特許第6581061号(P6581061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581061
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】ホイール式作業機械の油圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/16 20060101AFI20190912BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20190912BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   F15B11/16 B
   E02F9/22 H
   E02F9/20 N
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-194078(P2016-194078)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-54086(P2018-54086A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2018年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小倉 康平
(72)【発明者】
【氏名】小高 克明
(72)【発明者】
【氏名】茅根 征勲
【審査官】 小岩 智明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−185665(JP,A)
【文献】 特開平05−131860(JP,A)
【文献】 特開2012−162878(JP,A)
【文献】 特開平05−187041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00−11/22
E02F 9/20− 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイール式走行体を駆動する可変容量型の走行用油圧モータと、フロント作業装置を駆動する作業用油圧アクチュエータと、前記走行用油圧モータ及び前記作業用油圧アクチュエータの両方に圧油を供給する油圧ポンプと、前記油圧ポンプと前記走行用油圧モータの間に介在している走行用方向制御弁と、前記油圧ポンプと前記作業用油圧アクチュエータとの間に介在している作業用方向制御弁と、前記油圧ポンプと前記走行用方向制御弁との間に設けられ、絞りを有した第1切換位置および流量を維持して連通する第2切換位置を有し、前記油圧ポンプから吐出され前記走行用方向制御弁を介して前記走行用油圧モータに流入する圧油の流量を制御する走行流量制御弁と、前記走行用油圧モータ、前記作業用油圧アクチュエータ、前記油圧ポンプ、前記走行用方向制御弁、前記作業用方向制御弁及び前記走行流量制御弁の駆動を制御するコントローラと、を有するホイール式作業機械の油圧制御装置において、
記コントローラは、
前記作業用油圧アクチュエータの操作量に基づいて前記走行流量制御弁の開口面積を演算する複数のフロント系走行流量制御弁開口面積演算部と、
前記走行用油圧モータのモータ容量に基づいて前記走行流量制御弁の開口面積を演算する走行系走行流量制御弁開口面積演算部と、を備え、
前記複数のフロント系走行流量制御弁開口面積演算部のそれぞれから出力される走行流量制御弁開口面積のうち最小値と、前記走行系走行流量制御弁開口面積演算部から出力される走行流量制御弁開口面積とのうち、値が大きい方の走行流量制御弁開口面積を選択し、選択された走行流量制御弁開口面積に対応させて前記第1切換位置と前記第2切換位置との切り換えを制御する
ことを特徴とするホイール式作業機械の油圧制御装置。
【請求項2】
請求項に記載のホイール式作業機械の油圧制御装置において、
前記走行系走行流量制御弁開口面積演算部は、
前記ホイール式走行体が低速で走行しているときのモータ容量に基づいて前記走行流量制御弁の開口面積を演算する低速側走行流量制御弁開口面積演算部と、
前記ホイール式走行体が高速で走行しているときのモータ容量に基づいて前記走行流量制御弁の開口面積を演算する高速側走行流量制御弁開口面積演算部と、を備えた
ことを特徴とするホイール式作業機械の油圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用油圧モータ及びその他の油圧アクチュエータの双方に対して同じ油圧ポンプから吐出される圧油を供給するホイール式作業機械の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホイール式走行体と、ホイール式走行体上に旋回可能に設けられた旋回体と、旋回体の前部に設けられたブーム、アーム及びバケット等から構成されるフロント作業装置と、を備えたホイール式油圧ショベルが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
従来のホイール式油圧ショベルの油圧制御装置には、ホイール式走行体の駆動源である走行用油圧モータ、旋回体の駆動源である旋回用油圧モータ、ブームの駆動源であるブーム用油圧シリンダ、アームの駆動源であるアーム用油圧シリンダ及びバケットの駆動源であるバケット用油圧シリンダが備えられており、これらの各油圧アクチュエータには、同じ油圧ポンプから吐出された圧油を供給されている。
【0004】
また、従来のホイール式油圧ショベルは、走行用油圧モータの回転をトランスミッション、プロペラシャフト及びアクスルを介して車輪に伝達する構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−130003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように構成された従来のホイール式油圧ショベルにおいては、走行用油圧モータに接続されたトランスミッションの減速比と走行用油圧モータの押しのけ容積によって、走行用油圧モータの負荷圧力が大きく変動する。このため、従来のホイール式油圧ショベルにおいては、走行用油圧モータの負荷圧力が比較的低い条件(例えば、微速モード)で走行中にフロント作業装置が操作されると、フロント作業装置を駆動する油圧シリンダの負荷圧力により油圧ポンプの負荷圧力が上昇して、走行用油圧モータに流入する圧油が急増し、走行速度が瞬間的に上昇するいわゆる飛び出し現象が起こる。この飛び出し現象は、ホイール式油圧ショベルのオペレータにとって不快な現象であり、作業効率を低下させる原因となる。
【0007】
一方、飛び出し現象の発生を防止又は抑制するために、走行用油圧モータへの圧油の流入量を抑制するための何らかの手段を油圧制御装置に備えると、走行用油圧モータの負荷圧力が比較的高い条件(例えば、通常モード)でのホイール式油圧ショベルの走行時に、圧油のロスが大きくなるため、油圧ポンプの駆動源である原動機の燃料消費量が増加するという不都合が生じる。
【0008】
なお、このような問題は、ホイール式油圧ショベルに特有な問題ではなく、全てのホイール式作業機械について同様に発生する。
【0009】
本発明は、このような従来技術の実情を考慮してなされたものであり、その目的は、飛び出し現象の発生を防止又は抑制でき、かつ燃料消費量の改善も図られるホイール式作業機械の油圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するため、ホイール式走行体を駆動する可変容量型の走行用油圧モータと、フロント作業装置を駆動する作業用油圧アクチュエータと、前記走行用油圧モータ及び前記作業用油圧アクチュエータの両方に圧油を供給する油圧ポンプと、前記油圧ポンプと前記走行用油圧モータの間に介在している走行用方向制御弁と、前記油圧ポンプと前記作業用油圧アクチュエータとの間に介在している作業用方向制御弁と、前記油圧ポンプと前記走行用方向制御弁との間に設けられ、絞りを有した第1切換位置および流量を維持して連通する第2切換位置を有し、前記油圧ポンプから吐出され前記走行用方向制御弁を介して前記走行用油圧モータに流入する圧油の流量を制御する走行流量制御弁と、前記走行用油圧モータ、前記作業用油圧アクチュエータ、前記油圧ポンプ、前記走行用方向制御弁、前記作業用方向制御弁及び前記走行流量制御弁の駆動を制御するコントローラと、を有するホイール式作業機械の油圧制御装置において、記コントローラは、前記作業用油圧アクチュエータの操作量に基づいて前記走行流量制御弁の開口面積を演算する複数のフロント系走行流量制御弁開口面積演算部と、前記走行用油圧モータのモータ容量に基づいて前記走行流量制御弁の開口面積を演算する走行系走行流量制御弁開口面積演算部と、を備え、前記複数のフロント系走行流量制御弁開口面積演算部のそれぞれから出力される走行流量制御弁開口面積のうち最小値と、前記走行系走行流量制御弁開口面積演算部から出力される走行流量制御弁開口面積とのうち、値が大きい方の走行流量制御弁開口面積を選択し、選択された走行流量制御弁開口面積に対応させて前記第1切換位置と前記第2切換位置との切り換えを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、飛び出し現象の発生を防止又は抑制でき、かつ燃料消費量の改善も図れるホイール式作業機械の油圧制御装置を提供できる。なお、上述した以外の課題、構成及び効果については、以下に記載する実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係るホイール式油圧ショベルの外観図である。
図2】実施形態に係る油圧制御装置の全体構成を示す油圧回路図である。
図3】実施形態に係る油圧制御装置に備えられるコントローラの構成を示すブロック図である。
図4】実施形態に係る油圧制御装置に備えられるコントローラの動作を示すフローチャートである。
図5】実施形態に係る油圧制御装置の動作原理を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るホイール式作業機械の油圧制御装置の実施形態を、ホイール式油圧ショベルの油圧制御装置を例にとり、図を参照しながら説明する。
【0014】
図1に示すように、実施形態に係るホイール式油圧ショベル1は、4輪構造のホイール式走行体2を備えている。このホイール式走行体2上には、運転室3a等を有する旋回体3が旋回可能に設けられている。また、運転室3aの右側方の位置であって、旋回体3の前部の略中央部分には、ブーム4a、アーム4b及びバケット4cを有するフロント作業装置4が設けられている。
【0015】
ホイール式走行体2、旋回体3、ブーム4a、アーム4b及びバケット4cは、油圧ポンプから吐出される圧油により駆動される。図2に、実施形態に係るホイール式油圧ショベル1の油圧制御装置100を示す。
【0016】
図2に示すように、実施形態に係る油圧制御装置100は、走行体2を駆動するための走行用油圧モータ16と、旋回体3を駆動するための旋回用油圧モータ15と、ブーム4aを駆動するためのブーム用油圧シリンダ12と、アーム4bを駆動するためのアーム用油圧シリンダ13と、バケット4cを駆動するためのバケット用油圧シリンダ14と、を備えている。
【0017】
なお、本明細書においては、旋回用油圧モータ15、ブーム用油圧シリンダ12、アーム用油圧シリンダ13及びバケット用油圧シリンダ14を総称して「作業用油圧アクチュエータ」と言うことがある。
【0018】
走行用油圧モータ16及び作業用油圧アクチュエータ12〜15は、可変容量型の油圧ポンプ6から吐出され、パラレルライン21を通って供給される圧油により駆動される。油圧ポンプ6は、原動機5により駆動される。油圧ポンプ6には、ポンプレギュレータ6aが接続されており、ポンプレギュレータ6aは、コントローラ32から出力された指令値に応じて油圧ポンプ6の押しのけ容積を制御する。
【0019】
油圧ポンプ6とブーム用油圧シリンダ12との間には、ブーム用方向制御弁11が介在され、油圧ポンプ6とアーム用油圧シリンダ13との間には、アーム用方向制御弁10が介在され、油圧ポンプ6とバケット用油圧シリンダ14との間には、バケット用方向制御弁9が介在されている。また、油圧ポンプ6と旋回用油圧モータ15との間には、旋回用方向制御弁8が介在され、油圧ポンプ6と走行用油圧モータ16との間には、走行用方向制御弁7が介在されている。
【0020】
なお、本明細書においては、ブーム用方向制御弁11、アーム用方向制御弁10、バケット用方向制御弁9及び旋回用方向制御弁8を総称して「作業用方向制御弁」と言うことがある。
【0021】
これらの方向制御弁7〜11は、パラレルライン21を介して並列に接続されており、パラレルライン21と方向制御弁7〜11との間には、走行用油圧モータ16及び作業用油圧アクチュエータ12〜15からの圧油の逆流を防止するための逆止弁19が設けられている。方向制御弁7〜11は、油圧パイロット式のスプール弁であり、それぞれ走行操作装置22、旋回操作装置23、バケット操作装置24、アーム操作装置25又はブーム操作装置26から出力される操作パイロット圧力によって駆動される。
【0022】
走行操作装置22、旋回操作装置23、バケット操作装置24、アーム操作装置25及びブーム操作装置26は、パイロットポンプ29から不図示のパイロットラインを通って供給されたパイロット圧力を、レバー操作量に応じて減圧する減圧弁である。
【0023】
走行操作装置22には、走行前進操作量センサ22a及び走行後進操作量センサ22bが備えられる。旋回操作装置23には、右旋回操作量センサ23a及び左旋回操作量センサ23bが備えられる。バケット操作装置24には、バケットクラウド操作量センサ24a及びバケットダンプ操作量センサ24bが備えられる。アーム操作装置25には、アームクラウド操作量センサ25a及びアームダンプ操作量センサ25bが備えられる。ブーム操作装置26には、ブーム上げ操作量センサ26aが備えられる。
【0024】
各操作量センサ22a、22b、23a、23b、24a、24b、25a、25b、26aは、コントローラ32に接続されている。コントローラ32は、各操作量センサ22a、22b、23a、23b、24a、24b、25a、25b、26aからの出力信号に基づいて、走行用油圧モータ16及び作業用油圧アクチュエータ12〜15の操作量を検出する。
【0025】
走行用方向制御弁7、旋回用方向制御弁8、バケット用方向制御弁9、アーム用方向制御弁10及びブーム用方向制御弁11は、タンデムセンタ形の3位置弁であり、弁位置のノーマル位置は中立位置に設定されていて、この中立位置のときにセンタバイパスライン20を開放するように構成されている。
【0026】
また、走行用方向制御弁7、旋回用方向制御弁8、バケット用方向制御弁9、アーム用方向制御弁10及びブーム用方向制御弁11は、中立位置から第1切替位置方向及び第2切替位置方向に選択的に切替できるように構成されており、弁位置を中立位置から第1切替位置方向又は第2切替位置方向に操作することにより、油圧ポンプ6から走行用油圧モータ16、旋回用油圧モータ15、バケット用油圧シリンダ14、アーム用油圧シリンダ13又はブーム用油圧シリンダ12のそれぞれに供給される圧油の流れの方向と流量とを制御する。
【0027】
油圧ポンプ6から吐出され、ブーム用方向制御弁11、アーム用方向制御弁10、バケット用方向制御弁9、旋回用方向制御弁8及び走行用方向制御弁7を通過した圧油は、作動油タンク18に戻される。
【0028】
パラレルライン21には、メインリリーフ弁27が設けられ、回路圧力が各油圧機器の許容値を超えないようにしている。また、パラレルライン21と走行用方向制御弁7との間には、走行流量制御弁31が設けられている。
【0029】
走行流量制御弁31は、2位置の切換弁により構成され、絞り31aを有した絞り位置〈第1切換位置〉31Aと絞りを有していない連通位置〈第2切換位置〉31Bとを有している。また、走行流量制御弁31は、走行流量制御弁31にパイロット圧が作用していないとき、即ち、走行流量制御弁31にタンク圧が作用しているときには、ばね31bがタンク圧に抗して連通位置31Bに切り換えられ、走行流量制御弁31にパイロット圧が作用したときには、パイロット圧がばね31bに抗して絞り位置31Aに切り換えられるように構成してある。
【0030】
走行流量制御弁31は、走行流量制御比例弁30から出力されたパイロット圧力によって絞り位置31Aに切り換えられ、パラレルライン21から走行流量制御弁31に流入する圧油の量を制限する。走行流量制御比例弁30は、パイロットポンプ29から吐出され、パイロットリリーフバルブ28によって一定圧力に保たれた圧油を、コントローラ32の出力値に応じて減圧し、走行流量制御弁31を駆動する。
【0031】
走行用油圧モータ16は、可変容量型の油圧モータであり、その容量は、走行用油圧モータ容量制御装置16aによって制御される。走行用油圧モータ容量制御装置16aは、コントローラ32から出力される走行用油圧モータ容量指令値に応じて走行用油圧モータ16の容量を制御する。
【0032】
走行用油圧モータ16の出力軸は、減速装置17に接続されており、減速装置17の出力軸は、不図示の走行動力伝達装置を介して、車輪2a(図1参照)に接続されている。減速装置17は、2段変速式の減速装置であり、コントローラ32からの指令に応じて減速比を高速段及び低速段に切り換えることが可能な構成となっている。
【0033】
走行用油圧モータ16の容量と減速装置17の速度段は、運転室3a内に設置された不図示の走行モード切換スイッチの位置を切り換えることによって選択することができる。即ち、走行モード切換スイッチが微速モード側に切り換えられた場合には、減速装置17の減速比を低速段に切り換え、走行用油圧モータ16の容量を最大容量とする。また、走行モード切換スイッチが低速走行モード側に切り換えられた場合には、減速装置17の減速比を低速段に切り換え、走行用油圧モータ16の容量を最小容量とする。更に、走行モード切換スイッチが高速走行モード側に切り換えられた場合には、減速装置17の減速比を高速段に切り換え、走行用油圧モータ16の容量を最小容量とする。
【0034】
可変容量式の油圧モータである走行用油圧モータ16は、無段階変速器と考えることができるので、走行時の減速比は、走行用油圧モータ16の容量と減速装置17の速度段によって決まる。実施形態に係るホイール式油圧ショベル1は、2段変速式の減速装置17と可変容量式の走行用油圧モータ16の容量を組み合わせることによって、用途に応じた幅広い減速比を設定できるようになっている。
【0035】
図5の上段は、走行モード切換スイッチが微速モード側に切り換えられた場合、低速走行モード側に切り換えられた場合、及び高速走行モード側に切り換えられた場合における減速装置17の速度段と走行用油圧モータ16の容量との組み合わせを示している。図5の中段に示すように、実施形態に係るホイール式油圧ショベル1の総減速比は、微速モード側で大きく、高速走行モード側で小さくなる。また、実施形態に係るホイール式油圧ショベル1の走行速度は、微速モード側で小さく、高速走行モード側で大きくなる。更に、実施形態に係るホイール式油圧ショベル1の駆動力は、微速モード側で大きく、高速走行モード側で小さくなる。従って、図5の下段に示すように、実施形態に係るホイール式油圧ショベル1は、微速モード側で飛び出し現象を起こしやすく、高速走行モード側では飛び出し現象を起こしにくい。
【0036】
実施形態に係る油圧制御装置100は、飛び出し現象を起こしやすい条件では、走行流量制御弁31を絞って飛び出し現象の発生を抑制し、良好な操作性を実現する。これに対して、飛び出し現象を起こしにくい条件では、走行流量制御弁31を開いて油圧損失を低減し、燃費の低減を実現する。
【0037】
次に、図3及び図4を用いて、コントローラ32により実行される制御の流れについて説明する。
【0038】
コントローラ32は、ブーム上げ操作量センサ26aの出力からブーム上げ操作量50を検出している。また、コントローラ32は、アームクラウド操作量センサ25aの出力からアームクラウド操作量51を検出し、アームダンプ操作量センサ25bの出力からアームダンプ操作量52を検出している。さらに、コントローラ32は、バケットクラウド操作量センサ24aの出力からバケットクラウド操作量53を検出し、バケットダンプ操作量センサ24bの出力からバケットダンプ操作量54を検出している。加えて、コントローラ32は、前記したように、走行用油圧モータ容量制御装置16aに走行用油圧モータ容量指令値55を与えている。
【0039】
図3に示すように、ブーム上げ操作量50、アームクラウド操作量51、アームダンプ操作量52、バケットクラウド操作量53、バケットダンプ操作量54、走行用油圧モータ容量指令値55は、それぞれ走行流量制御弁開口面積演算部56〜62に入力され、各操作量50〜54及び走行用油圧モータ容量指令値55に応じた走行流量制御弁31の開口面積が演算される(図4のステップS1〜S5)。
【0040】
ブーム上げ操作量50に応じた走行流量制御弁開口面積演算部56は、ブーム4aが上げ操作されたとき、ブーム4aが上げ操作量が増加するにしたがって速やかに走行流量制御弁31の開口面積を絞るように、制御パターンが形成されている。これに対して、アームクラウド操作量51に応じた走行流量制御弁開口面積演算部57、アームダンプ操作量52に応じた走行流量制御弁開口面積演算部58、バケットクラウド操作量53に応じた走行流量制御弁開口面積演算部59、及び、バケットダンプ操作量54に応じた走行流量制御弁開口面積演算部60は、アーム4b又はバケット4cの操作量が増加するにしたがって緩やかに走行流量制御弁31の開口面積を絞るように、制御パターンが形成されている。
【0041】
したがって、本例においては、ブーム上げ操作及びブーム上げ操作と他のフロント作業装置の複合操作が行われた場合、アームクラウド操作、アームダンプ操作、バケットクラウド操作又はバケットダンプ操作が単独又は複合的に行われた場合に比べて、走行流量制御弁31の開口面積が速やかに絞られることになる。
【0042】
最小値選択部64は、走行流量制御弁開口面積演算部56〜60から出力された走行流量制御弁開口面積のうち、最小値を選択し出力する(図4のステップS6)。
【0043】
これに対して、走行用油圧モータ容量指令値55は、スイッチ部63を介して走行流量制御弁開口面積演算部61、62に入力される。スイッチ部63は、減速装置17の速度段に応じて走行用油圧モータ容量指令値55を入力する走行流量制御弁開口面積演算部を切り換える。即ち、減速装置17の速度段が高速段の場合(図4のステップS7で高速と判断した場合)、走行用油圧モータ容量指令値55は走行流量制御弁開口面積演算部61に入力され(図4のステップS8)、減速装置17の速度段が低速段の場合(図4のステップS7で低速と判断した場合)、走行用油圧モータ容量指令値55は走行流量制御弁開口面積演算部62に入力される(図4のステップS9)。
【0044】
走行用油圧モータ容量指令値55に応じた2つの走行流量制御弁開口面積演算部61、62のうち、スイッチ部63の低速側を通過した走行用油圧モータ容量指令値55に応じた走行流量制御弁開口面積演算部62は、スイッチ部63の高速側を通過した走行用油圧モータ容量指令値55に応じた走行流量制御弁開口面積演算部61に比べて、走行モータ容量指令値が最大のときの走行流量制御弁31の開口面積が小さく、しかも走行モータ容量指令値が増加するにしたがって速やかに走行流量制御弁31の開口面積を絞るように、制御パターンが形成されている。
【0045】
したがって、本例においては、ホイール式油圧ショベル1が微速モード又は低速走行モードで走行している場合、高速走行モードで走行している場合に比べて、走行流量制御弁31の開口面積が絞られており、しかも走行モータ容量指令値が増加するにしたがって、走行流量制御弁31の開口面積が速やかに絞られることになる。
【0046】
最大値選択部65は、最小値選択部64から出力された走行流量制御弁開口面積と、走行流量制御弁開口面積演算部61〜62から出力された行流量制御弁開口面積とを比較し、値が大きい方を出力する(図4のステップS10)。
【0047】
比例弁出力変換部66は、最大値選択部65から出力された走行流量制御弁開口面積に対応する走行流量制御比例弁30の比例弁出力に変換する(図4のステップS11)。比例弁出力変換部66の下流に設けられたローパスフィルタ部67は、比例弁出力についてノイズなどの影響を低減する処理を行い(図4のステップS12)、処理後の比例弁出力を走行流量制御比例弁30に出力する(図4のステップS13)。
【0048】
実施形態に係るホイール式油圧ショベル1の油圧制御装置は、上述のように構成されているので、ホイール式油圧ショベル1が微速モードで走行中にブーム上げ操作が行われた場合には、走行流量制御弁31の開口面積が速やかに絞られる。よって、いわゆるホイール式油圧ショベル1の飛び出し現象が防止又は抑制され、オペレータの不快感が除去されて、作業効率が改善される。これに対して、ホイール式油圧ショベル1が高速走行モードで走行中にブーム上げ操作が行われた場合には、走行流量制御弁31の開口面積が速やかに絞られるが、このときの開口面積は微速モードの場合よりも大きい。よって、圧油のロスが低減され、原動機5の燃料消費量が改善される。
【0049】
以下、上述のように構成された実施形態に係る油圧制御装置100の動作について説明する。
【0050】
オペレータによって走行操作装置22が操作されると、走行操作装置22から出力される操作パイロット圧力によって走行用方向制御弁7が動作する。走行操作装置22から出力される操作パイロット圧が大きくなるにしたがって、走行用方向制御弁7のセンタバイパスラインが閉じられてゆき、油圧ポンプ6の吐出圧力が上昇すると共に、パラレルライン21と走行用油圧モータ16との間の油通路が連通する。
【0051】
油圧ポンプ6の吐出圧力が上昇し、走行用油圧モータ16の負荷圧力を上回ると、油圧ポンプ6から吐出された圧油は、パラレルライン21を通って走行用油圧モータ16への流入を開始する。これにより、走行用油圧モータ16が回転駆動され、ホイール式油圧ショベル1は走行を始める。
【0052】
この状態において、ブーム操作装置26、アーム操作装置25、バケット操作装置24、旋回操作装置23のいずれもが中立状態であるときには、ブーム上げ操作量50、アームクラウド操作量51、アームダンプ操作量52、バケットクラウド操作量53、バケットダンプ操作量54はいずれもゼロである。したがって、走行流量制御弁開口面積演算部56〜60から出力される走行流量制御弁開口面積はすべて最大開口面積となるため、最小値選択部64の出力は最大開口面積となり、走行流量制御弁開口面積演算部61〜62の出力が最大開口面積を上限とするいかなる値であっても、最大値選択部65の出力は最大開口面積となる。
【0053】
即ち、走行動作を単独で行った場合には、走行流量制御弁31の開口面積は最大開口面積となり、パラレルライン21から走行用方向制御弁7に流入する圧油の流量は制限されない。
【0054】
走行操作装置22が操作された状態で、ブーム操作装置26が操作されると、ブーム操作装置26から出力される操作パイロット圧力によってブーム用方向制御弁11が動作する。ブーム操作装置26から出力される操作パイロット圧が大きくなるにしたがって、ブーム用方向制御弁11のセンタバイパスラインが閉じられてゆき、油圧ポンプ6の吐出圧力が上昇する。
【0055】
また、ブーム操作装置26の操作量に応じたブーム上げ操作量50がコントローラ32に入力され、走行流量制御弁開口面積演算部56からブーム上げ操作量50に応じた走行流量制御弁開口面積が出力される。このとき、アームクラウド操作量51、アームダンプ操作量52、バケットクラウド操作量53、バケットダンプ操作量54はいずれもゼロであり、走行流量制御弁開口面積演算部57〜60の出力はすべて最大開口面積となっているので、最小値選択部64においては、走行流量制御弁開口面積演算部56の出力が選択される。
【0056】
さらに、走行用油圧モータ容量指令値55と、減速装置17の速度段とに応じて走行流量制御弁開口面積演算部61〜62から出力される走行流量制御弁開口面積と、最小値選択部64から出力された走行流量制御弁開口面積とのうち、値が大きい方が最大値選択部65から出力される。
【0057】
最大値選択部65から出力された走行流量制御弁開口面積は、比例弁出力変換部66によって走行流量制御比例弁30の比例弁出力に変換され、走行流量制御比例弁30は比例弁出力に対応するパイロット圧力を出力する。走行流量制御比例弁30から出力されたパイロット圧力は、走行流量制御弁31のパイロットポートへと入力され、走行流量制御弁31は、パラレルライン21から走行用方向制御弁7に流入する圧油の流量を制限する。
【0058】
したがって、減速装置17が低速段に切り換えられている状態で走行操作装置22が操作され、ホイール式油圧ショベル1が微速モードで走行している状態において、ブーム操作装置26が操作された場合には、パラレルライン21の回路圧力が上昇しても、パラレルライン21から走行用方向制御弁7を通って走行用油圧モータ16に流入する圧油量の増加が防止又は抑制される。このため、微速モードで走行中のホイール式油圧ショベル1においてブーム上げ動作が同時に行われても、飛び出し現象の発生が防止又は抑制され、オペレータの不快感を解消できて、作業効率を高めることができる。
【0059】
これに対して、減速装置17が高速段に切り換えられている状態で走行操作装置22が操作され、ホイール式油圧ショベル1が高速走行モードで走行している状態において、ブーム操作装置26が操作された場合には、パラレルライン21の回路圧力が上昇に応じて、パラレルライン21から走行用方向制御弁7を通って走行用油圧モータ16に流入する圧油量が増加するので、圧油の圧力損失が減少し、圧油のロスが軽減されて、原動機5の燃料消費量を低減できる。
【0060】
なお、上述の実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲を上述の実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【0061】
例えば、上述の実施形態では、ホイール式油圧ショベルの油圧制御装置を例にとって説明したが、ホイール式油圧ショベル以外のホイール式作業機械の油圧制御装置に適用することができる。
【0062】
また、上述の実施形態では、減速装置17が低速段に切り換えられているか、高速段に切り換えられているかによって走行流量制御弁31の絞りの程度を変更したが、かかる構成に代えて、いわゆる等価容積(車輪2aを1回転するのに必要な圧油の容積)が予め設定された閾値を超えたか否かによって、走行流量制御弁31の絞りの程度を変更する構成とすることもできる。
【0063】
なお、上述の実施形態においては、走行中にブームが複合操作された場合を例にとって説明したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、走行負荷に対してフロント作業装置の負荷が高くなる全ての場合に適用することができる。従って、走行と複合操作されるフロント作業装置は、ブームに限らず、アームやバケットの負荷が走行負荷を上回る場合のアームやバケットと走行との複合操作を除外するものではない。
【符号の説明】
【0064】
1 ホイール式油圧ショベル
2 走行体
3 旋回体
4 フロント作業装置
5 原動機
6 油圧ポンプ
12 ブーム用油圧シリンダ
13 アーム用油圧シリンダ
14 バケット用油圧シリンダ
16 走行用油圧モータ
17 減速装置
22 走行操作装置
24 バケット操作装置
25 アーム操作装置
26 ブーム操作装置
30 走行流量制御比例弁
31 走行流量制御弁
32 コントローラ
56〜62 走行流量制御弁開口面積演算部
63 スイッチ部
64 最小値選択部
65 最大値選択部
66 比例弁出力変換部
67 ローパスフィルタ部
図1
図2
図3
図4
図5