(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
有機エレクトロルミネッセンス表示パネル内のカラーフィルター又はRGB発光層よりも視認側に、入射光角度により直線透過率が変化する異方性光学フィルムを備えたヘッドマウントディスプレイであって、
前記異方性光学フィルムは、少なくとも、単層又は複数層である異方性光拡散層を含み、
前記異方性光拡散層は、マトリックス領域と、前記マトリックス領域とは屈折率の異なる複数の柱状領域とを有するものであることを特徴とするヘッドマウントディスプレイ。
前記異方性光拡散層の一方の表面における、前記柱状領域の平均長径/平均短径、である前記柱状領域のアスペクト比が、2未満であることを特徴とする請求項5に記載のヘッドマウントディスプレイ。
前記異方性光拡散層の一方の表面における、前記柱状領域の平均長径/平均短径、である前記柱状領域のアスペクト比が、2〜20であることを特徴とする請求項5に記載のヘッドマウントディスプレイ。
前記異方性光学フィルムの法線方向より入射した光の直線透過率が、5%〜40%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.主な用語の定義
「直線透過率」とは、一般に、異方性光学フィルム又は異方性光拡散層に対して入射した光の直線透過性に関し、ある入射光角度から入射した際に、入射方向と同一の直線方向の透過光量と、入射した光の光量との比率であり、下記式で表される。
直線透過率(%)=(直線透過光量/入射光量)×100
【0011】
「散乱中心軸」とは、異方性光学フィルム又は異方性光拡散層への入射光角度を変化させた際に直線透過性がその入射光角度を境に略対称性を有する光の入射光角度と一致する方向を意味する。「略対称性を有する」としたのは、散乱中心軸がフィルムの法線方向に対して傾きを有する場合には、光学特性(後述する「光学プロファイル」)が厳密には対称性を有しないためである。散乱中心軸は、異方性光学フィルムの断面の傾きを光学顕微鏡によって観察することや、異方性光学フィルムを介した光の投影形状を、入射光角度を変化させて観察することにより確認することができる。
【0012】
「散乱中心軸角度」とは、散乱中心軸の、異方性光学フィルム又は異方性光拡散層の表面の法線方向に対する傾きのことであり、異方性光学フィルム又は異方性光拡散層の表面の法線方向を0°としたときの角度である。
【0013】
又、本明細書においては、「散乱」と「拡散」の両者を区別せずに使用しており、両者は同じ意味を示す。さらに、「光重合」及び「光硬化」の意味を、光重合性化合物が光により重合反応することとし、両者を同義語で用いることとする。
【0014】
本明細書において、何の断りもなく、単に「法線」と記載した場合には、異方性光学フィルムの表面、又は、異方性光拡散層の表面の、法線を意味するものとする。
【0015】
本明細書において、何の断りもなく、単に「柱状領域の表面形状」、又は、「表面形状」と記載した場合には、柱状領域の異方性光拡散層表面における表面形状を意味するものとする。
【0016】
1−1.ヘッドマウントディスプレイ(HMD)
HMDは、頭部に装着するディスプレイ装置のことであり、帽子型や眼鏡型のウェアラブルデバイスの一つである。本発明に係るHMDは、表示部としてOLED表示パネルが用いられ、前記OLED表示パネルの視認側にカラーフィルター又はRGB発光層を含むものであれば、特に限定されない。即ち、帽子型や眼鏡型といった形状、両眼又は単眼に装着される装着方法、目を完全に覆い外部が完全に視認できない「非透過型」やハーフミラー等を用いて外部の様子が見える「透過型」といったディスプレイ様式、3Dタイプや2Dタイプの映像方式等、のHMDが含まれる。
【0017】
1−2.HMDの構成
本発明に係るHMDの表示部の構造の一例について
図2に従って説明する。本発明に係る異方性光学フィルム130が用いられるOLEDパネルは、カラーフィルター又はRGB発光層を用いる方式のものであれば、特に限定されず、公知のものであれば良い。
図2はOLEDパネルの断面構造を示している。
図2(a)のOLEDパネル100は、異方性光学フィルム130と、陰極、白色発光層、陽極、カラーフィルターを含むもの、又は、陰極、RGB発光層、陽極を含むものである、有機EL層110と、ガラス基板120とを含んでいる。なお、異方性光学フィルム130を除く構成要素を、有機エレクトロルミネッセンス(OLED)表示パネルと称する。
【0018】
本発明に係るHMDの表示部には、
図2のように、視認側に異方性光学フィルム130が設けられている(具体的に
図2模式図では、ガラス基板120よりも視認側)。前記異方性光学フィルム130の設置位置は、カラーフィルター又はRGB発光層よりも視認側、即ち、目に近い位置に設けられていればよく、その設置位置は特に限定されない。
【0019】
本発明に係る異方性光学フィルムは、OLED表示パネルに直接的又は間接的に積層される態様でもよいし、表示装置から隔離されて設けられていてもよい{
図2(b)}。OLED表示パネルから出光した光が、異方性光学フィルムを介して、使用者の目によって視認できればよい。
【0020】
又、本発明に係るHMDは、光の向きを変えるミラー、光量の増加や映像を拡大するレンズを、さらに含んでいてもよい。
【0021】
2.異方性光学フィルム
本発明に係る異方性光学フィルムは、入射光の入射角に依存して、直線透過率が変化する。即ち、所定の角度範囲の入射光は、直線性を維持して透過し、その他の角度範囲の入射光は、拡散性を示す(
図3)。
図3は入射角が20°〜50°の場合に、拡散性を示し、その他の角度では、拡散性を示さず、直線透過性を示すことを表わしている。即ち20°よりも小さな0°と、50°よりも大きな65°では、拡散性を示さず、直線透過性を示す。
【0022】
2−1.異方性光学フィルムの構造
本発明に係る異方性光学フィルムは、少なくとも、単層又は複数層である異方性光拡散層を含む。異方性光学フィルムに含まれる異方性光拡散層は、直線透過性、ヘイズ値、散乱中心軸などの光学特性の異なる異方性光拡散層が複数含まれていてもよい。
【0023】
ここで複数層である異方性光拡散層とは、単層の異方性光拡散層が、直接又は粘着層を介して複数積層されたもののことである。粘着層に用いられる粘着剤としては、透明性を有するものであれば特に制限されるものではないが、常温で感圧接着性を有する粘着剤を使用することが好ましい。このような粘着剤としては、例えば、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂等の樹脂を挙げることができる。特に、アクリル系の樹脂は、光学的透明性が高く、比較的安価で好ましい。
【0024】
一方、異方性光拡散層に異方性光拡散層を直接積層する構成とする場合には、光重合性化合物を含む組成物層を硬化させて、単層の異方性光拡散層とした後、当該単層の異方性光拡散層上に、直接、光重合性化合物を含む組成物を塗布して、シート状に設けて硬化することにより、作製することができる。
【0025】
さらに異方性光学フィルムは、異方性光拡散層以外でも、複数の層を積層することができる。
【0026】
複数の層が積層された異方性光学フィルムとしては、例えば、異方性光学フィルムに、別の機能を有する層を積層したもの等が挙げられる。又、本発明に係る異方性光学フィルムは、ガラス基板等の透明基板上に積層して用いてもよい。
本発明の異方性光学フィルムは、製造の容易性や製造コストの観点で、単層の異方性光拡散層であることが好ましい。
【0027】
異方性光学フィルムの厚みは、用途や生産性を考慮すると、10μm〜500μmであることが好ましく、50μm〜150μmであることがより好ましい。
【0028】
3.異方性光拡散層
3−1.異方性光拡散層の構造
本発明に係る異方性光拡散層は、マトリックス領域と、マトリックス領域とは屈折率が異なる複数の柱状領域とを、含み、入射光角度により直線透過率が変化する光拡散性を有している。
又、異方性光拡散層は、通常、光重合性化合物を含む組成物の硬化物からなる。そのためマトリックス領域と、柱状領域は、同一の組成からなり、それぞれが相分離して形成される。
【0029】
ここで、屈折率が異なるとは、異方性光拡散層に入射した光の少なくとも一部が、マトリックス領域と、柱状領域との界面において反射が起こる程度に差異があればよく、特に限定されないが、例えば、前記屈折率の差は、0.001以上あればよい。
【0030】
本発明に係る異方性光拡散層の厚さ(異方性光学フィルムの厚さと同方向の長さ)は、特に限定されず、例えば、1μm〜200μmであるのが好ましく、10μm〜100μmであることがより好ましい。前記厚さが200μmを超える場合、材料費がよりかかるだけでなく、UV照射にかかる費用も増すため、製造コストがかかり、異方性光拡散層の厚さ方向での拡散性増加により、画像ボケやコントラスト低下が起こりやすくなる。又、厚さが1μm未満の場合、光の拡散性及び集光性を十分なものとすることが難しい場合がある。
【0031】
3−2.柱状領域
本発明に係る異方性光拡散層に含まれる複数の柱状領域は、通常、異方性光拡散層の一方の表面から他方の表面にかけて配向、かつ、延在して構成している。
【0032】
本発明に係る異方性光拡散層に含まれる複数の柱状領域の、異方性光拡散層の表面における前記複数の柱状領域の表面形状は、短径と、長径とを有する形状とすることができる。
【0033】
前記断面形状は、特に限定されず、例えば、円形、楕円形、多角形とすることができる。円形の場合には、短径と長径は等しくなり、楕円形の場合には、短径は短軸の長さ、長径は長軸の長さであり、多角形の場合には、多角形内の最も短い長さを短径とし、最も長い長さを長径とすることができる。
図4には、異方性光拡散層の表面方向から見た柱状領域を示した。図中LAは長径を表わし、SAは短径を表わしている。
【0034】
本発明に係る短径及び長径は、異方性光拡散層の表面を光学顕微鏡で観察し、任意に選択した20個の柱状領域についてそれぞれの短径、長径を計測し、これらの平均値とすることができる。
【0035】
柱状領域の短径の平均値(平均短径)は0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましい。一方、柱状領域の平均短径は5.0μm以下であることが好ましく、4.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることがさらに好ましい。これら柱状領域の短径の下限値及び上限値は、適宜組み合わせることができる。
【0036】
又、長径の平均値(平均長径)は0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましい。一方、柱状領域の平均長径は100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。これら柱状領域の短径の下限値及び上限値は、適宜組み合わせることができる。
【0037】
又、本発明に係る柱状領域の平均短径に対する平均長径の比(平均長径/平均短径)、即ち、アスペクト比は、特に限定されないが、例えば、1以上20以下とすることができる。
図4(a)は、アスペクト比が2〜20の異方性光拡散層を示しており、
図4(b)は、アスペクト比が2未満の異方性光拡散層を示している。
アスペクト比の上限は、20であることが好ましく、15であることがより好ましく、10であることがさらに好ましい。
【0038】
アスペクト比が1以上2未満の場合には、柱状領域の軸方向に平行な光を照射した場合、その透過光は等方的に拡散する{
図5(a)を参照}。一方、アスペクト比が2以上20以下の場合には、同様に軸方向に平行な光を照射した場合には、アスペクト比に応じた異方性をもって拡散する{
図5(b)を参照}。
【0039】
又、本発明に係る異方性光拡散層は、1つのアスペクト比を有する複数の柱状領域を含んでもよいし、異なるアスペクト比を持つ、複数の柱状領域を含んでもよい。
【0040】
本発明に係る異方性光拡散層は、散乱中心軸を有することができる。
柱状領域の配向方向(延在方向)Pは、散乱中心軸と平行になるように形成されることができ、異方性光拡散層が所望の直線透過率及び拡散性を有するように適宜定めることができる。なお、散乱中心軸と柱状領域の配向方向とが平行であるとは、屈折率の法則(Snellの法則)を満たすものであればよく、厳密に平行である必要はない。
【0041】
Snellの法則は、屈折率n1の媒質から屈折率n2の媒質の界面に対して光が入射する場合、その入射光角度θ1と屈折角θ2との間に、n1sinθ1=n2sinθ2の関係が成立するものである。例えば、n1=1(空気)、n2=1.51(異方性光拡散層)とすると、入射光角度が30°の場合、柱状領域の配向方向(屈折角)は約19°となるが、このように入射光角度と屈折角が異なっていてもSnellの法則を満たしていれば、本発明においては平行の概念に包含される。
【0042】
次に、
図6を参照しながら、異方性光拡散層における散乱中心軸Pについて説明する。
図6は、異方性光拡散層における散乱中心軸Pを説明するための3次元極座標表示である。
【0043】
この散乱中心軸は、上述したように、異方性光拡散層への入射光角度を変化させた際に光拡散性がその入射光角度を境に略対称性を有する光の入射光角度と一致する方向を意味する。なお、このときの入射光角度は、異方性光拡散層の光学プロファイルを測定し、この光学プロファイル(
図7)における極小値に挟まれた略中央部(拡散領域の中央部)となる。
【0044】
又、上記散乱中心軸は、
図6に示すような3次元極座標表示によれば、異方性光拡散層の表面をxy平面とし、法線をz軸とすると、極角θと方位角φとによって表現することができる。つまり、
図6中のPxyが、上記異方性光拡散層の表面に投影した散乱中心軸の長さ方向ということができる。
【0045】
ここで、異方性光拡散層の法線(
図6に示すz軸)と、柱状領域とのなす極角θ(−90°<θ<90°)を本発明における散乱中心軸角度と定義する。柱状領域の軸方向の角度は、これらを製造する際に、シート状の光重合性化合物を含む組成物に照射する光線の方向を変えることで、所望の角度に調整することができる。
【0046】
本発明に係る異方性光拡散層に複数の散乱中心軸が含まれる場合には、複数の散乱中心軸のそれぞれと配向方向とが平行である複数の柱状領域を含むことができる。
【0047】
又、本発明に係る柱状領域の長さは、特に限定されず、異方性光拡散層の一方の表面から他方の表面に貫通したものでもよく、一方の表面から他方の表面に届かない長さでも良い。異方性光拡散層の光の直線透過性を高くすることが可能であるため、柱状領域の長さは、前記平均長径よりも長い方が好ましい。
【0048】
3−3.異方性光拡散層の特性
本発明における異方性光拡散層の光学特性(直線透過率、ヘイズ値等)は、1つ又は複数の前記散乱中心軸角度(柱状領域の軸方向の角度)と、複数の柱状領域のアスペクト比との組み合わせにより調整することができる。
【0049】
3−3−1.異方性光拡散層の光学プロファイル
図7に示すように、異方性光拡散層は、入射光角度によって直線透過率が変化する光拡散性の入射光角度依存性を有するものである。ここで、
図7のように光拡散性の入射光角度依存性を示す曲線を以下、「光学プロファイル」と称する。
【0050】
光学プロファイルは、
図8に示すように、異方性光拡散層(又は、異方性光学フィルム)を光源1と検出器2との間に配置する。本形態においては、光源1からの照射光Iが、異方性光拡散層(又は、異方性光学フィルム)の表面の法線方向から入射する場合を入射光角度0°とした。又、異方性光拡散層(又は、異方性光学フィルム)は直線Vを中心として、任意に回転させることができるように配置され、光源1及び検出器2は固定されている。すなわち、この方法によれば、光源1と検出器2との間にサンプル(異方性光拡散層(又は、異方性光学フィルム))を配置し、サンプル表面の直線Vを中心軸として角度を変化させながらサンプルを直進透過して検出器2に入る直線透過光量を測定することにより得られる。
【0051】
光学プロファイルは、光拡散性を直接的に表現しているものではないが、直線透過率が低下することで、逆に拡散透過率が増大していると解釈すれば、概ね光拡散性を示しているといえる。
通常の等方的な光拡散フィルムでは、0°付近の入射光角度をピークとする、山型の光学プロファイルを示す。
異方性光拡散層では、例えば、散乱中心軸角度を0°とすると(
図7)、0°付近(−20°〜+20°)の入射光角度で直線透過率が小さく、入射光角度(の絶対値)が大きくなるにつれて直線透過率が大きくなる谷型の光学プロファイルを示す。
【0052】
このように、異方性光拡散層は、入射光が散乱中心軸に近い入射光角度範囲では強く拡散されるが、それ以上の入射光角度範囲では拡散が弱まり直線透過率が高まるという性質を有する。
以下、
図7に示すように、最大直線透過率と最小直線透過率との中間値の直線透過率に対する2つの入射光角度の角度範囲を拡散領域(この拡散領域の幅を「拡散幅」)と称し、それ以外の入射光角度範囲を非拡散領域(透過領域)と称する。
【0053】
3−3−2.異方性光拡散層の直線透過率
本発明の異方性光拡散層の表面の法線方向より入射した光の直線透過率は、特に限定されないが、例えば、異方性光学フィルムに含まれる異方性光拡散層が1つの場合には、5%〜40%が好ましく、10%〜30%がより好ましい。この範囲とすることで、BMの視認性を低下させる効果を高くすることができる。なお、前記直線透過率は、光学プロファイルの測定と同様にして直線透過光量を測定することにより得られる。
【0054】
3−3−3.異方性光拡散層のヘイズ値
本発明の異方性光拡散層のヘイズ値は、異方性光拡散層の拡散性を示す指標のである。ヘイズ値が大きくなると、異方性光拡散層の拡散性が高くなる。異方性光拡散層のヘイズ値は、特に限定されないが、例えば、50%〜85%が好ましく、60%〜80%がより好ましい。この範囲とすることで、BMの視認性を低下させる効果を高くすることができる。
異方性光学フィルムに含まれる異方性光拡散層が複数層である場合には、全ての異方性光拡散層におけるヘイズ値が、異方性光学フィルムの異方性光拡散層のヘイズ値となる。
【0055】
前記異方性光拡散層のヘイズ値の測定方法は、特に限定されず、公知の方法で測定することができる。例えば、JIS K7136−1:2000「プラスチック−透明材料のヘイズの求め方」によって測定することができる。
【0056】
3−3−4.異方性光拡散層の散乱中心軸
本発明に係る異方性光拡散層は、少なくとも1つの散乱中心軸を有することができる。前記散乱中心軸角度は、特に限定されないが、例えば、−15°〜+15°が好ましく、−10°〜+10°がより好ましい。−15°〜+15°の範囲にある場合、その光学特性によりBMの視認性を低下させる効果が高くなる。
なお、複数の異方性光拡散層が、同一の散乱中心軸を有する場合には、それらは1つの散乱中心軸となる。
【0057】
3−3−5.異方性光拡散層の表面凹凸
本発明に係わる異方性光拡散層は、異方性光拡散層の少なくとも一方の最表面に凹凸を有し、異方性光拡散層の表面の算術平均粗さRaは、0.10μm以下であることが好ましい。なお、前記算術平均粗さRaはJIS B0601−2001に準拠して求められる。この範囲にある場合、ヘッドマウントディスプレイとした際の、画素による色付きを抑える効果を高くすることができる。
【0058】
前記異方性光拡散層の表面の算術平均粗さRaは、公知の方法で測定することができ、特に限定されない。例えば、共焦点型レーザー顕微鏡等を用いる非接触法や、プローブを用いた表面粗さ測定器等を用いた接触法を挙げることができる。
【0059】
4.異方性光学フィルム(異方性光拡散層)の製造方法
本発明の異方性光学フィルムの製造方法は、光硬化性組成物層にUV等の光線を照射することにより製造することができる。以下、初めに異方性光拡散層の原料を説明し、次いで製造プロセスを説明する。下記では主に、好適例である、1つの異方性光拡散層を含む異方性光学フィルムの製造について説明し、必要に応じてその他の態様について補足する。
【0060】
4−1.異方性光拡散層の原料
異方性光拡散層の原料について、(1)光重合性化合物、(2)光開始剤、(3)配合量、その他任意成分の順に説明する。
【0061】
4−1−1.光重合性化合物
本発明に係る異方性光拡散層を形成する材料である光重合性化合物は、ラジカル重合性又はカチオン重合性の官能基を有するマクロモノマー、ポリマー、オリゴマー、モノマーから選択される光重合性化合物と光開始剤とから構成され、紫外線及び/又は可視光線を照射することにより重合・硬化する材料である。ここで、異方性光学フィルムに含まれる異方性光拡散層を形成する材料が1種類であっても、密度の高低差ができることによって屈折率差が生ずる。UVの照射強度が強い部分は硬化速度が早くなるため、その硬化領域周囲に重合・硬化材料が移動し、結果として屈折率が高くなる領域と屈折率が低くなる領域が形成されるからである。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタアクリレートのどちらであってもよいことを意味する。
【0062】
ラジカル重合性化合物は、主に分子中に1個以上の不飽和二重結合を含有するもので、具体的には、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、シリコーンアクリレート等の名称で呼ばれるアクリルオリゴマーと、2−エチルヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソノルボルニルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシフタル酸、ジシクロペンテニルアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のアクリレートモノマーが挙げられる。又、これらの化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。なお、同様にメタクリレートも使用可能であるが、一般にはメタクリレートよりもアクリレートの方が、光重合速度が速いので好ましい。
【0063】
カチオン重合性化合物としては、分子中にエポキシ基やビニルエーテル基、オキセタン基を1個以上有する化合物が使用できる。エポキシ基を有する化合物としては、2−エチルヘキシルジグリコールグリシジルエーテル、ビフェニルのグリシジルエーテル、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラクロロビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA等のビスフェノール類のジグリシジルエーテル類、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ブロム化フェノールノボラック、オルトクレゾールノボラック等のノボラック樹脂のポリグリシジルエーテル類、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのEO付加物、ビスフェノールAのPO付加物等のアルキレングリコール類のジグリシジルエーテル類、ヘキサヒドロフタル酸のグリシジルエステルやダイマー酸のジグリシジルエステル等のグリシジルエステル類が挙げられる。
【0064】
エポキシ基を有する化合物としてはさらに、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ジ(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキシド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、テトラ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ブタンテトラカルボキシレート、ジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)−4,5−エポキシテトラヒドロフタレート等の脂環式エポキシ化合物も挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
ビニルエーテル基を有する化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、プロペニルエーテルプロピレンカーボネート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、ビニルエーテル化合物は、一般にはカチオン重合性であるが、アクリレートと組み合わせることによりラジカル重合も可能である。
【0066】
又、オキセタン基を有する化合物としては、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、3−エチル−3−(ヒドロキシメチル)−オキセタン等が使用できる。
【0067】
なお、以上のカチオン重合性化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。上記光重合性化合物は、上述に限定されるものではない。又、十分な屈折率差を生じさせるべく、上記光重合性化合物には、低屈折率化を図るために、フッ素原子(F)を導入しても良く、高屈折率化を図るために、硫黄原子(S)、臭素原子(Br)、各種金属原子を導入しても良い。さらに、特表2005−514487号公報に開示されるように、酸化チタン(TiO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化錫(SnO
x)等の高屈折率の金属酸化物からなる超微粒子の表面に、アクリル基やメタクリル基、エポキシ基等の光重合性官能基を導入した機能性超微粒子を上述の光重合性化合物に添加することも有効である。
【0068】
本発明に係る光重合性化合物として、シリコーン骨格を有する光重合性化合物を使用することが好ましい。シリコーン骨格を有する光重合性化合物は、その構造(主にエーテル結合)に伴い配向して重合・硬化し、低屈折率領域、高屈折率領域、又は、低屈折率領域及び高屈折率領域を形成する。シリコーン骨格を有する光重合性化合物を使用することによって、柱状領域を傾斜させやすくなり、正面方向への集光性が向上する。なお、低屈折率領域は柱状領域又はマトリックス領域のいずれか一方に相当するものであり、他方が高屈折率領域に相当する。
【0069】
低屈折率領域において、シリコーン骨格を有する光重合性化合物の硬化物であるシリコーン樹脂が相対的に多くなることが好ましい。これによって、散乱中心軸をさらに傾斜させやすくすることができるため、正面方向への集光性が向上する。シリコーン樹脂は、シリコーン骨格を有さない化合物に比べ、ケイ素(Si)を多く含有するため、このケイ素を指標として、EDS(エネルギー分散型X線分光器)を使用することによってシリコーン樹脂の相対的な量を確認することができる。
【0070】
シリコーン骨格を有する光重合性化合物は、ラジカル重合性又はカチオン重合性の官能基を有するモノマー、オリゴマー、プレポリマー又はマクロモノマーである。ラジカル重合性の官能基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基等が挙げられ、カチオン重合性の官能基としては、エポキシ基、オキセタン基等が挙げられる。これらの官能基の種類と数に特に制限はないが、官能基が多いほど架橋密度が上がり、屈折率の差が生じやすいため好ましいことから、多官能のアクリロイル基又はメタクリロイル基を有することが好ましい。又、シリコーン骨格を有する化合物はその構造から他の化合物との相溶性において不十分なことがあるが、そのような場合にはウレタン化して相溶性を高めることができる。本形態では、末端にアクリロイル基又はメタクリロイル基を有するシリコーン・ウレタン・(メタ)アクリレートが好適に用いられる。
【0071】
シリコーン骨格を有する光重合性化合物の重量平均分子量(Mw)は、500〜50,000の範囲にあることが好ましい。より好ましくは2,000〜20,000の範囲である。重量平均分子量が上記範囲にあることにより、十分な光硬化反応が起こり、異方性光学フィルム100の各異方性光拡散層内に存在するシリコーン樹脂が配向しやすくなる。シリコーン樹脂の配向に伴い、散乱中心軸を傾斜させやすくなる。
【0072】
シリコーン骨格としては、例えば、下記の一般式(1)で示されるものが該当する。一般式(1)において、R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に、メチル基、アルキル基、フルオロアルキル基、フェニル基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、ポリエーテル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の官能基を有する。又、一般式(1)中、nは1〜500の整数であることが好ましい。
【0074】
シリコーン骨格を有する光重合性化合物にシリコーン骨格を有さない化合物を配合して、異方性光拡散層を形成すると、低屈折率領域と高屈折率領域が分離して形成されやすくなり、異方性の程度が強くなり好ましい。シリコーン骨格を有さない化合物は、光重合性化合物のほかに熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を用いることができ、これらを併用することもできる。光重合性化合物としては、ラジカル重合性又はカチオン重合性の官能基を有するポリマー、オリゴマー、モノマーを使用することができる(ただし、シリコーン骨格を有していないものである)。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂とその共重合体や変性物が挙げられる。熱可塑性樹脂を用いる場合においては熱可塑性樹脂が溶解する溶剤を使用して溶解し、塗布、乾燥後に紫外線でシリコーン骨格を有する光重合性化合物を硬化させて異方性光拡散層を成形する。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステルとその共重合体や変性物が挙げられる。熱硬化性樹脂を用いる場合においては、紫外線でシリコーン骨格を有する光重合性化合物を硬化させた後に適宜加熱することで、熱硬化性樹脂を硬化させて異方性光拡散層を成形する。シリコーン骨格を有さない化合物として最も好ましいのは光重合性化合物であり、低屈折率領域と高屈折率領域が分離しやすいことと、熱可塑性樹脂を用いる場合の溶剤が不要で乾燥過程が不要であること、熱硬化性樹脂のような熱硬化過程が不要であることとなど、生産性に優れている。
【0075】
4−1−2.光開始剤
ラジカル重合性化合物を重合させることのできる光開始剤としては、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパノン−1、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス[2,6−ジフルオロ−3−(ピル−1−イル)フェニル]チタニウム、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。又、これらの化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0076】
又、カチオン重合性化合物の光開始剤は、光照射によって酸を発生し、この発生した酸により上述のカチオン重合性化合物を重合させることができる化合物であり、一般的には、オニウム塩、メタロセン錯体が好適に用いられる。オニウム塩としては、ジアゾニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、セレニウム塩等が使用され、これらの対イオンには、BF4−、PF6−、AsF6−、SbF6−等のアニオンが用いられる。具体例としては、4−クロロベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、(4−フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4−フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロホスフェート、(4−メトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4−メトキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンジルトリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルセレニウムヘキサフルオロホスフェート、(η5−イソプロピルベンゼン)(η5−シクロペンタジエニル)鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、これらの化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0077】
4−1−3.配合量、その他成分
本発明に係る光開始剤は、光重合性化合物100質量部に対して、0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜7質量部、より好ましくは0.1〜5質量部程度配合される。これは、0.01質量部未満では光硬化性が低下し、10質量部を超えて配合した場合には、表面だけが硬化して内部の硬化性が低下してしまう弊害、着色、柱状構造の形成の阻害を招くからである。これらの光開始剤は、通常粉体を光重合性化合物中に直接溶解して使用されるが、溶解性が悪い場合は光開始剤を予め極少量の溶剤に高濃度に溶解させたものを使用することもできる。このような溶剤としては光重合性であることがさらに好ましく、具体的には炭酸プロピレン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。又、光重合性を向上させるために公知の各種染料や増感剤を添加することも可能である。さらに、光重合性化合物を加熱により硬化させることのできる熱硬化開始剤を光開始剤と共に併用することもできる。この場合、光硬化の後に加熱することにより光重合性化合物の重合硬化をさらに促進し完全なものにすることが期待できる。
【0078】
光重合性化合物を単独で、又は複数を混合した組成物を硬化させて、異方性光拡散層を形成することができる。又、光重合性化合物と光硬化性を有しない高分子樹脂の混合物を硬化させることによっても本発明に係る異方性光拡散層形成することができる。ここで使用できる高分子樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン−アクリル共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、セルロース系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。これらの高分子樹脂と光重合性化合物は、光硬化前は十分な相溶性を有していることが必要であるが、この相溶性を確保するために各種有機溶剤や可塑剤等を使用することも可能である。なお、光重合性化合物としてアクリレートを使用する場合は、高分子樹脂としてはアクリル樹脂から選択することが相溶性の点で好ましい。
【0079】
シリコーン骨格を有する光重合性化合物と、シリコーン骨格を有さない化合物の比率は質量比で15:85〜85:15の範囲にあることが好ましい。より好ましくは30:70〜70:30の範囲である。当該範囲にすることによって、低屈折率領域と高屈折率領域の相分離が進みやすくなるとともに、柱状領域が傾斜しやすくなる。シリコーン骨格を有する光重合性化合物の比率が下限値未満又は上限値超であると、相分離が進みにくくなってしまい、柱状領域が傾斜しにくくなる。シリコーン骨格を有する光重合性化合物としてシリコーン・ウレタン・(メタ)アクリレートを使用すると、シリコーン骨格を有さない化合物との相溶性が向上する。これによって、材料の混合比率を幅広くしても柱状領域を傾斜させることができる。
【0080】
4−1−4.溶媒
光重合性化合物を含む組成物を調製する際の溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン等を使用することができる。
【0081】
4−2.異方性光拡散層の製造プロセス
次に、本形態の異方性光拡散層の製造方法(プロセス)について説明する。まず、上述の光重合性化合物を含む組成物( 以下、「光硬化樹脂組成物」と称する場合がある。)を、透明PETフィルムのような適当な基体上に塗布してシート状に設け、成膜して光硬化樹脂組成物層を設ける。この光硬化樹脂組成物層を、必要に応じて乾燥し溶剤を揮発させた上で、光硬化樹脂組成物層上に、光を照射することで、異方性光拡散層を作製することができる。
【0082】
4−2−1.異方性光拡散層の作製
本形態に係る異方性光拡散層の形成工程は、主に、以下の工程を有するものである。
(1)工程1−1:未硬化樹脂組成物層を基体上に設ける工程
(2)工程1−2:光源から平行光線を得る工程
(3)任意工程1−3:平行光線を指向性拡散素子に入射させ、指向性をもった光線を得る工程
(4)工程1−4:光線を未硬化樹脂組成物層に照射して、未硬化樹脂組成物層を硬化させる工程
【0083】
4−2−1−1.工程1−1:未硬化樹脂組成物層を基体上に設ける工程
光硬化樹脂組成物を、基体上に、シート状に、未硬化樹脂組成物層として設ける手法は、通常の塗工方式や印刷方式が適用される。具体的には、エアドクターコーティング、バーコーティング、ブレードコーティング、ナイフコーティング、リバースコーティング、トランスファロールコーティング、グラビアロールコーティング、キスコーティング、キャストコーティング、スプレーコーティング、スロットオリフィスコーティング、カレンダーコーティング、ダムコーティング、ディップコーティング、ダイコーティング等のコーティングや、グラビア印刷等の凹版印刷、スクリーン印刷等の孔版印刷等の印刷等が使用できる。組成物が低粘度の場合は、基体の周囲に一定の高さの堰を設けて、この堰で囲まれた中に組成物をキャストすることもできる。
【0084】
4−2−1−2.マスクの積層
又、上記工程1−1において、未硬化樹脂組成物層の酸素阻害を防止して、本形態に係る異方性光拡散層の特徴である柱状領域を効率良く形成させるために、未硬化樹脂組成物層の光照射側に密着して光の照射強度を局所的に変化させるマスクを積層することも可能である。マスクの材質としては、カーボン等の光吸収性のフィラーをマトリックス中に分散したもので、入射光の一部はカーボンに吸収されるが、開口部は光が十分に透過できるような構成のものが好ましい。このようなマトリックスとしては、PET、TAC、PVAc、PVA、アクリル、ポリエチレン等の透明プラスチックや、ガラス、石英等の無機物や、これらのマトリックスを含むシートに紫外線透過量を制御するためのパターニングや紫外線を吸収する顔料を含んだものであっても構わない。このようなマスクを用いない場合には、窒素雰囲気下で光照射を行うことで、未硬化樹脂組成物層の酸素阻害を防止することも可能である。又、通常の透明フィルムを未硬化樹脂組成物層上に積層するだけでも、酸素阻害を防ぎ柱状領域の形成を促す上で有効である。このようなマスクや透明フィルムを介した光照射では、光重合性化合物を含む組成物中に、その照射強度に応じた光重合反応を生じるため、屈折率分布を生じ易く、本形態に係る異方性光拡散層の作製に有効である。
【0085】
4−2−1−3.工程1−2:光源から平行光線を得る工程
光源としては、通常はショートアークの紫外線発生光源が使用され、具体的には高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタハライドランプ、キセノンランプ等が使用可能である。このとき、所望の散乱中心軸と平行な光線を得る必要があるが、このような平行光線は、例えば点光源を配置して、この点光源と未硬化樹脂組成物層の間に平行光線を照射するためのフレネルレンズ等の光学レンズを配置する他、光源の背後に反射鏡を配置して、所定の方向に点光源として光が出射するようにすること等で、得ることができる。
【0086】
4−2−1−4.工程1−4:光線を未硬化樹脂組成物層に照射して、未硬化樹脂組成物層を硬化させる工程(任意工程1−3を行わない場合)
未硬化樹脂組成物層に照射して、未硬化樹脂組成物層を硬化させる光線は、光重合性化合物を硬化可能な波長を含んでいることが必要で、通常は水銀灯の365nmを中心とする波長の光が利用される。この波長帯を使って異方性光拡散層を作製する場合、照度としては0.01mW/cm
2〜100mW/cm
2の範囲が好ましく、0.1mW/cm
2〜20mW/cm
2 がより好ましい。照度が0.01mW/cm
2未満であると、硬化に長時間を要するため、生産効率が悪くなり、100mW/cm
2を超えると、光重合性化合物の硬化が速すぎて構造形成を生じず、目的の光学特性を発現できなくなるからである。なお、光の照射時間は特に限定されないが、10秒間〜180秒間が好ましく、30秒間〜120秒間がより好ましい。上記光線を照射することで、本形態の異方性光拡散層を得ることができる。
【0087】
本形態の異方性光拡散層は、上述の如く、低照度の光を比較的長時間照射することにより、未硬化樹脂組成物層中に、特定の内部構造が形成されることで得られるものである。そのため、このような光照射だけでは未反応のモノマー成分が残存して、べたつきを生じたりしてハンドリング性や耐久性に問題がある場合がある。そのような場合は、1000mW/cm
2以上の高照度の光を追加照射して残存モノマーを重合させることができる。このときの光照射はマスクを積層した側の逆側から行ってもよい。
【0088】
続いて、任意工程1−3を含む場合の製造方法に関して説明する。任意工程1−3を含む場合の製造方法の内、工程1−1と1−2は、上記で説明した通りであるため、以下、任意工程1−3以降について、説明する。
【0089】
4−2−1−5.任意工程1−3:平行光線を指向性拡散素子に入射させ、指向性をもった光線を得る工程
図9は、任意工程1−3を含む本発明に係る異方性光拡散層の製造方法を示す模式図である。
【0090】
4−2−1−5−1.指向性拡散素子
任意工程1−3で用いられる指向性拡散素子301及び302は、光源300から入射した平行光線Dに指向性を付与するものであればよい。
図9においては指向性をもった光Eが、X方向に多く拡散し、Y方向にはほとんど拡散しない態様にて、未硬化樹脂組成物層303に入射することを記載している。このように指向性をもった光を得るためには、例えば、指向性拡散素子301及び302内に、アスペクト比の高い針状フィラーを含有させるとともに、当該針状フィラーをY方向に長軸方向が延存するように配向させる方法を採用することができる。指向性拡散素子301及び302は、針状フィラーを使用する方法以外に、種々の方法を使用することができる。
【0091】
ここで、指向性をもった光Eのアスペクト比は、2〜20とすることが好ましい。当該アスペクト比にほぼ対応した、アスペクト比を有する柱状領域が形成される。上記アスペクト比の上限値は、10以下であることがより好ましく、5以下であることがより好ましい。アスペクト比が20超では、干渉虹やギラツキを生じるおそれがある。
【0092】
任意工程1−3においては、指向性をもった光Eの広がりを調整することにより、形成される柱状領域の大きさ(アスペクト比、短径SA、長径LA等)を適宜定めることができる。例えば、
図9(a)、(b)のいずれにおいても、本形態の異方性光拡散層を得ることができる。
図9(a)と(b)で異なるのは、指向性をもった光Eの広がりが、(a)では大きいのに対し(b)では小さいことである。指向性をもった光Eの広がりの大きさに依存して、柱状領域の大きさが異なることとなる。
【0093】
指向性をもった光Eの広がりは、主に指向性拡散素子301及び302の種類と、未硬化樹脂組成物層303との距離に依存する。当該距離を短くするにつれ柱状領域の大きさは小さくなり、長くするにつれ柱状領域の大きさは大きくなる。従って、当該距離を調整することにより、柱状領域の大きさを調整することができる。
【0094】
4−2−1−6.工程1−4:光線を未硬化樹脂組成物層に照射して、未硬化樹脂組成物層を硬化させる工程(任意工程1−3を行う場合)
指向性拡散素子を介して未硬化樹脂組成物層に照射して、未硬化樹脂組成物層を硬化させる光線は、光重合性化合物を硬化可能な波長を含んでいることが必要で、通常は水銀灯の365nmを中心とする波長の光が利用される。この波長帯を使って異方性光拡散層を作製する場合、照度としては0.01mW/cm
2〜100mW/cm
2の範囲が好ましく、0.1mW/cm
2〜20mW/cm
2 がより好ましい。照度が0.01mW/cm
2未満であると、硬化に長時間を要するため、生産効率が悪くなり、100mW/cm
2を超えると、光重合性化合物の硬化が速すぎて構造形成を生じず、目的の光学特性を発現できなくなるからである。なお、光の照射時間は特に限定されないが、10秒間〜180秒間が好ましく、30秒間〜120秒間がより好ましい。上記光線を照射することで、本形態の異方性光拡散層を得ることができる。
【0095】
本形態の異方性光拡散層は、任意工程1−3を行う場合においても、上述の如く、低照度の光を比較的長時間照射することにより、未硬化樹脂組成物層中に、特定の内部構造が形成されることで得られるものである。そのため、このような光照射だけでは未反応のモノマー成分が残存して、べたつきを生じたりしてハンドリング性や耐久性に問題がある場合がある。そのような場合は、1000mW/cm
2以上の高照度の光を追加照射して残存モノマーを重合させることができる。このときの光照射はマスクを積層した側の逆側から行ってもよい。
【0096】
5.本発明に係る異方性光学フィルムの用途
本発明に係る異方性光学フィルムは、OLED表示パネルを用いたヘッドマウントディスプレイ用の拡散フィルムとして好適に使用することができる。
【0097】
又、例えば、本発明に係る異方性光学フィルムを用いる場合には、OLED表示パネルのカラーフィルター又はRGB発光層よりも視認側(出射光側)に、異方性光学フィルムを配置すればよい。
【実施例】
【0098】
6.実施例
次に、本発明を実施例及び比較例により、さらに具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0099】
6−1.異方性光学フィルムの作製
以下の方法に従って、本発明の単層又は複数層の異方性光拡散層を有する異方性光学フィルムを作製した。
【0100】
6−1−1.異方性光学フィルム1〜8の作製
実施例に使用する異方性光学フィルムを、以下の方法により作製した。
厚さ100μmの離型PETフィルム1の縁部全周に、ディスペンサーを使い、硬化性樹脂で高さ50μmの隔壁を形成した。この中に下記の紫外線硬化樹脂組成物を滴下し、滴下した液膜の表面を、PETフィルム1よりも剥離力が高く、かつ、JIS B0601−2001に準拠して求められた算術平均粗さRaがそれぞれ異なる、離型PETフィルム2(算術平均粗さRaが0.02μm)、3(算術平均粗さRaが0.05μm)又は4(算術平均粗さRaが0.08μm)のいずれかでカバーすることにより、50μmの厚さの未硬化樹脂組成物層の液膜を作製した。
具体的には、異方性光学フィルム1〜3、5、6の作製には離型PETフィルム2を、異方性光学フィルム7の作製には離型PETフィルム3を、そして、異方性光学フィルム4の作製には離型PETフィルム4を用いた。
なお、実施例の未硬化樹脂組成物層の組成は、全て同じものを使用した。
【0101】
6−1−1−1.紫外線硬化樹脂組成物
・シリコーン・ウレタン・アクリレート(屈折率:1.460、重量平均分子量:5,890) 20質量部
(RAHN社製、商品名:00−225/TM18)
・ネオペンチルグリコールジアクリレート(屈折率:1.450) 30質量部
(ダイセルサイテック社製、商品名Ebecryl145)
・ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート(屈折率:1.536) 15質量部
(ダイセルサイテック社製、商品名:Ebecyl150)
・フェノキシエチルアクリレート(屈折率:1.518) 40質量部
(共栄社化学製、商品名:ライトアクリレートPO−A)
・2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン 4質量部
(BASF社製、商品名:Irgacure651)
【0102】
続いて未硬化樹脂組成物層の液膜を加熱し、UVスポット光源(浜松ホトニクス社製、商品名:L2859−01)の落射用照射ユニットから、照射強度5mW/cm
2の平行光線である紫外線を、直接又は指向性拡散素子を介し、1分間照射することにより、
図4に示す様な、複数の柱状領域を有する単層の異方性光拡散層の両面に、PETフィルムを有する異方性光学フィルム1〜7を作製した。
具体的には、異方性光学フィルム1〜5の作製においては、指向性拡散素子を使用せず、異方性光学フィルム6及び7の作製においては、平行光線のアスペクト比を変更できる指向性拡散素子を使用した。
加えて、異方性光学フィルム1〜4、6、7の作製においては、未硬化樹脂組成物層の液膜平面に対し、法線方向(角度0°とする)の角度より平行光線を照射したが、異方性光学フィルム5の作製においては、上記法線方向に対し、15°傾けた角度より、平行光線を照射した。
又、異方性光学フィルム8は、上記で作製した異方性光学フィルム7を、2層分作製した後、各異方性光学フィルム7の離型PETフィルム3を剥がし、剥がした側の、各異方性光学フィルム7表面を、一方の異方性光学フィルム7における複数の柱状領域長径方向が、他方の異方性光学フィルム7の複数の柱状領域長径方向と、互いに垂直の関係となる様、一方の異方性光学フィルム7を、他方の異方性光学フィルム7に対し、90°回転させた状態で、厚さ10μmの透明粘着層を介して積層させて、作製した。
作製した異方性光学フィルム1〜8の特性を、以下、表1に示した。
【0103】
6−2.比較用光学フィルム1の作製
比較用光学フィルム1である、等方性拡散粘着層を、以下のようにして作製した。
【0104】
下記屈折率1.47のアクリル系粘着剤組成物100質量部に対し、粘着剤組成物とは屈折率の異なる微粒子として、シリコーン樹脂微粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、商品名:トスパール145)を、20質量部添加し、アジターにて30分間撹拌して、微粒子を分散させ、塗液とした。当該塗液を、コンマコーターを用いて、厚さ38μmで、JIS B 0601−2001に準拠して測定された算術平均粗さRaが、0.15μmである、離型PETフィルム5上に、溶剤乾燥後の膜厚が25μmになるように塗工し、乾燥させて、PET付きの等方性の拡散粘着層を作製した。さらに、拡散粘着層表面に対し、離型PETフィルム5よりも剥離力の高い、厚さ38μmの離型PETフィルム(リンテック社製、商品名:3801)をラミネートし、両面PET付きの等方性の拡散粘着層である、両面にPETフィルムを有する比較用光学フィルム1を作製した。
作製した比較用光学フィルム1の特性を、以下、表1に示した。
【0105】
6−2−1.アクリル系粘着剤組成物
・アクリル系粘着剤(全固形分濃度18.8%、溶剤:酢酸エチル、メチルエチルケトン) 100質量部
(綜研化学社製、商品名:SKダインTM206)
・イソシアネート系硬化剤 0.5質量部
(綜研化学社製、商品名:L−45)
・エポキシ系硬化剤 0.2質量部
(綜研化学社製、商品名:E−5XM)
【0106】
6−3.比較用光学フィルム2の作製
比較用光学フィルム2は、市販の厚さ120μmである、等方性光拡散フィルム(ツジデン社製、商品名:D120P)を使用した。
使用した比較用光学フィルム2の特性を、以下、表1に示した。
【0107】
【表1】
【0108】
6−5.測定
表1内異方性光学フィルム1〜8、比較用光学フィルム1、2の特性は、以下のようにして測定した。
【0109】
6−5−1.異方性光拡散層のヘイズ値の測定
表1の各光学フィルムのヘイズ値の測定は、日本電色社工業株式会社製のヘイズメーター、NDH−2000を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。ここで、ヘイズ値は、高いほど異方性光拡散層の拡散性が高いことを示す。
【0110】
6−5−2.散乱中心軸角度及び直線透過率の測定
図8に示した、光源の投光角、検出器の受光角を任意に可変できる変角光度計ゴニオフォトメータ(ジェネシア社製)を用いて、表1の各光学フィルムについて、直線透過光量の測定を行った。
光源からの直線光を受ける位置に検出器を固定し、その間のサンプルホルダーに、表1の各光学フィルムをサンプルとしてセットした。
図8の直線Vを中心として、サンプルを回転させ、サンプルへの各入射光角度に対応する直線透過光量を測定した。この直線Vは、比較用光学フィルム1、2では、任意とすることが可能であるが、異方性を有する異方性光学フィルム1〜8の場合、
図4に示したC−C軸を中心軸として回転させて、測定を行った。
以上の測定から直線透過率が算出され、表1の各光学フィルムの光学プロファイルを得た。この光学プロファイルから表1の各光学フィルムのフィルム平面の法線方向より入射した光の直線透過率と、当該光学プロファイルにおける、光拡散特性が略対称となる入射光角度である、散乱中心軸角度とを得た。結果を表1に示した。
【0111】
6−5−3.柱状領域のアスペクト比の測定(異方性光拡散層の表面観察)
表1の異方性光学フィルム1〜8の表面(作製時における紫外線照射側)を、光学顕微鏡で観察し、複数の柱状領域の、長径LA及び短径SAを、任意に20個の柱状領域分、測定した。測定した長径LA及び短径SAの平均値を算出し、平均長径LA/平均短径SAを、柱状領域のアスペクト比として算出した。
【0112】
6−5−4.算術平均粗さRaの測定
表1の各光学フィルムの算術平均粗さRaの測定は、小坂研究所社製のサーフコーダSE1700αを用いて、JIS B0601−2001に準拠して測定した。
【0113】
6−6.ヘッドマウントディスプレイの作製
市販のバックライト上に、OLED表示パネルとして、画素ピッチ326ppi(画素サイズ0.078mm×0.078mm)のカラーフィルターを用いる方式であるOLED表示パネルを配置し、カラーフィルターよりも視認側である、ガラス基板表面上に、上記で作製した、表1の各光学フィルムの離型PETフィルムを剥離した状態で積層させた。さらにその光学フィルム平面上部に、レンズ(倍率10倍)を配置することにより、実施例1〜8、比較例1、2のヘッドマウントディスプレイを作製した。又、比較例4として、光学フィルムを積層しないヘッドマウントディスプレイを作製した。作製した実施例1〜8、比較例1、2、4のヘッドマウントディスプレイの、使用した各光学フィルム及び特性を、以下、表2に示した。
【0114】
6−6−1.官能試験
作製した実施例1〜8、比較例1、2、4のヘッドマウントディスプレイの官能試験を行った。以下評価基準に従い、評価した結果を、表2に示した。
【0115】
6−6−1−1.ブラックマトリクス消し評価基準
◎:ブラックマトリクスがほとんど観測されない
○:ブラックマトリクスが薄くなって観測される
△:ブラックマトリクスがわずかに薄くなって観測される
【0116】
6−6−1−2.色付き評価基準
○:画素による色付き感を充分に抑制することができる
△:画素による色付き感をやや抑制することができる
×:画素による色付き感が見て取れる
【0117】
6−6−1−3.ボケ感評価基準
◎:画像表示が鮮明に観測される
○:画像表示がわずかにぼやけて観察される
△:画像表示がぼやけて観察される
【0118】
6−6−2.全光線透過率の測定
作製した実施例1〜8、比較例1、2、4のヘッドマウントディスプレイの全光線透過率の測定は、表1の各光学フィルムを除いたときの全光線透過率を100%として、日本電色社工業株式会社製のヘイズメーターNDH−2000を用いて測定した。
以下評価基準に従い、評価した結果を、表2に示した。
【0119】
6−6−2−1.全光線透過率評価基準
○:30%以上
×:30%未満
【0120】
【表2】
【0121】
表2結果より、実施例1〜8は、ブラックマトリクス消しの評価が△以上であり、色付きの評価も全て△以上であり、全光線透過率も35%以上と高かった。
従って、本発明異方性光学フィルムを用いたヘッドマウントディスプレイでは、ブラックマトリクスが観測しにくいので、画素によるざらつきが良好となるだけでなく、画素による色付き感を抑制し、全光線透過率も高いため、輝度低下も抑えることができた。
特に、実施例1、4、5、6は、ブラックマトリクス消し、色付き、ボケ感、全光線透過率の全ての評価項目において、高いレベルの特性をバランス良く有していた。
実施例7は、実施例の中でもアスペクト比が大きい異方性光学フィルムを使用しているため、縦又は横の一方向のみ、ブラックマトリクスを極めて観測しにくくさせることが出来た。
実施例8は、実施例7の異方性光学フィルムを、上記で述べた様に、柱状領域長径方向を考慮しながら、互いに90°回転させて積層させたものであり、縦横両方向のブラックマトリクスを極めて観察しにくくさせることができた。
なお、本実施例では、カラーフィルターを用いる方式であるOLED表示パネルを使用したが、RGB発光層を用いる方式であるOLED表示パネルを使用しても、同様の効果が期待できるものと考えられる。
【0122】
一方、比較例1、2、4は、表2評価項目のいずれかが×であった。
比較例1色付きの×評価は、等方性拡散粘着層を使用しているため、微粒子による光の拡散が生じ、これにより、光の干渉が起きて、画素による色つきが悪くなってしまったことが主要因であるもの、と考えられる。加えて色付きの悪下は、画面のちらつきを目立たせてしまった。さらに、表2より、比較例1は、全光線透過率が、本発明異方性光学フィルムと比較して低いため、輝度低下が大きくなってしまった。
比較例2は、比較例1よりも厚さが大きいため、ブラックマトリクス消しの評価は良好であったが、等方性拡散フィルムであるため、比較例1と同様の理由により、色付きが悪く、画面のちらつきを目立たせてしまったもの、と考えられ、さらに、表2より、全光線透過率が、本発明異方性光学フィルムと比較して低いため、輝度低下が大きくなってしまった。
また、比較例4は、光学フィルムを使用していないため、ブラックマトリクスが非常に目立つ結果となった。
【0123】
以上より、本発明の異方性光学フィルムを備えたヘッドマウントディスプレイは、ブラックマトリクスを観察しにくくする効果に加え、画素によるざらつき及び色付き感を抑制し、ボケ感が少なく、輝度の低下を抑えることが可能であり、より高い没入感を得ることができるものである。
【課題】 有機エレクトロルミネッセンス表示パネルからの光を、異方性光学フィルムによって拡散・透過させ、ブラックマトリクス(BM)の視認性を低下させ、色付きを感じず、より高い没入感が得られるヘッドマウントディスプレイの提供。
【解決手段】 有機エレクトロルミネッセンス表示パネル内のカラーフィルター又はRGB発光層よりも視認側に、入射光角度により直線透過率が変化する異方性光学フィルムを備えたヘッドマウントディスプレイであって、前記異方性光学フィルムは、少なくとも、単層又は複数層である異方性光拡散層を含み、前記異方性光拡散層は、マトリックス領域と、前記マトリックス領域とは屈折率の異なる複数の柱状領域とを有するものであることを特徴とするヘッドマウントディスプレイ。