特許第6581035号(P6581035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581035
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/24 20060101AFI20190912BHJP
   H02K 5/04 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   H02K5/24 A
   H02K5/04
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-87226(P2016-87226)
(22)【出願日】2016年4月25日
(65)【公開番号】特開2017-60379(P2017-60379A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年5月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-184824(P2015-184824)
(32)【優先日】2015年9月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 豪
(72)【発明者】
【氏名】野崎 優
(72)【発明者】
【氏名】片原田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】吉武 裕
【審査官】 宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−030689(JP,A)
【文献】 特開平07−154940(JP,A)
【文献】 特開平07−264804(JP,A)
【文献】 特開2000−046103(JP,A)
【文献】 特開2014−057406(JP,A)
【文献】 吉武裕、野崎優、片原田浩之、田川夏湖、山崎豪、原田晃,不均一性をもつ電動機固定子の動吸振器による制振,日本機械学会論文集,日本,一般社団法人日本機械学会,2014年12月10日,2015年81巻821号
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/24
H02K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の固定支持部材と、
前記固定支持部材内で回転可能に支持された回転子と、
前記固定支持部材の周方向に所定の第1の開き角をもって配置されて当該固定支持部材を支持する第1および第2の支持脚と、
前記第2の支持脚に対して前記固定支持部材の周方向に離間して配置され前記固定支持部材に取り付けられて前記固定支持部材の半径方向の動きに対する抵抗力を生じるフードダンパと、
を有する回転電機であって、
前記回転子の回転方向に角度座標を取って、前記第1および第2の支持脚の座標位置をそれぞれαおよびαとし、前記フードダンパの座標位置をθとし、
α<αとするとき、
(α−α)が、70〜110度、160〜200度、250〜290度、340〜380度、のいずれかであり、かつ、
(θ−α)が、60〜80度、150〜170度、240〜260度、330〜350度、のいずれかであること、
を特徴とする回転電機。
【請求項2】
円筒状の固定支持部材と、
前記固定支持部材内で回転可能に支持された回転子と、
前記固定支持部材の周方向に所定の第1の開き角をもって配置されて当該固定支持部材を支持する第1および第2の支持脚と、
前記第1および第2の支持脚に対して前記固定支持部材の周方向に離間して、かつ、互いに前記固定支持部材の周方向に離間して配置され、前記固定支持部材に取り付けられて前記固定支持部材の半径方向の動きに対する抵抗力を生じる第1および第2のフードダンパと、
を有する回転電機であって、
前記回転子の回転方向に角度座標を取って、前記第1および第2の支持脚の座標位置をそれぞれαおよびαとし、前記第1および第2のフードダンパの座標位置をそれぞれθおよびθとするとき、
(α−α)が、70〜110度、160〜200度、250〜290度、340〜380度、のいずれかであり、かつ、
(θ−α)が、65〜80度、155〜170度、245〜260度、335〜350度、のいずれかであること、
を特徴とする回転電機。
【請求項3】
円筒状の固定支持部材と、
前記固定支持部材内で回転可能に支持された回転子と、
前記固定支持部材の周方向に所定の第1の開き角をもって配置されて当該固定支持部材を支持する第1および第2の支持脚と、
前記第1および第2の支持脚に対して前記固定支持部材の周方向に所定の第2の開き角をもって、かつ、互いに前記固定支持部材の周方向に離間して配置され、前記固定支持部材に取り付けられて前記固定支持部材の半径方向の動きに対する抵抗力を生じる第1および第2のフードダンパと、
を有する回転電機であって、
前記回転子の回転方向に角度座標を取って、前記第1および第2の支持脚の座標位置をそれぞれαおよびαとし、前記第1および第2のフードダンパの座標位置をそれぞれθおよびθとするとき、
(α−α)が、70〜110度、160〜200度、250〜290度、340〜380度のいずれかであり、かつ、
(θ−α)が、0〜60度、90〜150度、180〜240度、270〜330度のいずれかであり、かつ、
(θ−θ)が、25〜70度、115〜160度、205〜250度、295〜340度、のいずれかであること、
を特徴とする回転電機。
【請求項4】
回転速度が可変に構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フードダンパおよび複数の支持脚を備えた回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機および発電機を含む回転電機の典型的な構造として、固定支持された円筒状の固定子を含む固定支持部材と、固定支持部材内で回転可能に支持された回転子と、を備えたものが広く知られている。回転電機において、固定支持部材と回転子の間に作用している電磁力振動数が固定支持部材の固有振動数と一致する場合に共振が発生し、固定支持部材が振動して電磁騒音が発生することがある。
【0003】
このような回転電機の振動、特に円環振動モードの振動を抑制する対策として、回転電機に動吸振器を取り付ける技術が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、回転電機の支持脚の位置を考慮して振動を抑制する技術が知られている(特許文献2)。
【0005】
さらに、粉粒体を用いた制振部材によってモータの振動を抑制する技術が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−57406号公報
【特許文献2】特開2013−150383号公報
【特許文献3】特開2000−46103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1では、動吸振器を取り付ける必要があり、また、回転電機の支持脚に関しては考慮されていない。また、特許文献2では回転電機の支持脚に関して考慮がなされているものの、支持脚を単なる固定支持として取り扱い、弾性支持要素としての考慮はなされていない。
【0008】
また、特許文献3には、粉粒体を用いた制振部材をモータの外周のどの位置に取り付けると効果的かということについては何ら開示されていない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、複数の支持脚を備えた回転電機において、動吸振器を用いず、フードダンパを用いて、支持脚の弾性変形を考慮して振動抑制を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る回転電機の一つの態様は、円筒状の固定支持部材と、前記固定支持部材内で回転可能に支持された回転子と、前記固定支持部材の周方向に所定の第1の開き角をもって配置されて当該固定支持部材を支持する第1および第2の支持脚と、前記第2の支持脚に対して前記固定支持部材の周方向に離間して配置され前記固定支持部材に取り付けられて前記固定支持部材の半径方向の動きに対する抵抗力を生じるフードダンパと、を有する回転電機であって、前記回転子の回転方向に角度座標を取って、前記第1および第2の支持脚の座標位置をそれぞれαおよびαとし、前記フードダンパの座標位置をθとし、α<αとするとき、(α−α)が、70〜110度、160〜200度、250〜290度、340〜380度、のいずれかであり、かつ、(θ−α)が、60〜80度、150〜170度、240〜260度、330〜350度、のいずれかであること、を特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る回転電機の他の一つの態様は、円筒状の固定支持部材と、前記固定支持部材内で回転可能に支持された回転子と、前記固定支持部材の周方向に所定の第1の開き角をもって配置されて当該固定支持部材を支持する第1および第2の支持脚と、前記第1および第2の支持脚に対して前記固定支持部材の周方向に離間して、かつ、互いに前記固定支持部材の周方向に離間して配置され、前記固定支持部材に取り付けられて前記固定支持部材の半径方向の動きに対する抵抗力を生じる第1および第2のフードダンパと、を有する回転電機であって、前記回転子の回転方向に角度座標を取って、前記第1および第2の支持脚の座標位置をそれぞれαおよびαとし、前記第1および第2のフードダンパの座標位置をそれぞれθおよびθとするとき、(α−α)が、70〜110度、160〜200度、250〜290度、340〜380度、のいずれかであり、かつ、(θ−α)が、65〜80度、155〜170度、245〜260度、335〜350度、のいずれかであること、を特徴とする。
【0012】
さらに、本発明に係る回転電機の他の一つの態様は、円筒状の固定支持部材と、前記固定支持部材内で回転可能に支持された回転子と、前記固定支持部材の周方向に所定の第1の開き角をもって配置されて当該固定支持部材を支持する第1および第2の支持脚と、前記第1および第2の支持脚に対して前記固定支持部材の周方向に所定の第2の開き角をもって、かつ、互いに前記固定支持部材の周方向に離間して配置され、前記固定支持部材に取り付けられて前記固定支持部材の半径方向の動きに対する抵抗力を生じる第1および第2のフードダンパと、を有する回転電機であって、前記回転子の回転方向に角度座標を取って、前記第1および第2の支持脚の座標位置をそれぞれαおよびαとし、前記第1および第2のフードダンパの座標位置をそれぞれθおよびθとするとき、(α−α)が、70〜110度、160〜200度、250〜290度、340〜380度のいずれかであり、かつ、(θ−α)が、0〜60度、90〜150度、180〜240度、270〜330度のいずれかであり、かつ、(θ−θ)が、25〜70度、115〜160度、205〜250度、295〜340度、のいずれかであること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の支持脚を備えた回転電機において、動吸振器を用いず、フードダンパを用いて、支持脚の弾性変形を考慮して振動抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る回転電機の回転軸に垂直な模式的断面図である。
図2】回転電機の固定支持部材にかかる電磁力の、回転電機の軸に垂直な断面図における周方向の分布の例を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る回転電機で、2個のばね支持および1個のフードダンパを備える場合(ダンパ1個のケース)におけるダンパ・ばね開き角φと無次元ばね定数κとが振幅に及ぼす影響を示すグラフである。
図4】本発明の実施形態に係る回転電機(ダンパ1個のケース)におけるばね開き角Δαと無次元ばね定数κとが振幅に及ぼす影響を示すグラフである。
図5】本発明の実施形態に係る回転電機(ダンパ1個のケース)において、無次元振動数を横軸にとって無次元振幅を縦軸にとった共振曲線の例を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態に係る回転電機で、2個のばね支持および2個のフードダンパを備える場合(ダンパ2個のケース)におけるダンパ開き角Δθとダンパ・ばね開き角φとが振幅に及ぼす影響を示すグラフであって、ダンパ開き角Δθの影響が小さい場合(第1グループ)について示すグラフである。
図7】本発明の実施形態に係る回転電機(ダンパ2個のケース)におけるダンパ開き角Δθとダンパ・ばね開き角φとが振幅に及ぼす影響を示すグラフであって、ダンパ開き角Δθの影響が大きい場合(第2グループ)について示すグラフである。
図8】本発明の実施形態に係る回転電機(ダンパ2個のケース)の第2グループにおけるダンパ開き角Δθと無次元ばね定数κとが振幅に及ぼす影響を示すグラフである。
図9】本発明の実施形態に係る回転電機(ダンパ2個のケース)の第2グループにおけるばね開き角Δαと無次元ばね定数κとが振幅に及ぼす影響を示すグラフである。
図10】本発明の実施形態に係る回転電機(ダンパ2個のケース)の第1グループにおいて、無次元振動数を横軸にとって無次元振幅を縦軸にとった共振曲線の例を示すグラフである。
図11】本発明の実施形態に係る回転電機(ダンパ2個のケース)の第2グループにおいて、無次元振動数を横軸にとって無次元振幅を縦軸にとった共振曲線の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して、本発明に係る回転電機の実施形態について説明する。
【0016】
初めに、本発明に係る回転電機の実施形態の制振に係る解析手法について説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機の回転軸に垂直な模式的断面図である。また、図2は、回転電機の固定支持部材にかかる電磁力の、回転電機の軸に垂直な断面図における周方向の分布の例を示す図である。
【0018】
ハンマリング試験において、電磁振動が問題となる数千Hz以下の振動数範囲には軸方向に節があるモードが得られないことが知られている。そのため、簡単のために、回転電機の固定子およびその外側の固定子枠を含めた固定支持部材10を、変位の軸方向の分布を考えない図1に示すような一様な円環で近似することとする。なお、ここで、「固定支持部材」の名称は、回転せずに回転子50を支持するという意味で「固定」とされているのであって、この固定支持部材10の振動を考えるときは、固定されておらずに振動するものである。
【0019】
固定支持部材10は円筒形で、厚さが周方向に一様であるとする。固定支持部材10内側に、固定支持部材10の軸と共通の軸の周りに回転する回転子50が配置されている。固定支持部材10と回転子50の間にはギャップ51が形成されている。
【0020】
固定支持部材10の外側に、円周方向の角度α=α(n=1,・・・,L)の位置にL個のばね支持(支持脚)111、112を設置する。図1は、L=2の場合を示している。
【0021】
ここでは固定支持部材10は円環振動をすることを想定しているので、ばね支持111、112は、ばね定数kのばねを介して固定位置に対して固定支持部材10を半径方向に弾性支持するものとする。
【0022】
さらに、固定支持部材10の外側に、円周方向の角度θ=θ(j=1,・・・,N)の位置にN個のフードダンパ(Houde Damper)301、302を設置する。フードダンパとは、一般に、抵抗要素13(減衰係数:cHj)と、その先に取り付けられたダンパ質量体14(質量:mHj)とからなる振動減衰装置を言う。ここでは、固定支持部材10は円環振動をすることを想定しているので、ダンパ質量体14は少なくとも半径方向に移動可能なものとする。図1は、N=2の場合を示している。
【0023】
固定支持部材10の半径方向の変位uは、M個の振動モードを考慮するとき、次式(1)で表される。
【0024】
【数1】
【0025】
ここに、
θ:円周方向の座標(rad)(反時計回りが正)
i:円周方向の振動モードを表す整数
:θ=0に腹をもつコサイン型のモードiの変位
:θ=π/(2i)に腹をもつサイン型のモードiの変位
回転電機に作用する外力として一般的なものは、半径方向に作用する力が円周方向に分布するとともに円周方向に回転する電磁力であるので、それを次式(2)で表す。
【0026】
【数2】
【0027】
ここに
s:電磁力のモードを表す整数
Ω:モードsをもつ電磁力の角振動数
:モードsの電磁力の振幅
実際の電磁力は多くの振動数成分を含むが、簡単のためFcos(−Ωst+sθ)の成分のみが作用する場合を考える。また、ばね定数kはそれほど大きくないとして、i次モードのみ採用し、i=sの場合を扱うとき、運動方程式は以下の式(3)〜式(5)のようになる。
【0028】
【数3】
【0029】
【数4】
【0030】
【数5】
【0031】
ここに
r:円環の半径
E:円環支持部材の縦弾性係数
A:断面積(長方形断面の場合は円環の厚さHと軸(幅)方向長さWとの積、A=H×W)
I:円環の面に垂直な主軸に関する断面二次モーメント(長方形断面の場合は、I=WH/12)
ρ:円環の密度
L:ばね支持の個数
:θ=θに設置したばね支持のばね定数(n=1,・・・,L)
0i:主系の粘性減衰係数(i=1,・・・,M)
:θ=θに設置したフードダンパの変位(j=1,・・・,N)
Hj:θ=θに設置したフードダンパの質量
μHj:θ=θに設置したフードダンパの質量比
μHj=mHj/{(5/4)πrρA}
Hj:θ=θに設置したフードダンパの粘性減衰係数
γHj:θ=θに設置したフードダンパの減衰比
γHj=cHj/(2mHjω02
N:フードダンパの個数
ここではi=2のモードを例に取ることとする。例えば、式(3)〜式(5)の定常解を次の式(6)〜式(9)のようにおく。
=AcosΩt+BsinΩt (6)
=AcosΩt+BsinΩt (7)
=AcosΩt+BsinΩt (8)
=AcosΩt+BsinΩt (9)
【0032】
なお、iが0の場合は、円環の形状がそのままの形状で大きくなったり小さくなったりする振動となる。また、iが1の場合は、円環の形状および大きさがそのままで、一つの周方向の位置とその反対側に交互に変位する振動となる。
【0033】
iが2の場合は、半径方向の変位は図2に示した力の分布と同様に、周方向に90度ごとに、振幅が最大となる腹と、腹と腹との中間位置にあって振幅が最小となる節とが形成される。iが3以上の場合も、周方向に等間隔に交互に腹と節が形成される。実際の回転電機における振動現象では、通常、i=sが2の場合が最も重要である。よって、以下、i=s=2の場合について検討を進める。したがって、以下に説明する周方向の各角度位置の各現象は、その角度から180度ずれた位置で、各時刻の変位、速度、加速度などが同じで、その角度から90度、270度ずれた位置では、各時刻の変位、速度、加速度などの絶対値が同じで符号が逆の現象が生じていることを意味する。
【0034】
[数値解析結果]
ここでは、固定支持部材の周方向2か所にばね支持を配置し、さらに1個または2個のフードダンパを配置した場合の固定支持部材の円環振動の状況を数値解析した結果について説明する。
【0035】
この発明の実施形態は、解析で得られる振幅が、できるだけ小さくなるような条件を満足するものである。
【0036】
なお、図3図11では、縦軸は次式(10)で示すように、式(1)で表される半径方向の変位uの2乗を空間と時間で平均したものを(Fπ/k02で除して無次元化したもので定義している。
【0037】
【数6】
【0038】
ただし、k02=9EIπ/r、T=2π/Ωとする。
【0039】
また、図5図10図11に示す共振曲線の横軸は、ν=Ω/ω02として電磁力の角振動数を2次モードの固有角振動数で無次元化している。ただし、ω02=36EI/(5ρAr)とする。したがって、図5図10図11の横軸のν=1が、主系の2次モードの無次元固有角振動数、つまり、共振点となる。
【0040】
さらに、図3図4図6〜9の縦軸の無次元振幅の値として、設定した各パラメータの値を用いた計算から得られた共振曲線の最大の無次元振幅の値を採用している。
【0041】
[2個のばね支持および1個のフードダンパを備える場合]
はじめに、2個のばね支持および1個のフードダンパを備える場合(以下、単に「ダンパ1個のケース」とも呼ぶ。)の計算結果について説明する。図1に示すように、第1のばね支持111が角度座標位置αに配置され、第2のばね支持112が角度座標位置αに配置されている。ばね支持111、112同士の間のばね開き角Δαを、Δα=α−αと定義する。
【0042】
また、1個のフードダンパ301が角度座標位置θに配置されている。このケースでは、図1に示すフードダンパ302は存在しない。フードダンパ301と第2のばね支持112との間のダンパ・ばね開き角φをφ=θ−αと定義する。
【0043】
図3は、本発明の実施形態に係る回転電機で、2個のばね支持および1個のフードダンパを備える場合(ダンパ1個のケース)におけるダンパ・ばね開き角φと無次元ばね定数κとが振幅に及ぼす影響を示すグラフである。ここでは、α=135度、α=225度、Δα=α−α=90度とする。さらに、フードダンパの質量比μH1=0.1、フードダンパの減衰比γH1=0.5とする。
【0044】
第1および第2のばね支持111、112の無次元ばね定数κ、κは互いに等しいとして、これらの値が、0.032、0.048、0.064および、0.096の場合について計算した。
【0045】
また、図3には、比較のために、ばね支持もフードダンパもない場合も示している。
【0046】
図3から、ばね支持111、112とフードダンパ301の存在により、これらがない場合に比べて振幅が大幅に小さくなることがわかる。また、振幅は、無次元ばね定数κ、κの大きさに依存するものの、無次元ばね定数κ、κの大きさにかかわらずダンパ・ばね開き角φが60〜80度の場合に振幅が最小となることがわかる。たとえば、κ=κ=0.064の場合には、φ=72度のときに振幅が最小になる。
【0047】
図4は、本発明の実施形態に係る回転電機(ダンパ1個のケース)におけるばね開き角Δαと無次元ばね定数κ、κとが振幅に及ぼす影響を示すグラフである。ここで、図3の場合と同様に、フードダンパの質量比μH1=0.1、フードダンパの減衰比γH1=0.5とする。また、ダンパ・ばね開き角φは、φ=θ−α=72度とする。このφの値は、図3において、κ=κ=0.064の場合の振幅が最小になる場合である。
【0048】
図4では、図3の場合と同様に、無次元ばね定数κ、κは互いに等しいとして、これらの値が、0.032、0.048、0.064および、0.096の場合について計算した。図4では、ばね開き角Δα=α−αが0〜180度の範囲で計算したが、角度座標位置で0〜90度の現象は90〜180度の現象と同じである。
【0049】
図4に示す計算結果により、振幅は、無次元ばね定数κ、κの大小にかかわらず、ばね開き角Δαが70〜110度または160〜200度のときに特に小さいことがわかる。
【0050】
図5は、本発明の実施形態に係る回転電機(ダンパ1個のケース)において、無次元振動数を横軸にとって無次元振幅を縦軸にとった共振曲線の例を示すグラフである。図5の計算条件は、図3および図4によって得られた振幅が特に小さくなる範囲から選んだものである。すなわち、α=135度、α=225度、Δα=α−α=90度とし、θ=297度、φ=θ−α=72度とした。さらに、ばね支持の無次元ばね定数κ=κ=0.064、フードダンパの質量比μH1=0.1、フードダンパの減衰比γH1=0.5とした。
【0051】
図5には、比較のために、ばね支持もフードダンパもない場合の共振曲線C1も示している。共振曲線C1では、サインモードとコサインモードの固有振動数が同じであるため、無次元化した角振動数ν=1でピークを一つだけ持つ。これに対して、このばね支持2個とダンパ1個のケースでは、サインモード(sin mode)の曲線とコサインモード(cos mode)の曲線の固有振動数がずれ、しかも各モードのピーク値が低くなっている。そのため、サインモードとコサインモードの和である実際の共振曲線(sin mode+cos mode)のピーク値は共振曲線C1のピーク値よりも著しく低くなっている。
【0052】
また、無次元振動数ν=1.0の場合の振幅が小さくなるだけでなく、νが変化しても振幅が抑えられることから、可変回転数で運転される回転電機(たとえば、インバータ駆動の電動機)において、大きな制振効果が得られる。
【0053】
以上説明したように、2個のばね支持および1個のフードダンパを備える場合には、ばね開き角Δα=α−αを70〜110度とし、ダンパ・ばね開き角φ=θ−αを60〜80度に設定することによって、振幅を小さくできることがわかる。ただし、これらの角度に90度、180度、270度のいずれかを加えた角度にしても効果は同じである。したがって、振幅を小さくする条件は、ばね開き角Δα=α−αが70〜110度、160〜200度、250〜290度、340〜380度のいずれかであり、かつ、ダンパ・ばね開き角φ=θ−αが60〜80度、150〜170度、240〜260度、330〜350度のいずれかである。
【0054】
[2個のばね支持および2個のフードダンパを備える場合]
つぎに、2個のばね支持および2個のフードダンパを備える場合(以下、単に「ダンパ2個のケース」とも呼ぶ。)の計算結果について説明する。ダンパ1個のケースの場合と同様に、図1に示すように、第1のばね支持111が角度座標位置αに配置され、第2のばね支持112が角度座標位置αに配置されている。ばね支持111、112同士の間のばね開き角Δαは、Δα=α−αである。さらに、第1のフードダンパ301が角度座標位置θに配置され、第2のフードダンパ302が角度座標位置θに配置されている。フードダンパ301,302同士の間のダンパ開き角Δθを、Δθ=θ−θと定義する。第1のフードダンパ301と第2のばね支持112との間のダンパ・ばね開き角φをφ=θ−αと定義する。
【0055】
図6は、本発明の実施形態に係る回転電機で、2個のばね支持および2個のフードダンパを備える場合(ダンパ2個のケース)におけるダンパ開き角Δθとダンパ・ばね開き角φとが振幅に及ぼす影響を示すグラフであって、ダンパ開き角Δθの影響が小さい場合(第1グループ)について示すグラフである。図7は、図6の場合と同様のダンパ2個のケースにおけるダンパ開き角Δθとダンパ・ばね開き角φとが振幅に及ぼす影響を示すグラフであって、ダンパ開き角Δθの影響が大きい場合(第2グループ)について示すグラフである。
【0056】
図6および図7では、ばね開き角Δα=α−α=90度とし、ばね支持の無次元ばね定数κ=κ=0.064、フードダンパの質量比μH1=μH2=0.05、フードダンパの減衰比γH1=γH2=0.5とした。なお、図6および図7で、比較のために、ばね支持もフードダンパもない場合も示している。
【0057】
ダンパ・ばね開き角φ=θ−αの値をパラメータとしてこれを0〜90度で種々に変えて、ダンパ開き角Δθ=θ−θが振幅に及ぼす影響を調べた。なお、ダンパ・ばね開き角φ=0度の場合とφ=90度の場合の計算結果(図7)は同じである。その結果、図6に示すように、ダンパ・ばね開き角φが65〜80度の範囲(具体的計算例では、65度、70度、75度、80度)では、ダンパ開き角Δθの影響が小さく、図7に示すように、ダンパ・ばね開き角φが0〜60度の範囲(具体的計算例では、0度、10度、20度、30度、40度、50度、60度)では、ダンパ開き角Δθの影響が大きいことがわかった。ダンパ・ばね開き角φが0〜60度の範囲(図7)においては、ダンパ開き角Δθが25〜70度の範囲のときに、振幅が小さくなる。
【0058】
図8は、本発明の実施形態に係る回転電機(ダンパ2個のケース)の第2グループにおけるダンパ開き角Δθと無次元ばね定数κとが振幅に及ぼす影響を示すグラフである。図6および図7と同様に、ばね開き角Δα=α−α=90度とし、フードダンパの質量比μH1=μH2=0.05、フードダンパの減衰比γH1=γH2=0.5とした。
【0059】
第1および第2のばね支持111、112の無次元ばね定数κ、κは互いに等しいとして、これらの値が、0.032、0.048、0.064および、0.096の場合について計算した。
【0060】
また、比較のために、ばね支持もフードダンパもない場合も示している。
【0061】
図8から、ばね支持111、112とフードダンパ301、302の存在により、これらがない場合に比べて振幅が大幅に小さくなることがわかる。また、振幅は、無次元ばね定数κ、κの大きさに依存するものの、無次元ばね定数κ、κの大きさにかかわらずダンパ開き角Δθが25〜70度の場合に振幅が最小となることがわかる。
【0062】
図9は、本発明の実施形態に係る回転電機(ダンパ2個のケース)の第2グループにおけるばね開き角Δαと無次元ばね定数κとが振幅に及ぼす影響を示すグラフである。
【0063】
ダンパ・ばね開き角φ=θ−αは90度とし、ダンパ開き角Δθ=θ−θは、図8で振幅が小さくなるような好ましい値として45度とした。また、図8と同様に、フードダンパの質量比μH1=μH2=0.05、フードダンパの減衰比γH1=γH2=0.5とした。
【0064】
図8と同様に、第1および第2のばね支持111、112の無次元ばね定数κ、κは互いに等しいとして、これらの値が、0.032、0.048、0.064および、0.096の場合について計算した。図9では、ばね開き角Δα=α−αが0〜180度の範囲で計算したが、角度座標位置で0〜90度の現象は90〜180度の現象と同じである。
【0065】
また、比較のために、ばね支持もフードダンパもない場合も示している。
【0066】
図9に示す計算結果により、振幅は、無次元ばね定数κ、κの大小にかかわらず、ばね開き角Δαが70〜110度または160〜200度(図9で、Δαが160〜180度および0〜20度に相当)のときに特に小さいことがわかる。
【0067】
図10は、本発明の実施形態に係る回転電機(ダンパ2個のケース)の第1グループにおいて、無次元振動数を横軸にとって無次元振幅を縦軸にとった共振曲線の例を示すグラフである。図10の計算条件は、図6によって得られた振幅が特に小さくなる範囲から選んだものである。すなわち、α=135度、α=225度、Δα=α−α=90度とし、θ=295度、θ=344度、Δθ=θ−θ=49度とし、φ=θ−α=70度とした。さらに、ばね支持の無次元ばね定数κ=κ=0.064、フードダンパの質量比μH1=μH2=0.05、フードダンパの減衰比γH1=γH2=0.5とした。
【0068】
図10には、図5と同様に、ばね支持もフードダンパもない場合の共振曲線C1も示している。このばね支持2個とダンパ2個のケースでは、図5と同様に、サインモード(sin mode)の曲線とコサインモード(cos mode)の曲線の固有振動数がずれ、しかも各モードのピーク値が低くなっている。そのため、サインモードとコサインモードの和である実際の共振曲線(sin mode+cos mode)のピーク値は共振曲線C1のピーク値よりも著しく低くなっている。
【0069】
また、ダンパ1個のケース(図5)と同様に、無次元振動数ν=1.0の場合の振幅が小さくなるだけでなく、νが変化しても振幅が抑えられることから、可変回転数で運転される回転電機において、大きな制振効果が得られる。
【0070】
図11は、本発明の実施形態に係る回転電機(ダンパ2個のケース)の第2グループにおいて、無次元振動数を横軸にとって無次元振幅を縦軸にとった共振曲線の例を示すグラフである。図11の計算条件は、図7によって得られた振幅が特に小さくなる範囲から選んだものである。すなわち、α=135度、α=225度、Δα=α−α=90度とし、θ=315度、θ=367度、Δθ=θ−θ=52度とし、φ=θ−α=90度とした。さらに、ばね支持の無次元ばね定数κ=κ=0.064、フードダンパの質量比μH1=μH2=0.05、フードダンパの減衰比γH1=γH2=0.5とした。
【0071】
図11に示す計算結果は図10の計算結果とほぼ同様であって、共振曲線(sin mode+cos mode)のピーク値は共振曲線C1のピーク値よりも著しく低くなっている。
【0072】
以上説明したように、2個のばね支持および2個のフードダンパを備える場合において、ダンパ・ばね開き角φ=θ−αが65〜80度の場合(第1グループ)には、ばね開き角Δα=α−αを70〜110度に設定することによって、ダンパ開き角Δθ=θ−θにかかわらず、振幅を小さくできることがわかる。
【0073】
また、ダンパ・ばね開き角φ=θ−αが0〜60度の場合(第2グループ)には、ばね開き角Δα=α−αを70〜110度とし、ダンパ開き角Δθ=θ−θを25〜70度に設定することによって、振幅を小さくできることがわかる。
【0074】
ただし、上記の角度に90度、180度、270度のいずれかを加えた角度にしても効果は同じである。
【0075】
したがって、振幅を小さくする条件は、第1グループでは、ダンパ・ばね開き角φ=θ−αが65〜80度、155〜170度、245〜260度、335〜350度のいずれかであり、ばね開き角Δα=α−αが70〜110度、160〜200度、250〜290度、340〜380度のいずれかである。
【0076】
また、第2グループでは、ダンパ・ばね開き角φ=θ−αが0〜60度、90〜150度、180〜240度、270〜330度のいずれかであり、ばね開き角Δα=α−αが70〜110度、160〜200度、250〜290度、340〜380度のいずれかであり、ダンパ開き角Δθ=θ−θは、25〜70度、115〜160度、205〜250度、295〜340度、のいずれかである。
【0077】
なお、上記説明では、取り付けるばね支持の数を2個とし、フードダンパの数を1個または2個とした。しかし、これらのばね支持またはフードダンパそれぞれを複数に分割して、基本となる位置のほかに、その基本となる位置から90度、180度または270度離れた位置にも取り付けた場合、基本となる位置にまとめて一つを取り付けた場合と同じ制振効果を得ることができる。
【0078】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0079】
10…固定支持部材(固定子および固定子枠)
111、112…ばね支持(支持脚)
13…抵抗要素
14…ダンパ質量体
301、302…フードダンパ
50…回転子
51…ギャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11