(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581386
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】回転検出要素付きプーリ
(51)【国際特許分類】
F02B 67/06 20060101AFI20190912BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20190912BHJP
F02D 35/00 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
F02B67/06 D
F16J15/3204
F02D35/00 362B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-90115(P2015-90115)
(22)【出願日】2015年4月27日
(65)【公開番号】特開2016-205304(P2016-205304A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】木下 慎也
【審査官】
高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−079065(JP,A)
【文献】
特開2004−093554(JP,A)
【文献】
実開昭55−020725(JP,U)
【文献】
国際公開第2005/003604(WO,A1)
【文献】
特開2006−046097(JP,A)
【文献】
特開2006−207757(JP,A)
【文献】
特開2014−013073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 67/06
F02D 35/00
F16C 33/80
F16J 15/3204
F16H 55/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンケースの外側に配置されてクランクシャフトの軸端に固定され、前記エンジンケースの軸孔内周に位置する内径筒部と、機外側に設けられた前記内径筒部よりも大径の環状段差部とを有する本体と、
前記環状段差部に圧入嵌合される嵌合筒部と、この嵌合筒部の軸方向一端から内径側へ延びて前記環状段差部の端面に当接する径方向部と、この径方向部の内径端から前記エンジンケース側へ向けて突出するシール筒部とを備える金属環と、
前記嵌合筒部の外周面に接合され、極性の異なる磁極が円周方向所定間隔で交互に着磁された着磁部と、
を備え、
前記金属環は、前記エンジンケースの軸孔に取り付けられて前記クランクシャフトの軸周をシールするオイルシールから前記本体側へ向けて延びるダストリップを前記シール筒部の内周面に近接対向させる、
ことを特徴とする回転検出要素付きプーリ。
【請求項2】
エンジンケースの外側に配置されてクランクシャフトの軸端に固定され、前記エンジンケースの軸孔内周に位置する内径筒部と、機外側に設けられた前記内径筒部よりも大径の環状段差部とを有する本体と、
前記環状段差部に圧入嵌合される嵌合筒部と、この嵌合筒部の軸方向一端から内径側へ延びて前記環状段差部の端面に当接する径方向部と、この径方向部の内径端から前記エンジンケース側へ向けて突出するシール筒部とを備える金属環と、
前記嵌合筒部の外周面に接合され、極性の異なる磁極が円周方向所定間隔で交互に着磁された着磁部と、
を備え、
前記金属環は、前記エンジンケースの軸孔に取り付けられて前記クランクシャフトの軸周をシールするオイルシールから前記本体側へ向けて延びるダストリップを前記シール筒部の内周面に摺動可能に密接させる、
ことを特徴とする回転検出要素付きプーリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジンのクランクシャフトに設けられるプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンにおけるクランクシャフトの軸端に取り付けられるプーリは、クランクシャフトに生じる捩り振動を所定の振動周波数域で共振により吸収するためのトーショナルダンパを構成している。この種のプーリは、
図4に示すように、エンジンのエンジンケース200の外側に配置されると共に内径の円筒状のボス部101がクランクシャフト400の軸端にボルト401によって固定されるハブ100を備える。また、クランクシャフト400の軸端が挿通されたエンジンケース200の軸孔内周面には、機内(クランク室)Aに存在するエンジンオイルが軸孔を通じて機外へ漏洩するのを防止するため、オイルシール300が装着されている。オイルシール300は、機内A側を向いたメインリップ301が、トーショナルダンパにおけるハブ100のボス部101の外周面に摺動可能に密接されることによってエンジンオイルに対する密封機能を奏するものである(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上述の構造の場合、ハブ100とエンジンケース200の間の空間Bに泥水やダスト等が飛来した場合、このようなダスト等がハブ100のボス部101の外周面とオイルシール300のメインリップ301との摺動部に介入することによって、エンジンオイルに対する密封機能が損なわれたり、メインリップ301が早期に摩耗したりするおそれがある。
【0004】
そこで、オイルシール300の外側に、例えばハブ100に形成した環状凹部102とエンジンケース200に形成した環状凸部201によってジグザグに屈曲した隙間からなるラビリンスシールLSを構成することが知られている。しかしながら、ラビリンスシールLSの場合、ハブ100とエンジンケース200の金属接触を避けるために、環状凹部102と環状凸部201間のクリアランスを小さくことには限界があり、泥水やダストの浸入防止効果を高めることが困難である。
【0005】
一方、エンジンにおけるクランクシャフトの回転数の検出やクランク角検出のためのセンシング機構は、金属円盤の外周に多数の突起を歯車状に形成したパルサーを、エンジンフロントカバーの内側に位置してクランクシャフトに設けることや、ディストリビュータの内部に設けることや、クランクプーリに設けることなどが知られている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、金属円盤の外周に多数の突起を歯車状に形成したパルサーを用いたセンシング機構によれば、高精度で検出を行うためには突起の数を多くしなければならないので小径化できないといった問題があり、構造も複雑化しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−276738号公報
【特許文献2】特開平11−281312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、クランクシャフトの軸端に取り付けられるプーリにおいて、泥水やダストの浸入防止と、クランクシャフトの回転数又はクランク角の高精度な検出の双方を満足することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の回転検出要素付きプーリの一態様は、エンジンケースの外側に配置されてクランクシャフトの軸端に固定され、前記エンジンケースの軸孔内周に位置する内径筒部と、機外側に設けられた前記内径筒部よりも大径の環状段差部とを有する本体と、前記環状
段差部に圧入嵌合される嵌合筒部と、この嵌合筒部の軸方向一端から内径側へ延びて前記環状段差部の端面に当接する径方向部と、この径方向部の内径端から前記エンジンケース側へ向けて突出するシール筒部とを備える金属環と、前記嵌合筒部の外周面に接合され、極性の異なる磁極が円周方向所定間隔で交互に着磁された着磁部と、を備え、前記金属環は、前記エンジンケースの軸孔に取り付けられて前記クランクシャフトの軸周をシールするオイルシールから前記本体側へ向けて延びるダストリップを前記シール筒部の内周面に近接対向させる。
本発明の回転検出要素付きプーリの別の一態様は、エンジンケースの外側に配置されてクランクシャフトの軸端に固定され、前記エンジンケースの軸孔内周に位置する内径筒部と、機外側に設けられた前記内径筒部よりも大径の環状段差部とを有する本体と、前記環状
段差部に圧入嵌合される嵌合筒部と、この嵌合筒部の軸方向一端から内径側へ延びて前記環状段差部の端面に当接する径方向部と、この径方向部の内径端から前記エンジンケース側へ向けて突出するシール筒部とを備える金属環と、前記嵌合筒部の外周面に接合され、極性の異なる磁極が円周方向所定間隔で交互に着磁された着磁部と、を備え、前記金属環は、前記エンジンケースの軸孔に取り付けられて前記クランクシャフトの軸周をシールするオイルシールから前記本体側へ向けて延びるダストリップを前記シール筒部の内周面に摺動可能に密接させる。
【0010】
上記構成の回転検出要素付きプーリによれば、回転検出要素はクランクシャフトの軸端に固定された本体と一体に回転し、着磁部に着磁されたN極とS極の移動が、径方向に近接対向して非回転状態に配置されるセンサによって検出されるものである。そしてこの回転検出要素におけるシール筒部は、その内周面に、エンジンケースの軸孔に取り付けられるオイルシールから延びるダストリップが近接対向又は摺動可能に密接されることによって機外からの泥水やダストの浸入を防止するものである。そしてハブとエンジンケースの間の軸方向取付誤差や軸方向寸法公差、軸方向変位がシール筒部の軸方向長さの範囲内であれば、シール筒部の内周面にダストリップが近接対向又は摺動可能に密接された状態が確保されるので、良好なシール性を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る回転検出要素付きプーリによれば、多極着磁した回転検出要素によってクランクシャフトの回転数又はクランク角の高精度な検出が可能であると共に、ハブとエンジンケースの間の軸方向取付誤差や軸方向寸法公差、軸方向変位等にかかわらず、オイルシールへの泥水やダストの浸入を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る回転検出要素付きプーリの好ましい実施の形態を、軸心を通る平面で切断して示す要部断面図である。
【
図2】本発明に係る回転検出要素付きプーリの好ましい実施の形態における回転検出要素を、軸心を通る平面で切断して示す断面斜視図である。
【
図4】背景技術に係る回転検出要素付きプーリの一例を、軸心を通る平面で切断して示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る回転検出要素付きプーリの好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず
図1において、参照符号1はプーリ、2はオイルシール、3は自動車用エンジンにおけるエンジンケース、4はクランクシャフト、Aは機内(エンジンケース3の内側空間)である。
【0014】
プーリ1は、クランクシャフト4の軸端に固定されエンジンケース3の外側に配置されるハブ11の外周側に、環状ゴムを介して環状質量体を同心的に取り付けた構成(不図示)を備え、クランクシャフト4に生じる捩り振動を、その振幅が最大となる所定の振動周波数域で共振により吸収するトーショナルダンパを構成している。なお、ハブ11は請求項1に記載の「本体」に相当するものである。
【0015】
ハブ11は、クランクシャフト4の軸端に外挿されると共にボルト41によって固定されエンジンケース3の軸孔内周に位置する内径筒部11aと、この内径筒部11aにおける機外側に内径筒部11aより大径に形成された環状段差部11bと、さらにこの環状段差部11bにおける機外側の端部から展開する円盤部11cを有する。
【0016】
プーリ1のハブ11における環状段差部11bには回転検出要素12が取り付けられている。この回転検出要素12は、金属環121と着磁部122からなる。
【0017】
詳しくは、回転検出要素12における金属環121は、金属板の打ち抜きプレス成形等により製作されたものであって、ハブ11における環状段差部11bの外周面に適当な締め代をもって圧入嵌合される嵌合筒部121aと、この嵌合筒部121aの軸方向一端から内径側へ延びてハブ11における環状段差部11bの端面と当接される径方向部121bと、さらにこの径方向部121bの内径端からエンジンケース3側へ向けて突出したシール筒部121cからなる。
【0018】
一方、着磁部122は、ゴム弾性体に磁性粉末を混合した磁性ゴムからなるものであって、金属環121における嵌合筒部121aの外周面に一体的に接合(一体成形)され、
図2に示すように、極性の異なる磁極(N極とS極)122a,122bが円周方向所定のピッチで交互に着磁(多極着磁)されている。また、この磁極122a,122bのうち円周方向1箇所に位置する磁極は、例えばエンジンの点火時期制御等の目的で、ピストンのTDC(Top Dead Center:上死点)となるクランク角度等、特定のクランク角度を検出するための計測原点として、円周方向の着磁ピッチが異なるものとなっている。
【0019】
オイルシール2は、金属環21と、この金属環21の外周面に設けられてエンジンケース3の軸孔31の内周面に圧入嵌着されるゴム弾性体からなる外周シール部22と、金属環21の内径部に設けられて機内A側へ延びるゴム弾性体からなるメインリップ23と、金属環21の内径部に設けられてメインリップ23と反対側へ延びるゴム弾性体からなるダストリップ24を備える。そして、メインリップ23の先端23aがプーリ1のハブ11における内径筒部11aの外周面と摺動可能に密接され、ダストリップ24の先端外周が、回転検出要素12における金属環121のシール筒部121cの内周面に近接対向又は摺動可能に密接されるものである。
【0020】
エンジンケース3とプーリ1の間の空間Bには、ホール素子あるいは磁気抵抗素子等からなるセンサ5が、その検出面5aを回転検出要素12における着磁部122の外周面に近接対向させた状態で、例えばエンジンケース3側に取り付けられることによって非回転状態に配置されている。そしてこのセンサ5は、回転検出要素12と共に磁気式ロータリエンコーダを構成するものである。
【0021】
すなわちこの磁気式ロータリエンコーダは、回転検出要素12がクランクシャフト4と一体に回転すると、センサ5が、その検出面5aの内周側を着磁部122の磁極122a,122b(N極とS極)が交互に通過することによって、
図3に示すように、磁界の変化に対応した波形の信号を出力するものである。なお、
図3に示す出力波形において、半周期の波長の長い部分(λ1で示す部分)は、先に説明した、着磁部122の円周方向1箇所で着磁ピッチの異なる部分と対応しており、すなわち1回転毎にセンサ5からの出力波形にλ1で示す部分が形成され、クランク角計測原点となる。
【0022】
以上のように構成された回転検出要素付きプーリにおいて、プーリ1(トーショナルダンパ)は、クランクシャフト4の捩り振幅が最大となる振動周波数域において、捩り方向に加振されることによってハブ11の外周側の環状ゴム及び環状質量体からなる動的吸振系が共振し、その捩り方向振動変位によるトルクが入力振動によるトルクと逆方向へ生じることによって、クランクシャフト4の捩り振動を低減する動的吸振効果を発揮するものである。
【0023】
一方、オイルシール2は、外周シール部22がエンジンケース3の軸孔31の内周面に密嵌されると共に、メインリップ23の先端23aがプーリ1におけるハブ11の内径筒部11aの外周面に摺動可能に密接されることによって、軸孔31から機内Aのエンジンオイルが漏洩するのを防止するものである。
【0024】
また、クランクシャフト4が回転すると、プーリ1のハブ11及びその環状段差部11bに取り付けられた回転検出要素12も一体に回転し、回転検出要素12における着磁部122に着磁された磁極122a,122b(N極とS極)の円周方向への移動による磁界の変化に対応する波形のパルス信号が、センサ5から出力されるので、このパルスのカウントによって、クランクシャフト4の回転数やクランク角を計測することができる。この場合、磁極122a,122bの着磁ピッチを狭く(磁極122a,122bの数を多く)することによって、計測精度を向上することが可能である。
【0025】
そして、この回転検出要素12における金属環121のシール筒部121cの内周面には、オイルシール2にそのメインリップ23より外側に位置して設けたダストリップ24の先端外周が、近接対向又は摺動可能に密接されているため、機外からハブ11とエンジンケース3の間の空間Bに飛来した泥水やダスト等がオイルシール2のメインリップ23側へ浸入するのを有効に防止することができる。すなわち回転検出要素12は、クランクシャフト4の回転を検出するための磁気式ロータリエンコーダのロータとしての機能と、泥水やダスト等の浸入を阻止する手段としての機能を併有するものである。
【0026】
また、ダストリップ24を回転検出要素12における金属環121のシール筒部121cの内周面と非接触とすることによってラビリンスシールを構成するものである場合、もしダストリップ24がシール筒部121cの内周面と接触しても金属接触とはならず、何ら問題を生じないため、ダストリップ24とシール筒部121cとの隙間を可及的に狭くして、外周側から浸入しようとする泥水やダストに対するシール効果を向上させることができる。
【0027】
また、ハブ11とエンジンケース3との軸方向位置関係は、ハブ11、オイルシール2、クランクシャフト4等の各部材の軸方向取付誤差や軸方向寸法公差、軸方向変位に起因してばらつきを生じるが、このような軸方向位置のばらつきが回転検出要素12における金属環121のシール筒部121cの軸方向長さの範囲内であれば、シール筒部121cの内周面にダストリップ24の先端外周が近接対向又は摺動可能に密接された状態が確保されるので、泥水やダストに対する良好なシール性を得ることができる。
【0028】
なお、上述した実施の形態では、ハブ11がトーショナルダンパのハブであるものとして説明したが、例えば補機へ動力を伝達するためのプーリを、カップリングゴムを介して連結した構造を、環状ゴム及び環状質量体からなる動的吸振系と共に備えるトルク変動吸収ダンパ(ダンパプーリ)のハブや、ダンパを構成しないプーリにも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 プーリ
11 ハブ(本体)
12 回転検出要素
121 金属環
121c シール筒部
122 着磁部
2 オイルシール
24 ダストリップ
3 エンジンケース
4 クランクシャフト
5 センサ