【0013】
皮膚ガス成分の採取方法としては、公知の方法を用いることができる。
例えば、皮膚ガス採取装置(非吸着かつ非透過性のガスバリア素材の袋など)を手首から先(手および手首)に装着し、クリーンガス(N
2)を充填し、30分程度放置後に採取する方法、無臭のTシャツを3日程度着用後に採取する方法などが挙げられる。
前者では、汗腺由来の成分、すなわち血中成分を主に反映するのに対し、後者では、汗と皮脂由来成分が混在する。
本発明にかかる方法では、皮膚ガス採取装置を手首から先に装着し、クリーンガス(N
2)を充填し、30分程度放置後に採取する方法を用いることが好ましい。
また、皮膚ガスの採取は、恒温恒湿室で行うことが好ましい。
【実施例】
【0017】
<試験例1>
65歳から74歳の女性パネル20名に手を石鹸で洗ってもらった後、皮膚ガス採取装置(非吸着かつ非透過性のガスバリア素材の袋)を手首から先(手および手首)に装着し、クリーンガス(N
2)を充填し、20分放置後に皮膚ガスを採取した。そして、ガス分析装置(GC/MS)を用いて、採取した皮膚ガスのガスクロマトグラムを測定した。還元型コエンザイムQ10(ソフトカプセル、100mg/日)またはプラセボを4週間(毎日)連用投与後、同様に皮膚ガスを採取し、ガスクロマトグラムを測定した。なお、10名のパネルには、プラセボ連用投与試験の後に還元型コエンザイムQ10連用投与試験を行ってもらい、もう10名のパネルには、還元型コエンザイムQ10連用投与試験の後にプラセボ連用投与試験を行ってもらった。
なお、GC/MSは、5977 GC/MSシステム(Agilent社製)を用いた。
【0018】
ガスクロマトグラムより、4週間連用投与前のパネルから、ノネナールが検出されたことがわかった。ノネナールは、加齢臭の主成分であると言われている。これまでノネナールは、皮膚表面にある皮脂の酸化によって発生していると考えられていたが、体内から検出されることがわかった。
【0019】
図1に、ガスクロマトグラムのピーク面積より定量した還元型コエンザイムQ10;プラセボ4週間連用投与前後におけるノネナール量(それぞれアクティブ;プラセボ)の変化を示す。
図1より、還元型コエンザイムQ10を連用投与することにより、皮膚ガス中のノネナールの有意な減少が認められた。
しかしながら、本試験は冬に行われたものであり、部屋の温度が低くなった影響で、全体としての皮膚ガス成分が少ないため、還元型コエンザイムQ10の連用によるノネナール抑制効果は少ないようにも見える。
【0020】
<試験例2>
そこで本発明者らは、20代〜60代までの男女複数のパネルについて、試験例1と同様に皮膚ガス成分の採取およびGC/MSを用いた測定を行い、いくつかの他の皮膚ガス成分の定量結果を検討した。
【0021】
その結果、皮膚ガス成分の中には、検出される人と検出されない人がいる成分が存在することがわかった(例えばオクタナール)。しかし、皮膚ガス成分のうち、リモネンおよびノナナールは、全ての人から検出された。ここで、リモネンは、柑橘(レモン)様の臭い成分であって、ノナナールは、花や果実様の臭い成分である。
図2に、被験者の年代および男女別にリモネンとノナナールを定量した結果を示す((A)リモネン、(B)ノナナール)。
【0022】
図2より、リモネンより、ノナナールの方が、個人による皮膚ガス量の差が小さいことが明らかになった。
【0023】
<試験例3>
次に、20代〜50代の男性4名(各年代1名ずつ)と、20代〜40代の女性6名(各年代2名ずつ)に、2〜7日間、皮膚ガス成分の採取およびGC/MSを用いた測定を行い、リモネンとノナナールの定量結果を検証した。
なお、皮膚ガス成分は、28℃、50%にコントロールされた部屋で30分安静の後、皮膚ガス採取装置に片手あたり180mL窒素を充填し、15分後に150mL採取した。
男性、女性の結果を、それぞれ
図3、
図4に示す((A)リモネン、(B)ノナナール)。
【0024】
図3および
図4によると、リモネンより、ノナナールの方が、個人による皮膚ガス量の差が小さいことが再確認できた。
また、同一個人内での日間変動も、ノナナールの方が小さいことが明らかになった。
したがって、皮膚ガス成分中のノナナールの量は、個人固有の値であって、同じ採取条件であれば、個人内で安定な皮膚ガス成分であることがわかった。
【0025】
そこで、本発明者らは、ノナナールの量で、目的とする皮膚ガス成分の量を規格化できるのではないかという仮定の下、試験例1で測定したガスクロマトグラムについて再検討した。
プラセボおよび還元型コエンザイムQ10の投与前後におけるノネナール、ノナナールの定量結果、ノネナール量/ノナナール量および標準偏差を算出した結果を、それぞれ表1および表2に示す。また、4週間連用投与前後の差を示した結果を表5に示す。
また、投与前後における定量されたノネナールの量を、ノナナールの量で規格化した(ノナナールの量で除された)結果を
図5に示す。なお、
図5の投与後の結果は、投与前の平均値を1として算出した場合の平均値を示してある。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
表3より、ノネナールをノナナールで規格化しない場合、データのバラツキが大きい一方で、ノネナールをノナナールで規格化すると、標準偏差が小さくなることがわかった。
したがって、本発明にかかる皮膚ガス成分の量を規格化する方法は、GC/MSなどのガス分析装置を用いて皮膚ガス成分を定量し、定量されたノナナールの量で、定量された前記皮膚ガス成分の量を規格化することを特徴とする。本方法を用いることにより、皮膚ガス成分を高精度に評価することができる。
【0030】
また、
図5より、ノネナールをノナナールで規格化すると、還元型コエンザイムQ10を連用した場合のみノネナールを有意に減少することをわかった。
これまで、皮膚ガス成分の抑制効果を、官能評価以外で示すことは困難であったが、本発明にかかる皮膚ガス成分の量を規格化する方法を用いることで、測定値として示すことができる。また、本発明にかかる皮膚ガス成分の量を規格化する方法によれば、任意の皮膚ガス成分の変化を高精度に評価することができる。