(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、Crを主成分とする被覆膜は、柔軟性に乏しく硬質であるため、マイクロクラック(微細亀裂)が発生することがあり、このマイクロクラックが被覆膜の内面(下地との境界面)にまで到達していると、被覆膜のうちマイクロクラックが到達した内面部分から腐食が進行し易くなる虞がある。
【0008】
ところで、通常Crを主体とする被覆膜は、ロウ材部との密着性が悪く、被覆膜の下地として、Niを主体とする下地膜を形成する場合がある。Niを主体とする下地膜は、Crを主体とする被覆膜との密着性に優れると共に、ロウ材部や金属端子部との密着性にも優れるため、被覆膜をロウ材部に直接接触させる形態に比べて、被覆膜とロウ材部との密着性が向上する。
【0009】
ところが、Niを主体とする下地膜の表面にCrを主体とする被覆膜を設けた場合には、被覆膜が下地膜に比べてイオン化しにくいことから、腐食電位の影響によってマイクロクラックが形成された被覆膜の腐食が加速してしまう虞がある。
【0010】
このとき、被覆膜でのマイクロクラックが少ないほど、被覆膜の内面からの腐食が発生しがたくなるとも考えられるが、被覆膜でのマイクロクラックが少ない場合には、減少した一部のマイクロクラックに腐食電位が集中して、却って、被覆膜の内面からの腐食・劣化が加速してしまい、短時間で被覆膜による耐腐食性を発揮できなくなる虞がある。
【0011】
そこで、本発明は、Crを主成分とする被覆膜にマイクロクラックが形成される場合においても、被覆膜による耐腐食性を維持しやすくなるセラミックヒータを提供すること、そのようなセラミックヒータを備えるガスセンサを提供すること、そのようなセラミックヒータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの局面におけるセラミックヒータは、ヒータ本体部と、金属端子部と、ロウ材部と、被覆膜と、下地膜と、を備える。
ヒータ本体部は、内部に埋設された発熱抵抗体と、該発熱抵抗体に電気的に接続され、自身の外表面に設けられた電極パッドと、を有する。金属端子部は、電極パッドと外部機器とを繋ぐ通電経路の一部を形成する長尺形状に構成されている。ロウ材部は、電極パッドと金属端子部の接合部とを電気的に接合する。被覆膜は、金属端子部の少なくとも一部およびロウ材部のうち少なくとも一部を直接または他部材を介して覆う。
【0013】
このうち、被覆膜は、Crを主体として形成されるとともに、自身の表面から内部に至るマイクロクラックを複数有している。また、下地膜は、被覆膜の下地としてNiを主体として形成される。そして、被覆膜の表面において仮想直線と交差するマイクロクラックの本数をクラック形成密度と定義した場合に、このセラミックヒータにおいては、被覆膜のうち金属端子部の接合部およびロウ材部を覆う領域におけるクラック形成密度が400[本/cm]以上である。
【0014】
このようなクラック形成密度の被覆膜は、マイクロクラックが一部に集中して存在するのではなく、マイクロクラックが分散して形成されるため、一部のマイクロクラックに腐食電位が集中することを抑制できる。これにより、被覆膜の内面からの腐食・劣化が加速するのを抑制でき、被覆膜による耐腐食性を維持しやすくなる。
【0015】
よって、このセラミックヒータは、Crを主成分とする被覆膜にマイクロクラックが形成される場合においても、被覆膜による耐腐食性を維持しやすくなる。
なお、クラック形成密度の下限値は、上記のとおりであり、クラック形成密度の上限値は、被覆膜を形成可能な範囲であれば、特に数値は限定されない。
【0016】
また、上述のセラミックヒータにおいては、被覆膜の下地としてNiを主体とする下地膜を備えている。
このように、Niを主体とする下地膜を備えることで、Crを主体とする被覆膜は金属端子部やロウ材部から剥がれ難くなる。
【0017】
つまり、Niを主体とする下地膜は、Crを主体とする被覆膜との密着性に優れると共に、ロウ材部や金属端子部との密着性にも優れることから、Niを主体とする下地膜を備えることで、被覆膜を金属端子部(または、ロウ材部)に直接接触させる形態に比べて、被覆膜と金属端子部(またはロウ材部)との密着性が向上する。
【0018】
よって、このセラミックヒータによれば、Crを主体とする被覆膜が金属端子部やロウ材部から剥がれ難くなるため、ロウ材部および金属端子部の腐食・劣化を抑制できる。
次に、本発明の他の局面におけるガスセンサは、検出素子と、セラミックヒータと、を備えており、セラミックヒータとして、上述のセラミックヒータを備えている。
【0019】
なお、検出素子は、軸線方向に延びる筒状に形成されると共に先端が閉塞され、被測定成分を検出する。セラミックヒータは、検出素子の筒孔内に配置され、検出素子を加熱する。
【0020】
このガスセンサは、上記のセラミックヒータを備えることで、Crを主成分とする被覆膜にマイクロクラックが形成される場合においても、被覆膜による耐腐食性を維持しやすくなるため、ガスセンサとしても耐腐食性を維持しやすくなる。
【0021】
次に、本発明の他の局面におけるセラミックヒータの製造方法は、ヒータ本体部と、金属端子部と、ロウ材部と、被覆膜と、を備えるセラミックヒータの製造方法であり、被覆膜を形成する被覆膜形成工程と、下地膜を形成する下地膜形成工程と、を有している。
【0022】
ヒータ本体部は、内部に埋設された発熱抵抗体と、該発熱抵抗体に電気的に接続され、自身の外表面に設けられた電極パッドと、を有する。金属端子部は、電極パッドと外部機器とを繋ぐ通電経路の一部を形成する長尺形状に構成されている。ロウ材部は、電極パッドと金属端子部の接合部とを電気的に接合する。被覆膜は、金属端子部の少なくとも一部およびロウ材部のうち少なくとも一部を直接または他部材を介して覆う。
【0023】
このうち、被覆膜は、Crを主体に形成されている。
被覆膜形成工程では、金属端子部の少なくとも一部およびロウ材部の少なくとも一部をCrを主体とする電解メッキ液に浸して電解メッキ処理を行い被覆膜を形成する。
【0024】
また、下地膜形成工程は、被覆膜形成工程の前に実行される工程である。下地膜形成工程では、被覆膜の下地として、金属端子部およびロウ材部を覆うNiを主体とする下地膜を形成する。
【0025】
電解メッキ液は、無水クロム酸を主体とするとともに、硫酸およびケイフッ化Naが添加されている。電解メッキ液における硫酸の濃度は、1.2±0.4g/Lであり、電解メッキ液におけるケイフッ化Naの濃度は、6.0±2.0g/Lである。
【0026】
このセラミックヒータの製造方法によれば、被覆膜におけるマイクロクラックの数を所定範囲に調整することができる。
このようにマイクロクラックの数が調整された被覆膜は、マイクロクラックが一部に集中して存在するのではなく、マイクロクラックが分散して形成されるため、腐食電位が一部のマイクロクラックに集中することを抑制できる。これにより、被覆膜の内面からの腐食・劣化が加速するのを抑制でき、被覆膜による耐腐食性を維持しやすくなる。
【0027】
よって、このセラミックヒータの製造方法によれば、Crを主成分とする被覆膜にマイクロクラックが形成される場合においても、被覆膜による耐腐食性を維持しやすいセラミックヒータを製造できる。
【0028】
なお、「無水クロム酸を主体とする」とは、電解メッキ液に含まれる成分のうち無水クロム酸が最も多いことを意味している。また、電解メッキ液における無水クロム酸の濃度は、例えば、250±50g/Lである。
【0029】
また、上述のセラミックヒータの製造方法においては、被覆膜形成工程の前に、被覆膜の下地として、金属端子部およびロウ材部を覆うNiを主体とする下地膜を形成する下地膜形成工程を行っている。
【0030】
これにより、被覆膜の下地として、Niを主体とする下地膜を備えるセラミックヒータを製造でき、Crを主体とする被覆膜は金属端子部やロウ材部から剥がれ難くなる。
つまり、Niを主体とする下地膜は、Crを主体とする被覆膜との密着性に優れると共に、ロウ材部や金属端子部との密着性にも優れることから、Niを主体とする下地膜を備えることで、被覆膜を金属端子部(または、ロウ材部)に直接接触させる形態に比べて、被覆膜と金属端子部(またはロウ材部)との密着性が向上する。
【0031】
よって、このセラミックヒータの製造方法によれば、Crを主体とする被覆膜が金属端子部やロウ材部から剥がれ難くなるセラミックヒータを製造でき、ロウ材部および金属端子部の腐食・劣化を抑制できるセラミックヒータを製造できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明のセラミックヒータによれば、Crを主成分とする被覆膜にマイクロクラックが形成される場合においても、被覆膜による耐腐食性を維持しやすくなる。
本発明のガスセンサによれば、セラミックヒータにおけるCrを主成分とする被覆膜にマイクロクラックが形成される場合においても、被覆膜による耐腐食性を維持しやすくなるため、ガスセンサとしても耐腐食性を維持しやすくなる。
【0033】
本発明のセラミックヒータの製造方法によれば、Crを主成分とする被覆膜にマイクロクラックが形成される場合においても、被覆膜による耐腐食性を維持しやすいセラミックヒータを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
尚、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0036】
[1.第1実施形態]
[1−1.全体構成]
本発明を適用したセラミックヒータおよびセラミックヒータ製造方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0037】
なお、本実施形態のセラミックヒータは、センサ素子を活性化温度まで加熱する用途などに用いることができる。また、加熱対象のセンサ素子としては、自動車や各種内燃機関における各種制御(例えば、空燃比フィードバック制御など)に使用するために、測定対象ガス(排ガス)中の特定ガス(酸素)を検出するガスセンサ素子などが挙げられる。
【0038】
まず、
図1,
図2を参照して、セラミックヒータ100の構造について説明する。
図1は、セラミックヒータ100の外観を表した斜視図である。
図2は、セラミックヒータ100の内部構成を表した分解斜視図である。
【0039】
なお、本実施形態のセラミックヒータ100においては、長手方向の両端部のうち、発熱部分を備える側(後述する発熱部142が形成される側)を「先端側」とし、これと反対側の端部を「後端側」として説明する。
【0040】
セラミックヒータ100は、発熱抵抗体141を有する丸棒状(略円柱形状)のセラミック基体102と、セラミック基体102の外表面に設けられるとともに発熱抵抗体141と電気的に接続する電極パッド121と、融点が900℃以上である導電性のロウ材部により電極パッド121に接合される金属端子部130と、を備えている。
【0041】
セラミックヒータ100は、セラミック基体102の後端側に設けられた電極パッド121を介して外部装置(電源装置)から発熱抵抗体141に対して通電されることで、発熱抵抗体141が発熱する構成である。なお、発熱抵抗体141のうち発熱部142(
図2参照)は、セラミック基体102の先端側に配置されている。つまり、セラミックヒータ100は、セラミック基体102のうち先端側が発熱することで、センサ素子を加熱するよう構成されている。
【0042】
図2に示すように、セラミックヒータ100は、丸棒状のアルミナセラミック製の碍管101の外周に絶縁性の高いアルミナセラミック製のグリーンシート140,146が巻き付けられ、これが焼成されることによって製造される。
【0043】
グリーンシート140の上には、ヒートパターンとしてのタングステン系の材料を主体とする発熱抵抗体141が形成されている。発熱抵抗体141は、先端側に形成される発熱部142と、発熱部142の両端のそれぞれに接続される一対のリード部143と、を備えて構成される。
【0044】
また、グリーンシート140の後端側には、2個のスルーホール144が設けられている。一対のリード部143は、2個のスルーホール144を介して、セラミックヒータ100の外表面上に形成される2つの電極パッド121と電気的に接続される。
【0045】
また、グリーンシート146は、グリーンシート140のうち発熱抵抗体141が形成される側の面に圧着されるシートである。
グリーンシート146のうちグリーンシート140に接する圧着面とは反対側の表面にアルミナペーストが塗布され、この塗布面を内側にしてグリーンシート140,146が碍管101に巻き付けられて外周から内向きに押圧されることにより、セラミックヒータ成形体が形成される。その後、セラミックヒータ成形体が焼成されることにより、セラミックヒータ100として形成される。
【0046】
次に、
図1および
図2に示すように、セラミックヒータ100には、陽極側および陰極側となる2つの電極パッド121が形成されている。この電極パッド121は、上記した2つのスルーホール144(
図2参照)に対応するグリーンシート140の外面の位置に2ヶ所、それぞれ設けられている。発熱抵抗体141のリード部143との導通は、スルーホール144の内部に充填される導電性ペーストを介して行われる。なお、電極パッド121の表面には、後述するメッキによる金属層(
図3に示すパッド用メッキ膜122)が形成される。
【0047】
金属端子部130は、長尺形状のニッケル部材で構成されており、ロウ材部により電極パッド121と接合される接合部133と、平板状に切り出された加締め部135と、接合部133と加締め部135とをつなぐ連結部134と、を備えて構成される。
【0048】
連結部134の先端部分は、厚み方向に段状に屈曲しており、接合部133に繋がるよう形成されている。また、金属端子部130は、連結部134のうち加締め部135との連結領域が、連結部134の長手方向の中心軸を回転中心として回転するようにねじ曲げられている。
【0049】
そして、金属端子部130は、図示しない外部回路接続用のリード線などが加締め部135にカシメ固定されることで、リード線などを介して外部回路(外部電源装置)との導通が図られる。
【0050】
このように構成される2つの金属端子部130は、2つの電極パッド121のそれぞれに接合されて、セラミックヒータ100に電圧を印加する際の陽極側端子および陰極側端子として機能する。
【0051】
図3は、
図1に示すセラミックヒータ100のうち、一点鎖線A−A’にて矢視方向からみた周囲部分における部分断面図である。なお、
図3において、金属端子部130からセラミックヒータ100の中心軸に向かう方向(図中紙面下方向)を下方向として、また、中心軸より離れる方向(図中紙面上方向)を上方向として説明する。
【0052】
図3に示すように、電極パッド121は、碍管101の外周に巻かれたグリーンシート140の外面(
図3における上側の面)に形成され、スルーホール144を介してグリーンシート140の内面(
図3における下側の面)に形成されている発熱抵抗体141のリード部143と導通されている。
【0053】
この電極パッド121は、タングステン、モリブデンから選ばれる少なくとも1種類以上の元素を含んだ主体材料を80重量%以上含むパッド状の金属層である。タングステンやモリブデンは、銅系のロウ材部124との接合性がよく、また、融点が高く耐熱性に優れているので、電極パッド121の組成として好適である。
【0054】
金属端子部130は、ニッケルを90重量%以上含むニッケル部材で構成されている。金属端子部130は、
図3に示したように、ロウ材部124によって、パッド用メッキ膜122に覆われた電極パッド121に接合されている。そして、ロウ材部124により互いに接合された金属端子部130および電極パッド121の上に、さらに、ニッケル(Ni)を主体とするニッケルメッキ膜125と、クロム(Cr)を主体とするクロムメッキ膜126と、が形成されている。なお、ニッケルメッキ膜125の上側にクロムメッキ膜126が形成されており、ニッケルメッキ膜125およびクロムメッキ膜126を備えることで、ロウ材部124及び金属端子部130の酸化による腐食が防止される。
【0055】
そして、電極パッド121と金属端子部130とを接合するロウ材部124は、50重量%を上回る量の銅が含有されている。なお、本実施形態では、銅100重量%のロウ材部124を用いて、電極パッド121と金属端子部130とをロウ付けしている。
【0056】
なお、ロウ付け時には、電極パッド121の上に設けたパッド用メッキ膜122のニッケル成分が、ロウ材部124へ拡散することになる。
つまり、本実施形態のセラミックヒータ100においては、
図3に示すように、ロウ付け前におけるパッド用メッキ膜122は、ロウ材部124との境界部分が一点鎖線123で示す輪郭形状を示す。そして、ロウ付け後においては、パッド用メッキ膜122の一部がロウ材部124へ拡散して溶け込んだ形態となり、パッド用メッキ膜122およびロウ材部124は、一体化した状態で形成される。
【0057】
[1−2.製造方法]
次に、本実施形態のセラミックヒータの製造方法について説明する。
図4は、セラミックヒータ100の製造方法で実行する各工程の順序を表すフローチャートである。
【0058】
S110(Sはステップを表す)のセラミック基体形成工程では、まず、グリーンシート140に対して、発熱抵抗体141および電極パッド121となる金属抵抗体インク(メタライズインク)を所定のパターン形状に塗布(印刷)し、且つ、スルーホール144の内部にメタライズインク(または、導電性ペースト)を充填する処理を実行する。次に、グリーンシート140にグリーンシート146を圧着し、グリーンシート140およびグリーンシート146を碍管101に巻き付けて、セラミックヒータ成形体を形成する処理を実行する。続いて、このセラミックヒータ成形体を焼成することで、グリーンシート140,146および碍管101が一体となったセラミック基体102を形成する処理を実行する。
【0059】
ここまでの処理がセラミック基体形成工程であり、発熱抵抗体141を有するセラミック基体102を製造しつつ、セラミック基体102に対して金属抵抗体インク(メタライズインク)を塗布して電極パッド121を形成する処理である。
【0060】
続いて、S120の電極パッドメッキ形成工程では、電極パッド121を覆うパッド用メッキ膜122を形成する電極パッドメッキ形成処理を実施する。
次に、S130の接合工程では、パッド用メッキ膜122の上に、ロウ材部および金属端子部130を互いに接触するように配置する。そして、この状態で900℃以上に加熱してロウ材部を溶融させることで、金属端子部130と電極パッド121とをロウ付けにより接合しロウ材部124を形成する処理を実行する。
【0061】
この接合工程では、ロウ材部124とパッド用メッキ膜122のうち一点鎖線123で囲んだ領域とが固溶化して、パッド用メッキ膜122のうち一点鎖線123で囲んだ領域がロウ材部124の中に溶け込む現象が生じる。
【0062】
そして、S140のニッケルメッキ形成工程では、ロウ材部124および金属端子部130の接合部133を覆うように、無電解メッキ法によりニッケルメッキ処理を施して、ニッケルメッキ膜125を形成する処理を実行する。
【0063】
このあと、S150のクロムメッキ形成工程では、電解メッキ法によりクロムメッキ処理を施して、Crを主体とするクロムメッキ膜126を形成する処理を実行する。
ここで、電解メッキ法を用いたクロムメッキ形成工程について説明する。なお、
図5に、電解メッキ処理時の接続状態を表した説明図を示す。
【0064】
クロムメッキ形成工程では、まず、ニッケルメッキ形成工程が完了した後のセラミックヒータ100(セラミック基体102および金属端子部130)のうち、金属端子部130の加締め部135に対して電解メッキ用導電部としての陰極205を接続する。
【0065】
次に、セラミックヒータ100(セラミック基体102および金属端子部130)の全体をCrメッキ液207(電解メッキ液)に浸漬した状態で、電源201からニッケルメッキ膜125(ロウ材部124および金属端子部130を覆うニッケルメッキ膜125)に対して通電を行い、電解メッキ処理を行う。
【0066】
このとき、Crメッキ液207は、無水クロム酸をベースとして、所定の添加剤(硫酸、ケイフッ化Na、三価クロム)が添加されて構成されている。なお、本実施形態では、
図6に示すような各条件を満たすCrメッキ液207を用いて、電解メッキ処理を実施する。
【0067】
なお、電源201からの通電経路は、陽極203,Crメッキ液207,ニッケルメッキ膜125(ロウ材部124および金属端子部130の接合部133を覆うニッケルメッキ膜125),陰極205という経路であり、このような経路で通電を行うことで、ロウ材部124、接合部133を覆うニッケルメッキ膜125および金属端子部130に対して電解メッキ処理を行う。このときに通電する電流の電流密度は、12.0[A/dm2]である。
【0068】
これにより、ロウ材部124および金属端子部130を覆うニッケルメッキ膜125に、クロムメッキ膜126が形成される。
このようにして形成されたクロムメッキ膜126には、その表面から内部(ニッケルメッキ膜125)に至るマイクロクラック(微細亀裂ともいう)が複数形成される。このマイクロクラックは、クロムメッキ膜126のうち一部領域に集中して形成されるのではなく、クロムメッキ膜126の全体に分散して形成される。
【0069】
なお、クロムメッキ膜126の表面において仮想直線と交差するマイクロクラックの本数をクラック形成密度と定義した場合、本実施形態では、クロムメッキ膜126のうち金属端子部130の接合部133およびロウ材部124(換言すれば、ニッケルメッキ膜125)を覆う領域におけるクラック形成密度は、400〜1000[本/cm]に調整されている。このとき、無水クロム酸濃度、硫酸濃度、ケイフッ化Na濃度、三価クロム濃度をそれぞれ調整することで、クラック形成密度を調整することができる。
【0070】
以上のような各工程を含む製造方法を実行することにより、クラック形成密度が所定範囲に調整されたクロムメッキ膜126を備えるセラミックヒータ100を製造することができる。
【0071】
[1−3.測定結果]
ここで、セラミックヒータのクロムメッキ膜におけるクラック形成密度と耐食性(耐腐食性)との相関関係を調査した測定結果について説明する。
【0072】
調査測定は、
図7に示すような測定装置を用いて実施した。
具体的には、0.1%硝酸溶液を満たした水槽211にセラミックヒータ100を浸漬し、エアー供給管223を用いて0.2[L/min]のエアーバブリングで撹拌した状態で、金属端子部130をプラス電位とし、対極としてのNi板213をマイナス電位とする試験電圧(40[V])を印加した。試験電圧は、電源装置215から抵抗素子217を介して、セラミックヒータ100(金属端子部130)、硝酸溶液、Ni板213に対して印加した。このとき、印加電圧を検出するための第1電圧計219を用いて、セラミックヒータ100(金属端子部130)、硝酸溶液、Ni板213の直列回路への印加電圧を検出しつつ、印加電圧が適正値となるように調整した。また、第2電圧計221を用いて抵抗素子217の両端電圧を検出し、抵抗素子217の抵抗値および両端電圧から通電電流値を検出しつつ、通電電流値が適正値となるように調整した。
【0073】
そして、クロムメッキ膜のクラック形成密度が異なる複数種類のセラミックヒータを用いて、試験電圧の印加開始時点からセラミックヒータ100において金属端子部130からセラミック基体102が脱落するまでの経過時間を測定することで、クロムメッキ膜におけるクラック形成密度と耐食性(耐腐食性)との相関関係を調査した。
【0074】
ここで、
図8に、クラック形成密度が異なる2種類のクロムメッキ膜の表面状態を撮影したSEM写真を示す。
図8では、1000倍のSEM写真を示すとともに、仮想直線を1本設定し、仮想直線と交差するマイクロクラックの本数を数字で示している。
【0075】
図8のうちSEM写真1およびSEM写真2は、クロムメッキ形成工程で用いたCrメッキ液の条件が異なるクロムメッキ膜をそれぞれ表している。SEM写真1およびSEM写真2に示すクロムメッキ膜に関するCrメッキ液の条件およびクラック形成密度は、それぞれ
図8に記載の通りである。
【0076】
なお、クラック形成密度は、SEM写真において、ランダムに仮想直線を4本設定し、4本の仮想直線それぞれについて、仮想直線と交差するマイクロクラック(微細亀裂)の本数をカウントし、1cmあたりの交差箇所の個数の平均値を算出した。
図8のSEM写真1では、交差箇所が3カ所であり、SEM写真2では、交差箇所が9カ所である。
【0077】
調査測定は、7段階のクラック形成密度(100,200,300,400,500,600,1000[本/cm])のクロムメッキ膜のそれぞれについて、5本のセラミックヒータを用いて調査測定を実施した。試験電圧の印加開始時点から20時間が経過した時点で、金属端子部130からセラミック基体102が脱落していないセラミックヒータ100を合格と判定し、他方、金属端子部130からセラミック基体102が脱落したセラミックヒータ100を不合格と判定した。
【0078】
図9に示す測定結果によれば、クラック形成密度が300[本/cm]以下のクロムメッキ膜を有するセラミックヒータは、不合格と判定されるケースが存在するのに対して、クラック形成密度が400[本/cm]以上のクロムメッキ膜を有するセラミックヒータは、全数が合格と判定されている。
【0079】
このことから、クラック形成密度が400[本/cm]以上のクロムメッキ膜を有するセラミックヒータは、耐食性(耐腐食性)に優れたものとなる。
[1−4.効果]
以上説明したように、本実施形態のセラミックヒータ100においては、クロムメッキ膜126は、Crを主体として形成されるとともに、自身の表面から内部に至るマイクロクラックを複数有している。そして、クロムメッキ膜126の表面において仮想直線と交差するマイクロクラックの本数をクラック形成密度と定義した場合に、セラミックヒータ100においては、クロムメッキ膜126のうち金属端子部130の接合部133およびロウ材部124を覆う領域におけるクラック形成密度が400[本/cm]以上である。
【0080】
このようなクラック形成密度のクロムメッキ膜126は、マイクロクラックが一部に集中して存在するのではなく、マイクロクラックが分散して形成されるため、腐食電位が一部のマイクロクラックに集中することを抑制できる。これにより、クロムメッキ膜126の内面からの腐食・劣化が加速するのを抑制でき、クロムメッキ膜126による耐腐食性を維持しやすくなる。このことは、上述の
図9に示す測定結果からも裏付けられている。
【0081】
よって、セラミックヒータ100は、Crを主成分とするクロムメッキ膜126にマイクロクラックが形成される場合においても、クロムメッキ膜126による耐腐食性を維持しやすくなる。
【0082】
なお、クラック形成密度の下限値は、上記のとおり(400[本/cm])であり、クラック形成密度の上限値は、被覆膜を形成可能な範囲であれば、特に数値は限定されない。
【0083】
また、セラミックヒータ100においては、クロムメッキ膜126の下地としてNiを主体とする下地膜としてのニッケルメッキ膜125を備えている。
このように、Niを主体とする下地膜としてのニッケルメッキ膜125を備えることで、Crを主体とするクロムメッキ膜126は金属端子部130やロウ材部124から剥がれ難くなる。
【0084】
つまり、ニッケルメッキ膜125は、クロムメッキ膜126との密着性に優れると共に、ロウ材部124や金属端子部130との密着性にも優れることから、ニッケルメッキ膜125を備えることで、クロムメッキ膜126を金属端子部130(または、ロウ材部124)に直接接触させる形態に比べて、クロムメッキ膜126と金属端子部130(またはロウ材部124)との密着性が向上する。
【0085】
よって、セラミックヒータ100によれば、Crを主体とするクロムメッキ膜126が金属端子部130やロウ材部124から剥がれ難くなるため、ロウ材部124および金属端子部130の腐食・劣化を抑制できる。
【0086】
次に、セラミックヒータ100の製造方法は、
図4に示すような各工程を有しており、このうちS150として、クロムメッキ膜126を形成するクロムメッキ形成工程(被覆膜形成工程)を有している。
【0087】
クロムメッキ膜126は、上述のようにCrを主体に形成されている。
クロムメッキ形成工程では、金属端子部130の少なくとも一部およびロウ材部124の少なくとも一部をCrを主体とするCrメッキ液207(電解メッキ液)に浸して電解メッキ処理を行いクロムメッキ膜126を形成する。
【0088】
Crメッキ液207は、無水クロム酸を主体とするとともに、硫酸およびケイフッ化Naが添加されている。Crメッキ液207における硫酸の濃度は、1.2±0.4g/Lであり、Crメッキ液207におけるケイフッ化Naの濃度は、6.0±2.0g/Lである。
【0089】
このようなセラミックヒータ100の製造方法によれば、クロムメッキ膜126におけるマイクロクラックの数を所定範囲に調整することができる。
このようにマイクロクラックの数が調整されたクロムメッキ膜126は、マイクロクラックが一部に集中して存在するのではなく、マイクロクラックが分散して形成されるため、腐食電位が一部のマイクロクラックに集中することを抑制できる。これにより、クロムメッキ膜126の内面からの腐食・劣化が加速するのを抑制でき、クロムメッキ膜126による耐腐食性を維持しやすくなる。
【0090】
よって、セラミックヒータ100の製造方法によれば、Crを主成分とするクロムメッキ膜126にマイクロクラックが形成される場合においても、クロムメッキ膜126による耐腐食性を維持しやすいセラミックヒータを製造できる。
【0091】
なお、「無水クロム酸を主体とする」とは、Crメッキ液207に含まれる成分のうち無水クロム酸が最も多いことを意味している。また、Crメッキ液207における無水クロム酸の濃度は、例えば、250±50g/Lである。
【0092】
また、セラミックヒータ100の製造方法においては、クロムメッキ形成工程(被覆膜形成工程)の前に、クロムメッキ膜126の下地として、金属端子部130およびロウ材部124を覆うNiを主体とするニッケルメッキ膜125を形成するニッケルメッキ形成工程(下地膜形成工程、S140)を行う。
【0093】
これにより、クロムメッキ膜126の下地として、Niを主体とする下地膜としてのニッケルメッキ膜125を備えるセラミックヒータ100を製造でき、Crを主体とするクロムメッキ膜126は金属端子部130やロウ材部124から剥がれ難くなる。
【0094】
つまり、ニッケルメッキ膜125は、クロムメッキ膜126との密着性に優れると共に、ロウ材部124や金属端子部130との密着性にも優れることから、下地膜としてのニッケルメッキ膜125を備えることで、クロムメッキ膜126を金属端子部130(または、ロウ材部124)に直接接触させる形態に比べて、クロムメッキ膜126と金属端子部130(またはロウ材部124)との密着性が向上する。
【0095】
よって、セラミックヒータ100の製造方法によれば、クロムメッキ膜126が金属端子部130やロウ材部124から剥がれ難くなるセラミックヒータ100を製造でき、ロウ材部124および金属端子部130の腐食・劣化を抑制できるセラミックヒータを製造できる。
【0096】
[1−5.特許請求の範囲との対応関係]
ここで、特許請求の範囲と本実施形態とにおける文言の対応関係について説明する。
電極パッド121を有するセラミック基体102がヒータ本体部の一例に相当し、金属端子部130が金属端子部の一例に相当し、クロムメッキ膜126が被覆膜の一例に相当し、ニッケルメッキ膜125が下地膜の一例に相当する。
【0097】
S150のクロムメッキ形成工程が被覆膜形成工程の一例に相当し、S140のニッケルメッキ形成工程が下地膜形成工程の一例に相当する。
[2.第2実施形態]
第2実施形態として、セラミックヒータ100を備えて構成されるガスセンサ1について説明する。
【0098】
なお、以下の説明では、第2実施形態の構成のうち第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態と同一符号を付して説明を省略する。
図10は、第2実施形態に係るガスセンサ1の全体構成を説明する断面視図である。
【0099】
本発明を適用したガスセンサ1は、乗用車等の車両に搭載された内燃機関の排気流路に締結され、排気流路の内部に自身の先端部分が配置されるガスセンサであり、排気ガス中の酸素濃度を計測する酸素センサである。
【0100】
なお、以下の説明では、
図10に示す軸線Oに沿う方向のうち、主体金具60に対してプロテクタ80の取り付けられる側(図の下側)を先端側とし、この逆側(図の上側)を後端側として説明する。
【0101】
ガスセンサ1は、後述するガス検出素子10を加熱するためのセラミックヒータ100を備えたセンサであり、セラミックヒータ100の熱によってガス検出素子10を加熱して活性化し、排気ガス中の酸素濃度を計測するものである。このセラミックヒータ100は、第1実施形態のセラミックヒータ100と同様の構成である。
【0102】
ガスセンサ1には、
図10に示すように、ガス検出素子10(検出素子10)と、セラミックヒータ100と、セパレータ30と、シール部材40(弾性部材40)と、複数の端子金具50と、リード線55(リード部材55)と、それらの周囲を覆う主体金具60と、プロテクタ80と、外筒90(外筒部材90)等が、主に備えられている。
【0103】
図11は、
図10のガス検出素子10の構成を示す説明図である。
ガス検出素子10は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質から形成されたものである。ガス検出素子10は、軸線O方向に延びる円筒状に形成され、先端側の端部(
図11の下側の端部)が閉塞された素子本体11と、素子本体11の外周面に設けられた外側電極16と、素子本体11の内周面に設けられた内側電極19と、を主に備えて構成されている。素子本体11の中央部の外周には、径方向外向きに突出する鍔部14が周方向にわたって設けられている。
【0104】
素子本体11を構成する固体電解質としては、例えば、Y
2O
3又はCaOを固溶させたZrO
2が代表的なものである。この固体電解質以外にも、アルカリ土類金属または希土類金属の酸化物とZrO
2との固溶体である固体電解質を使用しても良い。また、アルカリ土類金属または希土類金属の酸化物とZrO
2との固溶体に、さらにHfO
2が含有された固体電解質を使用しても良い。
【0105】
素子本体11の外周面には、外側電極16と、縦リード部17と、接触リード部18(外側リード電極18)とが形成されている。外側電極16は、ガス検出素子10の先端側に、PtあるいはPt合金(以下、「Pt等」と表記する。)を多孔質に形成した電極である。縦リード部17は、外側電極16から軸線方向に延びる導電部であり、Pt等から形成されたものである。接触リード部18は、縦リード部17の後端側の端部に設けられた縦リード部17と導電可能に接続される導電部であり、Pt等から形成されたものである。本実施形態では、接触リード部18は、素子本体11の外周面における周方向の一部分を覆う矩形状に形成され、後述する第2センサ端子金具52と電気的に接触する部分である。なお、接触リード部18の形状は矩形状であってもよいし、その他の多角形状であってもよいし、円形状や楕円形状であってもよく、特に限定するものではない。素子本体11の内周面には、Pt等を多孔質に形成した内側電極19が形成されている。
【0106】
複数の端子金具50には、第1センサ端子金具51、第2センサ端子金具52(外側端子部材52)が含まれる。複数の端子金具50は、ニッケル合金(例えばインコネル750。英インコネル社製、登録商標)から形成された金具である。
【0107】
第1センサ端子金具51は、ガス検出素子10の内側電極19と電気的に接触し、第2センサ端子金具52と共に、ガス検出素子10の検出信号を外部に出力するものである。また、第1センサ端子金具51は、セラミックヒータ100を把持するとともに、セラミックヒータ100の先端側を、ガス検出素子10の内面に押し付けるものである。その一方で、第2センサ端子金具52は、素子本体11の外側電極16と電気的に接続されるものである。
【0108】
複数の端子金具50には、それぞれ、リード線55の芯線が加締め接続されて電気的に接続されている。
図10では、4本のリード線55のうち3本のリード線55が図示されている。
【0109】
セパレータ30は、
図10に示すように、ガス検出素子10とシール部材40との間に配置される部材であり、電気絶縁性を有する材料、例えばアルミナから形成された円筒形状の部材である。セパレータ30には、複数の端子金具50などを収納する収容部31が設けられている。収容部31は、セパレータ30を軸線O方向に貫通して形成された貫通孔であり、セパレータ30よりも先端側の空間と、後端側の空間との間で大気の流通を可能とするものである。
【0110】
さらに、セパレータ30の外周面には、径方向外側に突出するフランジ部32が設けられている。セパレータ30におけるフランジ部32よりも先端側の外周面には、略円筒状に形成された保持金具33が配置されている。このとき、セパレータ30は、保持金具33の内部に挿入されるように配置されている。
【0111】
シール部材40は、例えばフッ素ゴムなどの弾性材料からなる栓部材であり、ガスセンサ1の後端に配置される部材である。シール部材40は、軸線O方向を高さ方向とする略円柱状に形成された、外筒90の後端を塞ぐ部材である。シール部材40は、セパレータ30の後端側の面に当接するように外筒90の後端側の開口に嵌め込まれている。
【0112】
主体金具60は、
図10に示すように、ステンレス合金(例えば、JIS規格のSUS310S)から形成された部材であり、概ね円筒状に形成された部材である。主体金具60には、ガス検出素子10の鍔部14を支持する段部61が、内周面から径方向内側に向かって、周方向にわたって突出して設けられている。
【0113】
主体金具60の先端側の外周面には、ガスセンサ1を内燃機関の排気流路(図示せず。)に取付けるネジ部62と、ネジ部62を排気流路にネジ込むための取付工具を係合させる六角部63と、が周方向にわたって設けられている。ネジ部62と六角部63との間には、環状のガスケット64が配置されている。ガスケット64は、ガスセンサ1と排気流路との間の隙間からのガス抜けを防止するものである。
【0114】
主体金具60におけるネジ部62よりも先端側には、後述するプロテクタ80が係合される先端係合部65が形成されている。先端係合部65は、ネジ部62よりも外周面の径が小さく形成された部分である。また、主体金具60における六角部63よりも後端側には、六角部63から後端側に向かって順に、外筒90と係合される後端係合部66と、ガス検出素子10を加締め固定する加締固定部67と、が形成されている。
【0115】
主体金具60の内部には、段部61から後端側に向かって順に、金属製の先端側パッキン71、アルミナからなる筒状の支持部材72、金属製の後端側パッキン73、滑石の粉末からなる充填部材74、アルミナ製のスリーブ75、および、環状のリング76が配置されている。支持部材72の内周面には段部が形成されており、当該段部により素子本体11の鍔部14が支持されている。なお、支持部材72と鍔部14との間に後端側パッキン73が挟まれて配置されている。
【0116】
リング76は、スリーブ75と加締固定部67との間に配置されるものであり、加締固定部67が、径方向内側かつ先端側に変形されることにより加わる先端方向への力を、充填部材74、後端側パッキン73、支持部材72、先端側パッキン71に伝えるものである。この押し付ける力により、充填部材74は軸線O方向に圧縮充填され、かつ、主体金具60の内周面および素子本体11の外周面との隙間を気密に埋める。
【0117】
プロテクタ80は、ガスセンサ1が排気流路に取り付けられた際に、流路内に突出するガス検出素子10を、流路内を流れるガス中に含まれる水滴や異物等の衝突から保護するものである。プロテクタ80は、ステンレス鋼(例えば、JIS規格のSUS310S)から形成された部材であり、ガス検出素子10の先端を覆う保護部材である。プロテクタ80は、軸線方向に延びる筒状の部材であって、先端が閉塞された形状に形成されている。プロテクタ80の後端縁は、主体金具60の先端係合部65に溶接によって固定されている。
【0118】
プロテクタ80には、有底筒状に形成され開放された側の周縁部が先端係合部65に嵌め合わされる外側プロテクタ81と、外側プロテクタ81の内部に固定された有底筒状に形成された内側プロテクタ82と、が設けられている。言い換えると、プロテクタ80は、外側プロテクタ81および内側プロテクタ82からなる2重構造を有している。
【0119】
外側プロテクタ81および内側プロテクタ82の円筒面には、内部にガスを導入する導入口83が設けられている。
図10では、外側プロテクタ81の導入口83のみが図示されており、内側プロテクタ82の導入口83は配置の関係上、図示されていない。さらに、外側プロテクタ81および内側プロテクタ82の底面には、内部に入り込んだ水滴や、ガスを排出する外側排出口84、内側排出口85がそれぞれ設けられている。
【0120】
外筒90は、主体金具60とは異なるステンレス鋼(例えば、JIS規格のSUS304L)から形成された部材であり、外筒90の内部に主体金具60の後端係合部66が差し込まれて、主体金具60に固定されるものである。外筒90の内部には、主体金具60の後端から突出したガス検出素子10の後端や、セパレータ30や、シール部材40が配置されている。
【0121】
以上説明したように、第2実施形態のガスセンサ1は、ガス検出素子10を加熱するためのヒータとして第1実施形態のセラミックヒータ100を備えている。
前述したように、セラミックヒータ100は、Crを主成分とするクロムメッキ膜126にマイクロクラックが形成される場合においても、クロムメッキ膜126による耐腐食性を維持しやすくなる。このようなセラミックヒータ100を備えることで、ロウ材部124および金属端子部130の腐食・劣化を抑制できるため、ガスセンサ1としても耐腐食性を維持しやすくなる。
【0122】
よって、第2実施形態のガスセンサ1によれば、セラミックヒータ100におけるロウ材部124および金属端子部130の腐食・劣化を抑制できるガスセンサを実現できる。
ここで、特許請求の範囲と本実施形態とにおける文言の対応関係について説明する。ガス検出素子10が検出素子の一例に相当する。
【0123】
[3.その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0124】
例えば、被覆膜(クロムメッキ膜126)のクラック形成密度は、上述のように400[本/cm]以上であれば、ロウ材部124および金属端子部130の腐食・劣化を抑制でき、さらに、500[本/cm]以上であることで、より一層、ロウ材部124および金属端子部130の腐食・劣化を抑制できる。
【0125】
また、上述したS140のニッケルメッキ形成工程では、無電解メッキ法によりニッケルメッキ膜125を形成する実施形態について説明したが、電解メッキ法によりニッケルメッキ膜125を形成しても良い。