特許第6580931号(P6580931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6580931-チタン酸バリウム粉末の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6580931
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】チタン酸バリウム粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
   C01G23/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-200719(P2015-200719)
(22)【出願日】2015年10月9日
(65)【公開番号】特開2017-71537(P2017-71537A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(74)【代理人】
【識別番号】100131255
【弁理士】
【氏名又は名称】阪田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100125324
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 健
(72)【発明者】
【氏名】国枝 武久
(72)【発明者】
【氏名】松下 晃
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−116728(JP,A)
【文献】 特開2009−209002(JP,A)
【文献】 特開2004−123431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00 − 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ba原子とTi原子を有する複合有機酸塩を、焼成雰囲気に200〜1200℃の過熱水蒸気を供給しながら、600〜1200℃で焼成して、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得る焼成工程を有することを特徴とするペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項2】
前記複合有機酸塩がカルボン酸塩であることを特徴とする請求項1記載のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項3】
前記複合有機酸塩がシュウ酸塩であることを特徴とする請求項1記載のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法に関するものであり、圧電体、オプトエレクトロニクス材、誘電体、半導体、センサー等の機能性セラミックの原料として有用なペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、従来、圧電体、積層セラミックコンデンサ等の機能性セラミックの原料として用いられてきた。ところが、近年、積層セラミックコンデンサは、高容量化のために積層数の増加や高誘電率化が求められており、このため、原料であるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末には、微細で、高い正方晶性を持つことが要望されている。
【0003】
ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を製造する1つの方法として、Ba原子とTi原子を含む複合有機酸塩を仮焼する方法がある。例えば、塩化バリウムと塩化チタンを含む溶液と、シュウ酸水溶液とを接触させ反応を行ってシュウ酸バリウムチタニルを得た後、該シュウ酸バリウムチタニルを仮焼し脱シュウ酸処理するシュウ酸塩法が代表的である。このシュウ酸塩法には、微細で正方晶性の高いペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末が得られ難いという問題があった。
【0004】
このため、例えば、下記特許文献1には、水溶性バリウム塩と水溶性チタニウム塩及びシュウ酸の水溶液を同時に混合し、得られたゲルを短時間に強力撹拌粉砕することにより得られた微細なシュウ酸バリウムチタニル(BaTiO(C)・HO)の結晶を700〜900℃で仮焼する方法が提案されている。
【0005】
また、下記特許文献2及び3には、シュウ酸バリウムチタニルを湿式粉砕処理して、微細なシュウ酸バリウムチタニルを得た後、得られたシュウ酸バリウムチタニルを仮焼する方法が提案されている。
【0006】
また、下記特許文献4には、塩化バリウム水溶液と塩化チタン水溶液との混合水溶液をシュウ酸水溶液に添加してバリウムチタン酸オキサラートを沈澱させた後、エージングし、洗浄、ろ過、乾燥させてバリウムチタン酸オキサラートを製造する段階;製造したバリウムチタン酸オキサラートを一次仮焼後、一次仮焼して微粒のチタン酸バリウム粉末を製造する段階;および前記微粒のチタン酸バリウム粉末を二次仮焼後、二次粉砕する段階、を有する方法が提案されている。
【0007】
また、下記特許文献5には、チタン化合物水溶液とバリウム化合物水溶液を接触させ固体反応物を得た後、該固体反応物を水蒸気と接触させながら加熱処理するチタン酸バリウム粉末の製造方法であり、チタン酸化合物およびバリウム化合物がシュウ酸塩である方法が提案されている。
【0008】
また、下記特許文献6には、Ba原子とTi原子を含む複合有機酸塩を焼成炉中で加湿空気の存在下で仮焼して、微細で且つ高い正方晶性を持つペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特昭61−146710号公報
【特許文献2】特開2004−123431号公報
【特許文献3】特開2002−53320号公報
【特許文献4】特開2003−212543号公報
【特許文献5】特開2000−344519号公報
【特許文献6】特開2009−209002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記従来技術のようにシュウ酸塩を用いるシュウ酸塩法をはじめとする複合有機酸塩を用いるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を製造する方法が種々検討されているが、更に工業的に有利な方法で、微細で、高い正方晶性を持つペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を製造する方法が要望されていた。
【0011】
従って、本発明の目的は、Ba原子とTi原子を有する複合有機酸塩を焼成するペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法において工業的に有利な方法で、微細であり且つ高い正方晶性を持つペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、Ba原子とTi原子を有する複合有機酸塩を焼成する際に、焼成雰囲気に炭酸ガスが多量に存在すると、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の表面や内部に炭酸バリウムが生成されるため、正方晶の指標となるc軸とa軸の比(c/a)が低くなり、強誘電体としての特性が低いペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末が生成すること、また、焼成中の際の雰囲気中の炭酸ガス濃度を低減すれば、微細であり、且つ、同じ焼成温度でも高い正方晶性を持つペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を製造することができること、更に、雰囲気中に過熱水蒸気を多量に存在させて焼成を行うと、炭酸ガスが過熱水蒸気により効果的に吸収され、このため焼成中の雰囲気の炭酸ガス濃度を低減できるので、微細であり且つ同じ焼成温度でも高い正方晶性を持つペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0013】
すなわち、本発明は、Ba原子とTi原子を有する複合有機酸塩を、焼成雰囲気に200〜1200℃の過熱水蒸気を供給しながら、600〜1200℃で焼成して、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得る焼成工程を有することを特徴とするペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、工業的に有利な方法で、微細であり且つ高い正方晶性を持つペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を製造することができる。そして、本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法により製造されたペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、圧電体、オプトエレクトロニクス材、誘電体、半導体、センサー等の電子部品用機能性セラミックの原料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法の形態例を行うための焼成炉を示す模式的な端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法について、図1を参照して説明する。図1は、本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法の形態例を行うための焼成炉を示す模式図であり、端面図である。
【0017】
図1に示す焼成炉1を用いる形態例では、先ず、アルミナファイバーボードで覆われた焼成炉1内に、Ba原子とTi原子を有する複合有機酸塩5を入れたアルミナ容器を置き、ふた2を閉める。次いで、焼成炉1内を予熱する。次いで、焼成炉1内に過熱水蒸気供給管7から過熱水蒸気11を供給しながら、焼成炉1内の温度を所定の焼成温度まで昇温し、所定の焼成温度に到達した後は、焼成炉1内に過熱水蒸気11を供給しながら、その温度を保持して焼成を行う。そして、Ba原子とTi原子を有する複合有機酸塩5を焼成すると、熱分解によりチタン酸バリウムが生成すると共に有機酸由来の炭酸ガスが発生する。発生した炭酸ガスは、周囲の過熱水蒸気に吸収され、炭酸ガスを含む過熱水蒸気12となるので、排気管4から炭酸ガスを含む過熱水蒸気12を排出させる。つまり、図1に示す焼成炉1を用いる形態例では、過熱水蒸気11を雰囲気に供給しつつ、炭酸ガスを含む過熱水蒸気12を雰囲気から排出しながら、焼成を行う。
【0018】
このとき、焼成炉1内には過熱水蒸気11が連続して供給されるので、Ba原子とTi原子を有する複合有機酸塩5が晒される雰囲気は、過熱水蒸気が多量に存在する雰囲気となる。図1に示す焼成炉1を用いる形態例では、焼成炉1内は密閉されておらず、開放系で焼成が行われるため、焼成雰囲気には少し空気が存在するものの、焼成雰囲気に過熱水蒸気11を連続して供給し続けることにより、焼成雰囲気中の空気の存在量を非常に少なくすることができる。また、過熱水蒸気の供給量を調節することにより、完全な過熱水蒸気雰囲気とすることもできる。つまり、焼成雰囲気に過熱水蒸気を供給しつつ、焼成を行うことにより、Ba原子とTi原子を有する複合有機酸塩の焼成雰囲気を、空気の存在量が非常に少ない過熱水蒸気雰囲気又は完全な過熱水蒸気雰囲気にして、焼成を行うことができる。
【0019】
そして、焼成によって発生した炭酸ガスが、生成したチタン酸バリウム粉末の周りに存在すると、正方晶性に悪影響を与えるが、図1に示す焼成炉1を用いる形態例では、焼成雰囲気に過熱水蒸気が多量に存在するため、炭酸ガスが過熱水蒸気に吸収される。そのため、図1に示す焼成炉1を用いる形態例では、炭酸ガスに起因する悪影響を防ぐことができる。また、図1に示す焼成炉1を用いる形態例では、焼成雰囲気に存在する空気が非常に少ないので、二酸化炭素に起因する副反応を防ぐことができる。
【0020】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法は、Ba原子とTi原子を有する複合有機酸塩を、焼成雰囲気に過熱水蒸気を供給しながら、600〜1200℃で焼成して、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得る焼成工程を有することを特徴とするペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法である。
【0021】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法に係る焼成工程は、Ba原子とTi原子を有する複合有機酸塩を焼成して、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得る工程である。
【0022】
焼成工程に係るBa原子とTi原子を有する複合有機酸塩(以下、Ba−Ti複合有機酸塩とも記載する。)としては、BaとTiの復塩を形成できるものであれば、特に制限されず、例えば、ギ酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、乳酸塩等のカルボン酸塩、あるいは、ギ酸、シュウ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸等のカルボン酸を2種以上有する複合塩(国際公開WO2008/102785号パンフレット参照)が挙げられる。具体的には、シュウ酸バリウムチタニル、クエン酸バリウムチタニル、コハク酸バリウムチタニル等が挙げられる。これらのうち、Ba−Ti複合有機酸塩としては、シュウ酸塩、クエン酸塩が好ましく、シュウ酸塩がBa/Tiの原子比が1近傍のものの製造が容易である点及び製造コストが安価な点で特に好ましい。
【0023】
Ba−Ti複合有機酸塩中の原子換算のTiに対するBaのモル比(Ba/Ti)は、0.99〜1.01、好ましくは0.995〜1.005である。Tiに対するBaのモル比(Ba/Ti)が、0.99未満ではチタンリッチとなり、正方晶性の高いペロブスカイト型チタン酸バリウムが得られず、一方、1.01を超えるとバリウムリッチとなり、正方晶性の高いペロブスカイト型チタン酸バリウムが得られない。
【0024】
焼成工程を行い得られるチタン酸バリウムは、Aサイト元素がBaであり、Bサイト元素がTiであるペロブスカイト型の複合酸化物である。そして、焼成工程を行い得られるチタン酸バリウムは、Aサイト元素がBaのみであり且つBサイト元素がTiのみのペロブスカイト型のチタン酸バリウムであってもよいし、あるいは、Aサイト元素のBa原子の一部がCa若しくはSrのいずれか一方又はCa及びSrの両方で置換されたもの、Bサイト元素のTi原子の一部がZrで置換されたもの、又はAサイト元素のBa原子の一部がCa若しくはSrのいずれか一方又はCa及びSrの両方で置換され且つBサイト元素のTi原子の一部がZrで置換されたものであってもよい。
【0025】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウムの製造方法では、Aサイト元素のBa原子の一部がCa又はSrで、あるいは、Bサイト元素のTi原子の一部がZrで置換されたペロブスカイト型のチタン酸バリウムを得るために、Ba−Ti複合有機酸塩は、Ba原子の一部代替原子としてCa原子又はSr原子を有することもでき、また、Ti原子の一部代替原子としてZr原子を有することもできる。Ba原子の一部をCa若しくはSrのいずれか一方又はCa及びSrの両方で置換する場合、Ba−Ti複合有機酸塩中のCa原子又はSr原子の含有量は、特に制限されないが、原子換算で、Ba原子に対するCa原子及びSr原子の合計の割合が50モル%未満となる含有量が好ましい。Ti原子の一部をZrで置換する場合、Ba−Ti複合有機酸塩中のZr原子を有する化合物の含有量は、特に制限されないが、原子換算で、Ti原子に対するZr原子の割合が50モル%未満となる含有量が好ましい。Ba−Ti複合有機酸塩中、原子換算で、Aサイト元素となるBa原子、Ca原子及びSr原子の合計に対するBサイト元素となるTi原子及びZr原子の合計のモル比が、0.99〜1.01、好ましくは0.995〜1.005である。
【0026】
Ba−Ti複合有機酸塩の平均粒径は、好ましくは200μm以下、特に好ましくは100μm以下である。Ba−Ti複合有機酸塩の平均粒径が上記範囲にあることにより、微細で正方晶性の高いペロブスカイト型チタン酸バリウムチタニルを得易くなる。なお、本発明において平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により求められ、走査型電子顕微鏡観察(SEM)のSEM画像で任意に抽出したサンプル1000個の平均の値を示す。
【0027】
Ba−Ti複合有機酸塩の製造方法は、特に制限されず、例えば、公知の方法で得ることができる。Ba−Ti複合有機酸塩がシュウ酸塩の場合、例えば、塩化チタン及び塩化バリウムを含む水溶液と、シュウ酸水溶液を接触させてシュウ酸塩を析出させ、必要により熟成を行い、次いで、常法により固液分離して回収し、必要により洗浄、乾燥、粉砕等を行うことにより、BaとTiの複合シュウ酸塩を得ることができる。また、Ba−Ti複合シュウ酸塩の製造方法としては、特開2006-321722号公報、特開2006−321723号公報、特開2006−348026号公報、特開2004−123431号公報等に記載されている方法が挙げられる。
【0028】
また、Ba−Ti複合有機酸塩がクエン酸塩の場合、例えば、チタンのクエン酸溶液に塩化バリウムの溶液を添加し、クエン酸塩を析出させ、必要により熟成を行い、次いで、常法により固液分離して回収し、必要により洗浄、乾燥、粉砕等を行うことにより、BaとTiの複合クエン酸塩を得ることができる。また、Ba−Ti複合クエン酸塩の製造方法としては、例えば、米国特許第3,231,328号公報等に記載されている方法が挙げられる。
【0029】
また、Ba−Ti複合有機酸塩がシュウ酸と乳酸の両方を有するカルボン酸の複合塩の場合、例えば、チタン成分、バリウム成分及び乳酸成分を含む溶液と、シュウ酸成分を含む溶液とを、アルコールを含む溶媒中で接触させて反応させることにより、BaとTiを含むシュウ酸と乳酸の複合塩を得ることができる(例えば、国際公開WO2008/102785号パンフレット)。
【0030】
Ba−Ti複合有機酸塩を、上記で挙げられるような方法で製造した後、粒子径調節を目的として、Ba−Ti複合有機酸塩を粉砕することができる。粉砕方法としては、湿式法が好ましく、例えば、Ba−Ti複合有機酸塩を含有するスラリーを湿式粉砕装置を用いて粉砕処理する方法が挙げられる。湿式粉砕装置としては、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。また、湿式法で用いられる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、アセトン、塩化メチレン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミドおよびジエチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、アセトン、塩化メチレン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル等の有機溶媒で且つBaとTiの溶出が少ないものが、結晶性が高いペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末が得られる点で好ましい。なお、湿式法により粉砕処理を行った後、噴霧乾燥機によりスラリーごと乾燥することができる。
【0031】
Ba−Ti複合有機酸塩は、高純度なペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得るために、純度が高いほど好ましい。
【0032】
そして、焼成工程では、Ba−Ti複合有機酸塩を、焼成する。焼成工程における焼成温度は、600〜1200℃、好ましくは700〜1000℃である。焼成温度が、上記範囲未満だと、ペロブスカイト型チタン酸バリウムへと変化する固相反応が起きず、未反応のままになり易く、一方、上記範囲を超えると、生成したペロブスカイト型チタン酸バリウムが粒成長を起こすので、微細なものが得られない。焼成工程における焼成時間は、4時間以上、好ましくは6〜30時間である。また、焼成工程では、一度、600〜1200℃、好ましくは700〜1000℃で焼成を行った後、焼成物を粉砕し、所望により造粒した後、更に、600〜1200℃、好ましくは700〜1000℃で焼成を行ってもよいし、更に、粉体特性を均質にするために、一度焼成したものを粉砕し、再度焼成することを繰り返してもよい。
【0033】
焼成工程において用いられる焼成炉は、バッチ式又は連続式の電気炉、ガス炉が挙げられ、その一例として、ローラーハースキルン、ロータリーキルン、プッシャー炉等が挙げられる。
【0034】
焼成工程では、Ba−Ti複合有機酸塩の600〜1200℃、好ましくは700〜1000℃での焼成を、焼成雰囲気に過熱水蒸気を供給しつつ且つ焼成雰囲気から反応により生じる二酸化炭素等の炭酸ガスを含む過熱水蒸気を排出しながら行う。
【0035】
過熱水蒸気とは、常圧のまま100℃の飽和水蒸気をさらに加熱することにより得られる無色透明のHOガスを指す。過熱水蒸気は高温における空気中で水の飽和状態を保持しているため、焼成雰囲気に過熱水蒸気を供給しながら焼成を行うことにより、チタン酸バリウムの生成過程で発生する炭酸ガスを効果的に過熱水蒸気に吸収させつつ、焼成温度を下げることなく反応を進めることができる。また、焼成雰囲気に存在するものがほとんど過熱水蒸気となるため、空気中の二酸化炭素の存在による副反応を抑えることができる。
【0036】
過熱水蒸気は、常圧のまま100℃の飽和水蒸気をさらに加熱することにより得られるため、過熱水蒸気を焼成雰囲気に供給しながら焼成する方法では、大気圧下で反応を行うことができ、耐圧の焼成炉で行う必要がない。
【0037】
焼成工程において、焼成雰囲気に供給する過熱水蒸気の温度は、好ましくは200〜1200℃、特に好ましくは300〜1000℃である。過熱水蒸気の温度が上記範囲未満だと、焼成温度が低下し難く、また、上記範囲を超えると、焼成温度の低下を防ぐことはできるものの、過熱水蒸気を発生させるためのエネルギーが大きくなるため、製造コストが高くなる。
【0038】
過熱水蒸気の発生方法としては、水を100℃以上に加熱することにより得られる飽和水蒸気を、直接又は間接的にオイルやガスなどの燃料により加熱したり、赤外線、電磁波又はマイクロ波等の加熱手段で加熱する方法が挙げられる。このような過熱水蒸気の発生手段としては、例えば、トクデン株式会社のUPSSシリーズ、富士電機株式会社のIHSSシリーズ、日本熱電株式会社の過熱水蒸気発生装置、新熱工業株式会社の過熱水蒸気処理装置などが挙げられる。
【0039】
焼成雰囲気への過熱水蒸気の供給量は、適宜選択されるが、好ましくはBa−Ti複合有機酸塩1kg当たりで5L/分以上、さらに好ましくはBa−Ti複合有機酸塩1kg当たりで10〜200L/分、特に好ましくはBa−Ti複合有機酸塩1kg当たりで15〜100L/分である。焼成雰囲気への過熱水蒸気の供給量が、上記範囲にあることにより、反応において焼成炉内で発生した炭酸ガスを効率よく吸収させ、且つ、過熱水蒸気により炉内温度が低下することを防ぐことができる。なお、過熱水蒸気の焼成炉への導入時期であるが、少なくもBa−Ti複合有機酸塩の反応によりペロブスカイト型チタン酸バリウムが生成される前に、過熱水蒸気を焼成炉に導入することが、反応過程で生成する炭酸ガスを効果的に吸収し、炭酸ガスによる悪影響の発生を抑制できる点で好ましい。
【0040】
焼成工程を行った後、必要に応じて、焼成後のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の酸溶液での洗浄、水洗、乾燥、粉砕、分級等を行い、製品とすることができる。乾燥方法は常法を用いればよく特に限定されるものでないが、湿式粉砕処理を行った場合は、例えば、噴霧乾燥機を用いる方法を適用することができる。
【0041】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行うことにより得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、正方晶性が高く、正方晶の指標となるc軸とa軸の比(c/a)が、好ましくは1.004以上、特に好ましくは1.006〜1.010である。本発明の本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行うことにより得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の平均粒径は、電子顕微鏡観察により求められる平均粒径で、好ましくは0.5μm以下、特に好ましく0.05〜0.3μmであり、また、BET比表面積は、好ましくは2m/g以上、特に好ましくは3〜20m/gである。本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行うことにより得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、極めて高純度であり、圧電体、オプトエレクトロニクス材、誘電体、半導体、センサー等の電子部品用機能性セラミックの原料として有用である。
【0042】
また、本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法では、必要に応じ、Ba−Ti複合有機酸塩を製造する際に、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の希土類元素、Li、Bi、Zn、Mn、Al、Si、Sr、Co、V、Nb、Ni、Cr、B、Fe及びMgから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する副成分元素含有化合物を反応原料に混合し、これらの副成分元素を有するBa−Ti複合有機酸塩を得、得られるBa−Ti複合有機酸塩を焼成原料として焼成工程で焼成するか、あるいは、Ba−Ti複合有機酸塩に、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の希土類元素、Li、Bi、Zn、Mn、Al、Si、Sr、Co、V、Nb、Ni、Cr、B、Fe及びMgから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する副成分元素含有化合物を混合し、得られる混合物を焼成工程で焼成することにより、副成分元素の酸化物を含有するぺロブスカイト型チタン酸バリウムを得ることができる。
【0043】
これらの副成分元素含有化合物の種類及び混合量は、製造目的のチタン酸バリウム粉末に必要な誘電特性に合わせて任意に選択される。具体的な副成分元素含有化合物の添加量は、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末100質量部に対して、副成分元素含有化合物中の原子換算で、0.1〜5質量部である。なお、副成分元素含有化合物は無機物又は有機物のいずれであってもよい。例えば、前記の副成分元素を含有する酸化物、水酸化物、塩化物、硝酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩及びアルコキシド等が挙げられる。副成分元素含有化合物がSi元素を含有する化合物である場合は、シリカゾルや珪酸ナトリウム等も用いられる。
【0044】
本発明のぺロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法により得られるぺロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、積層コンデンサの製造原料として使用される。例えば、先ず、本発明のぺロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法により得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末と、添加剤、有機系バインダ、可塑剤、分散剤等の従来公知の配合剤とを混合し分散させてスラリー化し、得られるスラリー中の固形物を成形してセラミックシートを得る。次いで、このセラミックシートの一面に内部電極形成用導電ペーストを印刷し、乾燥後、複数枚のセラミックシートを積層し、次いで、厚み方向に圧着することにより積層体を形成する。更に、この積層体を加熱処理して脱バインダ処理を行い、焼成して焼成体を得る。その後、この焼成体にIn―Gaペースト、Niペースト、Agペースト、ニッケル合金ペースト、銅ペースト、銅合金ペースト等を塗布して焼き付けることにより積層コンデンサを得ることができる。
【0045】
また、本発明のぺロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法により得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂に配合し、樹脂シート、樹脂フィルム、接着剤等としてプリント配線板や多層プリント配線板等の材料に好適に用いることができる。また、前記ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、EL素子の誘電体材料、内部電極と誘電体層との収縮差を抑制するための共材、電極セラミックス回路基板やガラスセラミックス回路基板の基材及び回路周辺材料の原料、排ガス除去や化学合成等の反応時に使用される触媒、帯電防止効果やクリーニング効果を付与する印刷トナーの表面改質材等として好適に用いられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例において平均粒径は、任意に抽出したサンプル1000個について走査型電子顕微鏡観察(SEM)から求めた平均値として求めた。また、Ba/Tiモル比は蛍光X線分析した値に基づいて算出した。
【0047】
<シュウ酸バリウムチタニルの調製>
塩化バリウム2水塩600g(2.456モル)及び四塩化チタン444g(2.342モル)を水4100mlに溶解した混合溶液を調製し、これをA液とした。次にシュウ酸620gを70℃の温水1500mlに溶解しシュウ酸水溶液を調製し、これをB液とした。A液にB液を70℃に保持しながら撹拌下に120分かけて添加し、更に70℃で1時間撹拌下に熟成した。冷却後、ろ過してシュウ酸バリウムチタニルを回収した。次いで回収したシュウ酸バリウムチタニルを蒸留水4.5Lで3回リパルプして洗浄した。次いで、105℃で乾燥し、粉砕してシュウ酸バリウムチタニル(BaTiO(C)・4HO)1000gを得た。得られたシュウ酸バリウムチタニルの平均粒径は25μm、Ba/Tiのモル比は1.00であった。
【0048】
(実施例1〜3)
図1に示す電気式バッチ炉からなる焼成炉にて、大気下で前記シュウ酸バリウムチタニル試料50gを2.5℃/分の昇温速度で表1に示す温度まで昇温して焼成を開始した。焼成開始とともに焼成炉に、表1に示す温度に加熱した過熱水蒸気を4L/分の割合で導入して、6時間焼成を行った。焼成終了後、冷却し、粉砕を行ってチタン酸バリウム粉末を得た。
【0049】
(比較例1〜3)
実施例1と同様にシュウ酸バリウムチタニル試料50gを電気式バッチ炉にて2.5/分の昇温速度で表1に示す温度まで昇温し、6時間焼成を行った。焼成は焼成炉に過熱水蒸気を導入せず通常の大気下で行った。焼成終了後、冷却し、粉砕を行ってチタン酸バリウム粉末を得た。
【0050】
(比較例4〜6)
実施例1と同様にシュウ酸バリウムチタニル試料50gを電気式バッチ炉にて2.5℃/分の昇温速度で表1に示す温度まで昇温し、6時間焼成を行った。なお、焼成開始とともに焼成炉に、30℃に加温された水中を通して加湿した加湿空気(露点21℃)を4L/分の割合で導入しながら焼成を行った。焼成終了後、冷却し、粉砕を行ってチタン酸バリウム粉末を得た。
【0051】
【表1】
【0052】
<チタン酸バリウム試料の物性評価>
実施例1〜3及び比較例1〜6で得られたチタン酸バリウム試料について、平均粒径、BET比表面積、正方晶の指標となるc軸とa軸の比(c/a)を測定した。その結果を表2に示す。なおc軸とa軸の比はX線回折により求めた。
【0053】
【表2】
【0054】
表2より、焼成を過熱水蒸気を導入して行って得られるチタン酸バリウムは、焼成温度が同じで過熱水蒸気を導入しないで焼成して得られたものと比べ、正方晶の指標となるc軸とa軸の比(c/a)が高く正方晶性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、微細で、高い正方晶性を持つペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を製造することが出来るので、製造されたペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、特に、圧電体、オプトエレクトロニクス材、誘電体、半導体、センサー等の電子部品用機能性セラミックの原料として利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 焼成炉
2 ふた
4 排気管
5 炭酸バリウムと二酸化チタンを含有する原料混合物
7 過熱水蒸気供給管
11 過熱水蒸気
12 二酸化炭素を含有する過熱水蒸気
図1