特許第6580955号(P6580955)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6580955
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】皮膚ガス成分の量を規格化する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20190912BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20190912BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20190912BHJP
   G01N 33/497 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   G01N30/86 J
   G01N30/88 C
   G01N30/72 A
   G01N33/497 D
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-226310(P2015-226310)
(22)【出願日】2015年11月19日
(65)【公開番号】特開2017-96662(P2017-96662A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】勝山 雅子
(72)【発明者】
【氏名】久田 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】深田 楓子
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−311020(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0081795(US,A1)
【文献】 特開2004−197065(JP,A)
【文献】 特開2013−064718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 − 30/96
B01J 20/281− 20/292
G01N 33/48 − 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス分析装置を用いて皮膚ガス成分を定量し、
定量されたノナナールの量で、定量された前記皮膚ガス成分の量を規格化することを特徴とする皮膚ガス成分の量を規格化する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、皮膚ガス成分がノネナールであることを特徴とする皮膚ガス成分の量を規格化する方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の方法において、ガス分析装置がGC/MSであることを特徴とする皮膚ガス成分の量を規格化する方法。
【請求項4】
ガス分析装置を用いて皮膚ガス成分を定量し、
ノナナールで規格化することを特徴とする対象物の変化を比較するための皮膚ガス発生量の評価方法。
【請求項5】
請求項4記載の評価方法において、ガス分析装置がGC/MSであることを特徴とする皮膚ガス発生量の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚ガス成分の量を規格化する方法に関し、特に任意の皮膚ガス成分の変化を高精度に評価することのできる皮膚ガス成分の量を規格化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人の体臭には皮膚表面で皮脂が酸化するなどで発生するものと、体内由来(血中、細胞由来)で皮膚を通って放出されてくる炭化水素、アルコールなどのさまざまなガスが混ざっている。皮膚を通って放出されるこれらのガスは皮膚ガスと呼ばれ、食事、体調、心理的な要因に左右され、体内の状態を表していると言われている。
【0003】
近年、皮膚ガスに含まれる成分の種類や濃度を観測することにより、健康状態など、人の体内の状態を診断するために、皮膚ガス中の成分について調査研究が行われている。例えば、糖尿病患者の皮膚表面からアセトンが放出されていることが知られている(非特許文献1)。
好ましくないとされている臭いも存在する。例えば、中年以降の人に特有の臭い、いわゆる加齢臭は、ノネナールが主成分であることが知られている。
【0004】
そこで、好ましくない臭いの皮膚ガスを抑制する製剤の開発が進められている。例えば、食用担子菌類の有機酸含有親水性溶媒抽出物を有効成分として含有する加齢臭抑制用組成物が知られている(特許文献1)。このような製剤を開発する際には、製剤投与前後の皮膚ガスを採取し、皮膚ガス成分の変化を分析することが行われている。
しかし、皮膚ガスは、外気温湿度に大きく影響されることなどから、定量比較がしづらく、このような製剤の開発は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−143878号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Clinica Chemica Acta, p.325-329 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記従来技術に鑑み行われたものであり、その解決すべき課題は、任意の皮膚ガス成分を容易に定量比較でき、その変化を高精度に評価することのできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが前述の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、GC/MSなどのガス分析装置により定量されたノナナールの量で、定量された前記皮膚ガス成分の量を規格化することで、的確に定量比較ができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかる皮膚ガス成分の量を規格化する方法は、ガス分析機器を用いて皮膚ガス成分を定量し、
定量されたノナナールの量で、定量された前記皮膚ガス成分の量を規格化することを特徴とする。
前記方法において、皮膚ガス成分がノネナールであることが好適である。
前記方法において、ガス分析装置がGC/MSであることが好適である。
【0009】
本発明にかかる対象物の変化を比較するための皮膚ガス発生量の評価方法は、ガス測定分析機器を用いて皮膚ガス成分を定量し、
ノナナールで規格化することを特徴とする。
前記評価方法において、ガス分析装置がGC/MSであることが好適である。
本発明にかかる対象物の変化を比較するための皮膚ガス発生量の評価方法は、同一人物の皮膚ガス成分の評価方法であることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、任意の皮膚ガス成分の変化を高精度に評価することのできる皮膚ガス成分の量を規格化する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】還元型コエンザイムQ10を4週間連用投与前後(アクティブ)、プラセボを4週間連用投与前後(プラセボ)の皮膚ガス中のノネナール量の結果を示す図である。
図2】皮膚ガス中の(A)リモネン量、(B)ノナナール量の個人差を示す図である。
図3】4名の男性パネルの皮膚ガス中の(A)リモネン量、(B)ノナナール量の日間変動を示す図である。
図4】6名の女性パネルの皮膚ガス中の(A)リモネン量、(B)ノナナール量の日間変動を示す図である。
図5】還元型コエンザイムQ10を4週間連用投与前後(アクティブ)、プラセボを4週間連用投与前後(プラセボ)の皮膚ガス中のノネナール量をノナナール量で規格化した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明にかかる皮膚ガス成分の量を規格化する方法は、GC/MSなどのガス分析装置を用いて皮膚ガス成分を定量し、定量されたノナナールの量で、定量された前記皮膚ガス成分の量を規格化することを特徴とする。
【0013】
皮膚ガス成分の採取方法としては、公知の方法を用いることができる。
例えば、皮膚ガス採取装置(非吸着かつ非透過性のガスバリア素材の袋など)を手首から先(手および手首)に装着し、クリーンガス(N)を充填し、30分程度放置後に採取する方法、無臭のTシャツを3日程度着用後に採取する方法などが挙げられる。
前者では、汗腺由来の成分、すなわち血中成分を主に反映するのに対し、後者では、汗と皮脂由来成分が混在する。
本発明にかかる方法では、皮膚ガス採取装置を手首から先に装着し、クリーンガス(N)を充填し、30分程度放置後に採取する方法を用いることが好ましい。
また、皮膚ガスの採取は、恒温恒湿室で行うことが好ましい。
【0014】
皮膚ガス成分を定量する手段としては、公知のガス分析装置を用いることができるが、GC/MS、すなわちガスクロマトグラフ−質量分析計を用いることが好ましい。
【0015】
例えば、GC/MSによりガスクロマトグラムを測定後、目的とする皮膚ガス成分のピーク面積から、定量を行う。
そして、皮膚ガス成分中のノナナールの量で目的とする皮膚ガス成分の量を規格化する(すなわち、ノナナールの量で除される)ことで、外気温湿度などの影響による分析値のバラツキを受けることなく、任意の皮膚ガス成分を高精度で定量することができる。
【0016】
また、本発明にかかる対象物の変化を比較するための皮膚ガス発生量の評価方法は、GC/MSなどのガス分析装置を用いて皮膚ガス成分を定量し、
ノナナールで規格化することを特徴とする。
また、本発明にかかる対象物の変化を比較するための皮膚ガス発生量の評価方法は、同一人物の皮膚ガス成分の評価方法であることが好適である。
皮膚ガス成分は、同一人物であっても、外気温湿度や心身の状態等の影響により、激しく変動し、対象物の定量比較を行うことは困難であった。しかし、本発明の評価方法を用いることにより、外気温湿度や心身の状態等の影響されずに、容易に対象物の定量比較を行うことが可能である。
【実施例】
【0017】
<試験例1>
65歳から74歳の女性パネル20名に手を石鹸で洗ってもらった後、皮膚ガス採取装置(非吸着かつ非透過性のガスバリア素材の袋)を手首から先(手および手首)に装着し、クリーンガス(N)を充填し、20分放置後に皮膚ガスを採取した。そして、ガス分析装置(GC/MS)を用いて、採取した皮膚ガスのガスクロマトグラムを測定した。還元型コエンザイムQ10(ソフトカプセル、100mg/日)またはプラセボを4週間(毎日)連用投与後、同様に皮膚ガスを採取し、ガスクロマトグラムを測定した。なお、10名のパネルには、プラセボ連用投与試験の後に還元型コエンザイムQ10連用投与試験を行ってもらい、もう10名のパネルには、還元型コエンザイムQ10連用投与試験の後にプラセボ連用投与試験を行ってもらった。
なお、GC/MSは、5977 GC/MSシステム(Agilent社製)を用いた。
【0018】
ガスクロマトグラムより、4週間連用投与前のパネルから、ノネナールが検出されたことがわかった。ノネナールは、加齢臭の主成分であると言われている。これまでノネナールは、皮膚表面にある皮脂の酸化によって発生していると考えられていたが、体内から検出されることがわかった。
【0019】
図1に、ガスクロマトグラムのピーク面積より定量した還元型コエンザイムQ10;プラセボ4週間連用投与前後におけるノネナール量(それぞれアクティブ;プラセボ)の変化を示す。
図1より、還元型コエンザイムQ10を連用投与することにより、皮膚ガス中のノネナールの有意な減少が認められた。
しかしながら、本試験は冬に行われたものであり、部屋の温度が低くなった影響で、全体としての皮膚ガス成分が少ないため、還元型コエンザイムQ10の連用によるノネナール抑制効果は少ないようにも見える。
【0020】
<試験例2>
そこで本発明者らは、20代〜60代までの男女複数のパネルについて、試験例1と同様に皮膚ガス成分の採取およびGC/MSを用いた測定を行い、いくつかの他の皮膚ガス成分の定量結果を検討した。
【0021】
その結果、皮膚ガス成分の中には、検出される人と検出されない人がいる成分が存在することがわかった(例えばオクタナール)。しかし、皮膚ガス成分のうち、リモネンおよびノナナールは、全ての人から検出された。ここで、リモネンは、柑橘(レモン)様の臭い成分であって、ノナナールは、花や果実様の臭い成分である。
図2に、被験者の年代および男女別にリモネンとノナナールを定量した結果を示す((A)リモネン、(B)ノナナール)。
【0022】
図2より、リモネンより、ノナナールの方が、個人による皮膚ガス量の差が小さいことが明らかになった。
【0023】
<試験例3>
次に、20代〜50代の男性4名(各年代1名ずつ)と、20代〜40代の女性6名(各年代2名ずつ)に、2〜7日間、皮膚ガス成分の採取およびGC/MSを用いた測定を行い、リモネンとノナナールの定量結果を検証した。
なお、皮膚ガス成分は、28℃、50%にコントロールされた部屋で30分安静の後、皮膚ガス採取装置に片手あたり180mL窒素を充填し、15分後に150mL採取した。
男性、女性の結果を、それぞれ図3図4に示す((A)リモネン、(B)ノナナール)。
【0024】
図3および図4によると、リモネンより、ノナナールの方が、個人による皮膚ガス量の差が小さいことが再確認できた。
また、同一個人内での日間変動も、ノナナールの方が小さいことが明らかになった。
したがって、皮膚ガス成分中のノナナールの量は、個人固有の値であって、同じ採取条件であれば、個人内で安定な皮膚ガス成分であることがわかった。
【0025】
そこで、本発明者らは、ノナナールの量で、目的とする皮膚ガス成分の量を規格化できるのではないかという仮定の下、試験例1で測定したガスクロマトグラムについて再検討した。
プラセボおよび還元型コエンザイムQ10の投与前後におけるノネナール、ノナナールの定量結果、ノネナール量/ノナナール量および標準偏差を算出した結果を、それぞれ表1および表2に示す。また、4週間連用投与前後の差を示した結果を表5に示す。
また、投与前後における定量されたノネナールの量を、ノナナールの量で規格化した(ノナナールの量で除された)結果を図5に示す。なお、図5の投与後の結果は、投与前の平均値を1として算出した場合の平均値を示してある。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
表3より、ノネナールをノナナールで規格化しない場合、データのバラツキが大きい一方で、ノネナールをノナナールで規格化すると、標準偏差が小さくなることがわかった。
したがって、本発明にかかる皮膚ガス成分の量を規格化する方法は、GC/MSなどのガス分析装置を用いて皮膚ガス成分を定量し、定量されたノナナールの量で、定量された前記皮膚ガス成分の量を規格化することを特徴とする。本方法を用いることにより、皮膚ガス成分を高精度に評価することができる。
【0030】
また、図5より、ノネナールをノナナールで規格化すると、還元型コエンザイムQ10を連用した場合のみノネナールを有意に減少することをわかった。
これまで、皮膚ガス成分の抑制効果を、官能評価以外で示すことは困難であったが、本発明にかかる皮膚ガス成分の量を規格化する方法を用いることで、測定値として示すことができる。また、本発明にかかる皮膚ガス成分の量を規格化する方法によれば、任意の皮膚ガス成分の変化を高精度に評価することができる。
図1
図2
図3
図4
図5