特許第6581091号(P6581091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6581091ハイブリッドコーティングを有する調理器具、およびそのような器具を製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581091
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】ハイブリッドコーティングを有する調理器具、およびそのような器具を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   A47J 36/02 20060101AFI20190912BHJP
   C09D 183/00 20060101ALI20190912BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20190912BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20190912BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   A47J36/02 B
   C09D183/00
   C09D7/61
   B05D7/24 302Y
   B32B27/00 101
【請求項の数】13
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-539208(P2016-539208)
(86)(22)【出願日】2014年12月11日
(65)【公表番号】特表2017-501789(P2017-501789A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】FR2014053266
(87)【国際公開番号】WO2015086999
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2017年11月13日
(31)【優先権主張番号】1362522
(32)【優先日】2013年12月12日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】594034072
【氏名又は名称】セブ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オーレリアン ベリュ
【審査官】 黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−013710(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0018433(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0218297(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 36/02
B05D 7/24
B32B 27/00
C09D 7/61
C09D 183/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
品物(1)を製造するための方法であって
前記品物(1)は、少なくとも1種の金属ポリアルコキシレートのマトリックスを含むゾル−ゲル材料の連続フィルムの形態の少なくとも1つのゾル−ゲル層(31)を備えるゾル−ゲルコーティングがその表面の少なくとも一方に施されている、2つの対向表面(21,22)を有する支持体(2)を備えた品物(1)であって、
前記品物(1)は、さらに前記ゾル−ゲルコーティングを完全にまたは部分的に被覆する少なくとも1つの第1のスクリーン印刷ハイブリッドゾル−ゲル層(32)を備える、ハイブリッドゾル−ゲルコーティング(3)を備え、
前記第1のスクリーン印刷ハイブリッドゾル−ゲル層(32)は、少なくとも1種のシリコーン樹脂ならびに少なくとも1種のシランおよび/または少なくとも1種の金属アルコキシドを含む、第1のハイブリッドゾル−ゲル組成物から形成されるマトリックスを含むハイブリッドゾル−ゲル材料から成り、
金属アルコキシド前駆体は、
− 一般式M1(OR1nを有する前駆体、
− 一般式M2(OR2(n-1)2’を有する前駆体、および
− 一般式M3(OR3(n-2)32を有する前駆体から選択され、
式中、
− R1、R2、R3またはR3’は、アルキル基を表し、
− R2’は、アルキルまたはフェニル基を表し、
− nは、金属M1、M2、M3の最大価数に対応する整数であり、
− M1、M2、またはM3は、Si、Zr、Ti、Sn、Al、Ce、V、Nb、Hf、Mgまたはランタニドから選択される金属、遷移金属または非金属に対応する、
ことを特徴とする品物であり
前記方法は
a)少なくとも2つの対向表面(21,22)を有する支持体(2)を提供するステップと、
b)ゾル−ゲル組成物を調製するステップであって、b1)少なくとも1種の金属アルコキシド型ゾル−ゲル前駆体を含む水性ゾル−ゲル組成物を調製することと、b2)水および酸性または塩基性触媒の存在下、前記金属アルコキシド型ゾル−ゲル前駆体を加水分解することと、および、最後にb3)縮合反応させてアルコールの形成をもたらし、ゾル−ゲル組成物を生成することとを含む、ステップと、
c)ハイブリッドゾル−ゲル組成物を調製するステップであって、c1)溶媒媒体中で、少なくとも1種のシリコーン樹脂、ならびに少なくとも1種のシランおよび/または少なくとも1種の金属アルコキシドを含む混合物を調製することと、および、c2)縮合反応させて、ハイブリッドゾル−ゲル組成物を生成することとを含む、ステップと、
d)ステップb)から得られたゾル−ゲル組成物の少なくとも1つの層を、支持体(2)の表面(21,22)の少なくとも1つに塗布し、連続フィルムの形態で少なくとも1つのゾル−ゲル層を備えるゾル−ゲルコーティングを形成するステップと、
e)ステップc)から得られたハイブリッドゾル−ゲル組成物の少なくとも1つの層(32,33)を、前記ゾル−ゲルコーティング上に部分的または連続的にスクリーン印刷し、第1のスクリーン印刷されたハイブリッドゾル−ゲル層を形成するステップと、次いで、
f)150℃から350℃の間の温度で全体をベーキングするステップと
を含む方法。
【請求項2】
シランおよび/または金属アルコキシドは、予め加水分解されている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハイブリッドゾル−ゲル組成物の溶媒媒体は、希釈剤として使用される少なくとも1種の軽質有機溶媒、および保湿剤として使用される少なくとも1種の重質有機溶媒を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、ステップc)の直後に、ハイブリッドゾル−ゲル組成物の粘度を、0.2Pa.sから5Pa.sの範囲の値に調節するステップc’)を含む、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
ハイブリッドゾル−ゲル組成物の粘度を調節するステップc’)は、改質された、またはされていないセルロースを添加することにより行われることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
さらに、調製ステップc)の直後に、少なくとも1種の顔料充填剤および/または少なくとも1種の補強充填剤を、ハイブリッドゾル−ゲル組成物に添加する、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
補強充填剤は金属ビーズ(41,411,42,421)を含み、前記金属ビーズの一部(411、421)が、前記ハイブリッドゾル−ゲルコーティング(3)から突出し、突出したビーズは前記ハイブリッドゾル−ゲルコーティングの表面上に均一に分布している、請求項6に記載の方法
【請求項8】
前記ハイブリッドゾル−ゲルコーティングから突出した金属ビーズ(41,411,42,421)の表面密度は、50充填剤/mm2および300充填剤/mm2の間である、請求項7に記載の方法
【請求項9】
各ハイブリッドゾル−ゲル層(32,33)中の金属ビーズ(41,411,42,421)の量は、前記ハイブリッドゾル−ゲル層(32,33)の重量の0.01から5重量%の範囲である、請求項7または8に記載の方法
【請求項10】
シリコーン樹脂は、第1のハイブリッドゾル−ゲル組成物の合計重量の40から70重量%を占める、請求項1〜9の何れか一項に記載の方法
【請求項11】
シリコーン樹脂は、シリコーンポリエステル樹脂である、請求項1〜10の何れか一項に記載の方法
【請求項12】
前記第1のスクリーン印刷ハイブリッドゾル−ゲル層(32)は、第2のスクリーン印刷された不連続ハイブリッドゾル−ゲル層(33)により部分的に被覆され、少なくとも1種のシリコーン樹脂ならびに少なくとも1種のシランおよび/または少なくとも1種の金属アルコキシドを含む第2のハイブリッドゾル−ゲル組成物から形成されるマトリックスを含む、ハイブリッドゾル−ゲル材料から成る、請求項1〜11の何れか一項に記載の方法
【請求項13】
請求項1〜12の何れか一項に記載の方法であって、調理器具(1)を形成し、
品物(1)の支持体(2)の表面(22)は、ゾルーゲルコーティングおよびハイブリッドゾル−ゲルコーティングでコーティングが施されており、支持体(2)の外側表面が熱源に接触するように意図され、および、
支持体(2)対向表面(22)の表面(21)は、支持体(2)の内側表面(21)であり、食品を受け入れるように設計されている、方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、ハイブリッドゾル−ゲルコーティングが少なくとも1つの表面に施された品物に関する。より詳細には、本発明は、ガラス−セラミックまたは電磁誘導クックトップ上での使用に適合するハイブリッドゾル−ゲルコーティングが外側表面に、特にその底部に施された調理器具に関する。本発明はまた、そのような品物を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゾル−ゲルプロセスという用語は、本発明に関連して、低温での1組の化学反応(加水分解および縮合)を介した液相前駆体の溶液の固体への転換が関与する合成原理を指す。
【0003】
ゾル−ゲルコーティングという用語は、本発明に関連して、ゾル−ゲルプロセスにより合成されたコーティングを指す。得られるコーティングは、有機−無機または完全に無機であってもよい。
【0004】
ハイブリッドゾル−ゲルコーティングという用語は、本発明に関連して、単独で、またはシランおよび/もしくは金属アルコキシドと組み合わせてシリコーン樹脂からゾル−ゲルプロセスを介して形成されるマトリックスを含む、ハイブリッドゾル−ゲル材料を含むコーティングを指す。
【0005】
ゾル−ゲル型コーティング組成物は、特に流動性であり、したがってスクリーン印刷には適していないことが知られている。さらに、そのような組成物では、配合物中に任意の高密度充填剤(例えば金属)を懸濁させることができない。
【0006】
これらの問題に対処するために、本出願人は、基板上にハイブリッドゾル−ゲルコーティングを生成するための方法であって、ハイブリッドゾル−ゲル組成物の性質が、スクリーン印刷により基板に塗布され得るように適合されている、方法を開発した。
【0007】
金属アルコキシドゾル−ゲル前駆体ベースの組成物のスクリーン印刷を可能にする既知の解決策は、組成物のレオロジーを改質することからなる。したがって、ゾル−ゲルコーティングを生成するための方法であって、ゾル−ゲル組成物の塗布段階は、ゾル−ゲル組成物へのセルロースの添加のおかげでおよびゾル−ゲル組成物の1または複数の金属アルコキシド前駆体の加水分解−縮合段階中に生成されたアルコールの、グリコール等のより重質の溶媒による置換のおかげで、スクリーン印刷により達成され得る、方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。したがって、ゾル−ゲル組成物の粘度は、その合成中に改質される。ゾル−ゲル組成物のこの粘度の改質は、さらに、組成物中でのその懸濁を可能にし、また組成物中でのその沈殿を抑える、またはさらに停止させることによって、組成物中の高密ビーズ(例えば金属ビーズ)の組込みを可能にする。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されているゾル−ゲルコーティングを生成するための方法は複雑であり(したがって費用を要する)、生産ワークフローに統合するのが困難である。実際に、この方法は、補助的な溶媒交換ステップを必要とする。さらに、調理器具の外側コーティングとしての使用のために、そのようなコーティングは、ゾル−ゲルコーティングから突出し、その表面上に均一に分布する金属ビーズの導入を必要とする。実際に、ゾル−ゲルコーティング、特にアルカリ条件下で形成されたものは高い硬度を示し、これは、コーティングされた品物がガラス−セラミッククックトップ上で使用される場合に大きな欠点となり、クックトップに対するゾル−ゲルコーティングの摩擦は、ガラス対ガラス型の摩擦であり、見た目だけではなく、特にクックトップの適正な機能にも非常に有害となる傷の発生をもたらすことが、当業者に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2505619号明細書
【特許文献2】米国特許第6863923号明細書
【特許文献3】仏国特許第2973390号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明は、ビーズの統合を必要とせずかつ生産ワークフローにも容易に統合される単純なコスト効率の良い方法によって得ることができる、ガラス−セラミックまたは電磁誘導クックトップ上での使用に適合するハイブリッドゾル−ゲルコーティングが、その表面の少なくとも1つ、特に外側表面に施された品物、特に調理器具を消費者に提供することを意図する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
より具体的には、本発明は、少なくとも1種の金属ポリアルコキシレートのマトリックスを含むゾル−ゲル材料の連続フィルムの形態の少なくとも1つのゾル−ゲル層を備えるゾル−ゲルコーティングがその表面の少なくとも一方に施されている、2つの対向表面を有する支持体を備える品物であって、本発明による品物は、前記ゾル−ゲルコーティングを完全にまたは部分的に被覆する少なくとも1つの第1のスクリーン印刷ハイブリッドゾル−ゲル層を備える、ハイブリッドゾル−ゲルコーティングをさらに備え、前記第1のハイブリッドゾル−ゲル層は、少なくとも1種のシリコーン樹脂(またはポリシロキサン)、ならびに少なくとも1種のシランおよび/または少なくとも1種の金属アルコキシドを含む第1のハイブリッドゾル−ゲル組成物から形成されるマトリックスを含む、ハイブリッドゾル−ゲル材料からなることを特徴とする、品物に関する。
【0012】
本発明によるハイブリッドゾル−ゲルコーティングは、ガラス−セラミッククックトップを傷付けず、ビーズを含有する必要がなく、それにもかかわらず光沢のある滑らかな表面および良好な耐熱性を維持するという点で有利であり、調理器具の外側底部表面の装飾に特に好適となる。
【0013】
有利には、シリコーン樹脂は、前記第1のハイブリッドゾル−ゲル組成物の合計重量の40から70重量%を占める。
【0014】
本発明に関連して使用されるシリコーン樹脂に関して、WACKERによりSILRES(登録商標)610の商品名で市販されているシリコーン樹脂が、特に注目に値する。
【0015】
有利には、シリコーン樹脂は、シリコーンポリエステル樹脂である。
【0016】
本発明に関連して使用されるシリコーンポリエステル樹脂に関して、TEGOによりSILIKOFTAL(登録商標)の商品名で市販されているシリコーンポリエステル樹脂が、特に注目に値する。
【0017】
有利には、第1のハイブリッドゾル−ゲル層は、第2のスクリーン印刷された不連続ハイブリッドゾル−ゲル層により部分的に被覆され、これもまた、例えば以前に定義されたような少なくとも1種のシリコーン樹脂(好ましくはシリコーンポリエステル樹脂)、ならびに少なくとも1種のシランおよび/または少なくとも1種の金属アルコキシドを含む第2のハイブリッドゾル−ゲル組成物から形成されるマトリックスを含む、ハイブリッドゾル−ゲル材料で構成される。
【0018】
有利には、シリコーン樹脂は、前記第2のハイブリッドゾル−ゲル組成物の合計重量の40から70重量%を占める。
【0019】
本発明に関連して、金属アルコキシドという用語は、RiMX(n-i)の群の材料を指し、式中、
− Mは、金属または遷移金属、例えばAl、Ce、Zr、Ti、Sn、V、Nb、Hf、Mgまたはランタニドであり、
− nは、金属または遷移金属Mの価数に対応し、
− Xは、加水分解性基であり、Xiは、同一または異なっていてもよく、
− Rは、アルキル、フェニル、または有機官能基であり、Riは、同一または異なっていてもよく、
− i=0、1、・・・またはn−1である。
【0020】
有利には、金属アルコキシドは、オルトチタン酸テトライソプロピル(titanium isopropoxide :TTIP)およびジルコニウムイソプロポキシドから選択される。
【0021】
本発明に関連して、シランという用語は、RiSiX(4-i)の群の材料を指し、式中、
− Xは、加水分解性基であり、Xiは、同一または異なっていてもよく、
− Rは、アルキル、フェニル、または有機官能基であり、Riは、同一または異なっていてもよく、
− i=0、1、2または3である。
【0022】
有利には、シランは、メチルトリエトキシシラン(MTES)、テトラエトキシシラン(TEOS)、(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)、およびそれらの混合物から選択される。
【0023】
有利には、第1のハイブリッドゾル−ゲル層、および/または該当する場合には第2のハイブリッドゾル−ゲル層のハイブリッドゾル−ゲル材料は、少なくとも1種の顔料充填剤および/または少なくとも1種の補強充填剤をさらに含んでもよい。
【0024】
本発明に関連して使用される顔料充填剤に関して、注目すべき変形形態(variant)は、コーティングされた、またはコーティングされていない雲母、二酸化チタン、混合酸化物(スピネル)、アルミノシリケート、酸化鉄、カーボンブラック、ペリレンレッド、金属フレーク、サーモクロマチック顔料および有機染料、ならびにそれらの混合物を含む。
【0025】
これらの顔料充填剤の目的は、第一に、色を付与することであり、第二に、熱拡散を改善し、コーティングの硬度(および耐久性)を増加させ、潤滑機能を果たすことである。
【0026】
補強充填剤という用語は、本発明に関連して、本発明によるコーティングにより、ガラス−セラミックまたは電磁誘導クックトップ表面の傷の発生を制限または排除するために使用される充填剤を指す。換言すれば、これらの補強充填剤により、本発明によるコーティングの、ガラス−セラミックまたは電磁誘導クックトップ表面の傷の発生を防止する能力を改善することができる。
【0027】
本発明に従って使用される補強充填剤は、有利には、金属ビーズを含み得る。好ましくは、前記金属ビーズの一部が、ハイブリッドゾル−ゲルコーティングから突出し、突出したビーズは前記コーティングの表面上に均一に分布している。
【0028】
ビーズという用語は、本発明に関連して、丸い、本質的に球形の形状をとる充填剤を指す。
【0029】
本発明によるハイブリッドゾル−ゲルコーティングの表面と同一平面にあるビーズは、玉軸受効果を生成することにより、ガラス−セラミックまたは電磁誘導クックトップとの接触を最小限化することが意図される。
【0030】
そのような効果を達成するために、前記ハイブリッドゾル−ゲルコーティングから突出する金属ビーズの表面密度は、有利には、50〜300充填剤/mm2の範囲であってもよい。
【0031】
50充填剤/mm2未満の表面密度では、本発明によるハイブリッドゾル−ゲルの重量分布が一様となり得ない。300充填剤/mm2超の表面密度では、本発明によるハイブリッドゾル−ゲルコーティングの熱衝撃への耐性および光沢が、共に減少する。
【0032】
好ましくは、前記ハイブリッドゾル−ゲルコーティングから突出するビーズの表面密度は、100から250充填剤/mm2の間にある。この範囲内では、塗布の容易性および最大の玉軸受効果の両方が維持される。
【0033】
補強充填剤として機能するビーズは、性質が異なっていてもよく、例えば、ガラスまたは金属(もしくは金属合金)で作製されてもよい。
【0034】
有利には、本発明に関連して、ステンレス鋼ビーズ、例えばHOGANASにより316HIC 15μmの商品名で市販されているものが使用される。
【0035】
バイブリッドゾル−ゲルコーティング中に「補強」ビーズが存在する場合、その外観を改変することなく、均一性を保持しながらコーティング表面と同一平面になければならないため、その量および粒度分布は重要な因子である。
【0036】
ビーズの量は、有利には、ベーキング後のハイブリッドゾル−ゲルコーティングの各ハイブリッドゾル−ゲル層の合計重量の0.01から40重量%、好ましくは0.01から5重量%の範囲であってもよい。
【0037】
0.01%未満では、接触後にゾル−ゲル表面がガラス−セラミッククックトップを傷付けないようにするには不十分な量であるため、ビーズはハイブリッドゾル−ゲル層の特性にマイナスの効果を有し、一方5%超では、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル層に対するビーズの付着性が改変され得る。
【0038】
ビーズの粒度分布に関して、その直径は、好ましくは5から30μmの間にあり、好ましい平均直径は、15から20μmの間であり、一方、第1のハイブリッドゾル−ゲル層、および該当する場合は第2のハイブリッドゾル−ゲル層の厚さは、ビーズの一部がハイブリッドゾル−ゲルコーティングの表面を越えて突出するように、5から20μmの間にある。少なくともその直径に等しい厚さまで塗布されるビーズは全て、ハイブリッドゾル−ゲルコーティング内に完全に固定される。
【0039】
本発明による品物は、有利には、内側表面が食品を受け入れるように設計され、外側表面が熱源に接触するように意図された支持体を有する調理器具であってもよく、前記外側表面は、ゾルーゲルコーティングおよび上で定義されたようなハイブリッドゾル−ゲルコーティングでコーティングされている。
【0040】
有利には、ゾル−ゲルコーティングは、調理器具の支持体の外側表面全体を被覆し、一方、ハイブリッドゾル−ゲルコーティングは、器具の基部に対応する外側表面にのみ塗布される。
【0041】
本発明に関連した使用に選択される支持体材料は、有利には、金属、ガラス、プラスチックまたはセラミックであってもよい。
【0042】
本発明に関連して使用される金属支持体に関して、注目すべき変形形態は、単層アルミニウムもしくはアルミニウム合金支持体、または、鋳造アルミニウム、ステンレス鋼、鋳鋼もしくは銅で作製された支持体、あるいは、以下の層(フェライト系ステンレス鋼/アルミニウム/オーステナイト系ステンレス鋼の層で、またはさらに、外側ステンレス鋼で補強された鋳造アルミニウム、アルミニウムもしくはアルミニウム合金のキャップ)で、外側から内側まで構築された複数層の支持体を含む。
【0043】
本発明は、さらに、上で定義されたような品物を製造するための方法であって、
a)少なくとも2つの対向表面を有する支持体を提供するステップと、
b)ゾル−ゲル組成物を調製するステップであって、b1)少なくとも1種の金属アルコキシド型ゾル−ゲル前駆体を含む水性ゾル−ゲル組成物を調製することと、b2)水および酸性または塩基性触媒の導入により、前記ゾル−ゲル前駆体を加水分解することと、最後にb3)縮合反応させてアルコールの形成をもたらし、ゾル−ゲル組成物を生成することとを含む、ステップと、
c)ハイブリッドゾル−ゲル組成物を調製するステップであって、c1)溶媒媒体中で、少なくとも1種のシリコーン樹脂、ならびに少なくとも1種のシランおよび/または少なくとも1種の金属アルコキシドを含む混合物を調製することと、c2)縮合反応させて、ハイブリッドゾル−ゲル組成物を生成することとを含む、ステップと、
d)ステップb)から得られたゾル−ゲル組成物の少なくとも1つの層を、支持体の表面の少なくとも1つに塗布し、連続フィルムの形態で少なくとも1つのゾル−ゲル層を備えるゾル−ゲルコーティングを形成するステップと、
e)ステップc)から得られたハイブリッドゾル−ゲル組成物の少なくとも1つの層を、前記ゾル−ゲルコーティング上に部分的または連続的にスクリーン印刷し、第1のスクリーン印刷されたハイブリッドゾル−ゲル層を形成するステップと、次いで、
f)150℃から350℃の間の温度で全体をベーキングするステップと
を含む方法に関する。
【0044】
本発明による方法は、単純であり、生産ワークフローに容易に統合される。
【0045】
ハイブリッドゾル−ゲル組成物中に使用されるシリコーン樹脂、シランおよび金属アルコキシドは、以前に定義された通りである。
【0046】
同様に、品物および支持体も、以前に定義された通りである。
【0047】
本発明によるゾル−ゲルコーティングおよびハイブリッドゾル−ゲルコーティングが塗布される支持体は、
− 品物、特に、調理器具の場合、食品を受容するように設計された内側表面と、熱源と接触するように意図された外側表面とを有する品物の最終形態をとる支持体、または、
− 本発明による前記コーティングの塗布前に、例えば冷間成形によりドーム型に整形され、次いで切断されるディスク(すなわち、本質的に平坦である)であってもよい。
【0048】
本発明による方法の1つの具体的実施形態において、支持体はディスクの形態をとり、方法は、さらに、ゾル−ゲル組成物が塗布されるステップd)の前に、支持体形成ステップを含む。
【0049】
本発明による方法の有利な実施形態において、コーティングされることが意図された支持体の表面は、まず、支持体へのゾル−ゲルコーティングの付着性を改善するために、品物の性質に特有な脱脂プロセス、サンドブラストプロセス、および表面処理の少なくとも1つに供されてもよい。
【0050】
本発明による方法の有利な実施形態において、ステップd)において塗布されるゾル−ゲルコーティングの表面は、ゾル−ゲルコーティングへのハイブリッドゾル−ゲルコーティングの付着性を改善するために、ステップe)におけるハイブリッドゾル−ゲル組成物の塗布前に、特定の表面処理に供されてもよい。
【0051】
有利には、低温プラズマ表面処理を使用して、本発明によるゾル−ゲルコーティングの表面を処理することができる。
【0052】
低温プラズマ表面処理は、有利には、アンモニアプラズマを使用して行われてもよい。ハイブリッドゾル−ゲルコーティングがシリコーンポリエステル樹脂を含む場合、第1のハイブリッドゾル−ゲル層が塗布される際、アンモニアプラズマにより形成される表面アミノ基は、樹脂中のポリエステルから残留した遊離官能基と反応し得る。
【0053】
別の可能な低温プラズマ表面処理の変形形態は、ゾル−ゲルコーティングの表面上に−N基を形成するプラズマ(N2/H2)を使用して、ゾル−ゲルコーティングと第1のハイブリッドゾル−ゲル層との間にシラザン(Si−N)結合を形成することである。
【0054】
本発明による方法の一実施形態において、ハイブリッドゾル−ゲルコーティングとゾル−ゲルコーティングとの間の付着性を改善するために、カップリング剤、例えば(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)等のアミノシランが使用されてもよく、これは、
− ステップc)の調製において、シリコーンポリエステル樹脂を含むハイブリッドゾル−ゲル組成物に直接組み込まれてもよく(そしてそれ自身を樹脂中のポリエステルに結合させ、次いでシラン成分が、ゾル−ゲルコーティングの表面上のヒドロキシルと縮合により自由に反応する)、または、
− ステップe)の塗布プロセスの前に、無水トルエンの存在下でゾル−ゲルコーティング上に堆積してもよい。
【0055】
ゾル−ゲル組成物を調製するステップb)は、従来の様式で、例えば特許文献3に記載のような様式で行われる。
【0056】
好ましくは、水性ゾル−ゲル組成物の調製b1)のために、金属アルコキシド前駆体は、
− 一般式M1(OR1nを有する前駆体、
− 一般式M2(OR2(n-1)2’を有する前駆体、および
− 一般式M3(OR3(n-2)32を有する前駆体から選択され得、
式中、
− R1、R2、R3またはR3’は、アルキル基を表し、
− R2’は、アルキルまたはフェニル基を表し、
− nは、金属M1、M2、M3の最大価数に対応する整数であり、
− M1、M2、またはM3は、Si、Zr、Ti、Sn、Al、Ce、V、Nb、Hf、Mgまたはランタニドから選択される金属、遷移金属または非金属に対応する。
【0057】
有利には、ステップb1)の水性ゾル−ゲル組成物の金属アルコキシドは、アルコキシシランである。
【0058】
本発明の方法のステップb1)の水性ゾル−ゲル組成物中に使用され得るアルコキシシランに関して、注目すべき変形形態は、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、ジメトキシジメチルシラン、およびそれらの混合物を含む。
【0059】
アルコキシシランMTESおよびTEOSは、有利にはメトキシ基を含有しないため、好ましくはそれらが使用される。実際に、メトキシ基の加水分解は、ゾル−ゲル配合物中のメタノールの形成をもたらすが、これは毒素として分類されているため、塗布段階において追加的な注意を必要とする。一方、エトキシ基の加水分解は、エタノールを生成するだけであり、これはより好ましい分類による利益を得、したがって、ゾル−ゲルコーティングとしてのその使用に関して受ける規制はより厳しくない。
【0060】
ステップc1)の調製において使用される溶媒媒体は、有利には、希釈剤として使用される少なくとも1種の軽質有機溶媒、および保湿剤として使用される少なくとも1種の重質有機溶媒を含み得る。
【0061】
これらの溶媒(軽質および重質の両方)は、ハイブリッドゾル−ゲル組成物(または「スクリーン印刷インク」)が、スクリーン印刷スクリーン上で乾燥するのを防止し(重質溶媒の作用による)、また組成物の表面乾燥時間を加速して、複数層スクリーン印刷を容易化する(軽質溶媒の急速蒸発による)。
【0062】
本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物中で使用される重質溶媒は、有利には、ポリオール(特に、ジオール、エステルジオール、エーテルジオールもしくはポリフェノール)またはテルペン誘導体(例えばテルピネオール)から選択され得る。本発明による重質有機溶媒は、典型的には、高分子量(100g.mol-1以上)および高沸点(特に150℃以上)を有する。
【0063】
本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物中に使用される軽質溶媒は、有利には、150℃以下の沸点を有する極性溶媒から選択され得る。
【0064】
キシレンは、シリコーンポリエステル樹脂中にすでに存在しているため、好ましくはそれが軽質溶媒として使用される。それはまた、エステル、ケトンおよびグリコールエーテルに可溶である。
【0065】
ハイブリッドゾル−ゲル組成物がシランを含む場合、前記シランは、好ましくは、予め加水分解されることになる。
【0066】
ハイブリッドゾル−ゲル組成物が金属アルコキシドを含む場合、前記金属アルコキシドは、好ましくは、水および酸、例えばギ酸または酢酸の存在下で予め加水分解(pre-hydrolyzed)されることになる。有利には、金属アルコキシドが加水分解されるステップの前に、アセチルアセトン(ACAC)またはアセト酢酸エチル(EAA)等のキレート剤を使用して、金属アルコキシドのキレート化が行われてもよい。
【0067】
さらに、ハイブリッドゾル−ゲル組成物が、シランおよび金属アルコキシドの両方を含む場合、シランおよび金属アルコキシドの少なくとも一方が、好ましくは予め加水分解されることになる。
【0068】
本発明による方法は、有利には、ステップc)の直後に、ハイブリッドゾル−ゲル組成物の粘度を、0.2Pa.sから5Pa.s(2から50ポアズ)の範囲の値に、好ましくは0.5Pa.sから2Pa.s(5から20ポアズ)の範囲の値に調節するステップc’)を含んでもよい。
【0069】
このために、ハイブリッドゾル−ゲル組成物は、スクリーン印刷による塗布を容易化するべく粘度を増加させるために、有利には、改質された、またはされていないセルロース、好ましくはエチルセルロース(例えばDow Ethocel STD300(登録商標))で増粘されてもよい。
【0070】
ハイブリッドゾル−ゲル組成物のレオロジーを所望通りに調節するために、キサンタンガムもしくはクレイ(例えばBentone SD(登録商標)−2)等の様々な性質の他の有機増粘剤、またはさらには、改質ウレア等のチキソトロピックレオロジー添加剤の、ハイブリッドゾル−ゲル組成物への添加が考えられる。
【0071】
さらに、調製ステップc)の直後に、少なくとも1種の顔料充填剤および/または少なくとも1種の補強充填剤を、ハイブリッドゾル−ゲル組成物に添加することもできる。
【0072】
顔料充填剤および/または補強充填剤は、以前に定義された通りである。
【0073】
水性ゾル−ゲル組成物は、単層または複数層として、ゾル−ゲルコーティングに塗布され得る。
【0074】
ステップd)におけるゾル−ゲル組成物の塗布は、当業者に知られている任意の技術を使用して達成され得る。例えば、ゾル−ゲル組成物の塗布は、コーティングされる支持体表面上へのゾル−ゲル組成物の噴霧、ソーキング、ディップコーティング、またはスピンコーティングにより行われてもよい。
【0075】
有利には、ゾル−ゲル組成物塗布のステップd)は、さらに、50℃から100℃の範囲の温度で赤外光等を使用してゾル−ゲルコーティングを乾燥させることをさらに含んでもよい。
【0076】
塗布ステップe)において、ハイブリッドゾル−ゲル組成物は、有利には、ステップd)から得られたゾル−ゲルコーティング上にスクリーン印刷を用いて塗布される。ハイブリッドゾル−ゲル組成物は、単層または複数層として塗布され得る。
【0077】
有利には、ステップe)は、50℃から100℃の範囲の温度で赤外光等を使用してハイブリッドゾル−ゲルコーティングを乾燥させることをさらに含んでもよい。
【0078】
ベーキングステップf)は、有利には、従来の対流炉内で、不活性か酸化性かを問わず従来の雰囲気中で行われてもよい。
【0079】
好ましくは、ベーキングステップf)は、200℃から300℃の範囲の温度で行われる。
【0080】
例示を目的として提供され、したがって非限定的であり、また対応する付属の図面における例を参照する以下の説明から、本発明の他の利点および詳細が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
図1】先行技術の一実施形態による調理器具の概略断面図である。
図2】先行技術の別の実施形態による調理器具の概略断面図である。
図3】第1の実施形態による本発明に従う調理器具の概略断面図である。
図4】第2の実施形態による本発明に従う調理器具の概略断面図である。
図5】第3の実施形態による本発明に従う調理器具の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0082】
図1および2、ならびに図3から5にそれぞれ示される同一の要素は、同じ参照番号により特定される。
【0083】
図1(比較例3の条件に対応する)は、先行技術の一実施形態による調理器具110の断面図である。調理器具110は、2つの対向表面121(内側表面)および122(外側表面)を有するアルミニウム支持体120を備える。内側表面121は、付着防止コーティング160、例えばフッ化炭素樹脂、エナメルまたはゾル−ゲル材料ベースのコーティングでコーティングされる。
【0084】
外側表面122は、少なくとも1種の金属ポリアルコキシレートのマトリックスを含むゾル−ゲル材料の連続フィルムの形態のゾル−ゲル層131を備える第1のゾル−ゲルコーティング130で被覆される。最後に、第1のゾル−ゲルコーティング130は、特許文献2の実施例13に記載の指示に従って、ゾル−ゲル層141を備える第2のゾル−ゲルコーティング140で被覆される。
【0085】
図2(比較例4の条件に対応する)は、先行技術の第2の実施形態による調理器具110の断面図である。調理器具110は、2つの対向表面121(内側表面)および122(外側表面)を有するアルミニウム支持体120を備える。内側表面121は、付着防止コーティング160、例えばフッ化炭素樹脂、エナメルまたはゾル−ゲル材料ベースのコーティングでコーティングされる。
【0086】
外側表面122は、少なくとも1種の金属ポリアルコキシレートのマトリックスを含むゾル−ゲル材料の連続フィルムの形態のゾル−ゲル層131を備える第1のゾル−ゲルコーティング130で被覆される。最後に、第1のゾル−ゲルコーティング130は、スクリーン印刷により、特許文献3に記載の指示に従って、ステンレス鋼ビーズ151、152を組み込み、その一部152が第2のゾルーゲルコーティング140の表面を越えて突出したゾル−ゲル層141を備える第2のゾル−ゲルコーティング140で被覆される。
【0087】
付属の図3に示される品物は、本発明の第1の実施形態による調理器具1である。図3に示される調理器具1は、実施例2および7における条件に対応する。
【0088】
この調理器具1は、2つの対向表面21(内側表面)および22(外側表面)を有するアルミニウム支持体2を備える。内側表面21は、付着防止コーティング6、例えばフッ化炭素樹脂、エナメルまたはゾル−ゲル材料ベースのコーティングでコーティングされる。
【0089】
外側表面22は、少なくとも1種の金属ポリアルコキシレートのマトリックスを含むゾル−ゲル材料の連続フィルムの形態のゾル−ゲル層31を備えるゾル−ゲルコーティング3で被覆される。最後に、ゾル−ゲルコーティング3は、スクリーン印刷により、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル層41を備えるハイブリッドゾル−ゲルコーティング4で被覆される。
【0090】
付属の図4に示される品物は、本発明の第2の実施形態による調理器具1である。図3に示される調理器具1は、実施例3、5、6および8から10における条件に対応する。
【0091】
図4に示される実施形態において、ハイブリッドゾル−ゲルコーティング4のハイブリッドゾル−ゲル層41は、金属ビーズ51、52を備え、その一部52は、このハイブリッドゾル−ゲル層41の表面を越えて突出している。
【0092】
付属の図5に示される品物は、本発明の第3の実施形態による調理器具1である。
【0093】
図5に示される実施形態において、ハイブリッドゾル−ゲルコーティング4は、2つのハイブリッドゾル−ゲル層41、42を備える。第1のハイブリッドゾル−ゲル層41は、スクリーン印刷により、ゾル−ゲルコーティング3上に連続的に塗布される。第2のハイブリッドゾル−ゲル層42は、スクリーン印刷により、第1のハイブリッドゾル−ゲル層41上に断続的に塗布される。これらの2つのハイブリッドゾル−ゲル層41、42は、金属ビーズ51、52、53、54を備え、その一部52、54は、それぞれハイブリッドゾル−ゲル層41、42の表面を越えて突出している。
【0094】
(実施例)
これらの実施例において、別段に指定されない限り、全てのパーセンテージおよび割合は、重量基準で表現される。
【0095】
試験
耐炎性:
以下の実施例において調製されたコーティングを、ブンゼンバーナーの炎に20秒間曝露し、次いで冷水中で急冷した。炎に曝した後に、各コーティングの全体的外観を評価した。特に、酸化(典型的には白色/褐色)または炭化(典型的には黒色)のいずれの痕跡にも注目した。
【0096】
付着性試験(規格EN10209における試験に基づく):
エナメル加工に関するエリクセン試験規格EN10209を、以下の実施例において調製されたゾル−ゲルコーティングに適用した。ポテンシャルエネルギーにより推進される尖頭部(ogive)を使用して、各コーティングの表面を打ちつけた。試験後、金属支持体への各コーティングの残留付着を評価した。
【0097】
磨耗試験(規格NFD21−511における試験に基づく):
以下の実施例において調製されたゾル−ゲル型コーティングの耐摩耗性を、各コーティングを緑のSCOTCH BRITE(登録商標)または同様の研磨パッドの作用に供することにより評価した。各コーティングの耐摩耗性を、最初の傷を形成する(支持体を形成する金属材料が観察され得ることを意味する)ために表面を横切らせなければならない研磨パッドの回数に関して、定性的に評価した。
【0098】
ガラス−セラミッククックトップを用いた引っかき試験:
この試験は、ガラス−セラミッククックトップが劣化しないことを特定するように設計されている。これにより、パンがクックトップを傷付けないことを検証することが可能である(試験は冷えたクックトップ上で行われる)。この試験は、調理器具がガラス−セラミックおよび電磁誘導表面と共に使用されることを意図する。使用される用具は、パン、清浄で傷のないガラス−セラミッククックトップ、および100グラムの重りを含む。
【0099】
100gの重りをパンの中央に置き、一方、パンをガラス−セラミッククックトップ上に設置する。次いで、ガラス−セラミッククックトップの上で、パンをAからBそしてCに(上の図を参照)10サイクル水平に移動させる。
【0100】
次いで、ガラス−セラミッククックトップの状態を評価し、該当する場合にはいかなる傷の存在も記録する。
【0101】
光沢(DIN EN ISO2813)
60°の角度(他の角度も可能、20°および85°)で閃光を発する光沢計(例えば、BYK Gardner(登録商標)マイクロトリグロス)を、物品の表面に適用して使用して、表面反射を定義する。100GU(=標準屈折率まで研磨された黒色ガラスに対して測定される光沢単位)のスケールを基準とし、得られる測定値は表面の屈折率に比例する(したがって、測定値>100GUがあり得る)。
【0102】
生成実施例(組成物および実験条件)
(実施例1)
支持体上へのゾル−ゲルコーティングの調製
金属アルコキシド前駆体のゾル−ゲル組成物SG1を、以下の表1において指定される組成に従って調製した。
【0103】
この組成物SG1をアルミニウム支持体上に噴霧することにより塗布し、各面にゾル−ゲルコーティングを形成した。
【0104】
【表1】
【0105】
(実施例2)
シランを含むが補強ビーズを含まない、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物
シリコーン樹脂およびシランを含有するが補強ビーズを含有しない、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物SGH1を、以下の表2において指定される組成に従って調製した。
【0106】
この組成物SGH1を、実施例1において得られたゾル−ゲルコーティングに、単一のスクリーン印刷層として塗布し、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル層を備えるハイブリッドゾル−ゲルコーティングを形成した。
【0107】
200℃から300℃の間の温度で全体をベーキングした。
【0108】
【表2】
【0109】
(実施例3)
シランおよび補強ビーズを含む、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物
シリコーン樹脂、補強ビーズおよびシランを含有する、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物SGH2を、以下の表3において指定される組成に従って調製した。
【0110】
使用した補強ビーズは、HOGANASにより316HIC 15μmの商品名で市販されているステンレス鋼ビーズであった。
【0111】
この組成物SGH2を、実施例1において得られたゾル−ゲルコーティングに、単一のスクリーン印刷層として塗布し、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル層を備えるハイブリッドゾル−ゲルコーティングを形成した。
【0112】
200℃から300℃の間の温度で全体をベーキングした。
【0113】
【表3】
【0114】
(実施例4)
金属アルコキシドのキレート化および予め加水分解(pre-hydrolysis)
金属アルコキシドのキレート化および予め加水分解を目的として、金属アルコキシドを含む組成物を、以下の表4において指定される組成に従って調製した。
【0115】
【表4】
【0116】
(実施例5)
金属アルコキシドおよび補強ビーズを含む、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物
シリコーン樹脂、補強ビーズおよび実施例4からの予め加水分解された金属アルコキシドを含有する、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物SGH3を、以下の表5において指定される組成に従って調製した。
【0117】
使用した補強ビーズは、HOGANASにより316HIC 15μmの商品名で市販されているステンレス鋼ビーズであった。
【0118】
この組成物SGH3を、実施例1において得られたゾル−ゲルコーティングに、単一のスクリーン印刷層として塗布し、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル層を備えるハイブリッドゾル−ゲルコーティングを形成した。
【0119】
200℃から300℃の間の温度で全体をベーキングした。
【0120】
【表5】
【0121】
(実施例6)
シラン、金属アルコキシドおよび補強ビーズを含む、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物
シリコーン樹脂、補強ビーズ、ならびにシランおよび実施例4からの予め加水分解された金属アルコキシドを含有する、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物SGH4を、以下の表6において指定される組成に従って調製した。
【0122】
使用した補強ビーズは、HOGANASにより316HIC 15μmの商品名で市販されているステンレス鋼ビーズであった。
【0123】
この組成物SGH4を、実施例1において得られたゾル−ゲルコーティングに、単一のスクリーン印刷層として塗布し、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル層を備えるハイブリッドゾル−ゲルコーティングを形成した。
【0124】
200℃から300℃の間の温度で全体をベーキングした。
【0125】
【表6】
【0126】
(実施例7)
シランを含むが補強ビーズを含まない、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物
シリコーンポリエステル樹脂およびシランを含有するが補強ビーズを含有しない、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物SGH5を、以下の表7において指定される組成に従って調製した。
【0127】
この組成物SGH5を、実施例1において得られたゾル−ゲルコーティングに、単一のスクリーン印刷層として塗布し、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル層を備えるハイブリッドゾル−ゲルコーティングを形成した。
【0128】
200℃から300℃の間の温度で全体をベーキングした。
【0129】
【表7】
【0130】
(実施例8)
シランおよび補強ビーズを含む、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物
シリコーンポリエステル樹脂、補強ビーズおよびシランを含有する、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物SGH6を、以下の表8において指定される組成に従って調製した。
【0131】
使用した補強ビーズは、HOGANASにより316HIC 15μmの商品名で市販されているステンレス鋼ビーズであった。
【0132】
この組成物SGH6を、実施例1において得られたゾル−ゲルコーティングに、単一のスクリーン印刷層として塗布し、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル層を備えるハイブリッドゾル−ゲルコーティングを形成した。
【0133】
200℃から300℃の間の温度で全体をベーキングした。
【0134】
【表8】
【0135】
(実施例9)
金属アルコキシドおよび補強ビーズを含む、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物
シリコーンポリエステル樹脂、補強ビーズおよび実施例4からの予め加水分解された金属アルコキシドを含有する、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物SGH7を、以下の表9において指定される組成に従って調製した。
【0136】
使用した補強ビーズは、HOGANASにより316HIC 15μmの商品名で市販されているステンレス鋼ビーズであった。
【0137】
この組成物SGH7を、実施例1において得られたゾル−ゲルコーティングに、単一のスクリーン印刷層として塗布し、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル層を備えるハイブリッドゾル−ゲルコーティングを形成した。
【0138】
200℃から300℃の間の温度で全体をベーキングした。
【0139】
【表9】
【0140】
(実施例10)
シラン、金属アルコキシドおよび補強ビーズを含む、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物
シリコーンポリエステル樹脂、補強ビーズ、ならびにシランおよび実施例4からの予め加水分解された金属アルコキシドを含有する、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル組成物SGH8を、以下の表10において指定される組成に従って調製した。
【0141】
使用した補強ビーズは、HOGANASにより316HIC 15μmの商品名で市販されているステンレス鋼ビーズであった。
【0142】
この組成物SGH8を、実施例1において得られたゾル−ゲルコーティングに、単一のスクリーン印刷層として塗布し、本発明によるハイブリッドゾル−ゲル層を備えるハイブリッドゾル−ゲルコーティングを形成した。
【0143】
200℃から300℃の間の温度で全体をベーキングした。
【0144】
【表10】
【0145】
(比較例1)
シラン、金属アルコキシド、また補強ビーズも含まないハイブリッドゾル−ゲル組成物
シリコーン樹脂を含有するが、シラン、金属アルコキシド、補強ビーズも含有しないハイブリッドゾル−ゲル組成物SGHc1を、以下の表11において指定される組成に従って調製した。
【0146】
この組成物SGHc1を、実施例1において得られたゾル−ゲルコーティングに、単一のスクリーン印刷層として塗布し、ハイブリッドゾル−ゲル層を備えるハイブリッドゾル−ゲルコーティングを形成した。
【0147】
200℃から300℃の間の温度で全体をベーキングした。
【0148】
【表11】
【0149】
(比較例2)
シラン、金属アルコキシド、補強ビーズも含まないハイブリッドゾル−ゲル組成物
シリコーンポリエステル樹脂を含有するが、シラン、金属アルコキシド、補強ビーズも含有しないハイブリッドゾル−ゲル組成物SGHc2を、以下の表12において指定される組成に従って調製した。
【0150】
この組成物SGHc2を、実施例1において得られたゾル−ゲルコーティングに、単一のスクリーン印刷層として塗布し、ハイブリッドゾル−ゲル層を備えるハイブリッドゾル−ゲルコーティングを形成した。
【0151】
200℃から300℃の間の温度で全体をベーキングした。
【0152】
【表12】
【0153】
(比較例3)
金属ビーズを含有しない金属アルコキシド前駆体のゾル−ゲル組成物SGc1を、特許文献2において指定されている組成に従って、実施例3のように調製した。
【0154】
この組成物SGc1を、実施例1において得られたゾル−ゲルコーティングに、単一のスクリーン印刷層として塗布し、ゾル−ゲルコーティングを形成した。
【0155】
200℃から300℃の間の温度で全体をベーキングした。
【0156】
(比較例4)
ステンレス鋼ビーズを含有する金属アルコキシド前駆体のスクリーン印刷されたゾル−ゲル組成物SGc2を、特許文献3の指示に従い、以下の表13において指定される組成に従って調製した。
【0157】
この組成物SGc2を、実施例1において得られたゾル−ゲルコーティングに、単一のスクリーン印刷層として塗布し、ゾル−ゲルコーティングを形成した。
【0158】
200℃から300℃の間の温度で全体をベーキングした。
【0159】
【表13】
【0160】
スクリーン印刷されたSGc2組成物のための改質されたゾル−ゲル組成物を、以下のように得た。
− SG1ゾル−ゲル組成物と同様に、金属アルコキシド前駆体の最初のゾル−ゲル組成物を、以前に定義されたように調製した。
− 次いで、この金属アルコキシドを、反応器内で水および酸または塩基(好ましくは水酸化ナトリウム、カリウムアルカリおよびアルカリ土類金属)の存在下で加水分解し、続いて縮合反応を行い、アルコールを生成した。
− 加水分解−縮合反応の間に顆粒が形成された場合(例えば、金属アルコキシド前駆体の加水分解−縮合反応の間に凝集体がin situで形成された場合、特に、反応がアルカリ条件下で行われた場合)、得られたゾル−ゲル組成物の濾過が必要となり得る。
− 加水分解−縮合反応を介して形成されたアルコールを、ゾル−ゲル組成物から蒸発/蒸留し(真空排気により補助される)、次いで、グリコールまたはテルペン誘導体(テルピネオール)と置き換えて、改質されたゾル−ゲル組成物を形成した。
【0161】
次いで、粘度を増加させてスクリーン印刷への適用を容易化するために、改質されたゾル−ゲル組成物をセルロース(Dow Ethocel STD 20(登録商標))と混合した。0.5から5Pa.s(5から50ポアズ)の範囲の粘度を目標とした。CMC型有機結合剤またはキサンタンガム等の他の結合剤の添加を使用して、スクリーン印刷ペーストの所望のレオロジーを改質してもよい。
【0162】
最終ステップにおいて、金属充填剤(Hoganas 316 HIC 15μm)を分散により添加して、SGc2組成物を生成する。
【0163】
行われた試験の結果
実施例2、3、および5から10、ならびに比較例1から4において生成されたコーティングされた支持体を、上述のように、耐炎性、付着性、磨耗、ガラスクックトップの傷の発生および光沢に関して試験した。これらの様々な試験の結果を、以下の表14にまとめる。
【0164】
【表14】
【0165】
表14における結果は、本発明によるハイブリッドゾル−ゲルコーティング(実施例2、3、および5から10)が、スクリーン印刷により塗布することができ、その下のゾル−ゲルコーティングに対して全体的に許容され得る付着性を有することを示している。それらの耐炎特性は、等しく良好である。しかしながら、金属アルコキシド前駆体(比較例3および4)を用いて作製された従来のゾル−ゲルとは異なり、それらは、耐摩耗性であり、したがって、金属ビーズを添加する必要さえなしに(実施例2および7を参照)、ガラス−セラミッククックトップ上で使用され得る。
【0166】
実施例2と比較例1(単純なシリコーン樹脂)との比較、および実施例7と比較例2(シリコーンポリエステル樹脂)との比較は、ハイブリッドコーティング組成物にシランを添加すると、耐摩耗性が改善されることを実証している。
【0167】
実施例2および3(単純なシリコーン樹脂およびシラン)と実施例7および8(シリコーンポリエステル樹脂およびシラン)との比較は、すでにシランを含有するハイブリッドゾル−ゲルコーティング組成物に補強ビーズを添加すると、耐摩耗性がさらに改善されることを実証している。
【0168】
実施例2(単純なシリコーン樹脂)と実施例7(シリコーンポリエステル樹脂)との比較は、単純なシリコーン樹脂からシリコーンポリエステル樹脂に切り替えると、スクリーン印刷への好適性がさらに改善されることを実証している。
図1
図2
図3
図4
図5