特許第6581118号(P6581118)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581118
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】OCT透過性外科用器具および方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20190912BHJP
   A61B 17/28 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   A61F9/007 130Z
   A61F9/007 200C
   A61B17/28
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-571423(P2016-571423)
(86)(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公表番号】特表2017-517326(P2017-517326A)
(43)【公表日】2017年6月29日
(86)【国際出願番号】EP2015062867
(87)【国際公開番号】WO2015189227
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2018年6月8日
(31)【優先権主張番号】62/012,073
(32)【優先日】2014年6月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100130133
【弁理士】
【氏名又は名称】曽根 太樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180194
【弁理士】
【氏名又は名称】利根 勇基
(72)【発明者】
【氏名】レト グリェーブラー
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ シャラー
【審査官】 石田 智樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0296694(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0135820(US,A1)
【文献】 特表2005−525893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61B 17/28
A61B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科器具であって、
内腔を備えるシャフトと、
前記内腔から延在する第1アームであって、第1平坦チップを有する第1先端部分を有する第1アームと、
前記内腔から延在する第2アームであって、第2平坦チップを有する第2先端部分を有し、前記第2平坦チップが、前記第1アームが前記第2アームの方向に押されるときに前記第1平坦チップと接触するように位置決めされている、第2アームと、
を備え、
前記第1アームおよび前記第2アームが、700〜1200ナノメートル(nm)の範囲内の波長を有する電磁放射線に対して透明であり、かつ400〜700nmの範囲内の波長を有する電磁放射線に対して不透明である第1材料を少なくとも部分的に含
前記第1アームの第1先端部分及び前記第2アームの第2先端部分は、前記第1材料を含み、
前記第1アーム及び前記第2アームは、各々、700〜1200ナノメートル(nm)の範囲内の波長を有する電磁放射線に対して不透明な第2材料から形成された基端部分を備え、
前記第1アーム及び前記第2アームは、各々、前記第1アームの先端部にかつ前記第2アームの先端部に配置されたマーカ特徴を備え、
前記マーカ特徴は、前記眼科器具の光コヒーレンストモグラフィ(OCT)画像に前記第1平坦チップ及び前記第2平坦チップの各輪郭が現れるように、700〜1200nmの範囲内の波長を有する電磁放射線に対して部分的に反射性であり、
前記マーカ特徴が、外科処置中に眼内に導入される材料の屈折率とは異なる屈折率を有する材料を含む、眼科器具。
【請求項2】
前記第1平坦チップが、前記第2アームに向かって角度が付けられ、前記第2平坦チップが、前記第1アームに向かって角度が付けられている、請求項1に記載の眼科器具。
【請求項3】
前記第2材料が金属材料を含む、請求項1に記載の眼科器具。
【請求項4】
前記マーカ特徴が、前記第1アームおよび前記第2アームの先端部に形成されたスポットを含む、請求項1に記載の眼科器具。
【請求項5】
前記第1材料がポリカーボネート材料を含む、請求項1に記載の眼科器具。
【請求項6】
医療器具であって、
シャフトと、
前記シャフトから延在しかつ先端チップを有するアームであって、700〜1200ナノメートル(nm)の範囲内の波長を有する電磁放射線に対して透明であり、かつ400〜700nmの範囲内の波長を有する電磁放射線に対して不透明である材料を少なくとも部分的に含む、アームと、
前記アームの前記先端チップに形成されたマーカ特徴であって、前記医療器具の光コヒーレンストモグラフィ(OCT)画像に前記先端チップの輪郭が現れるように、700〜1200nmの範囲内の波長を有する電磁放射線に対して部分的に反射性であるマーカ特徴と、
を備え、
前記アームは、金属材料から形成された基端部分と、700〜1200nmの範囲内の波長を有する電磁放射線に対して透明な材料から形成された先端部分とを備え、
前記マーカ特徴が、外科処置中に眼内に導入される材料の屈折率とは異なる屈折率を有する材料を含む、医療器具。
【請求項7】
前記マーカ特徴が、二酸化ケイ素(SiO2)または二酸化チタン(TiO2)を含む、請求項6に記載の医療器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科医療処置用の装置および方法に関し、より詳細には、こうした処置のための外科用器具を必要とする装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのマイクロ手術処置では、さまざまな身体組織の精密な切断および/または除去が必要である。たとえば、内境界膜(ILM)除去および網膜上膜(ERM)除去は、種々の黄斑表面疾患の有用な外科的治療である。しかしながら、ILMおよびERM剥離に対する外科的技法は、技能および忍耐が必要である。外科的技法の各部分に対して、精密かつ注意深く構成された外科用器具が使用される。
【0003】
外科治療は、膜の縁を把持することと、膜を剥離することとを含む。外科的技法は、2段階手順である。第1に、外科医は、膜の縁を確保しなければならない。外科医によっては、縁を確保するためにスクレイパーを使用する。次に、外科医は、特別な鉗子を導入して、膜を把持して剥離する。しかしながら、各ステップに忍耐および精度が必要であるため、外科医は、時に、1回の外科処置の間に複数回、擦過した後、組織を把持しようと試みる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした外科処置で外科医を補助するために、外科医は、患者の眼の顕微鏡像を提示する撮像システムを使用する場合がある。したがって、外科医に対して、関心のある眼の領域とともに、鉗子または他の器具の拡大図を提供することができる。場合によっては、外科医に対して、関心のある眼の領域の光コヒーレンストモグラフィ(光干渉断層撮影)(OCT)画像を提供することも可能である。OCT撮像は、一般に、近赤外光を利用し、表面の下の組織の画像を得ることができる。さまざまな眼科処置に対する外科手術システムおよび器具の使用および操作性に対して引き続き改善する必要がある。本明細書で考察するシステムおよび方法は、従来技術における欠点のうちの1つまたは複数を対処するように構成される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、概して、眼から流体を除去する装置および方法に関しかつそれを包含し、より詳細には、眼から流体を除去する眼科手術システムおよびそのシステムを使用する方法に関しかつそれを包含する。
【0006】
一例によれば、眼科器具は、内腔を備えるシャフトを含む。器具はまた、内腔から延在する第1アームも含み、第1アームは、第1平坦チップを有する第1先端部分を有する。器具はまた、内腔から延在する第2アームも含み、第2アームは、第2平坦チップを有する第2先端部分を有し、第2平坦チップは、第1アームが第2アームの方向に押されるときに第1平坦チップと接触するように位置決めされている。第1アームおよび第2アームは、約700〜1200ナノメートル(nm)の範囲内の波長を有する電磁放射線に対して実質的に透明であり、かつ約400〜700nmの範囲内の波長を有する電磁放射線に対して実質的に不透明である第1材料を少なくとも部分的に含む。
【0007】
眼科手術システムは、患者の眼の顕微鏡画像、および患者の眼の断面光コヒーレンストモグラフィ(OCT)画像の両方を表示する画像観察システムを含む。システムはまた、シャフトと、シャフトから延在する少なくとも1つのアームとを備える医療器具も含み、アームは、器具が患者の眼の顕微鏡像に現れ、断面OCT像を遮らないように、OCT撮像に対して実質的に透明でありかつ可視光に対して実質的に不透明である第1材料を少なくとも部分的に含む。
【0008】
医療機器は、シャフトと、シャフトから延在しかつ先端チップを有するアームとを含む。アームは、約700〜1200ナノメートル(nm)の範囲内の波長を有する電磁放射線に対して実質的に透明であり、かつ約400〜700nmの範囲内の波長を有する電磁放射線に対して実質的に不透明である材料を少なくとも部分的に含む。器具はまた、アームのチップに形成されたマーカ特徴も含む。マーカ特徴は、器具の光コヒーレンストモグラフィ(OCT)画像にチップの輪郭が現れるように、上記範囲内の電磁放射線に対して実質的に不透明である。
【0009】
方法は、撮像システムによって患者の眼を観察するステップを含み、撮像システムは、患者の眼の組織の断面のOCT画像が重ねられる患者の眼の顕微鏡画像を表示するように構成される。方法は、患者の眼の中に医療器具を挿入するステップをさらに含み、医療器具は、約700〜1200ナノメートルの範囲内の電磁放射線に対して実質的に透明な材料を少なくとも部分的に含み、それにより、その範囲内の電磁放射はOCT画像に対して遮られず、器具は顕微鏡像において可視である。
【0010】
上述した概略的な説明および以下の詳細な説明はともに、本質的に例示的かつ説明的であり、本開示の範囲を限定することなく本開示が理解されるように意図されていることが理解されるべきである。それに関して、本開示のさらなる態様、特徴および利点は、以下の詳細な説明から当業者には明らかとなろう。
【0011】
添付図面は、本明細書に開示する装置および方法の実施形態を例示し、説明とともに、本開示の原理を明白にする役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本明細書に記載する原理を組み込んだ一例による例示的な眼科手術システムを示す図である。
図2】本明細書に記載する原理を組み込んだ一例による外科処置中にOCT対応顕微鏡を通して見ることができるような患者の眼の例示的な画像を示す図である。
図3】本明細書に記載する原理を組み込んだ一例による例示的なOCT透過性外科用器具を示す図である。
図4】本明細書に記載する原理を組み込んだ一例によるOCT透過性先端部分を有する例示的な外科用器具を示す図である。
図5A】図案化したOCT画像内の従来の外科用器具と、OCT画像における組織の視覚化を制限する結果としての影とを示す図である。
図5B】本明細書に記載する原理を組み込んだ一例によるOCT画像内の外科用器具と、OCT画像における結果としての組織の影とを示す図である。
図6A】本明細書に記載する原理を組み込んだ一例による例示的なOCT透過性外科用器具を示す図である。
図6B】本明細書に記載する原理を組み込んだ一例による例示的なOCT透過性外科用器具を示す図である。
図6C】本明細書に記載する原理を組み込んだ一例による例示的なOCT透過性外科用器具を示す図である。
図6D】本明細書に記載する原理を組み込んだ一例による例示的なOCT透過性外科用器具を示す図である。
図6E】本明細書に記載する原理を組み込んだ一例による例示的なOCT透過性外科用器具を示す図である。
図7】本明細書に記載する原理を組み込んだ一例によるOCT透過性外科用器具を使用する例示的な方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の原理の理解を促進する目的で、ここで、図面に示す例示的な実施形態を参照し、具体的な専門語を用いてそれについて記載する。それにも関わらず、本開示の範囲のいかなる限定も意図されていないことが理解されよう。記載する装置、器具、方法、及び本開示の原理のさらなる任意の応用に対するいかなる改変およびさらなる変更も、本開示が関連する技術分野における当業者には通常想到するものとして十分に企図される。特に、1つの実施形態に関して記載される特徴、構成要素および/またはステップを、本開示の別の実施形態に関連して記載する特徴、構成要素および/またはステップと組み合わせることができることが十分に企図される。簡単のために、場合によっては、図面を通して同じ参照番号を用いて同じかまたは同様の部分を指す。
【0014】
本開示は、眼科手術処置および関連する方法で使用可能なOCT透過性外科用器具に関する。これらの処置では、外科医は、顕微鏡およびOCT撮像システムの両方を用いて、患者の眼等、手術部位を観察することができる。いくつかの実施形態では、顕微鏡はOCT互換性があり、顕微鏡により、外科医は、外科用器具を用いてILM除去等の眼科手術処置を行う間、従来の顕微鏡画像およびOCT画像の両方を観察することができる。従来の顕微鏡画像は、約400ナノメートル〜700ナノメートルの範囲の波長を有する可視スペクトル内の光を用いて観察される。OCT画像は、約700ナノメートル〜1200ナノメートルの範囲内の波長を有する近赤外範囲の光を用いて生成される。この範囲内の光を、OCTスペクトル内の光と呼ぶことにする。場合によっては、OCT画像は、眼の中の関心領域の断面図を提供することができ、外面組織の下の組織を識別するために使用することができる。従来の外科用器具は、可視光スペクトルおよびOCT光スペクトルの両方において可視である。このために、従来の外科用器具は、OCT撮像システムによって使用されるOCTスペクトル内の光を遮り、したがって、組織の表面の下の手術部位の全体像を遮る。
【0015】
本明細書に記載する眼科手術処置および関連する方法で使用可能なOCT透過性外科用器具は、可視スペクトル内で不透明でありかつOCTスペクトルでは透明である外科用器具に関する。したがって、眼科手術処置の間、外科医は、顕微鏡を通して器具を見ることができるが、同時に、OCT画像において器具は外科医に対して透明である。すなわち、器具は、OCT光を遮らない。したがって、外科医は、器具が適所にありかつ使用中であるときであっても、患者の眼の中の関心領域の実質的に歪んでいない断面OCT画像を観察することができる。
【0016】
図1は、例示的な眼科手術システム100を示す図である。本例によれば、システム100は、画像ビューワ104、顕微鏡撮像システム106およびOCT撮像システム108を含む。さらに、システムは、OCTスペクトル内では透明であるが可視スペクトル内では不透明である外科用器具112を含む。
【0017】
顕微鏡撮像システム106は、可視スペクトル内の光を用いて患者の眼の画像を得る。可視スペクトルは、ヒトの眼に可視である光の波長範囲を定義する。可視スペクトルは、一般に約400ナノメートル〜700ナノメートルの範囲内の波長を有する電磁放射線を含むが、この波長範囲は、異なる個人に対してわずかに変化する可能性がある。顕微鏡撮像システムは、レンズのシステムを用いて、患者の眼またはさらには患者の眼の中の所定の関心領域の拡大像を提供することができる。そして、こうした画像は、画像ビューワ104に提供することができる。
【0018】
OCT撮像システム108は、患者の眼のOCT画像を得る。それは、さまざまな技法を用いて、標準可視光の使用から得ることができない組織の表面の下の患者の組織の画像を得る。これは、OCTスペクトル内の光を用いて行われる。この範囲は、約700ナノメートル〜1200ナノメートルの波長を有する電磁放射線を含む。OCT撮像システム108を用いて、外科医が手術している関心領域の断面図を得ることができる。したがって、外科医は、外科用器具とILMの表面との間の相互作用がILMの表面の下の組織にいかに影響を与えるかを見ることができる。特に、外科医は、下にある網膜に対する偶発的な損傷を回避するのに役立つように、断面画像を用いることができる。いくつかの例では、OCT撮像システム108は、従来の顕微鏡撮像システム106と統合される。しかしながら、いくつかの例では、OCT撮像システム108は、画像ビューワ104にOCT画像を提供する別個の装置であり得る。
【0019】
画像ビューワ104は、外科医102または他のオペレータに対して、顕微鏡撮像システム106およびOCT撮像システム108の両方によって得られる画像を表示する。画像ビューワ104は、モニタ、表示画面、顕微鏡アイピースに、または他の方法等、種々の方法で画像を表示することができる。一例では、顕微鏡撮像システム106は、少なくとも2つの画像から形成された立体画像を提供することができる。画像ビューワは、外科医102の異なる眼に対して少なくとも2つの画像を表示することができ、したがって、3次元効果を生成する。
【0020】
図2は、画像ビューワ104によって提示されるかまたは表示されるような患者の眼の例示的な結合された顕微鏡およびOCT像200を示す図である。本例によれば、画像ビューワ104(図1)は、顕微鏡画像202の上にOCT画像210を重ねる。したがって、外科医は、関心領域206内で手術するために使用されている外科用器具204とともに、あり得る関心領域206を観察することができる。図2の点線208は、断面OCT画像210が取得される断面線を表す。したがって、図示するように、画像ビューワ104は、外科医が両画像202、210を視覚的に同時に観察するのを可能にするように、顕微鏡画像202の上にOCT画像210を投影する。
【0021】
図3は、鉗子300としての例示的なOCT透過性外科用器具を示す図である。鉗子として示し記載するが、後の考察および添付図面から明らかとなるように、他の外科用器具を使用することができる。本例によれば、図3における鉗子300は、内腔304が延在しているシャフト302を含む。
【0022】
内腔304から第1アーム306−1および第2アーム306−2が延在している。第1アーム306−1は、内側に面する第1平坦チップ308−1を有する先端部310−1を含む。第1平坦チップ308−1は、第2アーム306−2に面している。第2アーム306−2は、内側に面する第2平坦チップ308−2を有する先端部310−2を含む。第2平坦チップ308−2は、第1アーム306−1に面している。したがって、2つのアーム306−1、306−2が互いに向かって押されると、2つの平坦チップ308−1、308−2は合わせて押し進み、互いに接触する。したがって、ILM除去およびERM除去を含む多くの外科処置において、鉗子300は有用であり得る。いくつかの実施形態では、第1平坦チップ308−1に対して、第2平坦チップ308−2に向かって角度を付けることができる。同様に、第2平坦チップ308−2に対して、第1平坦チップ308−1に向かって角度を付けることができる。
【0023】
図3に示す例示的な実施形態では、鉗子は、開放状態に付勢されている。シャフト302をアーム306−1、306−2に対して軸方向に移動させることにより、組織または他の要素を把持するように鉗子を閉鎖することができる。シャフト302がアーム306−1、306−2の先端部に向かって移動すると、シャフト302の前縁は、2つのアーム306−1、306−2を互いに向かって押す。具体的には、シャフト302は、アーム306−1、306−2を覆うように移動する際にアームを合わせて押圧するスリーブとして作用することができる。アーム306−1、306−2は、シャフト302からさらに伸びる際、自動的に広がるように付勢され得る。
【0024】
鉗子300は、約700ナノメートル〜1200ナノメートルの範囲内の波長を有する電磁放射線に対して実質的に透明であり、かつ約400ナノメートル〜700ナノメートルの範囲内の波長を有する可視スペクトルの光に対して実質的に不透明でもある材料から作製される。一例では、こうした材料は、ポリカーボネート材料であり得る。OCTスペクトル内の光に対して透明でありかつ可視スペクトル内の光に対して不透明であるポリカーボネート材料のいくつかの例としては、Bayer AG製のMakrolon(登録商標)およびApec(登録商標)、Styron製のCalibre(商標)およびSabic製のLexan(登録商標)が挙げられる。OCTスペクトル内の電磁放射線に対して透明でありかつ可視スペクトル内の光に対して不透明である他の材料が同様に企図される。上述したように、こうした材料の使用により、外科用器具は、顕微鏡像内で可視であるが、OCT撮像に対して透明であり得る。
【0025】
シャフト302およびアーム306がOCT透過性材料から形成されているように示されているが、いくつかの実施形態では、外科用器具全体がOCT透過性材料から形成されるとは限らない。たとえば、いくつかの実施形態は、金属材料等、非OCT透過性材料から形成されたシャフト302を含み、アーム306は、OCT透過性材料から形成される。他の構成も企図される。
【0026】
図4は、OCT透過性先端部分を有する例示的な外科用器具400を示す図である。本例によれば、外科用器具400は、代替的な鉗子であり、第1アーム408−1および第2アーム408−2を含む。第1アーム408−1は、基端部分404−1および先端部分402−1を含む。同様に、第2アーム408−2は、基端部分404−2および先端部分402−2を含む。この例示的な実施形態では、先端部分402−1、402−2は、内側に向いた部分406−1、406−2をそれぞれ含む。
【0027】
本例によれば、基端部分404−1、404−2は、可視スペクトルおよびOCTスペクトル両方内の光に対して不透明である材料から作製される。たとえば、基端部分404−1、404−2は、金属材料から作製することができる。可視スペクトルおよびOCTスペクトル両方において不透明な他の材料が同様に企図される。先端部分402−1、402−2は、OCTスペクトル内で透明な材料から作製される。このため、外科医は、OCT画像において器具本体を見ることができるが、関心領域における組織と係合する器具の部分は、OCT画像に対して透明である。したがって、外科医は、OCT画像において器具チップの遮蔽効果なしに組織を見ることができる。こうしたOCT互換性材料としては、上述したようにポリカーボネート材料を挙げることができる。
【0028】
図5Aおよび図5Bは、比較のためにOCT画像内の外科用器具を示す図である。図5Aは、器具504が、OCT撮像スペクトル内の光に対して透明である材料から作製されていない、OCT画像500を示す。すなわち、器具504は、たとえば金属材料等、従来の材料から作製されている。OCT撮像システム108(図1)から放出されるOCTスペクトル内の光506は、器具504によって遮られるため、器具504の下の組織502は、OCT画像において適切に撮像されない。光506が遮られることにより、OCT画像に、器具504の下の組織502内に遮蔽領域508があることになる。
【0029】
図5Bは、対照的に、OCTスペクトル内の光に対して透明な器具505によるOCT画像520を示す。したがって、OCT撮像システム108(図1)からの光506は、器具505を通って組織内に進むことができる。そして、OCT撮像システム108は、組織表面の真下の組織502の画像を構成するために使用可能な反射光を得ることができる。
【0030】
外科用器具チップ503のいくつかの実施形態は、OCTスペクトル内の光を部分的に反射するさまざまなマーカまたは特徴510を含み、したがって、いかなる遮蔽ももたらすことなく、チップ503がOCTスペクトル内に現れる。たとえば、器具のチップ503は、OCTスペクトル内の光を部分的に反射するさまざまなスポットまたは格子を含むことができる。特徴510のいくつかの実施形態は、水の屈折率とは異なる屈折率を有する材料によるコーティングも含む。さらに他の場合では、マーカ510は、外科処置中に眼内に導入される材料とは異なる屈折率を有する材料から形成されるかまたはそうした材料を含むことができる。こうした材料の例としては、限定されないが、構造化または凹凸化を含むプラスチックコーティング、二酸化ケイ素(SiO2)、二酸化チタン(TiO2)、または屈折率の異なる他の透明材料を挙げることができる。OCT画像において、こうした特徴510は、器具チップ510の輪郭として現れる。外科医が、いかなる遮蔽も最小限にするかまたは実質的になくす一方で、処置中に器具チップ510が基準としてOCT画像内で可視である場所が分かることが有用である場合がある。
【0031】
図6A図6Eは、例示的なOCT透過性外科用器具を示す図である。図6Aは、例示的な擦過外科用器具600を示す図である。本例によれば、擦過外科用器具600は、シャフト604と、シャフト604から延在するワイヤ606を含む先端部分602とを含む。シャフト604は、金属または標準プラスチック材料等の不透明材料から作製される。ワイヤ606は、OCT透過性材料から作製される。
【0032】
図6Bは、例示的なヘラ型外科用器具610を示す図である。本例によれば、ヘラ型外科用器具610は、基端部分614および先端部分612を含む。先端部分612は、基端部分614に対して角度が付けられたヘラ型特徴616を含む。基端部分614は、金属または標準プラスチック材料等の不透明材料から作製される。先端部分612は、OCT透過性材料から作製される。
【0033】
図6Cは、例示的なピック外科用器具620を示す図である。本例によれば、ピック外科用器具620は、基端部分624および先端部分622を含む。先端部分622は、基端部分624に対して角度が付けられたピック特徴626を含む。基端部分624は、金属または標準プラスチック材料等の不透明材料から作製される。先端部分622は、OCT透過性材料から作製される。
【0034】
図6Dは、例示的なソフトチップ外科用器具630を示す図である。本例によれば、ソフトチップ外科用器具630は、基端部分634および先端部分632を含む。先端部分632は、中空ソフトチップ特徴636を含む。基端部分634は、金属または標準プラスチック材料等の不透明材料から作製される。先端部分632は、OCT透過性材料から作製される。
【0035】
図6Eは、例示的な吸引器外科表器具640を示す図である。本例によれば、吸引器外科用器具640は、基端部分644および先端部分642を含む。先端部分642は、端部に開口部646を有する中空チューブを含む。先端部分642の中空内部は、開口部646を通して外科用器具640の基端部から出るように流体を吸引することができるように、基端部分644を通して延在することができる。基端部分644は、金属または標準プラスチック材料等の不透明材料から作製される。先端部分642は、OCT透過性材料から作製される。
【0036】
図7は、OCT透過性外科用器具を使用する例示的な方法700を示すフローチャートである。本例によれば、ステップ702において、方法700は、眼科手術システム100等の外科手術システムを用いて患者の眼を観察するステップを含む。上述したように、患者の眼を観察するステップは、可視スペクトルからの光およびOCTスペクトルからの光によって取得された1つまたは複数の画像を見ることを含むことができる。上記スペクトルからの光によって取得されたこうした画像は、立体視顕微鏡を含む顕微鏡を通すことができる。さらに、OCTスペクトルからの光によって取得される画像は、眼内の関心領域の断面OCT画像を見ることを含むことができる。
【0037】
ステップ704において、方法は、患者の眼の中にOCT透過性器具を挿入するステップを含む。一例では、OCT透過性器具は、ILM除去を行うために使用される鉗子等の器具である。他の例では、本明細書に開示するかまたはOCT透過性であるように他の方法で構成される他の器具のうちの任意のものを、患者の眼に挿入することができる。上述したように、OCT透過性器具は、顕微鏡画像等、可視スペクトルからの光によって取得される画像に現れるように、可視スペクトル内の光に対して不透明であり得る。しかしながら、器具はOCT透過性であるため、OCTスペクトル内の光を遮らない。したがって、器具が直接関心領域の真上にある場合であっても、関心領域のOCT画像を依然として得ることができる。
【0038】
当業者は、本開示によって包含される実施形態が、上述した特定の例示的な実施形態に限定されないことを理解するであろう。それに関して、例示的な実施形態について示し記載したが、上述した開示において広範囲の変更、変形および置換が企図される。上述したことに対して、本開示の範囲から逸脱することなくこうした変形を行うことができることが理解される。したがって、添付の特許請求の範囲は、広義にかつ本開示と一貫するように解釈されるべきであることが適切である。
本明細書に開示される発明は以下の態様を含む。
〔態様1〕
内腔を備えるシャフトと、
前記内腔から延在する第1アームであって、第1平坦チップを有する第1先端部分を有する第1アームと、
前記内腔から延在する第2アームであって、第2平坦チップを有する第2先端部分を有し、前記第2平坦チップが、前記第1アームが前記第2アームの方向に押されるときに前記第1平坦チップと接触するように位置決めされている、第2アームと、
を備え、
前記第1アームおよび前記第2アームが、約700〜1200ナノメートル(nm)の範囲内の波長を有する電磁放射線に対して実質的に透明であり、かつ約400〜700nmの範囲内の波長を有する電磁放射線に対して実質的に不透明である第1材料を少なくとも部分的に含む、眼科器具。
〔態様2〕
前記第1平坦チップが、前記第2アームに向かって角度が付けられ、前記第2平坦チップが、前記第1アームに向かって角度が付けられている、態様1に記載の器具。
〔態様3〕
前記内腔から延在する前記第1アーム全体および前記第2アーム全体が、約700〜1200nmの範囲内の波長を有する電磁放射線に対して透明な前記第1材料を含む、態様1に記載の器具。
〔態様4〕
前記第1アームの前記第1先端部分および前記第2アームの前記第2先端部分が、約700〜1200nmの範囲内の波長を有する電磁放射線に対して透明な前記第1材料を含む、態様1に記載の器具。
〔態様5〕
前記第1アームおよび前記第2アームが、各々、電磁放射線に対して不透明な第2材料から形成された基端部分を備える、態様4に記載の器具。
〔態様6〕
電磁放射線に対して不透明な前記第2材料が金属材料を含む、態様5に記載の器具。
〔態様7〕
前記第1アームの先端部にかつ前記第2アームの先端部に配置されたマーカ特徴をさらに備え、前記マーカ特徴が、約700〜1200nmの範囲内の電磁放射線に対して部分的に反射性である、態様1に記載の器具。
〔態様8〕
前記マーカ特徴が、水の屈折率とは異なる屈折率を有する材料を含む、態様1に記載の器具。
〔態様9〕
前記マーカ特徴が、外科処置中に眼内に導入される材料の屈折率とは異なる屈折率を有する材料を含む、態様1に記載の器具。
〔態様10〕
前記マーカ特徴が、前記第1アームおよび前記第2アームの先端部に形成されたスポットを含む、態様1に記載の器具。
〔態様11〕
前記第1材料がポリカーボネート材料を含む、態様1に記載の器具。
〔態様12〕
患者の眼の顕微鏡画像、および
前記患者の眼の断面光コヒーレンストモグラフィ(OCT)画像
の両方を表示する画像観察システムと、
シャフトと、前記シャフトから延在する少なくとも1つのアームとを備える医療器具であって、前記アームが、前記器具が前記患者の眼の顕微鏡像に現れ、断面OCT像を遮らないように、OCT撮像に対して実質的に透明でありかつ可視光に対して実質的に不透明である第1材料を少なくとも部分的に含む、医療器具と、
を備える眼科手術システム。
〔態様13〕
前記アームが先端部分および基端部分を備え、前記先端部分が、OCT撮像に対して透明な前記第1材料を含み、前記基端部分が、OCT撮像に対して不透明な第2材料を含む、態様12に記載のシステム。
〔態様14〕
前記医療器具が、マーカ特徴を有するチップを備え、前記マーカ特徴が、前記断面OCT画像に前記チップの輪郭が現れるように前記OCT画像において可視である、態様12に記載のシステム。
〔態様15〕
前記マーカ特徴が、水の屈折率とは異なる屈折率を有する材料を含む、態様14に記載のシステム。
〔態様16〕
前記マーカ特徴が、外科処置中に眼内に導入される材料の屈折率とは異なる屈折率を有する材料を含む、態様14に記載のシステム。
〔態様17〕
シャフトと、
前記シャフトから延在しかつ先端チップを有するアームであって、約700〜1200ナノメートル(nm)の範囲内の波長を有する電磁放射線に対して実質的に透明であり、かつ約400〜700nmの範囲内の波長を有する電磁放射線に対して実質的に不透明である材料を少なくとも部分的に含む、アームと、
前記アームの前記チップに形成されたマーカ特徴であって、前記器具の光コヒーレンストモグラフィ(OCT)画像に前記チップの輪郭が現れるように、前記範囲内の電磁放射線に対して部分的に反射性であるマーカ特徴と、
を備える医療器具。
〔態様18〕
前記アームが、金属材料から形成された基端部分を備え、約700〜1200nmの範囲内の波長を有する電磁放射線に対して透明な前記材料から形成された先端部分を備える、態様17に記載の器具。
〔態様19〕
前記マーカ特徴が、水の屈折率とは異なる屈折率を有する材料を含む、態様17に記載の器具。
〔態様20〕
前記マーカ特徴が、外科処置中に眼内に導入される材料の屈折率とは異なる屈折率を有する材料を含む、態様17に記載の器具。
〔態様21〕
撮像システムによって患者の眼を観察するステップであって、前記撮像システムが、患者の眼の組織の断面のOCT画像が重ねられる前記患者の眼の顕微鏡画像を表示するように構成される、ステップと、
前記患者の眼の中に医療器具を挿入するステップであって、前記医療器具が、約700〜1200ナノメートルの範囲内の電磁放射線に対して実質的に透明な材料を少なくとも部分的に含むアームを含み、それにより、前記範囲内の電磁放射が前記OCT画像に対して遮られず、前記器具が前記顕微鏡像において可視である、ステップと、
を含む方法。
〔態様22〕
前記器具が、前記範囲内の電磁放射線に対して透明な前記材料を含むアームを有する鉗子を備える、態様21に記載の方法。
〔態様23〕
前記医療器具が、鉗子、スクレイパー外科用器具、ヘラ型外科用器具、ピック外科用器具、ソフトチップ外科用器具または吸引器外科用器具のうちの1つを含む、態様21に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7