(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581355
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】FFSモード液晶表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/139 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
G02F1/139
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-258685(P2014-258685)
(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2016-118683(P2016-118683A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年1月23日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501426046
【氏名又は名称】エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】桃井 優一
【審査官】
岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−019565(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/168545(WO,A1)
【文献】
特開2001−337338(JP,A)
【文献】
特開2000−330119(JP,A)
【文献】
特開平08−146373(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0132903(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13−1/141
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶表示パネルを備えるFFSモード液晶表示装置の製造方法であって、
前記液晶表示パネルは、室温環境下で7nC/cm2以上のイオン密度及び23秒以下の時定数を有し、
液晶層として用いる液晶材料をNI点以上の温度に2日以上加熱保持して比抵抗を低下させた後、前記液晶材料を注入して前記液晶表示パネルを作製する、FFSモード液晶表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記液晶表示パネルの液晶層が、3.0×1012Ω以下の比抵抗を有する、請求項1に記載のFFSモード液晶表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記イオン密度が12nC/cm2以上、前記時定数が14秒以下である、請求項1又は2に記載のFFSモード液晶表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記液晶表示パネルの液晶層が、フッ素系混合ネマティック液晶から形成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のFFSモード液晶表示装置の製造方法。
【請求項5】
前記FFSモード液晶表示装置が車載用である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のFFSモード液晶表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FFSモード液晶表示装置及びその製造方法に関し、特に、車載用のFFSモード液晶表示装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IPS(In-Plane Switching)モード液晶表示装置は、基板に対して平行に配向させた液晶分子を、基板に対して平行の電界(横電界)でスイッチングする方式の液晶表示装置であり、TNモードやVAモード等の他のモードの液晶表示装置に比べて視野角が広い等の特性を有している。他方、IPSモード液晶表示装置は、一方の基板(アレイ基板)のみに2組の櫛歯形状の電極(以下、「櫛歯電極」という)を形成しており、櫛歯電極上部は横電界にならず、液晶分子がスイッチングしない。そのため、IPSモード液晶表示装置は、光が透過する面積が狭く、開口率が低いという欠点がある。そこで、IPSモード液晶表示装置の低開口率の欠点を改善するために、FFS(Fringe Field Switching)モード液晶表示装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
FFSモード液晶表示装置は、基板に対して平行に配向させた液晶分子をフリンジ電界でスイッチングする方式の液晶表示装置であり、スイッチング動作がIPSモード液晶表示装置と同じであるため、視野角が広い等の特性を有している。また、FFSモード液晶表示装置は、面電極と櫛歯電極とを組み合わせ、電極に透明電極を用いているため、高い開口率を実現することができる。さらに、フリンジ電界は、IPSモードで発生する電界よりも電界強度が大きく、且つ面電極上の液晶分子もスイッチングするため、IPSモードでスイッチングが困難であった電極上部の液晶分子もスイッチングさせることができる。
【0004】
近年、液晶表示装置は、様々な分野で使用されているが、使用分野によって動作(性能)保証温度が異なる。例えば、一般的な家電製品用の液晶表示装置では、動作保証温度が0℃〜50℃であるのに対し、車載用の液晶表示装置では、動作保証温度が−30℃〜85℃である。したがって、車載用の液晶表示装置は、一般的な家電製品用の液晶表示装置に比べて、広い温度領域(特に、低温環境下)における動作保証を要求する。
【0005】
液晶表示装置に要求される性能の1つとしては、残像、焼き付き、フリッカ等の表示不良を防止することが挙げられる。ここで、「焼き付き」とは、長時間同じ画像を表示させていた場合に、次の画面に切り替えても前の画像が薄らと表示されたままになる現象である。また、「残像」とは、焼き付きと同じ現象であり、当該現象が比較的短時間で消える場合を指す。さらに、「フリッカ」とは、画面がちらつく現象である。残像、焼き付き、フリッカ等の表示不良は、直流(DC)電圧によって配向膜に蓄積された電荷が直ぐに緩和されずに残り、これが残留DC電圧として電極間の液晶層に加えられてしまうことに起因していると考えられている。
【0006】
従来、電荷の蓄積は、液晶表示装置を構成する液晶表示パネルの液晶層に含有される不純物イオンに主な原因があると考えられてきた。そのため、不純物イオンを低減した高比抵抗の(比抵抗が1.5×10
14Ω・cm以上の)液晶材料を用いて液晶層を形成することにより、残留DC電圧を低減する方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
しかしながら、FFSモード液晶表示装置では、電極構造が非対称であるため、液晶に含まれる不純物イオンが僅かであっても、電極構造が対称であるIPSモード等の他の方式と比べて電極に電荷が残留し易い。特に、車載用のFFSモード液晶表示装置の場合、低温環境下において電極間の抵抗が高くなるため、電極に電荷が残留した場合に電荷が抜ける速さが遅くなる。そのため、FFSモード液晶表示装置では、高比抵抗の液晶材料を用いて液晶層を形成しても、残留DC電圧を十分に低減することができず、残像、焼き付き、フリッカ等の表示不良を十分に抑制することができないという問題がある。
【0007】
他方、フリッカや焼き付き等の表示不良を抑制する方法として、低比抵抗の(比抵抗が10
9Ω・cm〜数10
12Ω・cmの)液晶材料を用いて液晶層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献3)。
しかしながら、この方法では、液晶材料の比抵抗を下げるためにドーパントを添加しなければならず、コストアップにつながる上、液晶表示装置の信頼特性が低下する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3742837号公報
【特許文献2】国際公開第2012/118006号
【特許文献3】特開平11−302652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、広い温度領域(特に、低温環境下)において残像、焼き付き、フリッカ等の表示不良を抑制することが可能なFFSモード液晶表示装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、不純物イオンを原因として発生する残留DC電圧が、表示不良の原因ではなく、むしろ低温環境下においては、不純物イオンが電荷を逃がす重要な役割を果たしており、表示不良を起こり難くする傾向があることを見出した。このような知見に基づいて、表示不良の原因について鋭意研究を続けた結果、FFSモード液晶表示装置に用いられる液晶表示パネルのイオン密度及び時定数が、広い温度領域(特に、低温環境下)における残像、焼き付き、フリッカ等の表示不良と密接に関係しているという知見に基づき、液晶表示パネルのイオン密度及び時定数を所定の範囲に制御することにより、上記の問題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、室温環境下で7nC/cm
2以上のイオン密度及び23秒以下の時定数を有する液晶表示パネルを備えることを特徴とするFFSモード液晶表示装置である。
また、本発明は、上記のFFSモード液晶表示装置の製造方法であって、液晶材料をNI点以上の温度に加熱保持した後、この液晶材料を液晶層として用いた液晶表示パネルを作製することを特徴とするFFSモード液晶表示装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、広い温度領域(特に、低温環境下)において残像、焼き付き、フリッカ等の表示不良を抑制することが可能なFFSモード液晶表示装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】FFSモード液晶表示装置に用いられる液晶表示パネルの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のFFSモード液晶表示装置及びその製造方法について図面を用いて説明する。
図1は、本発明のFFSモード液晶表示装置に用いられる液晶表示パネルの断面模式図である。
図1において、液晶表示パネル1は、対向した一対の基板2a,2bと、基板2aと基板2bとの間に挟持された液晶層3とを備えている。ここで、一般に、基板2aはアレイ基板、基板2bは対向基板と一般に称される。基板2aの液晶層3側の表面には、面電極4、絶縁層5(「バリア層」とも称される)、櫛歯電極6及び配向膜7が順次形成されている。また、基板2bの液晶層3側の表面には、配向膜7が形成されている。配向膜7には、ラビング処理が施されており、液晶層3中の液晶分子8を基板2a,2bに対して平行に配向させる。
【0015】
上記のような構造を有する液晶表示パネル1を備えたFFSモード液晶表示装置では、面電極4と櫛歯電極6との間にフリンジ電界(横電界)を発生させることにより、液晶分子8を基板2a,2bと平行な面内で回転させることができる。
なお、
図1の液晶表示パネル1は、基本的な構成のみを示しており、当該技術分野において公知の他の部材(例えば、偏光板など)を有することができる。
【0016】
液晶表示パネル1は、室温環境下で、イオン密度が7nC/cm
2以上、好ましくは10nC/cm
2以上、より好ましくは12nC/cm
2以上、最も好ましくは14nC/cm
2以上であり、且つ時定数が23秒以下、好ましくは18秒以下、より好ましくは15秒以下である。イオン密度の上限は、特に限定されないが、一般的に50nC/cm
2、好ましくは30nC/cm
2、さらに好ましくは25nC/cm
2、最も好ましくは20nC/cm
2である。また、時定数の下限は、特に限定されないが、一般的に1秒、好ましくは5秒、より好ましくは8秒、最も好ましくは11秒である。ここで、本明細書において「室温環境」とは、25℃のことを意味する。
ここで、本明細書において、液晶表示パネル1のイオン密度及び時定数は、東陽テクニカ株式会社製の液晶パネル評価システムLCM−3型などの市販の装置を用いて測定された値のことを意味する。イオン密度は、液晶層3中の単位面積あたりのイオン量であり、液晶層3中の不純物イオンの挙動を定量的に表す指標である。時定数は、測定された電極間の抵抗と容量との積である。
【0017】
液晶表示パネル1のイオン密度及び時定数は、様々な要因(画素設計、材料、工程条件)によって変化するが、画素設計変更はコストが高くリスクもあり、また、工程条件は条件変更に厳しい制約がある。他方、材料の選択は、コストの観点で有利であるため、液晶表示パネル1のイオン密度及び時定数を制御するための方法に最適である。例えば、液晶層3、絶縁層5及び配向膜7の種類は、電極間の抵抗に対する影響が大きく、特に液晶表示パネル1の時定数が大きく変化する要因となる。その中でも液晶層3の選択は、絶縁層5及び配向膜7の選択に比べて、電極間の抵抗の制御が容易であるため、本発明では、液晶表示パネル1のイオン密度及び時定数が上記の範囲となるように、液晶層3の種類を選択している。
【0018】
液晶層3は、液晶材料を用いて形成される。液晶材料としては高抵抗液晶を用いることが好ましい。ここで、本明細書において「高抵抗液晶」とは、室温条件下において1×10
13Ω以上の比抵抗を有する液晶のことを意味する。高抵抗液晶としては特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。ここで、本明細書において「比抵抗」とは、東陽テクニカ株式会社製の液晶比抵抗測定システムSR−6517型などの市販の装置を用いて測定された値のことを意味する。
また、液晶材料は、単一の液晶成分であっても、2種以上の液晶成分を含む混合液晶であってもよい。その中でも、フッ素系混合ネマティック液晶が好ましい。ここで、本明細書において「フッ素系混合ネマティック液晶」とは、1種以上のフッ素系ネマティック液晶を含む、液晶表示装置に採用されている混合液晶を意味する。このような混合液晶は、市販されているため、当該市販品を用いることができる。
【0019】
液晶表示パネル1のイオン密度及び時定数を上記の範囲に制御するためには、液晶表示パネル1における液晶層3の比抵抗を特定の範囲に制御することが好ましい。具体的には、液晶層3の比抵抗は、好ましくは3.0×10
12Ω以下、より好ましくは2.5×10
12Ω以下、さらに好ましくは2.1×10
12Ω以下である。
【0020】
液晶層3の比抵抗を上記の範囲に制御するためには、液晶材料(高抵抗液晶)を液晶材料のNI点以上の温度(液晶材料の種類にもよるが、一般的に100℃〜200℃、好ましくは120℃〜180℃、より好ましくは140℃〜160℃)に加熱保持すればよい。加熱温度が液晶材料のNI点未満であると、液晶層3の比抵抗率を上記の範囲に制御することができない。高温保持時間は、特に限定されないが、好ましくは2日以上、より好ましくは5日以上である。
【0021】
液晶表示パネル1を構成するその他の部材の種類は、特に限定されず、当該技術分野において公知の材料を用いることができる。例えば、基板2aとしては、液晶層側にTFTなどのアクティブ素子とサブ画素となる電極がマトリックス状に設けられたアクティブマトリックス基板であることが好ましい。基板2bとしては、ガラス基板であることが好ましい。面電極4及び櫛歯電極6としては、ITO、IZO等の透明導電性材料から形成されることが好ましい。絶縁層5としては、窒化ケイ素や酸化ケイ素等の透明絶縁材料から形成されることが好ましい。配向膜7としては、ポリイミド膜であることが好ましい。
【0022】
本発明のFFSモード液晶表示装置は、当該技術分野において公知のFFSモード液晶表示装置の製造方法に準じて製造することができる。ただし、液晶表示パネル1のイオン密度及び時定数を所定の範囲に制御するために、液晶材料をNI点以上の温度に加熱保持した後、この液晶材料を液晶層3として用いた液晶表示パネル1を作製する必要がある。
【0023】
このようにして製造される本発明のFFSモード液晶表示装置は、低温環境下において残像、焼き付き、フリッカ等の表示不良を抑制することができる。したがって、本発明のFFSモード液晶表示装置は、広い温度領域(特に、低温環境下)における動作保証が要求される車載用のFFSモード液晶表示装置として用いるのに特に適している。
【実施例】
【0024】
以下、実施例及び比較例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(サンプルA〜D)
市販の高抵抗液晶(フッ素系混合ネマティック液晶、比抵抗1.28×10
13Ω、NI点108.5℃)を液晶層に用いて
図1に示す液晶表示パネルを作製した。なお、アレイ基板としてはアクティブマトリックス基板、対向基板としてはガラス基板、面電極及び櫛歯電極としてはITO電極、配向膜としてはポリイミド膜を用いた。また、液晶表示パネルは、当該技術分野において公知の方法に準じて作製した。
【0025】
(サンプルE〜H)
市販の高抵抗液晶(フッ素系混合ネマティック液晶、比抵抗1.28×10
13Ω、NI点108.5℃)を150℃で2日間加熱保持することによって高抵抗液晶の比抵抗を2.86×10
12Ωに低下させた。その後、この高抵抗液晶を液晶層に用いて
図1に示す液晶表示パネルを作製した。その他の条件については、サンプルA〜Dと同様にした。
(サンプルI及びJ)
市販の高抵抗液晶(フッ素系混合ネマティック液晶、比抵抗1.28×10
13Ω、NI点108.5℃)を150℃で5日間加熱保持することによって高抵抗液晶の比抵抗を2.00×10
12Ωに低下させた。その後、この高抵抗液晶を液晶層に用いて
図1に示す液晶表示パネルを作製した。その他の条件については、サンプルA〜Dと同様にした。
【0026】
上記で得られた液晶表示パネルにおいて、イオン密度、時定数、−30℃での表示不良(特に、残像)、及び液晶層の比抵抗を評価した。
イオン密度及び時定数は、東陽テクニカ株式会社製の液晶パネル評価システムLCM−3型を用いて測定した。
−30℃での表示不良は、次の通りにして評価した。まず、液晶表示パネルをモジュールにアッセンブリし、点灯表示用システムとの配線を行った。次に、液晶表示パネルを恒温チャンバ(エスペック株式会社製)に入れて−30℃にした後、白黒のチェッカーパターンを1分間表示させた。次に、表示面全体をグレースケール(256階調の31)にして、暗室環境下にて恒温チャンバの外からガラス扉越しの目視観察によってチェッカーパターンの残像の程度を評価した。この評価において、残像がなかったものを○、僅かな残像(ただし、実際の使用においては問題にならない程度の残像)が観察されたものを△、はっきりと残像が観察されたものを×と表す。
液晶層の比抵抗は、東陽テクニカ株式会社製の液晶比抵抗測定システムSR−6517型を用いて測定した。
上記の各評価結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1の結果に示されているように、イオン密度が7nC/cm
2以上であり且つ時定数が23秒以下である液晶表示パネルでは、−30℃における表示不良を抑制することができたのに対し、イオン密度が7nC/cm
2未満又は時定数が23秒超過である液晶表示パネルでは、−30℃において表示不良が生じた。
【0029】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、広い温度領域(特に、低温環境下)において残像、焼き付き、フリッカ等の表示不良を抑制することが可能なFFSモード液晶表示装置及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 液晶表示パネル、2a,2b 基板、3 液晶層、4 面電極、5 絶縁層、6 櫛歯電極、7 配向膜、8 液晶分子。