり、より好ましくは205〜260mmであり、更に好ましくは210〜250mmであり、特に好ましくは215〜240mmである。
【0064】
フロー値が上記範囲であることにより、高流動モルタルスラリーは、施工の容易さ及び優れた流動性を有する。
【0065】
また、上記高流動モルタルスラリーの流動性及び流動保持性は、
図1に示すセルフレベリング(SL)測定器を用いて測定することができる。
【0066】
図1は、SL測定器を模式的に示す斜視図であり、SL測定器50は、金属製で、内寸法が幅30mm×高さ30mm×長さ745mmの樋状であり、一方の端のみが開口端となっている。そして、SL測定器50は、閉口端側に高流動モルタルスラリー10を充填するための充填部51と、充填部51に隣接し、充填される高流動モルタルスラリー10を堰き止めておくための、合成樹脂製の堰板52とを備えており、充填部51は、内寸法が幅30mm×高さ30mm×長さ150mmの容量を有している。
【0067】
図2は、このようなSL測定器を用いた、高流動モルタルスラリーの流動性の評価方法を模式的に示す断面図である。まず、
図2の(a)に示すように、混練直後の高流動モルタルスラリー10を充填部51を満たすように流し込む。次いで、堰板52が引き上げられることにより、
図2の(b)に示すように、流し込まれた高流動モルタルスラリー10は、SL測定器50の開口端側へ向けて流れ出す。
【0068】
図2の(b)に示すように、標点53から高流動モルタルスラリー10の流れが停止した終点54までの距離をSL値(mm)とする。充填部51でのスラリー10の保持時間を変更してSL値を測定することで、高流動モルタルスラリーの流動性及び流動保持性を評価することができる。
【0069】
高流動モルタルスラリー10を充填部51に流し込んだ直後(保持時間0分、以下、「L0」という)に、堰板52を引き上げて得られるSL値(L0)は、好ましくは400〜595mmであり、より好ましくは425〜595mmであり、更に好ましくは450〜595mmであり、特に好ましくは475〜595mmである。なお、上記SL測定器を用いた評価であるため、上限値は全て595mm(標点から開口端までの距離)となる。
【0070】
SL値(L0)が上記範囲であることにより、高流動モルタルスラリーは、施工の容易さ及び優れた流動性を有する。
【0071】
高流動モルタルスラリー10のSL値(L30)は、好ましくは250〜595mmであり、より好ましくは275〜575mmであり、更に好ましくは290〜560mmであり、特に好ましくは300〜550mmである。
【0072】
また、高流動モルタルスラリーの水和反応に伴う初期の収縮率と重量減少率は、以下のようにして測定することができる。
【0073】
まず、収縮率は、モジュールコンテナーに10mm厚となるように高流動モルタルスラリーを流し込んだ試験体の当該スラリー表面の位置をレーザー変位計により基準値として計測し、時間の経過による表面の上下方向の位置の変位を計測し、その変位から収縮率を求めることができる。重量減少率は、スラリー流し込み直後の上記試験体の重量を基準値とし、時間の経過による重量の変化を計測し、その変化から重量減少率を求める。
【0074】
2時間後の収縮率は、好ましくは8.5%以下であり、より好ましくは8.2%以下であり、更に好ましくは8.0%以下である。また、5時間後の収縮率は、好ましくは9.0%以下であり、より好ましくは8.7%以下であり、更に好ましくは8.5%以下である。
【0075】
2時間後の重量減少率は、好ましくは4.5%以下であり、より好ましくは4.2%以下であり、さらに好ましくは4.0%以下である。また、5時間後の収縮率は、好ましくは9.0%以下であり、より好ましくは8.7%以下であり、さらに好ましくは8.5%以下である。
【0076】
屋外における24時間後の高流動モルタルスラリー(モルタル硬化体)のやせは、例えば、以下のようにして測定することができる。
【0077】
まず、住宅基礎用の型枠の中にコンクリートを打設し、高さ調節用釘をコンクリート表面から当該釘の頭が10mm出るように差し込む。次に、コンクリート表面の水が引くタイミングで、釘の頭と同じ高さとなるように混練直後の高流動モルタルスラリーを厚さ10mmで施工する。24時間後に高流動モルタルスラリーが硬化したモルタル硬化体の表面と上記釘の頭との差(やせ)をコンタクトゲージを用いて計測する。
【0078】
やせは、好ましくは0.90mm以下であり、より好ましくは0.85mm以下であり、更に好ましくは0.80mm以下であり、特に好ましくは0.75mm以下である。
【0079】
やせが上記範囲であることにより、モルタル硬化体は優れた水平レベル精度を有していると言える。したがって、このようなモルタル硬化体を形成できる高流動モルタル組成物によれば、信頼性の高い構造体を得ることができる。
【0080】
以上のとおり、本実施形態の高流動モルタル組成物を用いて調製された高流動モルタルスラリーは、優れた施工性(優れた流動性、良好な流動保持性(良好な可使時間))を有しており、また、これを硬化させることで、優れた水平レベル精度を有する高流動モルタル硬化体を得ることができる。
【0081】
さらに詳しくは、本実施形態の高流動モルタル組成物を、住宅等の建築物基礎コンクリートの天端等のレベル調整に用いることによって、優れた施工性により水平レベル精度が高く、信頼性の高い建築物基礎コンクリート構造体を得ることができる。
【実施例】
【0082】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0083】
[使用材料]
実施例及び比較例で使用した材料を以下に記す。
(1)ポルトランドセメント
早強ポルトランドセメント(宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm
2/g)
(2)無機粉体
石灰石粉末(ブレーン比表面積4830cm
2/g)及びフライアッシュ(ブレーン比表面積3970cm
2/g)を質量比47:53で用いた。
(3)無機系膨張材
生石灰−石膏系膨張材(ブレーン比表面積3520cm
2/g、酸化カルシウム含有量40〜65%)
(4)細骨材
珪砂(600μm以上の粒子径を有する粗粒分=0.1質量%、吸水率=1.25%、粗粒率1.15、単位容積質量=1.53kg/L、実績率=57.5%)
(5)流動化剤
ポリカルボン酸系流動化剤
(6)凝結促進剤
硫酸アルミニウム及びギ酸カルシウムを質量比50:50で用いた。
(7)表面硬化材
水酸化カルシウム(ブレーン比表面積11000cm
2/g)
(8)増粘剤A
ヒドロキシプロピルメチルセルロース系増粘剤(粘度452mPa・s)
(9)増粘剤B
B1:ポリアクリルアミド系増粘剤(粘度434mPa・s)
B2:ポリエチレングリコール含有ポリアクリルアミド系増粘剤(粘度344mPa・s)
【0084】
増粘剤Aの粘度は、増粘剤Aの2質量%水溶液を、B型粘度計(BROOKFIELD社製デジタル粘度計 DV−I Prime)を用いて、ローターNo.2、回転速度20rpm、20℃の条件下で測定した。
【0085】
増粘剤Bの粘度は、増粘剤Bの0.5質量%水溶液を、B型粘度計(BROOKFIELD社製デジタル粘度計 DV−I Prime)を用いて、ローターNo.2、回転速度20rpm、20℃の条件下で測定した。
【0086】
[高流動モルタル組成物の調製(製造)]
上記ポルトランドセメント、無機粉体、無機系膨張材、細骨材、流動化剤、凝結促進剤、表面硬化材及び増粘剤を表1に示す割合で配合し、高流動モルタル組成物を調製した。
【0087】
【表1】
【0088】
[高流動モルタルスラリーの調製]
高流動モルタル組成物の材料(総量:1.0kg)を表1に示す配合割合で混合し、ホバートミキサーを用いて混練して高流動モルタル組成物のプレミックス粉体を得た。次いで、得られたプレミックス粉体をポリエチレン製の袋に入れて密封し、温度35℃の恒温室に静置した。静置1日後、温度35℃の恒温室にて、それぞれポリエチレン製ビーカー(2.0L)に水(0.26kg)を入れ、次いで、プレミックス粉体(1.0kg)を加えて、650rpmのケミスターラーで3分間混練し、高流動モルタルスラリーを得た。
【0089】
(1)高流動モルタルスラリーの流動性の評価
<フロー値の測定>
JASS 15M−103「社団法人日本建築学会:セルフレベリング材の品質基準」に準拠してフロー値を測定し、流動性を評価した。評価は、温度35℃の恒温室内で行なった。評価結果を表2に示す。
【0090】
<SL値の測定>
まず、
図1に示すSL測定器50の充填部51に、
図2の(a)に示すように混練直後の高流動モルタルスラリー10を流し込んだ。その直後(保持時間0分)に堰板52を引き上げ、
図2の(b)に示すように、充填部51から流れ出した高流動モルタルスラリーの流れが停止した後に、標点(堰板の設置部)53から高流動モルタルスラリー10の流れが停止した終点54までの距離を測定し、その値をSL値(L0)とし、流動性を評価した。測定は、温度35℃の恒温室内で行なった。評価結果を表2に示す。
【0091】
同様に、高流動モルタルスラリーを充填部51に流し込み、30分保持した後に堰板52を引き上げ、流れ出した高流動モルタルスラリーの流れが停止した後に、標点(堰板の設置部)53から高流動モルタルスラリーの流れが停止した終点54までの距離を測定し、その値をSL値(L30)とし、流動性及び流動保持性を評価した。測定は、温度35℃の恒温室内で行なった。評価結果を表2に示す。
【0092】
(2)高流動モルタルスラリーの硬化状況の評価
<収縮率の測定>
モジュールコンテナーに10mm厚となるように高流動モルタルスラリーを流し込んだ試験体の当該スラリー表面の位置(高さ)をレーザー変位計(キーエンス社製)により基準値として計測した。その後、2時間経過した時点、及び5時間経過した時点で、スラリー表面の位置をレーザー変位計で計測し、基準値からの変位量を求めて、流し込み厚さに対する変位量の割合を収縮率として求めた。計測は、温度35℃の恒温室内で行なった。
【0093】
<重量減少率の測定>
スラリー流し込み直後の上記試験体の重量を基準値として測定した。その後、2時間経過した時点、及び5時間経過した時点で、試験体の重量を測定し、基準値からの変化量を求めて、基準値に対する変化量の割合を重量減少率として求めた。測定は、温度35℃の恒温室内で行なった。評価結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
増粘剤B1又はB2を含有する実施例1〜4は、増粘剤B1又はB2を含有しない比較例1に較べて、気温35℃の高温条件下において収縮率が小さく、重量減少率も小さい傾向を示した。特に、増粘剤B2を含有する実施例3及び実施例4は収縮率及び重量減少率共により良好な結果を示した。
【0096】
(3)屋外施工時の高流動モルタルスラリーの流動性及び硬化状況の評価
[高流動モルタルスラリーの調製]
高流動モルタル組成物の材料(総量:15kg)を表1に示す配合割合で混合し、アイリッヒミキサーを用いて混練して高流動モルタル組成物のプレミックス粉体を得た。次いで、得られたプレミックス粉体をポリエチレン製の袋に入れて密封し、温度35℃の恒温室に静置した。静置1日後、気温35℃の屋外にて、それぞれペール缶に水(3.9kg)を入れ、次いで、プレミックス粉体(15kg)を加えて、750rpmのハンドミキサーで3分間混練し、高流動モルタルスラリーを得た。
【0097】
<フロー値の測定>
気温35℃の晴天下で測定した以外は、上記フロー値の測定と同様に行った。評価結果を表3に示す。
【0098】
<SL値の測定>
気温35℃の晴天下で測定した以外は、上記SL値の測定と同様に行った。評価結果を表3に示す。
【0099】
<やせの測定>
住宅基礎用の型枠の中にコンクリートを打設し、高さ調節用釘をコンクリート表面から当該釘の頭が10mm出るように差し込んだ。次に、コンクリート表面の水が引くタイミングで、釘の頭と同じ高さとなるように混練直後の上記高流動モルタルスラリーを厚さ10mmで施工した。施工後24時間経過した時点で高流動モルタルスラリーが硬化したモルタル硬化体の表面と上記釘の頭との差(やせ)をコンタクトゲージを用いて計測した。高流動モルタルスラリーを施工時の気温は35℃で晴天下であった。評価結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
増粘剤B2を含有する実施例5は、増粘剤Bを含有しない比較例2に較べて、気温35℃の晴天下において、やせが小さい良好な結果を示した。
【0102】
以上のことから、本発明の高流動モルタル組成物を用いることにより、施工性に優れ、良好な水平レベル精度を有するモルタル硬化体を形成することができる。したがって、本発明の高流動モルタル組成物を、住宅等の建築物基礎コンクリートの天端などのレベル調整に用いることによって、優れた施工性と水平レベル精度により、信頼性の高い建築物基礎コンクリート構造体を提供することが可能である。