(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
たとえばポンプに用いられるメカニカルシール装置としては、下記の特許文献1に示す装置が知られている。このメカニカルシール装置では、ポンプのハウジングの内周側にカップガスケットを介して静止密封環が設けられている。静止密封環の静止摺動面には、回転密封環の回転摺動面が摺動するようになっている。
【0003】
従来のメカニカルシール装置では、静止密封環の外周面にカップガスケットが焼き付け処理(加硫処理)により接合されている。焼き付け処理によりゴム製のカップガスケットと、金属やセラミックなどで構成してある静止密封環とが一体化され、ハンドリング性が向上する。
【0004】
しかしながら、従来では、静止密封環がカップガスケットの加硫時の金型との接触・加硫圧力等の影響で、静止密封環にクラックが生じることがある。特に、セラミック製静止密封環の割れは発見が難しく、検査に工数が掛かる。この傾向は、メカニカルシール装置の大型化と共に顕著になってきている。
【0005】
そこで、静止密封環とカップガスケットとを焼き付け処理などによる接合を行わないことも考えられる。しかしながら、従来の構造において、静止密封環とカップガスケットとを焼き付け処理などによる接合を行わないと、被密封流体の圧力により、カップガスケットが静止密封環の外周面から外側にはみ出してしまうおそれがあった。
【0006】
また、従来のメカニカルシール装置では、静止密封環の背面(静止摺動面と軸方向反対側の面)が、ハウジングの段差面に直接に接触する構造であったため、それらの間に被密封流体の圧力が作用して、被密封流体中のスラリーなどが入り込み、異物が溜まり易い。
【0007】
静止密封環の背面とハウジングの段差面との間に異物が入り込むと、被密封流体の圧力が低下したときに、異物が、静止密封環の背面とハウジングの段差面との間で噛み込まれて静止密封環の静止摺動面が歪み、回転摺動面との間に隙間が生じ、そこから流体が漏れるおそれがある。また、静止密封環の背面とハウジングの段差面との間に異物が噛み込まれると、静止密封環の耐久性を悪化させてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、カップガスケットが静止密封環の外周面から外側にはみ出してしまうおそれが少なく、しかも、静止密封環の背面とハウジングの段差面との間に異物が噛み込まれにくいメカニカルシール装置、ダブルシール装置およびダブルメカニカルシール装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るメカニカルシール装置は、
ハウジングの内部で回転可能な回転軸の外周に当該回転軸と共に回転するように取り付けられる弾性シール部材と、
前記弾性シール部材の軸端に取り付けられ、前記弾性シール部材と共に回転する回転密封環と、
前記回転密封環と摺動する静止摺動面を持つ静止密封環と、
前記静止密封環と前記ハウジングとの間に保持されるカップガスケットと、
前記カップガスケットが前記ハウジングに対して軸方向に移動することを防止するワッシャと、を有するメカニカルシール装置であって、
前記カップガスケットは、
前記静止密封環の外周面と前記ハウジングの一部の内周面との間で圧縮されて保持されることが可能なガスケット本体と、
前記ガスケット本体と一体に成形されて径方向の内側に突出する内方凸部とを有し、
前記内方凸部は、前記静止密封環の前記静止摺動面と軸方向反対側に位置する背面と、前記ハウジングと、の間で軸方向に圧縮されて保持されることが可能になっていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るメカニカルシール装置では、カップガスケットのガスケット本体には、内方凸部が形成してある。内方凸部は、静止密封環の背面とハウジングの段差面との間に保持され、静止密封環の背面の少なくとも一部を覆うことになる。そのため、静止密封環の背面に作用する被密封流体の圧力に基づく力が従来に比較して小さくなり、静止密封環の背面とハウジングの段差面との距離を広げようとする力が小さくなる。また、ワッシャにより、カップガスケットがハウジングに対して軸方向に移動することを防止している。
【0012】
これらの複合作用として、本発明のメカニカルシール装置では、そのサイズが大きくなったとしても、カップガスケットが、被密封流体の圧力で静止密封環の外周面から外側に抜けるおそれが少なくなり、シール性が向上する。
【0013】
また、本発明のメカニカルシール装置では、前述したように、静止密封環の背面に作用する被密封流体の圧力に基づく力が従来に比較して小さくなり、静止密封環の背面とハウジングの段差面との距離を広げようとする力が小さくなる。そのため、静止密封環の背面とハウジングの段差面との間に、スラリー中の異物などが噛み込むおそれが少なくなる。その結果、静止密封環の静止摺動面が歪むことがなくなり、シール性が向上する。さらに、異物による静止密封環のダメージが少なくなり、静止密封環の耐久性が向上する。
【0014】
また、本発明のメカニカルシール装置では、そのサイズが大型化したとしても、カップガスケットが、被密封流体の圧力で静止密封環の外周面から外側に抜けるおそれが少なくなることから、静止密封環とカップガスケットとは、接合されておらず、単に圧接しているのみでよい。そのため、カップガスケットを静止密封環に焼き付け処理する必要がなくなり、静止密封環のクラックなどを有効に防止することができる。
【0015】
好ましくは、前記ガスケット本体および前記ワッシャの少なくとも一方には、相対回転を抑制する嵌合部が形成してある。ガスケット本体の相対回転を抑制することで、静止密封環が回転密封環と共に回転してしまうことを抑制することができる。
【0016】
前記ガスケット本体と前記ワッシャとの間には、円板状ケースが介在してあってもよい。円板状ケースとカップガスケットとは、焼き付け処理により一体化してあっても良い。円板状ケースは、金属などで構成され、セラミックなどとは異なり、クラックが生じ難い。なお、円板状ケースとワッシャとの間には、それらの回り止めとなる嵌合部を形成しても良い。
【0017】
前記ワッシャの半径方向の内方端部は、前記静止密封環の軸方向移動をも規制するように構成してあっても良い。たとえばワッシャの半径方向の内方端部が静止密封環に係止し、静止密封環が回転密封環に向けて軸方向移動することを制限するようにしても良い。このように構成することで、静止密封環の背面とハウジングの段差面との間の距離を略一定に保つことが可能になり、カップガスケットの内方凸部に作用する圧縮力も略一定になり、シール性が向上する。
【0018】
前記静止密封環の外周面には、外方凸部が形成してあっても良い。このように構成することで、カップガスケットは、静止密封環の外周面から、さらに抜けにくくなる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0021】
第1実施形態 図1に示すように、本発明の一実施形態に係るダブルメカニカルシール装置2は、第1メカニカルシール装置2aと、第2メカニカルシール装置2bとから成る。このダブルメカニカルシール装置2は、第1ハウジング4aおよび第2ハウジング4bの内部で回転可能な回転軸6の外周面と、各ハウジング4aおよび4bの内周面との間の隙間をシールする。
【0022】
第1ハウジング4aは、たとえばポンプのハウジングであり、その内部のポンプ室8a内には、たとえば被密封流体としての水が密封してある。また、第2ハウジング4bは、たとえばモータまたは発電機のハウジングであり、その内部の駆動室8b内には、たとえば空気が密封されている。第1ハウジング4aと第2ハウジング4bとの間で回転軸6の周囲には、オイル室10が設けられており、オイル室10の内部には、油が充填してある。
【0023】
第1メカニカルシール装置2aと第2メカニカルシール装置2bとは、基本的には同様な構成を有する。以下の説明では、特に言及しない限りは、同様な構成を有する。
【0024】
第1メカニカルシール装置2aは、第1弾性シール部材としての第1ベローズ12aと、第1ベローズ12aに取り付けられる第1回転密封環30aと、第1回転密封環30aに対して摺動する第1静止密封環40aと、第1静止密封環40aと第1ハウジング4aとの間に取り付けられる第1カップガスケット50aとを有する。
【0025】
同様に、第2メカニカルシール装置2bは、第2弾性シール部材としての第2ベローズ12bと、第2ベローズ12bに取り付けられる第2回転密封環30bと、第1回転密封環30bに対して摺動する第2静止密封環40bと、第2静止密封環40bと第2ハウジング4bとの間に取り付けられる第2カップガスケット50bとを有する。
【0026】
第1ベローズ12aと第2ベローズ12bとは、回転軸6の軸芯Cに沿って所定間隔で相互に反対方向を向くように回転軸6の外周面に取り付けられる。第1ベローズ12aと第2ベローズ12bとは、向きが異なる以外は、同様な構成を有する。以下、第1ベローズ12aを含む第1メカニカルシール装置2aについて説明し、第2ベローズ12bを含む第2メカニカルシール装置2bの説明は、一部省略する。
【0027】
第1ベローズ12aは、回転軸6の外周面に密着して取り付けられる円筒部14aと、第1ハウジング4aに近い円筒部14aの一端に一体に成形されるベロー部16aと、を有する。円筒部14aを回転軸6の外周面に密着させるために、円筒部14aの外周面には締付リング18aが配置してあり、円筒部14aを回転軸6の外周面に締め付けている。
【0028】
ベロー部16aは、回転軸6の軸芯Cの方向に沿って弾性変形可能であり、ベロー部16aの外周部には、第1回転密封環30aの背面が凹凸嵌合してある。
図3に示すように、ベロー部16aのリング状外周部と、第1回転密封環30aの外周部とは、第1取付金具20aのカシメ部22aにより一体化してある。なお、本実施形態においては、摺動面32a,42a,32b,42bに向かう側を前面(前方)と称し、それと反対側を向く面を背面(後方)とする。
【0029】
カシメ部22aの内周面には、周方向に沿って一箇所または二箇所以上の位置で、回り止め用内方凸部24aが形成してあり、この内方凸部24aが、第1回転密封環30aの外周面に形成してある嵌合用切り欠き34aに係合し、回り止めが成される。
【0030】
第1取付金具20aのカシメ部22aには、ベロー背面部26aが一体に成形してある。ベロー背面部26aは、ベロー部16aの背面(第1回転密封環30aとの接合面の反対側面)に接触してベロー部16aを保持する。また、ベロー背面部26aには、リング嵌合部28aが一体に成形してある。リング嵌合部28aは、締付リング18aに嵌合する。そのため、第1取付金具20aと第1ベローズ12aと第1回転密封環30aとは、一緒になって回転軸6と共に、その軸芯C回りに回転可能になっている。
【0031】
第1ベローズ12aは、たとえばゴムや合成樹脂、あるいはバネ材などの弾性変形が可能な材料で構成してある。締付リング18aおよび第1取付金具20aは、たとえば金属などで構成してある。第1回転密封環30aは、たとえばカーボン、SiC、セラミック、あるいは超硬合金などの金属などで構成される。
【0032】
本実施形態では、第1回転密封環30aの第1回転摺動面32aと、第2回転密封環30bの第2回転摺動面32bとは、その摺動面積が異なり、第1回転摺動面32aの摺動面積が、第2回動摺動面32bの摺動面積よりも大きく成っているが、これに限定されない。摺動面積を大きくすることで、ポンプ圧力と大気圧などのように、圧力差が大きい場合でもシール特性が向上する。
【0033】
第1回転密封環30aの第1回転摺動面32aに摺動する第1静止摺動面42aを持つ第1静止密封環40aは、第1カップガスケット50aにより保持してある。第1静止密封環40aと第2静止密封環40bとは、その断面形状は異なり、第1カップガスケット50aと第2カップガスケット50bとの断面形状も異なる。
【0034】
第1静止密封環40aは、第1回転密封環30aの第1回転摺動面32aと略同じ面積の第1静止摺動面42aを有する。第1静止密封環40aの内径は、回転軸6の外径よりも大きく、第1静止密封環40aと回転軸6との間には、隙間が生じている。この関係は、第1回転密封環30aと回転軸6との間でも同じである。
【0035】
第1静止密封環40aは、たとえば第1回転密封環30aと同様な材質で構成されるが、必ずしも同一の材質で構成される必要はなく、異なる材質で構成されても良い。
【0036】
第1静止密封環40aの第1静止摺動面42aに第1回転密封環30aの第1回転摺動面32aを密着させるために、また同時に、第2静止密封環40bの第2静止摺動面42bに第2回転密封環30bの第2回転摺動面32bを密着させるために、第1ベローズ12aと第2ベローズ12bとの間には、コイル状のスプリング70が配置される。
【0037】
スプリング70の軸方向の一端は、
図3に示すように、第1取付金具20aのベロー背面部26aに当接し、他の一端は、第2取付金具20bのベロー背面部(符号省略)に当接する。スプリング70のバネ力は、それぞれのベローズ12a,12bのベロー部16aを介して回転密封環30a,30bに伝わり、それぞれを、静止密封環40a,40bに向けて押圧する。
【0038】
第1静止密封環40aと第1ハウジング4aとの間には、第1カップガスケット50aが配置される。第1カップガスケット50aは、第1静止密封環40aの外周面と、第1ハウジング4aの外面近くに形成してある段差状内周面5aとの間で圧縮されて保持されることが可能な第1ガスケット本体52aを有する。第1ガスケット本体52aの軸方向の一端には、径方向の内側に突出する第1内方凸部54aが一体に成形されている。
【0039】
第1内方凸部54aは、第1静止密封環40aの第1静止摺動面42aと軸方向に反対側に位置する背面と、第1ハウジング4aの段差状内周面5aに連続して形成された段差面7aとの間で圧縮されて保持されることが可能になっている。
【0040】
内方凸部54aの内周面57の内径d1は、第1ベローズ12aにおける第1回転密封環30aとの内径側接合位置15aの内径d2と略同一であることが好ましい。第1ベローズ12aにおける第1回転密封環30aとの内径側接合位置15aには、ポンプ室8aの内部に密封された流体の圧力が作用する。このために、その圧力が、内方凸部54aの内周面57よりも内径側に位置する静止密封環40aの背面に作用する流体圧とバランスして、摺動面32a,42aの密着力が向上する。なお、内径d1,d2は、密封されている流体の圧力の大きさにより変化することもある。
【0041】
本実施形態では、ガスケット本体52aの半径方向厚みが、静止密封環40aの半径方向厚みと同程度である。また、内方凸部54aの軸方向厚みに比較して、ガスケット本体52aの半径方向厚みが、二倍以上に大きい。このように構成することで、ポンプ室8a内のポンプ圧力とオイル室10内の大気圧との差などのように、圧力差が大きい場合でもシール特性が向上する。
【0042】
図2に示すように、カップガスケット50aの外周面には、断面円弧状の外周凸部55が形成してあっても良い。この外周凸部55は、
図3に示すハウジング4aの段差状内周面5aに弾性変形して密着し、その部分の密封性を向上させる。
【0043】
図2に示すように、静止密封環40aの軸芯Cに沿う前方端面41の内周部には、軸方向凸部46が一体に形成してあり、その軸端に静止摺動面42aが形成してある。また、カップガスケット50aの軸芯Cに沿う前方端面51の外周部には、軸方向凸部56が一体に形成してある。
【0044】
カップガスケット50aの内周面に静止密封環40aが密着する。静止密封環40aの外周面は、カップガスケット50aのガスケット本体52aに密着し、静止密封環40aの背面の外周部は、カップガスケット50aの内方凸部54aに密着する。
【0045】
カップガスケット50aの材質は、特に限定されないが、弾力性に優れたゴム材料、あるいは合成樹脂などで構成される。カップガスケット50aは、静止密封環40aとは、焼き付け処理などによる一体化はされておらず、分離可能である。
【0046】
図2に示すように、カップガスケット50aの軸方向凸部56の周方向少なくとも一部には、切り欠き状の係合用凹部58が形成してある。図示する例では、係合用凹部58は、軸方向凸部56の周方向に沿って一箇所のみに形成してあるが、180度対称位置に二箇所に形成しても良いし、略等間隔または不等間隔で2箇所以上に形成しても良い。
【0047】
図3に示すように、係合用凹部58には、円板状のワッシャ60の内方端に形成してある係合用凸部62が係合し、カップガスケット50aの回り止めが成されている。ワッシャ60は、ボルト64などにより、ハウジング4aのオイル室側端面に着脱自在に固定してある。ワッシャ60の内方端部は、カップガスケット50aの軸方向凸部56の端面に密着してあり、カップガスケット50aがオイル室10側にはみ出すことを抑制している。
【0048】
本実施形態に係るダブルメカニカルシール装置2では、第1カップガスケット50aのガスケット本体52aには、内方凸部54aが形成してある。内方凸部54aは、静止密封環40aの背面とハウジング4aの段差面7aとの間に保持され、静止密封環40aの背面の少なくとも一部を覆うことになる。そのため、静止密封環40aの背面に作用する被密封流体の圧力に基づく力が従来に比較して小さくなり、静止密封環40aの背面とハウジング4aの段差面7aとの距離を広げようとする力が小さくなる。また、ワッシャ60により、カップガスケット50aがハウジング4aに対して軸方向に移動することを防止している。
【0049】
これらの複合作用として、本実施形態のダブルメカニカルシール装置2では、軸径のサイズが大きくなったとしても、カップガスケット50aが、被密封流体の圧力で静止密封環40aの外周面からオイル室10に向けて抜けるおそれが少なくなり、シール性が向上する。
【0050】
また、このダブルメカニカルシール装置2では、静止密封環40aの背面と段差面7aとの間に弾性部材であるカップガスケット50aが存在し、隙間を埋めている。そのため、静止密封環40aの背面とハウジング4aの段差面との間に、スラリー中の異物などが噛み込むおそれが少なくなる。その結果、静止密封環40aの静止摺動面42aが歪むことがなくなり、シール性が向上する。さらに、異物による静止密封環40aのダメージが少なくなり、静止密封環40aの耐久性が向上する。
【0051】
また、このダブルメカニカルシール装置2では、軸径のサイズが大型化したとしても、カップガスケット50aが、被密封流体の圧力で静止密封環40aの外周面からオイル室10に向けて外側に抜けるおそれが少なくなることから、静止密封環40aとカップガスケット50aとは、接合されておらず、単に圧接しているのみでよい。そのため、カップガスケット50aを静止密封環40aに焼き付け処理する必要がなくなり、静止密封環40aのクラックなどを有効に防止することができる。
【0052】
また本実施形態では、カップガスケット50aおよびワッシャ60には、相対回転を抑制する嵌合用凹部58と嵌合用凸部62とがそれぞれ形成してある。このため、カップガスケット50aの相対回転を抑制することが可能になり、静止密封環40aが回転密封環30aと共に回転してしまうことを抑制することができる。
【0053】
第2実施形態 図4に示すように、本発明の第2実施形態に係るダブルメカニカルシール装置2Aでは、第1メカニカルシール装置2a1の第1カップガスケット50a1とワッシャ60との間の構成が異なるのみであり、その他の構成は、第1実施形態と同様であり、共通する部材には共通する符号が付してある。また、以下に示す以外は、第1実施形態と同様な作用効果を奏する。以下の説明では、第1実施形態と異なる部分のみに関して説明を行い、共通する部分の説明は省略する。
【0054】
図4および
図5に示すように、カップガスケット50a1は、
図2に示すカップガスケット50aとは異なり、ガスケット本体52a1の前方端面51には、軸方向凸部56が形成されていない。その代わりに、その前方端面51には、円板状ケース80の外周側端面が、接着または焼き付け処理により一体化される。
尚、この接着または焼き付け処理は必須ではなく、用途により適宜適用される。
【0055】
円板状ケース80の内周側端部82は、静止密封環40aの前方端面41に接触するようになっている。円板状ケース80は、金属などで構成され、セラミックなどとは異なり、クラックが生じ難い。円板状ケース80の外径は、前方端面51の外径と略同一またはそれよりも小さくて良く、ケース80の内径は、軸方向凸部46が形成される位置よりも外径側に位置する前方端面41の内径と略同一またはそれよりも大きくて良い。
【0056】
ケース80の周方向少なくとも一部には、切り欠き状の係合用凹部58a1が形成してある。図示する例では、係合用凹部58a1は、ケース80の周方向に沿って一箇所のみに形成してあるが、180度対称位置に二箇所に形成しても良いし、略等間隔または不等間隔で2箇所以上に形成しても良い。
【0057】
図4に示すように、係合用凹部58a1には、円板状のワッシャ60の内方端に形成してある係合用凸部62が係合し、カップガスケット50a1の回り止めが成されている。
【0058】
本実施形態では、ケース80の内周側端部82が静止密封環40aの前方端面41に係止し、静止密封環40aが回転密封環30aに向けて軸方向移動することを制限するようにしてある。このように構成することで、静止密封環40aの背面とハウジング4aの段差面7aとの間の距離を略一定に保つことが可能になり、カップガスケット50a1の内方凸部54aに作用する圧縮力も略一定になり、シール性が向上する。
【0059】
なお、本実施形態では、ケース80の内周側端部82が静止密封環40aに係合しないように構成しても良い。その場合には、静止密封環40aとケース80とカップガスケット50a1との組立が容易になる。
尚、ここでワッシャ60とケース80とが別体で形成されているが、両者を一体のものとして形成しても良い。
【0060】
第3実施形態 図6に示すように、本発明の第3実施形態に係るダブルメカニカルシール装置2Bでは、第1メカニカルシール装置2a2の第1カップガスケット50a2とワッシャ60a2との間の構成が異なると共に、第1静止密封環40a2の軸方向長さが長くなったことが異なるのみであり、その他の構成は、第1実施形態と同様であり、共通する部材には共通する符号が付してある。また、以下に示す以外は、第1実施形態と同様な作用効果を奏する。以下の説明では、第1実施形態と異なる部分のみに関して説明を行い、共通する部分の説明は省略する。
【0061】
図6に示すように、カップガスケット50a2は、
図2に示すカップガスケット50aとは異なり、ガスケット本体52a2の前方端面51には、軸方向凸部56が形成されていない。カップガスケット50a2の前方端面51は、静止密封環40a2の前方端面41と面一になっている。そのように構成するために、ガスケット本体52a2の軸方向長さを第1実施形態のガスケット本体52aの長さよりも長くし、静止密封環40a2の軸方向長さを、第1実施形態の静止密封環40aよりも長く構成してある。
【0062】
また、本実施形態のワッシャ60a2は、その内方端部66の内径が第1実施形態のワッシャ60の内径よりも小さくなっており、その内方端部66が、静止密封環40a2の前方端面41に当接している。ワッシャ60a2の背面は、ガスケット本体52a2の前方端面51にも当接している。
【0063】
このように構成することで、静止密封環40a2が回転密封環30aに向けて軸方向移動することを制限することができる。そのため、静止密封環40aの背面とハウジング4aの段差面7aとの間の距離を略一定に保つことが可能になり、カップガスケット50a2の内方凸部54aに作用する圧縮力も略一定になり、シール性が向上する。
【0064】
また、ワッシャ60a2の背面は、ガスケット本体52a2の前方端面51の全面を覆うので、カップガスケット50a2がオイル室10の方向に向け出すことを、より有効に防止することができる。
【0065】
なお、本実施形態では、ワッシャ60a2の内方端部66が静止密封環40a2の前方端面41に回り止め係合するようになっていても良い。また、本実施形態では、ワッシャ60a2の内方端部66が静止密封環40a2に係合しないように構成しても良い。その場合には、静止密封環40aとカップガスケット50a2との組立が容易になる。
【0066】
第4実施形態 図7に示すように、本発明の第4実施形態に係るダブルメカニカルシール装置2Cでは、第1メカニカルシール装置2a3の第1カップガスケット50a3と第1静止密封環40a3との間の構成が異なるのみであり、その他の構成は、第1実施形態と同様であり、共通する部材には共通する符号が付してある。また、以下に示す以外は、第1実施形態と同様な作用効果を奏する。以下の説明では、第1実施形態と異なる部分のみに関して説明を行い、共通する部分の説明は省略する。
【0067】
図7および
図8に示すように、カップガスケット50a3は、
図2に示すカップガスケット50aとは異なり、ガスケット本体52a3と内方凸部54aとの交差部に対応する内周側角部に径方向の外側に凹んだ嵌合凹部53が形成してある。また、静止密封環40a3の背面側外周面には、嵌合凹部53に嵌合する外方凸部43が形成してある。このように構成することで、カップガスケット50a3は、静止密封環40a3の外周面から、さらに抜けにくくなる。
【0068】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0069】
たとえば、上述した実施形態では、第1メカニカルシール装置2aと第2メカニカルシール装置2bとから成るダブルメカニカルシール装置2に本発明を適用した実施形態であるが、本発明は、第1メカニカルシール装置のみから成るメカニカルシール装置にも適用することができる。また本発明では、第2メカニカルシール装置2bは、メカニカルシール装置以外のシール装置に置き換えても良い。
【0070】
また、本発明のメカニカルシール装置の構造は、軸径サイズが20〜50mmのメカニカルシール装置に適用することが好適であるが、特に限定されず、さらに大型または小型のメカニカルシール装置にも適用することができる。