【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
【文献】
SIESEL, David A. et al.,Synthesis of Bridged Dicyclooctatetraenens and Alkynylcyclooctatetraenes by Palladium-Catalyzed Coup,Tetrahedron Letters,英国,1993年,Vol.34, No.23,p.3679-3682
【文献】
SIESEL, David A. et al.,Symthetic Routes to Bridged Dicyclooctatetraenes and Alkynylcyclooctatetraenes,Journal of Organic Chemistry,1993年,vol.58,p.7870-7875
【文献】
EATON, Philip E. et al.,Synthesis of Alkynylcyclooctatetraenes and Alkynylcubanes,Journal of Organic Chemistry,1991年,vol.56,p.5138-5142
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機レーザー色素を利用したレーザー発振素子を開発するための研究が盛んに行われている。有機レーザー色素は、励起一重項状態から基底状態に遷移する際に自然放出する光を種火として誘導放出(自然放出光の増幅:ASE)を生じる有機化合物であり、有機レーザー色素を利用したレーザー発振素子が実現すれば、柔軟性と豊富な発光色が得られ、様々な分野で高い有用性が得られることが期待される。
こうしたレーザー発振素子を開発する上で障害になっているのが、三重項励起状態の蓄積の問題である。すなわち、有機レーザー色素において誘導放出を継続させるには、誘導放出を生じる励起一重項状態を増やすことと、誘導放出の種火となる光の損失を抑制することが重要になる。しかしながら、有機レーザー色素のような発光材料では、励起一重項状態に励起された後、一部の励起一重項状態が励起三重項状態に遷移する項間交差が生じる。これにより、励起三重項状態が蓄積すると、(1)励起一重項状態と励起三重項状態の相互作用により、励起一重項エネルギーが、励起三重項状態がより高いエネルギー準位に遷移することに消費される自己消光や、(2)自然放出または誘導放出された光を吸収して励起三重項状態がより高いエネルギー準位に遷移する現象が生じ、誘導放出が阻害されてしまう。そこで、こうした有機レーザー色素の励起三重項状態を除去する三重項除去剤を模索する検討がなされている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、ホストとなるAlq
3(aluminum tris-8-hydoroxyquinline)と、ゲストとなるDCM2(4-(dicyanomethylene)-6-methyl-2-[2-(Juroridin 9-yl)ethyl]-4H-pyran)と、下記式で表されるアントラセン誘導体からなる発光層を作製したことが記載されている。ここで、アントラセン誘導体は、Alq
3やDCM2よりも励起一重項エネルギー準位が高く、励起三重項エネルギー準位が低いため、アントラセン誘導体の励起一重項エネルギーはAlq
3およびDCM2に容易に移動し、Alq
3やDCM2の励起三重項エネルギーはアントラセン誘導体に容易に移動する。これにより、アントラセン誘導体はDCM2の励起三重項状態を除去または軽減する三重項除去剤として機能するものと考えられる。同文献には、発光層にアントラセン誘導体を添加することにより発光強度の減衰が抑えられたことを確認した測定結果が示されている。
【0004】
【化1】
【0005】
非特許文献2には、PF2/6(Poly[9,9-di-(2′-ethylhexyl)fluorenyl-2,7-diyl]と、下記式で表されるシクロオクタテトラエンからなる発光層を作製したことが記載されている。ここで、シクロオクタテトラエンは平面型の配座をとっているとき、PF2/6よりも励起一重項エネルギー準位が高く、励起三重項エネルギー準位が低いため、PF2/6の励起三重項状態を除去または軽減する三重項除去剤として機能するものと考えられる。同文献には、PF2/6とシクロオクタテトラエンからなる発光層で、PF2/6のみからなる発光層よりもリン光の発光強度が小さくなったこと示す測定結果が示されている。この測定結果は、シクロオクタテトラエンが三重項除去剤として機能することを支持するものである。
【0006】
【化2】
【0007】
このように、各文献には、アントラセン誘導体およびシクロオクタテトラエンが三重項除去剤として機能することが記載されている。しかしながら、本発明者らが検討したところ、これらの化合物を実際にレーザー発振素子の三重項除去剤として用いようとすると、下記のような不都合が生じることが判明した。
まず、非特許文献1に記載のアントラセン誘導体は、可視領域に大きな吸収をもつため、組み合わせる有機レーザー色素の発光波長が、アントラセン誘導体の可視吸収領域と重ならない範囲に制約されてしまう。このため、アントラセン誘導体は、三重項除去剤としての汎用性が低い。
これに対して、非特許文献2に記載のシクロオクタテトラエンは、可視領域に吸収がないため、組み合わせる有機レーザー色素の選択の幅が広く、汎用的に用いることができる。しかし、シクロオクタテトラエンは、室温で液体であるとともに、沸点が140℃で揮発し易い。このため、真空蒸着法のような真空プロセスでレーザー発振素子を製造しようとすると、電極等の他の層を形成している間に、先に成膜した発光層からシクロオクタテトラエンが揮発し、所期のレーザー発振素子を得ることができない。また、塗布法を用いる場合にも、例えばスピンコート法では成膜中にシクロオクタテトラエンが溶媒とともに飛散してしまい、シクロオクタテトラエンを含む薄膜をうまく形成することができない。また、膜材料を揮発させ難い成膜法としてドロップキャスト法があるが、ドロップキャスト法は寸法精度が低く、これを用いて発光層等を形成しても不均一な薄膜しか形成することができない。これにより、得られるレーザー発振素子の発光効率が低くなることは必至である。
【0008】
一方、シクロオクタテトラエン環を有する化合物として固体のものも報告されている。
例えば、非特許文献3には、下記式で表される固体のシクロオクタテトラエン誘導体が開示され、この化合物が色素の励起三重項状態を除去する効果があることが記載されている。
【化3】
【0009】
非特許文献4および5には、下記式で表される固体のシクロオクタテトラエン誘導体が開示され、
【化4】
非特許文献6には、下記式で表される固体のシクロオクタテトラエン誘導体が開示され、
【化5】
【0010】
非特許文献7には、下記式で表される固体のシクロオクタテトラエン誘導体が開示されている。
【化6】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべて
1Hであってもよいし、一部または全部が
2H(デューテリウムD)であってもよい。
【0019】
[一般式(1)で表される化合物]
本発明の三重項除去剤は、下記一般式(1)で表され且つ融点が25℃以上である化合物からなることを特徴とする。
【0021】
一般式(1)において、Zは、置換もしくは無置換のエチニル基、または、酸素原子もしくは硫黄原子を介して結合する置換基を表す。Zは、置換もしくは無置換のエチニル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、または、置換もしくは無置換のアリールチオ基であることが好ましい。
置換もしくは無置換のエチニル基は、炭素数が2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましく、また、100以下であることが好ましく、80以下であることがより好ましく、60以下であることがさらに好ましい。置換もしくは無置換のアルコキシ基と、置換もしくは無置換のアルキルチオ基は、炭素数が1以上であり、3以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、また、100以下であることが好ましく、80以下であることがより好ましく、60以下であることがさらに好ましい。置換もしくは無置換のアリールオキシ基と、置換もしくは無置換のアリールチオ基は、炭素数が3以上であり、6以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、また、100以下であることが好ましく、80以下であることがより好ましく、60以下であることがさらに好ましい。
アルコキシ基はアルキル基にエーテル基(ーO−)が結合したものであり、アルキルチオ基はアルキル基にチオエーテル基(−S−)が結合したものである。これらのアルキル基を含む本明細書中のアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、具体例としてメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基を挙げることができる。アリールオキシ基はアリール基にエーテル基(ーO−)が結合したものであり、アリールチオ基はアリール基にチオエーテル基(−S−)が結合したものである。これらのアリール基を含む本明細書中のアリール基は、単環でも融合環でもよく、また芳香環を構成する環骨格原子の中に複素原子が含まれていてもよい。複素原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子を挙げることができる。複素原子を含むアリール基は、複素原子を介して結合してもよいし、芳香環を構成する炭素原子を介して結合してもよい。アリール基を構成する芳香環として、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、2H−ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾ−ル環、フラザン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環を挙げることができる。アリール基の具体例として、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、トリアジル基、トリアゾリル基、ベンゾトリアゾリル基を挙げることができる。
【0022】
一般式(1)におけるZは、下記の構造を有する置換エチニル基であることがより好ましい。
【0024】
上式において、Xは置換基である。Xは、特に制限されるものではないが、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアルキニル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアリールチオ基、置換アミノ基、シアノ基が好ましい。より好ましくは、炭素数が1〜100(さらに好ましくは炭素数1〜20、さらにより好ましくは炭素数1〜10)の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数が1〜100(さらに好ましくは炭素数1〜20、さらにより好ましくは炭素数1〜10)の置換もしくは無置換のアルケニル基、炭素数が1〜100(さらに好ましくは炭素数1〜20、さらにより好ましくは炭素数1〜10)の置換もしくは無置換のアルキニル基、炭素数が1〜100(さらに好ましくは炭素数1〜20、さらにより好ましくは炭素数1〜10)の置換もしくは無置換のアルコキシ基、炭素数が1〜100(さらに好ましくは炭素数1〜20、さらにより好ましくは炭素数1〜10)の置換もしくは無置換のアルキルチオ基、炭素数が6〜100(さらに好ましくは炭素数6〜20、さらにより好ましくは炭素数6〜10)の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数が1〜100(さらに好ましくは炭素数6〜20、さらにより好ましくは炭素数6〜10)の置換もしくは無置換のアリールオキシ基、炭素数が1〜100(さらに好ましくは炭素数6〜20、さらにより好ましくは炭素数6〜10)の置換もしくは無置換のアリールチオ基、炭素数が1〜100(さらに好ましくは炭素数1〜20、さらにより好ましくは炭素数1〜10)の置換アミノ基、シアノ基である。
上記のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アミノ基に置換していてもよい置換基は、特に制限されるものではないが、例えば、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数1〜20のアルキル置換アミノ基、炭素数2〜20のアシル基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数3〜40のヘテロアリール基、炭素数12〜40のジアリールアミノ基、炭素数12〜40の置換もしくは無置換のカルバゾリル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜10のアルキルスルホニル基、炭素数1〜10のハロアルキル基、アミド基、炭素数2〜10のアルキルアミド基、炭素数3〜20のトリアルキルシリル基、炭素数4〜20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルキニル基およびニトロ基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。
【0025】
Xの置換基としてさらに好ましいのは、置換もしくは無置換のジフェニルアミノ基、置換もしくは無置換のジフェニルメチル基であり、さらにより好ましいのは、置換もしくは無置換のジフェニルアミノ基である。また、置換もしくは無置換のジフェニルアミノ基または置換もしくは無置換のジフェニルメチル基の2つのフェニル基が単結合や2価の連結基により連結して三環構造を形成した環状基もエチニル基の置換基として好ましい。そのような三環構造を有する環状基の好ましい例として、置換もしくは無置換の9−カルバゾリル基、置換もしくは無置換の9−フルオレニル基を挙げることができ、より好ましいのは置換もしくは無置換の9−カルバゾリル基である。9−カルバゾリル基および9−フルオレニル基における置換基の位置は、特に制限されないが、2位、3位、6位、7位の少なくともいずれかであることが好ましく、2位または3位と6位または7位であることがより好ましく、2位と7位、または3位と6位であることがより好ましい。また、9−フルオレニル基では9位がメチル基等のアルキル基で置換されていることが好ましい。9−カルバゾリル基および9−フルオレニル基に置換する置換基は特に制限されず、例えば、上記のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アミノ基に置換していてもよい置換基として説明した基を挙げることができる。9−カルバゾリル基に置換する置換基は、炭素数が1〜100のアルキル基(さらに好ましくは炭素数1〜20、さらにより好ましくは炭素数1〜10)であることが好ましく、炭素数が1〜100(さらに好ましくは炭素数1〜20、さらにより好ましくは炭素数1〜10)の分枝状のアルキル基であることがより好ましく、t−ブチル基であることがより好ましい。
【0026】
一般式(1)におけるmは1〜8のいずれかの整数を表し、1〜4であることが好ましく、1または2であることが好ましく、1であることがさらに好ましい。mが2以上であるとき、複数のZは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
一般式(1)におけるRはZ以外の置換基を表し、置換基の種類は特に制限されない。例えば、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数2〜50のアルケニル基、炭素数2〜50のアルキニル基、炭素数1〜50のアルコキシ基、炭素数1〜50のアルキルチオ基、炭素数1〜50のアルキル置換アミノ基、炭素数2〜50のアシル基、炭素数6〜50のアリール基、炭素数3〜50のヘテロアリール基、炭素数12〜50のジアリールアミノ基、炭素数12〜50の置換もしくは無置換のカルバゾリル基、炭素数2〜50のアルケニル基、炭素数2〜50のアルキニル基、炭素数2〜50のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜50のアルキルスルホニル基、炭素数1〜50のハロアルキル基、アミド基、炭素数2〜50のアルキルアミド基、炭素数3〜50のトリアルキルシリル基、炭素数4〜50のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5〜50のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5〜50のトリアルキルシリルアルキニル基およびニトロ基を挙げることができる。
【0028】
一般式(1)におけるnは0〜7のいずれかの整数を表す。すなわち、一般式(1)で表される化合物のシクロオクタテトラエン環において、Zで置換されていないメチン基は置換基で置換されていてもよいし、無置換であってもよいが、Zで置換されていないメチン基の少なくとも1つは無置換であることが好ましく、Zで置換されていないメチン基の全てが無置換であること(nが0であること)がより好ましい。nが2以上であるとき、複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0029】
m+nは1〜8のいずれかの整数であり、1〜4であることが好ましく、1または2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
【0030】
一般式(1)で表される化合物のうち好ましいものは、nが0であって、mが1〜8の化合物である。すなわち、一般式(1)で表される化合物のシクロオクタテトラエン環に置換する置換基は、全てが置換もしくは無置換のエチニル基、酸素原子もしくは硫黄原子を介して結合する置換基であることが好ましく、全てが置換もしくは無置換のエチニル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、または、置換もしくは無置換のアリールチオ基であることがより好ましい。また、これらの置換基がシクロオクタテトラエン環に置換する数mは、シクロオクタテトラエン環の立体配座間の相互変化を阻害しない点等から1〜4であることが好ましい。
【0031】
本発明の三重項除去剤は、一般式(1)で表され且つ融点が25℃以上であることを特徴とする。
本発明における三重項除去剤の「融点」は、示差走査熱量分析法で測定された温度である。
融点が25℃以上の三重項除去剤は、成膜を行う通常の環境下で固体として存在させ易く、成膜時の揮発の問題を軽減することができる。このため、例えば、この三重項除去剤を含む溶液を用いてスピンコート法により薄膜を成膜した場合には、スピンコート時の三重項除去剤の飛散が抑えられ、三重項除去剤を含有する薄膜を容易に得ることができる。また、真空プロセスを用いた場合には、電極等の他の薄膜を成膜している間に、先に成膜した三重項除去剤を含む薄膜から三重項除去剤が揮発して失われるのが抑えられ、所期の性能を有するデバイスを得やすくなる。三重項除去剤の融点は50〜500℃であることが好ましく、100〜500℃であることがより好ましく、300〜500℃であることがさらに好ましい。これにより、三重項除去剤をより揮発し難いものとすることができる。
【0032】
さらに、三重項除去剤の揮発を抑えるとともに加熱蒸着を容易にする点から、三重項除去剤の沸点は、100〜550℃であることが好ましく、200〜500℃であることがより好ましく、300〜400℃であることがさらに好ましい。
本明細書中において三重項除去剤の「沸点」は、熱重量測定法で測定された温度である。
【0033】
以下において、一般式(1)で表され且つ融点が25℃以下である化合物の具体例を例示し、化合物番号の隣のかっこ内に、各化合物の融点を示す。ただし、本発明において用いることができる一般式(1)で表され且つ融点が25℃以下である化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0035】
一般式(1)で表され且つ融点が25℃以下である化合物の分子量は、例えば一般式(1)で表される化合物を含む有機層を蒸着法により製膜して利用することを意図する場合には、1500以下であることが好ましく、1200以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、800以下であることがさらにより好ましい。
一般式(1)で表される化合物は、分子量にかかわらず塗布法で成膜してもよい。塗布法を用いれば、分子量が比較的大きな化合物であっても成膜することが可能である。
【0036】
本発明を応用して、一般式(1)で表され且つ融点が25℃以下である化合物から水素原子を除いた残基を分子内に複数個含む化合物を、三重項除去剤として用いることも考えられる。
例えば、一般式(1)で表される構造中にあらかじめ重合性基を存在させておいて、その重合性基を重合させることによって得られる重合体を、三重項除去剤として用いることが考えられる。具体的には、一般式(1)のZおよびRのいずれかに重合性官能基を含むモノマーを用意して、これを単独で重合させるか、他のモノマーとともに共重合させることにより、繰り返し単位を有する重合体を得て、その重合体を三重項除去剤として用いることが考えられる。あるいは、一般式(1)で表される構造を有する化合物どうしをカップリングさせることにより、二量体や三量体を得て、それらを三重項除去剤として用いることも考えられる。
【0037】
一般式(1)で表される構造を含む繰り返し単位を有する重合体の例として、下記一般式(3)または(4)で表される構造を含む重合体を挙げることができる。
【化14】
【0038】
一般式(3)または(4)において、Qは一般式(1)で表される構造を含む基を表し、L
1およびL
2は連結基を表す。連結基の炭素数は、好ましくは0〜20であり、より好ましくは1〜15であり、さらに好ましくは2〜10である。連結基は−X
11−L
11−で表される構造を有するものであることが好ましい。ここで、X
11は酸素原子または硫黄原子を表し、酸素原子であることが好ましい。L
11は連結基を表し、置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましく、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のフェニレン基であることがより好ましい。
一般式(3)または(4)において、R
101、R
102、R
103およびR
104は、各々独立に置換基を表す。好ましくは、炭素数1〜6の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜6の置換もしくは無置換のアルコキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは炭素数1〜3の無置換のアルキル基、炭素数1〜3の無置換のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子であり、さらに好ましくは炭素数1〜3の無置換のアルキル基、炭素数1〜3の無置換のアルコキシ基である。
L
1およびL
2で表される連結基は、Qを構成する一般式(1)の構造のZおよびRのいずれかに結合することができる。1つのQに対して連結基が2つ以上連結して架橋構造や網目構造を形成していてもよい。
【0039】
繰り返し単位の具体的な構造例として、下記式(5)〜(8)で表される構造を挙げることができる。
【化15】
【0040】
これらの式(5)〜(8)を含む繰り返し単位を有する重合体は、一般式(1)の構造のZおよびRのいずれかにヒドロキシ基を導入しておき、それをリンカーとして下記化合物を反応させて重合性基を導入し、その重合性基を重合させることにより合成することができる。
【化16】
【0041】
分子内に一般式(1)で表される構造を含む重合体は、一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位のみからなる重合体であってもよいし、それ以外の構造を有する繰り返し単位を含む重合体であってもよい。また、重合体の中に含まれる一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位は、単一種であってもよいし、2種以上であってもよい。一般式(1)で表される構造を有さない繰り返し単位としては、通常の共重合に用いられるモノマーから誘導されるものを挙げることができる。例えば、エチレン、スチレンなどのエチレン性不飽和結合を有するモノマーから誘導される繰り返し単位を挙げることができる。
【0042】
[一般式(2)で表される化合物]
一般式(1)で表される化合物のうち、下記一般式(2)で表される化合物は新規化合物である。
【化17】
上式において、Xは置換基であり、mは1〜8のいずれかの整数を表す。mが2以上であるとき、複数のXは互いに同一であっても異なっていてもよい。R’は
【化18】
以外の置換基を表し、nは0〜7のいずれかの整数を表す。nが2以上であるとき、複数のR’は互いに同一であっても異なっていてもよい。m+nは1〜8のいずれかの整数である。
一般式(2)におけるX、R’m、nの説明と好ましい範囲については、それぞれ一般式(1)におけるX、R、m、nの説明を参照することができる。ただし、Xがシクロオクタテトラエニルエチニルフェニル基であるとき、m+nは2〜8のいずれかの整数である。
【0043】
[一般式(2)で表される化合物の合成方法]
一般式(2)で表される化合物は、既知の反応を組み合わせることによって合成することができる。例えば、一般式(2)のXが3,6−置換−9−カルバゾリル基である化合物は、以下の2つのステップで合成することが可能である。
【0045】
上記の反応式におけるR
1は置換基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。R
1がとりうる置換基の説明と好ましい範囲については、一般式(1)におけるX等がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。A
1およびA
2はハロゲン原子を表し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。
上記の反応は、公知の反応を応用したものであり、公知の反応条件を適宜選択して用いることができる。上記の反応の詳細については、後述の合成例を参考にすることができる。また、一般式(2)で表される化合物は、その他の公知の合成反応を組み合わせることによっても合成することができる。
【0046】
[薄膜]
本発明の一般式(1)で表され且つ融点が25℃以上の化合物は、有機レーザー色素の励起三重項状態を除去または軽減する三重項除去剤として有用である。このため、本発明の一般式(1)で表され且つ融点が25℃以上の化合物と有機レーザー色素を組み合わせて薄膜を構成することにより、この化合物が有機レーザー色素の励起三重項状態を効果的に除去または軽減し、有機レーザー色素から自然放射増幅光を効率よく放射させることができる。また、一般式(1)で表される化合物は、可視領域に吸収がないものとして分子設計することができるため、有機レーザー色素として幅広い化合物を使用することが可能である。言い換えれば、一般式(1)で表され且つ融点が25℃以上の化合物は三重項除去剤として高い汎用性を有する。さらに、一般式(1)で表され且つ融点が25℃以上の化合物は、上記のようにスピンコートによって均一な薄膜を成膜することが可能であり、また、真空プロセスを含む加工工程を経ても比較的揮発し難いという利点を有する。
【0047】
以下において、有機レーザー色素と、一般式(1)で表され且つ融点が25℃以上の化合物からなる三重項除去剤を含む薄膜(本発明の薄膜)について詳細に説明する。
三重項除去剤の説明については、上記の[三重項除去剤]の欄の説明を参照することができる。
本発明において「有機レーザー色素」とは、エネルギーが供給されることにより自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)を起こす有機化合物のことをいう。
有機レーザー色素に自然放射増幅光を放射させるエネルギーは、光エネルギーであってもよいし、正孔と電子の再結合により生じた再結合エネルギーであってもよい。
こうした薄膜では、励起光の照射により有機レーザー色素が励起一重項状態に励起されるか、薄膜に注入された正孔と電子との再結合エネルギーにより有機レーザー色素が励起一重項状態と励起三重項状態に励起されると、励起一重項状態から基底状態に遷移する際に光が自然放出され、この自然放出光を種火として誘導放出(自然放射増幅光の放射)が生じる。また、それと同時に、励起一重項状態の一部が励起三重項状態へ遷移する項間交差が生じる。このとき、本発明では、薄膜に含まれる三重項除去剤の作用により有機レーザー色素の励起三重項状態が除去または軽減されるため、有機レーザー色素の分子上で励起三重項状態が蓄積せず、励起一重項状態と励起三重項状態の相互作用による自己消光や励起三重項状態の高準位遷移に伴う光吸収が抑えられる。このため、有機レーザー色素から自然放射増幅光を効率よく放射させることができる。本発明の三重項除去剤が有機レーザー色素の励起三重項状態を効果的に除去または軽減するのは、以下の機構によるものと推測している。
すなわち、
図1に示すように、本発明の三重項除去剤が有するシクロオクタテトラエン環は通常は舟型をしているが、薄膜にエネルギーが供給された状態では平面型に変換し、基底準位E
S0と最低励起三重項エネルギー準位E
T1のエネルギー差ΔE(S
0)が舟型のそれよりも小さくなる。これにより、有機レーザー色素の励起三重項エネルギーが三重項除去剤にデクスター移動し易くなり、有機レーザー色素の励起三重項状態が効率よく減少するものと考えられる。
【0048】
本発明の薄膜において、三重項除去剤としては、一般式(1)で表され且つ融点が25℃以上である化合物群から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
有機レーザー色素としては、自然放射増幅光を放射する有機化合物であれば特に制約なく使用することができるが、三重項除去剤の機能を効果的に得る観点から、その最低励起三重項エネルギー準位が、本発明の三重項除去剤の平面型での最低励起三重項エネルギー準位E
T1よりも0.1eV以上高い値を有するものを用いることが好ましい。例えば、平面型での最低励起三重項エネルギー準位E
T1よりも0.2eV以上高い値を有するものや、平面型での最低励起三重項エネルギー準位E
T1よりも0.3eV以上高い値を有するものなどを使用することができる。化合物1と組み合わせる有機レーザー色素の好ましい例として、下記化合物を挙げることができる。ただし、本発明において三重項除去剤と組み合わせることができる有機レーザー色素はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0050】
本発明の薄膜が高い発光効率を発現するためには、薄膜に供給されたエネルギーを効率よく励起一重項エネルギーに変換して有機レーザー色素に移動させ、有機レーザー色素に生成した一重項励起子を、この有機レーザー色素中に閉じ込めることが重要である。従って、薄膜中に三重項除去剤および有機レーザー色素に加えてホスト材料を用いることが好ましい。ホスト材料としては、最低励起一重項エネルギー準位が有機レーザー色素よりも高い値を有する有機化合物を用いることができる。その結果、ホスト材料で生成した励起一重項エネルギーを容易に有機レーザー色素に移動させるとともに、有機レーザー色素に生成した一重項励起子を、この有機レーザー色素の分子中に閉じ込めることが可能となり、その発光効率を十分に引き出すことが可能となる。もっとも、一重項励起子および三重項励起子を十分に閉じ込めることができなくても、高い発光効率を得ることが可能な場合もあるため、高い発光効率を実現しうるホスト材料であれば特に制約なく本発明に用いることができる。本発明の薄膜において、自然放射増幅光の放射は有機レーザー色素から生じる。薄膜からの発光は、自然放射増幅光の他に、自然放出された蛍光発光、遅延蛍光発光およびリン光発光のすくなくともいずれかが含まれていてもよい。また、発光の一部或いは部分的に三重項除去剤やホスト材料からの発光があってもかまわない。
【0051】
薄膜がホスト材料を含まない場合、薄膜における三重項除去剤の含有率は、1〜99重量%であることが好ましく、50〜99重量%であることがより好ましく、70〜99重量%であることがさらに好ましい。有機レーザー色素の含有率は、1〜99重量%であることが好ましく、1〜50重量%であることがより好ましく、1〜30重量%であることがさらに好ましい。
薄膜がホスト材料を含む場合、薄膜における三重項除去剤の含有率は、1〜99重量%であることが好ましく、10〜99重量%であることがより好ましく、20〜99重量%であることがさらに好ましい。有機レーザー色素の含有率は、1〜99重量%であることが好ましく、1〜90重量%であることがより好ましく、1〜80重量%であることがさらに好ましい。
薄膜に用いるホスト材料は、高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。また、薄膜を特に正孔と電子の再結合エネルギーにより励起する場合には、ホスト材料として、正孔の電流正孔輸送能、電子輸送能を有するものを用いることが好ましい。
薄膜の厚さは、その用途に応じて適宜選択することができ、例えばレーザー発振素子の発光層として用いる場合には、10〜1000nmであることが好ましく、50〜1000nmであることがより好ましく、100〜1000nmであることがさらに好ましい。
【0052】
[レーザー発振素子の構成]
有機レーザー色素と、本発明の一般式(1)で表され且つ融点が25℃以上の化合物からなる三重項除去剤を含む薄膜は自然増幅放出光を効率よく放射することができるため、レーザー発振素子の発光部に用いることにより、発光効率が高く、レーザー発振を定常的に行うことができるレーザー発振素子を提供することができる。
【0053】
以下において、有機レーザー色素と、本発明の三重項除去剤を含む薄膜を発光部に用いるレーザー発振素子(本発明のレーザー発振素子)について説明する。
図2に示すようにレーザー発振素子は、平行に配置された一対のミラー8、8と、一対のミラー8、8同士の間に配置された発光部10を有する。一対のミラー8、8は発光部10から誘導放出された光(自然放射増幅光)を反射して定常波を形成する共振器を構成する。発光部10は、有機レーザー色素と本発明の三重項除去剤を含む薄膜を有し、有機レーザー色素の誘導放出により増幅された光を周囲に放射するように構成されている。なお、以下のレーザー発振素子についての説明では、有機レーザー色素と本発明の三重項除去剤を含む薄膜を「発光層」ということがある。
発光部10は、光エネルギーの供給により自然増幅放出光を放射する光励起型の発光部であってもよいし、正孔と電子の再結合エネルギーにより自然増幅放出光を放射する電流励起型の発光部であってもよい。光励起型の発光部は、基板上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。また、電流励起型の発光部は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を含むものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。具体的な電流励起型の発光部の構造例を
図3に示す。
図2において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表わす。
以下において、電流励起型発光部の発光層以外の各部材および各層について説明する。発光層の説明については、[薄膜]の欄の説明を参照することができる。なお、基板と発光層の説明は有機フォトルミネッセンス素子の基板と発光層にも該当する。
【0054】
(基板)
本発明の発光部は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については、特に制限はなく、従来から発光素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英、シリコンなどからなるものを用いることができる。
【0055】
(陽極)
発光部における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO
2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In
2O
3−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な材料を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0056】
(陰極)
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al
2O
3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al
2O
3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、発光部の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陽極の説明で挙げた導電性透明材料を陰極に用いることで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0057】
(注入層)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0058】
(阻止層)
阻止層は、発光層中に存在する電荷(電子もしくは正孔)および/または励起子の発光層外への拡散を阻止することができる層である。電子阻止層は、発光層および正孔輸送層の間に配置されることができ、電子が正孔輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。同様に、正孔阻止層は発光層および電子輸送層の間に配置されることができ、正孔が電子輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。阻止層はまた、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止するために用いることができる。すなわち電子阻止層、正孔阻止層はそれぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備えることができる。本明細書でいう電子阻止層または励起子阻止層は、一つの層で電子阻止層および励起子阻止層の機能を有する層を含む意味で使用される。
【0059】
(正孔阻止層)
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する。正孔阻止層は電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。正孔阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0060】
(電子阻止層)
電子阻止層とは、広い意味では正孔を輸送する機能を有する。電子阻止層は正孔を輸送しつつ、電子が正孔輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
【0061】
(励起子阻止層)
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。すなわち、励起子阻止層を陽極側に有する場合、正孔輸送層と発光層の間に、発光層に隣接して該層を挿入することができ、陰極側に挿入する場合、発光層と陰極との間に、発光層に隣接して該層を挿入することができる。また、陽極と、発光層の陽極側に隣接する励起子阻止層との間には、正孔注入層や電子阻止層などを有することができ、陰極と、発光層の陰極側に隣接する励起子阻止層との間には、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層などを有することができる。阻止層を配置する場合、阻止層として用いる材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーの少なくともいずれか一方は、発光材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0062】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。使用できる公知の正孔輸送材料としては例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。
【0063】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。使用できる電子輸送層としては例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0064】
これらの層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらで作製してもよい。
【0065】
以下に、電流励起型の発光部に用いることができる好ましい材料を具体的に例示する。ただし、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。なお、以下の例示化合物の構造式におけるR、R’、R
1〜R
10は、各々独立に水素原子または置換基を表す。Xは環骨格を形成する炭素原子または複素原子を表し、nは3〜5の整数を表し、Yは置換基を表し、mは0以上の整数を表す。
【0066】
まず、発光層のホスト材料としても用いることができる好ましい化合物を挙げる。
【0072】
次に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0074】
次に、正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0081】
次に、電子阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0083】
次に、正孔阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0085】
次に、電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0089】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0091】
さらに添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0093】
本発明のレーザー発振素子は、以上のように構成された発光部の両側に、共振器を構成するそれぞれのミラーが配置されて構成される。こうしたレーザー発振素子では、発光部にエネルギーを供給することにより自然放射増幅光が発光層から放射され、この増幅光がミラー同士の間を繰り返し反射して往復することにより定常波が形成される。この定常波を外部に取り出すことにより、レーザー光として利用することができる。
【0094】
本発明のレーザー発振素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。本発明によれば、発光層に一般式(1)で表され且つ融点が25℃以上の化合物を含有させることにより、発光効率が大きく改善されたレーザー発振素子が得られる。本発明のレーザー発振素子は、さらに様々な用途へ応用することが可能である。
【実施例】
【0095】
以下に合成例および実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光特性の評価は、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)、半導体パラメータ・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:E5273A)、光パワーメータ測定装置(ニューポート社製:1930C)、光学分光器(オーシャンオプティクス社製:USB2000)、分光放射計(トプコン社製:SR−3)およびストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)を用いて行った。
【0096】
試験例で用いた化合物の最低励起一重項エネルギー準位E
S1、最低励起三重項エネルギー準位E
T1は、以下の手順により求めた。
(1)最低励起一重項エネルギー準位E
S1
測定対象化合物をSi基板上に蒸着して試料を作製し、常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定した。蛍光スペクトルは、縦軸を発光、横軸を波長とした。この発光スペクトルの短波側の立ち下がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求めた。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をE
S1とした。
換算式:E
S1[eV]=1239.85/λedge
発光スペクトルの測定には、励起光源に窒素レーザー(Lasertechnik Berlin社製、MNL200)を検出器には、ストリークカメラ(浜松ホトニクス社製、C4334)を用いた。
【0097】
(2)最低励起三重項エネルギー準位E
T1
一重項エネルギーE
S1と同じ試料を77[K]に冷却し、励起光(337nm)を燐光測定用試料に照射し、ストリークカメラを用いて、燐光強度を測定した。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求めた。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をE
T1とした。
換算式:E
T1[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引いた。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とした。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とした。
下記の試験例で使用した化合物の最低励起一重項エネルギー準位E
S1および最低三重項エネルギー準位E
T1を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
(合成例1) 化合物1の合成
市販で入手可能な試薬および溶媒を精製なしで使用した。反応は全て窒素雰囲気下で、脱水溶媒を用いて行った。化合物1の合成スキーム1に示す。
【化40】
【0100】
化合物10の合成方法
シクロオクタテトラエン(2.17ml,19mmol)のジクロロメタン(20ml)溶液に臭素(1ml,19mmol)のジクロロメタン溶液(30ml)を−75℃で滴下し、得られた混合物を−75℃で1時間ほど攪拌した。この反応溶液にカリウムブトキシド(2.97g,26.6mmol)のTHF(20ml)溶液を滴下して加えた。その後、反応混合物を−65℃まで昇温して、4時間攪拌した。その後、さらに−10℃まで昇温し、反応溶液を氷水に注ぎ有機層をジクロロメタンにて抽出後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターで溶媒を留去し、茶色の透明な溶液を得た。これを60℃、真空下(1.5hPa)にて蒸留し、明るい黄色のオイル(0.91g,26%)を得た。
1H-NMR (500MHz, CDCl
3): δ 6.22 (s, 1H), 5.93-5.78 (m, 6H), 6.64 (s, 1H).
13C-NMR (500MHz, CDCl
3): δ133.2, 133.1, 132.8, 132.4, 132.1, 130.9, 130.9, 121, 4.
【0101】
化合物12の合成方法
化合物3(1.74g,6.23mmol)のアセトン溶液(20ml)に3−臭化−1−プロピン(0.7ml)のトルエン溶液(0.3ml)を滴下し、室温で三時間攪拌した。アセトン(20ml)及び18−クラウン−6(0.5g,1.89mmol)を加え、さらに4時間攪拌した。加えて、反応溶液中に、3−臭化−1−プロピン(0.7ml)を滴下し、一晩攪拌した。溶媒を留去した後、反応溶液を水に注ぎ有機層をジクロロメタンにて抽出後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターで溶媒を留去した。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、トリエチルアミン:ヘキサン:ジクロロメタン=1:89:10)で精製し、白色の粉末(1.39g,70%)を得た。
1H-NMR (500MHz, CDCl
3): δ8.17 (S, 2H), 7.60 (d, 2H), 7.43 (d, 2H), 5.02 (s, 2H), 2.27 (s, 1H), 1.52 (s, 18H).
13C-NMR (500MHz, CDCl
3): δ142.4, 138.5, 123.6, 123.2, 116.5, 108.1, 78.2, 72.0, 34.7, 32.4, 32.08.
Anal. Calcd (%) for C
23H
27N: C 87.02, H 8.57, N 4.41; found: C 86.84, H8.40, N 4.41.
【0102】
化合物1の合成法
化合物4(1.11g,3.5mmol)および化合物2(0.61g,3.4mmol)、トリエチルアミノ(3ml)のTHF(2.5ml)溶液中にヨウ化銅(0.066g,0.35mmol)およびPd(PPh
3)
4(0.40g,0.35mmol)を加え室温で一晩攪拌した。反応溶液からエバポレーターで溶媒を留去し、ジクロロメタンとCelite(登録商標)を用いてろ過した後、水に注いでジクロロメタンで抽出後、硫酸マグネシウムで乾燥しエバポレーターで溶媒を留去した。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、トリエチルアミン:ヘキサン:ジクロロメタン=1:89:10)で精製し、うすい黄色の粉末(0.85g,63%)を得た。
1H-NMR (500MHz, CDCl
3): δ8.11 (S, 2H), 7.55 (d, 2H), 7.41 (d,2H), 6.40-5.50 (m, 7H), 5.11 (s, 2H), 1.48 (s,18H) .
13C-NMR (500MHz, CDCl
3): δ142.2, 138.5, 131.8, 124.7, 123.5, 123.1, 116.3, 108.2, 84.0, 81.4, 34.7, 33.1, 32.0.
Anal. Calcd (%) for C
31H
33N: C 88.73, H 7.93, N 3.34; found: C 88.69, H7.97, N 3.39.
【0103】
化合物1は可視領域の吸収が小さい化合物であった。
【0104】
(試験例1) 化合物1とHex−Ir(piq)
3とCBPを用いた薄膜の作製と評価
目的の濃度になるように調整したジクロロメタン溶液を石英基板上に塗布しスピンコート法にて、化合物1とHex−Ir(piq)
3とCBPと化合物1の濃度が異なる3種類の薄膜を形成した。このとき、Hex−Ir(piq)
3の濃度は6重量%とし、化合物1の濃度は、1重量%、6重量%、20重量%とし、薄膜の厚さは数十nmとした。
また、化合物1を混合しないこと以外は、上記と同様の条件でHex−Ir(piq)
3とCBPの薄膜を形成した。
試験例1で作製した薄膜について、励起光波長340nm、観測波長630nmで測定した過渡減衰曲線を
図4に示す。ここで、観測波長630nmは、Hex−Ir(piq)
3が放射する赤色リン光の波長に相当する。
図4から、化合物1の濃度が大きくなる程、リン光の発光強度が早期に減衰していることがわかる。リン光の発光強度はHex−Ir(piq)
3の三重項励起状態の程度に対応することから、この測定結果により、化合物1はHex−Ir(piq)
3の三重項励起状態を軽減する作用を有することを確認することができた。
【0105】
(試験例2) 化合物1とF8BTを用いた薄膜の作製と評価
目的の濃度になるように調整したジクロロメタン溶液をシリコン基板上に塗布しスピンコート法にて、化合物1とF8BT濃度が異なる3種類の薄膜を形成した。このとき、化合物1の濃度は20重量%、80重量%とし薄膜の厚さはそれぞれ300nmと117nmとした。
また、化合物1を混合しないこと以外は、上記と同様の条件でF8BTの薄膜を形成した。
試験例2で作製した薄膜について、405nm励起光を継続して照射したときの蛍光強度を
図5に示す。また、化合物1の濃度が80重量%である薄膜について、405nmの励起光を4.3W/cm
2、41W/cm
2、409W/cm
2の出力密度で継続して照射したときの蛍光強度を
図6に示し、化合物1を含まないF8BT薄膜について、3.9W/cm
2、46W/cm
2、404W/cm
2の出力密度で継続して照射したときの蛍光強度を
図7に示す。
図5を見ると、化合物1を含まない薄膜では、蛍光強度が初期の値から減衰する現象が見られる。これは、励起光の継続照射により励起三重項状態が蓄積し、一重項−三重項対消滅による自己消光が生じたことが起因しているものと考えらえる。これに対して、化合物1を含む薄膜では、化合物1の濃度が大きくなるに従い、発光強度の減衰が見られなくなっている。この結果は、化合物1が励起三重項状態を除去または軽減する作用を有することを支持するものである。
図6と
図7を比較すると、
図7に示すF8BT単独の薄膜の場合では、出力密度が大きくなる程、蛍光強度の減衰が大きくなっている。これは、出力密度が大きくなったことにより、励起三重項状態の蓄積が大きくなり、一重項−三重項対消滅が増大したことによるものと考えられる。一方、
図6に示す化合物1とF8BTの薄膜の場合には、出力密度を大きくしても曲線の位置がほとんど変わらない。このことからも、化合物1が励起三重項状態を除去する作用を有することを確認することができた。
【0106】
【化41】