特許第6581303号(P6581303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6581303ポリイソブチレン−ポリウレタンを含むポリマー材料およびそれを含む医療デバイス並びに同ポリマー材料を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581303
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】ポリイソブチレン−ポリウレタンを含むポリマー材料およびそれを含む医療デバイス並びに同ポリマー材料を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/62 20060101AFI20190912BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20190912BHJP
   C08G 18/20 20060101ALI20190912BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   C08G18/62 004
   C08G18/10
   C08G18/20
   C08G18/65 011
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-518685(P2018-518685)
(86)(22)【出願日】2016年12月16日
(65)【公表番号】特表2018-530654(P2018-530654A)
(43)【公表日】2018年10月18日
(86)【国際出願番号】US2016067363
(87)【国際公開番号】WO2017106774
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2018年4月11日
(31)【優先権主張番号】62/268,732
(32)【優先日】2015年12月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505003528
【氏名又は名称】カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】デラニー、ジュニア ジョゼフ ティ.
(72)【発明者】
【氏名】グルン、ニラジ
(72)【発明者】
【氏名】ウィロビー、パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ウルフマン、デイビッド アール.
(72)【発明者】
【氏名】アデヌシ、アデグボラ オー.
(72)【発明者】
【氏名】アレム、アデニイ オー.
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第4939184(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/62
C08G 18/10
C08G 18/20
C08G 18/65
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料であって、
少なくとも1つのポリイソブチレンジオール残基を含むソフトセグメントと少なくとも1つのジイソシアネート残基を含むハードセグメントとを含むポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーと、
第三級アミン触媒と、
を含み、前記第三級アミン触媒が2,6−ジメチルピリジンを含むポリマー材料。
【請求項2】
前記ソフトセグメントは前記コポリマーの40重量%〜70重量%の量にて同コポリマー中に存在し、前記ハードセグメントは前記コポリマーの30重量%〜60重量%の量にて同コポリマー中に存在する、請求項1に記載のポリマー材料。
【請求項3】
前記ポリマー材料が有機金属触媒を含んでいない請求項1または請求項2に記載のポリマー材料。
【請求項4】
前記第三級アミン触媒が2,6−ジメチルピリジンのみからなる請求項13のいずれか一項に記載のポリマー材料。
【請求項5】
前記ジイソシアネート残基が4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネート残基を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマー材料。
【請求項6】
前記ハードセグメントが鎖延長剤残基をさらに含む請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリマー材料。
【請求項7】
前記鎖延長剤残基が1,4−ブタンジオール残基である、請求項に記載のポリマー材料。
【請求項8】
前記ソフトセグメントが、ポリエーテルジオール残基、ポリエステルジオール残基およびポリカーボネートジオール残基のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリマー材料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリマー材料を含む医療デバイス。
【請求項10】
ポリマー材料を製造する方法であって、前記方法は、
ソフトセグメント成分とハードセグメント成分との混合物を高温に加熱する工程であって、前記ソフトセグメント成分が少なくとも1つのポリイソブチレンジオールを含み、かつ前記ハードセグメント成分が少なくとも1つのジイソシアネートを含む、前記加熱する工程と、
前記混合物を高温にて維持しながら、第三級アミン触媒を同混合物に添加することによって、前記ソフトセグメント成分と前記ハードセグメント成分との加熱混合物を反応させる工程と、
み、
前記第三級アミン触媒が2,6−ジメチルピリジンを含む方法。
【請求項11】
前記ソフトセグメント成分が、ソフトセグメント成分とハードセグメント成分とを一緒にしたものの40重量%〜70重量%の量で前記混合物中に存在し、前記ハードセグメント成分が、ソフトセグメント成分とハードセグメント成分とを一緒にしたものの30重量%〜60重量%の量で前記混合物中に存在する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の方法であって、鎖延長剤を前記加熱混合物および前記第三級アミン触媒と反応させることをさらに含む方法。
【請求項13】
前記第三級アミン触媒が2,6−ジメチルピリジンのみからなる請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマー材料が有機金属触媒を含んでいない請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー材料に関する。より詳細には、本発明は、ポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマー、ポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーの製造方法、およびポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーを含有する医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー材料は医療デバイスの分野で広く使用されている。例えば、シリコーンゴム、ポリウレタン、およびフルオロポリマーなどのポリマー材料は、医療用リード線、ステント、カテーテルおよび他のデバイスのためのコーティングおよび/または絶縁材料として使用される。
【0003】
ブロックコポリマーは、複数の重合モノマーの交互に現れるセクションからなるポリマー材料である。ポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーは、多くの優れた物理的および機械的特性を有するポリマー材料である。医療デバイスの分野で特に望ましい特性の例としては、とりわけ、熱安定性、耐薬品性、生体適合性、およびガス不透過性が挙げられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
実施例1は、ポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーおよび第三級アミン触媒を含むポリマー材料である。ポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーは、少なくとも1つのポリイソブチレンジオール残基を含むソフトセグメントと、少なくとも1つのジイソシアネート残基を含むハードセグメントと、を含む。
【0005】
実施例2において、ソフトセグメントがコポリマー中に同コポリマーの約40重量%〜約70重量%の量にて存在し、ハードセグメントがコポリマー中に同コポリマーの約30重量%〜約60重量%の量にて存在する、実施例1のポリマー材料。
【0006】
実施例3において、ポリマー材料が有機金属触媒を含まない実施例1または2のいずれかのポリマー材料。
実施例4において、第三級アミン触媒が2,6−ジメチルピリジンを含む実施例1〜3のいずれかのポリマー材料。
【0007】
実施例5において、第三級アミン触媒が、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタントリメチルアミンジアミン、トリメチルアミン、1−シクロヘキシル−N,N−ジメチルメタンアミン、N,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、4−メチルモルホリン、および1−メチルイミダゾール、および1,3,5,7−テトラアザトリシクロ[3.3.1.1]デカンからなる群より選択される実施例1〜3のいずれかのポリマー材料。
【0008】
実施例6において、ジイソシアネート残基が4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネート残基を含む実施例1〜5のいずれかのポリマー材料。
実施例7において、ハードセグメントが鎖延長剤残基をさらに含む実施例1〜6のいずれかのポリマー材料。
【0009】
実施例8において、鎖延長剤残基が1,4−ブタンジオール残基である、実施例7のポリマー材料。
実施例9において、ソフトセグメントが、ポリエーテルジオール残基、ポリエステルジオール残基およびポリカーボネートジオール残基のうちの少なくとも1つをさらに含む、実施例1〜8のいずれかのポリマー材料。
【0010】
実施例10は、実施例1〜9のいずれかのポリマー材料を含む医療デバイスである。
実施例11は、ポリマー材料を作製する方法である。同方法は、ソフトセグメント成分とハードセグメント成分との混合物を高温(elevated temperature)に加熱する工程と、混合物を高温にて維持しながら、第三級アミン触媒を混合物に添加することによって、ソフトセグメント成分とハードセグメント成分との加熱混合物を反応させる工程と、を含む。ソフトセグメント成分は、少なくとも1つのポリイソブチレンジオールを含み、ハードセグメント成分は、少なくとも1つのジイソシアネートを含む。
【0011】
実施例12において、ソフトセグメント成分が、ソフトセグメント成分とハードセグメント成分とを一緒にしたものの約40重量%〜約70重量%の量で混合物中に存在し、ハードセグメント成分が、ソフトセグメント成分とハードセグメント成分とを一緒にしたものの約30重量%〜約60重量%の量で混合物中に存在する実施例11の方法。
【0012】
実施例13において、実施例11または12のいずれかの方法であって、鎖延長剤を加熱混合物および第三級アミン触媒と反応させることをさらに含む方法。
実施例14において、第三級アミン触媒が2,6−ジメチルピリジンを含む実施例11〜13のいずれかの方法。
【0013】
実施例15において、ポリマー材料が有機金属触媒を含まない実施例11〜14のいずれかの方法。
実施例16は、ポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーおよび第三級アミン触媒を含むポリマー材料である。ポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーは、少なくとも1つのポリイソブチレンジオール残基を含むソフトセグメントおよび少なくとも1つのジイソシアネート残基を含むハードセグメントを含む。ソフトセグメントは、コポリマーの約40重量%〜約70重量%の量で同コポリマー中に存在する。ハードセグメントはコポリマーの約30重量%〜約60重量%の量で同コポリマー中に存在する。ポリマー材料は、有機金属触媒を含まない。
【0014】
実施例17において、第三級アミン触媒が2,6−ジメチルピリジンを含む実施例16のポリマー材料。
実施例18において、第三級アミン触媒が、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタントリメチルアミンジアミン、トリメチルアミン、1−シクロヘキシル−N,N−ジメチルメタンアミン、N,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、4−メチルモルホリン、および1−メチルイミダゾール、および1,3,5,7−テトラアザトリシクロ[3.3.1.1]デカンからなる群より選択される実施例16のポリマー材料。
【0015】
実施例19において、ジイソシアネート残基が4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネート残基を含む実施例16〜18のいずれかのポリマー材料。
実施例20において、ハードセグメントが鎖延長剤残基をさらに含む実施例16〜19のいずれかのポリマー材料。
【0016】
実施例21において、鎖延長剤残基が1,4−ブタンジオール残基である実施例20のポリマー材料。
実施例22において、ソフトセグメントが少なくとも1つのポリエーテルジオール残基をさらに含む実施例16〜21のいずれかのポリマー材料。
【0017】
実施例23において、ポリエーテルジオール残基がポリテトラメチレンオキシドジオール残基を含む実施例22のポリマー材料。
実施例24は、ポリマー材料を含む医療デバイスである。ポリマー材料は、ポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーおよび第三級アミン触媒を含む。ポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーは、少なくとも1つのポリイソブチレンジオール残基を含むソフトセグメントおよび少なくとも1つのジイソシアネート残基を含むハードセグメントを含む。ソフトセグメントは、コポリマーの約40重量%〜約70重量%の量でコポリマー中に存在する。ハードセグメントはコポリマーの約30重量%〜約60重量%の量でコポリマー中に存在する。ポリマー材料は、有機金属触媒を含まない。
【0018】
実施例25において、第三級アミン触媒が2,6−ジメチルピリジンを含む実施例24の医療デバイス。
実施例26において、第三級アミン触媒が、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタントリメチルアミンジアミン、トリメチルアミン、1−シクロヘキシル−N,N−ジメチルメタンアミン、N,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、4−メチルモルホリン、および1−メチルイミダゾール、および1,3,5,7−テトラアザトリシクロ[3.3.1.1]デカンからなる群より選択される実施例24の医療デバイス。
【0019】
実施例27において、医療デバイスが埋め込み可能な電気リードである実施例24〜26のいずれかの医療デバイス。
実施例28において、医療デバイスがカテーテルである実施例24〜26のいずれかの医療デバイス。
【0020】
実施例29は、ポリマー材料を作製する方法である。同方法は、ソフトセグメント成分とハードセグメント成分との混合物を高温に加熱する工程と、混合物を高温に維持しながら第三級アミン触媒を混合物に添加することによってソフトセグメント成分とハードセグメント成分との加熱混合物を反応させる工程と、を含む。ソフトセグメント成分は、少なくとも1つのポリイソブチレンジオールを含み、ハードセグメント成分は、少なくとも1つのジイソシアネートを含む。ソフトセグメント成分が、ソフトセグメント成分とハードセグメント成分とを一緒にしたものの約40重量%〜約70重量%の量で混合物中に存在し、ハードセグメント成分が、ソフトセグメント成分とハードセグメント成分とを一緒にしたものの約30重量%〜約60重量%の量で混合物中に存在する。ポリマー材料は、有機金属触媒を含まない。
【0021】
実施例30において、第三級アミン触媒が2,6−ジメチルピリジンを含む実施例29の方法。
実施例31において、第三級アミン触媒が、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタントリメチルアミンジアミン、トリメチルアミン、1−シクロヘキシル−N,N−ジメチルメタンアミン、N,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、4−メチルモルホリン、および1−メチルイミダゾール、および1,3,5,7−テトラアザトリシクロ[3.3.1.1]デカンからなる群より選択される実施例29の方法。
【0022】
実施例32において、鎖延長剤を加熱混合物および第三級アミン触媒と反応させることをさらに含む実施例29〜31のいずれかの方法。
実施例33において、鎖延長剤が1,4−ブタンジオールを含む実施例31の方法。
【0023】
実施例34において、ジイソシアネートが4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネートを含む実施例29〜33のいずれかの方法。
実施例35において、ソフトセグメント成分がさらにポリテトラメチレンオキシドジオールを含む実施例29〜34のいずれかの方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
複数の実施形態が開示されているが、本発明のさらに他の実施形態は、本発明の例示的実施形態を示すとともに説明する以下の詳細な説明から当業者には明らかになるであろう。したがって、図面および詳細な説明は、本質的に例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
【0025】
本発明のより完全な理解は、本発明の多数の態様および実施形態の以下の詳細な説明を参照することによって得られる。以下の本発明の詳細な説明は、本発明を説明することを意図しているが、本発明を限定するものではない。
【0026】
本開示の様々な態様に従って、ポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマー(本明細書では総称して「PIB−PUR」とも称される)およびその製造方法が開示される。患者の体内に移植可能または挿入可能であり、少なくとも1つのポリイソブチレンウレタンコポリマーを含む医療デバイスもまた開示される。PIB−PURは、ハードセグメントとソフトセグメントとを含む熱可塑性ポリウレタン(TPU)である。PIB−PURは、加水分解的に安定であり、かつ良好な酸化安定性を有するため、患者への挿入または移植に使用される医療デバイスを含む多くの用途において有用である。
【0027】
ポリウレタンは、多官能性イソシアネート(例えば、脂肪族および芳香族ジイソシアネートの両方を含むジイソシアネート類)およびポリオール(例えば、マクログリコール類)から合成されるコポリマーのファミリーである。一般に使用されるマクログリコールには、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオールおよびポリカーボネートジオールが含まれる。マクログリコールは、ポリウレタンのポリマーセグメントを形成することができる。脂肪族または芳香族ジオールは、鎖延長剤として、例えばポリウレタンに改善された物理的特性を付与するために使用することもできる。
【0028】
いくつかの実施形態では、ポリイソブチレンウレタンコポリマーは、1つ以上のポリイソブチレンセグメント、1つ以上のジイソシアネート残基を含む1つ以上のセグメント、任意に1つ以上の追加のポリマーセグメント(ポリイソブチレンセグメント以外のもの)、および任意に1つ以上の鎖延長剤、を含む。
【0029】
本明細書で使用される場合、「ポリマーセグメント」または「セグメント」はポリマーの一部である。ポリイソブチレンウレタンコポリマーのポリイソブチレンセグメントは一般にソフトセグメントを構成すると考えられ、一方、ジイソシアネート残基を含むセグメントは一般にハードセグメントを構成すると考えられる。追加のポリマーセグメントは、ソフトまたはハードポリマーセグメントを含むことができる。本明細書で使用されるソフトセグメントおよびハードセグメントは、そのようなセグメントを含むポリマー材料の特性を表す相対的な用語である。上記に制限されるものではないが、ソフトセグメントは、体温より低い、より典型的には35℃から20℃まで、0℃まで、−25℃まで、−50℃まで、またはそれ以下のガラス転移温度(Tg)を示し得る。ハードセグメントは、体温より高い、より典型的には40℃から50℃まで、75℃まで、100℃まで、またはそれ以上のTgを示し得る。Tgは、示差走査熱量測定(DSC)、動的機械分析(DMA)および/または熱機械分析(TMA)によって測定することができる。
【0030】
種々の実施形態のポリイソブチレンウレタンコポリマー中のソフトセグメント対ハードセグメントの重量比は、広範囲の物理的および機械的特性を達成し、所望の機能的性能のアレイを達成するために変更されてもよい。例えば、ポリマー中のソフトセグメント対ハードセグメントの重量比は、99:1から、95:5まで、90:10まで、75:25まで、50:50まで、25:75まで、10:90まで、5:95まで、1:99まで、より詳細には95:5から、90:10まで、80:20まで、70:30まで、65:35まで、60:40まで、50:50まで、さらにより詳細には80:20から、50:50まで、変更されてもよい。いくつかの実施形態において、ソフトセグメント成分は、コポリマーの約40重量%〜約70重量%であり得、ハードセグメント成分は、コポリマーの約30重量%〜約60重量%であり得る。
【0031】
いくつかの実施形態において、コポリマーは、ソフトセグメントの約60重量%〜約100重量%の量のポリイソブチレンと、ソフトセグメントの約0重量%〜約40重量%の量のポリエーテル、ポリエステルまたはポリカーボネートとを含み得る。例えば、コポリマーは、コポリマーの約40重量%〜約70重量%の量のソフトセグメントを含むことができ、そのうちのポリイソブチレンは、ソフトセグメントの約60重量%〜約100重量%の量で存在し、ポリエーテルは、ソフトセグメントの約0重量%〜約40重量%の量で存在する。別の実施形態において、コポリマーは、コポリマーの約40重量%〜約70重量%の量のソフトセグメントを含むことができ、そのうちのポリイソブチレン(例えば、ポリイソブチレンジオール残基)は、ソフトセグメントの約70%〜約95重量%の量で存在し、ポリエーテル(例えば、ポリテトラメチレンオキシドジオール残基)は、ソフトセグメントの約5重量%〜約40重量%の量で存在する。
【0032】
種々の実施形態のPIB−PURを形成する際に使用するためのジイソシアネートには、芳香族および非芳香族(例えば、脂肪族)ジイソシアネートが含まれる。芳香族ジイソシアネートは、以下の適切なメンバー、とりわけ、4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、2,4’−メチレンジフェニルジイソシアネート(2,4−MDI)、2,4−および/または2,6−トルエンジイソシアネート(TDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、パラ−フェニレンジイソシアネート、3,3’−トリデン−4,4’−ジイソシアネートおよび3,3’−ジメチル−ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートから選択され得る。非芳香族ジイソシアネートは、以下の適切なメンバー、とりわけ、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12−MDI)、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネートまたはIPDI)、シクロヘキシルジイソシアネート、および2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)から選択され得る。
【0033】
いくつかの実施形態では、ポリテトラメチレンオキシドジオール(PTMOジオール)、ポリヘキサメチレンオキシドジオール(PHMOジオール)、ポリオクタメチレンオキシドジオールまたはポリデカメチレンオキシドジオールのようなポリエーテルジオールをポリイソブチレンジオールおよびジイソシアネートと組み合わせてポリイソブチレンポリウレタンコポリマーを形成することができる。いくつかの実施形態では、PIB−PURは、ポリウレタンハードセグメント、ポリイソブチレンセグメントおよびポリエーテルセグメントのほぼ均一な分布を有し、ポリマー中での良好なミクロ相分離を達成することができる。いくつかの実施形態では、ポリエーテルセグメントは、ショア硬度、引張り強さ、引張り係数、曲げ弾性率、伸び引裂き強さ、屈曲疲労、引張りクリープおよび/または摩耗性能などの重要な機械的特性を改善することができる。
【0034】
種々の実施形態によるPIB−PURは、1つ以上の任意の鎖延長剤残基をさらに含み得る。鎖延長剤は、ハードセグメントの長さを増加させることができ、これにより、より高い引張り係数、より低い破断点伸びおよび/または強度の増加を有するコポリマーが得られる。
【0035】
鎖延長剤は、脂肪族または芳香族ジオールから形成することができ、この場合、イソシアネート基との反応の際にウレタン結合が形成される。鎖延長剤は、以下の適切なメンバー、とりわけ、1,4−シクロヘキサンジメタノール、エチレングリコール(1,2−エタンジオール)、1,4−ブタンジオール(BDO)および1,6−ヘキサンジオールのようなα、ω−アルカンジオールから選択することができる。鎖延長剤はまた、以下の適切なメンバー、とりわけ、上記したようなハードポリマーセグメントおよびソフトポリマーセグメント(より典型的にはソフトポリマーセグメント)に基づく短鎖ジオールポリマー(例えば、1000以下の分子量を有するα、ω−ジヒドロキシ末端ポリマー)であって、短鎖ポリイソブチレンジオール、ポリテトラメチレンオキシドジオールなどの短鎖ポリエーテルポリオール、ポリジメチルシロキサンジオールなどの短鎖ポリシロキサンジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールなどの短鎖ポリカーボネートジオール、短鎖ポリ(フッ素化エーテル)ジオール、短鎖ポリエステルジオール、短鎖ポリアクリレートジオール、短鎖ポリメタクリレートジオール、および短鎖ポリ(ビニル芳香族)ジオールを含む短鎖ジオールポリマーから選択されてもよい。鎖延長剤はまた、適切なグリコール、例えばプロピレングリコール、ジプロピレングリコールおよびトリプロピレングリコールから選択されてもよい。
【0036】
PIB−PURを含むポリマー材料は、ポリイソブチレンジオールを含むソフトセグメント成分と、ジイソシアネートを含むハードセグメント成分とを一緒に混合し、混合物を高温に加熱することによって製造することができる。高温は、例えば、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃または100℃のような室温を超える任意の温度または上記した温度の任意のものの間の温度を有する。
【0037】
ポリイソブチレンジオールは、5−tert−ブチル−1,3−ビス(1−メトキシ−1−メチルエチル)ベンゼン(ヒンダード(hindered)−ジクミルエーテル)のような二官能性開始剤化合物で開始するカルボカチオン重合により形成され、ヒドロキシル官能基で末端をキャップし、かつ当該技術分野で知られている手段により調製されるテレケリック(telechelic)ポリイソブチレンジオールであってもよい(例えば、Ivan、B.およびJ.P.Kennedyのリビングカルボカチオン重合(Living carbocationic polymerization).XXX,アリル末端直鎖状および3アーム星状ポリイソブチレンのワンポット合成およびそれからのエポキシ−およびヒドロキシ−テレケリック、J.Polym.Sci.,PartA:Polym.Chem.、1990、28(1):p.89−104を参照されたい)。得られる化合物は、式に従うポリイソブチレンジオールであってもよい。
【0038】
【化1】
【0039】
ジイソシアネートは、式に従う4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネートの例に示されるように、2つのイソシアネート基を含む。
【0040】
【化2】
【0041】
イソシアネート基の各々は、ポリイソブチレンジオールのヒドロキシル基と、またはポリテトラメチレンオキシドジオールまたは1,4ブタンジオールのような任意の他のジオールと反応して、ウレタン結合を形成することができる。この重合プロセスが続くにつれて、PIB−PURが形成される。ポリイソブチレンジオール残基、4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネート残基の形態のジイソシアネート残基、1,4−ブタンジオール残基の形態の鎖延長剤残基、およびポリテトラメチレンオキシドジオール残基の形態のポリエーテルジオール残基を含む例示的なPIB−PURが以下の式で示される。
【0042】
【化3】
【0043】
混合物に添加される触媒は、反応速度を増加させることができ、反応の実質的な完了時間を有意に減少させることができる。しかしながら、多くの公知のポリウレタン触媒は、ポリイソブチレンジオールとの反応を触媒するのに適しているとは示されていなかった。ポリイソブチレンジオールは、ポリテトラメチレンオキシドジオールおよび1,4−ブタンジオールのようなPIB−PURの形成に使用され得る他のジオールと比較して、比較的非極性のジオールである。したがって、適切な触媒は、非極性ポリイソブチレンジオールと、PIB−PURを形成するのに使用される他のより極性のジオールとの両方と相溶性でなければならない。適切な触媒はまた、ポリマーに沿って実質的に均一に分布した各ジオールからの残基を有するPIB−PURを形成するために、ジイソシアネートと各ジオールとの間の同等の反応速度を促進しなければならない。
【0044】
2−エチルヘキサン酸スズ(II)(オクタン酸第一スズ)は、PIB−PURを製造するのに適した触媒として数十年間使用されてきた。2−エチルヘキサン酸スズ(II)触媒の使用は、反応が数時間以内に実質的に完了するように反応速度を増加させる。重合反応が完了すると、有機金属触媒はポリマー自体の一部ではないが、PIB−PUR中に混合したままである。有機金属触媒の配位子は、ある時間にわたってある程度破壊されるかもしれないが、活性金属カチオンは残っており、副反応を触媒し続け、時間の経過とともにPIB−PURの分解をもたらす。
【0045】
驚くべきことに、第三級アミン、2,6−ジメチルピリジンもPIB−PURを製造するのに適した触媒であることが分かった。2,6−ジメチルピリジン触媒は、反応が5分以内に実質的に完了するように重合反応速度を増加させる。有機金属触媒とは異なり、重合反応が完了すると、2,6−ジメチルピリジンの実質的な部分は、高温に加熱することによってPIB−PURから除去することができる。その結果、有機金属触媒で触媒されたPIB−PUR中に残存する活性金属カチオンの量と比較して、影響を与える副反応を触媒し続けるために、第三級アミン触媒のより少ない量をPIB−PURにおいて利用するのみでよい。したがって、2,6−ジメチルピリジンのような第三級アミン触媒で製造され、有機金属触媒を含まないPIB−PURは、有機金属触媒、例えば2−エチルヘキサン酸スズ(II)のような触媒を用いて製造されたPIB−PURより長い寿命を有し得る。
【0046】
2,6−ジメチルピリジンに加えて、PIB−PURを製造する上で使用するのに適した他の第三級アミン触媒は、2−tert−ブチル−1,1,3,3−テトラメチルグアニジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、N,N−ジイソプロピルメチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、4−メチルモルホリン、4−エチルモルホリン、1−メチルイミダゾール、N−エチルジイソプロピルアミン、7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デク−5−エン、N,N,N,N−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’−トリメチルエチレンジアミン、トリブチルアミン、トリエチルアミンおよびトリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミンを含み得る。トリメチルアミンのような第三級アミン触媒のいくつかは、比較的高い蒸気圧を有し、重合反応が完了する前にPIB−PURから追い出される(driven)可能性があるので、重合に使用される高温での使用にあまり適していない可能性がある。
【0047】
PIB−PURは、患者の体内に移植または挿入することができる医療デバイスに組み込むことができる。例示的な医療デバイスは、限定されるものではないが、血管移植片、電気リード線、カテーテル、リードレス心臓ペースメーカ(LCP)、骨盤底修復支持デバイス、ショックコイル被覆物、腸、食道および気道用途用の被覆ステント、尿道ステント、体内供給用チューブ/バルーン、僧帽弁修復を含む塞栓剤/充填剤、PFO、弁小葉および左心耳を含む構造的な心臓用途、縫合スリーブ、乳房インプラント、眼内レンズおよび緑内障管を含む眼科用途、および脊髄円板修復を含み得る。例示的な電気リード線は、限定されるものではないが、とりわけ、脊髄刺激(SCS)システム、深部脳刺激(DBS)システム、末梢神経刺激(PNS)システム、胃神経刺激システム、人口内耳移植システムおよび網膜移植システムのような神経刺激システムを含む埋め込み型電気刺激または診断システム、並びに、とりわけ、埋め込み型心臓リズム管理(CRM)システム、埋め込み型カーディオバータ−ディフィブリレータ(ICD)および心臓再同期化/除細動(CRDT)デバイスを含む心臓システムが含まれる。
【実施例】
【0048】
本発明の範囲内の多数の改変および変形が当業者には明らかであるので、本発明は、例示としてのみ意図される以下の実施例においてより詳細に記載される。
少なくとも1つのポリイソブチレンジオール残基を含むソフトセグメントおよび少なくとも1つのジイソシアネート残基を含むハードセグメントを含むポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーを、以下のように第三級アミン触媒を用いて調製した。1リットルの樹脂ケトル中に、105.22グラムの上記式Iに従うポリイソブチレンジオール、71.72グラムの4’−メチレンジフェニルジイソシアネートおよび56.88グラムのポリテトラメチレンオキシドジオールを、541.15グラムの2,6−ジメチルピリジンに溶解した。1リットルの樹脂ケットルはオーバーヘッド機械撹拌が装備されており、乾燥窒素ガスでパージした。ポリイソブチレンジオールは1,932グラム/モルの数平均分子量(Mn)を有し、ポリテトラメチレンオキシドジオールは1,000グラム/モルのMnを有していた。試薬を2時間反応させながら、60℃の温度で窒素ガス流下でオーバーヘッド機械撹拌器により溶液を攪拌した。2時間後、新たに蒸留した1,4−ブタンジオールの15.78グラムを滴加により溶液に加え、溶液を70℃の温度に維持しつつ、反応をさらに2時間続けた。有機金属触媒、または2,6−ジメチルピリジン以外の触媒は、いかなる時点でも反応に添加しなかった。さらなる2時間後、溶液はポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーを含有する高粘性溶液であった。
【0049】
得られたポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーを、多角度光散乱検出器(GPC−MALLS)を用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより特性決定した。コポリマーは109,000グラム/モルのMnおよび274,300グラム/モルの重量平均分子量(Mw)を示し、4時間で反応が実質的に完了したことを示している。対照的に、本発明者らは、触媒を使用しないでこの合成を実質的に完了することはできなかった。したがって、第三級アミン2,6−ジメチルピリジンは、少なくとも1つのポリイソブチレンジオール残基を含むソフトセグメントおよび少なくとも1つのジイソシアネート残基を含むハードセグメントを含むポリイソブチレン−ポリウレタンブロックコポリマーの製造のための効果的な触媒であることが実証される。
【0050】
本発明の範囲から逸脱することなく、論じられた例示的な実施形態に対して様々な修正および追加を行うことができる。例えば、上述の実施形態は特定の特徴を指すが、本発明の範囲は、記載された特徴の全てを含まない特徴の異なる組合せおよび実施形態を有する実施形態も含む。したがって、本発明の範囲は、そのようなすべての均等物とともに、請求項の範囲内にあるそのような代替物、改変物および変形物のすべてを包含するように意図されている。