特許第6581371号(P6581371)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6581371-自動二輪車用タイヤ 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581371
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】自動二輪車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20190912BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   B60C11/03 E
   B60C5/00 H
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-58787(P2015-58787)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2016-175598(P2016-175598A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】大力 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】糸井 大太
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−513930(JP,A)
【文献】 特開2013−180664(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/015988(WO,A1)
【文献】 特開2013−082453(JP,A)
【文献】 特開2013−022971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
B60C 11/03
B60C 11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部と、該トレッド部の両側に連なるサイドウォール部およびビード部を有し、車両装着時の回転方向が指定される自動二輪車用タイヤにおいて、
前記トレッド部に、タイヤ周方向に対して傾斜する直線状または湾曲形状の第1の傾斜主溝と、該第1の傾斜主溝と同方向であって、異なる角度で傾斜する直線状または湾曲形状の第2の傾斜主溝と、前記第1の傾斜主溝および前記第2の傾斜主溝と、タイヤ周方向に対して異なる方向に傾斜する浅溝と、が設けられてなり、前記浅溝がショルダー部のみに配置されており、前記浅溝の深さが0.1〜0.5mmであることを特徴とする自動二輪車用タイヤ。
【請求項2】
前記第1の傾斜主溝および前記第2の傾斜主溝と前記浅溝とが交差する請求項1記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項3】
前記第1の傾斜主溝と前記浅溝とが、前記第1の傾斜主溝のタイヤ幅方向における中点よりもタイヤ幅方向外側で交差し、前記第2の傾斜主溝と前記浅溝とが、前記第2の傾斜主溝のタイヤ幅方向における中点よりもタイヤ幅方向外側で交差する請求項1または2記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項4】
前記浅溝が、前記第2の傾斜主溝のタイヤ幅方向外側端よりも、タイヤ幅方向外側まで延びる請求項1〜3のうちいずれか一項記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項5】
前記第1の傾斜主溝の回転方向先着側溝壁のタイヤ幅方向内側端部において、前記第1の傾斜主溝のタイヤ周方向における溝壁間距離が最大となり、前記第2の傾斜主溝の回転方向後着側溝壁のタイヤ幅方向外側端部において、前記第2の傾斜主溝のタイヤ周方向における溝壁間距離が最大となる請求項1〜4のうちいずれか一項記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項6】
前記第1の傾斜主溝がタイヤ赤道を越えて延びる請求項1〜5のうちいずれか一項記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項7】
前記第2の傾斜主溝が、前記第1の傾斜主溝とタイヤ周方向において、少なくとも一部がオーバーラップしている請求項1〜6のうちいずれか一項記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項8】
前記第2の傾斜主溝が、前記第1の傾斜主溝よりもタイヤ周方向に対して傾斜しており、前記第1の傾斜主溝のタイヤ周方向に対する角度が20〜40°、前記第2の傾斜主溝のタイヤ周方向に対する角度が40〜70°である請求項1〜7のうちいずれか一項記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項9】
フロント用である請求項1〜8のうちいずれか一項記載の自動二輪車用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用タイヤ(以下、単に、「タイヤ」とも称す)に関し、詳しくは、トレッドパターンを改良することにより、耐摩耗性および排水性を向上させた自動二輪車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車用タイヤは、乗用車やトラック等の四輪車とは異なり車体を傾けて旋回する二輪車の特性のために、タイヤクラウン部が四輪車用タイヤに比べて小さな曲率を有する、断面が丸いタイヤ形状を有している。そのため、接地状態によっては、接地部分の位置により、特に大きな駆動力が働いた場合に接地面内で滑り部分が不均一となり、特定の部位が急激に摩耗する偏摩耗が起こりやすい。このような自動二輪車用タイヤにおいては、タイヤのトレッド部に設ける溝の数や形状を複数組み合わせて様々なトレッドパターンを形成し、ウェット時の排水性や耐摩耗性等、タイヤの種々の性能を改良することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、旋回性能およびタイヤ寿命(耐摩耗性)を維持しつつ、トレッド部の熱ダレを抑制し得る自動二輪車用タイヤが提案されている。この特許文献1で提案されているタイヤは、所定の位置に配置された内側傾斜主溝の角度や配設ピッチ、隣り合う内側傾斜主溝との間に配設された傾斜細溝、および直進時接地面内のランド比を調節している。また、特許文献1には、トレッド部のランド比、内側傾斜主溝の配設ピッチ、内側傾斜主溝の溝幅等を調整することにより、さらに排水性を向上し得ることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−180664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、タイヤの耐摩耗性を高めるには、トレッド部の陸部を増やしていくことが有効であるが、陸部が増えるに従いトレッド部における溝部の割合が減少することになる。そのため、排水性を維持することは難しくなり、耐摩耗性と排水性との両立は非常に困難である。このような問題は、特許文献1で提案されているタイヤでも同様であり、耐摩耗性と排水性との両立という要請に十分に応えることができず、さらなる改良が望まれていた。
【0006】
そこで、本発明の目的は、トレッドパターンを改良することにより、耐摩耗性および排水性を向上させた自動二輪車用タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、トレッド部に設けられた傾斜主溝の角度および傾斜角度と、浅溝の傾斜方向と、を所定のものとすることで、さらに耐摩耗性および排水性を向上させることができ、これにより上記課題を解消することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の自動二輪車用タイヤは、トレッド部と、該トレッド部の両側に連なるサイドウォール部およびビード部を有し、車両装着時の回転方向が指定される自動二輪車用タイヤにおいて、
前記トレッド部に、タイヤ周方向に対して傾斜する直線状または湾曲形状の第1の傾斜主溝と、該第1の傾斜主溝と同方向であって、異なる角度で傾斜する直線状または湾曲形状の第2の傾斜主溝と、前記第1の傾斜主溝および前記第2の傾斜主溝と、タイヤ周方向に対して異なる方向に傾斜する浅溝と、が設けられてなり、前記浅溝がショルダー部のみに配置されており、前記浅溝の深さが0.1〜0.5mmであることを特徴とするものである。
【0009】
本発明のタイヤにおいては、前記第1の傾斜主溝および前記第2の傾斜主溝と前記浅溝とが交差することが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、前記第1の傾斜主溝と前記浅溝とが、前記第1の傾斜主溝のタイヤ幅方向における中点よりもタイヤ幅方向外側で交差し、前記第2の傾斜主溝と前記浅溝とが、前記第2の傾斜主溝のタイヤ幅方向における中点よりもタイヤ幅方向外側で交差することが好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記浅溝が、前記第2の傾斜主溝のタイヤ幅方向外側端よりも、タイヤ幅方向外側まで延びることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記第1の傾斜主溝の回転方向先着側溝壁のタイヤ幅方向内側端部において、前記第1の傾斜主溝のタイヤ周方向における溝壁間距離が最大となり、前記第2の傾斜主溝の回転方向後着側溝壁のタイヤ幅方向外側端部において、前記第2の傾斜主溝のタイヤ周方向における溝壁間距離が最大となることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、前記第1の傾斜主溝がタイヤ赤道を越えて延びることが好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記第2の傾斜主溝が、前記第1の傾斜主溝とタイヤ周方向において、少なくとも一部がオーバーラップしていることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記第2の傾斜主溝が、前記第1の傾斜主溝よりもタイヤ周方向に対して傾斜しており、前記第1の傾斜主溝のタイヤ周方向に対する角度が20〜40°、前記第2の傾斜主溝のタイヤ周方向に対する角度が40〜70°であることが好ましい。本発明のタイヤは、自動二輪車のフロント用タイヤとして好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トレッドパターンを改良することにより、耐摩耗性および排水性を向上させた自動二輪車用タイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一好適な実施の形態に係る自動二輪車用タイヤのトレッド部の部分展開図の一例である。
図2】本発明の一好適な実施の形態に係る自動二輪車用タイヤのタイヤ幅方向断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の自動二輪車用タイヤについて、図面を用いて詳細に説明する。
本発明の自動二輪車用タイヤは、トレッド部と、トレッド部の両側に連なるサイドウォール部およびビード部を有し、車両装着時の回転方向が指定される自動二輪車用タイヤであり、フロントタイヤとして用いた場合に最も大きい効果が得られる。図1は、本発明の一好適な実施の形態に係る自動二輪車用タイヤのトレッド部の部分展開図の一例であり、図中の矢印は、タイヤの回転方向を示す。
【0013】
図示するように、本発明のタイヤは、トレッド部10に、タイヤ周方向に対して傾斜する第1の傾斜主溝1と、この第1の傾斜主溝1と同方向であって、異なる角度で傾斜する第2の傾斜主溝2と、が設けられている。図示例においては、第1の傾斜主溝1は、センター部からショルダー部にかけて、第2の傾斜主溝2は、ショルダー部に設けられている。ここで、センター部とは、タイヤに正規内圧を充填し、正規荷重を加えて自動二輪車を直立させたとき、トレッド部10の路面に接する領域をいい、ショルダー部とは、トレッド部10のセンター部の両側部の領域をいう。なお、各傾斜主溝の深さは、例えば、最深部深さを3〜6mmとすることができる。
【0014】
本発明のタイヤにおいては、第1の傾斜主溝1および第2傾斜主溝2によりタイヤの排水性を確保しており、第1の傾斜主溝1および第2の傾斜主溝2は、いずれも直線状または湾曲を有する形状が好ましい。図示例においては、第1の傾斜主溝1および第2の傾斜主溝2は、湾曲を有する形状である。これは、傾斜主溝が屈曲点を有しているとスムーズな排水を阻害するためであり、これを防止するために、本発明のタイヤにおいては、各傾斜主溝の形状を、屈曲点を有さない直線状または湾曲形状としている。
【0015】
また、本発明のタイヤにおいては、図示するように、第1の傾斜主溝1および第2の傾斜主溝2と異なる方向に傾斜する浅溝3(図示例では3本)が設けられている。この浅溝3によって、さらに排水性を向上させることができる。ここで、浅溝3とは、第1の傾斜主溝1および第2の傾斜周方向溝2の深さの10%以下の深さを有する溝をいう。新品のタイヤにおいては、その表層には、タイヤ加硫工程において用いられたシリコンが存在しているため滑りやすい。また、ショルダー部には主溝を多く設けることは好ましくない。そこで、本発明のタイヤにおいては、浅溝3をショルダー部に設けて、ショルダー部の初期の排水性を向上させている。なお、浅溝3をセンター部に配置すると、センター部の剛性が低下してしまい耐摩耗性が悪化する場合があるので、本発明のタイヤにおいては、浅溝3は、ショルダー部のみに配置されている。本発明のタイヤにおいては、浅溝3の深さを0.1〜0.5mmとすることで、トレッド部の剛性を確保しつつ、排水性を良好に向上させることができる。
【0016】
また、上述のとおり、本発明のタイヤはフロントタイヤとして好適であるが、フロントタイヤに対する入力は、ブレーキング力と横力となる。したがって、旋回力を効果的に発揮させるためには、極力上記入力を妨げない方向、すなわち、入力に沿う方向に溝を配置することが好ましく、かかる観点から、第1の傾斜主溝1および第2の傾斜主溝2については、いずれも指定タイヤ回転方向の逆回転方向側、すなわち、進行方向に対して後ろ側に、曲率半径の中心をもつ曲線で構成することが好ましい。また、浅溝3の角度については、入力に沿う方向に対する法線方向であることが好ましい。
【0017】
さらに、図示例においては、第1の傾斜主溝1および第2の傾斜主溝2と浅溝3とは連通しているが、本発明のタイヤにおいては、第1の傾斜主溝1および第2の傾斜主溝2と浅溝3とは連通させず、第1の傾斜主溝1と第2の傾斜主溝2との間に配置し、これらと交わらない形状としてもよい。好適には、第1の傾斜主溝1および第2の傾斜主溝2と交差するように配置する。これにより、浅溝を伝って流れる水が傾斜主溝に流れ込み、傾斜主溝より排水されることになるので、さらに排水性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明のタイヤにおいては、第1の傾斜主溝1と浅溝3とが、第1の傾斜主溝1のタイヤ幅方向における中点C1よりもタイヤ幅方向外側で交差し、第2の傾斜主溝2と浅溝3とが、第2の傾斜主溝2のタイヤ幅方向における中点C2よりもタイヤ幅方向外側で交差することが好ましい。上述のとおり、浅溝3はショルダー部に設ける必要がある。また、浅溝3は、第1の傾斜主溝1および第2の傾斜主溝2と交差することが好ましい。これらの要件を、浅溝3の配置を上記のとおりとすることで、同時に満足させ得ることができる。また、第1の傾斜主溝1および第2の傾斜主溝2の接地先着部がショルダー側になるため、接地先着時から排水させることができる。なお、ショルダー部の排水効果を考慮すると、浅溝3は、第2の傾斜主溝2のタイヤ幅方向外側端よりも、タイヤ幅方向外側まで延びていることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明のタイヤにおいては、第1の傾斜主溝1のタイヤ周方向における溝壁間距離が最大W1となる部分が、第1の傾斜主溝1のタイヤ幅方向における中点C1よりも内側に存在し、第2の傾斜主溝2のタイヤ周方向における溝壁間距離が最大W2となる部分が、第2の傾斜主溝2のタイヤ幅方向における中点C2よりも外側に存在することが好ましい。すなわち、第1の傾斜主溝1はタイヤ幅方向内側が太くなっており、第2の傾斜主溝2はタイヤの幅方向外側が太くなっている。図示例においては、第1の傾斜主溝1は、タイヤ幅方向外側に向かって徐々に幅が狭くなっており、第2の傾斜主溝2は、タイヤ幅方向内側に向かって徐々に幅が狭くなっている。
【0020】
このように、第1の傾斜主溝1のタイヤ幅方向内側を太くすることで、センター部の排水性を向上させることができ、高速走行時におけるハイドロプレーニング現象の防止に効果的である。また、第2の傾斜主溝2のタイヤ幅方向外側を太くすることで、ショルダー部の過剰なパターン剛性を緩和することができ、ショルダー部の耐摩耗性を向上させることができる。かかる効果を良好に得るためには、第1の傾斜主溝1のタイヤ周方向における溝壁間距離が最大となる部分は、第1の傾斜主溝1の回転方向先着側溝壁のタイヤ幅方向内側端部1aであることが好ましく、第2の傾斜主溝2のタイヤ周方向における溝壁間距離が最大となる部分は、第2の傾斜主溝2の回転方向後着側溝壁のタイヤ幅方向外側端部2aであることが好ましい。
【0021】
さらにまた、本発明のタイヤにおいては、第1の傾斜主溝1がタイヤ赤道CLを越えて延びることが好ましい。第1の傾斜主溝1が赤道CLを横切って配置されていることで、赤道CLにおけるパターン剛性を緩和することができ、その結果、小さい力で操舵が切れるようになる。なお、図示例においては、第2の傾斜主溝2はセンター部までは伸びていない。第2の傾斜主溝2がセンター部まで延びていると、センター部の剛性を過剰に低下させてしまい、センター部の耐摩耗性が悪化してしまう場合があるからである。
【0022】
また、図示例においては、第2の傾斜主溝2のタイヤ幅方向外端部は、第1の傾斜主溝1のタイヤ幅方向外端部よりも外側となっている。これは、自動二輪車においては、コーナリング時は車体を傾けて旋回するため、タイヤのショルダー部が路面と接地することになるが、第1の傾斜主溝1が、第2の傾斜主溝2よりもトレッド部10のタイヤ幅方向外側まで延びていると、ショルダー部の剛性が不足してしまい、コーナリング性が悪化してしまうおそれがあるためである。なお、第1の傾斜主溝1は、第2の傾斜主溝2よりも長くなっているが、本発明のタイヤにおいては、これに限られるものではない。
【0023】
また、本発明のタイヤにおいては、第2の傾斜主溝2が、第1の傾斜主溝1とタイヤ周方向において、少なくとも一部がオーバーラップしていることが好ましく、好適には、第1の傾斜主溝1と第2の傾斜主溝2とがオーバーラップする領域のタイヤ幅方向長さ(オーバーラップ長L)が、第1の傾斜主溝1のタイヤ周方向長さの30〜60%である。ここで、オーバーラップ長Lは、それぞれの傾斜主溝に沿った長さではなく、それぞれの傾斜主溝をタイヤ幅方向に投影した投影長さである。このような構成とすることで、第1の傾斜主溝1と第2の傾斜主溝2の距離を適正にすることができる。
【0024】
すなわち、オーバーラップ長Lが60%より大きくなると、第2の傾斜主溝2とタイヤの回転方向前方の第1の傾斜主溝1が近接してしまい、幅方向のネガティブ分布が不均一になり(センター部もしくはショルダー部で局所的にネガティブが小さくなってしまう)、キャンバー角を増していく際に安定したウェット性を得るのが困難になる。また一方、オーバーラップ長Lが30%よりも小さくなる場合も、トレッド中間領域で局所的にネガティブが小さくなるため、やはり、キャンバー角を増していく際に安定したウェット性を得るのが困難になる。
【0025】
さらに、本発明のタイヤにおいては、第2の傾斜主溝2は、第1の傾斜主溝1よりもタイヤ周方向に対して傾斜していることが好ましい。自動二輪車においては、コーナリング時は車体を傾けて旋回するため、タイヤのショルダー部が路面と接地することになる。そのため、コーナリング時には、ショルダー部にはタイヤ幅方向に近い方向に入力が入る。したがって、ショルダー部における第2の傾斜主溝2の角度がタイヤ周方向に近いと、ショルダー部が過剰に変形してしまうためコーナリング時の操縦安定性が低下してしまう。本発明のタイヤにおいては、第1の傾斜主溝1のタイヤ周方向に対する角度は20〜40°が好ましく、第2の傾斜主溝2のタイヤ周方向に対する角度は40〜70°が好ましい。ここで、第1の傾斜主溝1および第2の傾斜主溝2の角度とは、それぞれの溝のタイヤ幅方向両端の中心を結んだ線とタイヤ周方向とがなす角度をいう。
【0026】
本発明のタイヤにおいては、浅溝、第1の傾斜主溝、および第2の傾斜主溝の関係が上記の要件を満足しているものであれば、他には特に制限はない。例えば、図示する浅溝3は、排水時に第1の傾斜主溝1および第2の傾斜主溝2の補助的役割を果たすことになるが、その形状については特に制限はない。図示例では、浅溝3は、第1の傾斜主溝1おとび第2傾斜主溝2と反対の方向に傾斜した3本の溝であり、これらが両端で閉じた形状としているが、これに限られるものではない。例えば、浅溝3は1本の直線または曲線としてもよい。
【0027】
図2は、本発明の一好適な実施の形態に係る自動二輪車用タイヤのタイヤ幅方向断面図の一例である。図示する本発明のタイヤ100は、トレッド部101と、トレッド部101の両側に連なる一対のサイドウォール部102と、一対のサイドウォール部102にそれぞれ連なる一対のビード部103と、これら各部をビード部103相互間にわたり補強する少なくとも1層(図示例では1層)のカーカスプライからなるカーカス104と、を備える。図示する例では、カーカス104の端部をビードコア105にタイヤ内側から外側に折り返して係止しているが、両側からビードワイヤで挟み込んで係止してもよい。
【0028】
また、図示するタイヤは、カーカス104のタイヤ径方向外側にベルト層106が設けられている。ベルト層106のベルトコードについても特に制限はなく、既知の非伸張性高弾性コードを用いることができ、例えば、芳香族アラミドコードやスチールコードを好適に用いることができる。さらに、図示するタイヤ100においては、ベルト層106のタイヤ径方向外側にスパイラルベルト層107が設けられている。このスパイラルベルト層107は、1本のコードをゴムで被覆した長尺状のゴム被覆コードまたは複数本のコードをゴムで被覆した帯状プライを周方向に螺旋状に巻回して形成されたものであり、そのコードとしては、スチールコードの他、アラミド(例えば、デュポン社製 商品名:ケブラー)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、レーヨン、ナイロン等の有機繊維、さらにはグラスファイバーやカーボンファイバー等の材質のものを適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1>
図1に示すタイプのトレッドパターンを有する自動二輪車用タイヤを、タイヤサイズタイヤサイズ:120/70ZR17M/Cにて作製した。第1の傾斜主溝はタイヤ幅方向内側が太く、タイヤ幅方向外側に向かって徐々に細くなる形状とし、第2の傾斜主溝は、タイヤ幅方向外側が太く、タイヤ幅方向内側に向かって徐々に細くなる形状とした。また、浅溝の角度はタイヤ周方向に対して20°とし、浅溝と第1の傾斜主溝および第2の傾斜主溝との交点は、それぞれの傾斜主溝のタイヤ幅方向長さの1/2よりタイヤ幅方向外側の位置とした。浅溝の深さは0.3mmとし、ショルダー部のみに配置した。
【0030】
なお、第1の傾斜主溝の最大溝壁間距離は14mmとし、第1の傾斜主溝の最大溝壁間距離となる位置は、第1の傾斜主溝の回転方向先着側溝壁のタイヤ幅方向内側端部とした。また、第2の傾斜主溝の最大溝壁間距離は7mmとした。第2の傾斜主溝の最大溝壁間距離となる位置は、第2の傾斜主溝の回転方向後着側溝壁のタイヤ幅方向外側端部とした。また、第1の傾斜主溝は赤道を越えて設けられ、第1の傾斜主溝と第2の傾斜主溝とのオーバーラップ長Lは45%とした。第1の傾斜主溝の角度はタイヤ周方向に対して30°とし、第2の傾斜主溝の角度はタイヤ周方向に対して55°とした。
【0031】
<実施例2>
浅溝が、第2の傾斜主溝のタイヤ幅方向外側まで延びていないこと以外は、実施例1と同様とした。
【0032】
<実施例3>
浅溝が、第1の傾斜主溝および第2の傾斜主溝と交差しないこと以外は、実施例1と同様とした。
【0033】
<実施例4>
浅溝の深さを1.0mmとした以外は、実施例1と同様とした。
【0034】
<実施例5>
浅溝と第1の傾斜主溝および第2の傾斜主溝との交点を、第1の傾斜主溝および第2の傾斜主溝の幅方向外側端部から、それぞれの長さの3/5以上の位置としたこと以外は、実施例1と同様とした。
【0035】
<比較例1>
浅溝が、第1の傾斜主溝および第2の傾斜主溝と同じ方向に傾斜していること以外は、実施例1と同様とした。
【0036】
<比較例2>
浅溝が、センター部にまで延びていること以外は、実施例1と同様とした。
【0037】
得られた各タイヤを、リムサイズリムサイズ:MT3.5×17inchのホイールに組み込み、内圧250kPaにて排気量1000ccの自動二輪車の前輪に組み込んだ。また、後輪には従来品のタイヤを用いた。後輪のタイヤのサイズは190/55ZR17M/Cであり、リムサイズはMT6.0×17inchであり、内圧は290kPaであった。この自動二輪車でテストコースを走行し、フロントタイヤのウェット路面での排水性、タイヤの耐摩耗性につき、以下の手法で評価を行った。
【0038】
<センター部耐摩耗性>
テストライダーによる走行テスト終了後のタイヤの摩耗量をデプスゲージ測定にて比較した。結果は、比較例1のタイヤを100とする指数にて表示した。この数値が大きいほど耐摩耗性に優れていることを示す。
【0039】
<排水性>
テストライダーにより、ウェット路上でのグリップ力の大きさやタイヤの傾きに対応するグリップ力の変化をフィーリング評価した。結果は、比較例1のタイヤを100とする指数にて表示した。この数字が大きいほど排水性に優れていることを示す。
【0040】
【表1】
※1:浅溝の傾斜方向と第1の傾斜主溝および第2の傾斜主溝の傾斜方向とが異なる場合を○、同じ場合を×とした。
※2:浅溝がセンター部まで延びていない場合を○、延びている場合×をとした。
※3:それぞれの傾斜主溝のタイヤ幅方向外側端部から、それぞれの幅方向の長さの何倍の位置で交差しているかを示す。
【0041】
【表2】
【0042】
以上より、本発明のタイヤは、耐摩耗性および排水性に優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0043】
1 第1の傾斜主溝
2 第2の傾斜主溝
3 浅溝
10 トレッド部
100 自動二輪車用タイヤ(タイヤ)
101 トレッド部
102 サイドウォール部
103 ビード部
104 カーカス
105 ビードコア
106 ベルト層
107 スパイラルベルト層
図1
図2