【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物の振動を抑制する既設の免震装置を新規の免震装置に交換するための免震装置の交換方法であって、既設の免震装置に支持された上層部と既設の免震装置が載置された下層部との間に、上下方向に伸縮可能なジャッキと、水平方向に互いに相対変位可能な上下一対の可動部材を有する仮設支承とを、互いに積層した状態で仮設する仮設工程と、仮設されたジャッキを伸長することによって、ジャッキ及び仮設支承に上層部を支持させ、その状態で、既設の免震装置を撤去するとともに、新規の免震装置を設置する設置工程と、ジャッキを短縮することによって、新規の免震装置に上層部を支持させた後、ジャッキ及び仮設支承を撤去する撤去工程と、を含
み、ジャッキはフラットジャッキであり、設置工程において、ジャッキ及び仮設支承に上層部を支持させている状態で、上下一対の可動部材のうちのジャッキ側のジャッキ側部材を、上層部及び下層部のうちのジャッキ側のジャッキ側層部に、連結部材で連結する連結工程をさらに含むことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、仮設工程において、既設の免震装置に支持された上層部と既設の免震装置が載置された下層部との間に、上下方向に伸縮可能なジャッキと、水平方向に互いに相対変位可能な上下一対の可動部材を備える仮設支承とが、互いに積層した状態で仮設される。また、設置工程において、仮設されたジャッキを伸長することにより、ジャッキ及び仮設支承に上層部を支持させ、その状態で、既設の免震装置が撤去されるとともに、新規の免震装置が設置される。さらに、撤去工程において、ジャッキを短縮することにより、新規の免震装置に上層部を支持させた後、ジャッキ及び仮設支承が撤去される。
【0008】
このように、免震装置の交換中に、ジャッキ及び仮設支承に上層部を支持させる。このため、当該交換中に地震が発生した場合でも、仮設支承の上下一対の可動部材が相対変位することによって、下層部から仮設支承を介した上層部への地震動の伝達が抑えられるので、地震による構造物の振動を適切に抑制でき、ひいては、既設の免震装置の交換を安全に行うことができる。
【0010】
また、この構成によれば、ジャッキはフラットジャッキであり、比較的軽く、その上下方向の長さ(厚さ)が比較的小さいので、その施工性を向上させることができる。
【0011】
また、免震装置の交換中、比較的大きな地震の発生によって、大きな剪断力が仮設支承に作用した場合には、この剪断力に起因する大きなモーメントがジャッキに作用する。このモーメントは、ジャッキの上下方向の長さが大きいほど、より大きくなるため、免震装置の交換中における大きな地震の発生時、ジャッキの上下方向の長さが大きいときには、ジャッキに作用するモーメントが過大になることで、ジャッキが故障する可能性がある。本発明によれば、上述したようにフラットジャッキの上下方向の長さが小さいので、免震装置の交換中に大きな地震が発生した場合に、ジャッキに作用するモーメントを低減でき、それにより、上述したジャッキの故障を防止することができる。
【0013】
さらに、この構成によれば、設置工程において、ジャッキ及び仮設支承に上層部を支持させている状態で、連結工程が行われることによって、上下一対の可動部材のうちのジャッキ側のジャッキ側可動部材が、上層部及び下層部のうちのジャッキ側のジャッキ側層部に、連結部材で連結される。このように、ジャッキの上下両側に位置するジャッキ側可動部材及びジャッキ側層部が、連結部材で互いに連結されるので、免震装置の交換中に大きな地震が発生した場合に、
ジャッキに作用する上記のモーメントを連結部材で負担でき、ひいては、このモーメントに起因するジャッキの故障を防止することができる。
【0014】
請求項
2に係る発明は、請求項
1に記載の免震装置の交換方法において、仮設支承は、上下一対の可動部材のうちのジャッキ側のジャッキ側部材に取り付けられ、上下一対の可動部材の間に上下方向に積層された複数のゴムから成る積層ゴムと、積層ゴムに取り付けられ、滑性を有する滑り材と、をさらに有し、上下一対の可動部材のうちのジャッキと反対側の反ジャッキ側部材は、滑性を有する滑り板で構成され、滑り材に接触するとともに、上層部及び下層部のうちのジャッキと反対側の反ジャッキ側層部に連結されることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、仮設支承の上下一対の可動部材の一方が、滑性を有する滑り板で構成されている。また、上下一対の可動部材の他方に、上下一対の可動部材の間に上下方向に積層された積層ゴムが取り付けられており、この積層ゴムには、滑性を有するとともに、滑り板に接触する滑り材が取り付けられている。したがって、免震装置の交換中に地震が発生した場合に、積層ゴムによる免震効果が得られることによって、地震による構造物の振動をより適切に抑制することができる。
【0016】
また、免震装置の交換中に大きな地震が発生した場合に、滑り板と滑り材の間で滑りが発生することによって、下層部から仮設支承を介した上層部への地震動の伝達が抑えられ、地震による構造物の振動を適切に抑制することができる。この場合、ジャッキ側部材に積層ゴム及び滑り材を取り付けるので、滑り板と滑り材の間で滑りが発生したときに、積層ゴム及び滑り材が、上下方向においてジャッキからずれることがなく、上層部をジャッキ及び仮設支承で適切に支持することができる。また、本発明と異なり、積層ゴムが上下一対の可動部材に一体に設けられた積層ゴムタイプの仮設支承を用いた場合には、その免震効果を適切に得るべく、上下一対の可動部材の水平方向の可動範囲を十分に確保するために、積層ゴムの上下方向の長さを比較的大きくしなければならない。これに対して、本発明によれば、上記のように、滑り板と滑り材の間で滑りを発生させることで下層部から仮設支承を介した上層部への地震動の伝達を抑制するので、上述した積層ゴムタイプの仮設支承を用いた場合と比較して、積層ゴムの上下方向の長さを小さくでき、それにより、仮設支承の施工性を向上させることができる。
【0017】
さらに、免震装置の交換中に大きな地震が発生した場合に、滑り板と滑り材の間で滑りが発生することによって、仮設支承に作用する剪断力を低減することができる。これにより、ジャッキに作用する
上記のモーメントを低減できるので、前述した不具合、すなわち大きなモーメントが作用することに起因するジャッキの故障を防止することができる。
【0018】
前記目的を達成するために、請求項
3に係る発明は、構造物の振動を抑制する既設の免震装置を新規の免震装置に交換するときに、既設の免震装置に支持されていた上層部を既設の免震装置に代わって支持するために仮設され、新規の免震装置の交換後に撤去される仮設支持装置であって、上層部と、既設の免震装置が載置された下層部との間に仮設され、上下方向に伸縮可能なジャッキと、水平方向に互いに相対変位可能な上下一対の可動部材を有し、上層部と下層部の間に、ジャッキに積層した状態で仮設される仮設支承と、を備え、ジャッキを伸長することによって、ジャッキ及び仮設支承で上層部を支持するように構成され
、ジャッキはフラットジャッキであり、ジャッキ及び仮設支承に上層部を支持させている状態で、上下一対の可動部材のうちのジャッキ側のジャッキ側部材を、上層部及び下層部のうちのジャッキ側のジャッキ側層部に連結するための連結部材をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、免震装置を交換するときに、上層部と下層部の間に、上下方向に伸縮可能なジャッキと、仮設支承が互いに積層した状態で仮設されるとともに、ジャッキを伸長することによって、上層部が、ジャッキ及び仮設支承で支持される。また、仮設支承が水平方向に互いに相対変位可能な上下一対の可動部材を有している。このため、免震装置の交換中に地震が発生した場合でも、これらの可動部材が相対変位することによって、下層部から仮設支承を介した上層部への地震動の伝達が抑えられるので、地震による構造物の振動を適切に抑制でき、ひいては、既設の免震装置の交換を安全に行うことができる。
【0021】
また、この構成によれば、ジャッキはフラットジャッキであり、比較的軽く、その上下方向の長さ(厚さ)が比較的小さいので、その施工性を向上させることができる。
【0022】
また、免震装置の交換中、比較的大きな地震の発生によって、大きな剪断力が仮設支承に作用すると、この剪断力に起因する大きなモーメントがジャッキに作用する。このモーメントは、ジャッキの上下方向の長さが大きいほど、より大きくなるため、免震装置の交換中における大きな地震の発生時、ジャッキの上下方向の長さが大きいときには、ジャッキに作用するモーメントが過大になることで、ジャッキが故障する可能性がある。本発明によれば、上述したようにフラットジャッキの上下方向の長さが小さいので、免震装置の交換中に大きな地震が発生した場合でも、ジャッキに作用するモーメントを低減でき、それにより、上述したジャッキの故障を防止することができる。
【0024】
さらに、この構成によれば、ジャッキ及び仮設支承に上層部を支持させている状態で、上下一対の可動部材のうちのジャッキ側のジャッキ側可動部材が、上層部及び下層部のうちのジャッキ側のジャッキ側層部に、連結部材で連結される。このように、ジャッキの上下両側に位置するジャッキ側可動部材及びジャッキ側層部が、連結部材で互いに連結されるので、免震装置の交換中に大きな地震が発生した場合に、
ジャッキに作用する上記のモーメントを連結部材で負担でき、ひいては、このモーメントに起因するジャッキの故障を防止することができる。
【0025】
請求項
4に係る発明は、請求項
3に記載の仮設支持装置において、仮設支承は、上下一対の可動部材のうちのジャッキ側のジャッキ側部材に取り付けられ、上下一対の可動部材の間に上下方向に積層された複数のゴムから成る積層ゴムと、積層ゴムに取り付けられ、滑性を有する滑り材と、をさらに有し、上下一対の可動部材のうちのジャッキと反対側の反ジャッキ側部材は、滑性を有する滑り板で構成され、滑り材に接触するとともに、上層部及び下層部のうちのジャッキと反対側の反ジャッキ側層部に連結されることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、仮設支承の上下一対の可動部材の一方が、滑性を有する滑り板で構成されている。また、上下一対の可動部材の他方に、上下一対の可動部材の間に上下方向に積層された積層ゴムが取り付けられており、この積層ゴムには、滑性を有するとともに、滑り板に接触する滑り材が取り付けられている。したがって、免震装置の交換中に地震が発生した場合に、積層ゴムによる免震効果が得られることによって、地震による構造物の振動をより適切に抑制することができる。
【0027】
また、免震装置の交換中に大きな地震が発生した場合に、滑り板と滑り材の間で滑りが発生することによって、下層部から仮設支承を介した上層部への地震動の伝達が抑えられ、地震による構造物の振動を適切に抑制することができる。この場合、ジャッキ側部材に積層ゴム及び滑り材を取り付けるので、滑り板と滑り材の間で滑りが発生したときに、積層ゴム及び滑り材が、上下方向においてジャッキからずれることがなく、上層部をジャッキ及び仮設支承で適切に支持することができる。また、本発明と異なり、積層ゴムが上下一対の可動部材に一体に設けられた積層ゴムタイプの仮設支承を用いた場合には、請求項4に係る発明の説明で述べたように、その免震効果を適切に得るために、積層ゴムの上下方向の長さを比較的大きくしなければならない。これに対して、本発明によれば、上記のように、滑り板と滑り材の間で滑りを発生させることで下層部から仮設支承を介した上層部への地震動の伝達を抑制するので、上述した積層ゴムタイプの仮設支承を用いた場合と比較して、積層ゴムの上下方向の長さを小さくでき、それにより、仮設支承の施工性を向上させることができる。
【0028】
さらに、免震装置の交換中に大きな地震が発生した場合に、滑り板と滑り材の間で滑りが発生することによって、仮設支承に作用する剪断力を低減することができる。これにより、ジャッキに作用する
上記のモーメントを低減できるので、前述した不具合、すなわち大きなモーメントが作用することに起因するジャッキの故障を防止することができる。