(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6580979
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】方向性空間境界を横切った後に相が変化する二相材料を数値的にシミュレートする方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
G06F 17/50 20060101AFI20190912BHJP
G16Z 99/00 20190101ALI20190912BHJP
【FI】
G06F17/50 612H
G06F17/50 638
G16Z99/00
【請求項の数】18
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-249071(P2015-249071)
(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公開番号】特開2016-126786(P2016-126786A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2018年9月20日
(31)【優先権主張番号】14/590,123
(32)【優先日】2015年1月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509059893
【氏名又は名称】リバーモア ソフトウェア テクノロジー コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100175617
【弁理士】
【氏名又は名称】三崎 正輝
(72)【発明者】
【氏名】ジョン オー. ホールクイスト
【審査官】
田中 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−289260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性空間境界を横切った後に相が変化する二相材料を数値的にシミュレートする方法であって、
少なくとも一つのアプリケーションモジュールがインストールされたコンピュータシステムにおいて、二相材料の方向性空間境界の定義と、前記二相材料を表す複数の有限要素を有する有限要素解析(FEA)モデルと、を受け取るステップであって、前記有限要素のそれぞれは、前記二相材料の第一相と第二相とにそれぞれ対応する第一セットの材料特性と第二セットの材料特性とを含んでいる材料識別子に関連付けられており、前記二相材料は前記方向性空間境界を横切った後に前記第一相から前記第二相に変化するステップと、
前記少なくとも一つのアプリケーションモジュールによって、受け取られた前記定義から材料流れ方向と前記方向性空間境界のタイプとを決定するステップであって、前記タイプは瞬時相変化タイプ又は漸次相移行タイプのいずれかであるステップと、
前記少なくとも一つのアプリケーションモジュールによって、前記第一セットの材料特性を前記有限要素のすべてに初めに割り当てるステップと、
前記少なくとも一つのアプリケーションモジュールによって、前記材料流れ方向に移動する前記二相材料の数値的にシミュレートされた構造的挙動を取得するために、前記有限要素解析モデルを用いて時間進行シミュレーションを行うステップであって、前記時間進行シミュレーションにおける複数のソリューションサイクルのそれぞれにおいて、前記瞬時相変化タイプに対しては、前記有限要素のうち前記方向性空間境界を横切って移動したと決定された有限要素に同じ前記材料識別子の前記第二セットの材料特性を割り当て、前記漸次相移行タイプに対しては、前記有限要素のうち前記方向性空間境界に位置すると決定された有限要素について前記第一セットの材料特性と前記第二セットの材料特性の補間により新しいセットの材料特性を計算し、同じ前記材料識別子によってグループ化された前記有限要素を用いて数値的にシミュレートされた構造的挙動を計算するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記瞬時相変化タイプの前記方向性空間境界は、第一ノードおよび第二ノードから導出される面と、前記第一ノードを前記第二ノードに接続するベクトルと、を有し、前記第一ノードは位置として前記面上に位置し、前記ベクトルが前記材料流れ方向を形成している、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有限要素のうち前記方向性空間境界を横切って移動したと決定された有限要素は、前記有限要素うちの該有限要素を前記方向性空間境界の位置に対して調査することによって達成される、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記漸次相移行タイプの前記方向性空間境界は、第一面および第二面であって、前記第一面上に位置する第一ノードおよび前記第二面上に位置する第二ノードから導出される第一面および第二面と、前記第一ノードを前記第二ノードに接続するベクトルと、を有しており、前記ベクトルが前記材料流れ方向を形成している、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
相移行領域は前記第一面と前記第二面との間に位置している、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも一つのアプリケーションモジュールによって数値的にシミュレートされた構造的挙動の計算を、確実により効率的に実行できるよう、同じ前記材料識別子は設定されている、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
方向性空間境界を横切った後に相が変化する二相材料を数値的にシミュレートするシステムであって、
少なくとも一つのアプリケーションモジュールに関するコンピュータ読取り可能なコードを記憶しているメインメモリと、
前記メインメモリに連結される少なくとも一つのプロセッサであって、前記少なくとも一つのプロセッサが前記メインメモリ内の前記コンピュータ読取り可能なコードを実行して、前記少なくとも一つのアプリケーションモジュールに、方法に基づいてオペレーションを実行させる少なくとも一つのプロセッサと、
を備え、
前記方法が、
二相材料の方向性空間境界の定義と、前記二相材料を表す複数の有限要素を有する有限要素解析(FEA)モデルと、を受け取るステップであって、前記有限要素のそれぞれは、前記二相材料の第一相と第二相とにそれぞれ対応する第一セットの材料特性と第二セットの材料特性とを含んでいる材料識別子に関連付けられており、前記二相材料は前記方向性空間境界を横切った後に前記第一相から前記第二相に変化するステップと、
受け取られた前記定義から材料流れ方向と前記方向性空間境界のタイプとを決定するステップであって、前記タイプは瞬時相変化タイプ又は漸次相移行タイプのいずれかであるステップと、
前記第一セットの材料特性を前記有限要素のすべてに初めに割り当てるステップと、
前記材料流れ方向に移動する前記二相材料の数値的にシミュレートされた構造的挙動を取得するために、前記有限要素解析モデルを用いて時間進行シミュレーションを行うステップであって、前記時間進行シミュレーションにおける複数のソリューションサイクルのそれぞれにおいて、前記瞬時相変化タイプに対しては、前記有限要素のうち前記方向性空間境界を横切って移動したと決定された有限要素に同じ前記材料識別子の前記第二セットの材料特性を割り当て、前記漸次相移行タイプに対しては、前記有限要素のうち前記方向性空間境界に位置すると決定された有限要素について前記第一セットの材料特性と前記第二セットの材料特性の補間により新しいセットの材料特性を計算し、同じ前記材料識別子によってグループ化された前記有限要素を用いて数値的にシミュレートされた構造的挙動を計算するステップと、
を含む、システム。
【請求項8】
前記瞬時相変化タイプの前記方向性空間境界は、第一ノードおよび第二ノードから導出される面と、前記第一ノードを前記第二ノードに接続するベクトルと、を有しており、前記第一ノードは位置として前記面上に位置し、前記ベクトルが前記材料流れ方向を形成している、
請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記有限要素のうち前記方向性空間境界を横切って移動したと決定された有限要素は、前記有限要素うちの該有限要素を前記方向性空間境界の位置に対して調査することによって達成される、
請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記漸次相移行タイプの前記方向性空間境界は、第一面および第二面であって、前記第一面上に位置する第一ノードおよび前記第二面上に位置する第二ノードから導出される第一面および第二面と、前記第一ノードを前記第二ノードに接続するベクトルと、を有しており、前記ベクトルが前記材料流れ方向を形成している、
請求項7に記載のシステム。
【請求項11】
相移行領域は前記第一面と前記第二面との間に位置している、
請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記少なくとも一つのアプリケーションモジュールによって数値的にシミュレートされた構造的挙動の計算を、確実により効率的に実行できるよう、同じ前記材料識別子は設定されている、
請求項7に記載のシステム。
【請求項13】
方向性空間境界を横切った後に相が変化する二相材料を方法によって数値的にシミュレートする命令を含む非一時的コンピュータ可読記憶媒体であって、
該方法が、
少なくとも一つのアプリケーションモジュールがインストールされたコンピュータシステムにおいて、二相材料の方向性空間境界の定義と、前記二相材料を表す複数の有限要素を有する有限要素解析(FEA)モデルと、を受け取るステップであって、前記有限要素のそれぞれは、前記二相材料の第一相と第二相とにそれぞれ対応する第一セットの材料特性と第二セットの材料特性とを含んでいる材料識別子に関連付けられており、前記二相材料は前記方向性空間境界を横切った後に前記第一相から前記第二相に変化するステップと、
前記少なくとも一つのアプリケーションモジュールによって、受け取られた前記定義から材料流れ方向と前記方向性空間境界のタイプとを決定するステップであって、前記タイプは瞬時相変化タイプ又は漸次相移行タイプのいずれかであるステップと、
前記少なくとも一つのアプリケーションモジュールによって、前記第一セットの材料特性を前記有限要素のすべてに初めに割り当てるステップと、
前記少なくとも一つのアプリケーションモジュールによって、前記材料流れ方向に移動する前記二相材料の数値的にシミュレートされた構造的挙動を取得するために、前記有限要素解析モデルを用いて時間進行シミュレーションを行うステップであって、前記時間進行シミュレーションにおける複数のソリューションサイクルのそれぞれにおいて、前記瞬時相変化タイプに対しては、前記有限要素のうち前記方向性空間境界を横切って移動したと決定された有限要素に同じ前記材料識別子の前記第二セットの材料特性を割り当て、前記漸次相移行タイプに対しては、前記有限要素のうち前記方向性空間境界に位置すると決定された有限要素について前記第一セットの材料特性と前記第二セットの材料特性の補間により新しいセットの材料特性を計算し、同じ前記材料識別子によってグループ化された前記有限要素を用いて数値的にシミュレートされた構造的挙動を計算するステップと、
を含む、非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項14】
前記瞬時相変化タイプの前記方向性空間境界は、第一ノードおよび第二ノードから導出される面と、前記第一ノードを前記第二ノードに接続するベクトルと、を有し、前記第一ノードは位置として前記面上に位置し、前記ベクトルが前記材料流れ方向を形成している、
請求項13に記載の非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項15】
前記有限要素のうち前記方向性空間境界を横切って移動したと決定された有限要素は、前記有限要素うちの該有限要素を前記方向性空間境界の位置に対して調査することによって達成される、
請求項14に記載の非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項16】
前記漸次相移行タイプの前記方向性空間境界は、第一面および第二面であって、前記第一面上に位置する第一ノードおよび前記第二面上に位置する第二ノードから導出される第一面および第二面と、前記第一ノードを前記第二ノードに接続するベクトルと、を有しており、前記ベクトルが前記材料流れ方向を形成している、
請求項13に記載の非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項17】
相移行領域は前記第一面と前記第二面との間に位置している、
請求項16に記載の非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項18】
前記少なくとも一つのアプリケーションモジュールによって数値的にシミュレートされた構造的挙動の計算を、確実により効率的に実行できるよう、同じ前記材料識別子は設定されている、
請求項13に記載の非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、コンピュータ支援エンジニアリング解析に関し、特に、方向性空間境界を横切った後に相が変化する二相材料を数値的にシミュレートする方法およびシステムに関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
方向性空間境界(directional spatial boundary)を横切った後に相が変化する二相材料を数値的にシミュレートするシステム、方法およびソフトウェア製品を提供する。二相材料の方向性空間境界の定義と、二相材料を表す複数の有限要素を有する有限要素解析(FEA)モデルと、が、少なくとも一つのアプリケーションモジュールがインストールされたコンピュータシステムにおいて、受け取られる。有限要素のそれぞれは、二相材料の第一相と第二相とにそれぞれ対応する、第一セットの材料特性と第二セットの材料特性とを含んでいる材料識別子に関連付けられている。二相材料は、方向性空間境界を横切った後に第一相から第二相に変化する。
【0003】
有限要素のそれぞれには、第一セットの材料特性が初めに割り当てられる。材料流れ方向(material flow direcction)に移動する二相材料の数値的にシミュレートされた構造的挙動を取得するために、FEAモデルを用いる時間進行シミュレーションが行われる。時間進行シミュレーションにおける複数のソリューションサイクルのそれぞれにおいて、瞬時相変化の方向性空間境界に対しては、有限要素のうち方向性空間境界を横切って移動したと決定された有限要素に、同じ材料識別子(material identifier)の第二セットの材料特性が割り当てられる。漸次相移行の方向性空間境界に対しては、移行領域に位置する有限要素の材料特性が、同じ材料識別子の第一セットの材料特性と第二セットの材料特性との補間により計算される。
【0004】
同じ材料識別子によってグループ化された有限要素を用いて数値的にシミュレートされた構造的挙動が計算される。
【0005】
一の態様において、方向性空間境界は、三次元空間を二つの領域へと分割する面を有する。二相材料は、この面を横切った後、瞬時に相が変化する。この面は、第一ノードおよび第二ノードによって定義され、第一ノードはこの面内に位置し、第二ノードは材料流れ方向を定義するために用いられる。
【0006】
他の態様において、方向性空間境界は、二相材料の相転移の開始および終了にそれぞれ対応する平行な第一面および第二面を有する。これら二つの平行な面は、第一ノードおよび第二ノードによって定義され、第一ノードは第一面内に位置し、第二ノードは第二面に位置する。材料流れ方向は、第一ノードから第二ノードに向かう方向として定義される。
【0007】
本発明の利点のうちの一つは、計算効率に関連している。時間進行シミュレーションにおいて用いられる陽解法においては、二相材料の第一相および第二相に関して要求される最小時間ステップのサイズが、非常に大きく異なる場合がある。二相の材料特性が同じ材料識別子で定義されるので(defined under the same material identifier)、ある特定の数値的手法を採用するグループ化された有限要素において、計算を、例えばサブサイクリング(subcycling)を、高速化できる。
【0008】
本発明の他の目的、特徴および利点は、添付した図面を参照し、以下の本発明の一実施形態の詳細な説明を考察することによって明らかとなろう。
【0009】
本発明のこれらおよび他の特徴、態様および利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲および添付した図面を考慮してより理解されよう。図面は次の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1A〜
図1Bは、集合的に、本発明の一実施形態にかかる、方向性空間境界を横切った後に相が変化する二相材料をシミュレートする例示的プロセスを示すフローチャートである。
【
図1B】
図1A〜
図1Bは、集合的に、本発明の一実施形態にかかる、方向性空間境界を横切った後に相が変化する二相材料をシミュレートする例示的プロセスを示すフローチャートである。
【
図2A】
図2A〜
図2Cは、本発明の一実施形態にかかる第一例の方向性空間境界を横切って移動する二相材料を表すFEAモデルを示す一連の図である。
【
図2B】
図2A〜
図2Cは、本発明の一実施形態にかかる第一例の方向性空間境界を横切って移動する二相材料を表すFEAモデルを示す一連の図である。
【
図2C】
図2A〜
図2Cは、本発明の一実施形態にかかる第一例の方向性空間境界を横切って移動する二相材料を表すFEAモデルを示す一連の図である。
【
図3A】
図3A〜
図3Cは、本発明の一実施形態にかかる第二例の方向性空間境界を横切って移動する二相材料を表すFEAモデルを示す一連の図である。
【
図3B】
図3A〜
図3Cは、本発明の一実施形態にかかる第二例の方向性空間境界を横切って移動する二相材料を表すFEAモデルを示す一連の図である。
【
図3C】
図3A〜
図3Cは、本発明の一実施形態にかかる第二例の方向性空間境界を横切って移動する二相材料を表すFEAモデルを示す一連の図である。
【
図5】有限要素解析アプリケーションモジュールによって処理される有限要素の例示的グループ化方式を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態を実現可能である例示的コンピュータシステムの主要な部品を示す機能図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1A〜
図1Bは、集合的に、本発明の一実施形態にかかる、方向性空間境界(directional spatial boundary)を横切った後に相が変化する二相材料(bi-phase material)を数値的にシミュレートする例示的プロセス100を示すフローチャートである。プロセス100は、好ましくは、他の図を参照して理解されるように、ソフトウェアで実行される。
【0012】
プロセス100は、アクション102において、少なくとも一つのアプリケーションモジュール(例えばFEAソフトウェア)がインストールされたコンピュータシステム(例えば
図6のコンピュータシステム600)において、有限要素解析法(FEA)モデルによって表される二相材料の方向性空間境界の定義を受け取ることによって、スタートする。
【0013】
FEAモデルは、複数の有限要素(例えばソリッド要素、プレート要素、ビーム要素)を有する。限定するものではないが、例示的な有限要素は、四角形要素、三角形要素、六面体要素および四面体要素を有する。有限要素のそれぞれは、二相材料の第一相と第二相とにそれぞれ対応する第一セットの材料特性と第二セットの材料特性とを含んでいる材料識別子に関連付けられている。
【0014】
次にアクション103において、材料流れ方向(material flow direction)と方向性空間境界のタイプとが、受け取られた定義から決定される。方向性空間境界には二つの異なるタイプがある。第一タイプ(
図2A〜
図2Cおよび
図4Aに示す例)は、瞬時相移行(instant phase transition)に関するものである。言い換えれば、二相材料は、方向性空間境界を横切った後に第一相から第二相に瞬時に変化する。第二タイプ(
図3A〜
図3Cおよび
図4Bに示す例)は、漸次相移行(gradual phase transition)に関するものである。言い換えれば、二相材料は、材料が方向性空間境界を通過している時に、第一相から第二相に次第に変化する。
【0015】
一実施形態において、
図2A〜
図2Cは、材料流れ方向210に第一例の方向性空間境界を横切って移動する二相材料を表す例示的FEAモデルを示している。
図2Aでは、二相材料の第一相200aを表すFEAモデルが、方向性空間境界220の一方の側から始動する。次に、FEAモデルは方向性空間境界220に向かって方向210に移動する。その結果、
図2Bに示す通り、FEAモデルは方向性空間境界220を跨ぎ、FEAモデルの一部は二相材料の第一相200aにあり、他の部分はFEAモデルの第二相200bにある。
図2Cに示す通り、FEAモデル全体が方向性空間境界220を横切って移動してしまうと、FEAモデル全体は第二相200bの二相材料を表す。
【0016】
第一例の方向性空間境界は
図4Aに示す面400を有する。面400は二つのノードを用いて定義することができる。第一ノード401は、面400上に位置する。ベクトル410は、第一ノード411を第二ノード412に接続し、
図2A〜
図2Cの材料流れ方向210を定義する。ベクトル410はまた面400の正の法線ベクトルでもある。面400は、三次元空間を二つの領域へと分割する。一方の領域は二相材料の第一相に対するものであり、他方の領域は二相材料の第二相に対するものである。面400は有限のサイズで示しているが、面400が無限のサイズであってもよいことは当業者には理解されよう。
【0017】
他の実施形態において、材料流れ方向310における第二例の方向性空間境界を
図3A〜
図3Cに示す。第二例の方向性空間境界は二つの境界を有する。第一境界320aは材料相移行(material phase transition)の開始に対応し、第二境界320bは移行の終了に対応する。二相材料を表すFEAモデルが第一相300aで始動し、
図3Aにおける第一境界320aに向かって移動する。FEAモデルの有限要素が第一境界320aに達すると、二相材料は第二相へと移行を開始する。有限要素が第二境界320bに達すると、第二相300cへの相移行は完了する。相移行の際に、二つの境界320a−b間の移行領域300bに位置する各有限要素の材料特性は、二相材料の二つ相の間の補間(例えば線形補間)によって得られる。
【0018】
第二例の方向性空間境界の例示的表現を
図4Bに示す。二つの平行面451−452が、第一および第二ノード461−462(ユーザによって定義される)に位置するそれぞれの重心を用いて定義される。第一例と同様に、第一ノード461を第二ノード462に接続することにより形成されるベクトル460は、材料流れ方向(例えば
図3A〜
図3Cにおける材料流れ方向310)を定義する。またベクトル460は面451−452に対する正の法線ベクトルである。
【0019】
アクション104において、プロセス100が、第一セットの材料特性をFEAモデルにおける有限要素のすべてに割り当てる。言い換えると、二相材料を表すFEAモデルにおけるすべての有限要素は、第一相として初期化される。
【0020】
次に、判断105において、どのタイプの方向性空間境界を時間進行シミュレーションに用いるかが決定される。瞬時相変化タイプと決定された場合、アクション106において、材料流れ方向に移動する二相材料の数値的にシミュレートされた構造的挙動を取得するために、FEAモデルを用いて時間進行シミュレーションが行われる。
【0021】
時間進行シミュレーションは、多数のソリューションサイクル(つまり時間ステップ)を含んでいる。それぞれのソリューションサイクルにおいては、第一セットの材料特性が既に割り当てられている有限要素が調査(チェック)され、有限要素のうちのどれかが方向性空間境界の位置(例えば
図2A〜2Cに示した例の第一ノード)を横切って移動したか否かを決定する。一の態様において、有限要素が方向性空間境界を横切って移動したか否かの決定には、有限要素の重心が用いられる。他の態様においては、有限要素の角部のノードの一つが用いられる。さらに他の態様においては、有限要素の積分点(integration point)が用いられる。
【0022】
方向性空間境界を横切って移動したと決定された有限要素には、同じ材料識別子の第二セットの材料特性が割り当てられる。二相材料の数値的な構造的挙動が計算される。計算は、それぞれの材料識別子に応じてグループ化された有限要素を用いて実行される。同じ材料識別子を有する有限要素は、一つのグループにまとめられる。二相材料が、二つの異なる材料特性を有する同じ材料識別子で定義されるので、計算を高効率で、例えばベクトル化(vectorization)しながら実行することができる。
【0023】
漸次相移行が判断105において決定された場合、プロセス100はアクション108に移行する。材料流れ方向に移動する二相材料のシミュレートされた構造的挙動を取得するために、時間進行シミュレーションが行われる。時間進行シミュレーションにおけるそれぞれのソリューションサイクルにおいて、各有限要素が移行領域(例えば
図3Bに示す第一ノード320aと第二ノード320bとの間の移行領域)にあるか否かが調査される。有限要素が移行領域にあると決定された場合、新しいセットの材料特性が、同じ材料識別子の第一セットの材料特性と第二セットの材料特性との補間により計算される。二つのセットの数を補間する多くの方法が既に知られている(例えば線形補間)。相移行領域の端部に達した有限要素に関しては、その有限要素には、第二セットの材料特性が割り当てられる。
【0024】
その後、シミュレートされた構造的挙動を、FEAモデルにおけるすべての有限要素を用いて計算することができる。同じ材料識別子の有限要素がグループ化によってまとめられているので、高効率な計算を、補間の実行および構造的挙動の計算の両方において達成できる。
【0025】
図5は、数値的にシミュレートされた構造的挙動を計算するための少なくとも一つのアプリケーションモジュールにおいて実現可能な有限要素の例示的なグループ化方式を示す図である。
図5に示す通り、それぞれのグループの有限要素は、同じ材料識別子に関連付けられる(例えば、材料ID1を有するグループ1、材料ID2を有するグループ2等)。限定するものはないが、例えば、材料特性には、密度、ポアソン比、率(Moduli)等を含めることができる。
【0026】
一の態様において、本発明は、ここに説明した機能を実行可能な一つ以上のコンピュータシステムに対してなされたものである。コンピュータシステム600の一例を、
図6に示す。コンピュータシステム600は、プロセッサ604など一つ以上のプロセッサを有する。プロセッサ604は、コンピュータシステム内部通信バス602に接続されている。種々のソフトウェアの実施形態を、この例示的なコンピュータシステムの点から説明する。この説明を読むと、他のコンピュータシステムおよび/又はコンピューターアーキテクチャーを用いて、いかにして本発明を実行するかが、関連する技術分野に習熟している者には明らかになるであろう。
【0027】
コンピュータシステム600は、また、メインメモリ608好ましくはランダムアクセスメモリ(RAM))を有しており、そして二次メモリ610を有してもよい。二次メモリ610は、例えば、一つ以上のハードディスクドライブ612、および/又は、フレキシブルディスクドライブ、磁気テープドライブ、光ディスクドライブなどに代表される一つ以上のリムーバブルストレージドライブ614を有してもよい。リムーバブルストレージドライブ614は、よく知られている方法で、リムーバブルストレージユニット618を読み取りおよび/又はリムーバブルストレージユニット618に書き込む。リムーバブルストレージユニット618は、リムーバブルストレージドライブ614によって読み取り・書き込みされるフレキシブルディスク、磁気テープ、光ディスクなどを表す。以下にわかるように、リムーバブルストレージユニット618は、コンピューターソフトウェアおよび/又はデータを内部に記憶しているコンピュータ可読記憶媒体を有している。
【0028】
代替的な実施形態において、二次メモリ610は、コンピュータプログラムあるいは他の命令をコンピュータシステム600にロードすることを可能にする他の同様な手段を有することもできる。そのような手段は、例えば、リムーバブルストレージユニット622とインタフェース620とを有することができる。そのようなものの例には、プログラムカートリッジおよびカートリッジのインタフェース(ビデオゲーム機に見られるようなものなど)と、リムーバブルメモリチップ(消去可能なプログラマブルROM(EPROM)、ユニバーサルシリアルバス(USB)フラッシュメモリ、あるいはPROMなど)および関連するソケットと、ソフトウェアおよびデータをリムーバブルストレージユニット622からコンピュータシステム600に転送することを可能にする他のリムーバブルストレージユニット622およびインタフェース620と、が含まれ得る。一般に、コンピュータシステム600は、プロセススケジューリング、メモリ管理、ネットワーキングおよびI/Oサービスなどのタスクを行なうオペレーティングシステム(OS)ソフトウェアによって、制御され連係される。
【0029】
また、通信用インタフェース624も、バス602に接続することができる。通信用インタフェース624は、ソフトウェアおよびデータをコンピュータシステム600と外部装置との間で転送することを可能にする。通信用インタフェース624の例には、モデム、ネットワークインタフェイス(イーサネット(登録商標)・カードなど)、コミュニケーションポート、PCMCIA(Personal Computer Memory Card International Association)スロットおよびカードなど、が含まれ得る。コンピュータシステム600は、専用の規則のセット(つまりプロトコル)に基づいて、データネットワーク上の他の演算装置と通信する。一般的なプロトコルのうちの一つは、インターネットにおいて一般に用いられているTCP/IP(伝送コントロール・プロトコル/インターネット・プロトコル)である。一般に、通信用インタフェース624は、データファイルをデータネットワーク上で伝達される小さいパケットへのアセンブリングを管理し、あるいは受信したパケットを元のデータファイルへと再アセンブルする。さらに、通信用インタフェース624は、正しい宛先に届くようそれぞれのパケットのアドレス部分に対処し、あるいはコンピュータシステム600が宛先となっているパケットを他に向かわせることなく受信する。この書類において、「コンピュータプログラム媒体」および「コンピュータで使用可能な媒体」という語は、リムーバブルストレージドライブ614および/又はハードディスクドライブ612に組み込まれたハードディスクなどの媒体を概ね意味して用いられている。これらのコンピュータプログラム製品は、コンピュータシステム600にソフトウェアを提供する手段である。本発明は、このようなコンピュータプログラム製品に対してなされたものである。
【0030】
コンピュータシステム600は、また、コンピュータシステム600にモニタ、キーボード、マウス、プリンタ、スキャナ、プロッタなどへのアクセスを提供する入出力(I/O)インタフェース630を有することができる。
【0031】
コンピュータプログラム(コンピュータ制御ロジックともいう)は、メインメモリ608および/又は二次メモリ610にアプリケーションモジュール606として記憶される。コンピュータプログラムを、通信用インタフェース624を介して受け取ることもできる。このようなコンピュータプログラムが実行されると、コンピュータプログラムは、コンピュータシステム600がここに説明した本発明の特徴を実行することを可能にする。詳細には、コンピュータプログラムが実行されると、コンピュータプログラムは、プロセッサ604が本発明の特徴を実行することが可能にする。したがって、このようなコンピュータプログラムは、コンピュータシステム600のコントローラを表している。
【0032】
ソフトウェアを用いて発明が実行される実施形態において、ソフトウェアはコンピュータプログラム製品に記憶でき、リムーバブルストレージドライブ614、ハードディスクドライブ612あるいは通信用インタフェース624を用いてコンピュータシステム600へとロードすることができる。アプリケーションモジュール606は、プロセッサ604によって実行された時、アプリケーションモジュールによって、プロセッサ604がここに説明した本発明の機能を実行する。
【0033】
所望のタスクを達成するために、I/Oインタフェース630を介したユーザ入力によってあるいはよることなしに、一つ以上のプロセッサ604によって実行させることができる一つ以上のアプリケーションモジュール606を、メインメモリ608に、ロードすることもできる。動作においては、少なくとも一つのプロセッサ604がアプリケーションモジュール606のうちの一つを実行すると、結果が演算されて二次メモリ610(つまりハードディスクドライブ612)に記憶される。有限要素解析の状況は、テキストあるいはグラフィック表現で、I/Oインタフェース630を介してユーザに報告される。
【0034】
本発明を具体的な実施形態を参照しながら説明したが、これらの実施形態は単なる例示であって、本発明を限定するものではない。開示した具体的な例示の実施形態に対する種々の変更あるいは変形を、当業者は思いつくであろう。例えば、方向性空間境界を面として図示し説明したが、物理的オブジェクトの他の形式(例えば箱)を代わりに用いることができる。つまり、本発明の範囲は、ここで開示した具体的で例示的な実施形態に限定されず、当業者が容易に想到するあらゆる変更が、本願の精神および認識範囲そして添付の特許請求の範囲の権利範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
200a 第一相
200b 第二相
210 材料流れ方向
220 方向性空間境界
300a 第一相
300b 移行領域
300c 第二相
310 材料流れ方向
320a 第一境界
320b 第二境界
400 面
410 ベクトル
411 第一ノード
412 第二ノード
451 平行面
452 平行面
460 ベクトル
461 第一ノード
462 第二ノード
600 コンピュータシステム
602 バス
604 プロセッサ
606 モジュール
608 メインメモリ(RAM)
610 二次メモリ
612 ハードディスクドライブ
614 リムーバブルストレージドライブ
618 リムーバブルストレージユニット
620 インタフェース
622 リムーバブルストレージユニット
624 通信用インタフェース
630 I/Oインタフェース