(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581050
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】ロボットの遠隔監視システム
(51)【国際特許分類】
B25J 19/06 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
B25J19/06
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-163965(P2016-163965)
(22)【出願日】2016年8月24日
(65)【公開番号】特開2018-30196(P2018-30196A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2018年8月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100105131
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 満
(72)【発明者】
【氏名】中 村 正 和
(72)【発明者】
【氏名】川 井 淳
(72)【発明者】
【氏名】清 水 知 也
(72)【発明者】
【氏名】加 川 謙 良
【審査官】
臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−186531(JP,A)
【文献】
特開平07−160323(JP,A)
【文献】
特開平09−311715(JP,A)
【文献】
特開2003−233417(JP,A)
【文献】
特表2009−500767(JP,A)
【文献】
特開2004−295348(JP,A)
【文献】
特開2004−318262(JP,A)
【文献】
特開2007−190663(JP,A)
【文献】
特開2015−199161(JP,A)
【文献】
特開2000−181761(JP,A)
【文献】
米国特許第06615090(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0217449(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 19/00−19/06
G05B 19/418−23/02
G05G 11/01
G06F 11/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの状態をユーザー側サイトから離れた場所で監視するための遠隔監視システムであって、
前記ユーザー側サイトにおいて、ロボット制御装置から取得した前記ロボットの駆動系のモータの電流データを分析して分析結果データを取得するための分析結果データ取得手段と、
前記ユーザー側サイトから離れた遠隔地に設けられ、前記分析結果データ取得手段によって得られた前記分析結果データを記録するためのデータサーバと、
前記データサーバに、前記ロボット制御装置から取得した前記電流データをそのまま送信することに代えて、前記分析結果データを送信するための通信手段と、
前記データサーバに記録された前記分析結果データを読み出して表示するための携帯端末と、を備え、
前記通信手段は、前記分析結果データ以外に、環境設定データを前記データサーバに送信するように構成されており、
前記環境設定データは、ユーザーにて変更可能な前記分析結果データの閾値に関する閾値設定ファイルを含む、ロボットの遠隔監視システム。
【請求項2】
前記分析結果データは、前記モータの平均電流値(I2)、ピーク電流値、およびモータ許容負荷率の少なくとも一つを含む、請求項1記載のロボットの遠隔監視システム。
【請求項3】
前記分析結果データは、前記平均電流値(I2)、前記ピーク電流値、および前記モータ許容負荷率の少なくとも一つの経時変化に関する情報を含んでいる、請求項2記載のロボットの遠隔監視システム。
【請求項4】
前記通信手段は、メールサーバを含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のロボットの遠隔監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの状態をユーザー側サイトから離れた場所で監視するための遠隔監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットなどのロボットは、その長期の使用により、ロボットアームやロボット外部軸を駆動するためのロボット駆動系を構成する機器の劣化(例えば、減速機の歯車の摩耗)が発生し、これにより、ロボットの動作精度が低下する。さらに、このような状態を放置しておくと、ロボット駆動系を構成する機器が破損して、ロボットが故障する。
【0003】
生産ラインに設置される産業用ロボットにおいては、ロボットが故障すると生産ライン全体が停止し、生産性が低下して生産計画に支障をきたすことになる。そのため、ロボットに故障が発生する前に予防保全を実施し、故障を未然に防ぎたいという市場の要求がある。
【0004】
この市場の要求に応えるためには、例えば、ロボットの駆動系を構成する機器(減速機等)の設計寿命と、現在日までのロボットの運転時間とに基づいて、当該機器の残余寿命を推定する方法が考えられる。
【0005】
しかしながら、機器の設計寿命を決定する際に想定されるロボット運転条件と、実際の作業におけるロボット運転条件とが大きく異なる場合があるため、機器の設計寿命と、現在日までのロボットの運転時間とに基づいて当該機器の残余寿命を推定する方法では、その推定値の精度を高く維持することが困難である。
【0006】
一方、実際の作業におけるロボット制御装置のデータを、ユーザー側サイトから通信回線を介して遠隔地に送信し、送信されたデータに基づいて故障診断やメンテナンスを実施する技術が提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−287816号公報
【特許文献2】特開2007−190663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に記載の従来提案の技術は、ロボット制御装置から取得した生のデータを、通信回線を介してそのまま遠隔地に送信するものであるため、送信するデータの量(通信量)が膨大なものとなり、通信速度の低下などの問題がある。
【0009】
本発明は、上述した従来の技術の問題点に鑑みてなされたものであって、ユーザー側サイトから遠隔地に送信するデータの量(通信量)を低減することができるロボットの遠隔監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、ロボットの状態をユーザー側サイトから離れた場所で監視するための遠隔監視システムであって、前記ユーザー側サイトにおいて、前記ロボットの駆動系のモータの電流データを分析して分析結果データを取得するための分析結果データ取得手段と、前記ユーザー側サイトから離れた遠隔地に設けられ、前記分析結果データ取得手段によって得られた前記分析結果データを記録するためのデータサーバと、前記データサーバに前記分析結果データを送信するための通信手段と、前記データサーバに記録された前記分析結果データを読み出して表示するための携帯端末と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記分析結果データは、前記モータの平均電流値(I
2)、ピーク電流値、およびモータ許容負荷率の少なくとも一つを含む、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記分析結果データは、前記平均電流値(I
2)、前記ピーク電流値、および前記モータ許容負荷率の少なくとも一つの経時変化に関する情報を含んでいる、ことを特徴とする。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1乃至第3のいずれかの態様において、前記通信手段は、前記分析結果データ以外に、環境設定データを前記データサーバに送信するように構成されている、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第5の態様は、第1乃至第4のいずれかの態様において、前記通信手段は、メールサーバを含む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ユーザー側サイトから遠隔地に送信するデータの量(通信量)を低減することができるロボットの遠隔監視システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態によるロボットの遠隔監視システムの概略構成を示した図。
【
図2】
図1に示した遠隔監視システムにおける送信情報の一つである環境設定データを説明するための図。
【
図3】
図1に示した遠隔監視システムの一変形例の概略構成を示した図。
【
図4】
図1に示した遠隔監視システムの他の変形例の概略構成を示した図。
【
図5】
図1に示した遠隔監視システムのさらに他の変形例の概略構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態によるロボットの遠隔監視システムについて、図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態によるロボットの遠隔監視システムは、ロボットの状態(動作状態や劣化状態など)を、ユーザー側サイトから離れた場所で監視するためのシステムである。ロボットは、ロボットアームと、このロボットアームやロボットの外部軸を駆動するためのロボット駆動系とを備えている。
【0019】
なお、本明細書中において「ユーザー側サイト」には、ロボットが実際に稼働している工場のみならず、ロボットを監視するために使用されるロボットユーザー側の監視センターなども含まれる。
【0020】
図1に示したように、工場(ユーザー側サイト)1には、複数台のロボット2が設置されている。第一ロボット2は、第一ロボット制御装置3により制御され、第二ロボット2は、第二ロボット制御装置3により制御され、第Nロボット2は、第Nロボット制御装置3により制御される。
【0021】
工場1(ユーザー側サイト)には、複数のロボット制御装置3からロボット駆動系のデータを受信する現場PC4が設けられている。ロボット駆動系は、駆動力を生成するサーボモータ、サーボモータからの駆動力をロボットアームやロボット外部軸に伝達する減速機、およびサーボモータの位置を検出するエンコーダを有する。
【0022】
工場(ユーザー側サイト)1に設置された現場PC4は、ロボット駆動系のサーボモータの電流データを分析して分析結果データを取得するための分析結果データ取得手段を構成している。すなわち、本実施形態によるロボットの遠隔監視システムにおいては、ロボット駆動系のサーボモータの電流データの分析を、ロボット2が設置されている工場(ユーザー側サイト)1において実施する。
【0023】
現場PC4で実施されるサーボモータの電流データの分析によって、減速機の故障予知に利用される平均電流値(I
2)、ピークトルクの診断に利用されるピーク電流値、およびモータのデューティ診断に利用されるモータ許容負荷率などに関する分析結果データが得られる。
【0024】
ここで、平均電流値(I
2)、ピーク電流値、およびモータ許容負荷率は、同一の動作条件でロボットを動作させたときに生じる電流の測定値に基づいて取得するデータである。例えば、平均電流値(I
2)は、同一の動作条件において生じた電流値の平均値であり、ピーク電流値は、同一の動作条件において生じた電流値のピーク値である。
【0025】
そして、上述の分析結果データは、平均電流値(I
2)、ピーク電流値、およびモータ許容負荷率のそれぞれの経時変化に関する情報を含んでおり、経時変化情報に基づいて、減速機などの機器を含むロボット駆動系の寿命を予測することができる。
【0026】
例えば平均電流値(I
2)に基づいてロボット駆動系の残余寿命を推定する際には、初期計測値を基準とし、閾値を107%(設計基準)として、平均電流値(I
2)が閾値に到達するまでの時間(残余寿命)を推定する。また、ピーク電流値については、電流制限値(アンプ、減速機、モータの電流リミット)を基準として残余寿命を推定する。さらに、モータ許容負荷率(デューティ)については、モータ連続ストール電流値(モータメーカ仕様)を基準として残余寿命を推定する。
【0027】
なお、本例においては、実際にロボット2が設置されている工場1に、分析結果データ取得手段である現場PC4を設けているが、変形例としては、ロボット2を監視するための監視センター(ロボットユーザーの施設)に分析結果データ取得手段を設けても良い。
【0028】
本実施形態によるロボットの遠隔監視システムは、工場(ユーザー側サイト)1から離れた遠隔地に、現場PC4で構成された分析結果データ取得手段によって得られた分析結果データを記録するためのデータサーバ5を備えている。
【0029】
また、この遠隔監視システムは、遠隔地に設置されたデータサーバ5に、現場PC4から分析結果データを送信するための通信手段6を備えている。本例における通信手段6は、仮想プライベートネットワーク(VPN)を構成するものであり、例えば、インターネットや電話回線などの商用通信回線や、LANなどの専用回線を利用して、分析結果データをデータサーバ5に送信することができる。
【0030】
通信手段6によってデータサーバ5に送信される情報には、上述の分析結果データに加えて、
図2に示した環境設定データが含まれている。環境設定データには、少なくとも、ユーザー情報(ユーザー名、工場名、現場PC情報)、接続設定情報(ロボット種類、ユーザーライン名、ユーザー号機、メーカー号機、IPアドレス)、および閾値設定ファイル(分析結果データの閾値)が含まれている。
【0031】
分析結果データの閾値は、デフォルトの値が設定されているが、ユーザーにて変更することもできる。また、分析結果データの閾値は、ロボットを構成する複数の軸のそれぞれについて設定されている。 本実施形態による遠隔監視システムは、さらに、データサーバ5に記録された分析結果データおよび環境設定データを読み出して表示するための携帯端末7を備えている。携帯端末7は、携帯電話、スマートホン、ノートパソコンなどで構成することができる。
【0032】
本実施形態によるロボットの遠隔監視システムは、サーボモータの電流データの分析を、工場(ユーザー側サイト)1にある現場PC(分析結果データ取得手段)4で行い、現場PC4で取得した分析結果データを、通信手段6を用いて遠隔地にあるデータサーバ4に送信するように構成されている。
【0033】
すなわち、ロボット制御装置3から取得した生データを、通信手段6を介してそのままデータサーバ5に送信するのではなく、データサーバ5に送信する前に、工場(ユーザー側サイト)1側において生データの分析が行われる。
【0034】
上述したように、本実施形態によるロボットの遠隔監視システムにおいては、サーボモータの電流データの分析を、工場(ユーザー側サイト)1にある現場PC(分析結果データ取得手段)4で行い、現場PC4で取得した分析結果データが、通信手段6を介して遠隔地にあるデータサーバ5に送信される。
【0035】
分析結果データは、ロボット制御装置3から取得した生データに比べて、そのデータ量が相当に小さいので、通信手段6を介してデータサーバ5に送信するデータの量(通信量)を大幅に低減することができ、これにより、通信速度の向上等を図ることができる。
【0036】
そして、データサーバ5に保存された分析結果データを携帯端末7で確認することにより、工場(ユーザー側サイト)1から離れた遠隔地において、ロボットの状態(駆動系の残余寿命など)を適時に把握することができる。
【0037】
なお、本例では、工場(ユーザー側サイト)1からデータサーバ5にデータを送信するための通信手段6として、VPNを利用することとしているが、変形例としては、
図3に示したように、通信手段6としてメールサーバを利用するようにしても良い。この場合、データサーバ5はメールサーバとしても機能する。或いは、データサーバ5の上流側(工場側)に別途メールサーバを設けても良い。
【0038】
上述したように、現場PC(分析結果データ取得手段)4で予め分析して得られた結果である分析結果データを通信手段6で送信するようにしているので、通信手段6で送信すべきデータの通信量が極めて少なくて済み、その結果、メールでの送信が可能となるものである。通信手段6をメールサーバとすることにより、外部からユーザー側サイトへの侵入に対するセキュリティを強化できるという利点がある。
【0039】
なお、
図3では通信手段(メールサーバ)6を工場1の内部に設置しているが、通信手段(メールサーバ)6の設置場所は、工場1以外でも、ユーザー側サイト内のいずれかの場所であれば良い。
【0040】
また、他の変形例としては、
図4に示したように、VPNを利用した通信手段6およびメールサーバを利用した通信手段6の両方を設置しても良い。本例においては、例えば、通常時はメールサーバの通信手段6を使用して分析結果データをデータサーバに送信し、双方向のデータ通信が必要となるような場合にはVPNの通信手段6を使用するように切り替えることができる。
【0041】
さらに他の変形例としては、
図5に示したように、複数の工場1のそれぞれの通信手段6から、データサーバ5に対して通信を行うようにしても良い。本例における通信手段6は、VPNでも良いし、メールサーバでも良く、或いは両方の通信手段6を設けても良い。 なお、本例において通信手段6にメールサーバを利用する場合には、上述したようにセキュリティレベルが向上することにより、例えば複数の工場1のそれぞれのユーザー(所有者)が異なるような場合でも、十分なセキュリティレベルを確実に確保することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 工場(ユーザー側サイト)
2 ロボット
3 ロボット制御装置
4 現場PC
5 データサーバ
6 通信手段
7 携帯端末