特許第6580976号(P6580976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許65809761−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6580976
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 403/10 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
   C07D403/10
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-247282(P2015-247282)
(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-40338(P2016-40338A)
(43)【公開日】2016年3月24日
【審査請求日】2018年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144577
【氏名又は名称】株式会社三和化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】長井 和包
(72)【発明者】
【氏名】久野 祐花
【審査官】 安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/104209(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/104008(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/046244(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/187406(WO,A1)
【文献】 特表2007−508301(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105315169(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/CASREACT/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】
(式中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、C−Cアルキル基、又はトリフルオロメチル基を意味する)にて示される安息香酸類に、オキシ塩化リン、塩化チオニル、及び二塩化オキサリルからなる群から選択される塩素化剤を反応させることにより得られる酸クロリドに、一般式(II)
【化2】
(式中、R2はカルボキシ基の保護基を意味する)にて示される化合物を、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、アニリン、及びN,N−ジエチルアニリンからなる群から選択される塩基の存在下で縮合反応させることにより、一般式(III)
【化3】
(式中、R1及びR2は、前記と同じ意味を有する)にて示される化合物を成し、次いで炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、t−ブトキシカリウム、水酸化ナトリウム、水素化ナトリウム、及びn−ブチルリチウムからなる群から選択される塩基の存在下、ブロモ酪酸エステル(BrC3H6CO2R3)と付加反応させることにより一般式(IV)
【化4】
(式中R1及びR2は、前記と同じ意味を有し、R3はカルボキシ基の保護基を意味する)にて示される化合物を成し、次いで炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、t−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、及び水酸化ナトリウムからなる群から選択される塩基の存在下、分子内縮合反応を行うことにより一般式(V)
【化5】
(式中、R1は前記と同じ意味を有し、R4は、前記R2又はR3と同じ意味を有する)にて示される化合物を製造する方法。
【請求項2】
前記R3が、メチル基又はエチル基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記R1が、メチル基、クロロ基、又はトリフルオロメチル基である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記R2が、メチル基又はエチル基である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品原薬の構成成分として有用な1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステルは、医薬品原薬、例えば、V2受容体作動薬として知られている1−ベンゾイル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン誘導体の構成成分として有用な化合物である。従って、安全且つ簡便な1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステルの工業的な製造方法の開発は重要である。
1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステルの合成方法は、次の方法が知られている。
【0003】
特許文献1、特許文献2、乃至非特許文献1には、置換又は無置換のアントラニル酸エステルのアミノ基をp−トルエンスルホニル基で保護、ブロモ酪酸エチルとの付加反応を行った後に、t−ブトキシカリウムの存在下で分子内縮合反応を行うことにより、置換又は無置換の5−オキソ−1−(p−トルエンスルホニル)−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステルとし、続いて脱炭酸反応、p−トルエンスルホニル基の脱保護、ベンゾイルクロリドとの付加反応を行うことにより、置換又は無置換の1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピンを合成する方法が記載されているが、p−トルエンスルホニル基によるアミノ基の保護、および脱保護の工程を実施する必要があり、全体の工程数は多くなるため工業的合成に不利である。
【0004】
非特許文献2には、1,2,3,4−テトラヒドロ−5H−ベンゾ[b]アゼピン−5−オンを、塩基存在下で炭酸ジアルキルと反応し、対応するエステル基を導入した後に、塩素化剤を用いて活性化された安息香酸類の酸クロリド体との反応により、1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステルを合成する方法が記載されているが、本合成法も、アントラニル酸エステルから1,2,3,4−テトラヒドロ−5H−ベンゾ[b]アゼピン−5−オンを合成するには、アントラニル酸エステルのアミノ基をp−トルエンスルホニル基で保護、その後に酪酸エステル基の付加反応、分子内縮合反応、エステル基の脱炭酸反応、及びp−トルエンスルホニル基の脱保護反応が必要であり、全体の工程数は多くなるため工業的合成に不利である。
【0005】
従って、医薬品原薬の構成成分として有用な1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステルを安全且つ簡便に合成できる製造方法の確立が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/021213号公報
【特許文献2】US2013/190490
【0007】
【非特許文献1】Bioorg. Med. Chem., 7, 1743 (1999)
【非特許文献2】発明協会公開技報 公技番号2014−502240
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全且つ簡便に合成できる、一般式(V)にて示される新たな1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステル(V)の工業的な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
安息香酸類に塩素化剤を反応させることにより得られる酸クロリドに、アントラニル酸アルキルを反応させ、次いで塩基の存在下、ブロモ酪酸エステルによりアルキル化した後、塩基の存在下、分子内縮合反応を行うことにより、1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステル(V)を製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の主な構成は次の通りである。
【0010】
[1] 一般式(I)
【化1】
(式中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、C−Cアルキル基、又はトリフルオロメチル基を意味する)にて示される安息香酸類に、オキシ塩化リン、塩化チオニル、及び二塩化オキサリルからなる群から選択される塩素化剤を反応させることにより得られる酸クロリドに、一般式(II)
【化2】
(式中、R2はカルボキシ基の保護基を意味する)にて示される化合物を、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、アニリン、及びN,N−ジエチルアニリンからなる群から選択される塩基の存在下で縮合反応させることにより、一般式(III)
【化3】
(式中、R1及びR2は、前記と同じ意味を有する)にて示される化合物を成し、次いで炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、t−ブトキシカリウム、水酸化ナトリウム、水素化ナトリウム、及びn−ブチルリチウムからなる群から選択される塩基の存在下、ブロモ酪酸エステル(BrC3H6CO2R3)と付加反応させることにより一般式(IV)
【化4】
(式中、R1及びR2は、前記と同じ意味を、R3はカルボキシ基の保護基を意味する)にて示される化合物を成し、次いで炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、t−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、及び水酸化ナトリウムからなる群から選択される塩基の存在下、分子内縮合反応を行うことにより一般式(V)
【化5】
(式中、R1は前記と同じ意味を有し、R4は、前記R2又はR3と同じ意味を有する)にて示される化合物を製造する方法。
[2] 前記R3が、メチル基又はエチル基である、請求項1に記載の方法。
[3] 前記R1が、メチル基、クロロ基、又はトリフルオロメチル基である、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
[4] 前記R2が、メチル基又はエチル基である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステル(V)を、発火の危険性のある試薬を使用せず、安価で汎用的な原料のみを使用することにより、少ない工程で製造できることから、工業的な製造方法として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明による1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステル(V)の製造方法を説明する。
【0013】
1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステル(V)は、以下の反応工程式Iに示す本発明の方法で製造することができる。
[反応工程式I]
【化6】
[式中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、C−Cアルキル基、又はトリフルオロメチル基を、R2、R3、及びR4は、カルボキシ基の保護基を意味する]
【0014】
尚、置換基等の定義、説明を以下に記載する。
「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を意味する。
「C−Cアルキル基」とは、1〜4個の炭素原子から成る直鎖若しくは分岐状のアルキル基を意味する。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、及びt−ブチル基等が挙げられ、メチル基、エチル基が好ましい。
「カルボキシ基の保護基」とは、通常、有機合成上カルボキシ基の保護基として知られている基を意味し、(1)直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜4の低級アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基)、(2)ハロゲノ低級アルキル基(例えば、2−ヨウ化エチル基、2,2,2−トリクロロエチル基)、(3)低級アルコキシメチル基(例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基、i−ブトキシメチル基)、(4)低級脂肪族アシルオキシメチル基(例えば、ブチリルオキシメチル基、ピバロイルオキシメチル基)、(5)1−低級アルコキシカルボニルオキシエチル基(例えば、1−メトキシカルボニルオキシエチル基、1−エトキシカルボニルオキシエチル基)、(6)アラルキル基(例えば、ベンジル、p−メトキシベンジル基、o−ニトロベンジル基、p−ニトロベンジル基)、(7)ベンズヒドリル基、及び(8)フタリジル基等を例示することができる。
【0015】
一般式(I)にて示される化合物を適当な溶媒中、触媒量のN,N−ジメチルホルムアミド存在下又は非存在下、塩素化剤を用いて酸クロリドとした後、一般式(II)で表される化合物と適当な溶媒中、適当な塩基の存在下で縮合反応させることによって、一般式(III)にて示される化合物を得ることができる。得られた一般式(III)にて示される化合物とブロモ酪酸エステルを、適当な溶媒中、適当な塩基の存在下で反応させることによって、一般式(IV)にて示される化合物を得ることができる。得られた一般式(IV)にて示される化合物を、適当な溶媒中、適当な塩基の存在下で分子内縮合反応を行うことによって、一般式(V)にて示される化合物を得ることができる。
【0016】
一般式(I)にて示される化合物と塩素化剤との反応は、通常、適当な溶媒中で行われるが、そのような溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロホルム等が挙げられ、トルエン、塩化メチレンが好ましい。
一般式(I)にて示される化合物と塩素化剤との反応温度は、20〜100℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。反応時間は、1〜24時間が好ましく、1〜4時間がより好ましい。
本反応において使用する塩素化剤の量は、二塩化オキサリルの場合、一般式(I)にて示される化合物に対して1〜10当量用いるのが好ましく、1〜3当量がより好ましい。
反応完結後は、通常、使用溶媒を減圧溜去し、更にベンゼン、あるいはトルエンを用いて残存する二塩化オキサリル、及び水分を共沸除去し、一般式(II)にて示される化合物との反応に使用する。
【0017】
一般式(I)にて示される化合物の酸クロリドと一般式(II)にて示される化合物との反応は、通常、適当な溶媒中、適当な塩基の存在下で行われるが、そのような溶媒としては、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロホルム、あるいはこれら有機溶媒と水との二層系溶媒が挙げられ、アセトニトリル、塩化メチレン、有機溶媒と水との二層系溶媒が好ましい。またここで使用される塩基としては、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、アニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン等が挙げられ、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジエチルアニリンがより好ましい。
一般式(I)にて示される化合物の酸クロリドと一般式(II)にて示される化合物との反応温度は、0〜60℃が好ましく、10〜30℃がより好ましい。反応時間は、1〜48時間が好ましく、2〜12時間がより好ましい。
本反応において使用する化合物量は、一般式(II)にて示される化合物は、一般式(I)にて示される化合物の酸クロリドに対して、1〜3当量用いるのが好ましく、1〜1.5当量がより好ましい。塩基は、前記の方法により合成された一般式(I)にて示される化合物の酸クロリドに対して、1〜5当量用いるのが好ましく、1〜2当量がより好ましい。
反応完結後は、通常、希酸を加えて放置し、析出した固体物をろ取し、乾燥することにより、目的とする一般式(III)の化合物を得ることができる。ここで「希酸を加えて放置する」とは、1N塩酸、1N硫酸、1N硝酸、1N酢酸等の酸を加え、0〜50℃、好ましくは10〜30℃で放置することを意味する。また「乾燥する」とは、送風乾燥でも減圧乾燥でもよく、温度は20〜100℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。
【0018】
一般式(III)にて示される化合物と「ブロモ酪酸エステル」との反応は、通常、適当な溶媒中、適当な塩基の存在下で行われるが、「ブロモ酪酸エステル」としては、通常、ブロモ酪酸メチル、ブロモ酪酸エチルが好ましい。ここで使用される溶媒としては、アセトン、アセトニトリル、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等が挙げられ、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトンが好ましい。またここで使用される塩基としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、t−ブトキシカリウム、水酸化ナトリウム、水素化ナトリウム、n−ブチルリチウム等が挙げられ、炭酸カリウム、炭酸セシウムが好ましい。
本工程の反応温度は、20〜150℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。反応時間は、1〜72時間が好ましく、6〜48時間がより好ましい。
本反応において使用する化合物量は、「ブロモ酪酸エステル」は、一般式(III)にて示される化合物に対して1〜10当量用いるのが好ましく、1〜3当量がより好ましい。塩基は、一般式(III)にて示される化合物に対して1〜20当量用いるのが好ましく、1〜5当量がより好ましい。
反応終了後は、通常、希酸を加えた後、適当な溶媒で抽出後にカラムクロマトグラフィー精製をすることにより、目的とする一般式(IV)にて示される化合物を得ることができる。ここで、「希酸を加えて」とは、1N塩酸、1N硫酸、1N硝酸、1N酢酸、1Nトリフルオロ酢酸等の酸を加えることを意味する。また、抽出溶媒としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられ、好ましくはトルエン、酢酸エチルが挙げられる。
【0019】
一般式(IV)にて示される化合物の縮合反応は、通常、適当な溶媒中、適当な塩基を用いて行われるが、ここで使用される溶媒としては、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、アセトニトリル等が挙げられ、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンが好ましい。またここで使用される塩基としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、t−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウム等が挙げられ、t−ブトキシカリウムが好ましい。
本工程の反応温度は、−20〜40℃が好ましく、0〜10℃がより好ましい。反応時間は、1〜24時間が好ましく、1〜4時間がより好ましい。
本反応において使用する化合物量は、塩基は、一般式(IV)にて示される化合物に対して1〜20当量用いるのが好ましく、1〜5当量がより好ましい。
反応終了後は、通常、酸を加えて放置し、析出した固体物をろ取し、乾燥することにより、目的とする一般式(V)にて示される化合物を得ることができる。ここで「酸を加えて放置する」とは、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、又はp−トルエンスルホン酸等の酸を加え、0〜50℃、好ましくは10〜30℃で放置することを意味する。また「乾燥する」とは、送風乾燥でも減圧乾燥でもよく、温度は20〜100℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例における核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルは、テトラメチルシランを標準物質としてケミカルシフト値をδ値(ppm)で記載した。分裂パターンは、一重線を「s」、二重線を「d」、三重線を「t」、四重線を「q」、二重線−二重線を「dd」、三重線−二重線を「td」、多重線を「m」、幅広い線を「br」で示した。質量分析は、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)で行った。
【0021】
[実施例1]
1−[2−メチル−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンゾイル]−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エチル
【化7】
[実施例1−(a)]
2−[2−メチル−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンズアミド]安息香酸エチル
アルゴン雰囲気下、2−メチル−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)安息香酸(1.08 g)、N,N−ジメチルホルムアミド(0.1 mL)のトルエン(10 mL)溶液に、二塩化オキサリル(0.86 mL)を氷浴下で加えた。反応液を60℃で2時間撹拌した後、反応溶媒を減圧溜去し、トルエンを用いて減圧下で共沸した。得られた酸クロリド体のアセトニトリル(3 mL)溶液を、アントラニル酸エチル(0.99 g)、N,N−ジエチルアニリン(2.1 mL)のアセトニトリル(7 mL)溶液に、氷浴下で加えた。反応液を室温で一晩撹拌後、1N塩酸(10 mL)、水(20 mL)を加えて、室温で1時間撹拌した。析出した固形物をろ過し、水(5 mL)で洗浄し、一晩減圧乾燥することにより2−[2−メチル−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンズアミド]安息香酸エチル(1.66 g)の粉末を得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δppm: 11.55 (s 1H), 8.87 (dd, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 8.08 (dd, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 7.84 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.69 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.62-7.54 (m, 3H), 7.12 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 6.26 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 4.35 (q, J = 8.0 Hz, 2H), 2.61 (s, 3H), 2.37 (s, 3H), 1.38 (t, J = 8.0 Hz, 3H).
ESI/MS(m/z): 384 (M+H)+.
[実施例1−(b)]
2−[N−(4−エトキシ−4−オキソブチル)−2−メチル−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンズアミド]安息香酸エチル
2−[2−メチル−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンズアミド]安息香酸エチル(実施例1−(a)で製造,0.36 g)、ブロモ酪酸エチル(0.23 g)及び炭酸カリウム(0.42 g)をN,N−ジメチルホルムアミド(3.6 mL)中、100℃で一晩撹拌した。反応液を室温まで放冷し、酢酸エチル(10 mL)、水(10 mL)を加えて、室温で1時間撹拌した。有機層を分離し、水層を酢酸エチル(10 mL)で抽出した。併せた有機層を水(10 mL)で3回洗浄し、飽和食塩水(10 mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えた。抽出した粗生成物をろ過、減圧濃縮し、カラムクロマトグラフィーで精製することにより、2−[N−(4−エトキシ−4−オキソブチル)−2−メチル−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンズアミド]安息香酸エチル(0.31 g)の粉末を得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δppm: 8.03-7.79 (m, 1H), 7.66-7.56 (m, 1H), 7.37-7.17 (m, 4H), 7.10-7.01 (m, 2H), 6.25-6.15 (m, 1H), 4.51-4.33 (m, 3H), 4.12-3.91 (m, 2H), 3.27-3.21 (m, 1H), 2.47-2.30 (m, 8H), 2.10-1.84 (m, 2H), 1.42-1.36 (m, 3H), 1.26-1.19 (m, 3H).
ESI/MS(m/z): 479 (M+H)+.
[実施例1−(c)]
1−[2−メチル−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンゾイル]−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エチル
2−[N−(4−エトキシ−4−オキソブチル)−2−メチル−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンズアミド]安息香酸エチル(実施例1−(b)で製造,0.36 g)のテトラヒドロフラン(1.8 mL)溶液に、t−ブトキシカリウムの1N テトラヒドロフラン溶液(1.51 mL)を氷浴中で加えた。反応液を氷浴中で1時間撹拌後、6N 塩酸溶液(0.27 mL)を加えた。反応液を減圧濃縮した後、イソプロピルアルコール(2 mL)を加えて、室温で1時間撹拌した。析出した固形物をろ過し、水(10 mL)で洗浄し、一晩減圧乾燥することにより、1−[2−メチル−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンズアミド]−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エチル(0.19 g)の粉末を得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δppm: 12.71 (s, 1H), 7.71 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.67 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.37 (s, 1H), 7.18 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 7.11-7.03 (m, 2H), 6.84 (brd, J = 8.0 Hz, 1H), 6.76 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 6.18 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 4.75 (td, J = 4.0, 12.0 Hz, 1H), 4.35-4.23 (m, 2H), 3.74-3.68 (m, 1H), 2.94-2.91 (m, 1H), 2.37-2.31 (m, 6H), 2.15 (td, J = 4.0, 12.0 Hz, 1H), 1.37 (t, J = 8.0 Hz, 3H).
ESI/MS(m/z): 432 (M+H)+, 430 (M-H)-.
【0022】
[実施例2]
1−[2−クロロ−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンゾイル]−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エチル
【化8】
[実施例2−(a)]
2−[2−クロロ−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンズアミド]安息香酸エチル
2−クロロ−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)安息香酸を用いて、実施例1−(a)と同様の方法で反応を行うことにより、表記化合物を得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δppm: 11.60 (brs 1H), 8.86 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.08 (dd, J = 4.0, 8.0 Hz, 1H), 7.83-7.82 (m, 2H), 7.74 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.64-7.62 (m, 2H), 7.14 (td, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 6.28 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 4.35 (q, J = 8.0 Hz, 2H), 2.37 (s, 3H), 1.38 (t, J = 8.0 Hz, 3H).
ESI/MS(m/z): 384 (M+H)+.
[実施例2−(b)]
2−[2−クロロ−N−(4−エトキシ−4−オキソブチル)−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンズアミド]安息香酸エチル
2−[2−クロロ−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンズアミド]安息香酸エチル(実施例2−(a)で製造)を用いて、実施例1−(b)と同様の方法で反応を行うことにより、表記化合物を得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δppm: 7.82 (td, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 7.65 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.55 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.33-7.31 (m, 2H), 7.23-7.17 (m, 3H), 6.18 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 4.53-4.46 (m, 1H), 4.42(q, J = 8.0 Hz, 2H), 4.13-4.07 (m, 3H), 3.21-3.16 (m, 1H), 2.52-2.35 (m, 3H), 2.29 (s, 3H), 1.42 (t, J = 8.0 Hz, 3H), 1.22 (t, J = 8.0 Hz, 3H).
ESI/MS(m/z): 498 (M+H)+.
[実施例2−(c)]
1−[2−クロロ−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンゾイル]−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エチル
2−(2−クロロ−N−(4−エトキシ−4−オキソブチル)−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンズアミド)安息香酸エチル(実施例2−(b)で製造)を用いて、実施例1−(c)と同様の方法で反応を行うことにより、表記化合物を得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δppm: 12.71 (s, 1H), 7.66 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.59-7.57 (m, 1H), 7.23-7.19 (m, 3H), 7.11 (td, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 7.03-7.00 (m, 1H), 6.90 (brs, 1H), 6.19 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 4.78 (td, J = 2.0, 12.0 Hz, 1H), 4.36-4.29 (m, 2H), 3.71 (dd, J = 4.0, 12.0 Hz, 1H), 2.93 (dd, J = 4.0, 16.0 Hz, 1H), 2.19 (s, 3H), 2.14 (td, J = 4.0, 16.0 Hz, 1H), 1.38 (t, J = 6.0 Hz, 3H).
ESI/MS(m/z): 452 (M+H)+, 450 (M-H)-.
【0023】
[実施例3]
1−(2−トリフルオロメチル−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンゾイル)−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エチル
【化9】
[実施例3−(a)]
2−[4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)−2−トリフルオロメチルベンズアミド]安息香酸エチル
2−トリフルオロメチル−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)安息香酸を用いて、実施例1−(a)と同様の方法で反応を行うことにより、表記化合物を得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δppm: 11.52 (brs, 1H), 8.82 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.40 (s, 1H), 8.26 (dd, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 8.08 (dd, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 7.75 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.61 (td, J = 4.0, 8.0 Hz, 1H), 7.40 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.16 (td, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 4.33 (q, J = 8.0 Hz, 2H), 2.27 (s, 3H), 1.36 (t, J = 8.0 Hz, 3H).
ESI/MS(m/z): 419 (M+H)+.
[実施例3−(b)]
2−[N−(4−エトキシ−4−オキソブチル)−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)−2−トリフルオロメチルベンズアミド]安息香酸エチル
2−[4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)−2−トリフルオロメチルベンズアミド]安息香酸エチル(実施例3−(a)で製造)を用いて、実施例1−(b)と同様の方法で反応を行うことにより、表記化合物を得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δppm: 8.39-8.26 (m, 1H), 8.18 (s, 1H), 8.06-7.87 (m, 1H), 7.83 (dd, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 7.81 (dd, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 7.64-7.20 (m, 3H), 7.04 (dd, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 4.54 (ddd, J = 2.0, 4.0, 16.0 Hz, 1H), 4.45 (q, J = 8.0 Hz, 2H), 4.40-4.34 (m, 1H), 4.11-3.90 (m, 2H), 3.64-3.42 (m, 1H), 3.14-3.04 (m, 1H), 2.50-2.20 (m, 2H), 2.19 (s, 3H), 1.46-1.36 (m, 3H), 1.26-1.18 (m, 3H).
ESI/MS(m/z): 533 (M+H)+.
[実施例3−(c)]
1−[4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)ベンゾイル]−2−トリフルオロメチル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エチル
2−[N−(4−エトキシ−4−オキソブチル)−4−(3−メチル−1H−ピラゾール−1−イル)−2−トリフルオロメチルベンズアミド]安息香酸エチル(実施例3−(b)で製造)を用いて、実施例1−(c)と同様の方法で反応を行うことにより、表記化合物を得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δppm: 12.74 (s, 1H), 8.19 (s, 1H), 7.79 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.60 (dd, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 7.39 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.21 (td, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 7.09 (td, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 6.95(dd, J = 2.0, 8.0 Hz, 1H), 6.86 (brs, 1H), 4.81 (td, J = 4.0, 8.0 Hz, 1H), 4.35-4.32 (m, 2H), 3.69 (ddd, J = 2.0, 4.0, 16.0 Hz, 1H), 2.94 (ddd, J = 2.0, 4.0, 16.0 Hz, 1H), 2.19 (s, 3H), 2.14 (dd, J = 4.0, 16.0 Hz, 1H), 1.38 (t, J = 6.0 Hz, 3H).
ESI/MS(m/z): 487 (M+H)+, 485 (M-H)-.
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明方法は、医薬品合成中間体として有用な1−ベンゾイル−5−オキソ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−ベンゾ[b]アゼピン−4−カルボン酸エステルを安全且つ安価に工業的に製造する方法として有用である。