(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581005
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】CFRP成形用の成形型基材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/18 20060101AFI20190912BHJP
C04B 14/04 20060101ALI20190912BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20190912BHJP
C04B 14/20 20060101ALI20190912BHJP
C04B 14/42 20060101ALI20190912BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20190912BHJP
B28B 3/02 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
C04B28/18
C04B14/04 Z
C04B14/10 B
C04B14/20
C04B14/42 Z
C04B40/02
B28B3/02 D
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-15647(P2016-15647)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-132670(P2017-132670A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000126609
【氏名又は名称】株式会社エーアンドエーマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】海老澤 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】岩永 朋来
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩
【審査官】
田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−192444(JP,A)
【文献】
特開平07−100811(JP,A)
【文献】
特開平01−164767(JP,A)
【文献】
特開平11−246248(JP,A)
【文献】
特開2003−104769(JP,A)
【文献】
特開2011−206941(JP,A)
【文献】
特開昭53−061620(JP,A)
【文献】
特開2010−194597(JP,A)
【文献】
特開2012−197206(JP,A)
【文献】
特開平01−119554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 − 32/02
C04B 40/00 − 40/06
B28B 3/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)けい酸カルシウム水和物をバインダーとし、(B)ガラス繊維と(C)滑り材を含む無機充填材とを含有するCFRP成形用の成形型基材であって、
バインダーとしてのけい酸カルシウム水和物を構成する石灰質原料とけい酸質原料のCaO/SiO2モル比が0.7〜1.2の範囲であり、
石灰質原料とけい酸質原料の合計含有量が全固形分に対して40〜89質量%、ガラス繊維の含有量が全固形分に対して1〜10質量%、無機充填材の含有量が全固形分に対して10〜59質量%、前記無機充填材の一部としての滑り材の含有量が全固形分に対して0.1〜20質量%であって、
かさ密度が0.6〜1.1であるCFRP成形用の成形型基材。
【請求項2】
前記滑り材が、タルク、パイロフィライト、カオリナイト及びマイカ粉から選択される1種又は2種以上である請求項1記載のCFRP成形用の成形型基材。
【請求項3】
(1)石灰質原料とけい酸質原料のCaO/SiO2モル比が0.7〜1.2の範囲であり、石灰質原料とけい酸質原料とを合計で全固形分に対し40〜89質量%含み、ガラス繊維を全固形分に対し1〜10質量%含み、無機充填材を全固形分に対し10〜59質量%含み、前記無機充填材の一部として全固形分に対し0.1〜20質量%の滑り材を含む原料配合物に、水を加えて混合撹拌して原料スラリーとし、
(2)得られた原料スラリーを脱水プレス成形した後、
(3)水蒸気存在下160〜230℃の温度で1〜24時間オートクレーブ養生することを特徴とする、請求項1記載のCFRP成形用の成形型基材の製造法。
【請求項4】
前記滑り材が、タルク、パイロフィライト、カオリナイト及びマイカ粉から選択される1種又は2種以上である請求項3記載のCFRP成形用の成形型基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチック(Carbon−Fiber−Reinforced plastic:以下、CFRP)の成形に用いられる成形型基材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CFRPは、軽量かつ高強度の素材として航空機産業や自動車産業を中心に需要が拡大している。CFRPの成形方法としてはいくつかの方法が知られているが、中でも高性能な成形品を得る成形法としては、炭素繊維と熱硬化性樹脂からなるプリプレグを型面に積層して真空バッグ下加熱硬化するオートクレーブ成形法(特許文献1)などが知られている。
【0003】
こうしたオートクレーブ成形法などにおいては、所望の成形体を得るための成形型が必須となる。同一形状の量産品の成形には金属を基材とした金型が用いられるが、金型は材料コストが高く、切削加工にも時間と手間がかかるため、一般的に高額なものとなる。このため、試作段階あるいは生産数が少ない成形品を作製する場合においては、より材料コストが安く、切削加工等が容易な材料を用いて成形型が作られている。
【0004】
従来、こうした簡易的な成形型の基材としては、切削加工用の樹脂成形体や珪酸カルシウム水和物に樹脂バインダーを混合させた有機−無機複合材料(特許文献2、3)などが使用されている。このうち、有機−無機複合材料は、寸法安定性が良好であり、切削加工が容易で、かつ切削面の平滑性を得やすいという特徴があることから、オートクレーブ成形法の成形型基材として広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−118381号公報
【特許文献2】特公昭54−21853号公報
【特許文献3】特開平1−119554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、こうした有機−無機複合材料は、樹脂バインダーを併用していることから熱老化による強度低下が進行しやすく、CFRPの成形温度が高い場合に繰り返しの使用が難しいという欠点があった。一方で、近年CFRPに対する更なる高性能化の要求から、今後、成形温度が更に高くなって行くものと想定されている。その結果、現在は130℃程度までとされている成形条件が、200℃程度まで高くなる可能性があり、従って成形型基材に対してもこれに適応できる耐熱性の向上が望まれている。
【0007】
本発明の課題は、上記のような従来材料の耐熱性に対する欠点を克服することであり、樹脂バインダーを使用しない無機材料でありながら良好な切削加工性を有し、かつ熱老化による強度低下がなく、成形条件200℃での使用にも耐え得るCFRP成形用の成形型基材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、上記課題を克服できる無機の成形型基材を開発すべく、種々の検討を試みた結果、無機繊維であるガラス繊維を主な補強繊維として使用し、けい酸カルシウムの原料である石灰質原料とけい酸質原料のCaO/SiO
2モル比を特定の範囲に調整することで材質の強度と耐熱性を確保すると共に、無機充填材中に滑り材を添加することにより、十分な耐熱性と良好な切削加工性を両立させることが可能であることを見い出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔4〕を提供するものである。
【0010】
〔1〕(A)けい酸カルシウム水和物をバインダーとし、(B)ガラス繊維と(C)滑り材を含む無機充填材とを含有するCFRP成形用の成形型基材であって、
バインダーとしてのけい酸カルシウム水和物を構成する石灰質原料とけい酸質原料のCaO/SiO
2モル比が0.7〜1.2の範囲であり、
石灰質原料とけい酸質原料の合計含有量が全固形分に対して40〜89質量%、ガラス繊維の含有量が全固形分に対して1〜10質量%、無機充填材の含有量が全固形分に対して10〜59質量%、
前記無機充填材の一部としての滑り材の含有量が全固形分に対して0.1〜20質量%であって、
かさ密度が0.6〜1.1であるCFRP成形用の成形型基材。
〔2〕前記滑り材が、タルク、パイロフィライト、カオリナイト及びマイカ粉から選択される1種又は2種以上である〔1〕記載のCFRP成形用の成形型基材。
〔3〕(1)石灰質原料とけい酸質原料のCaO/SiO
2モル比が0.7〜1.2の範囲であり、石灰質原料とけい酸質原料とを合計で全固形分に対し40〜89質量%含み、ガラス繊維を全固形分に対し1〜10質量%含み、無機充填材を全固形分に対し10〜59質量%含み、前記無機充填材の一部として全固形分に対し0.1〜20質量%の滑り材を含む原料配合物に、水を加えて混合撹拌して原料スラリーとし、
(2)得られた原料スラリーを脱水プレス成形した後、
(3)水蒸気存在下160〜230℃の温度で1〜24時間オートクレーブ養生することを特徴とする、〔1〕記載のCFRP成形用の成形型基材の製造法。
〔4〕前記滑り材が、タルク、パイロフィライト、カオリナイト及びマイカ粉から選択される1種又は2種以上である〔3〕記載のCFRP成形用の成形型基材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のCFRP成形用の成形型基材は、切削加工が容易であり、かつ滑らかな表面を有する成形型が得られ、得られた成形型は、基材が熱老化による強度低下が発生しにくいことから繰り返しの使用が可能であり、成形条件200℃での使用にも耐えうる耐熱性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】タンブリングロス試験機の例を示す図である。a)タンブリングロス試験機の外観。b)タンブリングロス試験機の回転箱を開いた状態。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のCFRP成形用の成形型基材は、(A)けい酸カルシウム水和物をバインダーとし、(B)ガラス繊維と(C)滑り材を含む無機充填材とを含有するCFRP成形用の成形型基材であって、
バインダーとしてのけい酸カルシウム水和物を構成する石灰質原料とけい酸質原料のCaO/SiO
2モル比が0.7〜1.2の範囲であり、
石灰質原料とけい酸質原料の合計含有量が全固形分に対して40〜89質量%、ガラス繊維の含有量が全固形分に対して1〜10質量%、無機充填材の含有量が全固形分に対して10〜59質量%、
前記無機充填材の一部としての滑り材の含有量が全固形分に対して0.1〜20質量%であって、
かさ密度が0.6〜1.1であることを特徴とする。
【0014】
本発明のCFRP成形用の成形型基材は、(A)けい酸カルシウム水和物をバインダーとする無機成形体である。けい酸カルシウム水和物は、無機バインダーとしての耐熱性を有しており、成形型として200℃の成形条件で使用される場合においても熱老化の影響を受けず、安定した強度を得ることができる。
【0015】
前記けい酸カルシウム水和物を構成する石灰質原料とけい酸質原料は、CaO/SiO
2モル比が0.7〜1.2の範囲が好ましく、0.8〜1.0の範囲がより好ましい。CaO/SiO
2モル比を0.7〜1.2の範囲とすることで、オートクレーブ養生による硬化反応で強度が発現しやすく、得られる成形体の強度を高くすることができる。
【0016】
本発明で使用する石灰質原料としては、けい酸カルシウム成形体用の原料として従来から公知の原料を使用すればよい。例えば、消石灰や生石灰等を使用することができる。けい酸質原料としては、ブレーン比表面積の値(JIS R 5201による/以下、ブレーン値)が3000〜12000cm
2/gの範囲であることが好ましく、珪石粉のほか、けい藻土、シリカヒューム等を使用することができる。
【0017】
また、けい酸カルシウム水和物の原料の一部として、石灰質原料とけい酸質原料の両方の役割を果たすポルトランドセメント等のセメントを使用することもできる。セメントを使用する場合には、該セメントに含まれるCaO/SiO
2モル比を含めた全体の石灰質原料とけい酸質原料のCaO/SiO
2モル比が0.7〜1.2の範囲となるようにする。
【0018】
本発明のCFRP成形用の成形型基材は、石灰質原料とけい酸質原料とを合計で全固形分に対し40〜89質量%含有する。石灰質原料とけい酸質原料の合計が89質量%を超えると、成形体が硬くなるため切削加工が難しくなり、40質量%未満では成形体が強度不足となる。CFRP成形用の成形型は、成形したCFRPを型面から引きはがす際に力が加わるため、ある程度の強度が必要となる。そこで、本発明者は、CFRP成形用の成形型に必要な強度について、材質の曲げ強さ(JIS A 5430準拠)を代用特性として評価した。その結果、曲げ強さの値が800N/cm
2以上必要であり、より好ましくは900N/cm
2以上必要と判断した。石灰質原料とけい酸原料の合計含有量は、全固形分に対して45〜80質量%が好ましく、50〜70質量%がより好ましい。
【0019】
本発明のCFRP成形用の成形型基材は、必須の補強繊維として(B)ガラス繊維を含む。補強繊維は、成形体の強度等の物性を向上させる役割と、脱水プレス成形における成形助材としての役割を担っている。ガラス繊維は、前記の役割に加え、切削加工する際に基材とともに削りとられやすいため、他の繊維材料に比べ加工後の表面が毛羽立地にくい特徴があるため好適である。ガラス繊維は、全固形分に対し1〜10質量%含むものとし、より好ましくは3〜8質量%含むものとする。ガラス繊維が10質量%を超えると、原材料の分散が阻害されて成形体が不均一となる可能性が高く、1質量%未満では十分な補強効果を得ることができない。
【0020】
また、必要に応じ、補強繊維の一部としてガラス繊維以外の繊維、例えばセルロースパルプや炭素繊維などを添加し、ガラス繊維と併用することもできる。繊維を併用する場合は、切削加工性への影響を考慮し、ガラス繊維以外の繊維を全固形分に対し2質量%以下とするのが好ましく、1質量%以下とするのがより好ましい。
【0021】
本発明のCFRP成形用の成形型基材は、無機充填材を全固形分に対し10〜59質量%含むものとし、前記無機充填材の一部として(C)滑り材を含むことを必須とする。滑り材は、切削加工性を向上させるための固形潤滑剤のような役目をもつ。一般に、固形潤滑剤としては、グラファイト、二硫化モリブデン、四フッ化エチレンなどが知られているが、本発明においては、タルク、パイロフィライト、カオリナイト、マイカ粉等の滑り特性を有するケイ酸塩鉱物が適しており、これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。これらのうち汎用性のあるタルクが最も適している。
【0022】
滑り材の含有量は全固形分に対し0.1〜20質量%が良く、0.5〜12質量%がより好ましく、3〜10質量%がさらに好ましい。滑り材が20質量%を超えると成形体の強度に悪影響があり、0.1質量%未満では必要な切削加工性の改善効果が得られない。
【0023】
滑り材以外の無機充填材としては、例えば炭酸カルシウム粉、ドロマイト粉、硫酸カルシウム、ワラストナイト、けい酸カルシウム水和物、けい酸カルシウム板廃材の粉砕粉(スクラップ)等からなる群から選択される1種または2種以上を用いることがでる。このうち、耐熱補強の点からワラストナイトが好適であり、特に針状ワラストナイトが適している。針状ワラストナイトは原料スラリーの濾水性を向上させ、成形性を向上させる効果や成型直後の生板強度を向上させる役目をもつ。無機充填材のうち、けい酸カルシウム水和物は、原料スラリーの固形分のボリュームを調整し、成形性を向上させる役目をもつ。石灰質原料及びけい酸質原料を水とともに混合し、高温高圧下での水熱合成により生成させることができ、平均粒子径は30μm〜100μmの範囲内にあるのが好ましい。石灰質原料としては、生石灰、消石灰等が挙げられ、けい酸質原料としては、珪石、珪藻土、シリカヒューム等が挙げられる。無機充填材の含有量は、全固形分に対して10〜59質量%であり、20〜55質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。無機充填材の含有量が10質量%未満では脱水プレス成形での成形性が著しく低下し、59質量%を超えると成形体が強度不足となる。
【0024】
なお、無機充填材としてのけい酸カルシウム水和物は、例えば次のようにして製造することができる。石灰質原料とけい酸質原料とを、例えば配合比(CaO/SiO2のモル比)0.5〜1.5とし、この混合物に対し、質量比で5〜20倍の水を加え、混合分散したものを原料スラリーとし、この原料スラリーを攪拌可能な圧力容器内にて150〜230℃で、1〜20時間にわたり水熱合成を行うことにより、例えばトバモライト、ゾノトライト等としてけい酸カルシウム水和物のスラリーを得ることができる。
【0025】
更に、本発明のCFRP成形用の成形型基材は、かさ密度を0.6〜1.1とする。かさ密度を0.6〜1.1とすることにより、十分な強度と良好な切削加工性を両立させることが可能となる。かさ密度が1.1を超えると、硬くなるため切削加工性が悪くなり、0.6未満では十分な強度を得るのが難しい。好ましいかさ密度は0.6〜1.1であり、より好ましくは0.7〜1.0である。
【0026】
本発明のCFRP成形用の成形型基材は、(1)石灰質原料とけい酸質原料のCaO/SiO
2モル比が0.7〜1.2の範囲であり、石灰質原料とけい酸質原料とを合計で全固形分に対し40〜89質量%含み、ガラス繊維を全固形分に対し1〜10質量%含み、無機充填材を全固形分に対し10〜59質量%含み、前記無機充填材の一部として全固形分に対し0.1〜20質量%の滑り材を含む原料配合物に、水を加えて混合撹拌して原料スラリーとし、(2)得られた原料スラリーを脱水プレス成形した後、(3)水蒸気存在下160〜230℃の温度で1〜24時間オートクレーブ養生する方法により製造される。
【0027】
まず原料スラリーを得るため、原料配合物の全固形分100質量部に対し、150〜500質量部の水を加え、パルパー、オムニミキサー、容器を水平方向に貫く様に配した回転軸に邪魔板を配置した横型ミキサー、邪魔板の代わりにリボン状の羽根を螺旋状に配した横型ミキサー等の公知の撹拌装置により混合撹拌する。
【0028】
次に、得られた原料スラリーを金型に流し込み、プレス圧10〜100kg/cm
2で脱水プレス成形を行い、生板を得る。プレス圧は、かさ密度が0.6〜1.1となるよう設定するが、プレス圧が100kg/cm
2を超えるとかさ密度が設定値を超えてしまい、10kg/cm
2未満では生板が強度不足となり製造時のハンドリングが困難となる。
【0029】
得られた生板は、水蒸気存在下160〜230℃の温度で1〜24時間オートクレーブ養生する。オートクレーブ養生することで、石灰質原料とけい酸質原料が反応し、けい酸カルシウム水和物を形成して硬化することによりバインダー効果が得られる。オートクレーブ養生では、けい酸カルシウム水和物を生成させ軽くて強い成形体とすることが重要であるため、CaO/SiO
2モル比を0.7〜1.2にすると共に、水蒸気存在下160〜230℃の温度で1〜24時間オートクレーブ養生する条件の組合せが好適である。得られた成形体は、必要に応じ含水率を調整し、本発明のCFRP成形用の成形型基材となる。
【0030】
本発明のCFRP成形用の成形型基材は、従来品に比べて高い耐熱性をもつことから、CFRPの成形型として実際に使う成形条件の温度(200℃以下)で予め熱処理しておき、使用温度での材質を安定させた上で切削加工し、成形型とすることもできる。200℃以下であれば強度やかさ密度に大きな変化は無く、余剰の吸着水や揮発成分が除かれることにより、使用される温度での材質が更に安定する。熱処理の方法としては、例えば200℃以下に設定した熱風循環式オーブン等を用い、成形型基材全体の温度が十分に上がるまでの時間、例えば2〜24時間程度加熱し、その後室温に戻してから使用する方法などがある。
【実施例】
【0031】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
実施例及び比較例に使用した原材料は下記のとおりである:
消石灰:CaO含量70質量%以上
珪石粉:ブレーン値約6000cm
2/g、SiO
2含量94質量%以上
ガラス繊維:長さ6mm、ACS6H−103(日本電気硝子(株))
ワラストナイト:長さ約0.25mm、直径約5μmの針状ワラストナイト
タルク:平均粒径約14μmの粉状タルク
けい酸カルシウム水和物:以下の条件で予め合成した合成ゾノトライト
消石灰と珪石粉とを、配合比(CaO/SiO2のモル比)1.0とし、この混合物に対し、質量比で25倍の水を加え、混合分散したものを原料スラリーとし、この原料スラリーを攪拌可能な圧力容器内にて198℃で、3時間にわたり水熱合成を行うことにより、スラリー状の合成ゾノトライト(平均粒子径:50μm)を得た。
【0033】
以下の表1に記載する配合割合にて原料配合物を得、原料配合物の固形分100質量部に対し220質量部の水を加えて混合撹拌し、原料スラリーを得た。次に原料スラリーを金型に流し込み、プレス圧30〜50kg/cm
2で脱水プレス成形して幅80mm、長さ150mm、厚さ30mmの生板を得た。得られた生板をオートクレーブ中202℃で8時間保持することにより実施例及び比較例の成形体を得た。表中の%は質量%を示す。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例及び比較例の物性試験結果を表2に示す。かさ密度、曲げ強さはJIS A 5430に準拠して試験した。切削加工性は、電動ルーターを用いて幅10mm、深さ20mm、長さ100mmの溝を掘る切削加工を行った際の切削し易さと切削面の仕上がり状態を○×で評価した。タンブリングロスはASTM C421に準じ、
図1のタンブリングロス試験機を用い、一辺が25mmのサイコロ状に加工した試験片12個と一辺が18mmのオーク材24個を、200mm×200mm×180mmの木箱に入れた状態で1rpmの速さで20分間回転させた後、角欠けや摩耗により減少した質量を測定した。
【0036】
【表2】
【0037】
表2より、実施例1〜5については物性のバランスが良好であり、成形型基材として優れているのがわかる。これに対し、比較例1は曲げ強さが大きいものの、タルクを添加していないため切削加工性が悪く、切削面が粗くなる傾向が認められた。また、比較例2〜6は総じて曲げ強さが小さく、中でも比較例3及び5はタンブリングロスが大きいことから角欠け等が生じやすく、切削加工でシャープなエッジを得ることが難しい。比較例2はタルクの含有量が10質量%を超える例、比較例3及び4はCaO/SiO2のモル比が0.7〜1.2の範囲外の例、比較例5はガラス繊維の含有量が10質量%を超える例、比較例6はガラス繊維を含まない例である。
【0038】
表3に加熱後強度試験結果を示す。加熱後強度試験は、実施例1の試験片と、市販されている従来品の有機―無機複合材料について、200℃×24時間の条件で熱処理した後、常温にもどしてから曲げ強さを測定して未加熱品の曲げ強さの値と比較した。
【0039】
【表3】
【0040】
表3より、実施例1は加熱後の強度保持率が高く、200℃の成形条件においても十分に使用できる成形型基材と言える。これに対し、参考Aは市販されている従来タイプの有機−無機複合材料であるため、加熱後の強度保持率が低く、200℃の成形条件での使用は難しいのがわかる。
【0041】
以上より、本発明によれば、切削加工が容易であり、かつ熱老化しにくいことから繰り返しの使用が可能であり、成形条件200℃での使用にも耐えうる耐熱性を有したCFRP成形用の成形型基材を得ることができる。