(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に記載された技術を用いることで、助燃バーナーを用いて鉄系スクラップを効率よく予熱、溶解することができる。しかしながら、特許文献1、2では、燃料の対象が高価な気体燃料に制限されるという問題がある。安価な燃料としては、石炭などの固体燃料が挙げられるが、固体燃料は一般に、気体燃料よりも早く燃焼させることは困難であり、条件によっては失火することもあり、固体燃料の助燃バーナーへの利用は困難であった。
【0008】
そこで本発明は、固体燃料を気体燃料とともに適切かつ効率的に燃焼させることで、鉄系スクラップの加熱効果を高くかつ均一にすることが可能な電気炉用助燃バーナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、石炭などの固体燃料を使用できる電気炉用助燃バーナーについて検討を重ねた結果、燃料として気体燃料と固体燃料を用いる多重管構造の助燃バーナーにおいて、最外周から噴射する支燃性ガスに特定の条件で旋回を与えることにより、固体燃料を気体燃料とともに適切かつ効率的に燃焼させることができ、これによりスクラップ加熱効果が向上し、さらに、バーナーの火炎温度が均一化することを見出した。
【0010】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]鉄系スクラップを溶解して溶鉄を製造する電気炉に付設され、燃料として気体燃料と固体燃料を用いる電気炉用助燃バーナーであって、
前記固体燃料が通過する第1流路を区画し、該第1流路の先端から前記固体燃料を噴射する固体燃料噴射管と、
前記固体燃料噴射管の周囲に配置され、前記固体燃料噴射管の外壁との間で前記気体燃料が通過する第2流路を区画し、該第2流路の先端から前記気体燃料を噴射する気体燃料噴射管と、
前記気体燃料噴射管の周囲に配置され、前記気体燃料噴射管の外壁との間で支燃性ガスが通過する第3流路を区画し、該第3流路の先端から前記支燃性ガスを噴射する支燃性ガス噴射管と、
前記第3流路に、その周方向に所定間隔で配置された、前記支燃性ガスを旋回させるための複数枚の旋回羽根と、
を有し、前記複数枚の旋回羽根のバーナー軸線に対してなす角度θが5°以上45°以下であることを特徴とする電気炉用助燃バーナー。
【0011】
[2]前記角度θが10°以上30°以下である、上記[1]に記載の電気炉用助燃バーナー。
【0012】
[3]各々の前記旋回羽根の前記周方向における長さをQとし、前記複数枚の旋回羽根の前記周方向における設置間隔をPとしたとき、Q/Pが1.0以上1.2以下である、上記[1]又は[2]に記載の電気炉用助燃バーナー。
【0013】
[4]前記第3流路の先端が、前記支燃性ガスの最小供給量における支燃性ガス吐出速度が10m/s以上となるような吐出面積を有する、上記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の電気炉用助燃バーナー。
【発明の効果】
【0014】
本発明の助燃バーナーによれば、固体燃料を気体燃料とともに適切かつ効率的に燃焼させることで、鉄系スクラップの加熱効果を高くかつ均一にすることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1〜3を参照して、本発明の一実施形態による電気炉用助燃バーナー100を説明する。本実施形態の助燃バーナー100は、鉄系スクラップを溶解して溶鉄を製造する電気炉に付設されるものであって、燃料として気体燃料と固体燃料を用いる。
【0017】
助燃バーナー100において、燃料及び支燃性ガス供給用の本体部分は、中心側から順に固体燃料噴射管1、気体燃料噴射管2、及び支燃性ガス噴射管3が同軸に配置された3重管構造となっている。固体燃料噴射管1は、固体燃料が通過する固体燃料流路10(第1流路)を区画し、この固体燃料流路10の先端が円形の固体燃料吐出口11であり、ここから固体燃料を噴射する。気体燃料噴射管2は、固体燃料噴射管1の周囲に配置され、固体燃料噴射管1の外壁との間で気体燃料が通過する気体燃料流路20(第2流路)を区画し、この気体燃料流路20の先端がリング状の気体燃料吐出口21であり、ここから気体燃料を噴射する。支燃性ガス噴射管3は、気体燃料噴射管2の周囲に配置され、気体燃料噴射管2の外壁との間で支燃性ガスが通過する支燃性ガス流路30(第3流路)を区画し、この支燃性ガス流路30の先端がリング状の支燃性ガス吐出口31であり、ここから支燃性燃料を噴射する。
【0018】
助燃バーナー100の先端部では、固体燃料噴射管1と気体燃料噴射管2は、ともに先端がバーナー軸線に沿った同じ位置にあり、最外周の支燃性ガス噴射管3のみ、先端が10〜200mm程度突出している。各噴射管1,2,3の内径は特に限定されないが、一般に、固体燃料噴射管1の内径は10〜40mm程度、気体燃料噴射管2の内径は20〜60mm程度、支燃性ガス噴射管3の内径は40〜100mm程度とする。各噴射管の厚みも特に限定されないが、一般に2〜20mm程度とする。
【0019】
また、バーナー後端側において、支燃性ガス噴射管3のバーナー後端側には、支燃性ガス供給口32が設けられ、これを介して支燃性ガス流路30に支燃性ガスが供給される。同じく、気体燃料噴射管2のバーナー後端側には、気体燃料供給口22が設けられ、これを介して気体燃料流路20に気体燃料が供給される。同じく、固体燃料噴射管1のバーナー後端側には、固体燃料供給口12が設けられ、これを介して固体燃料流路30に固体燃料が搬送気体とともに供給される。
【0020】
支燃性ガス供給口32には、支燃性ガス供給機構(図示せず)が接続され、これが支燃性ガスを支燃性ガス供給口32に供給する。気体燃料供給口22には、気体燃料供給機構(図示せず)が接続され、これが気体燃料を気体燃料供給口22に供給する。固体燃料供給口12には、固体燃料供給機構及び搬送気体供給機構(ともに図示せず)が接続され、これらが固体燃料及び搬送気体を固体燃料供給口12に供給する。
【0021】
また、図示しないが、支燃性ガス噴射管3の外側には、さらに内側管体と外側管体が同軸に配され、それら外側管体と内側管体との間と、内側管体と支燃性ガス噴射管3との間に、相互に連通した冷却流体用流路(冷却流体の往路及び復路)を形成している。
【0022】
本実施形態の助燃バーナーに使用できる燃料としては、以下のものが例示できる。気体燃料としては、例えば、LPG(液化石油ガス)、LNG(液化天然ガス)、水素、製鉄所副生ガス(Cガス、Bガス等)、これらの2種以上の混合ガスなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。また、固体燃料としては、粉末状固体燃料、例えば、石炭(微粉炭)、プラスチック(粒状又は粉状のもの。廃プラスチックを含む)などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができるが、石炭(微粉炭)が特に好ましい。また、支燃性ガスとしては、純酸素(工業用酸素)、酸素富化空気、空気のいずれを用いてもよいが、純酸素を用いることが好ましい。搬送気体としては、例えば窒素を用いることができる。
【0023】
[支燃性ガス噴射管を最外周とする理由]
支燃性ガスの流量は、供給ガス量の中で最も多いことから、他の供給ガス(気体燃料及び搬送気体)と流速を合せるためには、支燃性ガス吐出口31の吐出面積を気体燃料吐出口21や固体燃料吐出口11よりも大きくする必要がある。その観点から、支燃性ガス噴射管3は最外周とするのが最適である。以下、支燃性ガスとして酸素を、気体燃料としてLNGを、固体燃料として微粉炭をそれぞれ使用する場合を例に説明する。
まず、燃焼に必要な酸素の量は下記(1)式により算出される。
燃焼に必要な酸素量=酸素比(係数)×[LNG流量×LNGの理論酸素量+微粉炭供給量×微粉炭の理論酸素量] …(1)
【0024】
燃焼に必要な酸素量について、以下の条件にて具体的に算出する。すなわち、計算条件として、LNGの発熱量を9700kcal/Nm
3とし、固体燃料である微粉炭の発熱量を6250kcal/kgとする。また、助燃バーナーの総エネルギーの90%を固体燃料、10%を気体燃料から供給するものとする。例えば、LNGを10Nm
3/hで供給する場合は、その発熱量は97Mcal/hとなる。この場合、バーナーの目標総発熱量である970Mcal/hとの差分である873Mcal/hを微粉炭から供給する必要があり、その供給量は約140kg/hとなる。また、理論酸素量は燃料中の炭素分や水素分などから算出され、LNGの理論酸素量は2.25Nm
3/Nm
3程度、微粉炭の理論酸素量は1.5Nm
3/kg程度である。
【0025】
酸素比は1.0〜1.1の酸素過剰条件が一般的であり、酸素比を1.05とした場合の燃焼に必要な酸素量は、上記(1)式より244Nm
3/h(=1.05×[10×2.25+140×1.5])と算出される。したがって、純酸素を用いた場合では、LNG燃料の24.4倍の流量が必要である。また、微粉炭の搬送窒素と比較しても、固気比(単位時間当たりの固体の供給速度/単位時間当たりの搬送気体の供給速度)が10の場合の窒素流量は11Nm
3/h程度であり、約22倍の流量が必要である。したがって、酸素の吐出速度を燃料ガスや微粉炭の吐出速度と同じにするためには、支燃性ガス吐出口31は、気体燃料吐出口21や固体燃料吐出口11の20倍以上の吐出面積(径方向断面積)が必要となる。このため、バーナーのレイアウト上、支燃性ガス吐出口31をバーナーの最外周部に配置するのが合理的である。また、支燃性ガスとして純酸素ではなく、空気を用いる場合はさらに5倍の流量が必要となる。この場合も同様の理由から、支燃性ガス吐出口31をバーナーの最外周部に配置するのが合理的である。
【0026】
[旋回羽根]
支燃性ガス流路30には、その周方向に所定間隔で、支燃性ガスを旋回(バーナー周方向での旋回。以下同様)させるための複数枚の旋回羽根4が設けられる。支燃性ガスに旋回を付与することにより、固体燃料を適切かつ効率的に燃焼させることができ、これによりスクラップ加熱効果が向上し、さらに、バーナーの火炎温度が均一化される。その結果、電気炉内のスクラップを効率よく加熱又は溶解することができる。
【0027】
燃焼に必要な要素として、可燃性物質、酸素、温度(火源)の3要素が挙げられる。また、可燃性物質の状態に関して、燃焼の容易さは気体、液体、固体の順番である。これは、可燃性物質が気体状態であれば、可燃性物質と酸素との混合が容易であり、燃焼の継続(連鎖反応)が行われるからである。
【0028】
助燃バーナーを用いて可燃性物質として気体燃料を燃焼させた場合、酸素濃度や気体燃料の流速やバーナーチップ形状に依存するが、一般的に気体燃料はバーナー先端から噴射された直後に即座に燃焼する。これに対して、可燃性物質として石炭に代表される固体燃料を用いる場合、気体燃料のように早く燃焼させるのは困難である。これは、石炭の着火温度が400〜600℃程度であり、この着火温度を維持することと、着火温度までの昇温時間が必要であることに起因する。
【0029】
固体燃料が着火温度に到達するまでの昇温時間は、固体燃料の粒径(比表面積)に依存し、粒子を細かくすれば、着火時間を短くすることはできる。これは、燃焼反応が、着火温度の維持と、可燃性物質と酸素との反応によって進行するためである。燃焼反応を効率よく進行させるためには、石炭の効率的な加熱と、石炭と酸素との反応を順次発生させることが重要である。
【0030】
本実施形態の助燃バーナーは、上記のような石炭の効率的な加熱と、可燃性物質と酸素との反応を、ガスの旋回を利用して向上させるものである。
【0031】
以下、助燃バーナーの気体燃料としてLNG(液化天然ガス)、固体燃料として石炭(微粉炭)、支燃性ガスとして純酸素を使用する場合を例として説明する。なお、燃料の着火温度は、一般的には固体燃料>液体燃料>気体燃料である。
【0032】
助燃バーナーの燃料としてLNGと石炭を用いた場合、LNGと純酸素の燃焼により石炭の着火温度以上の燃焼場が作られ、この燃焼場に石炭が送り込まれることで石炭が着火温度まで温度上昇し、石炭の燃焼(気化→着火)が起こる。石炭の温度上昇に必要な熱量が消費されるため火炎温度は低下するが、石炭の着火が起きる領域では温度が上昇する。
【0033】
燃料であるLNGや石炭と酸素の反応により、不燃性気体である二酸化炭素が発生する。不燃性気体は燃焼の継続(連鎖反応)を阻害し、燃焼性を低下させる原因となる。また、石炭は搬送気体とともに供給されるが、搬送気体の流量が多いと搬送気体の比熱分の温度低下となることから、一般的に、固気比を大きくした方が燃焼性は向上する。しかしながら、固気比が大きい状態とは、石炭が密な状態であり、外部からの熱や酸素との反応が中心部へ伝わりにくい条件である。石炭を効率よく燃焼させるためには、石炭の燃焼場において、石炭の周囲に熱や酸素が十分存在する条件を作り出すことが重要である。
【0034】
そして、本発明者らによる検討の結果、酸素に特定の条件で旋回を付与することで、燃焼場において石炭の周囲に熱や酸素が十分存在する条件を作り出すことができることが判った。この結果、石炭が効率的に加熱されるとともに、石炭(及びLNG)と酸素の反応が迅速に行われ、さらに、反応によって発生する二酸化炭素も酸素の旋回により拡散される。このため、石炭の燃焼性が向上する。
【0035】
すなわち、本実施形態では、複数枚の旋回羽根4のバーナー軸線に対してなす角度θ(
図3)を5°以上45°以下とする必要がある。この旋回羽根4の角度θが5°未満では、支燃性ガスに十分な旋回を付与することができず、さきに述べたような本発明が狙いとする作用効果が十分に得られない。一方、旋回羽根4の角度θが45°を超えると、支燃性ガスが外側に拡散しすぎ、燃焼場において石炭の周囲に熱や酸素が十分存在する条件を作り出すことができないため、この場合も、さきに述べたような本発明が狙いとする作用効果が十分に得られない。以上のような観点から、より好ましい旋回羽根4の角度θは10°以上30°以下である。
【0036】
旋回羽根4の枚数や旋回羽根4の肉厚などについては、特に制限はないが、支燃性ガスに十分な旋回を付与する一方で、支燃性ガスの流れを阻害せず、かつ羽根が変形しないようにするために、旋回羽根4の枚数は8枚以上16枚以下、羽根の肉厚は1〜10mm程度が適当である。
【0037】
また、バーナー軸方向での旋回羽根4の設置位置は、支燃性ガス流路30内であれば特に制限はないが、支燃性ガス流路30の先端(支燃性ガス吐出口31)から離れすぎると、旋回羽根4を通過した支燃性ガスが気体燃料と混合する前に目標とする旋回角度を維持できなくなる恐れがある。一方、旋回羽根4の設置位置が支燃性ガス流路30の先端(支燃性ガス吐出口31)に近すぎると、旋回角度を保持するための助走時間が短いため、狙い通りの旋回角度を保持した旋回流(支燃性ガス流)が生じにくくなる。このため、旋回羽根4の支燃性ガス吐出口31側の先端と、支燃性ガス吐出口31とのバーナー軸方向での距離L
Bは10〜50mm程度とするのが好ましい。
【0038】
また、バーナー軸方向での旋回羽根4の長さL
Aは、安定した旋回流が得られるようにするために40mm以上であることが好ましい。また、当該長さL
Aは、羽根の製造コストの観点から100mm以下であることが好ましい。
【0039】
また、各々の旋回羽根4の支燃性ガス流路30の周方向における長さ(周長)をQとし、複数枚の旋回羽根4の支燃性ガス流路30の周方向での間隔をPとしたとき、Q/P(ラップ率)を1.0以上1.2以下とすることが好ましい。Q/Pが1.0未満では、ガス流れに旋回を付与しにくくなる結果、火炎温度の均一化が困難となる。一方、Q/Pが1.2を超えると、ガスが流れる際の抵抗が大きくなるため、ガスの流れに対して圧力損失が大きくなり、流れにくくなる結果、やはり火炎温度の均一化が困難となる。なお、
図3に示すように、全ての旋回羽根4は、距離L
B、バーナー軸方向での長さL
A、及び周長Qが同一であり、間隔Pも等間隔であることが好ましい。
【0040】
旋回羽根4は、それ自体を管体(噴射管)に組み込む方式としてもよいし、管体と一体構造となるような機械加工を施したものでもよい。
【0041】
また、本発明者らの知見によると、支燃性ガス吐出口31から吐出される支燃性ガスの流速が10m/s未満になると、固体燃料の燃焼が不均一になりやすく、さらに燃え残りの固体燃料が流路の中で詰まってしまう現象が発生するおそれがある。このため、支燃性ガスの吐出流速は10m/s以上とすることが好ましい。支燃性ガスの吐出流速Sは、支燃性ガス流量Hと支燃性ガス吐出口31の吐出面積A(径方向断面積)で決まる(S=H/A)。このため、支燃性ガス吐出口31は、支燃性ガスの最小供給量における支燃性ガス吐出口からの支燃性ガス吐出速度が10m/s以上となるような吐出面積(径方向断面積)とすることが好ましい。なお、「最小供給量」とは、固体燃料の燃焼が不均一にならず、かつ、燃え残りの固体燃料が流路の中で詰まることがない最小の供給量をいう。
【0042】
以上説明した本実施形態の助燃バーナー100によれば、固体燃料を気体燃料とともに適切かつ効率的に燃焼させることにより、スクラップ加熱効果が向上し、さらに、バーナーの火炎温度が均一化する。さらに、本実施形態の助燃バーナー100では、以下の付加的な効果を奏する。すなわち、本実施形態では、全燃料に占める固体燃料の比率(発熱量換算、以下単に「固体燃料比率」という。)を変えることにより、加熱又は溶解しようとするスクラップとの距離に応じて火炎長さを任意に調整することができる。また、一般に、助燃バーナーはガス流速が比較的小さいために、飛散してくる溶鉄や溶融スラグのスプラッシュによりガス吐出口が詰まってしまうことがあるが、本実施形態では、固体燃料の搬送ガスによりスプラッシュがパージされるため、スプラッシュによるガス吐出口の詰まりが生じにくい。
【0043】
図4は、本実施形態の助燃バーナー100の使用状況の一例(電気炉の半径方向での縦断面)を模式的に示すものであり、7は炉体、8は電極、100は助燃バーナー、xはスクラップである。助燃バーナー100は、適当な伏角をもって設置される。助燃バーナー100は、電気炉内のいわゆるコールドスポットにあるスクラップを加熱又は溶解できるように、通常、複数基設置される。
【0044】
ここで、助燃バーナーに用いる燃料の着火温度によって、火炎長さに違いが生じる。固体燃料と気体燃料は着火温度が異なるので、固体燃料比率を変えることにより、助燃バーナーの火炎長さ(つまり、バーナーからある距離だけ離れた位置での火炎温度)を任意に調整することができる。
【0045】
さきに述べたように、本実施形態の助燃バーナーでは、気体燃料と支燃性ガスの燃焼により固体燃料の着火温度以上の燃焼場が作られ、この燃焼場に固体燃料が送り込まれることで固体燃料が着火温度まで温度上昇し、固体燃料の燃焼(気化→着火)が起こる。固体燃料の温度上昇に必要な熱量が消費されるため火炎温度は低下するが、固体燃料の着火が起きる領域では温度が上昇する。したがって、本実施形態の助燃バーナーで生じる火炎は、固体燃料比率が低い時はバーナー先端から近い位置が高温となる(すなわち短い火炎となる)が、固体燃料比率を高くすると、固体燃料の吸熱の後の発熱により、バーナー先端から遠い位置でも高温となる(すなわち長い火炎となる)。したがって、固体燃料比率を変えることで、火炎長さ(つまり、バーナーからある距離だけ離れた位置での火炎温度)を制御することができる。
【0046】
図5は、本実施形態の助燃バーナーについて、固体燃料比率を変えた場合の火炎長さの変化を模式的に示したものである。同図において、実線はバーナー軸方向においてバーナー先端から0.2m離れた位置での火炎温度であり、破線は同じくバーナー先端から0.4m離れた位置での火炎温度であり、横軸は気体燃料+固体燃料中での固体燃料の比率である。
図5によれば、固体燃料比率が低い条件では、バーナー近傍である0.2m位置での火炎温度は高温であるが、0.4m位置では急激な温度低下が生じている。すなわち、火炎長さが短い。一方、固体燃料比率が高い条件では、バーナー近傍である0.2m位置での火炎温度は、気体燃料100%の場合と比較して低温であるが、0.4m位置でもほとんど温度低下が生じていない。すなわち、火炎長さが長い。これは、バーナー近傍では気体燃料が優先的に燃焼し、その火炎内で高温化した固体燃料が0.4m位置で燃焼され、温度が維持されるためである。
【0047】
電気炉の操業では、スクラップの装入、追装や溶解により助燃バーナーとスクラップとの距離が変化する。一般に、助燃バーナーとスクラップの距離は、操業開始時や追装後の初期段階では小さく、スクラップの溶解の進行とともに大きくなる。これは、最初に助燃バーナーに近いスクラップから順に溶解されるため、スクラップの溶解の進行とともに、未溶解のスクラップと助燃バーナーとの距離が大きくなっていくためである。本実施形態の助燃バーナーは、加熱又は溶解しようとするスクラップとの距離に応じて固体燃料比率を変えることで火炎長さを調整(変更)し、スクラップと助燃バーナーとの距離の関わりなく、火炎がスクラップに届くようにすることができる。すなわち、助燃バーナーとスクラップの距離が小さい時は、固体燃料比率を低くして火炎長さを短くし、助燃バーナーとスクラップの距離が大きい時は、固体燃料比率を高めて火炎長さを長くする。これにより、スクラップを効率よく加熱又は溶解することができる。
【0048】
具体的には、電気炉の一般的な操業(1チャージの操業)では、2〜3回程度のスクラップの装入が行われる。電気炉の操業は、初回スクラップを装入した後に、通電開始や助燃バーナー使用開始により始まる。操業開始時の状態は、前操業の溶鉄を一部残留させて下部に溶湯が存在する場合と、前操業の溶鉄全量を出湯させて炉内が空の場合があるが、操業方法に大きな違いはない。スクラップ装入後の初期段階は、嵩密度が高く電気炉内の全体にスクラップが充填されている状況である。したがって、助燃バーナー先端部とスクラップの距離は近い状態にある。スクラップ装入後の初期段階における助燃バーナー先端部とスクラップの距離は大よそ0.5m程度である。これは、助燃バーナー先端部とスクラップの距離が近すぎると、スクラップが溶解した時に発生するスプラッシュが助燃バーナーに溶着してしまうためである。また、助燃バーナー先端部高さの位置は、炉の特性にもよるが、スクラップ溶け落ち後の湯面高さから1m以上上方であるのが一般的である。
【0049】
操業が進行すると、溶鉄と接している下部や、電極近傍や、助燃バーナー近傍のスクラップから溶解が進行していく。助燃バーナー近傍のスクラップは、スクラップ装入後の初期段階では溶解とともに上部にあるスクラップが落下するため、常に0.5m程度の距離があるが、上部のスクラップがなくなるとスクラップとの距離が遠くなる。スクラップとの距離が遠くなると、助燃バーナーの熱をスクラップに対して効率的に供給することができないことから、従来では、助燃バーナーを停止する操業を行うこともあった。これに対して本実施形態の助燃バーナーを用いた操業では、スクラップが近い時は固体燃料比率を低くして短い火炎でスクラップを溶解し、溶解が進行してスクラップの距離が遠くなった時に固体燃料比率を高くすることで、長い火炎でスクラップを溶解する。これによって、より多くのスクラップを効率的に溶解することができ、操業時間の短縮および電力原単位の削減を図ることができる。2〜3回程度のスクラップの装入により助燃バーナーとスクラップとの距離が変化することから、固体燃料比率をその都度適正に変化させることで、スクラップを効率的に溶解させることができる。
【0050】
上記操業の場合、助燃バーナーとスクラップの距離を把握する必要があるが、例えば、助燃バーナーにレーザー距離計を設置し、このレーザー距離計によりスクラップまでの距離を測定することができる。また、排滓口などの窓を通じて炉内の状況を監視カメラで観察することができ、電気炉の構造によっては、この監視カメラによる炉内の観察によりスクラップまでの距離を把握することができる。また、操業データから距離の把握に有用な情報が得られる場合もある。
【実施例】
【0051】
図1〜
図3に示す構造の助燃バーナーを用いて鉄板を加熱し、鉄板の温度測定を行った。バーナーの出力は590Mcal/hである。
【0052】
燃料にはLNG(気体燃料)と微粉炭(固体燃料)を用い、支燃性ガスには純酸素を用いた。中心の固体燃料噴射管から窒素を搬送気体として微粉炭を噴射するとともに、その外側の気体燃料噴射管からLNGを、その外側(最外周)の支燃性ガス噴射管から純酸素を、それぞれ噴射した。
【0053】
微粉炭の仕様は、表1に示す。LNG流量は6.1Nm
3/h、微粉炭供給量は85kg/h、酸素流量は155Nm
3/h、微粉炭搬送用の窒素の流量は6.7Nm
3/hとした。支燃性ガス吐出口31の吐出面積は2064mm
2であり、酸素流量から算出した酸素の流速はいずれも21m/sである。固体燃料比率は90%とした。吹込み酸素量は、酸素比を1.1として上記(1)式により算出した。
【0054】
各水準における支燃性ガス噴射管の流路に設けた旋回羽根の角度θと、Q/Pの値を表2に示した。なお、角度0°の旋回羽根とは、支燃性ガスの旋回目的ではなく、気体燃料噴射管2と支燃性ガス噴射管3とを同芯状に保持する部材として設けられるものである。なお、全水準において、旋回羽根の枚数は8枚、L
Bは40mm、Pは30mmとした。
【0055】
図6に、助燃バーナーを用いた燃焼試験の概略を示す。
図6(A)は燃焼試験の方法を、
図6(B)は当該燃焼試験で用いた鉄板に対する熱電対の設置位置を、それぞれ示している。
【0056】
温度測定に用いた鉄板の寸法は縦500mm、横500mm、厚み4mmであり、SS400を用いた。鉄板の温度を測定するために、バーナー火炎の照射面の反対側にK型熱電対を、板中央に1カ所、中央から左右100mmの位置に各1カ所、中央から左右200mmの位置に各1カ所の計5カ所設置した。さらに、K型熱電対を設置した鉄板面側に、厚み25mmの断熱材(耐火ボード)を設置した。この断熱材付の鉄板を、助燃バーナーと対向する前面にバーナー火炎導入用の開口を設けた炉(炉内温度:室温)内に配置した。バーナー先端から鉄板までの距離は、電気炉操業を想定して1.0mとした。バーナー点火を実験開始とし、鉄板に設置した熱電対の出力をデータロガーに取り込み、鉄板温度を経時的に測定した。実験開始後10分程度で5カ所の熱電対の温度は一定となった。この温度を最高加熱温度とした。
【0057】
各水準における、5点での最高加熱温度とその平均温度を表2に示す。また、5点の温度ばらつきの指標として、(5点中の最大温度)−平均温度の値と、平均温度−(5点中の最小温度)の値を示す。各値が50℃を超えると不良であると判定した。
【0058】
表2から明らかなように、角度θが0°のNo.10では、5点の平均温度は高いものの、微粉炭の燃焼性が悪くかつ不安定であるため、5点のばらつきが非常に大きかった。このためスクラップを均一に加熱できず、スクラップの不均一溶解を生じてしまう。
【0059】
これに対して、角度θが本発明範囲であるNo.1〜5では、5点の平均温度が高く、かつ、5点のばらつきが小さい。すなわち、微粉炭が適切且つ効率的に燃焼したことにより、高い燃焼性が得られていることが判る。このため、電気炉操業において炉内のスクラップを均一に加熱できる。No.1〜5のなかでも、旋回羽根の角度θを10°以上30°以下としたNo.2〜4では、5点の平均温度が特に高く、かつ5点のばらつきが特に小さい。すなわち、より優れた性能を有する助燃バーナーであるといえる。
【0060】
一方、旋回羽根の角度θが60°であるNo.11では、支燃性ガスが鉄板幅方向に拡散しすぎるため、5点の平均温度が低く、さらに5点のばらつきもNo.10と同様に大きかった。すなわち、助燃バーナーとしての能力は低いといえる。
【0061】
また、旋回羽根の角度θを45°で固定し、Q/Pの値を種々変更したNo.5〜9を比較すると、Q/Pを1.0以上1.2以下としたNo.5,7,8において、特に5点のばらつきを小さくすることができた。
【0062】
この試験でのバーナー出力590Mcal/hは、60t/chの電気炉に設置されている規模であり、実機スケールでの試験を実施した。したがって、実機の電気炉においても同様な効果が期待できることは明らかである。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】