(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
銀行等の金融機関は、企業に対する融資の実行に先立ち、当該企業の倒産リスクの定量把握や、企業の信用格付けを行っている。このような企業情報は、銀行等の金融機関は融資を実行するか否かを判断する際の参考とすることができる。
【0003】
近年、人工知能の産業への応用に伴い、上記倒産リスクを、企業が保有する財務データに基づき人工知能を活用して算出する試みがなされている。
【0004】
ところで、人工知能の基本モデルは、学習回数の増加に応じて「真の解」へ収束してくことを前提としているため、人工知能が「真の解」を見つけることは、確率的に非常に少なく、大抵の場合、「局所解」にとどまる。
【0005】
一方、パラメータの初期値により、行きつく局所解は異なるものの、アルゴリズムが大きく異なる場合、初期値の違いよりも、アルゴリズムの違いによる影響の方が大きい。
【0006】
ところで、人工知能を活用した倒産確率算出システムにおける、算出精度の向上のための技術として、特許文献1に記載されたものが開発されている(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような技術を利用することにより、企業信用力を適切に表現し、企業分析に適した監査性の高いスコアリングを実現できるという効果を奏する。
【0010】
ところで、上述の通り、人工知能の基本モデルが導き出す解は局所解であり、人工知能モデルの違いやアルゴリズムの違いによって、解にばらつきが生じる。そして、学習過程におけるパラメータの初期値の違いによる影響より、アルゴリズムの違いによる影響の方が大きい。
【0011】
そして、一つのアルゴリズムに対して複数のモデルを作成し、その平均をとることで、一つのアルゴリズムの中での初期値によるばらつきを減少させ、アルゴリズムの特性を一般化することができる。
【0012】
本発明は、このような考えに基づいてなされたものであり、算出精度を向上することができる倒産確率算出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、以下のような解決手段を提供する。
【0014】
第1の特徴に係る発明は、人工知能を用いて企業が倒産する確率を算出する倒産確率算出システムであって、一つのアルゴリズムに対して異なる初期値で学習された複数の人工知能モデルからなる人工知能グループの準備を、アルゴリズムの異なる複数の人工知能グループについて行う人工知能グループ準備部と、与えられた企業情報に基づきすべての人工知能モデルで倒産確率を算出する全モデル算出部と、人工知能グループごとに倒産確率の平均値を算出するグループ平均算出部と、人工知能グループごとに算出した倒産確率の平均値をさらにグループ間で加重平均することで最終的な倒産確率を算出する最終倒産確率算出部と、を備えた倒産確率算出システムを提供する。
【0015】
第1の特徴に係る発明によれば、同一のアルゴリズムに基づく人工知能グループごとに倒産確率の平均値を算出することで、学習のための初期値の違いによる計算結果のばらつきを抑え、般化性の高い倒産の判定を実施ことができる倒産確率算出システムを提供することが可能となる。そして、複数のアルゴリズムに基づいて算出された倒産確率の平均値をさらに加重平均して最終的な倒産確率を算出することにより、アルゴリズムの特性を状況に応じて調整・制御しながら活用することができ、より確度の高い倒産の判定を実施ことができる倒産確率算出システムを提供することが可能となる。
【0016】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、すべての人工知能モデルのうち、倒産判定となる閾値を超える倒産確率を算出した人工知能モデルの割合を算出する倒産ポイント算出部を備えた倒産確率算出システムを提供する。
【0017】
第2の特徴に係る発明によれば、すべての人工知能モデルのうち、倒産判定となる閾値を超える倒産確率を算出した人工知能モデルの割合を指標として導入することにより、単純平均による倒産確率だけでは把握することのできないばらつきを検出することができ、より信頼性の高いシステムを構築することができる。
【0018】
第3の特徴に係る発明は、第2の特徴に係る発明であって、企業の倒産を判定する倒産判定部をさらに備え、倒産判定部は、最終的な倒産確率と、閾値を超える倒産確率を算出した人工知能モデルの割合とから、倒産の判定を行うシステムを提供する。
【0019】
第3の特徴に係る発明によれば、最終的な倒産確率と、閾値を超える倒産確率を算出した人工知能モデルの割合とを組み合わせて倒産の判定を行うようにすることにより、人工知能モデル間の初期値によるばらつきや、人工知能モデルが用いるアルゴリズムによるばらつきを抑え、確度の高い倒産確率判定システムを構築することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、学習のための初期値の違いによる計算結果のばらつきを抑え、アルゴリズムの特性を状況に応じて調整・制御しながら活用し、確度の高い倒産の判定を実施ことができる倒産確率算出システムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【0023】
[倒産確率算出システム1の構成]
図1は、本実施形態における倒産確率算出システム1のハードウェア構成とソフトウェア機能を説明するためのブロック図である。
【0024】
倒産確率算出システム1は、データを制御する制御部100と、ユーザや他の機器と通信を行う通信部200と、データを記憶する記憶部300と、ユーザからの情報の入力を受け付ける入力部400と、制御部100で制御したデータや画像を出力する表示部500とを備える。
【0025】
制御部100は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備える。
【0026】
通信部200は、他の機器と通信可能にするためのデバイス、例えば、IEEE802.11に準拠したWi−Fi(Wireless Fidelity)対応デバイスを備える。
【0027】
制御部100は、所定のプログラムを読み込み、必要に応じて通信部200及び/又は記憶部300と協働することで、人工知能グループ準備モジュール111と、全モデル算出モジュール112と、グループ平均算出モジュール113と、最終倒産確率算出モジュール114と、倒産ポイント算出モジュール115と、倒産判定モジュール116とを実現する。
【0028】
記憶部300は、データやファイルを記憶する装置であって、ハードディスクや半導体メモリ、記録媒体、メモリカード等による、データのストレージ部を備える。
【0029】
入力部400の種類は、特に限定されない。入力部400として、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等が挙げられる。
【0030】
表示部500の種類は、特に限定されない。表示部500として、例えば、モニタ、タッチパネル等が挙げられる。
【0031】
[倒産確率算出システム1を用いた平均倒産確率の算出]
本実施形態における倒産確率算出システム1を使用して平均倒産確率を算出する手順について説明する。
図2は倒産確率算出システム1を用いた平均倒産確率算出の手順を示すフローチャートである。また、
図3は倒産確率算出システム1の概要を示す図である。
図1〜
図3を用いて、上述した各ハードウェアと、ソフトウェアモジュールが実行する処理について説明する。
【0032】
〔ステップS110:複数の人工知能グループを準備〕
最初に、倒産確率算出を実施するための事前準備として、制御部100は人工知能グループ準備モジュール111を実行し、複数の人工知能グループを準備する(ステップS110)。
図3に示すように、それぞれの人工知能グループは複数の人工知能モデルからなる。同一のグループ内における人工知能モデルは、同一のアルゴリズムに基づいて学習されているものの、異なる初期値によって学習されている。このような作業を複数の異なるアルゴリズムについて行うことにより、複数の人工知能モデルからなる人工知能グループを複数準備する。
【0033】
なお、このような複数の人工知能モデル及び人工知能グループは、予め図示しないデータベースに保管しておき、ステップS110においてデータベースから呼び出すことで利用することができる。
【0034】
〔ステップS120:すべての人工知能モデルが倒産確率を計算〕
次に、倒産確率の算出を実行する企業に関する企業情報がインプットデータとして入力されると、制御部100は全モデル算出モジュール112を実行し、すべての人工知能モデルに倒産確率を計算させる(ステップS120)。ここでいう企業情報とは、例えば、当該企業に関する売上高、直近二期の決算書、純資産など、企業の信頼性や倒産リスクを表す財務データや財務指標が含まれる。
【0035】
ここで、同一のグループに属する人工知能モデルは、同じアルゴリズムに基づいて学習がなされているものの、学習過程において与えられる初期値によって計算結果にばらつきが生じる。そのため、同一のグループに属する人工知能モデルであっても、ステップS120において算出される倒産確率の解にはばらつきが生じる。したがって、仮に100の人工知能モデルがあるとすると、ステップS120においては、100通りの倒産確率が算出されることになる。
【0036】
〔ステップS130:それぞれの人工知能グループで倒産確率を算術平均〕
ステップS120ですべての人工知能モデルで倒産確率が算出されると、次に、制御部100はグループ平均算出モジュール113を実行し、それぞれの人工知能グループにおける平均値を算出するべく、各人工知能グループ内で倒産確率を算術平均する(ステップS130)。このように、同一のアルゴリズムに基づいて形成されるグループ内で平均値を算出することで、アルゴリズムの中での初期値によるばらつきを減少させ、アルゴリズムの特性を一般化することができる。
【0037】
〔ステップS140:人工知能グループごとの平均値をさらに加重平均〕
最後に、制御部100は最終倒産確率算出モジュール114を実行し、人工知能グループごとに算出した倒産確率の平均値をさらにグループ間で加重平均することにより、最終的な平均倒産確率として出力する(ステップS140)。これにより、平均倒産確率の算出を終了する。
【0038】
このようにして算出された平均倒産確率は、それぞれのアルゴリズムに基づいて学習された人工知能モデルの初期値によるばらつきを減少させることができるため、学習過程の違いによる変動を抑え、倒産判定の指標となる精度の高い倒産確率を算出することができる。また、アルゴリズムの特性による影響を調整・制御しながら活用することができるため、より確度の高い倒産確率を算出することができる。
【0039】
[倒産確率算出システム1を用いた倒産ポイントの算出]
次に、本実施形態における倒産確率算出システム1を使用して、倒産を判定するもう一つの指標となる倒産ポイントを算出する手法について説明する。
【0040】
倒産ポイントを算出するにあたって、制御部100は倒産ポイント算出モジュール115を実行し、上記ステップS120において倒産確率を算出したすべての人工知能モデルのうち、倒産判定となる閾値(例えば50%)を超える倒産確率を算出した人工知能モデルの割合を算出する。
【0041】
すなわち、例えば、50%を超えると倒産と判定するといったように、倒産の有無の境界となる倒産確率をあらかじめ設定しておき、すべての人工知能モデルのうち、どの程度の割合の人工知能モデルがその閾値を超える倒産確率を算出したかを割り出し、この数値を倒産ポイントと定義する(倒産ポイントは0から100までのパーセンテージとして算出される)。
【0042】
このような数値を導入することにより、単純平均による倒産確率だけでは把握することのできないばらつきを検出することができ、より信頼性の高いシステムを構築することができる。
【0043】
[倒産確率算出システム1を用いた倒産の判定]
次に、本実施形態における倒産確率算出システム1を使用して、倒産の判定を実施する手法について説明する。倒産の判定は、制御部100の倒産判定モジュール116によって行われる。
【0044】
上記において、本実施形態における倒産確率算出システム1を使用して、平均倒産確率と倒産ポイントを算出する手法について説明した。ここでは、それら二つの指標を用いて対象とする企業が倒産するか否かについて判定する方法について説明する。
【0045】
企業の倒産を判定する指標の一つである平均倒産確率は、各人工知能グループで算出される倒産確率の平均値をさらにグループ間で加重平均することによって得られる。このような方法によると、各人工知能モデルにおける初期値によるばらつきをある程度低減することができるものの、各人工知能モデルのばらつきの度合までは正確に考慮することができない。
【0046】
すなわち、ある人工知能グループにおける倒産確率の平均値が50%近傍であったとしても、10%や90%等を算出した人工知能モデルの割合が多くばらつきが大きいのか、あるいは、40%や60%等を算出した人工知能モデルの割合が多くばらつきが少ないのかを把握することができない。また、極端に大きい、または小さい倒産確率が算出された場合、その値に平均値が大きく左右されてしまう。
【0047】
そこで、倒産ポイントを導入することにより、ばらつきの程度を考慮することが可能となる。上述の通り、倒産ポイントはすべての人工知能モデルのうち、倒産判定となる閾値を超える倒産確率を算出した人工知能モデルの割合として定義されるため、仮に、極端に大きい、または小さい倒産確率が算出されたとしても、それが倒産判定の閾値を超えるか超えないかのみカウントされ、倒産確率の値はカウントされない。したがって、極端に大きい、または小さい倒産確率の影響を受けることなく、いわば、複数の人工知能モデル間における多数決を取ることができる。
【0048】
具体的には、例えば、平均倒産確率50%以上、かつ、倒産ポイント28%以上の場合、倒産判定とする、というように二つの指標を用いて倒産判定を設定することができる。このように、平均倒産確率と倒産ポイントを組み合わせて倒産判定を行うようにすることにより、人工知能モデル間の初期値によるばらつきや、人工知能モデルが用いるアルゴリズムによるばらつきを抑え、確度の高い倒産確率判定システムを構築することができる。
【0049】
なお、上記においては、平均倒産確率と倒産ポイントのみによって倒産判定を行うよう設定したが、人工知能グループにおける倒産確率の平均値が閾値(例えば50%)以上のものが一つでもあれば、即、倒産判定を行うよう設定することもできる。
【0050】
すなわち、全グループの平均倒産確率が低かったとしても、あるグループにおける倒産確率の平均値が閾値を上回っていた場合、倒産判定とするよう設定する。このようにすることで、よりリスクの検知に優れたシステムとすることができる。
【0051】
以上のように構成することで、学習のための初期値の違いによる計算結果のばらつきを抑え、確度の高い倒産の判定を実施ことができる倒産確率算出システムを提供することができる。
【0052】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0053】
また、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換しても良い。
【0054】
また、上記の各構成、機能、処理部は、それらの一部又は全部を、ハードウェア(例えば、集積回路)で実現してもよい。また、上記の各構成、機能、処理部は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【解決手段】本発明の倒産確率算出システム1は、人工知能を利用して企業が倒産する確率を算出する倒産確率算出システムであって一つのアルゴリズムに対して複数の初期値で学習された複数の人工知能モデルからなる人工知能グループの準備を、アルゴリズムの異なる複数の人工知能グループについて行う人工知能グループ準備部と、与えられた企業情報に基づきすべての人工知能モデルで倒産確率を算出する全モデル算出部と、人工知能グループごとに倒産確率の平均値を算出するグループ平均算出部と、人工知能グループごとに算出した倒産確率の平均値をさらにグループ間で加重平均することで最終的な倒産確率を算出する最終倒産確率算出部と、を備える。